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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1201794
審判番号 不服2007-34303  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-20 
確定日 2009-08-06 
事件の表示 特願2000-148549「トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月30日出願公開、特開2001-330991〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年5月19日の出願であって、平成19年11月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月20日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、その後、当審において、平成21年2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年4月24日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。

本願発明は、平成21年4月24日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明1」という)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】樹脂微粒子と着色剤微粒子とを塩析/融着させてなり、
GPCで測定される樹脂成分の分子量分布が下記〔1〕?〔4〕に示す条件を具備することを特徴とするトナー。
〔1〕1,500?20,000の領域に分子量のピークがあること。
〔2〕207,916?403,401の領域に分子量のピークがあること。
〔3〕流出開始分子量が1,000,000?5,000,000であること。
〔4〕重量平均分子量が38,727?89,724の範囲にあること。」

2.引用刊行物
これに対して、当審からの拒絶理由に刊行物1として引用され、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開平11-194541号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。)

(1a)「【請求項1】 GPCによる分子量分布測定で重量平均分子量が1,000?50,000の間にピークを有する低分子量成分樹脂ラテックス、重量平均分子量が80,000?700,000の間にピークを有する高分子量成分樹脂ラテックス、着色剤及び定着改良剤を混合し、凝集・融着する事により生成される静電荷像現像用トナーにおいて、該低分子量成分樹脂ラテックス表面に存在するカルボキシル基量をA[mol/g]、該高分子量成分樹脂ラテックス表面に存在するカルボキシル基量をB[mol/g]としたとき、下記の式(1)が成り立つことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
0.6×10^(-4)≦A≦3.5×10^(-4)
0.8×10^(-4)≦B≦4×10^(-4 )
1×10^(-6)≦|A-B|≦2×10^(-4 ) 式(1)」

(1b)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、トナーにおいて分子量の異なる樹脂をトナー粒子中で局在化させて、トナー粒子の機械的強度を改善することである。また、小粒径で粒度分布の狭いトナー粒子を提供することにある。」

(1c)「【0019】尚、本発明において分子量のピークとは、GPCで分子量分布を測定したときに検出器で検出された電圧のピークになるところを示す。又、単量体ユニットとは、本発明のラテックスは単量体単位のものを重合して得られるものであり、その単量体単位を指すものである。」

(1d)「【0050】(凝集・融着)重合工程によって生成された樹脂ラテックスを用いて、凝集、融着を行いトナーを生成する。融着・会合方法としては、様々な方法例えば特開昭60-220358号、特開平4-284464号等がある。しかし、これらは所望の粒径、粒度分布を制御することがかなり困難である。そこで、本発明者らは特開平5-115572号の方法、即ち、樹脂ラテックスの臨界凝集濃度以上の凝集剤及び水に無限溶解する有機溶媒を添加する方法を用いてトナーを生成した。」

(1e)「【0059】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。
【0060】[定着性改良剤乳化分散液の製造]低分子量ポリプロピレン120g(数平均分子量=3300、分子量分布(Mw/Mn)=4.5)に常法に従って、無水マレイン酸5.7gを用い変性させ、溶融粘度を測定後、本発明の定着性改良剤は塩酸を溶解したノニルフェノキシエタノール(エトキシユニット付加モル数=20、HLB=16.0)水溶液280gに添加し、水酸化カリウムを用いてpHを9に調整し、加圧、昇温し変性ポリプロピレンの軟化点以上で乳化分散した。この変性ポリプロピレン分散粒径を光散乱電気永動粒径測定装置(ELS-800:大塚電子工業社製)で測定した結果、182nmであった。この定着性改良剤乳化分散液を定着改良剤乳化分散液とする。
【0061】[顔料分散液1の製造]カーボンブラック(リーガル330R、キャボット社製)80.0gをイオン交換水530mlにドデシル硫酸ナトリウム36.78gを添加し、超音波ホモジナイザーと加圧型分散機を用い分散を行った。分散液中のカーボンブラックの平均粒径を光散乱電気永動粒径測定装置(ELS-800:大塚電子工業社製)で測定した結果、95nmであった。
(中略)
【0063】[高分子量成分ラテックス1の合成例]冷却管、温度計、攪拌装置、窒素導入管を付けた2lの4頭フラスコに、蒸留水1080mlを添加し、そこにスチレン246.4g、n-ブチルアクリレート48g、メタクリル酸25.6g、tert-ドデシルメルカプタン0.30g、更に定着改良剤乳化分散液64gを添加し、撹拌速度250rpmで撹拌し且つ窒素を流しつつフラスコ内温を70℃になるまで加熱した。70℃に内温を維持しつつ、過硫酸カリウム3.28gを純水200mlに溶解した重合開始剤水溶液を添加し、窒素気流下、内温70℃、撹拌速度250rpmを維持しつつ6時間重合を行った。重合終了後室温まで内温を低下させた後、一部分取しゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(以下GPCと略す)を用い分子量を測定した。
(中略)
【0073】[低分子量成分ラテックス1の合成例]冷却管、温度計、攪拌装置、窒素導入管を付けた2lの4頭フラスコに、蒸留水1080mlを添加し、そこにスチレン256.0g、n-ブチルアクリレート48g、メタクリル酸16.0g、tert-ドデシルメルカプタン11.0g、更に定着改良剤乳化分散液64gを添加し、撹拌速度350rpmで撹拌し且つ窒素を流しつつフラスコ内温を70℃になるまで加熱した。70℃に内温を維持しつつ、過硫酸カリウム3.26gを純水100mlに溶解した重合開始剤水溶液を添加し、窒素気流下、内温70℃、撹拌速度350rpmを維持しつつ6時間重合を行った。
(中略)
【0075】[低分子量成分ラテックス2の合成例]低分子量成分ラテックス1の合成例のモノマー添加量をスチレン249.6g、n-ブチルアクリレート48g、メタクリル酸22.4gに変更した以外は同一にして作製した。
【0076】また、高分子量成分ラテックス1の合成例と同様な方法で分子量とラテックス表面カルボキシル基量を測定した。
(中略)
【0083】
【表1】

【0084】[トナー合成例1]・・・(中略)・・・
低分子量成分ラテックス2を400g、高分子量成分ラテックス1を100g、顔料分散液1を65gとイオン交換水340mlを5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH=9.5に調整した後、撹拌装置、冷却管、温度センサーを装着した2lの4頭フラスコに入れ、250rpmで撹拌を行った。ここに、塩化ナトリウム59.4gを260mlの蒸留水に溶解した電解質水溶液を添加し、更にイソプロピルアルコール88ml、トリトンX-100を9.0gを蒸留水70mlに溶解したノニオン界面活性剤水溶液を順次添加した後、内温を85℃まで昇温し6時間反応を行った。
【0086】反応液を濾過後、蒸留水を加え再分散し、5Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いpH=13に調整し水洗、濾過を繰り返し、界面活性剤及び電解質を除去した後、乾燥を行った。乾燥後粒径をコールターカウンターを用い測定した。トナーの変動係数(CV)は標準偏差σを体積平均粒径d50で割った値である。このトナーをトナー1とする。」(【0059】?【0086】)

(1f)「評価2
定着ローラー温度を180℃へ固定したものを用い、上記現像剤を使用し、コニカ製カラー複写機9028を改造してロングランを実施した。条件は下記に示す条件である。感光体としては積層型有機感光体を使用した。
・・・(中略)・・・
環境条件は高温高湿(33℃/80%RH)にて実施し、5000枚毎にべた黒画像をプリントしながら、連続で画素率が1%の画像を10万枚の印字をし、画像汚れの発生の有無を比較した。
【0124】画像汚れとは、トナーが現像器等に付着し、べた黒画像に白すじ等が発生する程度を評価した。
【0125】測定結果を表4に示した。
【0126】
【表4】

【0127】この結果から、本発明内のトナー1?6に比して比較トナー1,2は、画像汚れが多いことが明白である。

(1g)「【0128】
【発明の効果】本発明により、トナーにおいて分子量の異なる樹脂粒子をトナー粒子中で局在化させて、トナー粒子の機械的強度を改善することが出来る。また、小粒径で粒度分布の狭いトナー粒子を提供することが出来る。」

上記の事項から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)

「GPCによる分子量分布測定で重量平均分子量が1,000?50,000の間にピークを有する低分子量成分樹脂ラテックス、重量平均分子量が80,000?700,000の間にピークを有する高分子量成分樹脂ラテックス、着色剤及び定着改良剤を混合し、凝集・融着する事により生成され、
具体的には、低分子量成分樹脂ラテックス2を400g、高分子量成分樹脂ラテックス1を100g、顔料分散液1を65g等を攪拌し、塩化ナトリウムの59.4gを260mlの蒸留水に溶解した電解質水溶液を添加し、更に、イソプロピルアルコール、トリトンX-100とを添加した後85℃まで昇温する、濾過する等の工程を含み製造した静電荷像現像用トナー。」

3.対比
本願発明1と刊行物1発明とを比較すると、次のとおりである。
刊行物1発明の「静電荷像現像用トナー」は、本願発明1の「トナー」に相当する。
また、刊行物1発明の「低分子量成分ラテックス」、「高分子量ラテックス」はともに、本願発明1の「樹脂微粒子」に相当し、刊行物1発明の「顔料分散液」は、本願発明1の「着色剤微粒子」に相当する。
そして、刊行物1発明は、「具体的には、低分子量成分樹脂ラテックス2を400g、高分子量成分樹脂ラテックス1を100g、顔料分散液1を65g等を攪拌し、塩化ナトリウムの59.4gを260mlの蒸留水に溶解した電解質水溶液を添加し、更に、イソプロピルアルコール、トリトンX-100とを添加した後85℃まで昇温する、濾過する等の工程を含み製造した」ことから、本願発明1の「樹脂微粒子と着色剤微粒子とを塩析/融着させて」なることに該当する。
なお、刊行物1発明は、「GPCによる分子量分布測定で重量平均分子量が1,000?50,000の間にピークを有する低分子量成分樹脂ラテックス」、「重量平均分子量が80,000?700,000の間にピークを有する高分子量成分樹脂ラテックス」を混合しており、分子量分布のピークの規定は、融着前のものであって、本願のトナー樹脂成分とは異なるが、2つのピークを有するように作製する点においては差違はない。

したがって、本願発明1と刊行物1発明とは、
「樹脂微粒子と着色剤微粒子とを塩析/融着させてなり、
GPCで測定される樹脂成分の分子量分布が下記〔1’〕、〔2’〕に示す条件を具備することを特徴とするトナー。
〔1〕低分子両側の領域に分子量のピークがあること。
〔2〕高分子両側に領域に分子量のピークがあること。」
である点で一致し、以下の相違点1?3にて相違する。

[相違点1]
GPCで測定される樹脂成分の分子量分布の低分子両側のピーク、高分子量側のピークが、本願発明1は、トナー製造後の樹脂成分で測定し、それぞれ、「1,500?20,000の領域」、「207,916?403,401の領域」であるのに対し、刊行物1発明は、トナー製造前の樹脂成分で測定し、それぞれ、「1,000?50,000の間」、「90,000?700,000の間」と、本願発明1よりも広範な範囲が規定されている点。

[相違点2]
本願発明1が、条件「〔3〕流出開始分子量が1,000,000から5,00,000であること」を必須の構成とするのに対し、刊行物1発明に記載された樹脂の流出開始分子量は特定されておらず不明である点。

[相違点3]
本願発明1が、条件「〔4〕重量平均分子量が38,727?89,724の範囲にあること」を必須の構成とするのに対し、刊行物1発明には、特に重量平均分子量の範囲は特に規定されていない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1発明は、特定の範囲に重量平均分子量のピークを有するように調整しているものであること、および、具体的にピーク位置を記載していないものの、上記記載事項(1e)にあるように、融着前の、低分子量成分ラテックス2の重量平均分子量は14400、高分子量成分ラテックス1の重量平均分子量は、229000であることを考慮すると、重量平均分子量がそのままピーク位置にはならないものの、そう大きくは異ならない位置にあるものと推定される。
してみると、刊行物1発明の2つのピーク位置は、具体的には、本願発明1のピーク位置の領域にあって、実質的には差違はないものと考えられる。
そして、仮に異なるとしても、トナー樹脂において、低温定着性、高温オフセットの両立を考慮して、低分子量成分と高分子量成分を混合し、2つのピークを有する分子量分布とすることは、周知慣用手段である。
例えば、原査定において引用文献1、3として引用された特開平10-133423号公報(請求項1,【0049】、【0062】参照。)、特開平4-24649号公報(請求項1、第2頁左上欄第17行?右上欄第2行)、原査定において周知文献として引用された、特開平10-123752号公報(請求項1、【0010】)、特開平10-171156号公報(請求項19,【0094】-【0096】)、特開2000-47429号公報(請求項26,【0082】-【0084】)、新たに引用する特開平4-190245号公報(請求項6,第2頁左下欄第3-16行参照。)
該2つのピークの範囲は、低温オフセット、高温オフセットの両立や他の成分とのバランスを考慮して、適宜調整すべきことである。
そして、本願の要件〔1〕、〔2〕の範囲に格別な臨界的意義を有するとも認められない。

(相違点2について)
刊行物1発明において、「流出開始分子量」は不明である。
しかしながら、上記記載事項(1e)における高分子成分と低分子量成分との混合比等や、上記相違点1で検討したようなピーク位置の類似性、そして、刊行物1発明において、記載事項機械的強度を改善させる課題を有しており、本願発明1の、「流出開始分子量」の範囲は、発明の詳細な説明【0010】にあるように、「凝集力が高くて粉砕されにくいものとなり、」との観点で定められていることからみて、刊行物1発明のトナーも実質的に本願発明1の「流出開始分子量」を満たす可能性は高い。
刊行物1発明の「流出開始分子量」が異なるものとしてみても、機械的強度を改善させ、帯電特性も向上させる等の課題に基づき、GPCで検出できる最大の分子量の範囲である「流出開始分子量」を決定する程度のことは、適宜調整すべきことにすぎない。

また、前記拒絶理由で指摘したように、原査定において引用文献3として引用された特開平4-24649号公報には、具体的には、粉砕トナーであって、粉砕前の樹脂に関する数値ではあるが、「ゲルパーミエーションクロマトグラム」において、「検出開始分子量」(すなわち「流出開始分子量」)、「高分子量極大値」および「低分子量極大値」を調整して、「低温定着性」、「耐オフセット性」の両立、「現像器内での攪拌によるトナー粒子の粉化」、「トナーが転写されずに白く画像がぬける所謂トナーボタル現象」の解決することが記載されている。
よって、トナー樹脂の分子量を2ピークとし、さらに「流出開始分子量」の範囲に着目することにも、格別な困難性は認められない。
その作用効果も格別顕著であるとは認められない。

(相違点3について)
刊行物1発明において、トナー樹脂全体の重量平均分子量は、トナー1の合成例1において、低分子量ラテックス2(重量平均分子量14400)を400gと高分子量成分ラテックス1分子量(重量平均分子量229000)を100gを混合していること、固形分濃度は、【0063】、【0073】-【0076】からみて、前者が、33重量%、後者が30重量%程度であることからみて、同濃度と仮定して、混合した重量平均分子量は、57300程度であると見込まれる。
このことからみて、本願の重量平均分子量の範囲は、刊行物1発明の重量平均分子量を包含し、差違はないと認められる。
また、その範囲の決定を相違点であるとしても、本願発明1において、「重量平均分子量の範囲について出願当初明細書の発明の詳細な説明【0012】に好ましい重量平均分子量の範囲は記載されているものの、広範な範囲を好ましいものとしており、本願実施例1?3記載の最小値から最大値の範囲に限定したことに格別な技術的意義は認められない。

(なお、本願発明1は、重量平均分子量を実際にどのような装置、検量線を使用したのか明確には記載していない。また、通常、標準ポリスチレンで検量線を引いて決定できるような値であるので、その測定は、本願発明1の条件〔2〕の「207,916?403,401の領域」、〔4〕の「38,727?89,724」のような有効数字を有するものではなく、その根拠となった実施例の数値としては、たまたま、そのように読み取った値にすぎず、再現性のある数値ではない。
こうしたことからも、本願発明1の条件〔2〕、〔4〕に格別な臨界的意義は認められない。
よって、これらの数値の臨界的意義は認められない。)

(請求人の主張について)
平成21年4月24日付け意見書にて、請求人は、上記拒絶理由通知書にて指摘した新規性進歩性の反論として次にように述べる。
「(2-1)本願発明は、基本的構成が樹脂微粒子と着色剤微粒子とを塩析/融着させてなる特定の構成によるトナーであって、このような特定の構成によるトナーにおける技術的課題、すなわちそのようなトナーでは「トナー粒子が破砕されて微粒子(トナー粒子を構成する樹脂微粒子および着色剤粒子)が発生する」問題があることに着目し、実際の画像形成において、そのような問題による欠陥の発生しない「凝集力が高くて破砕されにくいトナーを提供する」ものである(本願明細書段落0003?0004参照)。
このような本願発明が解決しようとする課題については、刊行物1には何も指摘されていない。刊行物1に記載の発明は「トナー粒子の機械的強度を改善すること」が目的であることが記載されている(段落0008)が、これは「トナーにおいて分子量の異なる樹脂をトナー粒子中で局在化させて、トナー粒子の十分な機械的強度を改善する」ことであって、本願発明のように「凝集力を高くすることによって破砕されにくいトナーを得る」こととは技術的に全く異なる解決手法によるものである。」
「(2-2)そして、本願発明によれば、他の条件と共に、流出開始分子量についての条件が満たされることにより、目的とする効果が確実に得られることは、本願明細書に記載された実施例の結果から、明らかである。
すなわち、本願発明は、「流出開始分子量」の範囲を具体的に規定することにより、塩析/融着による特定の構成のトナーを用いる実際の画像形成において、カブリ、黒ポチ、白点、オフセット発生温度、巻き付き発生温度という項目に関して十分に優れた効果が得られることを見いだしたものである。
一方、刊行物1に記載の発明ではトナーの樹脂成分の流出開始分子量について全く何も記載されていないのであるから、上記のような本願発明の効果は、刊行物1に記載の発明からは全く予想することのできないものである。特に刊行物1に記載の発明では、樹脂成分を生成するために使用される連鎖移動剤の量が多いために、得られる樹脂成分の流出開始分子量は、本願発明で規定される下限値1,000,000より小さいものとなると解される。」
「(2-3)また、原査定における引用文献3の特開平4-24649号公報には、検出開始分子量について言及されているが、繰り返し述べるように、この引用文献3に記載の発明では粉砕法によるトナーについて記載されているのみであって、塩析/融着によるトナーについては何も記載されていないのであるから、基本的な構成が異なる本願発明のトナーに対して、引用文献3に記載の発明の技術的事項を適用することは、当業者にとって全く不合理なことであり、思いもよらないことというべきである。両発明は、前提となるトナーの粒子構造が全く異なるものだからである。
そして、本願発明においては、流出開始分子量が、具体的に「1,000,000?5,000,000であること」が発明特定事項として規定されているのであり、この条件が満たされることによって本願発明の目的とする実際の画像形成における種々の効果が奏されるのであるから、この点で、本願発明の効果は、引用文献3に記載の発明からは、全く予想することのできないものである。」
「(2-4)以上から明らかなように、本願発明は、樹脂微粒子と着色剤微粒子とを塩析/融着させてなる特定の構成を有するトナーにおいて、GPCで測定される分子量分布が、「流出開始分子量が1,000,000?5,000,000であること。」という、刊行物1に何も記載されていない条件〔3〕を満たすことが規定されているのであるから、本願発明は刊行物1に記載された発明ではなく、従って刊行物1との関係において特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
また、本願発明は、上記の構成を有することにより、当該特定の構成を有するトナーにおいて凝集力を高くすることができて当該トナーが破砕されにくいものとなる結果、画像形成において、カブリ、黒ポチ、白点、オフセット発生温度、巻き付き発生温度という実際上の項目について具体的な効果が奏されるものであるが、刊行物1および他の引用文献にはそのような事項については全く何も記載されていない。従って、本願発明は、刊行物1に記載の発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。」

このように、請求人は、特に相違点1、3については、相違点ではなく一致点であるように認めている。
してみると、同じような製造方法で高分子量側のピークの位置も同じであると認めているのであれば、おなじく高分子量側の成分のなかでも分子量が高い成分による流出開始分子量が、刊行物1発明においても本願と同程度の範囲にある蓋然性は高い。
しかしながら、請求人は、相違点2については、上に引用した、請求の理由(2-2)において、「刊行物1に記載の発明では、樹脂成分を生成するために使用される連鎖移動剤の量が多いために、得られる樹脂成分の流出開始分子量は、本願発明で規定される下限値1,000,000より小さいものとなると解される」と主張する。
この点につき当審の見解を述べる。
本願比較製造例(3)では樹脂微粒子(高分子量樹脂)の分散液を調整する際の連鎖移動剤(t-ドデシルメルカプタン)の使用量を19.84gにしたこと以外は製造例(1)と同様にして、トナー粒子を得て(本願明細書【0098】)、その結果、流出開始分子量が、対応する製造例(1)の流出開始分子量1,554,907であるところ、913,792と本願範囲を下回る流出開始分子量、加えて、高分子量側ピーク分子量を得ている(【表1】)。ここで、製造例(1)の連鎖移動剤の使用量を確認すると、スチレン10.96kg、アクリル酸n-ブチル4.00kg、メタクリル酸1.04kgに対して用いているから(本願明細書【0091】)、重合成分1kgあたりに換算すると、0.56gである。これに対し、比較製造例(3)では、重合成分1kgあたり、1.24gとなる。
問題の刊行物1発明において確認してみると、上記摘記事項(1e)にあるように、「【0063】[高分子量成分ラテックス1の合成例]・・・スチレン246.4g、n-ブチルアクリレート48g、メタクリル酸25.6g、tert-ドデシルメルカプタン0.30g、更に定着改良剤乳化分散液64gを添加し、」とあり、重合成分1kgあたりに換算すると0.55gであり、本願製造例(1)と同程度、あるいは、やや少ないといえる。
重合成分の組成比やその他の条件が異なるから、それだけで同程度の分子量に必ずしもなるというものでもないが、連鎖移動剤の量が多いから、刊行物1発明の流出開始分子量が異なる旨の請求人の主張には理由はない。むしろ、請求人の主張の論拠によれば、連鎖移動剤が同程度の量であることにより、刊行物1発明において、同程度の流出開始分子量であるということになる。
そして、請求人は、刊行物1に流出開始分子量の範囲を記載していないことが相違点である旨の主張もしているが、この点は、上記「(相違点2について)」にて検討したとおりである。
また、請求人は、「引用文献3に記載の発明では粉砕法によるトナーについて記載されているのみ」であって、「本願発明のトナーに対して、引用文献3に記載の発明の技術的事項を適用することは、当業者にとって全く不合理なことであり、思いもよらないことというべきである。」というが、トナーの結着樹脂に求められる物性等はある程度共通すると認められ、技術の流れからみても「粉砕トナー」で適用された「検出開始分子量」、すなわち、「流出開始分子量」に着目することは想到しえないこととは認められない。
そして、高分子量の分子量分布の裾をある程度の範囲にすることにより、高温オフセット、低温オフセット、機械的強度を調整した程度のことと認められる。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物1および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2009-06-05 
結審通知日 2009-06-09 
審決日 2009-06-24 
出願番号 特願2000-148549(P2000-148549)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 伊藤 裕美
伏見 隆夫
発明の名称 トナー  
代理人 大井 正彦  

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