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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D04H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D04H
管理番号 1202247
審判番号 不服2005-23981  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-13 
確定日 2009-08-12 
事件の表示 特願2003-286550「フィラメントウェブの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月11日出願公開、特開2004-76249〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
この出願は、平成15年8月5日(優先権主張 平成14年8月9日 欧州特許庁(EP))の出願であって、平成17年9月13日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年12月13日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成18年1月11日に手続補正がされ、平成19年5月22日付けで審尋がされ、同年11月26日に回答書が提出され、さらに、平成20年6月26日付けで平成18年1月11日の手続補正に対する補正の却下の決定及び拒絶理由通知がされ、同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
この出願の発明は、平成20年12月26日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。
「嵩の高いフィラメントウェブの製造方法であって、以下の連続する工程、
(a)少なくとも2種類の合成樹脂成分を含む複数成分フィラメントを押出す工程、
(b)前記フィラメントを冷却する工程、
(c)前記フィラメントを引き伸ばす工程、
(d)未捲縮の前記フィラメントを支持体上に施し、フィラメントウェブを形成する工程、
(e)高速のウォータージェットを用い、前記フィラメントウェブを統合する工程、
(f)前記フィラメントウェブを加熱処理し、フィラメントを捲縮させ、フィラメントウェブの嵩を増大させる工程、
を有することを特徴とする製造方法。」

3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成17年1月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって拒絶をすべきものである。」というものであるところ、その理由1,2は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、又は、その発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由を含むものである。



刊行物1: 特開平11-21752号公報

4 当審の判断
以下、上記拒絶の理由について検討する。
(1) 刊行物の記載事項
刊行物1には以下の事項が記載されている。
1a 「【請求項4】 互いに熱収縮性の異なる2種の繊維形成性重合体からなる並列型複合長繊維あるいは偏心芯鞘型複合長繊維を溶融紡糸し、エアーサツカーを用いて引取り、スクリーンコンベア等の移動式捕集面上に開繊堆積させて長繊維ウエブとし、前記長繊維ウエブを部分熱圧着装置を用いて部分的に熱圧着した長繊維ウエブを得る工程と、弛緩熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させる工程と、長繊維ウェブの片面に主として単糸繊度が1デニール未満の繊維からなる短繊維ウェブを積層した積層体に高圧液体流処理を施して、長繊維ウエブの構成繊維同士、長繊維ウエブと短繊維ウエブの構成繊維同士および短繊維ウエブの構成繊維同士を三次元的に交絡させ全体として一体化させて複合不織布を得る工程とからなることを特徴とする複合不織布の製造方法。」(特許請求の範囲)
1b 「本発明に用いる長繊維ウェブは、以下の方法により製造することができる。すなわち、公知の溶融複合紡糸法にて、互いに熱収縮性の異なる2種の繊維形成性重合体を個別に溶融させ、並列型複合断面あるいは偏心芯鞘型複合断面となる紡糸口金を介して紡出する。…、吹付風により冷却した後、エアーサツカーを用いて、目標繊度となるように牽引細化して引き取る。…エアーサツカーより排出される複合長繊維群は、一般的には、…、スクリーンからなるコンベアーのごとき移動堆積装置上に開繊堆積させて長繊維ウエブを得る。」(段落【0024】)
1c 「次に…長繊維ウエブを部分的に熱圧着する。…。この熱圧着温度は、低融点を有する重合体の融点以下の温度で行うことが必要…。…熱圧着温度が、低融点重合体の融点に近い温度であると、熱圧着は強固なものとなるため、長繊維ウェブの寸法安定性は優れ、また、後の高圧液体流処理においても部分的熱圧着部は残存し、…得られる複合不織布は、縦・横の破断伸度が高く、寸法安定性に優れ、機械的強力が高いものとなる。一方、熱圧着温度が低融点重合体の融点に遠い温度であると、部分的熱圧着部は繊維形態を残した仮熱圧着の状態となり、後の高圧液体流処理において、部分的熱圧着部は剥離されて繊維状となり、長繊維は自由に運動することができ、よりランダムに三次元的に交絡する。…また、長繊維ウェブの全表面積に対する全熱圧着領域の面積の比、すなわち圧着面積率は…がよい。この圧接面積率が2%未満であると、熱圧接後のウェブの機械的特性および寸法安定性が向上しにくく、従って、この長繊維ウェブに短繊維ウェブを積層して得られた複合不織布の寸法安定性が劣りやすくなる。…」(段落【0025】?【0027】)
1d 「部分的に熱圧着が施された長繊維ウエブは、弛緩熱処理を施して長繊維が有する潜在捲縮を顕在化させる。… この長繊維の有する潜在捲縮を顕在化させる弛緩熱処理工程は、短繊維ウエブと積層する前であっても、短繊維ウエブと積層して高圧液体流処理により一体化した後であってもよく、用途等に応じて適宜選択すればよい。」(段落【0028】)
1e 「弛緩熱処理工程が短繊維ウエブと積層する前であると、すなわち、捲縮顕在化した長繊維ウエブに短繊維ウエブを積層して高圧液体流処理により一体化を行うと、捲縮が顕在化した長繊維からなる長繊維ウエブは、嵩高かつ繊維間空隙が大きいため短繊維ウエブを構成する短繊維が高圧液体流処理により長繊維内へ侵入しやすく、顕在化された捲縮による長繊維のループと短繊維とが交絡しやすいため、高圧液体流処理を施す際に低いエネルギーで容易に一体化が行われ、交絡性に優れ、層間剥離強力に優れた複合不織布を得ることができる。
一方、弛緩熱処理工程が短繊維ウエブと積層一体化した後であると、すなわち、短繊維ウエブと長繊維ウエブとを積層一体化した後に、弛緩熱処理を施し潜在捲縮を顕在化させると、嵩高で伸縮性を有する複合不織布を得ることができ、また、短繊維ウエブ側には微細なシボを有するものとなる。」(段落【0029】?【0030】)
1f 「この弛緩熱処理工程に用いられる熱処理機としては、長繊維ウエブに対し両面より熱風が吹き出すシュリンク・ドライヤーが一般的に用いられる。また、サクション・バンド方式の熱処理機を用いても収縮の発生は可能である。この場合においては、吹き出す風量および吸引される風量を規制し、長繊維ウェブに余分の風量を付与しないことにより、熱の付加を行って収縮を発現させることができる。この工程において重要な点は、不織布に十分な収縮を発現させることにある。すなわち、長繊維ウェブに十分な熱量を付与し、しかも温度低下や上昇等が生じない範囲の吹き付け風量とし、かつこの吹き付け風量に対しわずかに低めの吸引量とすればよい。」(段落【0031】)
1g 「次に、高圧液体流処理について説明する。高圧液体流処理に用いる高圧液体流装置としては、例えば、孔径が0.05?1.5mm、特に0.1?0.4mmの噴射孔を孔間隔0.05?5mmで一列あるいは複数列に多数配列した装置を用いる。噴射孔から高圧力で噴射させて得られる水流すなわち高圧液体流を噴射し、多孔性支持部材上に載置した前記積層体に衝突させる。未分割の分割型二成分系複合短繊維は、高圧液体流による衝撃によって、極細割繊短繊維を発現する。高圧液体流の作用により、長繊維ウエブの構成繊維同士、長繊維ウエブと短繊維ウエブとの構成繊維同士および短繊維ウエブの構成繊維同士が交絡する。この時、極細割繊短繊維は、高圧液体流の作用による易動性が高いため、主として長繊維ウエブ内に入り込み長繊維と三次元的に交絡し積層体を一体化させる。」(段落【0041】)
1h 「実施例6
実施例5の部分的に熱圧着された長繊維ウエブで長繊維が有する潜在捲縮を顕在化させていない長繊維ウエブに実施例1で用いた短繊維ウエブを積層した積層体に、実施例1と同様の高圧液体流処理を施して複合不織布を得た。 次いで、得られた複合不織布を熱処理温度が115℃のシユリンクドライヤー(寿工業KK)に通布して弛緩熱処理を行い、捲縮の顕在化加工を施した。捲縮を発現した複合不織布の目付は52g/m^(2) で、長繊維ウエブを顕微鏡で観察した結果、構成繊維は15ケ/インチの捲縮数を発現していた。」(段落【0089】?【0090】)

(2) 刊行物に記載された発明
刊行物1は、複合不織布及びその製造方法に関し記載するものであって、その不織布の製造方法として、特許請求の範囲の請求項4に、「互いに熱収縮性の異なる2種の繊維形成性重合体からなる並列型複合長繊維あるいは偏心芯鞘型複合長繊維を溶融紡糸し、エアーサツカーを用いて引取り、スクリーンコンベア等の移動式捕集面上に開繊堆積させて長繊維ウエブとし、前記長繊維ウエブを部分熱圧着装置を用いて部分的に熱圧着した長繊維ウエブを得る工程と、弛緩熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させる工程と、長繊維ウェブの片面に…短繊維ウェブを積層した積層体に高圧液体流処理を施して、長繊維ウエブの構成繊維同士、長繊維ウエブと短繊維ウエブの構成繊維同士および短繊維ウエブの構成繊維同士を三次元的に交絡させ全体として一体化させて複合不織布を得る工程とからなる」(摘記1a)という製造方法が記載されている。
その上記製造方法における「長繊維からなる長繊維ウェブを得る工程」は、具体的には、上記のとおりの「互いに熱収縮性の異なる…を溶融紡糸」した複合長繊維を、具体的には、「吹付風により冷却した後、エアーサツカーを用いて、目標繊度となるように牽引細化して引き取る。…エアーサツカーより排出される複合長繊維群は、一般的には、…、スクリーンからなるコンベアーのごとき移動堆積装置上に開繊堆積させ」(摘記1b)る工程を有するものであって、この工程は、複合長繊維を冷却する工程、その複合長繊維を牽引細化して引き取る工程、及び、排出される複合長繊維群を移動堆積装置上に開繊堆積させる工程、からなる工程といえる。
また、「長繊維ウェブの構成繊維同士の三次元的交絡」させる工程は、具体的には、多孔性支持部材上に載置した長繊維ウェブに「噴射孔から高圧力で噴射させて得られる水流すなわち高圧液体流を噴射し…衝突させ…、高圧液体流の作用により、長繊維ウェブの構成繊維同士、…が交絡」(摘記1g)する工程であるから、この工程は高圧液体流処理を施して長繊維ウェブの構成繊維同士を三次元的に交絡させる工程といえる。
これら連続した一連の製造方法は、「弛緩熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させる工程」後に「高圧液体流処理を施して長繊維ウェブの構成繊維同士を三次元的に交絡させる工程」の順序となっているが、それらの順序について、刊行物1には「長繊維の有する潜在捲縮を顕在化させる弛緩熱処理工程は、短繊維ウエブと積層する前であっても、短繊維ウエブと積層して高圧液体流処理により一体化した後であってもよく、用途等に応じて適宜選択すればよい」(摘記1d)、すなわち、弛緩熱処理工程は、高圧液体流処理工程の前であっても後であっても適宜選択すればよいことが示されており、さらに、具体例において、高圧液体流処理の後に弛緩熱処理が施されて不織布を形成する例(摘記1h。実施例6)も示されている。そうすると、刊行物1には、これら連続した一連の製造方法において、「高圧液体流処理を施して長繊維ウェブの構成繊維同士を三次元的に交絡させる工程」の後に「弛緩熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させる工程」を行う態様も開示されているということができる。
そうすると、刊行物1には、長繊維ウエブの不織布層についてみると、以下の製造方法が示されているということができる。
「(イ)互いに熱収縮性の異なる2種の繊維形成性重合体からなる並列型複合長繊維あるいは偏心芯鞘型複合長繊維を溶融紡糸する工程、
(ロ)その複合長繊維を冷却する工程
(ハ)その複合長繊維を牽引細化して引き取る工程
(ニ)排出される複合長繊維群を移動堆積装置上に開繊堆積させて長繊維ウエブを得る工程
(ホ)その長繊維ウエブを部分的に熱圧着する工程
(へ)高圧液体流処理を施して長繊維ウェブの構成繊維同士を三次元的に交絡させる工程
(ト)弛緩熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させる工程
の連続工程からなる、不織布の製造方法」(以下、引用発明」という。)

(3) 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の(イ)の工程「互いに熱収縮性の異なる2種の繊維形成性重合体からなる並列型複合長繊維あるいは偏心芯鞘型複合長繊維を溶融紡糸する工程」における「複合長繊維」は、本願発明の(a)工程の「複数成分フィラメント」といえるから、引用発明の(イ)の工程は、本願発明の(a)の工程「少なくとも2種類の合成樹脂成分を含む複数成分フィラメントを押出す工程」と同じ工程であるといえ、引用発明の(ロ)の工程と本願発明の(b)の工程はいずれも同じ冷却工程といえ、引用発明の(ハ)の工程の「複合長繊維を牽引細化して引き取る」とは、「複合長繊維を引き伸ばす」ことであるから、引用発明の(ハ)の工程は、本願発明の(c)の工程「前記フィラメントを引き伸ばす工程」に相当する。そして、引用発明の(ニ)の工程の「排出される複合長繊維群」は、その時点では未捲縮であり、「移動堆積装置」は「多孔性支持部材」(摘記1g)とされるように、本願発明の「支持体」に相当するから、引用発明の(ニ)の工程「排出される複合長繊維群を移動堆積装置上に開繊堆積させて長繊維ウエブを得る工程」は、本願発明の(d)の工程「未捲縮の前記フィラメントを支持体上に施し、フィラメントウェブを形成する工程」に相当する。さらに、引用発明の(ヘ)の工程の「高圧液体流処理」は、「噴射孔から高圧力で噴射させて得られる水流すなわち高圧液体流を噴射」(摘記1g)、すなわち高速のウォータージェットによるものであり、その具体的な噴射条件は本願発明におけるのと同等であると認められるから、引用発明の(ヘ)の工程「高圧液体流処理を施して長繊維ウェブの構成繊維同士を三次元的に交絡させる工程」は、本願発明の(e)の工程「高速のウォータージェットを用い、前記フィラメントウェブを統合する工程」に相当する。そして、引用発明の(ト)の工程「弛緩熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させる工程」は、その「弛緩熱処理」は「熱の付加を行って収縮を発現させる」(摘記1f)処理であるから、この工程は加熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させ長繊維ウェブの嵩を増大させるものであるといえ、本願発明の(f)工程「前記フィラメントウェブを加熱処理し、フィラメントを捲縮させ、フィラメントウェブの嵩を増大させる工程」に相当するといえる。
上記のとおり、引用発明の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ヘ)及び(ト)の工程は、それぞれ、本願発明の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)の工程に相当するといえ、引用発明の上記(イ)?(ニ)、(ヘ)、(ト)の「連続工程からなる、不織布の製造方法」は、上記(a)?(f)の「連続する工程」を有する「嵩の高いフィラメントウェブの製造方法」に他ならないから、両者は、
「嵩の高いフィラメントウェブの製造方法であって、以下の連続する工程、
(a)少なくとも2種類の合成樹脂成分を含む複数成分フィラメントを押出す工程、
(b)前記フィラメントを冷却する工程、
(c)前記フィラメントを引き伸ばす工程、
(d)未捲縮の前記フィラメントを支持体上に施し、フィラメントウェブを形成する工程、
(e)高速のウォータージェットを用い、前記フィラメントウェブを統合する工程、
(f)前記フィラメントウェブを加熱処理し、フィラメントを捲縮させ、フィラメントウェブの嵩を増大させる工程、
を有することを特徴とする製造方法。」
という点で一致し、下記の点Aで一応相違が認められる。

A (d)工程と(e)工程の間に、引用発明においては、「その長繊維ウエブを部分的に熱圧着する工程」があるのに対し、本願発明はそのような工程がない点
(この点を「相違点A」という。)

(4) 相違点Aについて
この相違点Aについて検討すると、引用発明における「その長繊維ウエブを部分的に熱圧着する工程」は、「熱圧接後のウェブの機械的特性および寸法安定性」を向上(摘記1c)させるための処理と認められ、その熱圧着温度によって部分的熱圧着部が後の高圧液体流処理において残存するか、「剥離されて繊維状となり、長繊維は自由に運動することができ、よりランダムに三次元的に交絡する」(摘記1c)ような(仮)熱圧着をウェブに付与するものである。後者の仮熱圧着の場合は、高圧液体流処理によって仮熱圧着部は剥離され、熱圧着工程のないものと同等に三次元的に交絡するのであるから、この場合に熱圧着工程は、高圧液体流処理までの間におけるウェブの機械的特性及び寸法安定性を向上させ、ウェブの取り扱い性などを向上させるために付加される工程といえ、当業者が必要に応じて適宜取捨し得る程度の事項であるといえる。
よって、この工程の有無は実質的な相違点でないか、当業者が容易に適用し得る技術事項に過ぎなく、その効果も格別のものと認めることもできない。

(5) 請求人の主張
請求人は、平成20年12月26日付け意見書の「5.(2)(イ)」において、
「引用文献1(審決注:刊行物1)の請求項1、請求項4の記載、及び段落『0008』及び『0009』の記載から理解されますように、引用文献1に記載された技術は、潜在的捲縮能の活性化を行った後に、繊維の三次元的交絡を行う技術です。そして、繊維の三次元的交絡を行った後に潜在的捲縮能の活性化を行うことについては全く記載がありません。…繊維の三次元的交絡と繊維の潜在的捲縮能の活性化を行う順序を変更することにより、得られるウェブの特性が大きく異なるウェブ製造工程で発生する特性(注:嵩が高く、機械的強度が良好なウェブを、高い再現性で得ること)は見出されていません」
と主張している。
しかし、刊行物1には、「高圧液体流処理を施して長繊維ウェブの構成繊維同士を三次元的に交絡させる工程」の後に「弛緩熱処理することにより長繊維の潜在捲縮を顕在化させる工程」を行う態様も開示されているということができることは、上記(2)のとおりであり、これらの順序において本願発明と引用発明とに相違はないのであるから、両者はこれらに基づくとされる効果を奏するものといえ、この効果が引用発明に比した本願発明の格別の効果であるということはできない。
また、請求人が主張する、繊維の三次元的交絡と繊維の潜在的捲縮能の活性化を行う順序を本願発明の順序とすることにより得られるとする、嵩が高く、機械的強度が良好なウェブを、高い再現性で得ることができる、という効果について、この出願の発明の詳細な説明において、どの程度嵩が高く、どのような機械的強度がどの程度高く、再現性がどの程度高いものが本願発明の製造方法によって得られたのかについて、具体的に何ら記載されているとはいえない。そうすると、本願発明の効果が格別なものであるのかを認めることもできない。
よって、請求人のこの主張は、上記判断を左右するものではない。

(6) 結論
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるか、その発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-16 
結審通知日 2009-03-17 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願2003-286550(P2003-286550)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (D04H)
P 1 8・ 121- Z (D04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 浅見 節子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
杉江 渉
発明の名称 フィラメントウェブの製造方法  
代理人 江藤 聡明  

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