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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01J
管理番号 1202257
審判番号 不服2006-21443  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-25 
確定日 2009-08-12 
事件の表示 平成 9年特許願第 29488号「ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月 2日出願公開、特開平 9-312149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成9年2月14日(パリ条約による優先権主張1996年2月15日、英国)の出願であって、平成18年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成18年9月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされ、これに対し当審より平成20年10月20日付けで拒絶理由が通知されたところ、平成21年2月25日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2 当審の拒絶理由の概要
当審において通知した上記拒絶理由の概要は、本願の請求項1乃至7に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 本願発明
本願の請求項1乃至6に係る発明は、平成21年2月25日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「励起されたとき放電を維持できる充填物を封入した密封放電エンベロープ、
前記充填物を励起するために前記エンベロープ内にRF電磁界を生じさせる電磁界発生手段、
発振器および整流器を収容し、その縁部が前記放電エンベロープに接触し、ねじ込み口金または差し込み口金であるランプ・キャップを支持する導電性のハウジング、および前記RF電磁界を前記エンベロープ内に閉じ込めるための電磁界閉じ込め手段を有し、
前記電磁界閉じ込め手段が、前記導電性のハウジングと電気的に接続し、前記エンベロープの外面上に設けられた光透過性で導電性を有するポリマー層を含んでおり、
更に、前記導電性のポリマー層及び前記導電性のハウジングの上に、前記ランプ・キャップまで延在し、前記導電性のポリマー層及び前記導電性のハウジングを絶縁する光透過性の電気絶縁層を有している、無電極放電ランプ。」

4 引用刊行物に記載された発明
前記当審による拒絶理由通知で引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭53-34382号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項1
「2.特許請求の範囲
内面に螢光体を被着するとともに内部に水銀及び不活性ガスを封入しかつ内部へ突出する筒状部を有する管球と、前記筒状部内に挿入されるとともに高周波電力の供給により前記管球内に無電極放電を発生させるコイルとを具備したものにおいて、前記管球の外面に透光性導電膜を被着したことを特徴とする螢光灯。」(公報第1頁左下欄第4行?第11行)
・記載事項2
「従来、管球の内面に螢光体を塗布するとともに内部に水銀及び不活性ガスを封入し、かつ前記管球に内部へ突出する筒状部を形成し、この筒状部内にコイルを挿入して、このコイルに高周波電力を供給し管球内に高周波無電極放電を生起せしめる螢光灯がある。」(公報第1頁左下欄第15行?第20行)
・記載事項3
「高周波電源を内蔵した箱1上にはコイルボビン2が固定されている。このボビン2には球状の管球3が固定されている。管球3の内面には螢光体4が塗布されており、さらに内部には水銀及び不活性ガスが封入されている。管球3には、ボビン2を包囲するように突出した筒状部5が形成されている。ボビン2には、コイル6が巻装されている。管球3の外面には、高周波雑音の漏洩を防ぐ透光性導電膜7が被着されている。」(公報第1頁右下欄第9行?第17行)
・記載事項4
「その後、管球3の排気及び不活性ガスと水銀の封入を行えば螢光灯が完成する。尚、導電膜7のさらに外側に、テフロン、シリコンゴム等の透光性保護膜8を被覆すれば、導電膜7の保護が可能となる。」(公報第2頁左上欄第2行?第7行)
・記載事項5
「透光性導電膜7を、箱1が金属である場合には箱1に、あるいは高周波電源回路の接地側へ直接もしくはコンデンサを介して接続すれば高周波雑音のしやへい効果が増大する。また接地線が配線されておれば、これに導電膜7を接続しても同様な効果が得られる。このような措置により導電膜7を設けないときに比べ、高周波電界の漏洩を1/6程度に低減することができた。」(公報第2頁左上欄第8行?第15行)

したがって、上記記載事項1?5、及び図面に基づけば、引用例には、
「水銀及び不活性ガスを封入した管球3、前記管球3内に高周波電界を生じさせるコイル6、高周波電源を内蔵した金属である箱1を有し、前記高周波電界の漏洩を防ぐため、金属である箱1と接続し、前記管球3の外面に被着された透光性導電膜7を有し、さらに透光性導電膜7の上に、テフロン、シリコンゴム等の透光性保護膜8が被覆された、高周波無電極放電を生起せしめる螢光灯。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

5 対比
本願発明と引用発明とを比較する。
(1)引用発明の「水銀」は、コイルによる高周波電界によって励起され、放電を維持できる物質であることは明らかである。また、引用発明の「管球3」は本願発明の「密封放電エンベロープ」に相当する。したがって、引用発明の「水銀及び不活性ガスを封入した管球3」は、本願発明の「励起されたとき放電を維持できる充填物を封入した密封放電エンベロープ」に相当し、また、引用例の「前記管球3内に高周波電界を生じさせるコイル6」は、本願発明の「前記エンベロープ内にRF電磁界を生じさせる電磁界発生手段」に相当する。
(2)「高周波電源」は、その技術的な性質上、発振器および整流器を有するものであるから、引用発明の「高周波電源を内蔵」は、本願発明の「発振器および整流器を収容」に相当し、また、引用発明の「金属である箱1」は、本願発明の「導電性のハウジング」に相当する。
(3)引用発明は、「高周波電界の漏洩を防ぐため、金属である箱1と接続し、前記管球3の外面に被着された透光性導電膜7を有」するものであり、ここで引用発明の「高周波電界の漏洩を防ぐ」は、本願発明の「RF電磁界をエンベロープ内に閉じ込める」に相当することから、引用発明の、高周波電界の漏洩を防ぐため「透光性導電膜」は、本願発明の「RF電磁界を前記エンベロープ内に閉じ込めるための電磁界閉じ込め手段」に相当する。
そして、「テフロン、シリコンゴム」は電気絶縁機能を奏するのが明らかであるから、引用発明の「テフロン、シリコンゴム等の透光性保護膜」は、本願発明の「光透過性の電気絶縁層」に相当し、さらに、引用発明における、「高周波電界の漏洩を防ぐため、金属である箱1と接続し、前記管球3の外面に被着された透光性導電膜7」における「接続」は、透光性導電膜の機能上、「電気的接続」であることが明らかである。
してみると、引用発明の「前記高周波電界の漏洩を防ぐため、金属である箱1と接続し、前記管球3の外面に被着された透光性導電膜7を有し、さらに透光性導電膜7の上に、テフロン、シリコンゴム等の透光性保護膜8が被覆された、」と、本願発明の「前記RF電磁界を前記エンベロープ内に閉じ込めるための電磁界閉じ込め手段を有し、前記電磁界閉じ込め手段が、前記導電性のハウジングと電気的に接続し、前記エンベロープの外面上に設けられた光透過性で導電性を有するポリマー層を含んでおり、更に、前記導電性のポリマー層及び前記導電性のハウジングの上に、前記ランプ・キャップまで延在し、前記導電性のポリマー層及び前記導電性のハウジングを絶縁する光透過性の電気絶縁層を有している、」は、「前記RF電磁界を前記エンベロープ内に閉じ込めるための電磁界閉じ込め手段を有し、前記電磁界閉じ込め手段が、前記導電性のハウジングと電気的に接続し、前記エンベロープの外面上に設けられた光透過性で導電性を有する層を含んでおり、更に、前記導電性の層の上に、前記導電性の層を絶縁する光透過性の電気絶縁層を有している、」点で共通する。
(4)引用発明の対象である「無電極放電を生起する螢光灯」は、本願発明の対象である「無電極放電ランプ」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明の両者は、
「励起されたとき放電を維持できる充填物を封入した密封放電エンベロープ、
前記充填物を励起するために前記エンベロープ内にRF電磁界を生じさせる電磁界発生手段、
発振器および整流器を収容する導電性のハウジング、および前記RF電磁界を前記エンベロープ内に閉じ込めるための電磁界閉じ込め手段を有し、
前記電磁界閉じ込め手段が、前記導電性のハウジングと電気的に接続し、前記エンベロープの外面上に設けられた光透過性で導電性を有する層を含んでおり、
更に、前記導電性の層の上に、前記導電性の層を絶縁する光透過性の電気絶縁層を有している、無電極放電ランプ。」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
導電性のハウジングと放電エンベロープとの位置関係について、本願発明は、導電性ハウジングの「縁部が前記放電エンベロープに接触」するものであるのに対し、引用発明は、導電性のハウジングは放電エンベロープに接触していない点。
[相違点2]
「エンベロープの外面上に設けられた光透過性で導電性を有する層」について、本願発明は、「ポリマー層」であるのに対して、引用発明は、その点が限定されていない点。
[相違点3]
本願発明は、導電性のハウジングが、「ねじ込み口金または差し込み口金であるランプ・キャップ」を支持し、また、光透過性の電気絶縁層が、導電性のポリマー層及び導電性のハウジングの上に、「ランプ・キャップまで延在し、導電性のポリマー層及び導電性のハウジングを絶縁する」ものであるのに対し、引用発明はその点が限定されていない点。

6 当審の判断
相違点1について検討する。
高周波電源を内蔵する箱(本願発明の「発振器および整流器を収容するハウジング」に相当)と管球(本願発明の「放電エンベロープ」に相当)を有する引用発明のような「螢光灯」(本願発明の「放電ランプ」に相当)において、この両者の技術的な機能上、両者は少なくとも近接して配置されるものであるとともに両者間に配置することが必須である部材は存在しないことから、両者を接触させるように設けるか間隔をあけて配置するか否かは、小型化等の自明な課題に基づいて、当業者が設計の際に適宜決定しうる事項にすぎない(例えば、実願昭53-16843号(実開昭54-120272号)のマイクロフィルムには、装置全体のコンパクト化のために、外被7(本願発明の「ハウジング」に相当)を、発光体5(本願発明の「放電エンベロープ」に相当)に接触させたものが記載されている(明細書第3頁第18行乃至第4頁第2行、第2図))。
したがって、高周波電源を内蔵する箱(本願発明の「発振器および整流器を収容するハウジング」に相当)と管球(本願発明の「放電エンベロープ」に相当)が接触していない引用発明において、小型化等のために、両者を接触するように構成することは当業者にとって格別困難性なことではない。

相違点2について検討する。
電磁界の漏洩を防ぐため、光透過性で導電性を有するポリマー層を利用することは、当審の通知した拒絶理由で指摘したように、特開平7-278398号公報(【0002】,【0003】)、特開平2-252727号公報(「産業上の利用分野」欄)、特開昭63-78408号公報(「従来技術」欄)、特開昭62-116773号公報(「従来技術」欄)、特開平6-350286号公報(【0011】)、特開平2-240139号公報(「従来の技術」欄)等に示されるように、従来周知の事項である(以下「周知事項」という。)。
そして、引用発明に記載の螢光灯において、電磁界の漏洩を防ぐため、管球の外面上に被着される透光性導電膜として、前記周知事項である光透過性で導電性を有するポリマー層を採用することに格別の困難性はない。

本願発明の「導電性のポリマー層」に関する相違点2についての検討を踏まえて相違点3を検討する。
ねじ込み口金または差し込み口金であるランプ・キャップを有する無電極放電ランプは周知であり(例えば、特開平7-211298号公報等を参照)、引用発明においてこのような周知なランプ・キャップを有する構造を採用することは当業者が適宜なし得る設計的事項である。
また、一般に、ある領域を保護する保護膜を被覆する場合、保護膜が捲れたり剥がれたりしてしまって本来の機能が低下することを防止するため、その領域を越えて広い範囲にわたって保護膜を設けることは、常套手段である。したがって、引用発明において、透光性導電膜7(本願発明の「光透過性で導電性を有する」層に相当)の上の透光性保護膜8(本願発明の「光透過性の電気絶縁層」に相当)を、透光性導電膜7を保護するという機能上、透光性導電膜上を越えて設計の容易な又は可能な限り広い範囲にわたって被覆することで透光性導電膜の保護機能低下を防止することは、当業者にとっての設計的な事項である。
してみると、金属である箱1と接続し、管球3の外面に被着された透光性導電膜7を有する引用発明において、上述のとおり、ねじ込み口金または差し込み口金であるランプ・キャップを採用した場合に、被覆する透光性保護膜8を、設計の容易な又は可能な限り広い範囲にわたって被覆することにより、ランプ・キャップまで延在させるよう構成することは、当業者にとって格別困難なことではない。

そして、本願発明の効果は、引用例の記載及び周知事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-12 
結審通知日 2009-03-17 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願平9-29488
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 亮  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 飯野 茂
南 宏輔
発明の名称 ランプ  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
代理人 松本 研一  

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