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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1202352
審判番号 不服2006-19983  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-07 
確定日 2009-08-13 
事件の表示 特願2000-187273「スクリーン印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月 8日出願公開、特開2002- 1911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願は、平成12年6月22日の出願であって、平成17年1月14日付けで拒絶理由が通知され、同年3月14日に拒絶理由に対する意見書が提出され、さらに、同年4月26日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月24日に最後の拒絶理由に対する意見書と補正書が提出されたが、同年6月24日付けの手続補正は、平成18年8月4日付けで補正却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月7日に拒絶査定不服の審判が請求され、同年10月4日付けで明細書の手続補正がなされたものである。
その後、平成20年4月22日付けで審尋がなされ、同年6月23日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成18年10月4日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年10月4日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 平成18年10月4日付け手続補正について
平成18年10月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであり、その補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりのものである。

(本件補正前の特許請求の範囲:出願当初明細書)
「【請求項1】内部にペーストを貯溜したスキージヘッドをマスクプレート上で摺動させながら前記ペーストを加圧することにより、マスクプレートのパターン孔を介して基板にペーストを印刷するスクリーン印刷方法であって、前記スキージヘッドを前記マスクプレートに対して当接させることにより内部のペーストをマスクプレートに接触させる第1工程と、
マスクプレートの下面に前記基板を当接させる第2工程と、
基板を当接させた状態のマスクプレートに対してスキージヘッドを押圧しながら摺動させることによりパターン孔にペーストを充填する第3工程と、
スキージヘッドの下降を禁止した状態で前記基板をマスクプレートの下面から離隔させる第4工程とを含み、
前記第2,第3,第4工程を反復して行うスクリーン印刷動作において、スキージヘッドをマスクプレートの上面に当接させた状態を保持することを特徴とするスクリーン印刷方法。」

(本件補正後の特許請求の範囲)
「【請求項1】内部にペーストを貯溜したスキージヘッドをマスクプレート上で摺動させながら前記ペーストを加圧することにより、マスクプレートのパターン孔を介して基板にペーストを印刷するスクリーン印刷方法であって、前記スキージヘッドを前記マスクプレートに対して当接させることにより内部のペーストをマスクプレートに接触させる第1工程と、
マスクプレートの下面に前記基板を当接させる第2工程と、
基板を当接させた状態のマスクプレートに対してスキージヘッドを押圧しながら摺動させることによりパターン孔にペーストを充填する第3工程と、
スキージヘッドの下降を禁止した状態で前記基板を保持するクランパを下降させて前記基板を前記クランパとともにマスクプレートの下面から離隔させて版離れを行わせる第4工程とを含み、
前記第2,第3,第4工程を反復して行うスクリーン印刷動作において、スキージヘッドをマスクプレートの上面に当接させた状態を保持することを特徴とするスクリーン印刷方法。」(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)

ところで、平成17年6月24日付け手続補正が原審で却下された結果、審判請求時の特許請求の範囲を補正する際の基準となる明細書は、出願当初の明細書となるが、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、補正却下された上記手続補正書の請求項1の記載と全く同じものである。
このことを踏まえた上で、本件補正がいかなる事項を補正するものであるかについて以下に検討する。

2 補正目的について
本件補正のうち、特許請求の範囲に対する補正は、補正前の特許請求の範囲を、以下に示すとおり補正するものである。

[補正1]
補正前の特許請求の範囲の請求項1における「基板をマスクプレートの下面から離隔させる第4工程」を「基板を保持するクランパを下降させて前記基板を前記クランパとともにマスクプレートの下面から離隔させて版離れを行わせる第4工程」とする補正。

上記各補正事項について検討する。
[補正1]について
補正前の請求項1における「第4工程」が、クランパを利用した工程であることを限定するものであるので、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に相当する。

次に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。

3 独立特許要件について
(1)本件補正発明
本件補正発明は、次のとおりのものである。

「【請求項1】内部にペーストを貯溜したスキージヘッドをマスクプレート上で摺動させながら前記ペーストを加圧することにより、マスクプレートのパターン孔を介して基板にペーストを印刷するスクリーン印刷方法であって、前記スキージヘッドを前記マスクプレートに対して当接させることにより内部のペーストをマスクプレートに接触させる第1工程と、
マスクプレートの下面に前記基板を当接させる第2工程と、
基板を当接させた状態のマスクプレートに対してスキージヘッドを押圧しながら摺動させることによりパターン孔にペーストを充填する第3工程と、
スキージヘッドの下降を禁止した状態で前記基板を保持するクランパを下降させて前記基板を前記クランパとともにマスクプレートの下面から離隔させ
て版離れを行わせる第4工程とを含み、
前記第2,第3,第4工程を反復して行うスクリーン印刷動作において、スキージヘッドをマスクプレートの上面に当接させた状態を保持することを特徴とするスクリーン印刷方法。」

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平06-234204号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図示とともに以下(ア)乃至(コ)に示す記載がある。

(ア)「【請求項1】パターン孔が開孔されたスクリーンマスクのマスクプ レートの上方に配置される移動台と、この移動台をX方向に水平移動させ るX方向移動手段と、この移動台を前記X方向と直交するY方向に水平移 動させるY方向移動手段と、この移動台に一体的に設けられた回転手段と 、内部にクリーム半田が貯溜されてこの回転手段に駆動されて前記マスク プレート上を水平方向に回転する筒状のスキージとを備えたことを特徴と するクリーム半田のスクリーン印刷装置。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】クリーム半田10の組成を均一に し、またクリーム半田10をパターン孔3の内部に密に充填させるために は、スキージ5がスライドする際に、クリーム半田10をローリングさせ て練り合わせることが望ましい。従来のスキージ5は長板状であって、矢 印N1,N2方向に直線的にスライドすることから、図4において矢印に て示すようにクリーム半田10はローリングしながら練り合わされる。し かしながらこのローリングによる練り合わせは不十分であって十分に組成 を均一化できず、殊にクリーム半田10の表面付近は空気に触れて酸化さ れ、材質が劣化したものの割合が高くなり、またパターン孔3内にクリー ム半田10が密に充填されにくいという問題点があった。」
(ウ)「【産業上の利用分野】本発明は、プリント基板の回路パターンの電 極にクリーム半田を塗布するクリーム半田のスクリーン印刷装置に関する ものである。」
(エ)「【課題を解決するための手段】このために本発明は、パターン孔が 開孔されたスクリーンマスクのマスクプレートの上方に配置される移動台 と、この移動台をX方向に水平移動させるX方向移動手段と、この移動台 をX方向と直交するY方向に水平移動させるY方向移動手段と、この移動 台に一体的に設けられた回転手段と、内部にクリーム半田が貯溜されてこ の回転手段に駆動されてマスクプレート上を水平方向に回転する筒状のス キージとからクリーム半田のスクリーン印刷装置を構成したものである。 」
(オ)「【0012】図1は本発明の一実施例におけるクリーム半田のスク リーン印刷装置の斜視図である。11はスクリーンマスクであり、枠型の ホルダ12の下面にマスクプレート13を保持させて形成されており、マ スクプレート13にはパターン孔14が開孔されている。図2は本発明の 一実施例におけるクリーム半田のスクリーン印刷装置の部分断面図であっ て、マスクプレート13の下方にはプリント基板15が配置されている。 16はプリント基板15を載置するテーブルである。」
(カ)「【0016】移動台35上には回転方向モータ41が設置されてい る。図2に示すように、回転方向モータ41の回転軸42には回転板43 の後端部が装着されており、この回転板43の先端部にはスキージ44が 装着されている。スキージ44は有蓋無底の円筒状体であって、その下部 にはマスクプレート13に接地する硬質ゴムや硬質樹脂などから成る接地 子45が一体的に固着されている。スキージは円筒状体に限らず、多角筒 状体などの筒状体であればよく、また無蓋無底の筒状体でもよいが、本実 施例のように有蓋無底の筒状体にしてマスクプレート13に接地した状態 で気密性を確保すれば、スキージ44の内部の温度や湿度などを厳密に管 理することが可能となり、クリーム半田10の材質劣化を防止できる。」
(キ)「【0017】図2に示すように、回転方向モータ41の回転軸42 とスキージ44の中心軸は偏心しており、回転方向モータ41が駆動する と、スキージ44は回転軸42を中心に水平方向に回転する。また上述し たようにX方向モータ23やY方向モータ32が駆動すると、スキージ4 4は移動台35と一体的にX方向やY方向に水平移動する。46はスキー ジ44の上部に着脱自在に挿着されたキャップであり、このキャップ46 を着脱することにより、スキージ44の内部にクリーム半田10を補給す る。」
(ク)「【0020】図2に示すように、Z方向モータ53を駆動してプリ ント基板15を上昇させ、その上面をマスクプレート13の下面に近接さ せる。そこでX方向モータ23を駆動して長板26や移動台35をX方向 に移動させながら、回転方向モータ41を駆動してスキージ44を回転軸 42を中心に水平回転させれば、スキージ44の内部に貯溜されたクリー ム半田10は図4の矢印で示すようにローリングしながら練り合わされ、 パターン孔14に密に充填される。」
(ケ)「【0021】図3はスキージ44の軌跡Qを示している。X方向モ ータ23を駆動することによりスキージ44はX1方向移動し、プリント 基板15の端部まで移動したならば、X方向モータ23の駆動を停止して Y方向モータ32を駆動し、スキージ44をY1方向に若干移動させる。 次にX方向モータ23を逆方向に駆動しながら、回転方向モータ41を駆 動することにより、スキージ44を水平回転させながらX2方向に移動さ せる。以下、同様にしてスキージ44をY2方向、X1方向に移動させる ことにより、スキージ44をプリント基板15の全面をカバーするように スライドさせれば、すべてのパターン孔14にクリーム半田10を充填で きる。」
(コ)「【0022】次に図2においてZ方向モータ53を先程と逆方向に 駆動すると、テーブル16は下降し、プリント基板15はマスクプレート 13から分離してパターン14内のクリーム半田10はプリント基板15 の回路パターンの電極に転写され、クリーム半田10の塗布工程は終了す る。」


引用文献1には、マスクプレート13は枠型のホルダ12の下面に保持されていること(摘記(オ)参照。)、移動台35上に設置された回転方向モータ41の回転板43の先端部にスキージ44が装着されていること(摘記(カ)を参照。)、移動台35はX方向モータとY方向モータを備えていること(摘記(キ)を参照。)、及びテーブル16はZ方向モータを備えている(摘記(ク)を参照。)ことが記載されいる。
上記のことから、スキージ44はX方向とY方向に移動するものであり、上下方向には移動できないものと認められる。

このことを踏まえて、引用文献1に記載された印刷装置の動作に関する「図2に示すように、Z方向モータ53を駆動してプリント基板15を上昇させ、その上面をマスクプレート13の下面に近接させる。そこでX方向モータ23を駆動して長板26や移動台35をX方向に移動させながら、回転方向モータ41を駆動してスキージ44を回転軸42を中心に水平回転させれば、スキージ44の内部に貯溜されたクリーム半田10は図4の矢印で示すようにローリングしながら練り合わされ、パターン孔14に密に充填される。」(摘記(ク)を参照。)との記載を見ると、Z方向モータ53を駆動してプリント基板15の上面をマスクプレート13の下面に近接させた後に、X方向モータ23を駆動してスキージ44を移動させていることから、基板15を接近させる前に、筒状のスキージ44がすでにマスクプレート13に接地しているものと認められる。
また、引用文献1には、スキージを移動させる際にマスクプレートに対してスキージを押圧することは明示されていないが、マスクプレートの孔に対してペーストを充填するためにスキージを押圧していることは明らかである。

引用文献の明細書及び図面全体を参酌しつつ、上記記載(ア)乃至記載(コ)を検討すると、引用文献には次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)と認められる。

「内部にクリーム半田が貯溜され、下部にマスクプレートに接地する硬質ゴムからなる接地子が一体的に固着された筒状のスキージをマスクプレート上を水平方向に移動させながらマスクプレートのパターン孔にクリーム半田を充填することでプリント基板にクリーム半田を印刷するスクリーン印刷方法であって、
スキージをマスクプレートに対して接地させる工程と、
マスクプレートの下面に基板を接近させる工程と、
基板を接近させた状態のマスクプレートに対してスキージを押圧しながらを移動させることによりパターン孔にペーストを充填する工程と、
パターン孔にペーストを充填した後、基板をマスクプレートから分離する工程とを含み、
前記工程を反復して行うスクリーン印刷方法。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)本願明細書には「【0003】このスクリーン印刷のスキージング方 法として、密閉型のスキージヘッドを用いる方法が知られている。この方 法は、通常のスクリーン印刷と異なりマスクプレート上にペーストを直接 供給するのではなく、内部にペーストを貯溜したスキージヘッドを用いる ものである。この方法では、スキージヘッドの下面に設けられたペースト 接触面をマスクプレートに当接させた状態で、スキージヘッド内のペース トを加圧することにより、マスクプレートのパターン孔にペースト接触面 を介してペーストが押し込まれる。そしてスキージヘッドをマスクプレー ト上で摺動させることにより、各パターン孔に順次ペーストを充填する。 」と記載されていることから、「スキージヘッド」とは、「内部にペース トを貯溜し、スキージヘッドの下面に設けられたペースト接触面をマスク プレートに当接させた状態でスキージヘッド内のペーストを加圧する密閉 型のスキージ」を意味するものと解される。
してみると、引用発明の「内部にクリーム半田が貯溜され、下部にマス クプレートに接地する硬質ゴムからなる接地子が一体的に固着された筒状 のスキージ」と本件補正発明の「内部にペーストを貯溜したスキージヘッ ド」とは、「内部にペーストを貯溜したスキージ」という点で共通する。
(イ)引用発明の「クリーム半田」は、本件補正発明の「ペースト」に相当 する。
(ウ)引用発明の「スキージをマスクプレートに対して接地させる工程」は 、本件補正発明の「スキージヘッドを前記マスクプレートに対して当接さ せることにより内部のペーストをマスクプレートに接触させる第1工程」 に相当する。
(エ)引用発明の「マスクプレートの下面に基板を接近させる工程」と、本 件補正発明の「マスクプレートの下面に前記基板を当接させる第2工程」 とは、「マスクプレートの下面に前記基板を移動させる第2工程」という 点で共通する。
(オ)引用発明の「基板を接近させた状態のマスクプレートに対してスキー ジを押圧しながら移動させることによりパターン孔にペーストを充填する 工程」と、本件補正発明の「基板を当接させた状態のマスクプレートに対 してスキージヘッドを押圧しながら摺動させることによりパターン孔にペ ーストを充填する第3工程」とは、「マスクプレートに対してスキージを 押圧しながら摺動させることによりパターン孔にペーストを充填する第3 工程」という点で共通する。
(カ)引用発明の「基板をマスクプレートから分離する工程」と、本件補正 発明の「基板を保持するクランパを下降させて前記基板を前記クランパと ともにマスクプレートの下面から離隔させて版離れを行わせる第4工程」 とは、「基板をマスクプレートの下面から離隔させて版離れを行わせる第 4工程」という点で共通する。
(キ)上記(ウ)乃至(カ)からして、引用発明の「前記工程を反復して行 う」は、本件補正の「前記第2,第3,第4工程を反復して行う」に相当 する。

してみると、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致している。
<一致点
「内部にペーストを貯溜したスキージをマスクプレート上で摺動させながらマスクプレートのパターン孔を介して基板にペーストを印刷するスクリーン印刷方法であって、
前記スキージを前記マスクプレートに対して当接させることにより内部のペーストをマスクプレートに接触させる第1工程と、
マスクプレートの下面に前記基板を移動させる第2工程と、
マスクプレートに対してスキージを押圧しながら摺動させることによりパターン孔にペーストを充填する第3工程と、
前記基板をマスクプレートの下面から離隔させて版離れを行わせる第4工程とを含み、
前記第2,第3,第4工程を反復して行うスクリーン印刷方法。」

一方で、引用発明と本願発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
ペーストの供給に関し
本件補正発明が「内部にペーストを貯溜したスキージヘッドをマスクプレート上で摺動させながら前記ペーストを加圧することにより」と特定されているのに対して、引用発明は上記特定を有していない点。

<相違点2>
マスクプレートと基板との距離に関し
本件補正発明が「マスクプレートの下面に前記基板を当接させる」及び「基板を当接させた状態のマスクプレートに対して」と特定されているのに対して、引用発明は上記特定を有していない点。

<相違点3>
第4工程に関し
本件補正発明が「スキージヘッドの下降を禁止した状態で前記基板を保持するクランパを下降させて前記基板を前記クランパとともにマスクプレートの下面から離隔させて版離れを行わせる第4工程」と特定されているのに対して、引用発明では上記特定を有していない。

<相違点4>
本件補正発明が「前記第2,第3,第4工程を反復して行うスクリーン印刷動作において、スキージヘッドをマスクプレートの上面に当接させた状態を保持する」と特定されているのに対して、引用発明では上記特定を有していない点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。
<相違点1>について
内部にペーストを貯溜したスキージヘッドをマスクプレート上で摺動させながらペーストを加圧することにより基板にペーストを印刷する方法は、本願出願前に周知である(例えば、特開平11-042762号公報、特開平07-017015号公報、特開平04-284249号公報を参照。)。
引用発明と上記周知技術のスキージヘッドとは、スクリーン印刷装置においてハンダを供給するための装置として共通していることから、引用発明における「筒状のスキージ」に代えて、上記周知技術のスキージヘッドを採用し、上記<相違点1>の構成とすることは、容易になし得ることである。

<相違点2>について
マスクプレートの下面に基板を当接させた状態でスクリーン印刷することは、本願出願前に周知である(例えば、特開平11-020126号公報、特開平06-191013号公報、特開平03-227241号公報等を参照)。
また、マスクプレートの孔に対してペーストを充填するためには、ペーストをスキージで押圧しなければならないことから、「基板を当接させた状態のマスクプレート」に対し、スキージヘッドを押圧することは適宜なし得る設計的事項である。
してみれば、引用発明において、上記<相違点2>の構成のようにすることは、容易になし得ることである。

<相違点3>について
引用文献1に記載のスキージは上下方向に移動できないものであり、版離れの際、スキージを下降させないという点では、引用発明と本件補正発明は実質的に同じことである。
かりに、本願発明の「スキージヘッドの下降を禁止した状態で」との文言が、「昇降可能なスキージヘッド」の下降を禁止することを意図しているとしても、このような「昇降可能なスキージヘッド」は、上記<相違点1>において周知技術であることを指摘するために例示した文献に記載されているように本願出願前に周知である。
このような「昇降可能なスキージヘッド」を利用した際に、基板による支持のなくなったマスクプレートに対し、スキージヘッドを下降させるとマスクプレートを傷めることになることは明らかであり、スキージヘッドの下降を禁止した状態とすることは、設計的事項である。
また、スクリーン印刷において、基板をクランパで保持しながら昇降させることも、本願出願前に周知である(例えば、特開2000-168044号公報、特開平06-320708号公報、特開平05-092544号公報等を参照。)。
してみれば、引用発明において、上記周知技術を採用し、上記<相違点3>のように構成することは、容易になし得ることである。

<相違点4>について
引用文献1には、スキージをマスクプレートに接地した状態にして気密性を確保することで、クリーム半田の材質劣化を防止できることが記載されているのであるから(摘記(カ)を参照。)、引用発明において、スクリーン印刷動作中、スキージをマスクプレートに接地した状態に保持し、上記<相違点4>の構成とすることは、容易になし得ることである。

また、本件補正発明が奏する効果も、当業者が予想し得る範囲内のものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 補正却下の決定のむすび
本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 平成18年8月4日付け補正却下の決定について
本願出願に対して、平成17年1月14日付けで拒絶理由が通知され、同年3月14日に拒絶理由に対する意見書が提出され、さらに、同年4月26日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月24日に最後の拒絶理由に対する意見書と補正書が提出されたが、同年6月24日付けの手続補正は、平成18年8月4日付けで補正却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされたことは、上述のとおりである。(当審注:強調部に下線を引いた。)

ところで、特許庁の運用基準である「特許・実用新案審査基準」の「第IX部 審査の進め方」には、二回目以降であっても最初の拒絶理由通知とすべき場合の例として、「一回目の拒絶理由通知に対して、全く補正がなされず、意見書のみが提出された場合に、再度拒絶理由を通知し直す場合」が明示されていることから(むろん、このように取り扱わなければならないとの条文上の規定は存在しない。)、上記審査基準に従えば、平成17年4月26日付けの拒絶理由の通知は、本来、「最後の拒絶理由」としてではなく「最初の拒絶理由」として通知されるべきものであり、上記拒絶理由の通知を根拠に手続補正を却下したことは、通常の審査手順と異なるものであると言わざるを得ない。
しかし、審査段階における平成17年6月24日付け意見書、審判請求書の「請求の理由」及び審尋に対する回答書を見ても、最後の拒絶理由を通知することの妥当性や補正却下の決定が違法であるとの主張の見受けられないことから、出願人は、上記拒絶理由の通知を根拠に平成17年6月24日付け手続補正を却下したことに対し異議を唱えるものではないと解される。
また、審判請求時の特許請求の範囲を補正する際の基準となる明細書は、平成17年6月24日付け手続補正が原審で却下された結果、出願当初の明細書となったにも関わらず、審判段階での手続補正書の請求項1の記載は、上記補正却下された手続補正書の請求項1の記載と全く同じものである。
そして、上記補正却下された手続補正書の請求項1に係る発明が、上記「3 独立特許要件について」に記載したのと同様の理由により、特許を受けることができないものであることも明らかである。
してみれば、当審において、上記「補正却下の決定」を取り消さないことにより、出願人に不測の不利益が生じるとも解せないことから、「平成18年8月4日付け補正却下の決定」を取り消さないこととする。

第4 本件審判請求についての判断
1 本願発明
平成18年10月4日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、上記「1.平成18年10月4日付け手続補正について(本件補正前の特許請求の範囲:出願当初明細書)」に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「1.平成18年10月4日付け手続補正について(本件補正前の特許請求の範囲:出願当初明細書)」で記載したとおりである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項は、上記「3 独立特許要件について(2)引用文献」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、上記「2 補正目的について」で述べた、[補正1]の限定を含まないものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに[補正1]の限定を含む本願補正発明が、上記「3 独立特許要件について」に記載したとおり、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用刊行物に記載された発明及び周知技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 結論
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-11 
結審通知日 2009-06-16 
審決日 2009-06-29 
出願番号 特願2000-187273(P2000-187273)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41F)
P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 裕子  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 星野 浩一
湯本 照基
発明の名称 スクリーン印刷方法  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 永野 大介  
代理人 岩橋 文雄  

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