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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1202744
審判番号 不服2008-4187  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-21 
確定日 2009-08-20 
事件の表示 平成11年特許願第307096号「光波長変換素子および光波長変換モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月11日出願公開、特開2001-125158〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年10月28日の出願であって、平成18年12月20日に手続補正がなされたところ、平成20年1月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月21日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年3月24日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成20年3月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年3月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成20年3月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を、以下のように補正することを含むものである。

「非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子と、この光波長変換素子に基本波を入射させる半導体レーザーとからなる光波長変換モジュールにおいて、
前記光波長変換素子の素子長が8mm以下とされ、
前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面にほぼ平行な面内で3°以上傾いており、
前記半導体レーザーが、前記光導波路の延びる方向に対して垂直に形成された前記一端面に、光学素子を介さずに直接結合されていることを特徴とする光波長変換モジュール。」

2 当審の判断
(1)本件補正事項
本件補正は、補正前の請求項1の「光波長変換素子」について、その「素子長が8mm以下とされ」ること(以下「本件補正事項」という。)を含むものである。

この点について検討する。

(2)当初明細書等の記載事項
上記本件補正事項に関して、願書に最初に添付した明細書または図面(以下「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、
この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子において、
前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面にほぼ平行な面内で3°以上傾いていることを特徴とする光波長変換素子。
・・・
【請求項5】 非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、
この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子において、
前記光導波路の他端面に、この光導波路の実効屈折率とほぼ等しい屈折率の材料のブロックが接合されていることを特徴とする光波長変換素子。
【請求項6】 非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、
この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子において、
前記光導波路を導波する基本波の位相を変調させる位相変調部が設けられていることを特徴とする光波長変換素子。
・・・
【請求項8】 請求項1から7いずれか1項記載の光波長変換素子と、この光波長変換素子の前記一端面側から基本波としてのレーザービームを入射させる外部共振器型半導体レーザーとが光学素子を介さずに結合されてなる光波長変換モジュール。
・・・」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は光波長変換素子に関し、特に詳細には、非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなる導波路型の光波長変換素子に関するものである。」

ウ 「【0013】
本発明は上記の事情に鑑み、半導体レーザーへの戻り光量を低減することができて、しかも、他の光学素子との光軸合わせも簡単になされ得る光波長変換モジュール、およびその光波長変換モジュールに用いられる光波長変換素子を提供することを目的とする。」

エ 「【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明による第1の光波長変換素子は、前述したように非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、
この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子において、
前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面にほぼ平行な面内で3°以上傾いていることを特徴とするものである。
・・・
【0016】
本発明による第2の光波長変換素子は、
非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、
この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子において、
前記光導波路の他端面に、この光導波路の実効屈折率とほぼ等しい屈折率の材料のブロックが接合されていることを特徴とするものである。
【0017】
さらに本発明による第3の光波長変換素子は、
非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、
この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子において、
前記光導波路を導波する基本波の位相を変調させる位相変調部が設けられていることを特徴とするものである。」

オ 「【0021】
【発明の効果】
本発明による第1の光波長変換素子においては、波長変換波が出射する光導波路の他端面が横方向に(つまり、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面にほぼ平行な面内で)3°以上傾いていることにより、光導波路を導波してこの他端面に入射した基本波は、該他端面で、光導波路の延びる方向とは角度をなして側外方に反射する。そこで、この基本波は光導波路に再入射することがなくなり、よって、基本波光源である半導体レーザーに戻り光となって入射することもなくなる。
【0022】
しかもこの第1の光波長変換素子は、前述した特開平6-160930号公報に記載された光波長変換素子のように、光導波路の他端面を縦方向に傾けて形成したものと比較すると、図6に示す通り、戻り光量を共通にするのであれば、光導波路他端面の傾きをより小さくできるものである。したがってこの光波長変換素子は、光導波路の他端面から出射する波長変換波の曲がりを比較的小さく抑えて、他の光学素子との光軸合わせを容易に行なえるものとなる。
【0023】
また、本発明による第2の光波長変換素子においては、光導波路の他端面にこの光導波路の実効屈折率とほぼ等しい屈折率の材料のブロックが接合されていることにより、光導波路の他端面から発散光状態で出射した基本波は、この他端面とブロックとの界面では反射せずにブロックの外端面(光導波路とは反対側の端面)まで達し、そこで反射する。ここで反射した発散光状態の基本波は、光導波路側に向かうにつれて該光導波路から離れるように進行するので、光導波路に再入射することがなくなり、よって、基本波光源である半導体レーザーに戻り光となって入射することがなくなる。
【0024】
また、本発明による第3の光波長変換素子においては、上記第1?3の光波長変換素子と異なって戻り光が光導波路に入射し得るので、この戻り光と光導波路他端面側に進行する基本波とが干渉する。しかしこの場合、光導波路を導波する基本波の位相を変調させる位相変調部が設けられていることにより、光導波路の一端面における戻り光と光導波路他端面側に進行する基本波との光路差が高速に変化するので、波長が変化したとしても、実際使用する周波数領域よりも高い周波数領域で戻り光量を変化させることができ、結果的に半導体レーザーが安定して動作するようになる。
【0025】
また、本発明による光波長変換モジュールは、光波長変換素子と外部共振器型半導体レーザーとが光学素子を介さずに結合されて、光学素子を介して結合する場合と比べて近端面からの戻り光の影響を受け難い構成になっているので、単色性が強くて戻り光による問題が発生しやすい外部共振器型半導体レーザーを用いていても、この問題を確実に防止することができる。
・・・
【0028】
ここで、光波長変換素子と外部共振器型半導体レーザーとを光学素子を介さずに結合するとは、後述する発明の実施の形態の図1のような結合状態のことをいい、光波長変換素子と半導体レーザーとの間のすき間を、実際に使用する領域で半導体レーザーのILカーブ(光強度対電流特性)にうねりが生じない程度に狭くすることをいう。例えば導波路型の光波長変換素子が10mmの場合、10μm程度以下のすき間ならうねりは生じない。」

カ 「【0029】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一つの実施形態による光波長変換モジュールを示すものである。図示されるようにこの光波長変換モジュールは、半導体レーザー10と、この半導体レーザー10から発散光状態で出射したレーザービーム(後方出射光)11Rを平行光化するコリメーターレンズ12と、平行光化されたレーザービーム11Rを収束させる集光レンズ13と、これらのレンズ12および13の間に配された波長選択素子としての狭帯域バンドパスフィルター14と、上記集光レンズ13によるレーザービーム11Rの収束位置に配されたミラー20とを有している。
【0030】
そして半導体レーザー10の前方端面(図中の左端面)は、導波路型光波長変換素子15の端面に直接結合されている。この半導体レーザー10は、後述する半導体レーザー駆動回路40によって駆動される。なお半導体レーザー10の両端面(劈開面)には、その発振波長の光に対するLR(低反射率)コート32が施されている。
【0031】
光波長変換素子15は、非線形光学効果を有する強誘電体であるLiNbO_(3)にMgOが例えば5mol%ドープされたもの(以下、MgO-LNと称する)の結晶からなる基板16に、そのZ軸と平行な自発分極の向きを反転させたドメイン反転部17が周期的に形成されてなる周期ドメイン反転構造と、この周期ドメイン反転構造に沿って延びるチャンネル光導波路18が形成されてなるものである。
【0032】
以下図2?4を参照して、この光波長変換素子15の作製方法について説明する。図2は、この光波長変換素子15を作製する一工程を示すものである。図中のMgO-LN基板16は、図3に示すようにMgO-LNのインゴット16’をZ軸方向に対して角度δ=3°をなす方向にカット、研磨して得られたものであり、単分極化処理がなされて例えば厚さ0.3mmに形成されている。なお、この研磨角度δ=3°の精度は±0.1 °である。
【0033】
以上のように形成されたMgO-LN基板16の表面16a、16bと平行でX軸と直交する方向、および基板表面16a、16bに対して垂直な方向はそれぞれ、Z軸方向およびY軸方向に対して角度δ=3°をなす方向となるので、これらの方向を便宜的にそれぞれZ’方向、Y’方向と称する(以下、同様)。
【0034】
上記MgO-LN基板16の表面16aに、図2に示すように櫛形電極5および平板電極6を取り付け、+Z側に位置する櫛形電極5の方が正電位、-Z側に位置する平板電極6の方が負電位となるようにして、これらの電極5、6間にパルス電圧を印加すると、図4に概略図示するように、+Z方向を向いていた基板16の自発分極の向きが電圧印加部分において反転して、ドメイン反転部17が形成される。なお上記自発分極の向きは、基板表面16aに対してδ=3°傾いており、したがってドメイン反転部17の分極の向きも基板表面16aに対して同様に傾くことになる。
【0035】
本例では、櫛形電極5および平板電極6をCrから形成したが、MgO-LN基板16よりも電気伝導度が十分低い材料ならば何でも電極材料として用いることができる。櫛形電極5および平板電極6は周知のフォトリソグラフィーによって形成することができ、厚さは例えば20?100nm、長さL_(1)は例えば8mm、両電極5、6間のギャップGは例えば100?500μmとすればよい。また櫛形電極5の周期Λは4.75μm、電極指の長さおよび幅はそれぞれ200μm、0.5 μmとした。そして平板電極6の幅、すなわちZ’方向の寸法は100μmとした。
・・・
【0038】
次に上記MgO-LN基板16に、以下のようにしてチャンネル光導波路18を形成した。まず、ドメイン反転が最も深くなっている櫛形電極5の先端近傍に、周知のフォトリソグラフィーにより、Z’方向の幅が3?12μm程度の金属(本例ではTa)のマスクを形成する。その後このMgO-LN基板16に対して、ピロリン酸中で120?200 ℃で30?90分間プロトン交換処理を行ない、Taマスクをエッチング液で除去した後、大気中において300?410℃で30?120分間アニールする。以上の処理により、図1に示すように、ドメイン反転部17の並び方向に沿って延びるチャンネル光導波路18が形成される。
【0039】
なお上記プロトン交換処理およぴアニール処理の条件は、上記の各範囲から、導波光のビーム径と伝搬損が最適になる条件を選択すればよい。また上記マスクの幅は、目的とする波長(基本波900?1100nm)の範囲でシングルモード条件となるように選択する。
【0040】
その後このチャンネル光導波路18の両端面18a、18bを含む素子端面を光学研磨し、端面18aを含む素子端面に基本波であるレーザービーム11に対するAR(無反射)コート30を施し、端面18bを含む素子端面に後述する第2高調波19およびレーザービーム11に対するARコート31を施すと、図1に示した光波長変換素子15が完成する。なお一方の光導波路端面18bは、第2高調波19が取り出される端面であり、この光導波路端面18bを含む素子端面15aは、光導波路18の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面16a(図2および4参照)にほぼ平行な面内で角度θ(3°≦θ)以上傾けて研磨される。」

キ 「【0041】
次に、この第1実施形態の光波長変換モジュールの作用について説明する。半導体レーザー10から前方側(図中左方に)発せられた中心波長950nmのレーザービーム11は、チャンネル光導波路18内に入射する。このレーザービーム11はチャンネル光導波路18をTEモードで導波して、波長が1/2つまり475nmの第2高調波19に波長変換される。その際、周期ドメイン反転領域で位相整合(いわゆる疑似位相整合)が取られ、この第2高調波19もチャンネル光導波路18を導波モードで伝搬して、光導波路端面18bから出射する。
【0042】
光導波路端面18bからは、波長変換されなかったレーザービーム11も発散光状態で出射する。第2高調波19は、図示しないバンドパスフィルターやダイクロイックミラー等によってレーザービーム11と分離され、所定の用途に供される。」

ク 「【0045】
ここで、先に説明した通り、光導波路端面18bにARコート31が施されていても、基本波であるレーザービーム11の反射を完全に防止することは不可能であるる(審決注:「である。」の誤りと認める。」)。しかし本実施形態において、この光導波路端面18bを含む素子端面15aは、チャンネル光導波路18の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面16aにほぼ平行な面内で角度θ(3°≦θ)以上傾けて研磨されているので、反射したレーザービーム11Sはチャンネル光導波路18の延びる方向とは角度をなして側外方に反射する。そこで、この反射したレーザービーム11Sはチャンネル光導波路18に再入射することがなくなり、よって、基本波光源である半導体レーザー10に戻り光となって入射することもなくなる。」

ケ 「【0053】
次に、図10を参照して本発明の第2の実施形態による光波長変換モジュールについて説明する。なおこの図10において、図1中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての重複した説明は省略する(以下、同様)。
【0054】
この第2の実施形態においては、光波長変換素子15の光導波路端面18bを含む素子端面15aに、基板16と同じ材料であってチャンネル光導波路18の実効屈折率と等しい屈折率のMgO-LN結晶のブロック40が、オプチカルコンタクトによって接合されている。そしてこのMgO-LN結晶ブロック40の外端面40aつまり、光導波路18と反対側の端面にARコート31が施されている。
【0055】
上記の構成において、光導波路端面18bから発散光状態で出射したレーザービーム11(基本波)は、この端面18bとMgO-LN結晶ブロック40との界面では反射せずに、MgO-LN結晶ブロック40の外端面40aまで達し、そこで反射する。ここで反射したレーザービーム11Sは、チャンネル光導波路18側(図中の右側)に向かうにつれて該光導波路18から離れるように進行するので、チャンネル光導波路18に再入射することがなくなる。そこで、この反射したレーザービーム11Sが半導体レーザー10に戻り光となって入射することがなくなる。
【0056】
以上の説明から明かな通り、レーザービーム11がMgO-LN結晶ブロック40の外端面40aに少しでも斜め入射すれば、反射したレーザービーム11Sが半導体レーザー10に戻り光となって入射することがなくなる。光導波路端面18bから出射するレーザービーム11の拡がり角は一般に10?20°程度であるので、この場合も第1実施形態と同様に、第2高調波19について図7に示すように滑らかな光強度対電流特性を得ることができる。」

コ 「【0057】
次に、図11を参照して本発明の第3実施形態による光波長変換モジュールについて説明する。この第3実施形態において、光波長変換素子15のチャンネル光導波路18の波長変換部(ドメイン反転部17が形成されている部分)と光導波路端面18bとの間には、該光導波路18を導波するレーザービーム11の位相を変調させる位相変調部50が設けられている。この位相変調部50は、チャンネル光導波路18の両側に配された1対の電極51、52と、これらの電極51、52間に交流電圧を印加する交流電源53とから構成されたものである。
【0058】
このチャンネル光導波路18を形成する際のプロトン交換処理およびアニール処理の条件も、基本的に第1実施形態におけるのと同様であり、導波光のビーム径と伝搬損が最適になる条件を選択すればよい。そしてチャンネル光導波路18およびドメイン反転部17を形成した後、通常のフォトリソグラフィーおよび金属蒸着により電極51、52を形成する。
【0059】
この第3実施形態においては、第1?2実施形態の光波長変換素子と異なって、光導波路端面18bで反射したレーザービーム11S(戻り光)がチャンネル光導波路18に入射し得るので、この戻り光11Sと光導波路端面18b側に進行するレーザービーム11とが干渉する。しかしこの場合、電極51、52間に交流電圧を印加すると、光導波路端面18aにおける戻り光11Sと光導波路端面18b側に進行するレーザービーム11との光路差が高速に変化するので、波長が変化したとしても、実際使用する周波数領域よりも高い周波数領域で戻り光量を変化させることができ、結果的に半導体レーザー10が安定して動作するようになる。」

以上によれば、当初明細書等には、
a 非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子と、この光波長変換素子の前記一端面側から基本波としてのレーザービームを入射させる外部共振器型半導体レーザーとが光学素子を介さずに結合されてなる光波長変換モジュールにおいて、
半導体レーザーへの戻り光量を低減することができ、しかも、他の光学素子との光軸合わせも簡単になされ得る光波長変換モジュールを提供することを目的として、
(a)前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面にほぼ平行な面内で3°以上傾いているようになし、あるいは、
(b)前記光導波路の他端面に、この光導波路の実効屈折率とほぼ等しい屈折率の材料のブロックが接合されているようになし、あるいは、
(c)前記光導波路を導波する基本波の位相を変調させる位相変調部が設けられているようになすこと、
b 上記aにおいて、「光波長変換素子」と「外部共振器型半導体レーザーと」を「光学素子を介さずに結合」するとは、光波長変換素子と半導体レーザーとの間のすき間を、実際に使用する領域で半導体レーザーのILカーブ(光強度対電流特性)にうねりが生じない程度に狭くすることをいい、例えば導波路型の光波長変換素子が10mmの場合、10μm程度以下のすき間ならうねりは生じないこと、
c 光波長変換素子の作製時に、MgO-LN基板16の表面16aに取り付けられる櫛形電極5および平板電極6は、厚さが例えば20?100nm、長さL_(1)が例えば8mmであり、両電極5、6間のギャップGは例えば100?500μmであること、
が記載されているものと認められる。
しかしながら、上記本件補正事項(光波長変換素子の素子長が8mm以下とされること、すなわち8mmを上限とすること)については記載されてはおらず、また、該本件補正事項が当初明細書等の記載から自明な事項である、ということもできないから、本件補正事項が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである、ということはできない。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)むすび
以上の検討によれば、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成18年12月20日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子と、この光波長変換素子に基本波を入射させる半導体レーザーとからなる光波長変換モジュールにおいて、
前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面にほぼ平行な面内で3°以上傾いており、
前記半導体レーザーが、前記光導波路の延びる方向に対して垂直に形成された前記一端面に、光学素子を介さずに直接結合されていることを特徴とする光波長変換モジュール。」(以下「本願発明」という。)

2 刊行物記載の発明
(1)引用刊行物1
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平6-160930号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】基本波を発生するための半導体レーザの光軸に対して、導波路型の第2次高調波発生素子の入出射端面のいずれか一方もしくは両方を傾けたことを特徴とする第2次高調波発生装置。
・・・
【請求項7】基本波を発生させるための半導体レーザの光軸に対して、導波路型の第2次高調波発生素子の光軸は一致させ、第2次高調波発生素子の端面を半導体レーザの光軸に対して傾けた第2次高調波発生素子。
・・・」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光記録、光計測等の光源として用いる第2次高調波発生素子および第2次高調波発生装置およびそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、導波路型の第2次高調波発生素子においては導波路内を導波する基本波とその基本波によって生じる第2次高調波波への変換効率を高めるための工夫が数多くなされてきた。しかし基本波として半導体レーザからの出射光を用いたとき、半導体レーザからの出射光が第2次高調波発生素子である導波路の入出射端面で反射して半導体レーザへ戻り、その反射戻り光が誘引となって半導体レーザの雑音が著しく増加するという事実がある・・・」

ウ 「【0004】本発明の目的は非線形材料よりなる導波路型の第2次高調波発生素子の入出射端面での基本波の反射光が基本波の光源である半導体レーザへ戻ることを防ぎ、半導体レーザの出射光の反射戻り光誘起やモードホッピングを低減し、その結果として出力がきわめて安定で、低雑音な第2次高調波の発生が得られる第2次高調波発生素子、第2次高調発生装置を提供することである。」

エ 「【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は以下の様な構成をしている。
【0006】導波路型の第2次高調波発生素子の入射端からの反射戻り光を防ぐために、・・・(4)第2次高調波発生素子である導波路と基本波の発振源である半導体レーザを、導波路に対して出射端面が垂直にならないよう斜めにカットし、導波路と半導体レーザの光軸は平行になるように配置した装置・・・より構成される。好ましくは導波路型の第2次高調波発生素子として、LiTaO_(3)の分極反転プロトン交換導波路を用いるとよい。
【0007】
【作用】上記構成により、基本波の発生源として半導体レーザを用い導波路型の第2次高調波発生素子を用いた場合に、基本波を第2次高調波発生素子に入射する際に・・・出射端面が半導体レーザの光軸に対して傾いている・・・ことによって出射端からの反射光はほとんど半導体レーザに戻ることなく第2次高調波が安定に低雑音で出射する。基本波の発生源である半導体レーザへの反射戻り光がきわめて抑制されているため、反射戻り光誘起雑音やモードホッピングが生じず低雑音であり、低雑音の基本波から発生した第2次高調波も低雑音できわめて安定に動作する。」

オ 「【0008】
【実施例】本発明の第1から第9の実施例において、分極反転層を有する誘電体導波路を下記のようにして作製した。LiTaO_(3)基板上に通常のフォトプロセスとドライエッチングを用いてTaを周期状にパターンニングした後、Taパターンが形成されたLiTaO_(3)基板上に260℃、30分間のプロトン交換を行い、Taで覆われていない部分にプロトン交換層を形成し、550℃で1分間熱処理を行い分極反転層を形成した。そして、HF:HFN_(3) =1:1の溶液で2分間ウエットエッチングによりTaを除去し、分極反転層中にピロリン酸によりプロトン交換を行い導波層を形成した。得られた分極反転層を有する誘電体導波路1は、プロトン交換による幅4μm、深さ2μm、導波路長10mmの導波層2を有し、分極反転層は周期3.6μm、幅2.1μm、深さ1.6μmで周期的に形成された。・・・」

カ 「【0012】本発明の第3の実施例の構成を横から見た図を図4に示す。波長860nm帯の半導体レーザ3を第2次高調波発生のための基本波の光源として用い、半導体レーザ3からの出射光はNAが0.5のAV用のレンズ4を用いて集光され、一旦平行光にされて、2分の波長板5を透過されて位相を90deg変換されTMモードとして、NAが0.5のAV用のレンズ4を用いて誘電体導波路1に、導波層2と光軸6が平行になるように結合された。第2次高調波発生素子としての誘電体導波路1は上述の作製過程の後、誘電体導波路の近端面7および遠端面9を導波層2に対して約6degの角度に研磨を行った。・・・本第3の実施例の構成をもちいても、導波層2内を伝搬する基本波が導波路の遠端面9で反射する様子は第1の実施例で第2図を用いて説明したように反射の法則に従って反射し、反射光10は入射光8と異なった軌跡を通って、導波路の近端面7から半導体レーザ3とは異なった方向に出射され反射戻り光とはならない。従って本第3の実施例により、半導体レーザ3を20℃一定に温度制御を行い、第2次高調波発生素子である誘電体導波路への入力光パワーが135mWのとき、第2次高調波であるブルー光の出力光パワーが22mWの連続出力光として得られた。
【0013】本発明の第4の実施例として、誘電体導波路1の側面図を図5に示す。第4の実施例は構成としては第3の実施例の構成と同様であり、誘電体導波路1の入出射端面である導波路の近端面7および導波路の遠端面9の研磨角度が異なっている。第3の実施例で示したように導波路の近端面7および導波路の遠端面9の研磨角度が等しいのではなく、研磨方向も角度も反射光が半導体レーザに戻らなければ、いずれの角度であってもよい。図5に示した誘電体導波路1を用いても、安定した連続の第2次高調波出力が得られた。」

キ 「【図面の簡単な説明】
・・・
【図4】本発明の第3の実施例の構成を横から見た図
【図5】本発明の第4の実施例の誘電体導波路を横から見た図」

ク 引用刊行物1の「第2次高調波発生装置」が、「(基本波を発生させるための)半導体レーザ」と「(この基本波によって第2次高調波を生じる)導波路型の第2次高調波発生素子」とからなることは明らかである。

ケ 上記オから、引用刊行物1の「第2次高調波発生素子」は、LiTaO_(3)基板上に分極反転層を形成し、該分極反転層中に導波層を形成したものといえる。

コ 上記キに照らして図4、図5をみると、「導波層2」の「近端面7」と「遠端面9」とは、導波層2の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面に垂直な面内で傾いていること、が見て取れる。

サ 上記カに照らして図4をみると、半導体レーザ3と導波層2とは、レンズ4及び2分の波長板5とにより結合されること、が見て取れる。

したがって、上記記載事項ア?ケを総合すると、引用刊行物1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基本波を発生させるための半導体レーザと、この基本波によって第2次高調波を生じる導波路型の第2次高調波発生素子とからなる第2次高調波発生装置であって、
前記第2次高調波発生素子は、LiTaO_(3)基板上に分極反転層を形成し、該分極反転層中に導波層を形成したものであり、
該第2次高調波発生素子の入出射端面での基本波の反射光が基本波の光源である半導体レーザへ戻ることを防ぐために、半導体レーザの光軸に対して第2次高調波発生素子の光軸は一致させるとともに、該第2次高調波発生素子の入出射端面のいずれか一方もしくは両方を傾けた第2次高調波発生装置。」

(2)引用刊行物2
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平5-323404号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基本波を第2高調波等に波長変換する光波長変換装置、特に詳細には、基本波光源としての半導体レーザーと光導波路型の光波長変換素子とからなる光波長変換装置に関するものである。」

イ 「【0002】
【従来の技術】従来より、非線形光学材料を利用して、レーザー光を第2高調波等に波長変換(短波長化)する試みが種々なされている。このようにして波長変換を行なう光波長変換素子として具体的には、バルク結晶型のものや、光導波路型のもの等が知られている。またこの種の光波長変換素子は、半導体レーザーと組み合わせて用いられることが多い。
・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述のようにして基本波であるレーザービームを光導波路型光波長変換素子に入力する場合は、光導波路端面で反射したレーザービームが半導体レーザーに戻り光となって入射するために、ノイズが生じるといった問題や、発振波長変動による波長変換効率低下のために波長変換波出力が大きく変化するといった問題が認められている。
・・・
【0006】本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、基本波光源として単一縦モードの半導体レーザーを、そして光波長変換素子として光導波路型のものを用いた上で、半導体レーザーへの戻り光を抑えて、出力が安定した高強度の波長変換波を得ることができる光波長変換素子を提供することを目的とするものである。」

ウ 「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明による光波長変換装置は、前述したように非線形光学材料からなる光導波路を有し、該光導波路を導波する基本波を波長変換する光波長変換素子と、基本波としてのレーザービームを発する単一縦モードの半導体レーザーと、上記レーザービームを光導波路端面上で収束させて該光導波路に入射させる光学系とからなる光波長変換装置において、光導波路の端面が、基本波としてのレーザービームが斜め入射する向きに形成されるとともに、この光導波路の端面で反射して半導体レーザー側に進行するレーザービームを遮る遮光板が設けられたことを特徴とするものである。
【0008】
【作用および発明の効果】上述のように光導波路の端面を、基本波としてのレーザービームが斜め入射する向きに形成しておくと、この端面で反射したレーザービームは半導体レーザーから光波長変換素子に向かうレーザービームとは異なる光路を辿るようになる。そこで上述のような遮光板を、半導体レーザーから光波長変換素子に向かうレーザービームは全くあるいはほとんど遮らない位置に配して、半導体レーザー側に戻るレーザービームを一部あるいは全部遮ることが可能となる。」

エ 「【0010】
【実施例】以下、図面に示す実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。図1と図2はそれぞれ、本発明の第1実施例による光波長変換装置の平面形状、側面形状を示すものであり、また図3はその斜視図である。図示されるようにこの光波長変換装置は、基本波光源としての半導体レーザー10と、コリメーターレンズ12、λ/2板13および集光レンズ14からなる入射光学系と、光導波路型の光波長変換素子20とを有している。
【0011】光波長変換素子20は、ガラスやプラスチックからなる基板21内に、非線形光学材料からなる3次元光導波路22が埋め込まれてなる。・・・
【0013】半導体レーザー10から出射したレーザービーム11は、コリメーターレンズ12で平行光化され、その収束スポット形状および偏光方向を光導波路22の形状に合わせるためのλ/2板13を通過した後、集光レンズ14により集光されて、光導波路22の端面22a上で収束する。それによりレーザービーム11はこの端面22aから光導波路22内に入射し、そこを導波モードで図中右方向に進行する。光導波路22を導波するレーザービーム11は、光導波路22を構成するDMNPにより、波長が1/2(=435nm)の第2高調波16に変換される。・・・
【0014】次に、半導体レーザー10への戻り光を無くすための構成について説明する。コリメーターレンズ12とλ/2板13との間には、光波長変換素子20に向かうレーザービーム11の光路から外れた位置において、遮光板15が配設されている。この遮光板15は、レーザービーム11を遮らない範囲でできるだけ該レーザービーム11に近接するように配置されている。そして光波長変換素子20の後方端面20aは、光導波路端面22aも含んで全体的に斜めにカットされている。この光導波路端面22aの斜めカットの向きは、そこで反射したレーザービーム11Rの光路が光波長変換素子20に向かうレーザービーム11から完全に分離して遮光板15側にずれる向きとされている。
・・・
【0017】また本実施例において、半導体レーザー10は水平面内でレーザービーム11の拡がり角が最小となるように配されており、光導波路端面22aはこの水平面内でレーザービーム入射方向に対して斜めとなるようにカットされている。それに対応して遮光板15も、光波長変換素子20に向かうレーザービーム11の光路に対して水平方向にずれるように配されている。
【0018】このようにしておくと、互いに光路をずらすべきレーザービーム11とレーザービーム11R(反射光)とは、光路をずらす面内でのビーム径が最小となる。そこで、光導波路端面22aの斜めカット角度を比較的小さくしても、レーザービーム11の遮光板15によるケラレを防止した上でレーザービーム11Rを確実に遮光することができる。・・・」

したがって、上記記載事項を総合すると、引用刊行物2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「非線形光学材料からなる光導波路を有し、該光導波路を導波する基本波を波長変換する光波長変換素子と、基本波としてのレーザービームを発する単一縦モードの半導体レーザーと、上記レーザービームを光導波路端面上で収束させて該光導波路に入射させる光学系とからなる光波長変換装置において、
前記半導体レーザーは水平面内でレーザービームの拡がり角が最小となるように配され、前記光導波路の端面はこの水平面内でレーザービーム入射方向に対して斜めとなるようにカットされ、それに対応して遮光板が前記光波長変換素子に向かうレーザービームの光路に対して水平方向にずれるように配されており、これにより、互いに光路をずらすべきレーザービームとレーザービーム(反射光)とは、光路をずらす面内でのビーム径が最小となり、光導波路端面の斜めカット角度を比較的小さくしてもレーザービームの遮光板によるケラレを防止した上でレーザービーム(反射光)を確実に遮光でき、半導体レーザーへの戻り光を抑えることができる光波長変換装置。」

3 対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「第2次高調波発生装置」は、「基本波を発生させるための半導体レーザと、この基本波によって第2次高調波を生じる導波路型の第2次高調波発生素子とからな」るものであり、「前記第2次高調波発生素子は、LiTaO_(3)基板上に分極反転層を形成し、該分極反転層中に導波層を形成したものであ」り、また、基本波は第2次高調波発生素子の入射端面から入射し、該基本波により生じる第2高調波は第2次高調波発生素子の出射端面から出射されることは明らかであるから、
(ア)引用発明1の「基本波」、「第2次高調波」、「(導波路型の)第2次高調波発生素子」、「第2次高調波発生装置」及び「導波層」は、それぞれ、本願発明の「基本波」、「波長変換波」、「光波長変換素子」、「光波長変換モジュール」及び「光導波路」に相当し、
(イ)第2次高調波発生素子内には導波層が形成されているから、引用発明1の「第2次高調波発生素子の入射端面」及び「第2次高調波発生素子の出射端面」は、それぞれ、本願発明の「光導波路の一端面」及び「光導波路の他端面」に相当する、といえ、
(ウ)引用発明1の「第2次高調波発生素子」は、本願発明の「非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる」との事項を備える。
また、
(エ)引用発明1の「基本波を発生させるための半導体レーザ」は、本願発明の「この光波長変換素子に基本波を入射させる半導体レーザー」に相当するとともに、
(オ)引用発明1の「第2次高調波発生装置」は、本願発明の「非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子と、この光波長変換素子に基本波を入射させる半導体レーザーとからなる」との事項を備える。

イ 引用発明1の「第2次高調波発生装置」は、「該第2次高調波発生素子の入出射端面での基本波の反射光が基本波の光源である半導体レーザへ戻ることを防ぐために、半導体レーザの光軸に対して第2次高調波発生素子の光軸は一致させるとともに、該第2次高調波発生素子の入出射端面のいずれか一方・・・を傾け」るものであり、第2次高調波発生素子の出射端面を、導波層の延びる方向(第2次高調波発生素子の光軸方向)に垂直な面に対して傾け、第2次高調波発生素子の入射端面を、導波層の延びる方向に対して垂直に形成することを含むものであるから、引用発明1の「半導体レーザの光軸に対して第2次高調波発生素子の光軸は一致させるとともに、該第2次高調波発生素子の入出射端面のいずれか一方・・・を傾け」との事項と、本願発明の「前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、基板表面にほぼ平行な面内で3°以上傾いており」との事項とは、「前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、所定角度傾いており」との点で一致する。

ウ 引用発明1の「第2次高調波発生装置」は、半導体レーザからの基本波が第2次高調波発生素子の入射端面に入射し、半導体レーザは前記入射端面に光学的に結合しているといえるから、引用発明1は、本願発明の「前記半導体レーザーが、前記光導波路の延びる方向に対して垂直に形成された前記一端面に、光学素子を介さずに直接結合されている」との事項と、「前記半導体レーザーが、前記光導波路の延びる方向に対して垂直に形成された前記一端面に、結合されている」との点で一致する。

したがって、両者は、
「非線形光学効果を有する基板に光導波路が形成されてなり、この光導波路の一端面側から入射した基本波を波長変換して、波長変換波を前記光導波路の他端面側から出射させる光波長変換素子と、この光波長変換素子に基本波を入射させる半導体レーザーとからなる光波長変換モジュールにおいて、
前記光導波路の他端面が、該光導波路の延びる方向に垂直な面に対して、所定角度傾いており、
前記半導体レーザーが、前記光導波路の延びる方向に対して垂直に形成された前記一端面に結合されている光波長変換モジュール。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点
[相違点1]
光導波路の延びる方向に垂直な面に対して所定角度傾いている光導波路の他端面が、本願発明では、基板表面にほぼ平行な面内で3°以上傾いているのに対し、引用発明1では、基板表面にほぼ平行な面内で傾いているの否か明らかでなく、その実施例によると(上記2(1)コ参照。)、基板表面に垂直な面内で傾いており、また、その傾き角度が3°以上であるか否か明らかでない点。
[相違点2]
半導体レーザーが、光導波路の延びる方向に対して垂直に形成された一端面に結合される際、本願発明では、光学素子を介さずに直接結合されるのに対し、引用発明1では、直接結合されているか否か明らかでなく、その実施例によると(上記2(1)サ参照。)、半導体レーザ3と導波層2とは、レンズ4及び2分の波長板5とにより結合されている点。

上記相違点につき検討する。
[相違点1]について
引用刊行物2には、上記2(2)のとおり、「非線形光学材料からなる光導波路を有し、該光導波路を導波する基本波を波長変換する光波長変換素子と、基本波としてのレーザービームを発する単一縦モードの半導体レーザーと、上記レーザービームを光導波路端面上で収束させて該光導波路に入射させる光学系とからなる光波長変換装置において、前記半導体レーザーは水平面内でレーザービームの拡がり角が最小となるように配され、前記光導波路の端面はこの水平面内でレーザービーム入射方向に対して斜めとなるようにカットされ、それに対応して遮光板が前記光波長変換素子に向かうレーザービームの光路に対して水平方向にずれるように配されており、これにより、互いに光路をずらすべきレーザービームとレーザービーム(反射光)とは、光路をずらす面内でのビーム径が最小となり、光導波路端面の斜めカット角度を比較的小さくしてもレーザービームの遮光板によるケラレを防止した上でレーザービーム(反射光)を確実に遮光でき、半導体レーザーへの戻り光を抑えることができる光波長変換装置。」の引用発明2が記載され、半導体レーザーを水平面内(基板面と平行な面内)でレーザービームの拡がり角が最小となるように配し、光導波路の端面をこの水平面内でレーザービーム入射方向に対して斜めとなるようにカットして、互いに光路をずらすべきレーザービームとレーザービーム(反射光)とが、光路をずらす面内でのビーム径が最小となり、光導波路端面の斜めカット角度を比較的小さくしてもレーザービーム(反射光)を確実に遮光する光波長変換装置が示されているところ、引用発明1にこの引用発明2を適用し、基本波の反射光が半導体レーザへ戻らないようにするための第2次高調波発生素子の出射端面の傾きを基板面と平行な面内となすことは当業者が容易になし得ることである。そしてその際、その傾き角を基本波の反射光が半導体レーザに戻らない程度の角度となして、上記[相違点1]に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜になし得ることである。
[相違点2]について
光導波路が形成され、非線形光学効果を有する基板からなる光波長変換素子と、半導体レーザとからなる短波長レーザ光源において、前記半導体レーザと前記光波長変換素子とをレンズを用いないで直接結合するものは本願出願前に周知である(例えば、特開平2-101438号公報(第4頁左上欄第9?18行、第5図)、特開平11-95270号公報(【0041】、図9)、前記特開平6-160930号公報(引用刊行物1)(【0023】、図15)参照。)から、引用発明1にこの周知技術を適用して本願発明の上記[相違点2]の構成となすことは、当業者が容易に行うことができることである。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明1、2及び上記周知技術から予測し得る程度のものである。

したがって、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1、2記載の発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-17 
結審通知日 2009-06-23 
審決日 2009-07-06 
出願番号 特願平11-307096
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 561- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 正佐藤 宙子  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 服部 秀男
三橋 健二
発明の名称 光波長変換素子および光波長変換モジュール  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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