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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D06L 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 D06L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06L |
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管理番号 | 1202895 |
審判番号 | 不服2006-17099 |
総通号数 | 118 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-08-07 |
確定日 | 2009-08-03 |
事件の表示 | 平成9年特許願第505909号「織物布帛のクリーニング法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年1月30日国際公開、WO97/03240、平成11年8月3日国内公表、特表平11-508977〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、1996年7月3日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理1995年7月13日、(EP)ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成17年9月9日付けの拒絶理由通知に対して、平成18年3月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成18年4月21日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年8月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がされ、さらに、平成20年6月30日付けで審尋がされ、平成20年10月29日に回答書が提出されたものである。 第2 平成18年8月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成18年8月7日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成18年8月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1である、 「(i) 洗剤フォームをエアゾール容器から分配し、 (ii) フォームを水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなることを特徴とする、織物布帛のクリーニング法。」 を、 「(i) 洗剤フォームをエアゾール容器から分配し、ここで、フォームは250g/リットル未満の密度を有し、フォームは少なくとも3g/秒の速度で送出される、 (ii) フォームを水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなることを特徴とする、織物布帛のクリーニング法。」 (以下、「本件補正発明」という。)とする補正事項を含むものである。 2 補正の適否について (1) 補正の目的要件について 特許請求の範囲についてする補正が平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に規定する要件に該当するためには、「発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であることが必要である。 そして、「発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であるといい得るためには、補正前の請求項における「発明を特定するための事項」の一つ以上を、概念的により下位の「発明を特定するための事項」とする必要がある。 そこで検討すると、本件補正は、補正前の本願発明に対し、補正により、(i)において、「ここで、フォームは250g/リットル未満の密度を有し、フォームは少なくとも3g/秒の速度で送出される、」なる文言を付加することを含むものであるが、補正前の請求項には、「発明を特定するための事項」として、概念的により下位の「発明を特定するための事項」とするために必要な、フォームの密度や送出速度に関連する何らかの文言が存在しないのである。 すなわち、本件補正により、(i)において、「ここで、フォームは250g/リットル未満の密度を有し、フォームは少なくとも3g/秒の速度で送出される、」という要件を追加する補正が認められるためには、本件補正前の特許請求の範囲における請求項1に、フォームの密度や送出速度に関連する何らかの文言が存在することが必要であるが、それらの文言が本件補正前の特許請求の範囲における請求項1には存在しないのである。 したがって、(i)において、「ここで、フォームは250g/リットル未満の密度を有し、フォームは少なくとも3g/秒の速度で送出される、」という要件を追加する補正事項は、補正前の請求項における「発明を特定するための事項」の一つ以上を、概念的により下位の「発明を特定するための事項」とする補正であるとは認められない。 また、この補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明の何れにも相当しない。 したがって、この補正は、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の規定に違反する。 (2) 独立特許要件について 以上のとおり、この補正は、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の規定に違反するため、本件補正は却下されるべきものであるが、仮に、この補正が同項2号に規定する要件に該当するとしても、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない(すなわち、同法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反する。)。理由は以下のとおりである。 ア 本件補正発明 平成18年8月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件補正発明)は以下のとおりのものである。 「(i) 洗剤フォームをエアゾール容器から分配し、ここで、フォームは250g/リットル未満の密度を有し、フォームは少なくとも3g/秒の速度で送出される、 (ii) フォームを水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなることを特徴とする、織物布帛のクリーニング法。」 イ 刊行物について (ア) 本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-95299号公報(原審における拒絶理由の引用文献2。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 1-a 「人体に対する安全性意識が益々高まってきていることから、衣料用洗浄剤、台所用洗浄剤、住居用洗浄剤などの人間の皮膚に触れる機会の多い家庭用洗浄剤について皮膚に対する作用を緩和するために様々な試みがなされてきた。 ・・・ 更にはアルキル三級アミンオキサイドや高級脂肪酸ジエタノールアミド等の補助界面活性剤を併用することにより諸性能を更に向上させると同時に、皮膚に対する作用が、よりマイルド化されてきた。 〔発明が解決しようとする問題点〕 しかしながら、このように各種洗浄剤の皮膚に対する作用が従来に比べ、温和になつてきてはいるものの、まだまだ充分満足しうる水準に達してはいないのが現状である。 〔問題点を解決するための手段〕 本発明者らは、このような実状に鑑み、従来の界面活性剤を主洗浄基剤とする非人体用洗浄剤組成物について、本来もつ洗浄性能、起泡性能を損なわず、皮膚に対する作用を更に改善すべく鋭意研究を重ねた結果、ニコチン酸誘導体を配合することにより、その目的を達成しうることを見い出し、本発明を完成した。」(2頁左上欄8?右下欄8行) 1-b 「本発明の洗浄剤組成物の形態は、液状、ペースト状、固形、粉末状又はエアゾールのいずれでもよく、本発明の洗浄剤組成物の目的とする効果の発現に影響するものではない。」(4頁左下欄7?10行) 1-c 「本発明の洗浄剤組成物は、衣料用洗浄剤、台所用洗浄剤、住居用洗浄剤等の人間の皮膚に触れる機会の多い家庭用洗浄剤において本来の機能、すなわち洗浄力、起泡力を損なうことなく、皮膚に対する作用が極めて温和で、優れた感触を保ち、肌荒れをおこすことがない実用的価値の高いものである。」(4頁左下欄下から4行?同頁右下欄3行) 1-d 「(3) 手荒れ性試験 洗浄剤組成物濃度5重量%の洗剤溶液を調製し、液温を30℃に保ち、毎日20分間、手を浸漬した後、よく水洗する。この操作を3日間繰り返す。4日後に被験者5人の手の状態を次の基準により、目視判定して、平均点で示した。 尚、平均点は4点以上であることが望ましい。 実施例1 表-1に示した組成の食器用洗浄剤を調製し、洗浄力試験、起泡力試験、手荒れ性試験を行った。結果を表-1に示した。 」(5頁左上欄10行?下欄) 1-e 「実施例2 衣料用液体軽質洗剤: ポリオキシエチレン(p=2)ラウリル硫酸ナトリウム 4.0重量% ポリオキシエチレン(p=10)ラウリルエーテル 15.0 ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド 1.0 ニコチン酸dl-α-トコフエロール又はポリエチレン 0.05 グリコール(分子量600)モノニコチネート 濁り剤,香料 微量 エタノール 5.0 水 バランス (pHは8.0に調整) 100.00 」 (6頁左上欄、実施例2) (イ) 本願出願前に頒布された刊行物である特開平3-90676号公報(原審における拒絶理由の引用文献3。以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 2-a 「1 (a) 第4級アンモニウム塩柔軟基剤を10?90重量%、及び有機溶剤を90?10重量%含有し、25℃での粘度が300cps以下である溶液 80?20重量% 及び (b) エアゾール用噴射剤 20?80重量% をエアゾール容器に充填してなる洗濯機用スプレー型柔軟仕上剤。 2 エアゾール容器が一定量の噴射を可能とする計量性のあるバルブ構造を有するものである請求項1記載の洗濯機用スプレー型柔軟仕上剤。」(特許請求の範囲) 2-b 「〔産業上の利用分野] 本発明は洗濯のすすぎサイクル時に使用するスプレー型柔軟仕上剤に関する。」(1頁左下欄下から3?1行) 2-c 「近年、流通コストや包装コストの減少、家庭や販売店等での在庫スペースの縮小及び商品を小型化して使いやすくすること等を目的に、第4級アンモニウム塩を10?20重量%の高濃度の水分散液として配合した濃縮型の衣料用柔軟仕上剤が開発され、普及しつつある。 〔発明が解決しようとする課題〕 これらの家庭用柔軟仕上剤は洗濯のすすぎサイクル時にキャップにて計量し、洗濯浴中に投入して使用するものであるが、キャップへの液の付着、液ダレ等が生じ、使いやすさ、簡便性等の面で充分なものではない。 濃縮型の柔軟仕上剤は低濃度品に比べ一般に粘度が高いのでキャップへの液の付着が多くなるという問題がある。また、濃縮型とした場合でも第4級アンモニウム塩の濃度は20%程度が上限であり、それ以上の濃度になると水分散液は著しく増粘するため計量及び洗濯浴中への投入が困難になる。 このように簡便性、使いやすさにおいて充分に満足できる高濃度の柔軟基剤を含有する衣料用柔軟仕上剤は得られていないのが現状である。 〔課題を解決するための手段〕 かかる実情において、本発明者らは前記課題を解決せんと鋭意研究を行った結果、特定の液体柔軟仕上剤を噴射剤を用いてスプレー型の柔軟仕上剤とすることよって水への分散性がよく、しかも簡便で使いやすい高濃度の柔軟基剤を含有する柔軟仕上剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」(2頁左上欄2行?同頁右上欄11行) 2-d 「また、高濃度の第4級アンモニウム塩を溶剤に溶解した溶液をボトルに充填した形態で商品化しようする試みもなされている。しかしながら、この高濃度溶液は洗濯機の攪拌条件下では水に分散しにくく、その結果、柔軟性能、帯電防止性能も十分に得られず、また、計量キャップが非常に小さいものになるため計量が難しくなる等の問題があり、家庭用としては使われていない。 しかしながら、本発明者らの研究の結果、上記のような高濃度溶液であっても、噴射剤と共にエアゾール容器に充填し、スプレー型柔軟仕上剤として霧状ないしは泡状の形態で家庭用洗濯機に投入すれば、家庭洗濯機の攪拌条件下でも水への分散性がよいことが見出された。」(2頁左下欄9行?右下欄3行) 2-e 「本発明のスプレー型柔軟仕上剤は溶液(a)とエアゾール用噴射剤(b)をエアゾール容器内に充填することによって製造される。」(3頁右下欄9-11行) ウ 対比・判断 (ア) 刊行物に記載された発明 刊行物1には、非人体用洗浄剤組成物(摘示1-a)であって、衣料用洗浄剤として用いられるものであり(摘示1-a及び摘示1-c)、皮膚に対する作用が極めて温和で、優れた感触を保ち、肌荒れをおこすことがない洗浄剤組成物(摘示1-c)が記載されており、また、具体的な実施態様として「衣料用液体軽質洗剤」(摘示1-e)が記載されている。 ところで、刊行物1には、刊行物1に記載された衣料用液体軽質洗剤を用いるクリーニング法は特に記載されていないが、 「(i) 洗剤を分配し、 (ii) 当該洗剤を水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなる、織物布帛のクリーニング法。」 という織物布帛のクリーニング法は周知である(必要なら、例えば、特開平6-86893号公報及び特開平6-105984号公報参照。)。 してみると、かかるクリーニング法は周知であること、及び「衣料用液体軽質洗剤」は「液体洗剤」といえることを考慮すれば、刊行物1には、 「(i) 液体洗剤を分配し、 (ii) 当該液体洗剤を水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなる、織物布帛のクリーニング法。」 という発明(以下「引用発明」という。)が記載されているに等しいものと認められる。 (イ) 本件補正発明と引用発明との対比 引用発明における「液体洗剤」と本件補正発明における「洗剤フォーム」は共に「洗剤」といえることを考慮して本件補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、 「(i) 洗剤を分配し、 (ii) 洗剤を水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなる、織物布帛のクリーニング法。」 である点で一致するが、以下のa?cの点で相違すると認められる。 a 洗剤の分配形式について、本件補正発明においては「洗剤フォームをエアゾール容器から分配」するのに対し、引用発明においてはかかる規定はされていない点 b 洗剤フォームの密度について、本件補正発明においては「フォームは250g/リットル未満の密度を有し」と規定するのに対し、引用発明においてはかかる規定はされていない点 c 洗剤フォームの送出速度について、本件補正発明においては「フォームは少なくとも3g/秒の速度で送出される」と規定するのに対し、引用発明においてはかかる規定はされていない点 (以下、上記の各相違点を、それぞれ項の番号に対応して、「相違点a」などという。) (ウ) 相違点についての判断 a 相違点aについて まず、引用発明は、「皮膚に対する作用を更に改善」(摘示1-a)するものとされており、また、「肌荒れをおこすことがない実用的価値の高いもの」(摘示1-c)とされてはいるが、実際は、例えば表-1の「本発明品4」や「本発明品8」では手荒れ性値が「4.1」であり、ほぼ「手荒れがほんのわずかに認められる。」状態にあるといえるから、引用発明により手荒れが完全に解消されるものではないことが明らかである。 また、刊行物1には「本発明の洗浄剤組成物の形態は、液状、ペースト状、固形、粉末状又はエアゾールのいずれでもよく、」(摘示1-b)と、洗浄剤組成物の形態をエアゾールとしてよいことが記載されている。 次に、刊行物2には、家庭用柔軟仕上剤について、 「家庭用柔軟仕上剤は洗濯のすすぎサイクル時にキャップにて計量し、洗濯浴中に投入して使用するものであるが、キャップへの液の付着、液ダレ等が生じ、使いやすさ、簡便性等の面で充分なものではない。濃縮型の柔軟仕上剤は低濃度品に比べ一般に粘度が高いのでキャップへの液の付着が多くなるという問題がある。また、濃縮型とした場合でも第4級アンモニウム塩の濃度は20%程度が上限であり、それ以上の濃度になると水分散液は著しく増粘するため計量及び洗濯浴中への投入が困難になる。」(摘示2-c) という課題があったのに対して、 「特定の液体柔軟仕上剤を噴射剤を用いてスプレー型の柔軟仕上剤とすることよって水への分散性がよく、しかも簡便で使いやすい高濃度の柔軟基剤を含有する柔軟仕上剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」(摘示2-c) こと、及び 「高濃度の第4級アンモニウム塩を溶剤に溶解した溶液をボトルに充填した形態で商品化しようする試みもなされている。しかしながら、この高濃度溶液は洗濯機の攪拌条件下では水に分散しにくく、その結果、柔軟性能、帯電防止性能も十分に得られず、また、計量キャップが非常に小さいものになるため計量が難しくなる等の問題があり、家庭用としては使われていない。しかしながら、本発明者らの研究の結果、上記のような高濃度溶液であっても、噴射剤と共にエアゾール容器に充填し、スプレー型柔軟仕上剤として・・・泡状の形態で家庭用洗濯機に投入すれば、家庭洗濯機の攪拌条件下でも水への分散性がよいことが見出された。」(摘示2-d) こと、が記載されている。 また、刊行物2には、「噴射剤と共にエアゾール容器に充填し、スプレー型柔軟仕上剤として・・・泡状の形態で家庭用洗濯機に投入」(摘示2-d)する形式のものが例示されているが、それについて、「本発明者らは・・・簡便で使いやすい高濃度の柔軟基剤を含有する柔軟仕上剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」(摘示2-c)ことも記載されている。 さらに、「一般にエアゾール泡沫製品としては各種のクリーナー、シェービング、頭髪用ムース等の製品が商品化されている。」(特開平2-36294号公報1頁左下欄下から7?5行)とあるように、クリーナー、すなわち洗剤として各種のエアゾール泡沫製品が商品化されていることは周知である。 してみると、高濃度溶液を洗濯機の水中に投入するに際し、水への分散性の良さ、簡便さ、及び使いやすさが望まれるのは、刊行物2に記載されている家庭用柔軟仕上剤のみならず、引用発明の如き液体洗剤においても同じであるのは当然であり、また、洗剤として各種のエアゾール泡沫製品が商品化されていることは周知である状況下にあって、刊行物1には洗浄剤組成物の形態がエアゾールとしてよいことが記載されているところ、「皮膚に対する作用を更に改善」(摘示1-a)するものとされているとともに、「肌荒れをおこすことがない実用的価値の高いもの」(摘示1-c)とされてはいるが、実際は、手荒れが完全に解消されるものではないことが明らかな引用発明において、キャップへの液体洗剤の付着、液ダレ等が生じ、それによる使いにくさや皮膚に洗剤が付着することによる手荒れを解消するとともに、高濃度溶液における洗濯機の攪拌条件下での水への分散性を改善し、更に簡便で使いやすいものとするために、刊行物2に記載された「噴射剤と共にエアゾール容器に充填し、スプレー型柔軟仕上剤として・・・泡状の形態で家庭用洗濯機に投入」(摘示2-d)する方法を用いること、すなわち、洗剤の分配形式について、「洗剤フォームをエアゾール容器から分配」することは、当業者が容易に想到し得たことである。 b 相違点bについて 平成18年8月7日付けの手続補正後の本願明細書(以下、「本願補正明細書」という。)において、請求人自身が引用している、本願出願前に公知である、米国特許第5364031号明細書には、ハンドソープ、シャンプー、ボディソープ、ヘアムース、シェービングフォーム、及び台所用クレンザー等のフォームの密度について、「この発明の結果として得られるフォームの密度は、約0.01g/cm^(3)ないし約0.25g/cm^(3)である」(22欄40?42行)と記載されていることからみて、「約0.01g/cm^(3)ないし約0.25g/cm^(3) 」は、換算すると「約10g/リットルないし約250g/リットル」であるから、洗剤の一つであるハンドソープ、シャンプー、ボディソープ等のフォームの密度として「フォーム密度が250g/リットル未満」とすることは公知である。 したがって、洗剤フォームの密度について、洗剤の一種であるハンドソープ、シャンプー、ボディソープ等のフォームの密度を参酌するとともに、水への分散性の良さ、簡便さ、及び使いやすさなどを考慮して、フォームの密度に関する数値範囲を最適化又は好適化することにより、「フォームは250g/リットル未満の密度を有し」と規定することは当業者が容易に想到し得たことである。 c 相違点cについて 洗浄用エアゾール組成物について、「3g/秒」で吹き付けることは公知である(国際公開第93/22415号パンフレット、5頁下から5?1行の「試験例2」参照。)。 したがって、洗剤フォームの送出速度について、公知の洗浄用エアゾール組成物の送出速度を参酌するとともに、水への分散性の良さ、簡便さ、及び使いやすさなどを考慮して、洗剤フォームの送出速度に関する数値範囲を最適化又は好適化することにより、「フォームは少なくとも3g/秒の速度で送出される」と規定することは当業者が容易に想到し得たことである。 (エ) 効果について しかも、本願補正明細書を検討しても、本願補正発明が相違点a?相違点cにより格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 すなわち、本願補正発明の相違点aによる効果は、「活性成分の総ては、フォームの大容積中に均一に分布しているので、布帛の損傷を引き起こすような活性材料の局部的濃度がない」(本願補正明細書10頁8?10行)というものである。 しかしながら、洗濯動作の前に洗剤を溶解することは周知である(必要なら、先に提示した、特開平6-86893号公報及び特開平6-105984号公報参照。)から、従来技術においても、洗濯動作の前に洗剤を溶解することにより、活性成分の総ては、溶解液中に均一に分布しているので、布帛の損傷を引き起こすような活性材料の局部的濃度がないのは自明である。 しかも、刊行物2に「高濃度溶液であっても、噴射剤と共にエアゾール容器に充填し、スプレー型柔軟仕上剤として・・・泡状の形態で家庭用洗濯機に投入すれば、家庭洗濯機の攪拌条件下でも水への分散性がよいことが見出された。」(摘示2-d)と記載されているように、フォーム(泡状)の形態で家庭用洗濯機に投入すれば水への分散性がよいことは公知であるから、「均一に分布しているので、布帛の損傷を引き起こすような活性材料の局部的濃度がない」ことは予想し得ることである。 また、本願補正発明の相違点bにより、格別顕著な効果を奏するものと認めるべき根拠は見いだせない。なぜなら、本願補正明細書には、 「一般に、フォームの品質は、・・・3) フォームの密度であって、好ましくは250g/l未満、更に好ましくは150g/l、最も好ましくは約100g/l、・・・のような各種のフォーム品質属性を評価することによって決定される。」(3頁下から5行?4頁3行) との、いわゆる一行記載があるだけで、相違点bによる格別顕著な効果を認めるに足る具体例や技術的根拠に関する記載は全くないからである。 さらに、本願補正発明の相違点cにより、格別顕著な効果を奏するものと認めるべき根拠も見いだせない。なぜなら、本願補正明細書には、 「本発明の方法において装置を有効にするには、好ましくは密封容器からフォームを少なくとも3g/秒の速度で、更に好ましくは少なくとも10g/秒の速度で送出すべきである。」(12頁下から3?1行) との、いわゆる一行記載があるだけで、相違点cによる格別顕著な効果を認めるに足る具体例や技術的根拠に関する記載は全くないからである。 また、本願補正明細書のその他の記載をみても、本願補正発明が上記各相違点により格別顕著な技術的効果を奏し得たものとは認められない。 したがって、本願補正発明が相違点a?相違点cにより格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 (オ) 小括 以上のとおり、上記各相違点は当業者が容易に想到し得たものであり、本願補正明細書等を検討しても、本願補正発明がこれらの相違点に係る特定事項により格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の規定に違反し、また、仮に同規定に違反しないとしても、同法17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、その余の点を検討するまでもなく、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたから、本願発明は、拒絶査定時の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。 「(i) 洗剤フォームをエアゾール容器から分配し、 (ii) フォームを水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなることを特徴とする、織物布帛のクリーニング法。」 (以下、これを「本願発明」という。) 2 原査定の理由の概要 本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である、引用文献2(特開昭63-95299号公報)及び引用文献3(特開平3-90676号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という事項を含むものである。 3 当審の判断 (1) 刊行物について 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開昭63-95299号公報)及び引用文献3(特開平3-90676号公報)は、それぞれ、先に「第2 2(2)イ(ア)」に示した刊行物1、及び「第2 2(2)イ(イ)」に示した刊行物2と同じものであるので、以下、これらを「第2 2(2)イ(ア)」及び「第2 2(2)イ(イ)」と同様に、「刊行物1」及び「刊行物2」という。 そして、刊行物1及び刊行物2の記載事項は、先に「第2 2(2)イ(ア)」及び「第2 2(2)イ(イ)」に記載したとおりである。 (2) 対比・判断 ア 刊行物に記載された発明 刊行物1には、先に「第2 2(2)ウ(ア)」に示したとおり、 「(i) 液体洗剤を分配し、 (ii) 当該液体洗剤を水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなる、織物布帛のクリーニング法。」 という発明(以下、「第2 2(2)ウ(ア)」と同様に「引用発明」という。)が記載されているに等しいものと認められる。 イ 本願発明と引用発明との対比 引用発明における「衣料用液体軽質洗剤」と本件発明における「洗剤フォーム」は共に「洗剤」といえることを考慮して本件補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、 「(i) 洗剤を分配し、 (ii) 洗剤を水に溶解させて、水溶液を形成し、その後、または同時に (iii) 織物布帛を洗濯機中の水溶液中で攪拌する 段階を含んでなる、織物布帛のクリーニング法。」 である点で一致するが、以下の(ア)の点で相違すると認められる。 (ア) 洗剤の分配形式について、本件補正発明においては「洗剤フォームをエアゾール容器から分配」するのに対し、引用発明においてはかかる規定はされていない点 (以下、上記の相違点を、「相違点(ア)」という。) ウ 相違点(ア)についての判断 先に「第2 2(2)ウ(ウ)a」において示した理由と同様の理由により、「噴射剤と共にエアゾール容器に充填し、スプレー型柔軟仕上剤として・・・泡状の形態で家庭用洗濯機に投入」(摘示2-d)すること、すなわち、洗剤の分配形式について、「洗剤フォームをエアゾール容器から分配」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 エ 効果について 先に「第2 2(2)ウ(エ)」において示した理由と同様の理由により、本願発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 (ただし、相違点b及び相違点cについての判断は除く。) (3) 小括 以上のとおり、上記相違点(ア)は当業者が容易に想到し得るものであり、しかも、本願発明が上記相違点(ア)により格別顕著な効果を奏するものとも認められないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-03-10 |
結審通知日 | 2009-03-13 |
審決日 | 2009-03-24 |
出願番号 | 特願平9-505909 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(D06L)
P 1 8・ 121- Z (D06L) P 1 8・ 572- Z (D06L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
唐木 以知良 |
特許庁審判官 |
杉江 渉 原 健司 |
発明の名称 | 織物布帛のクリーニング法 |
代理人 | 紺野 昭男 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 中村 行孝 |