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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1203103
審判番号 不服2007-20600  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-25 
確定日 2009-09-03 
事件の表示 平成 8年特許願第322692号「ICカード」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 5日出願公開、特開平 9-231111〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成8年12月3日の出願(優先権主張平成7年12月22日)の出願であって、平成19年6月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年8月24日付けで手続補正がなされたものである。




第2 本願発明について

1.本願発明

本願の請求項1乃至2に係る発明は、平成19年8月24日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
1又は2以上のファイルを格納可能なメモリを有するICカードにおいて、
外部からの命令により、外部から指定された指定容量だけ選択されているファイルの容量を縮小又は拡大する容量変更手段を有し、
前記ファイルは、自己の空き容量を記憶する空き容量記憶部を有し、
前記ファイルには、親ファイルの空き容量を自己の空き容量とする容量親依存ファイルがあり、
前記容量変更手段は、前記空き容量記憶部の内容を変更しようとするファイルが前記容量親依存ファイルである場合は、前記変更しようとするファイルの上位階層にある前記親ファイルの空き容量記憶部の内容を前記指定容量に基づいて変更すること
を特徴とするICカード。」



2.引用例1

原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、特開平6-131517号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は階層化されたディレクトリで管理されるファイルをメモリ上で再配置するICカードに関する。」

(イ)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来のICカードでは、ディレクトリの基にさらにディレクトリを創成する、すなわち階層的なディレクトリ構造が不可能であり、また一度生成されたファイルの削除が不可能である。例えばICカードをある企業が社員のために発行して銀行、医療、その他ICカードシステムで利用する場合、各システム毎にディレクトリが必要となる。また銀行のICカードシステム内で預貯金、クレジット、その他機能が複数ある場合、ひとつのICカードシステムの中で機能毎にさらにディレクトリが必要となってくる。ICカードの多目的な使用を考慮すると、ディレクトリの階層化およびメモリの有効的な利用は不可欠なものとなる。
【0005】
本発明はかかる点に鑑み、ディレクトリを階層的な構造とし、かつディレクトリで管理されるファイルの削除および該ファイルのメモリ容量の拡張が可能であり、さらにファイルの削除あるいは拡張によって生じたメモリ上の空き領域を無くしてメモリを有効に利用することが可能なICカードを提供することを目的とする。」

(ウ)
「【0007】
【作用】
この方式により許容されるICカードは、階層化されたディレクトリで管理されるファイルをファイル削除手段により削除し、ファイル拡張手段によりファイルの容量を大きくすることが可能となる。これら処理によって生じたメモリ上の空き領域は、ファイル再配置手段により複数のファイルをメモリ上に密に並び変えることができるため、ICカード内のメモリを有効に活用することが可能となる。」

(エ)
「【0008】
【実施例】
以下、本発明の一実施例について図面を参照しながら説明する。」

(オ)
「【0009】
図1に示すように本発明のICカード1は、各種処理のためにRAM3をバッファとして利用する処理制御部2と、外部機器との間でデータを送受信する入出力手段5と、入出力手段5を通して受信したコマンドの解析および処理を行い、且つ受信したコマンドに対する応答の作成を行うコマンド処理手段6と、ファイルを創成するファイル生成手段7と、処理されるデータをファイルとして一元管理し、且つEEPROM4におけるディレクトリを通してファイルあるいはファイル内のデータに対してアクセスを行うファイル管理手段8と、ファイルを削除するファイル削除手段9と、コマンドで指定したファイルの容量を拡張するファイル拡張手段10と、EEPROM4上に格納された複数のファイルを密に並び変えるファイル再配置手段11とを具備する。ここでファイル作成手段7、ファイル管理手段8、ファイル削除手段9、ファイル拡張手段10およびファイル再配置手段11はコマンド処理手段6によって起動する。また本実施例のICカード1のEEPROM4の容量は8kバイトの情報を格納することができる。」

(カ)
「【0010】
図2は本発明のICカード1のディレクトリ構造の例を示しており、ひとつのマスタディレクトリ20の基にディレクトリ21、22が存在している。さらにディレクトリ21の基にディレクトリ23、24、25が、ディレクトリ22の基にディレクトリ26が、ディレクトリ24の基にディレクトリ27が存在する。さらに、マスタディレクトリ20の下にファイル30、31、32が、ディレクトリ22の下にファイル35、36が存在する。このように本発明のICカード1では、マスタディレクトリ20を含め、全てのディレクトリが階層的に下位方向に複数のディレクトリを管理し、且つ各ディレクトリには複数のファイルを持つことが可能である。以後この上下関係について、親のディレクトリおよび親のディレクトリに対する子のディレクトリと呼ぶ。」

(キ)
「【0011】
図3は本発明のICカード1のメモリ上のデータ構成の例である。EEPROM4上に、ディレクトリは上位番地方向から下位番地方向に格納され、ファイルは下位番地方向から上位番地方向に格納される。以後ディレクトリおよびファイルを格納する領域をユーザ領域と呼ぶ。このような構成からファイルを削除すると、EEPROM4上に空き領域が生じて非効率的である。そこでファイルの再配置が必要となってくる。」

(ク)
「【0012】
まずマスタディレクトリ、ディレクトリおよびファイルのデータ構成について説明する。図4は本発明のICカード1のマスタディレクトリ20のデータ構成図である。DF書き込みポインタ40は最後に創成されたディレクトリの先頭番地(図3ではディレクトリ23)、EF書き込みポインタ41は次ファイルを創成する番地(図3ではファイル32の最終番地の次の番地)、C_DF42はマスタディレクトリ20が管理する子のディレクトリの中で最初に創成されたディレクトリ(図3ではディレクトリ21)の先頭番地、およびC_EF43はマスタディレクトリ20が管理するファイルの中で最初に創成されたファイル(図2および図3に示すファイル30)の先頭番地である。なお、C_DF42およびC_EF43は該当するものが存在しなければ値0000が格納される。」

(ケ)
「【0013】
図5は本発明のICカード1のディレクトリ21のデータ構成図である。P_DF50はディレクトリ21を管理する親のディレクトリ(図2ではマスタディレクトリ20)の先頭番地、N_DF51はディレクトリ21を管理する親のディレクトリの基に存在し、ディレクトリ21の創成の次に創成されたディレクトリ(図2ではディレクトリ22)の先頭番地、B_DF52はディレクトリ21を管理する親のディレクトリの基に存在し、ディレクトリ21の創成の前に創成されたディレクトリ(図3では存在しない)の先頭番地、C_DF53はディレクトリ21が管理する子のディレクトリの中で最初に創成されたディレクトリ(図2および図3よりディレクトリ23)の先頭番地、およびC_EF54はディレクトリ21が管理するファイルの中で最初に創成されたファイル(図2のファイル33あるいはファイル34)の先頭番地である。なお、N_DF51、B_DF52、C_DF53およびC_EF54は該当するものが存在しなければ値0000が格納される。また、他のディレクトリについてもデータ値は異なるが同じ構成である。」

(コ)
「【0014】
図6は本発明のICカード1のファイル30のデータ構成図である。フラグ60はファイル30が有効か無効を示すフラグ、サイズ61はファイル30の容量、P_DF62はファイル30を管理する親のディレクトリ(図2のマスタディレクトリ20)の先頭番地、N_EF63はファイル30を管理する親のディレクトリの基に存在し、ファイル30の創成の次に創成されたファイル(図2、図3のファイル31)の先頭番地、B_EF64はファイル30を管理する親のディレクトリの基に存在し、ファイル30の創成の前に創成されたファイルの先頭番地(図3では存在しない)および領域65は情報などのデータが格納される。なお、N_EF63およびB_EF64は該当するものが存在しなければ値0000が格納される。また、他のファイルについてもデータ値は異なるが同じ構成である。」

(サ)
「【0017】
このように本発明のICカード1では、階層化されたディレクトリおよびファイルのポインタにより、ディレクトリあるいはファイルの管理が容易となった。次に本発明のICカード1におけるファイルの削除処理、ファイルの再配置処理およびファイルの容量拡張処理について説明する。」

(シ)
「【0018】
ファイルの削除処理について図9の流れ図を用いて説明する。削除すべきファイルはコマンドによって指定される(ファイルのことを図中および以下ではEFと記述)。まず、ステップ901で指定されたEFはフラグ60を利用して無効とされる。ここで指定されたEFが削除されることによって、削除された指定EFを示すポインタを有するEFあるいはディレクトリ(ディレクトリのことを図中および以下ではDFと記述)が存在すれば、そのポインタを更新する必要がある。まず指定EFの次のEFを示すN_EFポインタが0000であるかを判断し(ステップ902)、0000であれば指定EFの次にEFは存在しないため次の処理に移る。0000でなければ指定EFの次にEFが存在するため次のEFのB_EFポインタに指定EFの前のEFを示すB_EFポインタを代入する(ステップ903)。ここで指定EFの前にEFが無く(値0000)ても良い。次に指定EFの前のEFを示すB_EFポインタが0000であるかを判断し(ステップ904)、0000であれば指定EFの前にEFは存在せず、指定EFは指定EFを管理するディレクトリの中で先頭であるため、該ディレクトリの管理するファイルを示すC_EFポインタに指定EFの次を示すN_EFポインタを代入する(ステップ905)。0000でなければ指定EFの前にEFが存在するため前のEFのN_EFポインタに指定EFの次のEFを示すN_EFポインタを代入する(ステップ906)。」

(ス)
「【0019】
次にファイルを削除することによって生じた空き領域に対する管理情報を更新する必要がある。物理的にメモリ上で指定EFがメモリ上のユーザ領域の先頭でない場合(ステップ907)、ユーザ領域の先頭から指定EFが次の領域となるEFを検索する(ステップ908)。ここで検索されたEFが無効EFである場合(ステップ909)、すなわち無効EFがメモリ上で連続する場合、2つの連続した無効EFをひとつの無効EFにするため、検索されたEFのサイズに指定EFのサイズを加え、検索されたEFを指定EFとする(ステップ910、911)。」

(セ)
「【0020】
物理的にメモリ上で指定EFの次の領域がEF書き込みポインタである場合(ステップ912)、メモリ上で最後のEFが削除されたこととなるため、EF書き込みポインタを指定EFの先頭番地に更新して処理を終了する(ステップ913)。次の領域が有効EFである場合は処理を終了する(ステップ914)。次の領域が無効EFである場合、すなわち無効EFがメモリ上で連続する場合、2つの連続した無効EFをひとつの無効EFにするため、指定EFのサイズに無効EFのサイズを加え、再度指定EFの次の領域を確認する(ステップ915)。」

(ソ)
「【0024】
ひとつのファイルを有効に利用するために、前述したファイル構成において以下に示すようなファイルの容量拡張手段でファイルの容量を大きくすると、やはりメモリ上に空き領域が生じてファイルの再配置が必要となってくる。ファイルの容量拡張処理について図11の流れ図を用いて説明する。
【0025】
拡張すべきEFおよび拡張サイズはコマンドによって指定される。まず物理的にメモリ上で指定EFの最終番地の次の番地がEF書き込みポインタである場合(ステップ1101)、EF書き込みポインタから拡張サイズ分の空き領域が有るか確認し、無い場合は処理を中断する(ステップ1102、1103)。有ればEF書き込みポインタに拡張する。すなわち指定EFのサイズに拡張サイズを加えて更新し、EF書き込みポインタに拡張サイズを加えて更新する(ステップ1113、1114)。
【0026】
物理的にメモリ上で指定EFの最終番地の次の番地が有効EFである場合(ステップ1104)、EF書き込みポインタから指定EFサイズと拡張サイズ分の空き領域が有るか確認し(ステップ1109)、無い場合は処理を中断する。有ればEF書き込みポインタで示す番地に指定EFを複写し(ステップ1110)、EF書き込みポインタに指定EFサイズを加えて更新する(ステップ1111)。ここで、複写元の有効EFを前述したファイルの削除処理を利用して無効EFとする(ステップ1112)。この後EF書き込みポインタに拡張する。すなわち指定EFのサイズに拡張サイズを加えて更新し、EF書き込みポインタに拡張サイズを加えて更新して処理を終了する。
【0027】
物理的にメモリ上で指定EFの最終番地の次の番地が無効EFである場合、該無効EFのサイズが拡張サイズと同一か、あるいは無効EFのサイズが拡張サイズより3バイト以上大きいかを確認し(ステップ1105)、そうであれば次の番地に無効EFのサイズで拡張する(ステップ1105)。すなわち指定EFのサイズに無効EFのサイズを加えて更新する。なお無効EFのサイズが拡張サイズより3バイト以上大きい場合は、余りの領域を無効EFとして登録する(ステップ1107、1108)。サイズが無ければ前述の物理的にメモリ上で指定EFの最終番地の次の番地が有効EFである場合と同様の処理を行う。」

(タ)
「【0028】
このように階層的なディレクトリ構成により管理されたファイルに対して、ファイルの削除処理およびファイル容量の拡張処理が可能になることで、ICカードの多目的利用が可能となった。さらにファイルの再配置処理が可能であるため、ファイルの削除あるいは容量の拡張によって生じた空き領域を無くしてメモリ上のファイルを密に並び変えることができ、メモリの有効利用が可能となった。」


以上の引用例1の記載によれば、引用例1には以下の事項が開示されていると認められる。

(a)
引用例1の上記(ウ)の
「この方式により許容されるICカードは、階層化されたディレクトリで管理されるファイルをファイル削除手段により削除し、ファイル拡張手段によりファイルの容量を大きくすることが可能となる。これら処理によって生じたメモリ上の空き領域は、ファイル再配置手段により複数のファイルをメモリ上に密に並び変えることができるため、ICカード内のメモリを有効に活用することが可能となる。」
という記載、

引用例1の上記(キ)の
「図3は本発明のICカード1のメモリ上のデータ構成の例である。EEPROM4上に、ディレクトリは上位番地方向から下位番地方向に格納され、ファイルは下位番地方向から上位番地方向に格納される。以後ディレクトリおよびファイルを格納する領域をユーザ領域と呼ぶ。このような構成からファイルを削除すると、EEPROM4上に空き領域が生じて非効率的である。そこでファイルの再配置が必要となってくる。」
という記載から、

引用例1には、「1又は2以上のファイルを格納可能なメモリを有するICカード」が開示されていると認められる。


(b)
引用例1の上記(オ)の
「図1に示すように本発明のICカード1は、各種処理のためにRAM3をバッファとして利用する処理制御部2と、外部機器との間でデータを送受信する入出力手段5と、入出力手段5を通して受信したコマンドの解析および処理を行い、且つ受信したコマンドに対する応答の作成を行うコマンド処理手段6と、ファイルを創成するファイル生成手段7と、処理されるデータをファイルとして一元管理し、且つEEPROM4におけるディレクトリを通してファイルあるいはファイル内のデータに対してアクセスを行うファイル管理手段8と、ファイルを削除するファイル削除手段9と、コマンドで指定したファイルの容量を拡張するファイル拡張手段10と、EEPROM4上に格納された複数のファイルを密に並び変えるファイル再配置手段11とを具備する。ここでファイル作成手段7、ファイル管理手段8、ファイル削除手段9、ファイル拡張手段10およびファイル再配置手段11はコマンド処理手段6によって起動する。」
という記載、

引用例1の上記(シ)の
「(ファイルのことを図中および以下ではEFと記述)。」
という記載、

引用例1の上記(ソ)の
「ひとつのファイルを有効に利用するために、前述したファイル構成において以下に示すようなファイルの容量拡張手段でファイルの容量を大きくすると、やはりメモリ上に空き領域が生じてファイルの再配置が必要となってくる。ファイルの容量拡張処理について図11の流れ図を用いて説明する。・・・(中略)・・・拡張すべきEFおよび拡張サイズはコマンドによって指定される。」
という記載から、

引用例1には、「外部機器からのコマンドにより、外部機器から指定された拡張サイズだけ選択されているファイルの容量を拡張するファイル拡張手段」が開示されていると認められる。


(c)
上記(a)の「1又は2以上のファイルを格納可能なメモリを有するICカード」という開示、

引用例1の上記(コ)の
「図6は本発明のICカード1のファイル30のデータ構成図である。フラグ60はファイル30が有効か無効を示すフラグ、サイズ61はファイル30の容量、P_DF62はファイル30を管理する親のディレクトリ(図2のマスタディレクトリ20)の先頭番地、N_EF63はファイル30を管理する親のディレクトリの基に存在し、ファイル30の創成の次に創成されたファイル(図2、図3のファイル31)の先頭番地、B_EF64はファイル30を管理する親のディレクトリの基に存在し、ファイル30の創成の前に創成されたファイルの先頭番地(図3では存在しない)および領域65は情報などのデータが格納される。なお、N_EF63およびB_EF64は該当するものが存在しなければ値0000が格納される。また、他のファイルについてもデータ値は異なるが同じ構成である。」
という記載から、

引用例1には、「前記ファイルは、自己のファイルの容量を記憶する記憶部」を有することが開示されていると認められる。


以上の引用例1の記載によれば、引用例1には下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認められる。

「1又は2以上のファイルを格納可能なメモリを有するICカードにおいて、
外部機器からのコマンドにより、外部機器から指定された拡張サイズだけ選択されているファイルの容量を拡張するファイル拡張手段を有し、
前記ファイルは、自己のファイルの容量を記憶する記憶部を有すること
を特徴とするICカード。」



3.引用例2

原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、特開平6-282471号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、たとえば、不揮発性メモリ、および、これらを制御するCPUなどの制御素子を有するICチップを内蔵したICカードにおいて、上記メモリ内に分割設定される複数のファイルのデータ管理を行なうファイル管理方式に関する。」

(イ)
「 【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような方法では、アプリケーションファイルのサイズをあらかじめ設定することになり、以降、サイズの変更ができないため、たとえば、アプリケーションAで使用するファイルに対して1000バイト、また、アプリケーションBで使用するファイルに対して2000バイトを与えられており、両者の運用の過程において、アプリケーションAでは与えられた1000バイトのうち、500バイトのみを使用し、また、アプリケーションBでは更に500バイト要する場合でも、与えられたサイズの範囲以内で運用しなければならない。
【0007】
これを回避するために、アプリケーションBにて使用するファイル(500バイト)をもう1つ作成し、運用時に2つのファイルを参照する方法が考えられるが、これでは運用上の利便性が損なわれる恐れが生ずる。
【0008】
そこで、本発明は、アプリケーションに対応するデータファイルのサイズの上限を規定する必要がなく、運用時点で必要なエリアを随時追加が可能となり、かつ、ファイルのサイズの上限を規定するアプリケーションとの混用も可能となるファイル管理方式を提供することを目的とする。」

(ウ)
「 【0013】
【実施例】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施例に係る携帯可能電子装置としてのICカードが適用される、たとえば、金融システムあるいはショッピングシステムなどの端末装置として用いられるカード取扱装置の構成例を示すものである。すなわちち、この装置は、ICカード1をカードリーダ・ライタ2を介してCPUなどからなる制御部3と接続可能とするとともに、制御部3にキーボード4、CRTディスプレイ装置5、プリンタ6、および、フロッピーディスク装置7を接続して構成される。
【0015】
図2は、ICカード1の構成例を示すものであり、制御部としての制御素子(たとえば、CPU)11、記憶内容が消去可能な不揮発性のデータメモリ12、ワーキングメモリ13、プログラムメモリ14、および、カードリーダ・ライタ2との電気的接触を得るためのコンタクト部15によって構成されている。これらのうち、破線内の部分(制御素子11、データメモリ12、ワーキングメモリ13、プログラムメモリ14)は1つ(あるいは複数)のICチップで構成されてICカード本体内に埋設されている。
【0016】
データメモリ12は、各種データの記憶に使用され、たとえば、EEPROMなどで構成されている。ワーキングメモリ13は、制御素子11が処理を行なう際の処理データを一時的に保持するためのメモリであり、たとえば、RAMなどで構成される。プログラムメモリ14は、たとえば、マスクROMで構成されており、制御素子11のプログラムなどを記憶するものである。」

(エ)
「 【0017】
データメモリ12は、たとえば、図3に示すように、制御領域120、ディレクトリ121、空き領域122、および、エリア群123に分割されている。エリア群123は、複数のデータエリアおよびキーエリアを有することができ、かつ、データファイル(DF)と呼ばれる概念でグループ化することができる。なお、後述するMF(マスターファイル)は、データファイルの1つの形態として一括管理される。データファイルは、対応するアプリケーションにて使用されるデータエリア、および、キーエリアを一括して管理するためのファイルである。データエリアは、たとえば、取引データなどのように、必要に応じて読み書きするためのデータを格納するエリアである。キーエリアは、たとえば、暗証番号などの格納に利用されているエリアであり、書込み/書換え/照合の対象になり、読出しはできないようになっている。
【0018】
なお、これらのエリアは、図3に示すように、エリア群123として一括して割当てられている。また、これらのファイルあるいはエリアは、データメモリ12内のディレクトリ121を用いることにより、それぞれの物理的位置などを制御素子11が認識するようになっている。さらに、図3の制御領域120には、エリア群123の先頭アドレス情報、および、空き領域122の先頭アドレス情報が格納されている。図3のディレクトリ121は、図4に示すように、各データファイルおよびエリアに対応する各種定義情報が格納される。」

(オ)
「 【0020】
図4(a2 )は、データファイルの管理情報を定義する情報である。この定義情報は、ディレクトリ121内でデータファイル名定義情報を識別するためのデータPTN、本データファイルに割当てられたファイル通し番号DFSN、本データファイルの親ファイルの通し番号PFSN、データファイルサイズDFS、本データファイルの付加情報が格納されるデータエリアを識別するためのAAID、当該付加情報を出力するか否かなどを規定するTYPE、データファイルのアクセス条件を示すDFAC、本データファイルの状態を保持するためのDFST、本データファイルの配下に位置するデータファイルおよびエリアにより使用されているバイト数US、および、これらのデータの正当性をチェックするためのデータBCCからなる。」

(カ)
「 【0028】
さて、これらのデータファイルには、それぞれサイズ情報が割当てられており、配下のデータファイルの総サイズの上限値を示すようになっている。このサイズ情報は、2バイトで構成されており、該サイズ情報が‘0000’であった場合には、当該データファイルでは上記上限値を規定しないデータファイルであると認識する。」

(キ)
「 【0029】
図6に、サイズ管理を行なうデータファイルと行なわないデータファイルとの混在例を示す。図中実線の箱は、サイズ管理を行なうよう指示されたデータファイルであり、それぞれ図示するようなバイト数をサイズとして有している。また破線の箱は、サイズ管理を行なわないよう指示されたデータファイルである。図示するように、サイズ管理を行なうデータファイルに対しては、後述するファイル創成コマンドにてサイズ値を指定するが、サイズ管理を行なわない場合には、この指定サイズ値を‘0000’とする。
【0030】
図6において、マスターファイル(MF)は、(6000b:3000b)となっているが、これは一次発行者に対して解放したMFサイズが6000バイトであり、かつ、MF直下に属するファイルの総サイズが3000バイトであることを示している。特に、各ファイル直下のエリアサイズの総数は、(当該ファイルの使用バイト数)-(配下のデータファイルが使用しているバイト数の総数)で与えられる。
【0031】
たとえば、DF1で使用されているバイト数が800バイト、また、DF2で使用されているバイト数(DF2は、サイズがあらかじめ割当てられているので、この割当てバイト数が、MFから見た場合の使用バイト数となる)が2000バイトである。したがって、MF配下のエリアが使用している総バイト数は200バイトであると認識する。同様にして、DF1直下のエリアが使用している総バイト数は100バイト、また、DF2のそれは500バイトと認識する。」

(ク)
「 【0032】
ファイルのサイズ管理は、その配下にデータファイルあるいはエリアを創成する際に、当該データファイルに割当てられたサイズの範囲以内で創成するように制御を行なうことである。図6の例では、各ファイル内にデータファイルあるいはエリアを創成する場合
に、以下のような対応関係で残りサイズを認識する。
(1)MF直下にエリアあるいはDFを創成する場合:
(MFサイズ)-(MFとしての使用サイズ)
(2)DF1直下にエリアあるいはDFを創成する場合:
(MFサイズ)-(MFとしての使用サイズ)
(3)DF1-1直下にエリアを創成する場合:
(MFサイズ)-(MFとしての使用サイズ)
(4)DF1-2直下にエリアを創成する場合:
(DF1-2サイズ)-(DF1-2としての使用サイズ)
(5)DF2直下にエリアあるいはDFを創成する場合:
(DF2サイズ)-(DF2としての使用サイズ)
(6)DF2-1直下にエリアを創成する場合:
(DF2サイズ)-(DF2としての使用サイズ)
(7)DF2-2直下にエリアを創成する場合:
(DF2-2サイズ)-(DF2-2としての使用サイズ)
【0033】
すなわち、あるファイル内に配下のファイルまたはエリアを創成しようとした場合には、当該ファイルを含めて上位レベルに見つかった、サイズ管理をしているファイルが管理する“割当てサイズ”と“使用サイズ”を元に未使用サイズを算出する。
【0034】
たとえば、DF1-1、DF1、およびMFがカレントファイルとなっていればMFが、また、DF1-2、DF2、およびDF2-2は自身が、また、DF2-1はDF2がそれぞれ対応する。」

(ケ)
「 【0035】
次に、図7によりICカード1の動作概念を説明する。図示するように、ICカード1は、電気的活性化後に命令データ待ち状態に移る。この時点で命令データを待ち続け、入力されると、命令データの先頭にある機能コードを抽出し、対応する命令ルーチンに移る。この後、命令ルーチンにて処理を行ない、この処理結果を出力後、命令データ待ち状態に戻る。」

(コ)
「 【0036】
図9および図10は、ファイル創成のための動作を説明するフローチヤートを示している。ICカード1が、図8に示すようなコマンド電文を受信すると、これらの機能コードから、ファイル創成コマンドであることを認識し、図9および図10に示すフローチヤートにしたがって処理が実行される。」

(サ)
「 【0040】
次に、当該コマンドにて与えられたファイルのサイズが、正当であるか否かをチェックする。このとき、データファイル創成コマンドであり、かつ、指定ファイルサイズが‘0000’であった場合には、当該コマンドにて生成されるデータファイル定義情報が使用するバイト数、それ以外の場合には、指定されたファイルサイズに生成される定義情報が使用するバイト数を合計したバイト数が、チェックの対象になる。
【0041】
このとき、カレントとなっているデータファイルのファイルサイズを確認し、これが‘0000’以外の場合には、このカレントデータファイル定義情報にて規定されているファイルサイズ、および使用サイズから、未使用サイズを計算する。
【0042】
また、カレントデータファイルのファイルサイズが‘0000’となっていた場合、該データファイルの親ファイルのファイルサイズを参照し、同様なチェックを行なう。このようにして、最終的にファイルサイズとして‘0000’以外の値を有するファイルの定義情報にて規定されているファイルサイズ、および使用サイズから、未使用サイズを計算する。
【0043】
たとえば、図6におけるDF1-1の配下にファイルを創成する場合、当該ファイルのサイズが‘0000’なので、その上層に位置するファイルのうち、サイズが‘0000’以外のファイル、すなわち、この例では図中のマスターファイルが対象となり、このマスターファイルが有するファイルサイズ(6000バイト)と使用サイズ(3000バイト)とから空きサイズ(3000バイト)を算出する。
【0044】
このステップにて算出されたファイルとしての空きサイズと、コマンドにて指定されたファイルサイズを基に創成のために必要なサイズとを比較する。これにより、空きサイズよりも、創成に必要なサイズの方が大きい場合、ファイルサイズ異常を示す応答データを出力し、コマンド待ち状態に戻る。」

(シ)
「 【0053】
次に、ファイルサイズの更新機能について図11により説明する。前述したように、各データファイルは、自身に割当てられたファイルサイズを保持するとともに、自身の配下に存在する全ファイルの総サイズを常に認識している。
【0054】
さて、あるファイルのサイズを変更する場合には、対象ファイルの親ファイルが、新規に配下のファイルを創成する際に認識する未使用サイズに、現在対象ファイルに割当てられているサイズを加算したものを上限とし、対象ファイル内で使用されているサイズを下限とする範囲で許容される。
【0055】
たとえば、図6のDF1-2において、現在の割当てバイト数を変更することを考える。このとき、変更可能なサイズは、親ファイルから見た未使用サイズが300バイトなので、上限は3500バイトであり、また、現在使用済みサイズが200バイトなので、これが下限である。ファイルサイズの変更は、カレントファイル配下のファイルのうち、コマンドにて指定されたものを対象に行なわれる。
【0056】
図12に示すようなファイルサイズ変更コマンドを受信すると、当該コマンド内の機能コードにより、ファイルサイズ変更コマンドであることを認識し、図11および図12に示すフローチヤートにしたがって処理が実行される。」

(ス)
「 【0057】
まず、コマンド実行条件が整っているかを、照合状態およびカレントファイルに規定されているアクセス条件とにより判断する。この判断でアクセス不可と判断された場合には、アクセス条件不可を示す応答データを出力し、コマンド待ち状態に戻る。
【0058】
アクセス可能と判断した場合には、次にコマンド中にて指定されている変更対象データファイル名が、ICカード1内に存在するか否かをチェックする。もし、存在しなければ、指定ファイルなしを示す応答データを出力し、コマンド待ち状態に戻る。」

(セ)
「 【0059】
もし、存在するのであれば、次にコマンドにより指定された変更用サイズが ‘0000’か否かを確認する。このとき、‘0000’以外であれば、先のファイル創成時と同様に、指定ファイルよりも上層に位置するファイルのうち、‘0000’以外の値をファイルサイズとして有するファイルの定義情報(これを参照ファイルと称する)を参照する。
【0060】
このときの、指定ファイルサイズの変更範囲は、参照ファイルの定義情報から算出された空きサイズに、指定ファイルが使用しているサイズを加算した値を上限とし、さらに指定ファイルサイズが使用しているサイズを下限とする。」

(ソ)
「 【0061】
次に、このサイズの変更範囲内に、コマンドにより指定された変更サイズが入っているかをチェックする。このとき、範囲外であれば、サイズ異常を示す応答データを出力し、コマンド待ち状態に戻る。範囲内であれば、これを基にして指定ファイル定義情報を再び作成する。また、コマンドにより指定された変更用サイズが‘0000’であった場合には、これを基に指定ファイル定義情報を再び作成する。」

(タ)
「 【0062】
次に、指定ファイルの定義情報を、再作成された定義情報に書換える。このとき、書込みが終了しなかった場合には、書込み異常を示す応答データを出力し、コマンド待ち状態に戻る。書換えが正常終了した場合には、次に指定ファイルの上層に位置するファイルに規定されている使用サイズを変更する。
【0063】
このとき、コマンドにより指定された変更用サイズが‘0000’以外であった場合には、変更前のサイズと変更後のサイズとの増減値により、使用サイズを変更する。また、‘0000’の場合には、変更前のサイズから指定ファイルにて指定されている使用サイズを差し引いた値を、上位に位置するファイルに規定されている使用サイズから差し引いて、これを変更する。」


以上の引用例2の記載によれば、引用例2には以下の事項が開示されていると認められる。

(a)
引用例2の上記(ウ)の
「図2は、ICカード1の構成例を示すものであり、制御部としての制御素子(たとえば、CPU)11、記憶内容が消去可能な不揮発性のデータメモリ12、ワーキングメモリ13、プログラムメモリ14、および、カードリーダ・ライタ2との電気的接触を得るためのコンタクト部15によって構成されている。・・・(中略)・・・データメモリ12は、各種データの記憶に使用され、たとえば、EEPROMなどで構成されている。」
という記載、

引用例2の上記(エ)の
「データメモリ12は、たとえば、図3に示すように、制御領域120、ディレクトリ121、空き領域122、および、エリア群123に分割されている。エリア群123は、複数のデータエリアおよびキーエリアを有することができ、かつ、データファイル(DF)と呼ばれる概念でグループ化することができる。・・・(中略)・・・なお、これらのエリアは、図3に示すように、エリア群123として一括して割当てられている。また、これらのファイルあるいはエリアは、データメモリ12内のディレクトリ121を用いることにより、それぞれの物理的位置などを制御素子11が認識するようになっている。」
という記載(なお、データファイルが「1又は2以上」であることは明らかである。)から、

引用例2には、「1又は2以上のデータファイルを格納可能なデータメモリを有するICカード」が開示されていると認められる。


(b)
上記(a)の「1又は2以上のデータファイルを格納可能なデータメモリを有するICカード」という開示、

引用例2の上記(ケ)の
「次に、図7によりICカード1の動作概念を説明する。図示するように、ICカード1は、電気的活性化後に命令データ待ち状態に移る。この時点で命令データを待ち続け、入力されると、命令データの先頭にある機能コードを抽出し、対応する命令ルーチンに移る。この後、命令ルーチンにて処理を行ない、この処理結果を出力後、命令データ待ち状態に戻る。」
という記載(なお、命令データがICカードの外部から送られることは明らかである。)、

引用例2の上記(シ)の
「次に、ファイルサイズの更新機能について図11により説明する。前述したように、各データファイルは、自身に割当てられたファイルサイズを保持するとともに、自身の配下に存在する全ファイルの総サイズを常に認識している。・・・(中略)・・・さて、あるファイルのサイズを変更する場合には、対象ファイルの親ファイルが、新規に配下のファイルを創成する際に認識する未使用サイズに、現在対象ファイルに割当てられているサイズを加算したものを上限とし、対象ファイル内で使用されているサイズを下限とする範囲で許容される。・・・(中略)・・・ファイルサイズの変更は、カレントファイル配下のファイルのうち、コマンドにて指定されたものを対象に行なわれる。・・・(中略)・・・図12に示すようなファイルサイズ変更コマンドを受信すると、当該コマンド内の機能コードにより、ファイルサイズ変更コマンドであることを認識し、図11および図12に示すフローチヤートにしたがって処理が実行される。」
という記載、

引用例2の上記(ソ)の
「次に、このサイズの変更範囲内に、コマンドにより指定された変更サイズが入っているかをチェックする。」
という記載、

引用例2の上記(タ)の「このとき、コマンドにより指定された変更用サイズが‘0000’以外であった場合には、変更前のサイズと変更後のサイズとの増減値により、使用サイズを変更する。」
という記載(なお、「変更前のサイズと変更後のサイズとの増減値」という記載から、ファイルのサイズを縮小又は拡大を意図していることは明らかである。)から、

引用例2には、「外部からのコマンドにより、外部から指定された変更サイズだけ指定されているデータファイルのサイズを縮小又は拡大する制御部」が開示されていると認められる。


(c)
上記(a)の「1又は2以上のデータファイルを格納可能なデータメモリを有するICカード」という開示、

引用例2の上記(オ)の
「図4(a2 )は、データファイルの管理情報を定義する情報である。この定義情報は、ディレクトリ121内でデータファイル名定義情報を識別するためのデータPTN、本データファイルに割当てられたファイル通し番号DFSN、本データファイルの親ファイルの通し番号PFSN、データファイルサイズDFS、本データファイルの付加情報が格納されるデータエリアを識別するためのAAID、当該付加情報を出力するか否かなどを規定するTYPE、データファイルのアクセス条件を示すDFAC、本データファイルの状態を保持するためのDFST、本データファイルの配下に位置するデータファイルおよびエリアにより使用されているバイト数US、および、これらのデータの正当性をチェックするためのデータBCCからなる。」
という記載、

引用例2の上記(ク)の
「ファイルのサイズ管理は、その配下にデータファイルあるいはエリアを創成する際に、当該データファイルに割当てられたサイズの範囲以内で創成するように制御を行なうことである。・・・(中略)・・・すなわち、あるファイル内に配下のファイルまたはエリアを創成しようとした場合には、当該ファイルを含めて上位レベルに見つかった、サイズ管理をしているファイルが管理する“割当てサイズ”と“使用サイズ”を元に未使用サイズを算出する。」
という記載、
(なお、「・・・、“使用サイズ”を元に・・・」は「・・・、“使用サイズ”を基に・・・」の誤記であると認められる。)

引用例2の上記(シ)の
「次に、ファイルサイズの更新機能について図11により説明する。前述したように、各データファイルは、自身に割当てられたファイルサイズを保持するとともに、自身の配下に存在する全ファイルの総サイズを常に認識している。・・・(中略)・・・さて、あるファイルのサイズを変更する場合には、対象ファイルの親ファイルが、新規に配下のファイルを創成する際に認識する未使用サイズに、現在対象ファイルに割当てられているサイズを加算したものを上限とし、対象ファイル内で使用されているサイズを下限とする範囲で許容される。・・・(中略)・・・たとえば、図6のDF1-2において、現在の割当てバイト数を変更することを考える。このとき、変更可能なサイズは、親ファイルから見た未使用サイズが300バイトなので、上限は3500バイトであり、また、現在使用済みサイズが200バイトなので、これが下限である。ファイルサイズの変更は、カレントファイル配下のファイルのうち、コマンドにて指定されたものを対象に行なわれる。」
という記載から、

引用例2には、「前記データファイルは、自身に割当てられた割当てサイズと使用サイズを含む管理情報を保持しており、前記割当てサイズと前記使用サイズを基に未使用サイズを算出可能」であることが開示されていると認められる。


(d)
上記(c)の「前記データファイルは、自身に割当てられた割当てサイズと使用サイズを保持しており、前記割当てサイズと前記使用サイズを基に未使用サイズを算出可能」であるという開示、

引用例2の上記(シ)の
「次に、ファイルサイズの更新機能について図11により説明する。前述したように、各データファイルは、自身に割当てられたファイルサイズを保持するとともに、自身の配下に存在する全ファイルの総サイズを常に認識している。」
という記載、

引用例2の上記(カ)の
「さて、これらのデータファイルには、それぞれサイズ情報が割当てられており、配下のデータファイルの総サイズの上限値を示すようになっている。このサイズ情報は、2バイトで構成されており、該サイズ情報が‘0000’であった場合には、当該データファイルでは上記上限値を規定しないデータファイルであると認識する。」
という記載、

引用例2の上記(ク)の
「ファイルのサイズ管理は、その配下にデータファイルあるいはエリアを創成する際に、当該データファイルに割当てられたサイズの範囲以内で創成するように制御を行なうことである。
・・・(中略)・・・
(2)DF1直下にエリアあるいはDFを創成する場合:
(MFサイズ)-(MFとしての使用サイズ)
(3)DF1-1直下にエリアを創成する場合:
(MFサイズ)-(MFとしての使用サイズ)
・・・(中略)・・・
(6)DF2-1直下にエリアを創成する場合:
(DF2サイズ)-(DF2としての使用サイズ)
・・・(中略)・・・
すなわち、あるファイル内に配下のファイルまたはエリアを創成しようとした場合には、当該ファイルを含めて上位レベルに見つかった、サイズ管理をしているファイルが管理する“割当てサイズ”と“使用サイズ”を基に未使用サイズを算出する。」
という記載、
(すなわち、ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル(DF1,DF1-1,DF2-1)の未使用サイズは、上位レベルのファイルの未使用サイズに等しい。
なお、「・・・、“使用サイズ”を元に・・・」は「・・・、“使用サイズ”を基に・・・」の誤記であると認められる。)

引用例2の上記(サ)の
「次に、当該コマンドにて与えられたファイルのサイズが、正当であるか否かをチェックする。このとき、データファイル創成コマンドであり、かつ、指定ファイルサイズが‘0000’であった場合には、当該コマンドにて生成されるデータファイル定義情報が使用するバイト数、それ以外の場合には、指定されたファイルサイズに生成される定義情報が使用するバイト数を合計したバイト数が、チェックの対象になる。・・・(中略)・・・また、カレントデータファイルのファイルサイズが‘0000’となっていた場合、該データファイルの親ファイルのファイルサイズを参照し、同様なチェックを行なう。・・・(中略)・・・たとえば、図6におけるDF1-1の配下にファイルを創成する場合、当該ファイルのサイズが‘0000’なので、その上層に位置するファイルのうち、サイズが‘0000’以外のファイル、すなわち、この例では図中のマスターファイルが対象となり、このマスターファイルが有するファイルサイズ(6000バイト)と使用サイズ(3000バイト)とから空きサイズ(3000バイト)を算出する。」
という記載(なお、「空きサイズ」が、上記(c)等にある「未使用サイズ」と同じ意味であることは明らかである。)から、

引用例2には、「前記データファイルには、親ファイルの未使用サイズを自身の未使用サイズとする『ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル』」があることが開示されていると認められる。


(e)
上記(b)の「外部からのコマンドにより、外部から指定された変更サイズだけ指定されているデータファイルのサイズを縮小又は拡大する制御部」という開示、

上記(c)の「前記データファイルは、自身に割当てられた割当てサイズと使用サイズを含む管理情報を保持しており、前記割当てサイズと前記使用サイズを元に未使用サイズを算出可能」であることという開示、

上記(d)の「前記データファイルには、親ファイルの未使用サイズを自身の未使用サイズとする『ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル』」があるという開示、

引用例2の上記(タ)の
「次に、指定ファイルの定義情報を、再作成された定義情報に書換える。・・・(中略)・・・書換えが正常終了した場合には、次に指定ファイルの上層に位置するファイルに規定されている使用サイズを変更する。・・・(中略)・・・このとき、コマンドにより指定された変更用サイズが‘0000’以外であった場合には、変更前のサイズと変更後のサイズとの増減値により、使用サイズを変更する。また、‘0000’の場合には、変更前のサイズから指定ファイルにて指定されている使用サイズを差し引いた値を、上位に位置するファイルに規定されている使用サイズから差し引いて、これを変更する。」
という記載から、

引用例2には、「前記制御部は、前記管理情報に含まれる使用サイズを変更しようとするデータファイルが前記『ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル』である場合は、前記変更しようとするデータファイルの上層に位置する前記親ファイルの管理情報に含まれる使用サイズを前記指定された変更サイズに基づいて変更すること」が開示されていると認められる。


以上の引用例2の記載によれば、引用例2には下記の発明(以下、「引用例2発明」という。)が開示されていると認められる。

「1又は2以上のデータファイルを格納可能なデータメモリを有するICカードにおいて、
外部からのコマンドにより、外部から指定された変更サイズだけ指定されているデータファイルのサイズを縮小又は拡大する制御部を有し、
前記データファイルは、自身に割当てられた割当てサイズと使用サイズを含む管理情報を保持しており、前記割当てサイズと前記使用サイズを基に未使用サイズを算出可能であり、
前記データファイルには、親ファイルの未使用サイズを自身の未使用サイズとする『ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル』があり、
前記制御部は、前記管理情報に含まれる使用サイズを変更しようとするデータファイルが前記『ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル』である場合は、前記変更しようとするデータファイルの上層に位置する前記親ファイルの管理情報に含まれる使用サイズを前記指定された変更サイズに基づいて変更すること
を特徴とするICカード。」



4.対比

本願発明と引用例1発明とを対比する。

(1)
引用例1発明の「コマンド」及び「拡張」は、それぞれ、

本願発明の「命令」及び「拡大」に相当する。


(2)
引用例1発明の「1又は2以上のファイルを格納可能なメモリを有するICカード」は、

本願発明の「1又は2以上のファイルを格納可能なメモリを有するICカード」に相当する。


(3)
引用例1発明の「外部機器からのコマンドにより、外部機器から指定された拡張サイズだけ選択されているファイルの容量を拡張するファイル拡張手段」と、

本願発明の「外部からの命令により、外部から指定された指定容量だけ選択されているファイルの容量を縮小又は拡大する容量変更手段」とは、

「外部からの命令により、外部から指定された指定容量だけ選択されているファイルの容量を拡大する容量変更手段」という点で一致し、

本願発明では、ファイルの容量の「縮小」もできるのに対し、
引用例1発明では、ファイルの容量の「縮小」もできるのか不明である点、
で相違する。


(4)
引用例1発明の「前記ファイルは、自己のファイルの容量を記憶する記憶部」を有することと、

本願発明の
「前記ファイルは、自己の空き容量を記憶する空き容量記憶部を有し、
前記ファイルには、親ファイルの空き容量を自己の空き容量とする容量親依存ファイルがあり、
前記容量変更手段は、前記空き容量記憶部の内容を変更しようとするファイルが前記容量親依存ファイルである場合は、前記変更しようとするファイルの上位階層にある前記親ファイルの空き容量記憶部の内容を前記指定容量に基づいて変更すること」とは、

「前記ファイルは、自己の容量を記憶する容量記憶部」 を有することで一致し、

本願発明では、ファイルが記憶する容量はファイルの「空き容量」であるのに対し、
引用例1発明では、ファイルが記憶する容量は「ファイルの容量」である点、

また、

本願発明は、
「前記ファイルには、親ファイルの空き容量を自己の空き容量とする容量親依存ファイルがあり、
前記容量変更手段は、前記空き容量記憶部の内容を変更しようとするファイルが前記容量親依存ファイルである場合は、前記変更しようとするファイルの上位階層にある前記親ファイルの空き容量記憶部の内容を前記指定容量に基づいて変更すること」ができるものであるのに対し、
引用例1発明は、そのことができるものではない点、

で相違する。


(5)
以上のことから、本願発明と引用例1発明とは、

「1又は2以上のファイルを格納可能なメモリを有するICカードにおいて、
外部からの命令により、外部から指定された指定容量だけ選択されているファイルの容量を拡大する容量変更手段を有し、
前記ファイルは、自己の容量を記憶する容量記憶部を有すること
を特徴とするICカード。」

という点で一致し、

(相違点1)
本願発明では、ファイルの容量の「縮小」もできるのに対し、
引用例1発明では、ファイルの容量の「縮小」もできるのか不明である点、


(相違点2)
本願発明では、ファイルが記憶する容量はファイルの「空き容量」であるのに対し、
引用例1発明では、ファイルが記憶する容量は「ファイルの容量」である点、

また、

本願発明は、
「前記ファイルには、親ファイルの空き容量を自己の空き容量とする容量親依存ファイルがあり、
前記容量変更手段は、前記空き容量記憶部の内容を変更しようとするファイルが前記容量親依存ファイルである場合は、前記変更しようとするファイルの上位階層にある前記親ファイルの空き容量記憶部の内容を前記指定容量に基づいて変更すること」ができるものであるのに対し、
引用例1発明は、そのことができるものではない点、


で相違する。



5.判断

(1)相違点1について

引用例1発明には、ファイルの容量を縮小することは明記されていないものの、ファイルの容量の変更という処理として、ファイルの容量の拡大以外に、ファイルの容量の縮小という処理があることは、情報処理分野(ICカードの技術分野を含む。)における周知技術である。


実際、引用例1発明と同一の技術分野に属する引用例2発明、すなわち、

「1又は2以上のデータファイルを格納可能なデータメモリを有するICカードにおいて、
外部からのコマンドにより、外部から指定された変更サイズだけ指定されているデータファイルの使用サイズを縮小又は拡大する制御部を有し、
・・・(中略)・・・
を特徴とするICカード。」

には、ICカード分野において、ファイルの容量を拡張したり、ファイルの容量を「縮小」したりすることが開示されている。


したがって、引用例1発明に対して、引用例2発明にも示される周知技術を適用することによって、ファイルの容量の拡大だけでなく、ファイルの容量の「縮小」にも対応することは、当業者が容易に想到し得ることである。



(2)相違点2について

引用例1発明と同一の技術分野に属する引用例2発明は、上述したように、ICカードに対して、

データファイルの一種として、
「親ファイルの未使用サイズを自身の未使用サイズとする『ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル』」
(本願発明の「親ファイルの空き容量を自己の空き容量とする容量親依存ファイル」に相当する。)
を導入して、

「制御部は、前記管理情報に含まれる使用サイズを変更しようとするデータファイルが前記『ファイルのサイズが‘0000’に設定されたデータファイル』である場合は、前記変更しようとするデータファイルの上層に位置する前記親ファイルの管理情報に含まれる使用サイズを前記指定された変更サイズに基づいて変更すること」により、
(変更しようとする対象が「空き容量記憶部の内容」と「管理情報に含まれる使用サイズ」とで異なる点を除き、
本願発明の「容量変更手段は、前記空き容量記憶部の内容を変更しようとするファイルが前記容量親依存ファイルである場合は、前記変更しようとするファイルの上位階層にある前記親ファイルの空き容量記憶部の内容を前記指定容量に基づいて変更すること」に対応する。)

ファイル管理を行うものである。


ここで、引用例2発明と本願発明とは、
引用例2発明では、変更しようとする対象が「管理情報に含まれる使用サイズ」であるのに対し、
本願発明では、変更しようとする対象が「空き容量記憶部の内容」(すなわち、「自己の空き容量を記憶する空き容量記憶部」の内容)である点、
で相違するものの、

・引用例2発明では、「前記データファイルは、自身に割当てられた割当てサイズと使用サイズを含む管理情報を保持しており、前記割当てサイズと前記使用サイズを元に未使用サイズを算出可能」であること、

・「割当てサイズ」=「使用サイズ」+「未使用サイズ」(本願の「空き容量」に相当する。)という関係にあるのであるから、「使用サイズ」と「未使用サイズ」の両方を記憶しておく必要はなく、どちらか片方を記憶しておけばよいことは明らかであること、

の2点を鑑みれば、引用例2発明において、外部から指定された変更サイズだけ指定されているデータファイルのサイズを縮小又は拡大する際、

・「管理情報」に「使用サイズ」を含めるか、「管理情報」に「未使用サイズ」を含めるか、という選択、

及び、当該選択に伴う、

・変更しようとする対象を「管理情報に含まれる使用サイズ」とするのか、変更しようとする対象を「管理情報に含まれる未使用サイズ」とするのか(すなわち、変更しようとする対象を「空き容量記憶部の内容」とするのか)、という選択、

は当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。


以上のことから、引用例1発明に対して、引用例2発明のICカードにおけるファイル管理技術を適用できるように、

引用例1発明の「ファイル」が有する「自己のファイルの容量を記憶する記憶部」に、変更しようとする対象である「空き容量」を記憶した上で、
(すなわち、引用例1発明の「前記ファイルは、自己のファイルの容量を記憶する記憶部」を有する構成を、本願発明のような「前記ファイルは、自己の空き容量を記憶する空き容量記憶部」を有する構成にした上で、)

引用例2発明のICカードにおけるファイル管理技術を適用し、本願発明のように
「前記ファイルには、親ファイルの空き容量を自己の空き容量とする容量親依存ファイルがあり、
前記容量変更手段は、前記空き容量記憶部の内容を変更しようとするファイルが前記容量親依存ファイルである場合は、前記変更しようとするファイルの上位階層にある前記親ファイルの空き容量記憶部の内容を前記指定容量に基づいて変更すること」
ができるように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。



6.むすび

したがって、本願発明は、引用例1発明、引用例2発明、および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-03 
結審通知日 2009-07-07 
審決日 2009-07-21 
出願番号 特願平8-322692
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 嘉晃高瀬 勤  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 小曳 満昭
和田 財太
発明の名称 ICカード  
代理人 正林 真之  

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