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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200520470 | 審決 | 特許 |
不服200511006 | 審決 | 特許 |
不服20068226 | 審決 | 特許 |
不服200414034 | 審決 | 特許 |
不服20043530 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1203197 |
審判番号 | 不服2005-23929 |
総通号数 | 118 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-12-12 |
確定日 | 2009-08-10 |
事件の表示 | 平成9年特許願第67183号「目の下の皮膚のくすみをとるための合成物と方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年2月3日出願公開、特開平10-29929〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成9年2月14日(パリ条約による優先権主張1996年2月15日 米国)の出願であって,その請求項に係る発明は,平成17年8月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであって,そのうち独立項形式で記載されている請求項1,8及び11に係る発明は,以下のとおりである。 「【請求項1】眼の下に見出される皮膚の変色をぬり薬によって治すための組成物であって,(a)0.5から10.0%の活性酵母菌セル誘導体,(b)0.5から10.0%のマグネシウム・りん酸アスコルビン,(c)0.1から5.0%のさく酸トコフェロール,(d)0.01から1.0%のパルミチン酸レチノール,および(e)これら原料の活性レベルを保持する賦形剤から構成されるぬり薬用組成物。」 「【請求項8】眼の下に現れる皮膚の変色をぬり薬によって治すための組成物であって,(a)0.5から10.0%の活性酵母菌セル誘導体,(b)0.5から10.0%のマグネシウム・りん酸アスコルビン,および(c)これら原料の活性レベルを保持する賦形剤から構成される組成物。」 「【請求項11】眼の下に現れる皮膚の腫れのぬり薬による治療のための組成物であって,それがその基剤の活性レベルを維持する賦形剤に対して0.5から10.0%までの活性酵母菌セル誘導体を含んでいる組成物。」 (以下,請求項1,同8及び同11に係る各発明を,それぞれ「本願発明1」,「本願発明8」及び「本願発明11」という。また,これらをまとめて「本願発明」ということもある。) 2.引用刊行物 これに対して,当審において通知した平成20年8月20日付け拒絶理由通知書で引用した,本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物A?Gには,それぞれ以下のことが記載されている。 A."Live Yeast Cell Derivative," Cosmetics & Toiletries, Vol.110, p.65-70 (1995) B.特開平1-75423号公報 C.特開平6-239758号公報 D.特開平2-49710号公報 E.特開平5-186324号公報 F.特開平4-26610号公報 G.特表昭62-502546号公報 2-1.刊行物A(Cosmetics & Toiletries, Vol.110, p.65-70 (1995))の記載事項(英文のため訳文で摘示する。) (A-1)(第65頁左欄下から4行?第66頁右欄下から5行) 「生酵母細胞誘導体(LYCD)は制御された損傷への生細胞の反応に基づいている。そして,それは,危害の影響を緩和するために保護物質を生産するようにそれを刺激する。この製品は,1940年代にアメリカで最初に製造され特許権を得た,そしてOTCの痔疾部製品として使われてきた。 製造プロセス:我々の製造プロセスは,生酵母培養菌と,化粧的使用のために特に役に立つ,かつ安全な成分を生産するために,それらの代謝プロセスを振り向けるのを助けるために,それら環境を変更することを利用する。このプロセスは,匂いが少なく色も明るい化粧品的品質のLYCD材料の生産を可能にする。 酵母培養菌は発酵器に置かれて,制御された温度の下で完全に通気性で適切な栄養を含む培地で,生存能力を養われる。生酵母細胞は,それから「損傷を加えられる」,すなわち紫外線(286nm)照射を受ける。細胞は反応して,いろいろな保護物質を生産する。 細胞の生化学変化は,UV分光光度計で256?258nmでの吸収を分析することによってモニターされる…。これは,細胞の核酸構成の変化を示す。複雑な生化学保護メカニズムが完了するまで,最高数日の間「損傷」工程は続けられる。 我々は,最終的には,タンパク質分解酵素で細胞壁を壊すことによって発酵を止める。我々はそれから遠心分離によって不溶性細胞壁材料の大半を取り除き,細胞原形質を残す。可溶性原形質の抽出物は,それから生物学的活性のために濃縮されて分析される。 LYCD抽出物は凍結乾燥または噴霧乾燥により濃縮される。それは,透明な,濾過された,ほとんど無臭で,ほとんど無色の溶液として提供される。濾過により,残留細胞壁破片を除去し,活性に影響がないようにする。」 (A-2)(第66頁右欄下から3行?第67頁左欄第12行) 「まず最初に,生きた組織による酸素取り込みを促進する酵母菌の能力は,ビタミンB含有物が担っていると考えられた,しかし,広範囲な研究の後,これはそうでないことが示された。この広範囲な調査の趣旨は胎盤抽出物のために実行された研究と類似していた,そして,最近,LYCDがこの興味深い抽出物に代わる非動物的なものとして使われることになった。 LYCDの生化学活動は炭水化物とペプチドの両方の画分に由来するようである,しかし,材料は非常に複雑で,そして,この活性の性質はまだきちんと確認されていない。 我々は,LYCDが細胞のミトコンドリアによって酸素使用を容易にすると信じている。それゆえに,細胞の呼吸およびエネルギープロセスは,より効率的となる。このことは,増大された細胞活動に反映した。」 (A-3)(第67頁左欄第13?末行) 「長年にわたって,創傷治癒を促進するLYCDの能力に関して焦点が当てられてきた。これは,LYCDが適用されるときのコラーゲン生産を促進する線維芽細胞の測定,及び,LYCDが開いた切り傷に適用されるときの人体の創傷治癒の加速,によってテストされてきた。これらの特性は興味深いものであるが,それらは無傷の皮膚への適用を意図した化粧用の調合剤のためのものではない。 むしろ,化粧製剤における最も大きな関心のある性質は,その鎮静化及び皮膚回復性質とともにコラーゲン及びエラスチンの形成促進するLYCDの能力である。 湿潤剤:LYCDはユニークな内部的な湿潤剤と考えられる。そして,それは皮膚細胞の中の発生期のタンパク質によって水分取り込みを増やすこと,及び,皮膚が酸素を使うのを助けることによって皮膚を膨潤させる。…」 (A-4)(第67頁右欄第6?23行) 「試験 我々は,23人の被験者に対して,LYCD添加,及び,無添加の顔ローションの比較試験を行った。LYCD添加クリームは顔の片方に塗布された;LYCDのない比較クリームは反対側塗布された。12人の被験者はクリームCを右側に塗布し,11人の被験者はCを左側に塗布した。2人の評価者によって,1週後,2週後と3週後の観察により,両側が調べられ評価された。1週後に,パネリストのうちの19人は,LYCDを含んでいる製剤をよりいいとした。逸話的な報告として,パネリストは,顔の皮はよりなめらかな感触がして,よりすっきりした顔色をしているようで,かつより健康に見えたとしている。パネリストの何人かは,特に彼らの目の上の区域で,細い皺の縮小を報告した。興味深いことに,パネリストはより一層新鮮な/冷んやりした感覚により,LYCD添加製剤を簡単に同定することができた。乾燥肌のパネリストは,ひりひり痛む/ずきずき痛むと,時々表明した。この効果は,刺激によるものでなく,干からびた組織の急速な再水和のためであった。 (A-5)(第67頁右欄下から27行?第68頁右欄5行) 「さらに最近では,我々はLYCD(製剤において0.5%活性量)を含んでいるリポソームを10%含有む製剤をテストした。我々は,この製剤を0.7%のLYCD(製剤2参照)を含む対照製剤と比較した。6人の被験者は,左側の顔に0.5%の製剤を,右側には0.7%の製剤塗布した。結果は,30分,2時間と4時間で比較された。この試験において,8人のパネリストのうちの7人は,リポソームを含む製剤がより速い冷却の効果を与えたので,ほとんどすぐに2つの製剤の間の違いを伝えることができた。」 (A-6)(第68頁右欄6?16行) 「LYCDを含む製剤の鎮静及び冷却特性は,特に日焼けした皮膚の上で印象的である。我々は,0.7%のLYCDを含むエモリエントローションと,局所麻酔薬(benzocaine)の0.5%を含む市販の抗炎症性ローションとの比較研究を行った。テスト管理者は,12人の正常な肌色をした被験者の背中に製剤を塗布した。12人の被験者のパネルの結果は,LYCD製剤が市販の対照ローションと製剤より優れていること,及び,この製剤が痛みと不快感を最小にする活性をもたないこと,を示した。」 2-2.刊行物B(特開平1-75423号公報)の記載事項 (B-1)(公報第2頁左上欄下から4行?右上欄第1行) 「細胞賦活効果とは細胞の恒常性を維持するために細胞の必要とする栄養分を供給することであるため,この混合組成物を栄養源として皮膚に与え,荒れ肌や老化にともなう皮膚のシワくすみを改善するものである。」 2-3.刊行物C(特開平6-239758号公報)の記載事項 (C-1)(【0003】) 「これに対し,肌細胞への血行を促進することにより,くすみのない健康的な顔色を実現させるという試みがある。すなわち,血行を促進して皮膚細胞層へ栄養成分や水分を十分に補給し,それによって新陳代謝が活発化され,かつ皮膚末梢での血液循環がよく保たれた結果,皮膚細胞は理想的な状態に維持され,顔面においてくすみのない美しく健康的な皮膚色が創り出せるという考えによる。」 2-4.刊行物D(特開平2-49710号公報 )の記載事項 (D-1)(公報第1頁右下欄下から2行?同第2頁左上欄第12行) 「肌(皮膚)の黒化には色素のメラニンが深く関与しているものと考えられている。すなわち,メラニンが紫外線等の外的刺激を受けて肌の皮膚組織で生産され,そのために肌の黒化が促進されシミ・ソバカス・色黒等の症状が引き起こされるものと考えられている。 肌の美白の作用機序としていくつか挙げられるが,その一つとしてメラニンの生成に関与するチロシナーゼ(酵素)の活性化を抑制することが提唱されており,肌の美白に関する他の作用機序として皮膚細胞の新陳代謝を活性化することにより皮膚等に沈着したメラニン色素等のターンオーバーを促進し,もってシミ・ソバカス・色黒等の症状を解消しようとするものである。」 2-5.刊行物E(特開平5-186324号公報)の記載事項 (E-1) 「【請求項1】(a)甘草から抽出された油溶性エキス,(b)アスコルビン酸及びその誘導体,胎盤抽出物,コウジ酸及びその誘導体,グルコサミン及びその誘導体,アゼライン及びその誘導体,レチノール及びその誘導体,ピリドキシン及びその誘導体,パントテン酸及びその誘導体,アルブチン及びその誘導体,トコフェロール及びその誘導体,ヒドロキシケイ皮酸及びその誘導体,羌活,センキュウ,ビャクシ,藁本,独活,前胡,紫胡,等のセリ科植物抽出物,防風,浜防風,西洋きのこ,マンネンタケ菌糸体培養物またはその抽出エキス,ギムネマの葉,リンゴ,サクラ,ナシ,モモの幹皮,リンゴの葉,アセビ,アマシバの葉,キトサン,キトサン分解物,カフェイン酸誘導体,ヒノキチオール,ニンジンエキス及びイオウからなる群より選ばれた1種または2種以上の成分,及び(c)抗炎症剤を配合したことを特徴とする美白化粧料。」 (E-2)(【0001】) 「本発明は紫外線による皮膚の黒化あるいはシミ,ソバカスなどの皮膚色素沈着の淡色化もしくは予防に有効な美白化粧料に関する。」 2-6.刊行物F(特開平4-26610号公報)の記載事項 (F-1)(「特許請求の範囲」) 「ヘチマ水と;プラセンタエキス,リノール酸およびその塩またはエステル,リノレン酸およびその塩またはエステル,トウキエキス,エイコサペンタエン酸およびその塩またはエステル,ヘキサドコサエン酸およびその塩またはエステル,パントテン酸およびその塩またはエステル,ビタミンA,ビタミンB,ビタミンEおよびその塩またはエステル,感光素201号,感光素401号並びにコウジ酸およびその塩またはエステルより選ばれた少なくとも1種の成分とを配合したことを特徴とする美白化粧料。」 (F-2)(公報第1頁左下欄下から3行?同頁右上欄第1行) 「本発明は,日焼け(紫外線)による皮膚の黒化あるいはシミ,ソバカスなど皮膚の色素沈着を消失もしくは淡色化し,あるいはこれらを予防する美白化粧料に関する。」 2-7.刊行物G(特表昭62-502546号公報)の記載事項 (G-1) 「実施例6 顔の目尻のしわ,すじ及びしわの肉眼による消失及び皮膚のテクスチュアの改善をもたらすレチノールの能力を測定するために,6ケ月間の研究を行った。テストは,テストの人の半分に処方Cを適用し他の半分に処方Dを用いる,スプリット・フェースの基準により行われた。 … 目尻のしわ,目の下の領域,ほほ及び口唇を処置した。適用は,1日1回行われた。 テストの開始後2ケ月以内に,レチノール処方の利点は明らかであった。皮膚のテクスチュアの改善が,パネリストの目尻のしわ及びほほの領域で観察された。目尻のしわ及び目の下の領域の細いすじの軟化又は滑かさも又認められた。 3ケ月の終りに,目尻のしわ及び目の下の領域のすしの減少が,2ケ月間の終りよりも多くのパネリストに見られた。又,2ケ月と3ケ月との間の観察に,目尻のしわ及びほほの領域の皮膚のテクスチュアに,大きな改善があった。さらに,目の下のテクスチュアの改善及び目尻のしわ,目の下そしてほぼの領域のかさつきの減少も明らかであった。 処置の4ケ月後に,本発明の処方により処理された皮膚の領域は,顕著な改善を示した。皮膚のかさつき及びテクスチュアは,4種のすべての処置領域で改善した。すじ及びしわは,目尻のしわ,目の下そしてほぼの領域で減少した。目尻のしわ及び目の下の領域の皮膚は,又堅さで顕著な改善を示した。 処置6ケ月の終りに,本発明の処方の有利さは,充分に明らかであった。口唇の領域を除いて,処置された皮膚のテクスチュアに肉眼による改善があり,そして処置された皮膚は,明らかに触れて滑らかであった。又,目尻のしわ及び目の下の領域における細いすじ及び/又はしわの数の明らかな減少があり,より少い程度でほほにもあった。」 3.対比・検討 3-1.請求項1に係る発明について (1)一致点・相違点 上記した(A-4)には「LYCD」を配合した化粧クリーム製剤を使用することが記載されていて,該「LYCD」は,(A-1)に記載の「生酵母細胞誘導体(LYCD)」であり,また(A-5)には,具体的に「LYCD」の配合量が示されていることから,これらの記載を総合すると,刊行物Aには,「生酵母細胞誘導体(LYCD)を0.5%又は0.7%含有する顔の皮膚に塗布するための化粧料クリーム製剤」(以下,「引用発明1」という。)が記載されているものと解される。 そこで本願発明1と引用発明1とを対比すると,本願明細書における「活性酵母菌セル誘導体」の製造方法と,上記(A-1)の記載との比較から,本願発明1における「活性酵母菌セル誘導体」は,引用発明1における「生酵母細胞誘導体(LYCD)」に相当し,その配合量も重複するものである。 また,化粧用クリーム製剤は,通常,賦形剤を含むものであって,刊行物Aにおいても,使用されている賦形剤によって「生酵母細胞誘導体(LYCD)」の活性は保持されているものと解される。 したがって,両発明は, 「0.5から10.0%の活性酵母菌セル誘導体を含み,顔の皮膚に塗布するための組成物。」である点で一致し,以下の点で相違するものである。 <相違点1>本願発明1では,眼の下に見出される皮膚の変色を治すための組成物であるにの対して,引用発明は顔の皮膚に適用するための組成物である点。 <相違点2>本願発明1では,さらに(b)0.5から10.0%のマグネシウム・りん酸アスコルビン,(c)0.1から5.0%のさく酸トコフェロール,及び,(d)0.01から1.0%のパルミチン酸レチノールを含んでいるのに対して,引用発明ではそのような成分を含んでいない点。 (2)相違点の検討 (2-1)相違点1について 刊行物Aには,生酵母細胞誘導体(LYCD)が生きた組織による酸素取り込みを促進する能力があって,細胞活動を活発にする成分が含まれている旨の記載がなされていて(A-2),しかも,これを実際に化粧料成分として配合して,被験者の顔の皮膚に適用して,顔の皮がより滑らかな感触がする,細い皺が縮小するなどの効果が奏されたことも記載されている(A-4)。 このような記載からすれば,刊行物Aに記載の「生酵母細胞誘導体(LYCD)」が,実際に化粧料に配合した場合にも細胞賦活効果をもつものであることが,当業者には容易に理解されるものである。 一方,肌のくすみや黒化の改善のために,細胞賦活効果をもつ成分を利用することは,刊行物B?Dに記載のように本願優先権主張日前から行われていることである。 したがって,引用発明に配合されている「生酵母細胞誘導体(LYCD)」の細胞賦活効果に着目して,これを皮膚の変色を治すための組成物とすることは当業者が容易に想到することであるし,また本願発明1は「眼の下」という特定の区域に発生する変色に対するものであるが,顔の皮膚という点では同様であるので,実際に被験者の顔の皮膚に対して適用して効果があることが示されている引用発明に係る組成物を,「眼の下」という特定区域に対しても使用することが,当業者にとって格別の創意工夫を要することとすることはできない。 (2-2)相違点2について ビタミンCとして知られているアスコルビン酸の誘導体,ビタミンEとして知られているトコフェロールの誘導体,及び,ビタミンAとして知られているレチノールの誘導体等の各種ビタミン類が細胞賦活効果をもつこと,或いは,各種ビタミン類は,肌の美白や顔色改善のために本願優先権主張日前から当業者に汎用されていた成分であることは,例えば,刊行物E?Gに示されているとおりである。 そして,化粧料分野においては,作用・効果が知られている各種成分を組み合わせて使用することは,適宜行われていることであるので,引用発明の「生酵母細胞誘導体(LYCD)」に加えて,アスコルビン酸誘導体やトコフェロール誘導体等,及び,レチノール誘導体等の各種ビタミン類を適宜組み合わせることは当業者が容易になし得ることである。 そして,本願明細書においては,例えば,本願発明1に係る組成物により従来の肌色改善化粧品では奏し得ない特有の効果が奏されたというような,従来化粧品との作用効果の比較に関する記載がなされておらず,単に本願発明に係る組成物に関する試験結果が記載されているだけであるので,本願発明1により従来技術では奏し得ない格別顕著な効果が奏されたものとすることができない。 よって,本願発明1は,上記刊行物A記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3-2.請求項8に係る発明について 本願発明8は,本願発明1に係る組成物に配合されている成分の中から,「(c)0.1から5.0%のさく酸トコフェロール」及び「(d)0.01から1.0%のパルミチン酸レチノール」を除いたものに相当する。 したがって,上記3-1.に記載した本願発明1と同様な理由により,本願発明8は,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。 3-3.請求項11に係る発明について (1)一致点・相違点 上記3-1.で記載したように,刊行物Aには,引用発明,すなわち「生酵母細胞誘導体(LYCD)を0.5%又は0.7%含有する顔の皮膚に塗布するための化粧料クリーム製剤」が記載されているものと解される。 そこで,3-1.に記載したと同様に,本願発明11と引用発明とを対比すると,両発明は, 「0.5から10.0%の活性酵母菌セル誘導体を含み,顔の皮膚に塗布するための組成物。」である点で一致し,以下の点で相違する。 <相違点>本願発明1では,眼の下に現れる皮膚の腫れの治療のための組成物であるにの対して,引用発明は顔の皮膚に適用するための組成物である点。 (2)相違点の検討 刊行物Aの(A-3)には,「生酵母細胞誘導体」が皮膚の鎮静化効果をもつ旨記載されていて,また(A-6)には,「LYCDを含む製剤の鎮静及び冷却特性は,特に日焼けした皮膚の上で印象的である。」と記載しつつ,背中の皮膚に対する試験ではあるものの,実際に被験者の皮膚に対して適用し効果を確認したことも記載されている。 してみれば,「生酵母細胞誘導体」が配合された引用発明に係る化粧料製剤を皮膚の腫れに対して使用することは,当業者が容易になし得ることであるし,また,たとえ「眼の下」という特定の区域に発生する腫れに対するものであったとしても,「化粧製剤における最も大きな関心のある性質は,その鎮静化…性質とともに…するLYCDの能力である。」(A-3)と記載されていることに加えて,人の皮膚に対する鎮静・冷却特性も確認されたことが記載されている(A-6)ので,そのような引用発明に係る「生酵母細胞誘導体(LYCD)」が配合された組成物を,「眼の下」という特定区域に対しても使用することが,当業者にとって格別の創意工夫を要することとすることはできない。 そして,上記3-1.でも記載したように,本願明細書の記載からは,本願発明11により従来技術では奏し得ない格別顕著な効果が奏されたものとすることができない。 したがって,本願発明11は,上記刊行物A記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお,審判請求人は,刊行物Aには,LYCDの活性を裏付ける試験データがなく,単に「…と信じている。」とのみ記載されていることを指摘するが,刊行物Aにおいては,LYCDの活性としての「生きた組織による酸素取り込みを促進する」能力や「細胞活動を増大する」働きは,既に確認されている事項を記載したものと理解できる一方,そのメカニズムについては詳細が明らかになっておらず,そのためメカニズムに関する部分に関しては「…と信じている。」との記載に止まっているものと理解されるので,このような刊行物Aの記載に基づいて,上記3-1.で記載したように「刊行物Aに記載の「生酵母細胞誘導体(LYCD)」が,実際に化粧料に配合した場合にも細胞賦活効果をもつものであることが,当業者には容易に理解されるものである。」と認定することは,何ら不合理なことではない。 4.むすび 以上のとおり,本願発明は,当業者が容易に発明することができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 以上 |
審理終結日 | 2009-03-18 |
結審通知日 | 2009-03-19 |
審決日 | 2009-03-30 |
出願番号 | 特願平9-67183 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩下 直人 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
塚中 哲雄 谷口 博 |
発明の名称 | 目の下の皮膚のくすみをとるための合成物と方法 |
代理人 | 河野 昭 |