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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1203247
審判番号 不服2007-4146  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-08 
確定日 2009-08-24 
事件の表示 特願2004-142964「遠隔医療サービスを提供する方法およびコンピュータシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-326984〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年5月12日の出願であって、平成19年1月4日付(発送日平成19年1月9日)で拒絶査定がされ、これに対し、平成19年2月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成18年10月20日付の手続補正により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。
そして、請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
コンピュータシステムを用いて、遠隔医療サービスを提供する方法であって、
前記コンピュータシステムは、患者によって操作される患者コンピュータと、専門医師によって操作される専門医師コンピュータと、提携医療機関に設置される提携医療機関コンピュータと、サーバー装置と、前記サーバー装置によりアクセス可能に構成された予約情報データベースと、前記サーバー装置によりアクセス可能に構成された患者個人情報データベースとを含み、前記サーバー装置と前記患者コンピュータと前記専門医師コンピュータと前記提携医療機関コンピュータとはネットワークを介して互いに接続されており、
前記方法は、
(a)前記患者コンピュータが、前記専門医師による前記患者の診療の予約を示す予約情報を生成し、前記予約情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(b)前記サーバー装置が、前記予約情報を前記患者コンピュータから受信し、前記予約情報を前記予約情報データベースに登録するステップと、
(c)前記サーバー装置が、前記予約情報データベースに登録された前記予約情報に基づいて、前記患者コンピュータと前記専門医師コンピュータとの通信を確立することにより、前記専門医師のみが前記ネットワークを介して前記患者を診療することを可能にするステップと、
(d)前記専門医師コンピュータが、前記専門医師による前記患者の診療の内容を示す診療情報を生成し、前記診療情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(e)前記サーバー装置が、前記診療情報を前記専門医師コンピュータから受信し、前記診療情報を前記患者個人情報データベースに登録するステップと、
(f)前記提携医療機関コンピュータが、前記患者個人情報データベースに登録された前記診療情報の取得を求めるリクエストを生成し、前記リクエストを前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(g)前記サーバー装置が、前記リクエストを前記提携医療機関コンピュータから受信したことに応答して、前記リクエストを検索条件として前記患者個人情報データベースを検索することにより、前記リクエストに対応する前記診療情報を前記患者個人情報データベースから取得し、前記取得された診療情報を前記提携医療機関コンピュータに送信することにより、前記診療情報に基づいて前記提携医療機関の医師が前記患者に対する処方を行い、前記専門医師が前記患者に対する処方を行わないことを可能にするステップと、
(h)前記提携医療機関コンピュータが、前記提携医療機関の医師が前記患者に対して行った処方の内容を示す処方情報を生成し、前記処方情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(i)前記サーバー装置が、前記処方情報を前記提携医療機関コンピュータから受信し、前記処方情報を前記患者個人情報データベースに登録するステップと
を包含する、方法。」


3.引用文献
平成18年8月17日付拒絶理由通知書において引用文献1として引用された、特開2001-282922号公報(以下、引用例という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ネットワークを介して患者の医療情報を交換するための方法及びそのための端末に関する。
【0002】
【従来の技術】通常、病院などでは、患者が初めて受診に訪れると新しくカルテを作成し、以降その患者の受診の度にその患者のカルテを更新することにより、該当患者の医療情報を蓄積していく。診療科目が多い総合病院では、この情報は患者が異なる診療科目で受診した場合にも、その患者個人の医療情報として蓄積される。したがって、例えばある患者が現在耳鼻咽喉科にかかっていてもその患者は別に内科にもかかっているようなことが、医師の側にわかる。
【0003】ところが、診療科目が少ない小さい病院などでは、異なる診療科目の受診を行なう患者は別の病院に行かざるを得ない。また、たとえ診療科目が同じであっても、受診する病院を変えることはしばしばある。
【0004】一方、個々の病院など医療機関は他の医療期間から独立して、患者に対して医療行為を行なっている。そのため、患者が診断あるいは治療を受ける医療機関を変更した場合、過去の診療情報を有効に使うことが困難であった。また、医療機関の間の連携も行なわれていない。
【0005】そのため複数の診療所で受診する患者は、投薬されている薬情報の書かれたノートを持ったり、実際に薬を診療所に持参したり、医師に他の診療所で受けている治療等について口頭で説明する等の自己防衛的手段を取りながら、複数診療所の受診を受けているのが現状である。
【0006】このような自己防衛的手段を取れない患者や自己防衛的手段に不安を持つ患者は、総合病院で受診することになる。その結果、総合病院の異常なまでの混雑を引き起こすことの一因となっている。
【0007】また、今後ますます各診療所の専門性が高まることが予測されるが、その場合、医師が自分の専門以外のことについて他の専門医の意見を受けながら診療行為を行なうための手段がない。このため、本来他の専門医の助言を受ければ、自分で行なうことが可能な医療行為であっても、他の専門医を紹介し、患者は別の診療所を改めて受診している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、従来、医療機関の間の連絡がとられていないため、患者の全体の医療情報を得ることが困難であり、そのために適切な医療行為がなされなかったり、総合病院の混雑を招く原因となっていた。また、他の専門医の助言を容易に得ることができないという問題もあった。
【0009】したがって、この発明は上記問題点を解決し、患者がどの医療機関で受診してもその患者の医療情報を得ることができ、受診している医療機関の医師だけでなく他の医師の助言も容易に得ることができ、したがって常に適切な医療行為を施すことが可能な方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、特定患者毎に確立した仮想的な専用回線によりその患者に関する医療情報を交換することに特徴がある。
【0011】上記目的を達成するために、本発明の請求項1によれば、患者の医療情報を発生する複数の施設の間でネットワークを介して前記患者の医療情報を送受信する情報の交換方法であって、特定患者毎に仮想的な専用線を確立してその患者に関する医療情報を送受信する患者医療情報の交換方法を提供する。
【0012】したがって、特定患者の医療情報が1つの医療施設内だけでなく、複数の医療施設で共有できるので、医師は患者の全体の医療情報を入手でき、迅速に適切な診療を行うことができる。
【0013】また、本発明の請求項3によれば、患者の医療情報を発生する複数の施設の間で通信手段を介して患者の医療情報の送受信を可能とする情報の交換方法であって、患者用端末に対して所望する医師の条件の入力を促すステップと、前記条件を満す医師の情報を前記患者用端末に表示させ、医師の選択を促すステップと、前記選択を行った患者を識別するステップと、前記選択された医師の端末に対して前記識別された患者固有の仮想的な専用線を確立させ、その患者に関する医療情報を送受信できるようにするステップとから成ることを特徴とする患者医療情報の交換方法を提供する。
【0014】したがって、迅速に患者毎の仮想的な専用線を確立でき、その専用線を介して該当患者の医療情報うを交換できる。」
(イ)「【0021】
【発明の実施の形態】<実施形態1>本発明による患者医療情報の交換方法の第1の実施形態について説明する。この実施形態の処理の流れを図1に、このシステムの構成例を図2に示す。
【0022】図2において、この仮想総合病院情報システムは、医師に関する情報を蓄積している医師情報データベース21と、患者が受診しようとする場合に前記医師情報データベース21にある医師情報の検索を要求する患者用端末22と、この患者用端末から医師情報の検索要求があったとき前記医師情報データベース21にアクセスし検索を行なう検索装置23と、この検索装置23を介して診察の予約の申込みを受け付ける等医師が使う医師用端末24とから成る。」
(ウ)「【0024】検索装置23は、ステップS12において医師情報データベース21にアクセスして、患者から入力された条件を満す医師の検索を行なう。この検索結果はステップS13で検索装置23が得た後、ステップS14で条件を満す医師のデータを患者用端末22に伝達し、この端末の画面で図3(b)に示すように表示する。
【0025】この表示項目は、診療所名、医師の氏名、専門、診療所が所在する地域、特徴、診療所が所在する所在地、患者満足度及び詳細情報である。ここで表示される特徴は、診療所あるいは医師により予め登録されているものである。患者満足度は事前に調査した、診療所あるいは医師に対する患者満足度、即ち評判である。この画面でその選択したものが受診したい医師であれば右下の予約ボタンをクリックして、次に述べる診察の予約申込みを行なう。
【0026】上記患者用端末22に表示されたデータを参考に、患者は受診したい診療所あるいは医師を決定し、ステップS15で患者用端末22を用いて検索装置23に診察予約の申込み要求を行ない、検索装置23はステップS16で該当医師の医師用端末24に診察の予約の申込みを行なう。医師は医師用端末24の画面で予約の申込みを見て、ステップS17において診察の申込みを受け付けるか否か検索装置23に回答する。この結果はステップS18で検索装置23から患者用端末22に回答し予約が医師により受け入れられたか否か及び予約日時が表示される。」
(エ)「【0029】<実施形態2>本発明は、最初の診察における予約だけでなく、診察を行なった医師が診察時、専門医の助言を受ける場合にも適用できる。この種の第2の実施形態の処理の流れを図4に、このシステムの構成例を図5に示す。
【0030】図5に示すようにこのシステムは、複数のデータベースから成るデータベース群51と、このデータベース群51にアクセスする検索装置52と、この検索装置52に検索の要求を行ない結果を表示する医師A用端末53aと医師B用端末53bと、患者用端末54とから成り、各々ネットワークを介して接続されている。上記データベース群51は、医師データベース51aと、承認結果データベース51bと、診療録データベース51cと、仮想専用線管理データベース51dとから成っている。これらのデータベースはネットワークに接続されていればよく、必ずしも一箇所に集められている必要はない。
【0031】例えば、上述の第1の実施形態で説明したように診察の予約を行ない、ステップS41において、所定日時及び場所で医師Aは患者の診察を行う。医師Aが専門医の助言を得たい場合あるいは遠隔診療が必要と考えた場合には、ステップS42において医師A用端末53aから検索装置52に専門医のリストを要求する。」
(オ)「【0044】<実施形態3>本発明による第3の実施形態の処理の流れを図7に、このシステムの構成を図8に示す。この患者医療情報の交換のためのシステムは、データベース群81と、このデータベース群81にアクセスし検索を行う検索装置82と、医師A用端末83a及び医師B用端末83bと、患者用端末84とから成る。
【0045】患者は、上記第1の実施形態の方法により受診する医師(医師A)を選択する。ステップS71において、患者は患者用端末84から検索装置82に、例えば図9(a)の画面で、選択した医師Aを自分の仮想的専用回線に参加させる許可を与える。
【0046】図9(a)の画面は「私は、次の医師に私の専用線への参加を許可します」と医師名及び医師IDと共に表示される。患者が左下の署名ボタンをクリックすると、電子署名を行なうための機能が起動され、電子署名がなされる。
【0047】なお、医師へ仮想的専用回線への参加許可は、患者による明示的な許可を得ることなく、受診時に暗黙的に与えられることとしても良い。
【0048】患者により仮想的専用回線への参加権を与えることが要求されると、ステップS72において、検索装置82はデータベース群81の仮想専用線管理データベースにアクセスし、仮想専用線の管理のための手段を用いて、医師Aが当該患者の仮想専用線に参加できるように変更する。これにより、医師Aは当該患者に関する仮想専用線に参加することができるようになる。
【0049】ステップS73において患者が受診すると、ステップS74で医師Aは検索装置82に当該患者の過去の診療録を請求する。検索装置82は診療録を検索するための手段により、ステップS75においてデータベース群81の診療録データベースにアクセスして、診療録の検索を行なう。
【0050】このとき、データベース群の医師データベースを検索することにより、データ形式の変換が必要であるかの判断を行ない、変換が必要である場合は、診療録のデータ形式を変換するための手段を用いて形式の変換を行なう。この変換はステップS77に行うようにしてもよい。診療録の検索結果はステップS76において検索装置82に送られる。
【0051】ステップS77で、診療録は検索装置82は診療録を伝達するための手段を用いて、医師Aの端末83aに伝達される。医師A用端末83aでは、診療録を表示するための手段を用いて、画面上に診療録を表示し、診療を行なう。
【0052】ところで、検索装置82が、診療録の検索を行なう際、患者が非公開指定している診療録の中に、その時点で服用中であると考えられる薬が存在する場合がある。この場合には、図9(d)に示すように「現在服用中の非公開の薬があります」と警告画面を表示し、下の確認ボタンのクリックにより確認を求める。
【0053】ステップS78において、医師Aは新たに作成された診療録の登録を要求し、検索装置82はステップS79で、診療録を登録するための手段を用いて診療録データベースに登録する。」
(カ)「【0059】患者は任意の時点で、自己の仮想的専用線に参加している任意の医師の参加を取り消すために、検索装置に対して、医師から仮想的専用回線への参加権を奪う手段により、医師から仮想的専用回線への参加権を奪う事を要求することができる。
【0060】ここでは医師Aから仮想的専用線への参加権を奪うことを例に考える。この時、図9(c)の画面が表示され、患者は仮想的専用回線に参加中の医師の中から参加権を奪う医師を選択し、「実行」ボタンをクリックする。仮想的専用回線への参加権を奪う事を要求された検索装置82は、仮想専用線管理手段を利用して、仮想専用線管理データベースを更新する(ステップS83)。これにより、医師Aは当該患者の仮想的専用線に参加することができなくなる。参加権が取り消されたことを、医師Aに通知するようにしてもよい。
【0061】次に、ステップS84において患者が医師Bを受診する。以下、ステップS85からステップS90は、医師Aの代わりに医師Bが行う以外は、ステップS74?S79と同様の処理になる。」
(キ)「【0076】医師Aは、ステップS150において、往診に必要な患者情報を取得するための手段により、サービス装置153に往診に必要な情報を要求する。これを受け、サービス装置153はステップS151において、往診に必要な情報の検索手段により、患者情報データベースにアクセスし、このデータベースから患者の住所、患者宅までの地図等を取得する(ステップS152)。取得された情報はステップS153において、往診に必要な情報の伝達手段により、医師Aに伝達され、これに基づいて意志A(審決注:「意志A」は「医師A」の誤記と認める。)は患者の往診を行う(ステップS154)。また、図示していないが、医師Aは、往診のときにも診療所で診療を行なうときと同様に患者宅の公衆回線を経て、データベース群151の診療録データベースにアクセスし、診療録の取得、保存等を行なうことができる。」

以上の(ア)ないし(キ)の記載および図面を総合すると、引用例には、以下の発明が開示されていると認めることができる。
「1 ネットワークを介して患者を診療し、また医療情報を交換するための方法であって、
2 患者用端末と、医師A用端末ないし医師B用端末と、検索装置と、検索装置によりアクセス可能な診療録データベースを備え、前記検索装置と前記患者用端末と前記医師A用端末ないし医師B用端末とは、ネットワークを介して互いに接続されており、
3 患者用端末から申し込まれた医師Aに対する予約を、ネットワークを介して検索装置が受け、診療の予約が受け付けられ、
4 検索装置は、患者用端末と予約された医師A用端末との間に仮想専用回線を設定して、当該医師Aのみが前記ネットワークを介して患者を診療できるようにされ、
5 医師Aの要求により医師A用端末と医師B用端末との間に仮想専用線が設定され、また、患者の要求により医師B用端末との間に仮想専用線が設定されて、当該医師Bのみがネットワークを介して患者を診療できるようにされ、
6 前記医師A用端末あるいは医師B用端末から、特定患者の過去の診療録を検索装置に要求して、医師Aあるいは医師Bが診療録データベースから診療録を取得し、前記医師Aあるいは医師Bにより当該患者の新たな診療録を生成して、当該診療録の登録を前記ネットワークを介して前記検索装置に要求し、
7 前記検索装置は、受信した診療録を診療録データベースに登録する、
8 遠隔診療および患者医療情報の交換方法」
(以下、引用例に記載された発明を、「引用発明」という。)


4.対比
引用発明と本願発明を対比する。
引用発明の「患者用端末」、「検索装置」は、本願発明の「患者コンピュータ」、「サーバー装置」に相当する。
引用発明の「医師A用端末あるいは医師B用端末」は、専門医師用かは別として医師用コンピュータである点で本願発明の「専門医師用コンピュータ」に対応するものである。
引用発明の「診療録データベース」は、診療録すなわち患者のカルテ等の医療情報を登録したものであるから、本願発明の「患者個人情報データベース」に相当する。
そして、引用発明では、患者が特定の医師を指定して検索装置に診療予約の申込み要求を行い、検索装置で当該予約が受け付けられる、つまりは検索装置で患者からの予約要求を記憶しているのであるから、引用発明は実質的に予約情報を記憶するデータベースを含んでいることは明らかである。
したがって、引用発明の「患者用端末から申し込まれた医師Aに対する予約を、ネットワークを介して検索装置が受け、診療の予約が受け付けられ」ることは、本願発明の「前記患者コンピュータが、前記専門医師による前記患者の診療の予約を示す予約情報を生成し、前記予約情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、前記サーバー装置が、前記予約情報を前記患者コンピュータから受信し、前記予約情報を前記予約情報データベースに登録するステップ」に相当する。
なお、本願発明でいう「予約情報」とは、特定の患者と予約された専門医師とを関連づけた情報と理解できる。
また、引用発明の「検索装置は、患者用端末と予約された医師A用端末との間に仮想専用回線を設定して、医師Aのみが前記ネットワークを介して患者を診療できるようにされ」ることは、予約情報に基づいて行われるかは別として、本願発明の「前記サーバー装置が、前記予約情報データベースに登録された前記予約情報に基づいて、前記患者コンピュータと前記専門医師コンピュータとの通信を確立することにより、前記専門医師のみが前記ネットワークを介して前記患者を診療することを可能にするステップ」に対応するものである。
ところで、引用発明の「診療録」とは、患者のカルテ等の医療情報であり、カルテは本願発明でいう「診療情報」と「処方情報」の両方を含んでいると解されるから、引用発明の「医師Aあるいは医師Bにより当該患者の新たな診療録を生成して、当該診療録の登録を前記ネットワークを介して前記検索装置に要求し、前記検索装置は、受信した診療録を診療録データベースに登録する」ことは、本願発明の「前記専門医師コンピュータが、前記専門医師による前記患者の診療の内容を示す診療情報を生成し、前記診療情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、前記サーバー装置が、前記診療情報を前記専門医師コンピュータから受信し、前記診療情報を前記患者個人情報データベースに登録するステップ」を含んでいることは明らかである。

以上のことから、引用発明と本願発明とは、
<一致点>
「コンピュータシステムを用いて、遠隔医療サービスを提供する方法であって、
前記コンピュータシステムは、患者によって操作される患者コンピュータと、医師によって操作される医師コンピュータと、サーバー装置と、前記サーバー装置によりアクセス可能に構成された予約情報データベースと、前記サーバー装置によりアクセス可能に構成された患者個人情報データベースとを含み、前記サーバー装置と前記患者コンピュータと前記医師コンピュータとはネットワークを介して互いに接続されており、
前記方法は、
(a)前記患者コンピュータが、前記医師による前記患者の診療の予約を示す予約情報を生成し、前記予約情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(b)前記サーバー装置が、前記予約情報を前記患者コンピュータから受信し、前記予約情報を前記予約情報データベースに登録するステップと、
(c)前記サーバー装置が、前記患者コンピュータと前記医師コンピュータとの通信を確立することにより、前記医師のみが前記ネットワークを介して前記患者を診療することを可能にするステップと、
(d)前記医師コンピュータが、前記医師による前記患者の診療の内容を示す診療情報を生成し、前記診療情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(e)前記サーバー装置が、前記診療情報を前記医師コンピュータから受信し、前記診療情報を前記患者個人情報データベースに登録するステップと、
を包含する、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明は、患者が予約し、患者を診療し、そして診療情報をサーバーの患者個人情報データベースに登録するのは「専門医師」であるのに対し、
引用発明は、患者が予約し、患者を診療し、そして診療録を検索装置の診療録データベースに登録するのは医師ではあるが、「専門医師」であると特定されていない点。
<相違点2>
本願発明は、「前記サーバー装置が、前記予約情報データベースに登録された前記予約情報に基づいて、前記患者コンピュータと前記専門医師コンピュータとの通信を確立することにより、前記専門医師のみが前記ネットワークを介して前記患者を診療することを可能にするステップ」を備えているのに対し、
引用発明は、検索装置が、患者用端末と医師用端末との間に仮想専用回線を確立し、当該医師のみがネットワークを介して患者を診療することができる点では一致するものの、それが「予約情報データベースに登録された予約情報に基づいて」行われることは記載されていない点。
<相違点3>
本願発明は、ネットワークを介して接続された「提携医療機関に設置される提携医療機関コンピュータ」を備えており、そしてこの提携医療機関コンピュータに関して、
「(f)前記提携医療機関コンピュータが、前記患者個人情報データベースに登録された前記診療情報の取得を求めるリクエストを生成し、前記リクエストを前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(g)前記サーバー装置が、前記リクエストを前記提携医療機関コンピュータから受信したことに応答して、前記リクエストを検索条件として前記患者個人情報データベースを検索することにより、前記リクエストに対応する前記診療情報を前記患者個人情報データベースから取得し、前記取得された診療情報を前記提携医療機関コンピュータに送信することにより、前記診療情報に基づいて前記提携医療機関の医師が前記患者に対する処方を行い、前記専門医師が前記患者に対する処方を行わないことを可能にするステップと、
(h)前記提携医療機関コンピュータが、前記提携医療機関の医師が前記患者に対して行った処方の内容を示す処方情報を生成し、前記処方情報を前記ネットワークを介して前記サーバー装置に送信するステップと、
(i)前記サーバー装置が、前記処方情報を前記提携医療機関コンピュータから受信し、前記処方情報を前記患者個人情報データベースに登録するステップ」
を備えているのに対し、
引用発明は、上記の構成を備えていない点。


5.判断
<相違点1>について
引用例には、患者用端末により医師情報データベースにアクセスして、患者が入力した条件を満たす医師を検索し、患者用端末の画面に医師のデータを表示し、そして患者が所望の医師を選択すること、そして、患者用端末に表示される項目には、診療所名や所在地のほか、医師の氏名や「専門」なども含まれていることが記載されており、患者は画面に表示された項目を見て医師を選択するのであるから、患者が任意に「専門医師」を選択できることは明らかである。
したがって、引用発明において、患者が予約し、患者が受診し、そして診療録を検索装置の診療録データベースに登録する「医師」として「専門医師」を選択することは適宜なし得ることにすぎない。
<相違点2>について
引用発明は、患者が所望の医師を予約し、検索装置が予約した医師の医師用端末と患者用端末との間に仮想専用回線を確立して、当該予約された医師のみがネットワークを介して患者を診療できるようにしている。すなわち引用発明では、患者が予約した医師の端末であることを検索装置が確認して、当該医師用端末と患者用端末との間で仮想専用回線を確立しているといえる。
してみると、引用発明において、検索装置が患者用端末と医師用端末との間で仮想専用回線を確立する場合、患者用端末と予約された医師用端末とを関連づけた予約情報に基づいて(予約を確認して)仮想専用回線の確立を行うことは容易に想到できたと認められる。
<相違点3>について
ネットワークを介して、患者用端末、医師用端末、医療機関用端末、そしてサーバ等を相互に接続し、それぞれの端末間で医療情報を交換できる医療診療システムは広く知られたものであるが、さらにそのような医療診療システムにおいて、専門医師(の端末)は患者の診断情報(所見)あるいは検査情報のみを作成してサーバ等に登録し、医療機関(の医師の端末)では、サーバ等に登録された前記診断情報あるいは検査情報をサーバから取り寄せて、その情報に基づいて所定の診療を行う(このとき専門医師は当該診療に関わらない)こともまた、例えば、特開2001-290881号公報、特開2002-15062号公報、特開2002-56092号公報、特開2002-245183号公報、特開2002-272863号公報等にあるように周知なものである。
このように、専門医師と医療機関(の医師)とで医療行為を分担することは、ごく普通に行われていることである。
しかして、引用発明は、医師A(専門医師である場合を含む)が診療録すなわち「診療情報」と「処方情報」の両方を作成して、検索装置にその両方を登録するものであるが、この医療行為を他の医療機関と分担して、医師Aは「診療情報」のみを作成して検索装置に登録し、医療機関は当該「診療情報」を取り寄せ、その情報を基にして「処方情報」を作成し検索装置に登録するように換える程度のことは、当業者が通常の創作能力の範囲内で行い得る事項であると認められる。
そしてその際、医師Aが登録した情報を医療機関が取得するために、医療機関のコンピュータが「リクエスト」を作成し、該リクエストをサーバー装置に送信し、該リクエストに対応する「診療情報」を検索して医療機関に送るようにすることは、当業者が普通に採用する慣用手段にすぎないものと認められる。
したがって、相違点3に係る事項は、周知技術および慣用手段に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。
その他、本願発明の作用効果を勘案しても、本願発明に格別の点を認めることができない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明および周知技術、慣用手段に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-29 
結審通知日 2009-06-30 
審決日 2009-07-13 
出願番号 特願2004-142964(P2004-142964)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷口 信行  
特許庁審判長 立川 功
特許庁審判官 田口 英雄
真木 健彦
発明の名称 遠隔医療サービスを提供する方法およびコンピュータシステム  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  

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