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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1203280
審判番号 不服2008-8301  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-03 
確定日 2009-09-03 
事件の表示 特願2003- 91814「画像処理方法並びに画像処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日出願公開、特開2004-302581〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年3月28日の出願であって、平成19年11月22日付けの拒絶理由通知に対して平成20年2月4日付けで手続補正がなされたが、同年2月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年5月7日付けでさらに手続補正がなされたものである。

第2 平成20年5月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年5月7日付けの手続補正(以下、「本件補正1」という。)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正1前及び本件補正1後の本願発明
本件補正1は、明細書についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正1についての補正の適否(特許法第17条の2第3項に規定されたいわゆる新規事項の追加を除く)の基準となる明細書が、平成20年2月4日付け手続補正により補正された明細書であるから、本件補正1前(平成20年2月4日付け手続補正)に、
「【請求項1】
予め判定対象となる対象物を含む濃度勾配方向画像を得て該濃度勾配方向画像から前記対象物の特徴を抽出して作成したテンプレートを保持しておき、判定用の入力濃淡画像を得て該入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成し、該濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算を行い、この演算結果から入力濃淡画像中における前記対象物の存否を判定する画像処理方法において、入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成する過程で、入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の1乃至複数の画素に微分フィルタを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値をそれぞれ求め、前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算の過程で前記特異画素を相関値演算の対象から除外し、さらに、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて各画素毎の相関値を演算することを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】
前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、前記濃度勾配方向画像の各画素の相関値に対して該相関値に応じた重み付けを行うことを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、前記テンプレートを構成する各画素の位置に応じた重み付けを行うことを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、前記濃度勾配方向画像の各画素の濃度勾配強度に応じた重み付けを行うことを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項5】
予め判定対象となる対象物を含む濃度勾配方向画像を得て該濃度勾配方向画像から前記対象物の特徴を抽出して作成したテンプレートを保持する保持手段と、判定用の入力濃淡画像を得て該入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成する濃度勾配方向画像作成手段と、該濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算を行い、この演算結果から入力濃淡画像中における前記対象物の存否を判定する判定手段とを備えた画像処理装置において、前記濃度勾配方向画像作成手段は、入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の1乃至複数の画素に微分フィルタを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値をそれぞれ求め、前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記判定手段は、前記特異画素を相関値演算の対象から除外して前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算を行い、さらに、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて各画素毎の相関値を演算を行うことを特徴とする画像処理方法。」
とあったものを、本件補正1(平成20年5月7日付け手続補正)において、
「【請求項1】
予め判定対象となる人物の顔を含む濃度勾配方向画像を得て該濃度勾配方向画像から前記人物の顔の特徴を抽出して作成したテンプレートを保持しておき、判定用の入力濃淡画像を得て該入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成し、該濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算を行い、この演算結果から入力濃淡画像中における前記人物の顔の存否を判定する画像処理方法において、入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成する過程で、入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の1乃至複数の画素に微分フィルタを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値をそれぞれ求め、前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算の過程で前記特異画素を相関値演算の対象から除外し、さらに、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて各画素毎の相関値を演算するとともに、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、前記テンプレートを構成する各画素のうちで人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを行うことを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】
予め判定対象となる人物の顔を含む濃度勾配方向画像を得て該濃度勾配方向画像から前記人物の顔の特徴を抽出して作成したテンプレートを保持する保持手段と、判定用の入力濃淡画像を得て該入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成する濃度勾配方向画像作成手段と、該濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算を行い、この演算結果から入力濃淡画像中における前記人物の顔の存否を判定する判定手段とを備えた画像処理装置において、前記濃度勾配方向画像作成手段は、入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の1乃至複数の画素に微分フィルタを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値をそれぞれ求め、前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記判定手段は、前記特異画素を相関値演算の対象から除外して前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算を行い、さらに、前記判定手段は、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて各画素毎の相関値を演算を行うとともに前記テンプレートを構成する各画素のうちで人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを行うことを特徴とする画像処理装置。」
と補正しようとするものである。

すると、本件補正1は、本件補正1前の請求項1、2及び4を削除し、請求項3を新たな請求項1とし、当該新たな請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項であってパターンマッチングの対象となる「対象物」を「人物の顔」と限定し、当該新たな請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「テンプレートを構成する各画素の位置に応じた重み付けを行うこと」を「テンプレートを構成する各画素のうちで人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを行うこと」と限定し、本件補正1前の請求項5を上記のように限定した新たな請求項1の画像処理方法に対応した画像処理装置となるように限定して新たな請求項2とするものであり、かつ、本件補正1後の請求項1及び2に記載された発明は、本件補正1前の請求項1ないし5に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものであるから、本件補正1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号の請求項の削除及び第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正1後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2.刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-171989号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(ア)「【0022】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態により、この発明をさらに詳細に説明する。
〈実施形態1〉
実施形態1として、カード上のエンボス文字を読み取るパターン読取装置を例にとり、説明を行う。図10に示すパターン読取装置は、目的物を撮影するカメラ1と、撮影した画像をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ2と、デジタル化された画像を記憶する画像メモリ3と、表示のためデジタル画像をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ4と、画像を表示するCRTディスプレイ5と、アドレス/データバス6と、タイミング制御部7と、入力画像の取込み、表示等の種々の処理、制御を実行するCPU8と、類似度算出のための画像データを記憶するメモリ9と、画像の濃度勾配方向を算出する濃度勾配方向算出部18と、画像の濃度勾配強度を算出する濃度勾配強度算出部19と、類似度算出部20と、重み和算出部21と、パターン読取部11よりなる。
【0023】
このパターン読取装置では、カメラ1から出力されたアナログ映像信号はA/Dコンバータ2で、タイミング制御部7からのタイミング信号に同期してA/D変換された後、画像メモリ3に記憶される。画像メモリ3に取り込まれた入力画像(図11に入力画像例としてのカードを示す)は、D/Aコンバータ4を通じてアナログ信号に変換された後、CRTディスプレイ5に表示される。入力画像は濃度勾配方向算出部18において入力濃度勾配方向に変換され、メモリ9に記憶される。また、読取に用いられるパターン辞書のパターン画像はメモリ9に予め記憶されている。その例を、図2に示す。各パターン毎に、パターン濃度勾配強度とパターン濃度勾配方向が濃度勾配強度算出部19及び濃度勾配方向算出部18において、予め算出され、メモリ9に記憶されている。また、パターン濃度勾配強度の合計値が重み和算出部21において、予め算出され、メモリ9記憶されている。類似度算出部20においては、入力濃度勾配方向、パターン濃度勾配強度、パターン濃度勾配方向を用いて全てのパターンに対する類似度データが算出され、メモリ9に記憶される。全ての類似度データに基づいてパターン読取部11において、パターンの読取が行われ、パターン名とその位置がメモリ9に記憶される。各モジュール間のデータの受け渡しは、アドレス/データバス6を通じて行われる。また、各モジュールの起動コマンド発行はCPU8により行われる。」

(イ)「【0024】
先ず、類似度算出部20において、全てのパターン画像に対する類似度データが算出される。その処理手順は、図4に示すフロー図と同様であり、処理の流れは、従来技術で示す例と同じである。従来のものとはST3の類似度算出における類似度算出手法が異なる。類似度算出ST3では、パターン名p、照合位置(i,j) 〔図5参照〕、パターン濃度勾配方向とパターン濃度勾配強度の大きさを(mx,my) 、パターン濃度勾配方向をMθ,p、パターン濃度勾配強度をMw,p 、入力濃度勾配方向をIθとすると、類似度算出部20において、以下の式により類似度が算出される。
【0025】
【数7】
mx-1 my-1
Σ Σ {Mw,p(x,y)・f[Iθ(i+x,j+y)-Mθ,p(x,y)]}
x=0 y=0
R(i,j,p)= .
mx-1 my-1
Σ Σ Mw,p(x,y)
x=0 y=0
【0026】
差値の評価した値は、濃度勾配方向の差の余弦(請求項3)、すなわち
f(ω)=cosω
を使用する。
また、差値の評価した値は濃度勾配方向の差の2倍の余弦(請求項4)、すなわち
f(ω)=cos2ω
を使用してもよい。
【0027】
また、差値の評価した値は、濃度勾配方向の差が0°を含む所定の範囲内の値であれば1とし、それ以外の所定の範囲内の値であれば-1とし、それぞれ以外の所定の範囲内の値であれば0とする(請求項5)。一例として、
【0028】
【数8】
1{(-45+360n)°≦ω≦(45+360n)°}
f(ω)= -1{(135+360n)°≦ω≦(225+360n)°}
0{それ以外}(nは整数)
(?中略?)
【0031】
(?中略?)
図12に類似度算出部20の中身を示す。画像メモリ3に記憶されている入力画像濃度勾配方向Iθ及びメモリ9に記憶されているパターン濃度勾配強度Mw,p 、パターン濃度勾配Mθ,p、パターン濃度勾配強度Mw,p の合計値が、アドレス/データバス6を通じて類似度算出部20に取り込まれる。減算部22において、各画素の入力濃度勾配方向Iθとパターン濃度勾配方向Mθ,pの差
Iθ(i+x,j+y) -Mθ,p(x,y)
が算出される。方向差評価部23において、
f〔Iθ(i+x,j+y) -Mθ,p(x,y) 〕
が算出され、積和演算部24において、
【0032】
【数10】
mx-1 my-1
Σ Σ {Mw,p(x,y)・f[Iθ(i+x,j+y)-Mθ,p(x,y)]}
x=0 y=0
【0033】
が算出され、除算部25において、本発明に係る類似度が算出される。以上の類似度算出を全てのパターンpについて入力画像中の全ての位置(i,j) において行う。パターンは予め以下の手順で作成され、メモリに記憶されている。パターン画像をカメラ1よりA/Dコンバータ2を通じて画像メモリ3に取り込む。パターン画像は、濃度勾配方向算出部18において、パターン濃度勾配方向に変換され、濃度勾配強度算出部19においてパターン濃度勾配強度に変換される。パターン濃度勾配方向とパターン濃度勾配強度は、メモリ9に記憶される。濃度勾配強度算出部17においては、以下の式(Sobelオペレータ)により濃度勾配強度が算出される。
【0034】
Mw,p (x,y) =|Dx (x,y) |+|Dy (x,y) |
Dx (x,y) =Mp (x+1,y-1)+2Mp (x+1,y)+Mp (x+1,y+1)
-Mp (x-1,y-1)-2Mp (x-1,y)-Mp (x-1,y+1)
ここで、
Dy (x,y) =Mp (x+1,y+1)+2Mp (x,y+1)+Mp (x-1,y+1)
-Mp (x+1,y-1)-2Mp (x,y-1)-Mp (x-1,y-1)
濃度勾配強度算出方法としては、グラジェント等の他のオペレータでも良い。濃度勾配方向算出部18においては、以下の式(Sobelオペレータ)により濃度勾配方向〔0°,360°〕が算出される。
【0035】
Mθ,p(x,y) =atan2(Dx,Dy)
ここで、atan2とは、Dx座標、Dy座標で表されるDx-Dy座標の逆正接関数をさす(図13)。濃度勾配方向算出方法としては、Prewittオペレータ等の他のオペレータでも良い。次に、パターン読取部11において、類似度データに基づいた文字読取が行われる。処理のステップを図6に示す。処理の流れは従来の技術に示したものと同様である。」

(ウ)「【0036】
カードのエンボスは、背景がいろいろと変化し、かつ文字自体の見え方も照明条件により変化する。例えば、あるパターン画像(濃度値で示す)を図14の(a)とし、ある照合位置での入力画像(濃度値で示す)を図14の(b)とする。図14の(b)に示すように、入力画像の背景部分の濃度値が一部パターン画像と異なっており、かつ入力画像の一部分の濃度値が小さくなっている。このような状況は、カードのエンボス等でしばしば起こる。パターン濃度勾配方向及び入力濃度勾配方向を上記手法を用いて算出すると、図14の(c)及び(d)のようになる。また、パターン濃度勾配強度を上記手法を用いて算出すると、図15の(e)のようになる。ここで、パターン濃度勾配方法及び入力濃度勾配方向に付してあるNDというラベルは、Dx、Dyともに0であったため、方向が不定となる画素を示している。この画素の方向差評価は、f(ω)=0とする。入力濃度勾配方向とパターン濃度勾配方向の差を図15の(f)に示す。請求項4〔f(ω)=cos2ω〕及び請求項6〔数5〕にしたがったf(ω)を用いて方向差の評価を行うと図15の(g)と図15の(h)のようになり、方向不定部分を除き、パターンの明るさの変化や、背景の変化に影響されることなく、評価値がほぼ1.0になっていることがわかる。この場合、f(ω)=cos2ωを用いた類似度を計算すると0.715となり、〔数5〕にしたがったf(ω)を用いた類似度を計算すると0.697となり、同じ画像での正規化相互相関値0.564と比べても優位な差が見られ、本発明に係るパターン読取装置が背景の変化やパターンの明るさの変化の影響を受けにくいことが示されている。」

上記(ア)ないし(ウ)の記載事項を勘案すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

「予めカード上のエンボス文字の読取に用いられるパターン辞書のパターン画像の各パターン毎に、パターン濃度勾配方向Mθ,pを得てメモリ9に記憶しておき、入力濃淡画像を得て該入力濃淡画像から入力勾配方向Iθを作成し、該入力勾配方向Iθと前記パターン濃度勾配方向Mθ,pとの類似度を算出し、この算出結果に基づいて、パターンの読取が行われ、パターン名とその位置がメモリ9に記憶される、入力濃淡画像中における前記カード上のエンボス文字のパターン読取を行うパターン読取方法において、入力濃淡画像からパターン濃度勾配方向Mθ,pを作成する過程で、入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の複数の画素にSobelオペレータを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値Dx 、Dyをそれぞれ求め、前記x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも0となる注目画素にNDというラベルを付け、前記入力勾配方向Iθと前記パターン濃度勾配方向Mθ,pとの類似度Rを算出する過程で前記NDというラベルが付けられた画素について算出される方向差評価の値を0となるようにし、さらに、前記入力勾配方向Iθと前記パターン濃度勾配方向Mθ,pとの類似度Rの算出において、両者の差分を求めるとともに、該差分を余弦変換した値を用いて各画素毎の類似度Rを算出するパターン読取方法。」

3.対比
本願補正発明を、刊行物1発明と比較する。

(ア)刊行物1発明における「カード上のエンボス文字」は、パターン読取の判定対象であることは明らかであるから、本願補正発明における「判定対象となる人物の顔」とは、「判定対象となる対象物」という点で一致している。

(イ)刊行物1発明における「カード上のエンボス文字の読取に用いられるパターン辞書のパターン画像の各パターン毎」の「パターン濃度勾配方向Mθ,p」と本願補正発明における「判定対象となる人物の顔を含む濃度勾配方向画像を得て該濃度勾配方向画像から前記人物の顔の特徴を抽出して作成したテンプレート」とは、前項の「判定対象となる対象物」に関する記載を考慮すると、「判定対象となる対象物のテンプレート」という点で一致しているから、刊行物1発明における「予めカード上のエンボス文字の読取に用いられるパターン辞書のパターン画像の各パターン毎に、パターン濃度勾配方向Mθ,pを得てメモリ9に記憶し」ておくことと本願補正発明の「予め判定対象となる人物の顔を含む濃度勾配方向画像を得て該濃度勾配方向画像から前記人物の顔の特徴を抽出して作成したテンプレートを保持し」ておくこととは、「予め判定対象となる対象物のテンプレートを保持し」ておくという点で一致している。

(ウ)刊行物1発明における「入力濃淡画像」は、パターン読取が行われる対象の入力画像であるから、本願補正発明における「判定用の入力濃淡画像」に相当する。

(エ)刊行物1発明における「入力濃淡画像から入力勾配方向Iθを作成」することは、本願補正発明における「入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成」することに相当する。

(オ)刊行物1発明における「類似度を算出」することは、本願補正発明における「相関値演算」を行うことに相当する。

(カ)刊行物1発明における「入力濃淡画像中における前記カード上のエンボス文字のパターン読取を行うパターン読取方法」は、算出した「類似度R」に基づいて、「パターンの読取が行われ、パターン名とその位置がメモリ9に記憶され」ており、上記「類似度R」が大きければ上記「パターン」が存在すると判定して、上記のように「パターン名とその位置がメモリ9に記憶」されるように入力濃淡画像の処理を行い、上記「類似度R」が小さければ上記「パターン」が存在しないと判定して、上記のように「パターン名とその位置がメモリ9に記憶」されないように入力濃淡画像の処理を行うことは明らかであるから、上記「第2〔理由〕3.(ア)」の「判定対象となる対象物」に関する記載を考慮すると、本願補正発明における「入力濃淡画像中における前記人物の顔の存否を判定する画像処理方法」とは、「入力画像中における前記対象物の存否を判定する画像処理方法」という点で一致している。

(ク)刊行物1発明における「Sobelオペレータを適用」する際には、入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の8画素に「微分フィルタを適用」した演算を行うから、刊行物1発明における「入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の複数の画素にSobelオペレータを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値Dx 、Dyをそれぞれ求め」ることと、本願補正発明における「入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の1乃至複数の画素に微分フィルタを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値をそれぞれ求め」ることとは、「入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の複数の画素に微分フィルタを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値をそれぞれ求め」る点で一致している。

(ケ)刊行物1発明において「前記x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも0となる注目画素にNDというラベルを付け、前記入力勾配方向Iθと前記パターン濃度勾配方向Mθ,pとの類似度Rを算出する過程で前記NDというラベルが付けられた画素について算出される方向差評価の値を0となるように」すると、「前記x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも0となる注目画素」に関しては、「類似度R」の算出結果に何ら寄与しない(0が加算されるだけ)。
また、本願補正発明における「前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算の過程で前記特異画素を相関値演算の対象から除外」する場合も、「前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素」に関しては、「相関値」の演算結果に何ら寄与しない。
してみると、上記「第2〔理由〕3.(オ)」を考慮すると、刊行物1発明と本願補正発明とは、「前記x方向及びy方向の微分値が何れもゼロとなる注目画素に関しては、相関値の演算結果に何ら寄与しないようにする」点で一致している。

(コ)刊行物1発明における「前記入力勾配方向Iθと前記パターン濃度勾配方向Mθ,pとの類似度Rの算出において、両者の差分を求めるとともに、該差分を余弦変換した値を用いて各画素毎の類似度Rを算出する」ことと本願補正発明における「前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて各画素毎の相関値を演算する」こととは、上記「第2〔理由〕3.(イ)、(エ)及び(オ)」の記載を考慮すると、「前記濃度勾配方向画像と前記判定基準となるデータとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに、当該差分を用いて各画素毎の相関値を演算する」点で一致している。

すると、本願補正発明と、刊行物1発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「予め判定対象となる対象物のテンプレートを保持しておき、判定用の入力濃淡画像を得て該入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成し、該濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算を行い、この演算結果から入力濃淡画像中における前記対象物の存否を判定する画像処理方法において、入力濃淡画像から濃度勾配方向画像を作成する過程で、入力濃淡画像中の任意の注目画素とその周囲の複数の画素に微分フィルタを適用して直交座標系のx方向及びy方向における微分値をそれぞれ求め、前記x方向及びy方向の微分値が何れもゼロとなる注目画素に関しては、相関値の演算結果に何ら寄与しないようにし、さらに前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに、当該差分を用いて各画素毎の相関値を演算する画像処理方法。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
入力濃淡画像中において存否を判定する「判定対象となる対象物」が、本願補正発明では、「人物の顔」であるのに対し、刊行物1発明では、「カード上のエンボス文字」である点。

<相違点2>
「テンプレート」の作成方法が、本願補正発明では、「予め判定対象となる人物の顔を含む濃度勾配方向画像を得て該濃度勾配方向画像から前記人物の顔の特徴を抽出して作成」するのに対し、刊行物1発明では、「予めカード上のエンボス文字の読取に用いられるパターン辞書のパターン画像の各パターン毎」に「パターン濃度勾配方向」を求めて作成する点。

<相違点3>
「微分フィルタ」を適用する画素が、「入力濃淡画像中の任意の注目画素」と、本願補正発明では、「その周囲の1乃至複数の画素」であるのに対し、刊行物1発明では、「その周囲の8画素」である点。

<相違点4>
「前記x方向及びy方向の微分値が何れもゼロとなる注目画素に関しては、相関値の演算結果に何ら寄与しないようにする」ために、本願補正発明では、「前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算の過程で前記特異画素を相関値演算の対象から除外」するのに対し、刊行物1発明では、「前記x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも0となる注目画素にNDというラベルを付け、前記入力勾配方向Iθと前記パターン濃度勾配方向Mθ,pとの類似度Rを算出する過程で前記NDというラベルが付けられた画素について算出される方向差評価の値を0となるように」する点。

<相違点5>
「前記濃度勾配方向画像と前記判定基準となるデータとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに、当該差分を用いて各画素毎の相関値を演算する」際に、本願補正発明では、「該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて」演算するのに対し、刊行物1発明では、「該差分を余弦変換した値」を用いて演算する点。

<相違点6>
本願補正発明では、「前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、前記テンプレートを構成する各画素のうちで人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを行う」のに対し、刊行物1発明では、重み付けを行うか否か言及されていない点。

4.判断
上記相違点1ないし6について検討する。

(ア)相違点1について
入力濃淡画像中において存否を判定する「判定対象となる対象物」を何にするかは、使用環境等の必要に応じて決まるものであって、当業者が適宜選択し得る設計的事項であり、「人物の顔」をそのような対象物とすることも、例えば、前置報告書において例示された特開2003-58888号公報(段落【0001】、【0010】)等に記載されているようによく知られていることであるから、刊行物1発明において、入力濃淡画像中において存否を判定する「判定対象となる対象物」を「人物の顔」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
相違点2は、換言すれば、「テンプレート」の作成方法が、本願補正発明では、「濃度勾配方向」を先に検出して「濃度勾配方向画像」を生成し、その後で「該濃度勾配方向画像から」「テンプレート」の大きさの「前記人物の顔の特徴を抽出して」作成するのに対し、刊行物1発明では、先に「テンプレート」の大きさの「カード上のエンボス文字の読取に用いられるパターン辞書のパターン画像」を作成し、その後で「各パターン毎に」、「濃度勾配方向」を検出して作成するという相違点であると認められるから、結局、判定対象となる対象物が異なること(この点については、前項で判断済み)を除けば、「テンプレート」の大きさの判定対象となる対象物の画像の作成と「濃度勾配方向」を検出することとの順番の関係が異なること(「濃度勾配方向」の検出が、本願補正発明では先であり、刊行物1発明では後であること)が相違点である。
そして、「テンプレート」の作成の際に、「テンプレート」の大きさの判定対象となる対象物の画像の作成と「濃度勾配方向」の検出とを、どちらを先の順番としても結果的に同じ「テンプレート」が作成され、また、順番を変えても奏する効果に違いは無いことから、どちらを先の順番とするかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項である。
してみると、刊行物1発明において、先に「テンプレート」の大きさの判定対象となる対象物の画像である「パターン画像」を作成して、その後で「濃度勾配方向」を検出して「テンプレート」である「パターン濃度勾配方向Mθ,p」を作成するという順番を、先に「濃度勾配方向」を検出し、その後で「テンプレート」の大きさの判定対象となる対象物の画像を作成するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
ここで、前項に記載のように、「判定対象となる対象物」を「人物の顔」とした場合、「テンプレート」が「人物の顔の特徴を抽出して作成した」ものとなることは普通のことである。

(ウ)相違点3について
「微分フィルタ」には、様々なフィルタが存在し、「入力濃淡画像中の任意の注目画素」と「その周囲の1の画素」を使用する「微分フィルタ」も、差分フィルタとしてよく知られたフィルタであるから、刊行物1発明において「微分フィルタ」を適用する画素として「入力濃淡画像中の任意の注目画素」と「その周囲の1乃至複数の画素」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)相違点4について
刊行物1発明では、「前記x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも0となる注目画素」にNDというラベルを付けて、他の注目画素と異なる処理を行うが、ノイズ等の影響を考慮すれば、「x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも」完全なゼロでなくても、「略ゼロ」となる範囲のものまで対象とすればよいと考えることは、ごく普通のことである。
してみると、本願補正発明において、他の注目画素と異なる処理を行う注目画素を、「x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも0となる注目画素」だけでなく、「x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも略ゼロとなる注目画素」とすることは、当業者が普通になし得ることである。
また、上記のように他の注目画素と異なる処理を行う「x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも略ゼロとなる注目画素」を「特異画素」と呼称することも、単に便宜上のことにすぎない。
そして、「特異画素」について、全体の演算結果に何ら寄与させない方法として、0の値を代入して演算することと、演算の対象から初めから除外することとは、ともに常套手段であり、演算の対象から初めから除外する場合には、どの画素が特異画素であるかを判別しないと演算から除外することができないから、特異画素がどれかを記憶しておくことも当業者が普通になし得ることである。
したがって、刊行物1発明において、「前記x方向及びy方向の微分値Dx、Dyが何れも0となる注目画素にNDというラベルを付け、前記入力勾配方向Iθと前記パターン濃度勾配方向Mθ,pとの類似度Rを算出する過程で前記NDというラベルが付けられた画素について算出される方向差評価の値を0となるように」することに代えて、本願補正発明のように、「前記x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算の過程で前記特異画素を相関値演算の対象から除外」することは、当業者が適宜なし得ることである。

(オ)相違点5について
「前記濃度勾配方向画像と前記判定基準となるデータとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに、当該差分を用いて各画素毎の相関値を演算する」際に、「該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて」演算することは、本願明細書の記載を参酌すると「A=(テンプレートの濃度勾配方向)?(入力画像の濃度勾配方向)と定義したとき、A<0ならばA=A+360[度]又はA=-A[度]、A≧0ならばA=A[度]とする処理を行い、その次に、A>180ならばA=360-A[度]、0≦A≦180ならばA=A[度]とする処理を行う。)(段落【0028】)という演算を行うことにより「該差分のうちで絶対値が小さい方の差分」を求め、当該差分を用いて演算することであるが、上記のようにして「該差分のうちで絶対値が小さい方の差分」を求めることは、例えば、本願明細書の段落【0010】に、従来の技術を示す文献である【特許文献1】として記載されている特開平8-249466号公報の段落【0021】【数4】に記載されている演算と等価であり、濃度勾配方向画像を用いたテンプレートマッチングの際の周知技術である。
してみると、刊行物1発明において、「前記濃度勾配方向画像と前記判定基準となるデータとの相関値演算において、両者の差分を求めるとともに、当該差分を用いて各画素毎の相関値を演算する」際に、「該差分を余弦変換した値」を用いて演算することに代えて、上記周知技術のように「該差分のうちで絶対値が小さい方の差分を用いて」演算することは、当業者が適宜なし得ることである。

(カ)相違点6について
検出や処理において重要視したい部分に重み付けを行って演算することは、常套手段であり、「人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを」行って相関値演算を行うことも、例えば、前置報告書において例示された特開2003-58888号公報(段落【0016】、【0017】)等に記載されているようによく知られていることであるから、刊行物1発明において、上記「第2〔理由〕4.(ア)に記載のように、「判定対象となる対象物」を「人物の顔」としたとき、「人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを」行って相関値演算を行うことは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、上記各相違点を検討しても、パターンマッチングを行う画像処理という同一の技術分野に属する上記刊行物1発明と上記周知技術を組み合わせることにより、本願補正発明を構成することは、当業者が容易に想到し得ることであり、その作用効果も当業者が予測し得るものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.請求人の主張について
請求人は、平成20年5月7日付け手続補正書(方式)における審判請求書の請求の理由の補正において、審判請求書の請求の理由において、
「本願の請求項1に係る発明と本願の請求項2に係る発明は、発明のカテゴリが異なるものの、下記Aの発明特定事項(以下、「特徴点A」と呼ぶ。)を有する点で共通しているので、以下では本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と略す。)についてのみ、特許されるべき理由を申し述べる。
A「濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算において、前記テンプレートを構成する各画素のうちで人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを行う点」
本願発明と引用文献1,2に記載の発明を比較すると、本願発明が上記特徴点Aを有するのに対して、引用文献1,2に記載の発明は上記特徴点Aを有していない点で相違する。すなわち、引用文献2に記載の発明においても3×3の画素にそれぞれ重みwを乗じることで重み付けを行っている点で本願発明の上記特徴点Aと一見類似しているが、引用文献2に記載の発明では画像中の全ての画素に対して重み付けを行っており、本願発明のように顔画像の特徴部分である目や口の部分のみに重み付けを行う点については記載はおろか示唆すらされていない。本願発明は、上記特徴点Aを有することにより、テンプレートの中で特に他と比べて特徴的な形状を有する部分、具体的には、人物の顔の目の部分や口の部分を構成する画素位置の重みを相対的に増加させることで人物の顔の存否判定の精度を向上することができるという顕著な作用効果を奏するものであって、引用文献1,2に記載の発明ではかかる作用効果を奏し得ないことは明白である。
上述のように本願発明の上記特徴点Aが引用文献1,2に記載の発明に存在せず、しかも、本願発明の奏する作用効果は上記特徴点Aを採用したことによる格別の作用効果であって、引用文献1,2に記載された発明は言うに及ばず、それらの発明を組み合わせた発明においても到底奏し得ないものであるから、例え当業者といえども、引用文献1,2に記載された発明から本願発明の上記特徴点Aを容易に想起し得るとは考えられない。」
と主張しているが、上記「第2〔理由〕4.(カ)」に記載したように、検出や処理において重要視したい部分に重み付けを行って演算することは、常套手段であり、「人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを」行って相関値演算を行うことも、よく知られていることであって、刊行物1発明において、上記「第2〔理由〕4.(ア)に記載のように、「判定対象となる対象物」を「人物の顔」としたとき、「人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを」行って相関値演算を行うことは、当業者が適宜なし得ることであるから、上記請求人の主張を採用することはできない。
また、請求人は、平成21年6月1日付け回答書において、
「ここで、引用文献1に記載のものでは、濃度勾配Dx,Dyがいずれもゼロであったために方向(濃度勾配方向)が不定となる画素に「ND」というラベルを付すとともに当該画素の方向差評価f(ω)=0としており、数7に示された類似度R(i,j,p)の演算式における分子の積和演算ではNDのラベルが付された画素の方向差評価f(ω)=0であるので、一見、当該画素が類似度の演算において除外されているように読めそうです。しかしながら、数7の類似度R(i,j,p)の演算式における分母の和算では、NDのラベルが付された画素も和算の対象に含まれていますので、NDのラベルが付された画素も類似度の演算において除外されていないことは明白です。つまり、引用文献1に記載の発明には、濃度勾配方向が不定となる画素を相関値演算(類似度演算)の対象から除外するという技術思想が存在しません。しかも、引用文献1に記載の発明のように濃度勾配方向が不定となる画素の方向差評価f(ω)を単にゼロとするだけでは、濃度勾配方向ωが確定する場合、例えば、f(ω)=cosωとしたとき、ωがπ/2の奇数倍となる場合であっても方向差評価f(ω)がゼロとなってしまい、濃度勾配方向が不定であるか否かの区別ができません。
上述のように、本願発明における「x方向及びy方向の微分値が何れも略ゼロとなる注目画素を特異画素として記憶しておき、前記濃度勾配方向画像と前記テンプレートとの相関値演算の過程で前記特異画素を相関値演算の対象から除外」するという技術思想が引用文献1に記載の発明には存在せず、引用文献1に記載の発明では、「上記特定の値として「0」を出力する場合、0度方向への濃度勾配があるのか、微分値dx,dyが何れもゼロで濃度勾配がなく平坦であるのかの区別ができず、そのままテンプレートマッチングを行うと0度方向の濃度勾配がある部分と、濃度勾配のない部分とが一致すると判断されてしまうことになり、正確なテンプレートマッチングが行えず、異なった形状がテンプレートと一致すると誤判定されてしまう場合」を回避することができませんので、本願発明の技術課題を解決することもできません。」
と主張しているが、上記「第2〔理由〕4.(エ)に記載したように、特異画素について、全体の演算結果に何ら寄与させない方法として、当該特異画素について演算の対象から初めから除外することは、画像処理の分野において、常套手段であるから、上記請求人の主張も採用することはできない。
なお、濃度勾配方向画像を用いたテンプレートマッチングにおいても、例えば特開平8-129612号公報に、「横方向及び縦方向の微分画像のある画素の輝度値が両方ともゼロの場合は、その画素は方向特徴を持たないものとする。」(段落【0015】)、「次に微分合成画像43の各輝度値と上記求めた2値化用しきい値を比較し、しきい値以下の輝度値の画素に対応する方向特徴を削除する(ステップ305)。この結果、枠44内の方向特徴のうち残されたものの例が枠44Aに図示されている。」(段落【0016】)と記載され、図4の枠44Aには不要方向特徴削除後の方向成分が記載され、当該不要方向特徴削除後の方向成分を使用して、高速にマッチングするためにピラミッドを作成する処理を行った後、図10に記載された方向成分マッチングの演算を行うことが記載されており、上記段落【0015】に記載された方向特徴を持たない画素も当然不要方向特徴削除後の方向成分に含まれておらず、方向成分マッチングの演算から除外されていることは明らかであるように、特異画素について、全体の演算結果に何ら寄与させない方法として、当該特異画素について演算の対象から初めから除外することは、普通に行われていることである。

6.本件補正1についてのむすび
以上のとおり、本件補正1は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 平成20年4月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年4月3日付けの手続補正(以下、「本件補正2」という。)を却下する。

〔理由〕
本件補正2における特許請求の範囲についての補正内容は、本件補正1における特許請求の範囲のものと同一であるから、本件補正2は、上記「第2〔理由〕」と同一の理由により却下すべきものである。

第4 本願発明について
1.本願発明
平成20年5月7日付けの手続補正及び平成20年4月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成20年2月4日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1.」の本件補正1前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕2.」における刊行物1に関して記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明から、パターンマッチングの対象について「人物の顔」から「対象物」と限定を解除し、平成20年2月4日付け手続補正書における請求項3に記載されていた発明特定事項を限定した構成である「テンプレートを構成する各画素のうちで人物の顔の目の部分や口の部分に重み付けを行うこと」を削除したものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものである本願補正発明が、前記「第2〔理由〕4.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-01 
結審通知日 2009-07-07 
審決日 2009-07-21 
出願番号 特願2003-91814(P2003-91814)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06T)
P 1 8・ 121- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯田 清司新井 則和  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 畑中 高行
大野 雅宏
発明の名称 画像処理方法並びに画像処理装置  
代理人 森 厚夫  
代理人 西川 惠清  

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