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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B08B
管理番号 1203355
審判番号 不服2007-28540  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-18 
確定日 2009-09-10 
事件の表示 特願2005-153887「ドーム用ワイパー装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月 3日出願公開、特開2006-198602〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年5月26日の出願であって、平成19年5月30日付けで手続補正がなされ、平成19年9月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月14日付けで明細書を補正対象とする手続補正(以下、同手続補正を「本件補正」という。)がなされたものである。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】
カメラ部、映像増幅回路、コンピュータを主体とする制御器、前記カメラ作動機械装置を配設内蔵したハウジングの前面に設けられた下向きの半球面状のクリアードーム窓を清掃するためのドーム用ワイパー装置であって、ワイパー両端部を前記ハウジングの前記半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上で両側近傍に配設したアーム軸に回転構造を持たせた半円形状のワイパーアームと、前記ワイパーアームの内側に前記クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態として高圧流体を排出する半円形状のスリットを備えると共に、前記ワイパーアームの一端部には、アームギヤーが設けられ、ハウジングのドームカバー内に設けられた駆動モーターのモーター軸に設けたモーターギヤーと噛合させた駆動手段を設け、ワイパーアームの他端部には、プッシュ軸が固定され、ワイパーアームの回動と連動させ、プッシュ軸の回動する軌跡の左右両側位置にはマイクロスイッチ12a,12bが取付けられ、前記マイクロスイッチ12a,12bを開閉制御可能とし、ハウジングのドームカバー内には、流体を吸引圧縮するコンプレッサーを配設し、パイプを介して高圧流体をアーム軸内よりワイパーアーム内に送給してワイパーアームに設けた半円形状のスリットよりクリアードーム窓に吹き付けできるようにして成ることを特徴とするドーム用ワイパー装置。
【請求項2】
カメラ部、映像増幅回路、コンピュータを主体とする制御器、前記カメラ作動機械装置を配設内蔵したハウジングの前面に設けられた下向きの半球面状のクリアードーム窓を清掃するためのドーム用ワイパー装置であって、ワイパー両端部を前記ハウジングの前記半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上で両側近傍に配設したアーム軸に回転構造を持たせた半円形状のワイパーアームと、前記ワイパーアームの内側に前記クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態として高圧流体を排出する半円形状のスリットを備えると共に、前記ドームカバーの両側のアーム軸側には、支持部を設けてワイパーアームの両側を回転支持するアダプターと重ね合わせて固定し、一方のアダプターにはワイパーアーム作動用の駆動用および制御用の電気機器Pを内設し、他方のアダプターには、随時使用可能の加熱用ヒータを内設し、高圧流体を取り入れる小タンクを設け、外部のコンプレッサーなどのパイプで連通可能とし、前記ワイパーアームには、アーム軸より高圧流体を送給してワイパーアームに設けた半円形のスリットよりクリアードーム窓に吹き付けできるようにして成ることを特徴とするドーム用ワイパー装置。
【請求項3】
前記ワイパーアームは、前記クリアードーム窓の曲面に沿って往復運動させ、前記ワイパーアームに高圧流体を注入して、前記ワイパーアームの内側より前記クリアードーム窓に向けて半径形状のスリットより排出する高圧流体を、前記ワイパーがクリアードーム窓の端面より動作して、前記ワイパーが球面の最下点に達した位置で、高圧流体の注入を停止し、前記ワイパーが始動した位置と反対の端面に来るまで高圧流体を停止状態とすると共に、前記ワイパーが到達した端面より再び動作して、前記ワイパーがクリアードーム窓の最下点に来るまでの間に高圧流体を前記ワイパーの半円形状のスリットから排出し、さらにワイパーが最下点から最初の端面に達するまで高圧流体の注入を停止することを特徴とする請求項1または2記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項4】
前記ワイパーアームの内側より排出する高圧流体の半円形状のスリットは、不連続部を設けて成ることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項5】
前記ワイパーアームの往復運動させる駆動手段は、時計が作動する24時間の内の指定した一定時間にワイパーを自動動作させてクリアードーム窓表面を清浄にすることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項6】
前記ワイパーアームの往復運動させる駆動手段は、明るさセンサーによる一定の暗さないしは明るさを検知して、明るさ変化設定状態になったら、ワイパーを自動動作させてクリアードーム窓表面を清浄にすることを特徴とする請求項1または2記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項7】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、気体か液体か或は気体と液体とを交互に用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項8】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、液体を気体と混合し、噴霧状態として用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項9】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、ヒータによって加熱され、高温の状態で用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のドーム用ワイパー装置。」
と、補正された。

(2)補正前の本願発明
本件補正前の特許請求の範囲は、平成19年5月30日付け手続補正書による、以下の通りのものであった。
「 【請求項1】
ハウジングの前面に設けられた下向きの半球面状のクリアードーム窓を清掃するためのドーム用ワイパー装置であって、ワイパー両端部を前記ハウジングの前記半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上で両側近傍に配設して回転構造を持たせた半円形状のワイパーアームと、前記ワイパーアームの内側に前記クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態として高圧流体を排出する半円形状のスリットを備え、前記ワイパーアームの端部より高圧流体を注入して、前記ワイパーアームを往復運動作させる駆動手段を備えて成ることを特徴とするドーム用ワイパー装置。
【請求項2】
前記ワイパーアームは、前記クリアードーム窓の曲面に沿って往復運動させ、前記ワイパーアームに高圧流体を注入して、前記ワイパーアームの内側より前記クリアードーム窓に向けて半径形状のスリットより排出する高圧流体を、前記ワイパーがクリアードーム窓の端面より動作して、前記ワイパーが球面の最下点に達した位置で、高圧流体の注入を停止し、前記ワイパーが始動した位置と反対の端面に来るまで高圧流体を停止状態とすると共に、前記ワイパーが到達した端面より再び動作して、前記ワイパーがクリアードーム窓の最下点に来るまでの間に高圧流体を前記ワイパーの半円形状のスリットから排出し、さらにワイパーが最下点から最初の端面に達するまで高圧流体の注入を停止することを特徴とする請求項1記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項3】
前記ワイパーアームの内側より排出する高圧流体の半円形状のスリットは、不連続部を設けて成ることを特徴とする請求項1または2記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項4】
前記ワイパーアームの往復運動させる駆動手段は、時計が作動する24時間の内の指定した一定時間にワイパーを自動動作させてクリアードーム窓表面を清浄にすることを特徴とする請求項1または2記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項5】
前記ワイパーアームの往復運動させる駆動手段は、明るさセンサーによる一定の暗さないしは明るさを検知して、明るさ変化設定状態になったら、ワイパーを自動動作させてクリアードーム窓表面を清浄にすることを特徴とする請求項1記載のドーム用ワイパー装置

【請求項6】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、気体か液体か或は気体と液体とを交互に用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項7】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、液体を気体と混合し、噴霧状態として用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項8】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、ヒータによって加熱され、高温の状態で用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のドーム用ワイパー装置。」

(3)補正の目的違反
本件補正は、特許請求の範囲の請求項の数を8から9に増やすものであり、N項引用形式の請求項をN-1項引用形式の請求項に変更するものでもないから、特許請求の範囲の減縮に該当せず、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第5項各号のいずれの目的にも該当しない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について

(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、前記第2.(2)に記載したとおりのものである。

(2)本願発明1について
そこで、本願発明1が特許を受けることができるものであるか、以下に検討する。

(3)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第6527000号明細書(以下、「引用例1」という。)には、「Non-contact wiper and washer assembly for surveillance camera domes」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「A non-contact wiper and washer assembly for surveillance camera domes having a semicircular perforated tube in close proximity to the dome surface. The tube is pivotable by a motorized mechanism so that either washer solution or compressed air may be dispensed over the entire surface of the dome thereby washing it and cleaning it from any water droplets.」(ABSTRACT、明細書表紙)

イ.「The present invention relates generally to non-contact wiper and washer assemblies and, more particularly, to non-contact wiper and washer assemblies for surveillance camera domes.」(FIELD OF THE INVENTION、明細書第1欄第9?12行)

ウ.「Today, in the security industry, more and more emphasis is placed on discreet video surveillance by means of video cameras placed in housings having hemispherical transparent plastic domes. The camera is remotely rotated and pivoted within the dome so that the whole hemispherical viewing area may be surveyed.
It is extremely important that the camera have an unobstructed view of the viewing area at all times. This has not always been possible in the case of outdoor locations due to weather conditions, dust and other contamination that settle on the dome surface. Previously, there had been no easy method to remove water droplets from the surface of a plastic dome, nor to clean the surface of a dome other than manually cleaning it. The plastic material that the dome is made of is, by necessity, relatively soft and prone to nicks and scratches which will impair vision through the dome. Therefore, extreme care had to be exercised when cleaning the dome surface. This process has been necessarily time consuming and expensive and has often required premature replacement of the dome. Furthermore, cameras are frequently located at elevated or inaccessible locations requiring specialized equipment to gain access to them and making the process of cleaning the dome even more expensive.」(BACKGROUND OF THE INVENTION、明細書第1欄第14?37行)

エ.「Referring to the figures, the following description illustrates the preferred embodiment of the invention. FIG. 1 shows in general a video camera housing 10 and in particular an upper housing 11 enclosing a mechanism for pivoting the camera in azimuth and elevation and a transparent hemispherical dome 12 in the center of which a video camera 13 is located.
A semicircular thin walled tube 14, made of a rigid material such as copper, having a curved portion 15 and axial portions 16 encircles the dome 12 in close proximity to it. Axial portions 16 of the tube 14 are mounted in bearings 17 enabling it to pivot along an axis through the center of the dome 12 thus allowing the curved portion 15 to sweep over the entire dome surface in an arc of 180 degrees. A series of closely spaced, small diameter holes 18 are punched into the inside facing surface of the curved portion 15 of the tube 14 to allow air or window washer solution to be dispensed at high pressure onto the surface of dome 12. One end of the tube 14 is closed by a cap 19, the other being open to receive fluid.」(DETAILED DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENT、明細書第2欄第50行?第3欄第6行)

オ.「Bearings 17 are supported at one end of the tube 14 by a downwardly protruding tab 20 attached to a circumferential hoop 21 and at the other end by a plate 22, also attached to a hoop 21. The hoop 21 is clamped around the circumference of the housing 11 by a spring latch 23 and is held in position by frictional force.」(同、明細書第3欄第7?12行)

カ.「The plate 22 also serves as a base for a drive assembly 40 which contains components for pivoting the tube 14 through a 180 degree angle, for controlling the delivery of air or fluid to the tube 14 and for logic circuitry for remotely controlling the wiper and washer action. In detail, referring to FIG. 1 and FIG. 2, a geared electric motor 24 is rigidly mounted to a sub-plate 25 offset from the plate 22 by spacers 26. A cylindrical cam 27 having a flatted portion 28 and a drive pin 29 is affixed to a motor shaft 30. A drive link 31 rotatably engages both the drive pin 29 and a pin 32 affixed to a gear 33 which rotates on a stud 34 fixed to the sub-plate 25. Gear 33 meshes with a pinion 35 rigidly attached to the axial portion 16 of the tube 14. A snap action switch 36 mounted to the sub-plate 25 has a roller actuator 37 resting on the cylindrical surface of the cam 27. A flatted portion 28 on the cam 27 causes a switch 36 to actuate once each revolution of the cam 27. The drive assembly 40 is enclosed in a cover 59 and sealed from water entry by a gasket seal 60.
」(同、明細書第3欄第13?30行)

キ.「Referring to FIG. 3, washer solution 38 is contained in a tank 39 of any convenient size having a filler cap 41, a pressure relief valve 42 and three fittings. A fitting 43, located near the bottom of the tank 39, connects to a washer solution supply conduit 44 which further connects through an electromechanical valve 45 and a conduit 46 to a "T" fitting 47. A fitting 48 near the top of the tank 39 connects to a wiper air supply conduit 49 which further connects through an electromechanical valve 50 and a conduit 51 to a "T" fitting 47. An output branch 52 of the "T" fitting 47 connects through a common supply conduit 53 to the open end of the tube 14 thereby enabling either air or washer solution to be delivered by command. The conduit 53 should be made of a flexible material such as soft vinyl to allow the axial portion 16 of the tube 14 to twist the required 180 degrees.
A third fitting 54 near the top of the tank 39 connects through a pressurized air conduit 55, to a pressure regulator 56 and a shutoff valve 57 to an air supply bottle 58. This arrangement allows air pressure at the top of the tank 39 to be maintained at a constant value determined by the setting of a pressure regulator 56.」(同、明細書第3欄第31?52行)

以上の記載事項、及び図1?3を参酌し、本願発明1に照らして整理すると、引用例1には、
「監視カメラドームのハウジング11に設けられた下向きの透明半球面ドーム12を清掃するための非接触ワイパー兼洗浄装置であって、
半円形のチューブ14は、曲線部分15と両端の軸部分16からなり、軸部分16はドーム12の中心を通る軸上に配置された軸受け17に軸支され、曲線部分15はドーム12の表面から所定の間隔を保って回動するとともに、高圧の空気又は窓洗浄液を噴出する小径孔18を備え、軸部分16の一方はキャップ19によって塞がれ、他方の軸部分16が供給管53に繋がれて、高圧の空気又は窓洗浄液を供給され、モーター24やピニオン35からなる駆動装置によってドーム12上を180度の円弧に渡って往復動する非接触ワイパー兼洗浄装置。」
との発明(以下、「引用例発明1」という。)が開示されていると認められる。

(4)対比
そこで、本願発明1と引用例発明1とを比較すると、引用例発明1は「監視カメラドームの非接触ワイパー」である限りにおいて、本願発明1の「ドーム用ワイパー装置」と一致している。
そして、引用例発明1の「半円形のチューブ14」は、本願発明1の「半円形状のワイパーアーム」に相当し、以下同様に、「両端の軸部分16」は、「ワイパー両端部」に、「ドーム12の中心を通る軸上に」は、「ハウジングの半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上」に、「ドーム12の表面から所定の間隔を保って」は、「クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態」に、「他方の軸部分16が供給管53に繋がれて、高圧の空気又は窓洗浄液を供給され」は、「ワイパーアームの端部より高圧流体を注入して」に、「高圧の空気又は窓洗浄液」は、「高圧流体」に、夫々相当していることは明らかである。

以上の通りであるから、両者は、
<一致点>
「ハウジングの前面に設けられた下向きの半球面状のクリアードーム窓を清掃するための
ドーム用ワイパー装置であって、ワイパー両端部を前記ハウジングの前記半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上で両側近傍に配設して回転構造を持たせた半円形状のワイパーアームと、前記ワイパーアームの内側に前記クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態として高圧流体を排出する排出孔を備え、前記ワイパーアームの端部より高圧流体を注入して、前記ワイパーアームを往復運動作させる駆動手段を備えて成るドーム用ワイパー装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願発明1では、高圧流体を排出する排出孔は「半円形状のスリット」であるのに対し、引用例発明1では、同様に高圧流体を排出するのはチューブ14に設けた「小径孔18」である点。

(5)判断
○ 相違点について
相違点について検討すると、清掃を目的として高圧流体を吐出する装置において、吐出孔の形状をスリットとすることは周知技術である。このことは、例えば、実願昭51-128792号(実開昭53-045785号)のマイクロフィルムに、「スリット状噴射孔3」として、また、特開平10-250534号公報の段落【0025】?【0028】に「ノズル部1b」、「ノズル部4」として示されている。
そして、半円形状のワイパーアームにスリット形状のノズルを設けるならば、スリットの形状も半円形状になるのは自明のことである。
してみれば、相違点に係る構成の違いは、引用例発明1に周知事項を適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

(6)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例発明1及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項についてみるまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

なお、請求人は、平成21年5月8日付け回答書において、特許請求の範囲の補正案を示し、その補正案に基づく特許性を主張している。
同補正案について合議体の見解を示すと、以下の通りである。

「【請求項1】
カメラ部、映像増幅回路、コンピュータを主体とする制御器、前記カメラ作動機械装置を配設内蔵したハウジングの前面に設けられた下向きの半球面状のクリアードーム窓を清掃するためのドーム用ワイパー装置であって、ワイパー両端部を前記ハウジングの前記半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上で両側近傍に配設したアーム軸に回転構造を持たせた半円形状のワイパーアームと、前記ワイパーアームの内側に前記クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態として高圧流体を排出する半円形状のスリットを備えると共に、前記ワイパーアームの一端部には、アームギヤーが設けられ、ハウジングのドームカバー内に設けられた駆動モーターのモーター軸に設けたモーターギヤーと噛合させたワイパーアームを往復運動作させる駆動手段を設け、ワイパーアームの他端部には、プッシュ軸が固定され、ワイパーアームの回動と連動させ、プッシュ軸の回動する軌跡の左右両側位置にはマイクロスイッチ12a,12bが取付けられ、前記マイクロスイッチ12a,12bを開閉制御可能とし、ハウジングのドームカバー内には、流体を吸引圧縮するコンプレッサーを配設し、パイプを介して高圧流体をアーム軸内よりワイパーアーム内に送給してワイパーアームに設けた半円形状のスリットよりクリアードーム窓に吹き付けできるようにして成ることを特徴とするドーム用ワイパー装置。
【請求項2】
カメラ部、映像増幅回路、コンピュータを主体とする制御器、前記カメラ作動機械装置を配設内蔵したハウジングの前面に設けられた下向きの半球面状のクリアードーム窓を清掃するためのドーム用ワイパー装置であって、ワイパー両端部を前記ハウジングの前記半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上で両側近傍に配設したアーム軸に回転構造を持たせた半円形状のワイパーアームと、前記ワイパーアームの内側に前記クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態として高圧流体を排出する半円形状のスリットを備えると共に、前記ドームカバーの両側のアーム軸側には、支持部を設けてワイパーアームの両側を回転支持するアダプターと重ね合わせて固定し、一方のアダプターにはワイパーアームを往復運動作させる作動用の駆動用および制御用の電気機器Pを内設し、他方のアダプターには、随時使用可能の加熱用ヒータを内設し、高圧流体を取り入れる小タンクを設け、外部のコンプレッサーなどのパイプで連通可能とし、前記ワイパーアームには、アーム軸より高圧流体を送給してワイパーアームに設けた半円形のスリットよりクリアードーム窓に吹き付けできるようにして成ることを特徴とするドーム用ワイパー装置。
【請求項3】
前記ワイパーアームは、前記クリアードーム窓の曲面に沿って往復運動させ、前記ワイパーアームに高圧流体を注入して、前記ワイパーアームの内側より前記クリアードーム窓に向けて半径形状のスリットより排出する高圧流体を、前記ワイパーがクリアードーム窓の端面より動作して、前記ワイパーが球面の最下点に達した位置で、高圧流体の注入を停止し、前記ワイパーが始動した位置と反対の端面に来るまで高圧流体を停止状態とすると共に、前記ワイパーが到達した端面より再び動作して、前記ワイパーがクリアードーム窓の最下点に来るまでの間に高圧流体を前記ワイパーの半円形状のスリットから排出し、さらにワイパーが最下点から最初の端面に達するまで高圧流体の注入を停止することを特徴とする請求項1または2記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項4】
前記ワイパーアームの内側より排出する高圧流体の半円形状のスリットは、不連続部を設けて成ることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項5】
前記ワイパーアームの往復運動させる駆動手段は、時計が作動する24時間の内の指定した一定時間にワイパーを自動動作させてクリアードーム窓表面を清浄にすることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項6】
前記ワイパーアームの往復運動させる駆動手段は、明るさセンサーによる一定の暗さないしは明るさを検知して、明るさ変化設定状態になったら、ワイパーを自動動作させてクリアードーム窓表面を清浄にすることを特徴とする請求項1または2記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項7】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、気体か液体か或は気体と液体とを交互に用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のドーム用ワイパー装置。
【請求項8】
前記ワイパーアームに設けた半円形状のスリットより吐出させる高圧流体は、液体を気体と混合し、噴霧状態として用いることができるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のドーム用ワイパー装置。」

そこで、同補正案に基づく特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正案発明1」という。)について検討する。

補正案発明1と引用例発明1とを比較すると、前記第3.(4)と同様の対比をすると、新たな一致点、相違点は以下の通りである。

<補正案一致点>
「ハウジングの前面に設けられた下向きの半球面状のクリアードーム窓を清掃するためのドーム用ワイパー装置であって、
ワイパー両端部を前記ハウジングの前記半球面状のクリアードーム窓の中心軸延長上で両側近傍に配設した回転構造を持たせた半円形状のワイパーアームと、前記ワイパーアームの内側に前記クリアードーム窓の曲面に沿って一定の距離を持たせた非接触状態として高圧流体を排出する排出孔を備え、パイプを介して高圧流体をアーム軸内よりワイパーアーム内に送給してワイパーアームに設けた排出孔よりクリアードーム窓に吹き付けできるようにして成るドーム用ワイパー装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<補正案相違点1>
補正案発明1では、ハウジングに「カメラ部、映像増幅回路、コンピュータを主体とする制御器、前記カメラ作動機械装置を配設内蔵」しているのに対して、引用例発明1ではハウジングにそのようなものが内蔵されているか不明である点。

<補正案相違点2>
補正案発明1では、ワイパー両端部をハウジングに配設したアーム軸に回転構造を持たせたのに対して、引用例発明1では、ハウジングに配設されているのは軸受けであって、軸ではない点。

<補正案相違点3>
補正案発明1では、高圧流体を排出する排出孔は「半円形状のスリット」であるのに対し、引用例発明1では、同様に高圧流体を排出するのはチューブ14に設けた「小径孔18」である点。

<補正案相違点4>
補正案発明1では、駆動手段が、「ワイパーアームの一端部には、アームギヤーが設けられ、ハウジングのドームカバー内に設けられた駆動モーターのモーター軸に設けたモーターギヤーと噛合させたワイパーアームを往復運動作させる」ものであるのに対して、引用例発明1の駆動手段はそのようなものではない点。

<補正案相違点5>
補正案発明1では、ワイパーアームの他端部には、プッシュ軸が固定され、ワイパーアームの回動と連動させ、プッシュ軸の回動する軌跡の左右両側位置にはマイクロスイッチ12a,12bが取付けられ、前記マイクロスイッチ12a,12bを開閉制御可能としているのに対して、引用例発明1では、そのようなプッシュ軸、マイクロスイッチは設けられていない点。

<補正案相違点6>
補正案発明1では、ハウジングのドームカバー内には、流体を吸引圧縮するコンプレッサーを配設し、パイプを介して高圧流体をアーム軸内よりワイパーアーム内に送給しているのに対して、引用例発明1には、そのようなコンプレッサーは設けられていない点。

補正案相違点について検討する。

補正案相違点1についてみると、一般に監視カメラ装置においてハウジングにカメラ部やカメラに付随する機器を収容、内蔵するのは常套手段であって、係る点に当業者にとっての想到困難性があったとすることはできない。

補正案相違点2は、要するに、軸と軸受けの関係を反転させたにすぎないものであって、設計的事項にすぎないものである。

補正案相違点3は、本願発明1の相違点と同様であるから、前記第3.(5)に述べた通り、補正案相違点3に係る構成の違いは、引用例発明1に周知事項を適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

補正案相違点4、5は、反転動作機構として、クランク機構と歯車を用いる引用文献1に記載の機械的機構に代えて、マイクロスイッチによって電気的にモーターを反転動作させるものにしたにすぎず、このような電気的反転動作機構は例をあげるまでもなく周知のものである。

補正案相違点6は、引用文献1に記載の空気供給瓶58(前記第3.(3)のキ.参照。)に代えて、周知のコンプレッサーを用いたというにすぎないものであって、その際に、補正案相違点1における「カメラ部、映像増幅回路、コンピュータを主体とする制御器、前記カメラ作動機械装置」と共に、コンプレッサーをもハウジングのドームカバー内に配置したのは設計的事項である。

以上のとおりであるから、補正案発明1も、引用例発明1、周知事項及び設計的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
 
審理終結日 2009-07-08 
結審通知日 2009-07-14 
審決日 2009-07-27 
出願番号 特願2005-153887(P2005-153887)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木戸 優華長馬 望  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 佐々木 一浩
菅澤 洋二
発明の名称 ドーム用ワイパー装置  
代理人 野口 忠夫  
代理人 丹羽 宏之  

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