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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A41B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A41B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41B
管理番号 1203424
審判番号 不服2007-30692  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-13 
確定日 2009-09-09 
事件の表示 特願2003-370564「発熱性繊維を含有する下着の付属部分品及び該付属部分品が付設された下着」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月26日出願公開、特開2005-133243〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年10月30日の出願であって、平成19年10月9日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年11月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに明細書又は図面についての手続補正がなされたものである。

2.平成19年11月13日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年11月13日付の手続補正を却下する。
[理由]

2-1.本件補正
本件補正は、平成18年10月27日付で手続補正された明細書をさらに補正するものであり、以下の補正事項aを有するものである。なお、段落【0032】?【0045】については、本件補正や上記の平成18年10月27日付での手続補正において、文言上の補正はない。

補正事項a;【特許請求の範囲】の記載につき、
「【請求項1】
遠赤外線放射性粒子を含有した遠赤外線放射特性を有する発熱性繊維を含有する下着の付属部分品であって、
前記遠赤外線放射性粒子が、アルミナ及びマグネシアのうちの少なくとも一方の無機化合物であることを特徴とする下着の付属部分品。
【請求項2】
前記遠赤外線放射性粒子が、前記発熱性繊維中、20?60重量%含有されていることを特徴とする請求項1記載の下着の付属部分品。
【請求項3】
吸湿発熱特性及びpH緩衝特性を有する発熱性繊維を含有する下着の付属部分品であって、
前記発熱性繊維がヒドラジン架橋され、残存ニトリル基の一部にはカルボキシル基が、残部にはアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0においてMg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされた架橋アクリル系繊維であることを特徴とする下着の付属部分品。
【請求項4】
前記下着の付属部分品が、少なくともマチ部分、パット、レース、コメット、ニードル又はブラジャーの肩ひも等の下着本体に付設する繊維構造物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の下着の付属部分品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の下着の付属部分品が付設されてなることを特徴とする下着。」
を、
「【請求項1】
吸湿発熱特性及びpH緩衝特性を有する発熱性繊維を含有する下着の付属部分品であって、
前記発熱性繊維がヒドラジン架橋され、該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0?8.0重量%であり、残存ニトリル基には2.5?4.5meq/gのカルボキシル基とその残部にアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0においてMg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされた架橋アクリル系繊維であることを特徴とする下着の付属部分品。
【請求項2】
前記下着の付属部分品が、少なくともマチ部分、パット、レース、コメット、ニードル又はブラジャーの肩ひも等の下着本体に付設する繊維構造物であることを特徴とする請求項1記載の下着の付属部分品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の下着の付属部分品が付設されてなることを特徴とする下着。」
と補正する。

2-2.新規事項について

2-2-1.本件補正後の明細書の記載
本件補正後の明細書(以下、「補正明細書等」という。)には、先に補正事項aとして示した本件補正後の【特許請求の範囲】の他に、以下の記載A及びBが認められる。

A;「【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされた発明であって、請求項1に係る発明は、吸湿発熱特性及びpH緩衝特性を有する発熱性繊維を含有する下着の付属部分品であって、前記発熱性繊維がヒドラジン架橋され、該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0?8.0重量%であり、残存ニトリル基には2.5?4.5meq/gのカルボキシル基とその残部にアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0においてMg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされた架橋アクリル系繊維であることを特徴とする下着の付属部分品に関する。
請求項2に係る発明は、前記下着の付属部分品が、少なくともマチ部分、パット、レース、コメット、ニードル又はブラジャーの肩ひも等の下着本体に付設する繊維構造物であることを特徴とする請求項1記載の下着の付属部分品に関する。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の下着の付属部分品が付設されてなることを特徴とする下着に関する。」
B;「【0032】
…(中略)…。
【実施例】
【0033】
以下本発明の実施例を記載することにより、本発明の効果をより明確なものとする。尚、本発明に係る発熱糸を含有する下着の付属部分品及びこれらが付設される発熱下着は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
実施例1として、アルミナ、ジルコニア、マグネシアからなる遠赤外線放射性粒子を含有するナイロン40%、綿繊維60%を混紡した60/2番手の発熱糸を用いて編機により製造した天竺編地を用いてパットとシャツ本体を作成し、該パットをシャツの脇の下部分に装着した。
【0035】
(実施例2)
実施例2として、カルボキシル基を有する酸性高分子を含有させたセルロース再生繊維を架橋後アルカリ処理して得られる改質セルロース再生繊維40%、綿繊維60%を混紡した、60/2番手の発熱糸を用いて編機により製造した天竺編地を用いてパットとシャツ本体を作成し、該パットをシャツの脇の下部分に装着した。
【0036】
(実施例3)
実施例3として、ヒドラジン架橋され、残存ニトリル基の一部にはカルボキシル基が、残部にはアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0において金属塩型とされた架橋アクリル系繊維40%、綿繊維60%を混紡した、60/2番手の発熱糸を用いて編機により製造した天竺編地を用いてパットとシャツ本体を作成し、該パットをシャツの脇の下部分に装着した。
(実施例4)
実施例4として、実施例1の発熱糸を20%、ナイロン70%、ポリウレタン10%を混用してストレッチレースを製造した。また、実施例1の発熱糸を用いて製造した天竺編地及び該ストレッチレースを用いてショーツを作成した。
【0037】
(実施例5)
実施例5として、実施例4のうち、発熱糸を10%、ナイロン80%、ポリウレタン10%を混用してストレッチレースを製造し、ショーツを作成した。
【0038】
(比較例1)…(中略)…。
【0043】
(試験例)
実施例1乃至5、及び比較例1乃至5で作成したシャツ及びショーツを用い、本発明の発熱下着の効果を以下の試験例に基き説明する。
実施例1乃至5の発熱効果、肌触り、耐洗濯性について年齢25?40才までの女性20人を無差別に選び、官能テストを行った。悪いを0、良いを5として数値評価させて、その平均値をとり、平均0?2.9を×、3.0?3.9を△、4.0?5.0を○として評価した。尚、耐洗濯性については下着の着用と洗濯を5回繰り返して行い、その発熱効果について評価した。
比較例1?5の発熱効果について、上記と同様の方法で評価した。
結果を表1に示す。
【0044】
…(中略)…
【0045】
上記の結果から、本発明に係る発熱糸を含有する下着の付属部分品及びこれらが付設される発熱下着は発熱力に優れ、肌触りも良いものである事がわかった。また、繰り返しの洗濯でもその発熱機能が低下せず、耐洗濯性もあることがわかった。」

2-2-2.判断
本件補正後の【特許請求の範囲】の記載並びに記載A及びBによれば、補正明細書等において、(実施例3)?(実施例5)を、【特許請求の範囲】に記載された発明の具体例としていることは明らかであるから、本件補正は、先に「2-1.」で述べたように、段落【0032】?【0045】については、文言上の補正はないものの、(実施例3)?(実施例5)にある架橋アクリル系繊維に注目すれば、該架橋アクリル系繊維は、実質的には、ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0?8.0重量%であり、残存ニトリル基には2.5?4.5meq/gのカルボキシル基とその残部にアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0においてMg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされたものに補正していることになる。
しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という)には、(実施例3)?(実施例5)にある架橋アクリル系繊維が上述したような金属塩型とされたものとして記載されてはいない。この点について、特に、付言すれば、当初明細書等において、(実施例3)?(実施例5)にある架橋アクリル系繊維の金属塩型につき、これが、カルボキシル基の一部がMg,Cu,Ca,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされたものであったとまではいう余地があるとしても、これら金属のうち、Caを除いた、これら金属より選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされたものとして記載されていたとはいうことはできない。

2-2-3.小括
以上のことから、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたということはできない。

2-3.目的と独立特許要件について
補正事項aは、補正前の請求項1及び2を削除するとともに、補正前の請求項3に記載されたヒドラジン架橋について、「該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0?8.0重量%であり」と、残存ニトリル基の一部に導入されるカルボキシル基を「2.5?4.5meq/gのカルボキシル基」と、技術的に限定して特定して請求項1とし、それに伴って補正前の請求項4及び5を新たな請求項2及び3とする補正を含んでいる。
そして、上記の補正前の請求項3に記載された事項を技術的に限定して特定しているから、補正事項aは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項によって特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

2-3-1.本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、補正明細書等の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「吸湿発熱特性及びpH緩衝特性を有する発熱性繊維を含有する下着の付属部分品であって、
前記発熱性繊維がヒドラジン架橋され、該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0?8.0重量%であり、残存ニトリル基には2.5?4.5meq/gのカルボキシル基とその残部にアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0においてMg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされた架橋アクリル系繊維であることを特徴とする下着の付属部分品。」

2-3-2.引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-27063号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 高吸湿性繊維及び遠赤外線放射能を有する繊維とを含有するシート状の蓄熱保温材。
【請求項2】 高吸湿性繊維がアクリル架橋型高吸湿性繊維であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱保温材。
【請求項3】 請求項1に記載の蓄熱保温材を用いた繊維製品。」
(イ)「【0007】
【発明の実施の形態】高吸湿性繊維とは、吸湿率が20%以上あり、水分を吸着することにより発熱が認められる繊維であれば、特に限定されるものではないが、例えば…(中略)…アクリル系繊維をヒドラジン架橋して窒素含有量を増加させ、残存ニトリル基まにカルボキシル基とアミド基を導入したもの(以下、アクリル架橋型繊維)などが挙げられる。
【0008】」
(ウ)「【0010】前記アクリル架橋型繊維は、pH緩衝能力があり、洗剤の残留によるアルカリ化や汗による酸性化(若しくはアルカリ化)等を緩衝してpH6前後の弱酸性化に維持することができ、また…(中略)…従って健康面、安全面に於いても有用で清潔・健康・安全な繊維製品とすることができる。
【0011】」
(エ)「【0021】
【発明の効果】本発明に係わる高吸湿性繊維を含む布地、不織布などのシート状物に遠赤外線放射能を有する合成繊維、化学繊維を混紡・交編織・張合わせ等したもの、または遠赤外線放射能を有する物質を樹脂加工剤等の固着剤で固定したもの、フイルムをラミネートしたものの特徴は以下のとおりである。1.高吸湿性繊維が持つ吸湿発熱特性により、遠赤外線放射能が高められ、安定した効率の良い遠赤外線放射能が得られ蓄熱保温性に優れる繊維製品が得られる。吸湿性、吸水性、放湿性及び乾燥性に優れるため繊維製品として蒸れることがない快適な製品が得られる。アクリル架橋型繊維は、pH緩衝能力があり、洗剤の残留によるアルカリ化や汗による酸性化(若しくはアルカリ化)等を緩衝pH6前後の弱酸性化に維持することが出来、また人体から発生するアンモニア等を吸着して消臭することが出来る。更に優れた抗菌性、難燃性も有しており、従って健康面、安全面に於いても有用で多機能な繊維製品が得られる。」
(オ)「【0023】
【実施例】「以下に本発明に係わる内容を実施例により具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例に限定されるものではなく、前・後の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に包含される。以下に記載の部及び百分率は断りのない限り重量基準で示す。
【0024】アクリル架橋型高吸湿性繊維の製造例-1アクリロニトリル89%及びアクリル酸メチル11%のアクリロニトリル系重合体を48%のロダンソーダ水溶液で溶解した紡糸原液を常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理して0.8デニール×102mmの原料繊維と0.8デニール×80mmの原料繊維を得た。これら原料繊維1Kgに30重量%の加水ヒドラジン2.5Kgを加え、102℃で3時間架橋処理した。窒素増加量は、5.1%であった。該架橋繊維を水洗後、更に3重量%の水酸化ナトリウム5Kgを加え、90℃で2時間加水分解した。次いで、1規定HNO_(3 )水溶液で処理して、カルボキシル基をH型に変更し、水洗後、1規定NaOHでpHを6.5に調整し、塩化カルシウム55gを添加して、60℃で2時間金属処理した。充分水洗した後、脱水、油剤処理及び乾燥処理を行い、アクリル架橋型高吸湿性繊維を得た。繊維のカルボキシル基量は、4.5meq/g、全カルボキシル基中のCa型カルボキシル基の割合は70mol%であった。尚、得られたアクリル架橋型高吸湿性繊維の繊度は…(中略)…繊維1gを500mlの蒸留水に分散させた時の平衡pHは5.8であった。
【0025】」

記載(イ)の「アクリル系繊維をヒドラジン架橋して窒素含有量を増加させ、残存ニトリル基まにカルボキシル基とアミド基を導入したもの(以下、アクリル架橋型繊維)」との記載は、ここに記載のアクリル架橋型繊維が、残存ニトリル基に、カルボキシル基とその残部にアミド基が導入されたものであることを意味していることは、明らかであって、以上の記載事項(ア)?(オ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

「吸湿発熱特性及びpH緩衝特性を有するアクリル架橋型繊維を含有する布地であって、
前記アクリル架橋型繊維が、アクリル系繊維がヒドラジン架橋され、該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が5.1重量%であり、残存ニトリル基には4.5meq/gのカルボキシル基とその残部にアミド基が導入され、該カルボキシル基の70mol%がpH6.5において金属処理によりCa型カルボキシル基とされたアクリル架橋型繊維である布地。」

同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-235216号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

(カ)「【請求項1】水分吸着熱発熱体(2)に反射体(3)を重着し、該反射体(3)で通気の流れと量を調節して水分吸着熱反応を起こさせると同時に、該反射体(3)による断熱及び熱反射により温度上昇を強化するようにした体熱保温帯(1)。
【請求項2】水分吸着熱発熱体(2)として吸放湿吸水発熱性繊維布帛、動物性天然繊維布帛又は不織布を用いたことを特徴とする請求項1記載の体熱保温帯」
(キ)「【0042】図11は本発明による実施例を示したもので、(a)はシャツの斜視図であり、(b)はユニフォームの斜視図である。図11(a)において、体熱保温帯片面ユニット11をシャツの外側に縫い付けたもので、肩上部には長矩形、背中上部には逆台形、腹部背中には矩形の体熱保温帯片面ユニット11を用いている。パンツ、ガードル、靴下等の肌着も同じ構成で保温性に優れた肌着とすることが出来た。」

以上の記載事項(カ)及び(キ)から、引用文献2には、パンツやガードルといった下着に、吸放湿吸水発熱性繊維布帛を用いた水分吸着熱発熱体を縫い付けることが記載され、該水分吸着熱発熱体に注目すれば、これは、下着の付属部分品ということができる。

2-3-3.対比
本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]「吸湿発熱特性及びpH緩衝特性を有する発熱性繊維を含有する物品であって、
前記発熱性繊維がヒドラジン架橋され、該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0?8.0重量%であり、残存ニトリル基には2.5?4.5meq/gのカルボキシル基とその残部にアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0において金属塩型とされた架橋アクリル系繊維である上記物品。」である点。

[相違点1]カルボキシル基の一部を金属塩型とする金属が、本願補正発明は「Mg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上」であるのに対し、引用発明は「Ca」である点。
[相違点2]発明の対象である物品が、本願補正発明は、「下着の付属部分品」であるのに対し、引用発明は、「布地」である点。

2-3-4.判断
そこで上記の相違点について検討する。

[相違点1]について
アクリル系繊維をヒドラジン架橋し、残存ニトリル基に、カルボキシル基とその残部にアミド基を導入し、更に、該カルボキシル基を金属処理により吸湿特性を有するアクリル架橋型繊維の製法において、上記金属処理における金属にMg,Cu,Zn,Al,Ag又はFeを用いることは、この出願前の周知技術であり(特開平9-59872号公報、特開平5-132858号公報を、参照。)、また、引用発明が上記金属としてCaを採用しているものの、引用文献1の記載全体から見て、前記周知技術に照らせば、これ以外の金属が採用可能であることは、容易に想到し得ることで、引用発明において、カルボキシル基の一部を金属塩型とする金属を「Mg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上」とすることは、容易になし得るものといえる。

[相違点2]について
引用文献2には、先に「2-3-2.」で述べたことから明らかなように、吸放湿吸水発熱性繊維布帛を用いた水分吸着熱発熱体を下着の付属部分品とすることが記載されており、引用発明も、吸湿発熱特性を有する布地、即ち、布帛であるから、これを下着の付属部分品とすることは、引用文献2の記載を参照すれば容易に想到しうる程度の事項である。

以上のことから、相違点1及び2、共に、容易になし得るものといえる。

2-3-5.小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、上記引用文献1、2に記載された発明、及び、本願出願前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることのできないものである。

2-4.まとめ
本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるし、また、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によっても却下すべきものである。

3.本願発明について

3-1.本願発明
平成19年11月13日付の手続補正は上記のとおり却下されるので、本願の請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年10月27日付で手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項3の記載は以下のとおりである。

「吸湿発熱特性及びpH緩衝特性を有する発熱性繊維を含有する下着の付属部分品であって、
前記発熱性繊維がヒドラジン架橋され、残存ニトリル基の一部にはカルボキシル基が、残部にはアミド基が導入され、該カルボキシル基の一部がpH4.0?7.0においてMg,Cu,Zn,Al,Ag,Feより選ばれる1種又は2種以上の金属塩型とされた架橋アクリル系繊維であることを特徴とする下着の付属部分品。」

3-2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、2及び、その記載事項は、前記「2-3-2.」に記載したとおりである。

3-3.対比・判断
本願発明は、前記「2-3-1.」に記載した本願補正発明から、ヒドラジン架橋について、「該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0?8.0重量%であり」とする事項、及びカルボキシル基が導入される残存ニトリル基の一部に導入されるカルボキシル基を「2.5?4.5meq/gのカルボキシル基」とする事項を省いたものであり、他の事項については本願補正発明と差異がない。
してみると、本願発明の事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2-3-3.」及び「2-3-4.」に記載したとおりの理由によって、引用文献1、2に記載された発明、及び、本願出願前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1、2に記載された発明、及び、本願出願前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-13 
結審通知日 2009-07-15 
審決日 2009-07-29 
出願番号 特願2003-370564(P2003-370564)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41B)
P 1 8・ 575- Z (A41B)
P 1 8・ 561- Z (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二ッ谷 裕子山口 直  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 村上 聡
熊倉 強
発明の名称 発熱性繊維を含有する下着の付属部分品及び該付属部分品が付設された下着  
代理人 清原 義博  

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