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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1203487 |
審判番号 | 不服2006-22201 |
総通号数 | 118 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-10-03 |
確定日 | 2009-09-07 |
事件の表示 | 特願2002-246421「SOIウエーハの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 87767〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年8月27日の出願であって、平成18年8月31日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年10月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年10月20日付けで手続補正がなされ、その後当審において平成21年3月3日付けで審尋がなされ、それに対する回答は提出されなかったものである。 2.平成18年10月20日付けの手続補正について 【補正却下の決定の結論】 平成18年10月20日付けの手続補正を却下する。 【理由】 (1)補正の内容 平成18年10月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1乃至6を、補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至5と補正するとともに、補正前の発明の詳細な説明の0021段落及び0022段落を、補正後の発明の詳細な説明の0021段落及び0022段落と補正するものであって、その内、補正前の請求項1及び補正後の請求項1は各々以下のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 原料ウエーハとなる2枚のウエーハのうち、少なくとも一方のウエーハに絶縁層を形成し、該一方のウエーハと他方のウエーハとを接着剤を用いずに貼り合わせるSOIウエーハの製造方法において、ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハを上記原料ウエーハとして用いることを特徴とするSOIウエーハの製造方法。」 (補正後) 「【請求項1】 原料ウエーハとなる2枚のウエーハのうち、少なくとも一方のウエーハに絶縁層を形成し、該一方のウエーハと他方のウエーハとを接着剤を用いずに貼り合わせるSOIウエーハの製造方法において、ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工したウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハを上記原料ウエーハとして用いることを特徴とするSOIウエーハの製造方法。」 (2)補正事項の整理 本件補正のうち特許請求の範囲についての補正事項を整理すると、以下のとおりである。 (補正事項1) 補正前の請求項1における「ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハ」を、補正後の請求項1における「ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工したウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハ」と補正すること。 (補正事項2) 補正前の請求項6を削除すること。 (3)新規事項の追加の有無 (3-1)補正事項1についての補正により、補正前の請求項1に係る発明における「ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハ」について、「ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工した」という限定が付加されている。 そこで、これについて検討すると、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)において、「ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハ」に関連する記載は、図1及び「【0027】 このようなピットの存在しない原料ウエーハは、SOIウエーハの原料となるウエーハ表面のラップスクラッチの有無を検査し、ラップスクラッチが検出されないウエーハを選別し、その選別されたウエーハを原料ウエーハとしてSOIウエーハを製造すればボイドの発生を減少することができる。 【0028】 また、ラップスクラッチの存在しないウエーハを得るためには、例えば研磨代を通常の研磨代より多くして研磨する。例えば、研磨代が15μm以上にして研磨した鏡面研磨ウエーハを原料ウエーハとして用いると好ましい。このように研磨代を増やすことでラップスクラッチを低減することができる。 【0029】 更には、ラッピング後、ラップスクラッチが消滅するように平面研削を行い、その後鏡面研磨されたウエーハを原料ウエーハとして用いることが好ましい。 【0030】 ラッピング工程で発生すると考えられるラップスクラッチは、平面研削等により除去が可能であり、平面研削工程を入れた後に鏡面研磨を行えばラップスクラッチを低減することができる。」、 「【0036】 ラップスクラッチの存在しないウエーハは、ウエーハ表面のラップスクラッチの有無を検査し、ラップスクラッチが検出されないウエーハを選別することによって得られる。このウエーハ表面のラップスクラッチの検査方法は、特に限定するもではないが、例えばコンフォーカル光学系のレーザー顕微鏡で0.08μm以上の欠陥を評価し、暗い四角い形状をした形態の欠陥の有無を検査すればよい。このようなラップスクラッチの検出されない(存在しない)ウエーハとしては、通常の研磨代よりも研磨代を多くして研磨したウエーハ、例えば研磨代が15μm以上の鏡面研磨ウエーハをあげることができ、これをボンドウエーハとして用いるのが好適である。また、ラップスクラッチの存在しないウエーハとしては、ラッピング後、ラップスクラッチが消滅するように平面研削を行い、その後鏡面研磨されたウエーハを用いることもできる。」、 「【0049】 原料ウエーハは、実験例1と同様に製造したシリコンウエーハで、研磨代を15μmとした(実験例1では8μmの研磨代)。また、ウエーハ表面のラップスクラッチをコンフォーカル光学系のレーザー顕微鏡(レーザーテック社製MAGICS)を用いて検査し、ラップスクラッチが検出されないウエーハを選別し使用した。」である。 (3-2)上記記載箇所には、例えば、「・・・研磨代を通常の研磨代より多くして研磨する。例えば、研磨代が15μm以上にして研磨した鏡面研磨ウエーハ・・・」(【0028】)、「・・・ラッピング後、ラップスクラッチが消滅するように平面研削を行い、その後鏡面研磨されたウエーハ・・・」(【0029】)という記載はなされているものの、「ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工した」という事項については、当初明細書等に記載されておらず、かつ、当初明細書等の記載から当業者にとって自明な事項とも認められない。 よって、補正前の請求項1における「ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハ」について、「ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工した」という限定を付加する補正は、当初明細書等を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。 以上、検討したとおり、補正事項1についての補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、その他の補正について検討するまでもなく、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下、「特許法第17条の2第3項」という。)に規定する要件を満たしていない。 (4)補正の目的 補正事項についての補正は、上で検討したように、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないが、仮に、当該補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであるとみなせば、当該補正は、補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項の1つである「ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハ」について、「 ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工した」という限定を付加するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(以下、「特許法第17条の2第4項第2号」という。)に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (5)独立特許要件について (5-1)検討の前提 上記(3)において検討したとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないが、仮に本件補正が当該要件を満たすものであるとみなした場合には、上記(4)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるから、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項(以下、「特許法第17条の2第5項」という。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、一応検討する。 (5-2)補正後の請求項1に係る発明 本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後の発明」という。)は、平成18年10月20日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記2.(1)の(補正後)に記載したとおりのものである。 (5-3)引用刊行物に記載された発明 (5-3-1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成10年1月23日に頒布された刊行物である特開平10-22186号公報(以下「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【0002】 【従来の技術】例えばSOIの作製方法の一つとして支持基板に絶縁層を介して活性層基板を張り合わせる方法がある。この方法では、張り合わせ用支持基板では活性層基板が張り合わされる面は高平坦度が要求されている。例えば、この支持基板の張り合わせ面はTTV(Total Thickness Variation)で0.5μm未満の平坦度が要求される。 【0003】従来の張り合わせ用支持基板(Bonded Wafer:B板)の作製は以下の2通りの方法のいずれかで行われていた。すなわち、ラップドウェーハ(lapped silicon wafer)をエッチングした後、このエッチドウェーハ(etched silicon wafer)の両面を鏡面研磨する方法である。この両面鏡面ウェーハをB板として活性層用のA板(Active Wafer)と張り合わせていたものである。または、このエッチドウェーハを電解ドレス研削し、この片側の研削面を研磨することにより、高平坦度(TTVで0.5μm未満)の片面を有するB板を作製していた。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の張り合わせ用支持基板の作製方法にあっては、以下の課題を有していた。前者の方法では、シリコンウェーハの研磨量が過大となっていた。例えば、ウェーハの片面で15μmの研磨が必要であり、その両面では30μm以上の研磨が必要であった。また、この研磨のための装置が高価である。一方、後者の方法では、B板についてFeの汚染があった。電解ドレス研削では、ボンディング材(Fe)を溶かしながら研削が行われるからである。 【0005】そこで、発明者は、エッチドウェーハの研削方法について鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。すなわち、従来、レジノイド研削砥石にあっては、#1000以下の低番手の砥粒の場合は、エッチドウェーハを研削することができるが、それより高番手の砥粒では研削することができない。また、エッチドウェーハの研削後の表面を5μmだけ研磨したとき、張り合わせ可能な面となるか否かについても、ビトリファイド研削砥石とレジノイド研削砥石とのそれぞれについて研究した。その結果、#2000よりも高番手の砥粒を有するビトリファイド研削砥石での研削したシリコンウェーハの研磨面には、研削痕が残らず、張り合わせが可能となることを知見した。」、 「【0013】 【発明の実施の形態】以下、この発明の一実施例に係る張り合わせ用支持基板の作製方法を図面を参照して説明する。図1?図2はこの発明の一実施例に係るシリコンウェーハ(張り合わせ用支持基板)の表面の平坦度の測定結果を示す図である。 【0014】まず、磁器質のボンディング材を用いて砥粒を結合したビトリファイド研削砥石を準備する。このビトリファイド研削砥石を使用して、エッチングされたシリコンウェーハ(支持基板)の表面の研削を行う。このときのエッチドウェーハ表面(エッチング面)の平坦度はTTVで2μmとする。使用するビトリファイド研削砥石は#2000以上、好ましくは#3000?#4000の砥粒を結合した研削砥石を用いる。そして、この研削砥石(#4000のビトリファイド研削砥石)でシリコンウェーハ表面を3μmだけ研削する。その結果、研削面の平坦度はTTVで0.35μmとなる。図1および図2はこの状態での研削面のADE測定の結果を示している。 【0015】この後、このシリコンウェーハの研削面をさらに7μm分だけ公知の研磨機(片面研磨機)を使用して鏡面研磨する。このシリコンウェーハの研磨面のTTVは0.40μmとなる。すなわち、このシリコンウェーハは研削・研磨の工程でトータルで10μmの厚さだけ、そのエッチング面から除去される。」 (5-3-2)上記記載からみて、引用刊行物には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。 「支持基板に絶縁層を介して活性層基板を張り合わせるSOIの作製方法において、エッチングされたシリコンウェーハ(支持基板)の表面を、#4000のビトリファイド研削砥石で3μm研削した後、このシリコンウェーハの研削面をさらに7μm分だけ片面研磨機を使用して鏡面研磨したシリコンウエーハを張り合わせ用支持基板として用いることを特徴とするSOIの作製方法」 (5-4)対比 (5-4-1)刊行物発明における「SOIの作製方法」、「エッチングされた」、「鏡面研磨した」は、各々補正後の発明における「SOIウエーハの製造方法」、「エッチングして」、「鏡面研磨加工した」に相当する。 そして、刊行物発明における「張り合わせ用支持基板」及び「活性層基板」は、補正後の発明における「原料ウエーハとなる2枚のウエーハ」に相当することは明らかである。 (5-4-2)以上を勘案すると、補正後の発明と刊行物発明とは、 「原料ウエーハとなる2枚のウエーハを貼り合わるSOIウエーハの製造方法において、エッチングして鏡面研磨加工したウエーハを上記原料ウエーハのうちの張り合わせ用支持基板として用いることを特徴とするSOIウエーハの製造方法。」 である点で一致し、以下の5点で相違する。 (相違点1) 補正後の発明では、「原料ウエーハとなる2枚のウエーハのうち、少なくとも一方のウエーハに絶縁層を形成し、該一方のウエーハと他方のウエーハとを」、「貼り合わせる」のに対して、刊行物発明では、「支持基板」、「活性層基板」の少なくとも一方に「絶縁層」を形成して、両基板を「張り合わせる」ことが明示されていない点。 (相違点2) 補正後の発明では、「該一方のウエーハと他方のウエーハとを」、「貼り合わせる」際に、「接着剤を用い」ないのに対して、刊行物発明では、「支持基板」と「活性層基板」とを「張り合わせる」際に、接着剤を用いるのか用いないのかが明らかでない点。 (相違点3) 補正後の発明では、「ウエーハ」を「ラッピング後エッチングして」いるのに対して、刊行物発明では、「シリコンウエーハ(支持基板)」を「エッチング」する前にラッピングしているのかどうかが明示されていない点。 (相違点4) 補正後の発明では、「ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工したウエーハ表面にラップスクラッチが検出されない」のに対して、刊行物発明では、「エッチングされ」た後、「鏡面研磨したシリコンウエーハ」の表面におけるラップスクラッチについて何ら特定されていない点。 (相違点5) 補正後の発明では、「ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工したウエーハ」を、「上記原料ウエーハ」すなわち「原料ウエーハとなる2枚のウエーハ」として用いるのに対して、刊行物発明では、「エッチングされ」た後「鏡面研磨したシリコンウエーハ」を、「張り合わせ用支持基板」としてのみ用いる点。 (5-5)判断 (5-5-1)相違点1について SOIウエーハの作製方法において、支持基板に絶縁層を介して活性層基板を張り合わせる際に、どちらか一方の基板あるいは両方の基板に絶縁層を形成するのは、以下の周知文献1乃至3に記載されるように、当業者において常套的に用いられている周知技術である。 (1)周知文献1:特開2000-138360号公報には、図1とともに、 「【0002】 【従来の技術】従来のSOI基板の製造方法として、素子を形成する半導体ウエハからなる活性基板と、活性基板を支持する半導体ウエハからなる支持基板とを絶縁層を介して貼り合わるものがある。そして、活性基板と支持基板とを貼り合わせる場合、両者の貼り合わせ面を鏡面仕上げして貼り合わせるようにしている。 【0003】半導体ウエハを鏡面し上げする場合、図4に示したようにしている(例えば、水間基一郎による「Si 大型単結晶の加工技術と設備」、工業レアメタルNo.64、1977年)。すなわち、 (a)まず、シリコンのインゴットを所定の厚さにスライスして半導体ウエハを得る(ステップ10)。(b)スライスされたウエハの切断面をラッピングして厚さが均一となるように平坦化する(ステップ12)。 (c)ラッピングしたウエハを酸性のエッチング液に浸漬し、ラッピングにより生じた加工歪を酸エッチングして除去する(ステップ14)。 (d)エッチングしたウエハを研磨して鏡面に仕上げする(ステップ16)。 【0004】このようにして得た少なくとも片面が鏡面仕上げされた活性基板と支持基板とは、図5のようにして貼り合わせて一体化し、SOI基板にする(例えば、特開平9-252100号公報)。すなわち、 (1)活性基板と支持基板との少なくとも一方を酸化して鏡面に鏡面状態を維持しつつ酸化膜を形成する(ステップ20)。 (2)活性基板と支持基板との鏡面を合わせる(ステップ22)。 (3)活性基板と支持基板との鏡面を合わせた状態で加熱し、両者を結合する(ステップ24)。 (4)支持基板に貼り合わせた活性基板を所定の厚さまで研削して薄膜化する(ステップ26)。 (5)研削した活性基板の面を研磨して研削による加工歪(加工ダメージ)を除去し、SOI基板に仕上げる(ステップ28)。」 (2)周知文献2:特開2001-284559号公報には、 「【0002】 【従来の技術】2枚のシリコンウェーハを張り合わせた張り合わせ基板の一種として、張り合わせSOIウェーハが知られている。これは、デバイスが作製される活性層用ウェーハと、これを裏側から支持する支持基板用ウェーハとの間に、厚さ数μmのシリコン酸化膜が埋め込まれた張り合わせウェーハである。以下、従来の張り合わせSOIウェーハの製造方法を説明する。すなわち、まずCZ法により引き上げられた単結晶シリコンインゴットをスライスし、研磨して、鏡面に仕上げられた2枚のシリコンウェーハを用意する。次いで、一方のシリコンウェーハである活性層用ウェーハ、または、他方のシリコンウェーハである支持基板用ウェーハ、もしくは、これら両方のウェーハを熱酸化炉に挿入し、ここで熱酸化処理して、処理後のウェーハ全体を絶縁膜であるシリコン酸化膜により覆う。 それから、両ウェーハを室温において重ね合わせる。続いて、所定の張り合わせ熱処理を施す。その後、活性層用ウェーハの外周部の面取りを行い、外周縁の張り合わせ不良領域を除去する。次に、活性層用ウェーハの表面を研削・研磨する。これにより、埋め込み酸化膜を有する張り合わせSOIウェーハが作製される。」 (3)周知文献3:特開2000-323368号公報には、図5とともに 「【0004】一般的に貼り合わせ(SOI)半導体基板は、次のように形成される。 【0005】図5は、一般に行われている半導体基板の製造方法である。 【0006】まず、少なくとも主面が鏡面研磨された2枚の半導体基板11,12のうち少なくとも一方(本例においては、半導体基板11)に、酸化性雰囲気下において熱処理を施し、半導体基板表面に酸化膜13を形成する(図5(A)参照)。 【0007】次に、必要に応じて前記2枚の半導体基板の洗浄処理を行った後、前記2枚の半導体基板の鏡面側同士を貼り合わせる(図5(B)参照)。 【0008】次に、貼り合わせた2枚の半導体基板を酸化性雰囲気中で熱処理し、2枚の半導体基板を強固に接着し、貼り合わせ半導体基板15をなす。熱処理によって貼り合わせ半導体基板15表面には、酸化膜14が形成される(図5(C)参照)。」 したがって、刊行物発明においても、支持基板あるいは活性層基板の少なくとも一方に絶縁層を形成し、両基板を張り合わせているものと認められ、相違点1は、実質的なものではなく、仮に実質的なものであるとしても、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (5-5-2)相違点2について SOIウエーハの製造方法において、一方のウエーハに絶縁層を形成し、該一方のウエーハと他方のウエーハとを貼り合わせる際に、接着剤を用いずに貼り合わせることは、上記周知文献1乃至3に記載されるように、当業者における周知技術であり、刊行物発明において、一方のウエーハと他方のウエーハとを接着剤を用いずに貼り合わせることは、当業者が必要に応じて、適宜選択し得る程度のことに過ぎない。 よって、相違点2は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。 (5-5-3)相違点3について 引用刊行物の「【0003】従来の張り合わせ用支持基板(Bonded Wafer:B板)の作製は以下の2通りの方法のいずれかで行われていた。すなわち、ラップドウェーハ(lapped silicon wafer)をエッチングした後、このエッチドウェーハ(etched silicon wafer)の両面を鏡面研磨する方法である。・・・」という記載からみて、刊行物発明の「エッチングされたシリコンウェーハ(支持基板)」とは、「ラップドウェーハをエッチングした後」得られる「エッチドウェーハ」、すなわち「ラッピング後にエッチングされたウエーハ」を意味するものであることは明らかであり、仮にそうでないとしても、前記「エッチングされたシリコンウエーハ」を事前にラッピングすることは、当業者が、必要に応じて適宜なし得る程度のことに過ぎない。 したがって、相違点は3は、実質的なものではなく、仮に実質的なものであるとしても、当業者が容易になし得たものである。 (5-5-4)相違点4について (5-5-4-1)刊行物発明において、ラッピング後のウエーハにはラッピングスクラッチも含めて傷が形成されていることは明らかである。ここで、「ラッピング」、「エッチング」、「ビトリファイド研削砥石による研削」、「片面研磨機を使用して鏡面研磨」の一連の処理は、前段の処理において発生あるいは残存する傷を、後段の処理においてさらに減少させるためのものであることは明らかであるから、最終の処理である鏡面研磨を終えたウエーハの表面状態は、ラッピング直後の表面状態と比べて、ラッピングスクラッチを含めた傷が減少しているものと認められる。 (5-5-4-2) そして、引用刊行物には、「【0005】・・・#2000よりも高番手の砥粒を有するビトリファイド研削砥石での研削したシリコンウェーハの研磨面には、研削痕が残らず、張り合わせが可能となることを知見した。」と記載されていることからも、最終処理である鏡面研磨を終えたウエーハの表面には、可能な限り傷がつかないようにすることは、当然のことであり、刊行物発明において、ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工したウエーハの表面にラッピングスクラッチが検出されないようにすることも、当業者が適宜なし得る程度のことに過ぎない。 (5-5-4-3)さらに、本願明細書には、「【0028】また、ラップスクラッチの存在しないウエーハを得るためには、例えば研磨代を通常の研磨代より多くして研磨する。例えば、研磨代が15μm以上にして研磨した鏡面研磨ウエーハを原料ウエーハとして用いると好ましい。このように研磨代を増やすことでラップスクラッチを低減することができる。」と記載されているが、引用刊行物においても、「【0003】従来の張り合わせ用支持基板(Bonded Wafer:B板)の作製は以下の2通りの方法のいずれかで行われていた。すなわち、ラップドウェーハ(lapped silicon wafer)をエッチングした後、このエッチドウェーハ(etched silicon wafer)の両面を鏡面研磨する方法である。・・・」、「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の張り合わせ用支持基板の作製方法にあっては、以下の課題を有していた。前者の方法では、シリコンウェーハの研磨量が過大となっていた。例えば、ウェーハの片面で15μmの研磨が必要であり、その両面では30μm以上の研磨が必要であった。・・・」と記載されており、両者は同じ研磨代だけ研磨されていることから、引用刊行物に従来技術として記載された前記方法によって作成された鏡面研磨ウエーハも、補正後の発明の方法によって作成された鏡面研磨ウエーハと同じくラップスクラッチが存在しないものと認められる。 したがって、刊行物発明の方法によって作成されたウエーハを、少なくとも従来の方法によって作成されたウエーハと同程度の表面状態にすることは、当業者であれば当然考慮すべきことと言わざるを得ない。 よって、相違点4は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。 (5-5-5)相違点5について SOIウエーハの作製方法において、支持基板及び活性層基板を張り合わせる際に、両基板の張り合わせ側表面を鏡面研磨しておくことは、上記周知文献1乃至3に記載されるように従来周知である。 したがって、刊行物発明による方法を用いて作成され、表面が鏡面研磨されたウエーハを、貼り合わせ用支持基板のみならず、活性層用の基板として用いることは、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (5-6)独立特許要件についての纏め 以上、検討したとおり、補正後の発明と刊行物発明との相違点は、いずれも、実質的なものではないか、又は、当業者が周知技術を勘案することにより容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、補正後の発明は、刊行物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、本件補正は、補正後の発明が、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。 (6)補正の却下についてのむすび 本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないものであり、また、仮に、そのような違反がなく、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとみなした場合においても、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 平成18年10月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至6に係る発明は、平成18年3月9日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記2.(1)の(補正前)に記載したとおりのものである。 4.引用刊行物に記載された発明 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、引用刊行物には、上において検討したとおり、上記2.(5-3-1)に記載したとおりの事項、及び上記2.(5-3-2)に記載したとおりの発明が記載されているものと認められる。 5.対比 (1)刊行物発明における「SOIの作製方法」は、本願発明における「SOIウエーハの製造方法」に相当する。 そして、「支持基板」及び「活性層基板」は、「原料ウエーハとなる2枚のウエーハ」に相当することは明らかである。 (2)以上を勘案すると、本願発明と刊行物発明とは、 「原料ウエーハとなる2枚のウエーハを貼り合わるSOIウエーハの製造方法。」 である点で一致し、以下の4点で相違する。 (相違点1) 本願発明では、「原料ウエーハとなる2枚のウエーハのうち、少なくとも一方のウエーハに絶縁層を形成し、該一方のウエーハと他方のウエーハとを」、「貼り合わせる」のに対して、刊行物発明では、「支持基板」、「活性層基板」の少なくとも一方に「絶縁層」を形成して、両基板を「張り合わせる」ことが明示されていない点。 (相違点2) 本願発明では、「該一方のウエーハと他方のウエーハとを」、「貼り合わせる」際に、「接着剤を用い」ないのに対して、刊行物発明では、「支持基板」と「活性層基板」とを「張り合わせる」際に、接着剤を用いるのか用いないのかが明らかでない点。 (相違点3) 本願発明では、「原料ウエーハとなる」「ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されない」のに対して、刊行物発明では、「張り合わせ用支持基板として用いる」「シリコンウエーハ」の表面におけるラップスクラッチについて何ら特定されていない点。 (相違点4) 本願発明では、「ウエーハ表面にラップスクラッチが検出されないウエーハ」を、「上記原料ウエーハ」すなわち「原料ウエーハとなる2枚のウエーハ」として用いるのに対して、刊行物発明では、「エッチングされ」た後「鏡面研磨したウエーハ」を、「張り合わせ用支持基板」としてのみ用いる点。 6.判断 (1)相違点1について SOIウエーハの作製方法において、支持基板に絶縁層を介して活性層基板を張り合わせる際に、どちらか一方の基板あるいは両方の基板に絶縁層を形成するのは、上記2.(5-5-1)に記載した周知文献1乃至3に記載されるように当業者において常套的に用いられている周知技術である。 したがって、刊行物発明においても、支持基板あるいは活性層基板の少なくとも一方に絶縁層を形成し、両基板を張り合わせているものと認められ、相違点1は、実質的なものではなく、仮に実質的なものであるとしても、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (2)相違点2について SOIウエーハの製造方法において、一方のウエーハに絶縁層を形成し、該一方のウエーハと他方のウエーハとを貼り合わせる際に、接着剤を用いずに貼り合わせることは、上記2.(5-5-1)に記載した周知文献1乃至3に記載されたように当業者における周知技術であり、刊行物発明において、一方のウエーハと他方のウエーハとを接着剤を用いずに貼り合わせることは、当業者が必要に応じて、適宜選択し得る程度のことにすぎない。 よって、相違点2は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。 (3)相違点3について (3-1)刊行物発明において、ラッピング後のウエーハにはラッピングスクラッチも含めて傷が形成されていることは明らかである。ここで、「ラッピング」、「エッチング」、「ビトリファイド研削砥石による研削」、「片面研磨機を使用して鏡面研磨」の一連の処理は、前段の処理において発生あるいは残存する傷を、後段の処理においてさらに減少させるためのものであることは明らかであるから、最終の処理である鏡面研磨を終えたウエーハの表面状態は、ラッピング直後の表面状態と比べて、ラッピングスクラッチを含めた傷が減少しているものと認められる。 (3-2) そして、引用刊行物には、「【0005】・・・#2000よりも高番手の砥粒を有するビトリファイド研削砥石での研削したシリコンウェーハの研磨面には、研削痕が残らず、張り合わせが可能となることを知見した。」と記載されていることからも、最終処理である鏡面研磨を終えたウエーハの表面には、可能な限り傷がつかないようにすることは、当然のことであり、刊行物発明において、ラッピング後エッチングして鏡面研磨加工したウエーハの表面にラッピングスクラッチが検出されないようにすることも、当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。 (3-3)さらに、本願明細書には、「【0028】また、ラップスクラッチの存在しないウエーハを得るためには、例えば研磨代を通常の研磨代より多くして研磨する。例えば、研磨代が15μm以上にして研磨した鏡面研磨ウエーハを原料ウエーハとして用いると好ましい。このように研磨代を増やすことでラップスクラッチを低減することができる。」と記載されているが、引用刊行物においても、「【0003】従来の張り合わせ用支持基板(Bonded Wafer:B板)の作製は以下の2通りの方法のいずれかで行われていた。すなわち、ラップドウェーハ(lapped silicon wafer)をエッチングした後、このエッチドウェーハ(etched silicon wafer)の両面を鏡面研磨する方法である。・・・」、「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の張り合わせ用支持基板の作製方法にあっては、以下の課題を有していた。前者の方法では、シリコンウェーハの研磨量が過大となっていた。例えば、ウェーハの片面で15μmの研磨が必要であり、その両面では30μm以上の研磨が必要であった。・・・」と記載されており、両者は同じ研磨代だけ研磨されていることから、引用刊行物に従来技術として記載された前記方法によって作成された鏡面研磨ウエーハも、補正後の発明の方法によって作成された鏡面研磨ウエーハと同じくラップスクラッチが存在しないものと認められる。 したがって、刊行物発明の方法によって作成されたウエーハを、少なくとも従来の方法によって作成されたウエーハと同程度の表面状態にすることは、当業者であれば当然考慮すべきことと言わざるを得ない。 よって、相違点3は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。 (3-4)相違点4について SOIウエーハの作製方法において、支持基板及び活性層基板を張り合わせる際に、両基板の張り合わせ側表面を鏡面研磨しておくことは、上記2.(5-5-1)に記載した周知文献1乃至3に記載されるように従来周知である。 したがって、刊行物発明による方法を用いて作成され、表面が鏡面研磨されたウエーハを、貼り合わせ用支持基板のみならず、活性層用の基板として用いることは、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (4) 以上、検討したとおり、本願発明と刊行物発明との相違点は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。 したがって、本願発明は、刊行物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.むすび 以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-07-14 |
結審通知日 | 2009-07-15 |
審決日 | 2009-07-28 |
出願番号 | 特願2002-246421(P2002-246421) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L) P 1 8・ 575- Z (H01L) P 1 8・ 561- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 萩原 周治 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 小野田 誠 |
発明の名称 | SOIウエーハの製造方法 |
代理人 | 石原 詔二 |