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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C |
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管理番号 | 1203503 |
審判番号 | 不服2008-26786 |
総通号数 | 118 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-20 |
確定日 | 2009-09-07 |
事件の表示 | 特願2002-330258「自動車パワートレイン用転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 3595〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年11月14日(特許法第41条第1項に基づく優先権主張平成13年11月15日、平成14年4月16日)の出願であって、平成20年9月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年10月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付で手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 2.補正の却下の決定 [結 論] 本件補正を却下する。 [理 由] 2-1 補正事項 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に対する以下の補正を含むものである。 (1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「自動車のパワートレインおよびその周辺補機に使用される転がり軸受であって、内レース,外レースおよび転動体のうちの少なくとも一つの部材に、ニッケル(Ni)または銅(Cu)を主成分とする厚さ0.1?15μmの皮膜を形成してあることを特徴とする自動車パワートレイン用転がり軸受。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「自動車のパワートレイン及びその周辺補機に使用される転がり軸受であって、内レース,外レース及び転動体のうちの少なくとも一つの部材に、ニッケル(Ni)又は銅(Cu)を主成分とする厚さ0.5?10μmの皮膜を形成してあることを特徴とする自動車パワートレイン用転がり軸受。」(下線は、審判請求人が付したものである。) 2-2 新規事項の有無及び補正の目的 上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「ニッケル(Ni)または銅(Cu)を主成分とする厚さ0.1?15μmの皮膜」について、願書に最初に添付した明細書の【表1】の記載を基に、その数値範囲を「0.5?10μm」とさらに限定して特定したものである。そして、この補正によって発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更も生じない。 してみれば、この補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、その目的は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に合致するものである。 2-3 独立特許要件 上述のとおり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を補正の目的の一つとしているところ、補正後の本願発明は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならい。 そこで、この点について以下に検討する。 2-3-1 補正後の本願発明 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その記載は、上述2-1(2)のとおりである。 2-3-2 刊行物に記載の発明 一方、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、特許法第41条第2項の規定により優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明についての同法第29条第2項等の規定の適用に当たり、先の出願の時にされたものとみなされた本願出願前に、日本国内において頒布された刊行物である特開平2-190615号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開昭63-180722号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開平6-313434号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の発明が記載されている。 (1)刊行物1 刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている。 a)「(1) 軸受内にグリースを封入したグリース封入軸受において、上記軸受の軌道輪の転走面に厚さ0.1?2.5μmの酸化皮膜を形成したことを特徴とするグリース封入軸受。」(第1ページ左下欄第5行?8行) b)「すなわち、転走面4の表面を、化学的に安定な酸化皮膜5により不活性化処理することにより、金属の触媒作用をなくしグリースの分解による水素の発生を抑えることができると考え、その効果を検証した。 テストでは、オルタネータのプーリ側軸受を使用し、その軌道輪の転走面に種々の厚みで酸化皮膜を形成し、実機により寿命試験を行なった。」(第3ページ左上欄第9行?16行) c)「この結果は、上述したように酸化皮膜により転走面表面の触媒作用が抑制されて水素発生が抑えられ、水素脆化による亀裂の発生が防止されるとする考えと一致している。」(第3ページ左下欄第12行?15行) 以上の記載を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用発明1」という。)。 「軸受内にグリースを封入したオルタネータのプーリ側軸受であって、軸受の軌道輪の転走面に厚さ0.1?2.5μmの酸化皮膜を形成した軸受。」 (2)刊行物2 刊行物2には、図面とともに以下の記載がある。 a)「第1図はこの発明を転がり軸受、特に玉軸受に適用した実施例である。・・・(省略)・・・外輪1,内輪2,玉3とも母材としてステンレス鋼を用い、これらの表面前面に無電解ニッケルメッキを施してある。4がその無電解ニッケルメッキ層である。この無電解ニッケルメッキ層4の厚みは2?3μmである。」(第2ページ左下欄第16行?右上欄第4行) b)「電気ニッケルメッキ層が純ニッケルと考えて良いほど純度が高くニッケルと同様の性質を有するものであって、硬度,耐摩耗性及び耐蝕性などの性質が軸受としては不十分であるに対し、無電解ニッケルメッキ層4は密着性,耐摩耗性,硬度,対錆性及び耐蝕性などの機械的及び化学的性質に優れている。」(第2ページ右下欄第9行?第15行) 以上の記載を総合すると、刊行物2には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用発明2」という。)。 「外輪1、内輪2、玉3の表面前面に厚さ2?3μmのニッケルを主成分とする無電解ニッケル層が形成された転がり軸受。」 (3)刊行物3 刊行物3には、図面とともに以下の記載がある。 a)「【請求項1】 外輪,内輪,転動体及び保持器の各部材のうちの合金鋼からなる部材を浸炭又は浸炭窒化した後に熱処理硬化するか、又は焼入熱処理硬化して組み立ててなる転がり軸受において、前記外輪,内輪,転動体および保持器のうち少なくとも一つの部材の表面にニッケルメッキ層を有することを特徴とする耐食性転がり軸受。」(段落【特許請求の範囲】) b)「ここで、前記転がり軸受はローラクラッチであってもよい。また、前記ニッケルメッキ層は無電解ニッケルメッキ層とすることができる。また、ニッケルメッキ層の厚さを5?30μmとすることができる。・・・(以下略)」(段落【0008】) c)「本発明のニッケルメッキ層の硬さはH_(V )450?800とすることが望ましい。そのニッケルメッキ層を形成するのに無電解ニッケルメッキ・・・(省略)・・・が好適であるが、その場合、メッキ直後は非晶質であり、加熱すると変態して結晶化する。そして、ニッケルメッキ(Ni)の他に一リン化三ニッケル(Ni_(3) P)の共晶体が析出し・・・(以下略)。」(段落【0015】) 以上の記載を総合すると、刊行物3には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用発明3」という。)。 「外輪、内輪、転動体及び保持器のうち少なくとも一つの部材の表面に厚み厚さ5?30μmのニッケルを主成分とする無電解ニッケルメッキ層が形成された転がり軸受。」 2-3-3 対比 (1)一致点 本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「オルタネータ」は、その機能ないし構造にかんがみれば、本願補正発明における「自動車のパワートレイン及びその周辺補機」に相当し、以下同様に、「軸受」は「転がり軸受」に、「軌道輪の転走面」は「内レース」及び「外レース」にそれぞれ相当する。 また、引用発明1では、「軌道輪の転走面」に「酸化皮膜」が形成されているところ、この「酸化皮膜」は、具体的な厚さや材質、構造等はさておき、本願補正発明における「内レース」及び「外レース」に相当する部材に形成された「皮膜」であるという点に限り、本願補正発明の「皮膜」に一応相当するものである。 そうすると、本願補正発明と引用発明1とは、本願補正発明の表記にならえば、次の点で一致する。 「自動車のパワートレイン及びその周辺補機に使用される転がり軸受であって、内レース及び外レースに皮膜を形成してある、自動車パワートレイン用転がり軸受。」 (2)相違点 一方、本願補正発明と引用発明1とは、次の点で相違する。すなわち、本願補正発明における「皮膜」は、「ニッケル(Ni)又は銅(Cu)を主成分」とし、厚さが「0.5?10μm」であるのに対して、引用発明1における「皮膜」は、「厚さ0.1?2.5μmの酸化皮膜」である点。 2-3-4 相違点の判断 上述相違点について判断するに、基材である鋼の表面にニッケルないしニッケルを主成分としたメッキ層、すなわち被覆を設けることによって、水素が鋼の内部へ侵入することを防ぎ、いわゆる水素脆化を防止することができるという機能ないし作用が得られることは、広く知られているところである(例えば、特開昭63-161190号公報の第2ページ右上欄第12行?左下欄第4行、特開平6-346277号公報の段落【0008】等参照。)。そうすると、引用発明1において水素脆化を防止するために「軌道輪の転走面」に施された酸化皮膜に代えて、引用発明2、3の適用を試み、ニッケルを主成分とするニッケルメッキ層を形成するか、または、上述2-3-2c)に摘記したように、引用発明1における酸化皮膜は、「軌道輪の転走面」の触媒作用を抑制し水素発生を抑えるものであって、ニッケルメッキ層によるものと水素脆化を防止するメカニズムが異なるものであるから、これらを併存し、さらなる水素脆化の防止を図るようにすることは、当業者にとって容易に想到し得るものである。そして、引用発明2、3におけるニッケルメッキ層の厚さは、本願補正発明における数値範囲内ないし数値範囲と重複するものである上、上述のとおりニッケルメッキ層は、水素が鋼の内部に侵入することを防ぐものであるから、その厚さが水素脆化の防止という機能ないし作用を直接左右するであろうことは、当業者であれば直ちに理解されるものであって、その数値の好適化を図ることは、当業者が適宜設計的に行うべき事項である。 また、本願補正発明の効果について、本願の願書に最初に添付した明細書の【表1】、【表4】等において、本願補正発明の数値範囲の上限を超える厚さのニッケルないし銅メッキ層が形成された比較例2、3及び比較例2’、3’の寿命が同数値範囲内のものよりも短くなることが示されており、ある程度の効果をうかがうことができる。しかし、ニッケルメッキ層の厚さが水素脆化の防止という効果の点について直接左右することは、上述の周知技術を勘案すれば当業者にとって予測可能なものであって、本願補正発明が「皮膜」の厚さを「0.5?10μm」とする点についての上述の効果は、当該数値範囲の内外で当業者にとって予測もできないような臨界的意義を有するというべきほどのものではない。 してみれば、本願補正発明は、引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 なお、審判請求人は、審判請求書及び平成21年4月20日付けの回答書の中で、概略、刊行物2、3には、ニッケルメッキ層によって耐食性を持たせることが記載されているが、軸受の内外レースや転動体に対する水素の侵入を防止したり、水素脆化を防止するという点については記載されていない旨主張する。しかし、ニッケルないしニッケルを主成分としたメッキ層が水素が鋼の内部へ侵入することを防ぎ、いわゆる水素脆化を防止することができるという機能ないし作用が得られることは、上述のとおり広く知られているところであって、引用発明1において水素脆化の防止を図るために本願補正発明における「皮膜」の数値範囲内である引用発明2、3の適用を図ることは、当業者にとって容易に想到できるものであるし、その数値を適宜調整することも、当業者が設計的になし得る事項である。さらに、本願補正発明における数値範囲内によって顕著な効果が生じないことも、上述のとおりである。 また、審判請求人は、同回答書の中で、ニッケルメッキ層が水素脆化を防止することが広く知られていたことを示す例をして挙げた上述の特開平6-346277号公報(平成20年12月12日付けの前置報告における刊行物11)について、炭化水素あるいは混入水分等により軸受の転動中に生成された水素の鋼内部への侵入が抑制される旨の記載がないとの主張をしている。しかし、水素の発生のメカニズムそのものは、上述の判断を左右しないし、水素の鋼内部への侵入を防止する機能ないし作用が広く知られていたことには、何ら変わりない。 3.補正の却下のむすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正発明は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 4.本願発明について 4-1 本願発明 本件補正は、上述のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明は、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、上述2-1(1)に記載したとおりである。 4-2 刊行物に記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に記載の発明は、上述2-3-2のとおりである。 4-3 対比及び相違点の判断 本願補正発明は、上述2-2のとおり、本願発明の発明特定事項をすべて有し、その一部をさらに限定して特定したものである。そして、上述2-3-4のとおり、その本願補正発明が引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も同様の理由により引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本願は、特許請求の範囲の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-07-09 |
結審通知日 | 2009-07-14 |
審決日 | 2009-07-27 |
出願番号 | 特願2002-330258(P2002-330258) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 稔、山崎 勝司 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
常盤 務 岩谷 一臣 |
発明の名称 | 自動車パワートレイン用転がり軸受 |
代理人 | 的場 基憲 |
代理人 | 的場 基憲 |