• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1203524
審判番号 不服2006-24411  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-27 
確定日 2009-09-11 
事件の表示 平成9年特許願第212536号「水性インキ組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年2月9日出願公開、特開平11-35867〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成9年7月22日の出願であって、平成18年5月25日付けで拒絶の理由が通知されたのち、平成18年8月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月27日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに同年11月24日に手続補正書が提出され、その後、平成20年8月1日付けで審尋がされ、同年10月10日に回答書が提出されたものである。

第2 平成18年11月24日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年11月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成18年11月24日付けの手続補正(以下、「本願補正」という。)は、本願補正前の特許請求の範囲の請求項1である
「着色剤、分散剤、粘度調整剤及び水を少なくとも含有し、
前記粘度調整剤が天然多糖類であって、
前記着色剤がインキ組成物全量に対して10重量%以上含まれてなる
水性インキ組成物中に、油溶性シリコーンで構成されているエマルジョンを含有することを特徴とする水性インキ組成物。」

「着色剤、分散剤、粘度調整剤及び水を少なくとも含有し、
前記粘度調整剤が天然多糖類であって、グワ-ガム、キサンタンガム、ウェランガム、ラムザンガム、ロ-カストビ-ンガム、プルラン、サクシノグルカン又はその誘導体、トライガントガム、タラガム、カラヤガム、ガディガム、アラビノガラクタンガム、クインスシードガム、サイリュームシードガムから選ばれ、
前記着色剤が酸化チタン又はジンクホワイトであり、
前記着色剤がインキ組成物全量に対して10?45重量%含まれ、
前記水性インキ組成物中に、油溶性シリコーンで構成されているエマルジョンを含有し、
前記油溶性シリコーンの含有量がインキ組成物全量に対して0.01?10重量%であり、
上記天然多糖類がインキ組成物全量に対して0.1?10重量%含まれる
ことを特徴とするボールペン用水性インキ組成物。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否について
(1)新規事項の有無及び補正の目的について
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である天然多糖類を「グワ-ガム、キサンタンガム、ウェランガム、ラムザンガム、ロ-カストビ-ンガム、プルラン、サクシノグルカン又はその誘導体、トライガントガム、タラガム、カラヤガム、ガディガム、アラビノガラクタンガム、クインスシードガム、サイリュームシードガムから選ばれ」るものに限定するとともに、その含有量を「インキ組成物全量に対して0.1?10重量%含まれる」と限定し、着色剤を「酸化チタン又はジンクホワイト」に限定するとともにその含有量をインク組成物全量に対して「10重量%以上含まれてなる」から「10?45重量%含まれ」と限定し、油溶性シリコーンの含有量を「インキ組成物全量に対して0.01?10重量%であり」と限定し、「水性インキ組成物」を「ボールペン用水性インキ組成物」と限定するものであるところ、かかる補正は、それぞれ、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)における段落【0027】?【0028】、【請求項5】及び【0023】、【0016】並びに【0032】及び【0038】の記載からみて新規事項を追加するものではないから、上記補正は特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、それぞれ、天然多糖類及びその含有量、着色剤及びその含有量、油溶性シリコーンの含有量並びに水性インキ組成物を限定するものであって、その補正前の請求項1に係る発明とその補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本願補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。また、本願補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(すなわち、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討すると、本願補正発明は、原査定の拒絶の理由で引用した、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願平9-53567号(以下、「先願」という。特開平10-251586号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができるものではないことは、以下のとおりである。
よって、請求項1についての補正は、上記規定に適合しない。

ア 先願明細書の記載事項
(ア-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 水を主成分とし着色剤、水溶性有機溶剤および粘性付与剤を含むボールペン用水性インキにおいて、シリコーン消泡剤をインキに対して0.001?1重量%含有させてなる直液式ボールペン用水性インキ。」
(ア-2)「【0007】…本発明に使用するシリコーン消泡剤の主成分はポリジメチルシロキサンであり、破泡効果と抑泡効果両方に効果を発揮するものである。また、安全性が高く、化学的に不活性で、耐熱・耐寒性が良好である。インキ中のシリコーン消泡剤の含有量は0.001?1重量%であり、好ましくは、0.01?0.2重量%である。0.001重量%未満では、消泡効果が少なくなり、1重量%を越えて配合すると溶解性が不充分で、不均一なインキとなる。シリコーン消泡剤は、オイル型、オイルコンパウンド型、自己乳化型、エマルジョン型、溶液型などさまざまな製品があるが、特に限定されるものではない。…」
(ア-3)「【0008】本発明に用いる着色剤は顔料や水溶性の染料が用いられ、顔料単独、染料単独、あるいは顔料と染料を混合して用いてもよい。顔料としては、特に制限はなく、従来の水性顔料インキ組成物に慣用されている無機系および有機系顔料の中から任意のものを使用することができる。無機系顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、金属粉などが挙げられ、また有機系顔料としては、例えば…等が挙げられ、これらの顔料はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよく、その含有量は、全インキの重量に基づき、通常5?10重量%、好ましくは6?8重量%の範囲で選ばれる。顔料が5%未満の場合は描線濃度がうすくなり、また10%をこえると経時的に不安定となり好ましくない。」
(ア-4)「【0010】本発明に用いる顔料分散剤としては、ノニオン、アニオン系界面活性剤や水溶性高分子が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。…その含有量はインキ中1?2重量%であり、顔料に対して約20重量%である。」
(ア-5)「【0012】本発明に用いる粘性付与剤は、キサンタンガム、グアーガムなどの天然樹脂類、スメクタイト、モンモリロナイトなどの無機質類、アクリル系、ウレタン系、セルロース系などの水溶性合成高分子類などが使用可能である。これらは、インキの粘度を上げ、インキの垂れ下がり、ボタ落ちを防止する目的で使用されるが、その含有量は0.1?1重量%である。」
(ア-6)「【0016】実施例1?9、比較例1?7
つぎの3工程からなる製造法でインキを調製した。
【0017】1:着色液調製
顔料を使用する場合は、顔料、分散剤、溶剤、添加剤類および水をビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用し、充分に分散した後、遠心分離を行ない、粗大分を除去して顔料着色液を得る。…
【0018】2:粘性付与剤の溶解
所定量の水に粘性付与剤を徐々に加えて撹拌を行ない、水に完全に溶解させる。その後にトリメチルアミンでpHを6?9に調整して粘性付与剤液とする。
【0019】3:インキの調製
所定量の着色液に所定量の粘性付与剤液を徐々に加えて均一になるまで充分に撹拌を行ない、濾過器にて夾雑物を取り除き、インキを得た。
なお、消泡剤の添加は、粘性付与剤の溶解段階で添加した。
【0020】実施例および比較例のインキの調製に使用した材料は、つぎのとおりである。

粘性付与剤A:架橋型アクリル酸重合体“ハイビスワコー105”和光純薬(株)製
粘性付与剤B:キサンタンガム
【0021】シリコーン消泡剤A:エマルジョン型“KM-75”信越化学(株)製
シリコーン消泡剤B:オイル型“KS-604”信越化学(株)製」

イ 先願明細書に記載された発明
先願明細書は「水を主成分とし着色剤、水溶性有機溶剤および粘性付与剤を含むボールペン用水性インキにおいて、シリコーン消泡剤をインキに対して0.001?1重量%含有させてなる直液式ボールペン用水性インキ」(摘示(ア-1))について記載するものである。
そのインキで用いる「着色剤」については摘示(ア-3)に、「顔料や水溶性の染料」が用いられ、無機系顔料として、「例えば酸化チタン、カーボンブラック…等」が挙げられ、「その含有量は、全インキの重量に基づき、通常5?10重量%…の範囲で選ばれる」ことが示され、摘示(ア-4)には、「顔料分散剤」を用いることも記載されている。
また、そのインキで用いる「粘性付与剤」について、摘示(ア-5)に「キサンタンガム、グアーガムなどの天然樹脂類…などが使用可能である」こと、「その含有量は0.1?1重量%である」ことが記載され、実施例及び比較例のインキの調製に使用した具体的粘性付与剤の一つとして、「キサンタンガム」が挙げられている(摘示(ア-6))。
さらに、そのインキで用いる「シリコーン消泡剤」について摘示(ア-2)に、「主成分はポリジメチルシロキサン」であること、「インキ中のシリコーン消泡剤の含有量は0.001?1重量%」であること、「エマルジョン型」などの製品があることが示され、実施例及び比較例のインキの調製に使用した具体的シリコーン消泡剤の一つとして、「エマルジョン型“KM-75”信越化学(株)製」(摘示(ア-6))が挙げられている。
以上の記載によれば、先願明細書には、
「水を主成分とし着色剤、水溶性有機溶剤、粘性付与剤及び顔料分散剤を含むボールペン用水性インキにおいて、シリコーン消泡剤をインキに対して0.001?1重量%含有させてなり、着色剤が酸化チタン等であって、その含有量が全インキの重量に基づき5?10重量%であり、粘性付与剤がキサンタンガム、グアーガムなどの天然樹脂類であって、その含有量は0.1?1重量%であり、シリコーン消泡剤が、主成分がポリジメチルシロキサンであるエマルジョン型のものである、ボールペン用水性インキ」
の発明が記載されていると認められる。
この発明を本願補正発明の表現ぶりに則って表現し直すと、
「着色剤、顔料分散剤、粘性付与剤、水溶性有機溶剤及び水を含有し、
前記粘性付与剤が天然樹脂類であって、グアーガム、キサンタンガムから選ばれ、
前記着色剤が酸化チタン等であり、
前記着色剤が全インキに対して5?10重量%含まれ、
前記インキ中に、主成分がポリジメチルシロキサンであるエマルジョン型シリコーン消泡剤を含有し、
前記シリコーン消泡剤の含有量がインキに対して0.001?1重量%であり、
上記天然樹脂類がインキに対して0.1?1重量%含まれる
ボールペン用水性インキ」
の発明(以下、「先願発明」という。)が先願明細書に記載されているということができる。

ウ 本願補正発明と先願発明との対比
本願補正発明と先願発明とを対比すると、先願発明における「粘性付与剤」は本願補正発明における「粘度調整剤」の1種であるといえ、先願発明における粘性付与剤の天然樹脂類とされるグアーガム、キサンタンガムは、本願補正発明の「天然多糖類であって、グワ-ガム、キサンタンガム…から選ばれ」たものに相当する(審決注:先願発明の「グアーガム」と本願補正発明の「グワ-ガム」とは同じ物である。)。また、先願発明も本願補正発明も酸化チタンを着色剤とし、その量も「インキ組成物全量に対して10重量%」において重複する。さらに、先願発明における「顔料分散剤」は、本願補正発明における「分散剤」に包含される。そして、先願発明における「主成分がポリジメチルシロキサンであるエマルジョン型シリコーン消泡剤」も本願補正発明における「油溶性シリコーンで構成されているエマルジョン」も、ともに「シリコーンで構成されているエマルジョン」ということができ、先願発明における「インキ」は組成物であるから、本願補正発明における「インキ組成物」に他ならない。
そうすると、本願補正発明と先願発明とは、
「着色剤、分散剤、粘度調整剤及び水を少なくとも含有し、
前記粘度調整剤が天然多糖類であって、グワ-ガム、キサンタンガムから選ばれ、
前記着色剤が酸化チタンであり、
前記着色剤がインキ組成物全量に対して10重量%含まれ、
前記水性インキ組成物中に、シリコーンで構成されているエマルジョンを含有し、
上記天然多糖類がインキ組成物全量に対して0.1?1重量%含まれる
ボールペン用水性インキ組成物。」
である点において一致し、次の相違点AないしCにおいて一応相違する。
・相違点A:シリコーンで構成されているエマルジョンが、本願補正発明においては、「油溶性シリコーンで構成されているエマルジョン」であるのに対して、先願発明においては、「主成分がポリジメチルシロキサンであるエマルジョン型シリコーン消泡剤」である点
・相違点B:シリコーンで構成されているエマルジョンの含有量について、本願補正発明においては、「油溶性シリコーンの含有量がインキ組成物全量に対して0.01?10重量%」であるのに対し、先願発明においては、「シリコーン消泡剤の含有量がインキに対して0.001?1重量%」である点
・相違点C:先願発明は、「水溶性有機溶剤」を含むものであるのに対して、本願補正発明は水溶性有機溶剤を含むものであるか明らかではない点

エ 本願補正発明と先願発明との相違点についての検討
そこで、上記相違点AないしCについて検討する。
(ア)相違点Aについて
本願補正発明の「油溶性シリコーン」は、その記載からはいかなるものであるか明らかではないから発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本願補正明細書の段落【0005】において「油溶性又は非水溶性(以下、単に「油溶性」と称する)シリコーン」と定義され、さらに、同段落【0010】において油溶性シリコーンとしてジメチルシリコーンが例示されている。
先願発明で用いられるエマルジョン型シリコーン消泡剤の主成分であるポリジメチルシロキサンは、ジメチルシリコーンと同じ物であるから、本願補正発明における「油溶性シリコーン」ということができる。したがって、先願発明の「主成分がポリジメチルシロキサンであるエマルジョン型シリコーン消泡剤」なるエマルジョンは、本願補正発明の「油溶性シリコーンで構成されているエマルジョン」に包含されるものということができる。
そうすると、相違点Aは、両者の実質的な相違点であるとはいえない。

(イ) 相違点Bについて
インキ組成物におけるシリコーンで構成されているエマルジョンの含有量に関し、本願補正発明においては、油溶性シリコーンの含有量で規定しているのに対して、先願発明においては、消泡剤の含有量で規定しているので、両者の量を直ちに対比することはできない。
しかし、通常エマルジョン型シリコーン消泡剤のシリコーン濃度は30%前後のものが多い(必要ならば、「プラスチック材料講座6 けい素樹脂」(昭和36年8月15日、日刊工業新聞社発行)61頁5?24行等参照)ことから、先願明細書のエマルジョン型シリコーン消泡剤におけるポリジメチルシロキサンの濃度を仮に30重量%とすると、インキ全量に対しては0.0003?0.3重量%前後となる。この量範囲は本願補正発明における油溶性シリコーンの含有量である0.01?10重量%と重複するから、そのシリコーン濃度が30重量%と多少増減があるとしても、本願補正発明における油溶性シリコーンの含有量と重複するといえる。
そうすると、相違点Bも、両者の実質的な相違点となるものではない。
(なお、シリコーンの含有量について、本願補正明細書の段落【0007】において、「シリコーンエマルジョンの使用量はインキ組成物全量に対して0.01?10重量%である。」(下線は当審において付加。以下同じ。)と記載されている一方、「また、請求項3の発明は、油溶性シリコーン…において、油溶性シリコーンの含有量がインキ組成物全量に対して0.01?10重量%である請求項1又は2記載の水性インキ組成物である。」とも記載され、シリコーンエマルジョンについて及び油溶性シリコーンついて、ともに「インキ組成物全量に対して0.01?10重量%」と記載されている。段落【0016】においては後者としている記載等からみれば、前者が後者の誤記であると推認される。しかし、仮に、前者の「エマルジョンの含有量がインキ組成物全量に対して0.01?10重量%」であったとしても、先願発明の消泡剤エマルジョンのインキに対する含有量0.001?1重量%とその「エマルジョンの含有量がインキ組成物全量に対して0.01?10重量%」とは重複するから、相違点Bは、両者の相違点となるものではない。)

(ウ)相違点Cについて
本願補正明細書の段落【0030】において、水溶性有機溶剤などの溶剤を含んでいてもよいことが記載されていることから、本願補正発明のインキ組成物には水溶性有機溶剤などの溶剤を含む態様も包含されると認められる。
そうすると、相違点Cも、両者の相違点となるものではない。

オ 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明は、先願発明と同一であるといえ、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、この補正を含む本願補正は、その余の点について検討するまでもなく、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 この出願の発明について
本願補正は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成18年8月1日に補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「着色剤、分散剤、粘度調整剤及び水を少なくとも含有し、
前記粘度調整剤が天然多糖類であって、
前記着色剤がインキ組成物全量に対して10重量%以上含まれてなる水性インキ組成物中に、油溶性シリコーンで構成されているエマルジョンを含有することを特徴とする水性インキ組成物。」

第4 原査定の理由の概要
本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、特願平9-53567号の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、というものである。
この理由における「特願平9-53567号」出願は、前記第2の2の「(2)独立特許要件について」の項における「先願」と同じ出願である。以下、同様に、この出願を「先願」といい、その願書に最初に添付した明細書又は図面を「先願明細書」という。

第5 当審の判断
1 先願明細書の記載事項及び先願明細書に記載された発明
先願明細書の記載事項は、前記第2の2の「(2)独立特許要件について」の項のアに記載したとおりであり、先願明細書に記載された発明は、同項のイに記載したとおりである(以下、同様に「先願発明」という。)

2 対比
本願発明は、本願補正発明における、天然多糖類及びその含有量の限定(「グワ-ガム、キサンタンガム…から選ばれ」及び「インキ組成物全量に対して0.1?10重量%含まれる」)がなく、着色剤及びその含有量の上限の限定(「酸化チタン又はジンクホワイト」及び「?45」)がなく、油溶性シリコーンの含有量の限定(「インキ組成物全量に対して0.01?10重量%であり」)がなく、水性インキ組成物の限定(「ボールペン用」)がないものである。
そうすると、本願発明と先願発明とを対比すると、前記第2の2の「(2)独立特許要件について」の項のウに記載した理由により、両者は、
「着色剤、分散剤、粘度調整剤及び水を少なくとも含有し、
前記粘度調整剤が天然多糖類であって、
前記着色剤がインキ組成物全量に対して10重量%含まれ
てなる水性インキ組成物中に、シリコーンで構成されているエマルジョンを含有する
水性インキ組成物。」
の点で一致し、以下相違点A’において一応相違するといえる。
・相違点A’:シリコーンで構成されているエマルジョンが、本願発明においては、「油溶性シリコーンで構成されているエマルジョン」であるのに対し、先願発明においては、「主成分がポリジメチルシロキサンであるエマルジョン型シリコーン消泡剤」である点

3 本願発明と先願発明との相違点についての検討
相違点A’は、前記第2の2の「(2)独立特許要件について」の項のウに記載した本願補正発明と先願発明との相違点Aと同じである。
そうすると、上記同項のエの(ア)に記載したのと同じ理由により、相違点A’は、両者の相違点となるものではない。

4 まとめ
よって、本願発明は、先願発明と同一であるといえ、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (回答書において提示された補正案についての付記)
請求人は、平成20年10月10日の回答書において、補正案を提示した。
しかしながら、その補正案による補正後の発明は一見して特許可能であることが明白なものであるとはいえないから、上記補正案は採用することができない。
すなわち、その補正案は請求項1の発明について「前記油溶性シリコーンの含有量がインキ組成物全量に対して1?6.6重量%」と油溶性シリコーンの含有量の範囲を限定する補正を含み、その範囲の根拠は実施例であるとされている。
しかしながら、各実施例においては、特定商品名のシリコーンエマルジョン(どのような油溶性シリコーンを何%含むか等成分、組成割合、粘度等何ら明らかではないもの)のインキ組成物の「シリコーンエマルジョン」量に関し示されているものの、「油溶性シリコーン」のインキ組成物全量に対する「1?6.6重量%」の含有量の範囲について裏付けるものはない。
(なお、仮に、前記第2の2の「(2)独立特許要件について」の項エの(イ)の括弧内に示したように、「前記油溶性シリコーンの含有量」が「シリコーンエマルジョン」の誤記であるとしても、いずれの実施例も「シリコーンエマルジョン」のインキ組成物全量に対する「1?6.6重量%」の含有量の範囲について裏付けるものではない。なお、実施例10及び15において特定商品名のシリコーンエマルジョンを「6.6重量%」用いたことは記載されているが、これはインキ組成物113.25重量部における割合であるから、インキ組成物全量に対してのシリコーンエマルジョンの含有量は5.8重量%であることに留意されたい。)
その他の当初明細書の記載を総合しても「油溶性シリコーンの含有量」をインキ組成物全量に対して「1?6.6重量%」とすることは、新たな技術的事項を導入しないものということはできないから、「前記油溶性シリコーンの含有量がインキ組成物全量に対して1?6.6重量%」とする補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるとはいえない。
よって、その補正案による補正後の発明が一見して特許可能であることが明白なものであるとはいえない。

 
審理終結日 2009-07-09 
結審通知日 2009-07-16 
審決日 2009-07-28 
出願番号 特願平9-212536
審決分類 P 1 8・ 16- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 祐子藤原 浩子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 水性インキ組成物  
代理人 中川 信治  
代理人 宮崎 伊章  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ