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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1204003
審判番号 無効2006-80274  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-27 
確定日 2009-08-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2948055号「基板端縁洗浄装置」の特許無効審判事件についてされた平成20年 2月 5日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10098号平成20年12月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
出願(特願平5-120671号) 平成 5年 4月22日
設定登録 平成11年 7月 2日
(特許第2948055号、請求項1、2)
特許無効審判請求 平成18年12月27日
(請求人 株式会社 エイブル、請求項1、2に対して)
答弁書 平成19年 4月 2日
上申書(請求人 弁駁書提出期間延長願)
平成19年 4月25日
弁駁書 平成19年 5月29日
無効理由通知 平成19年 8月14日
被請求人 口頭審理陳述要領書、訂正請求書
平成19年10月12日
請求人 口頭審理陳述要領書 平成19年10月26日
第1回口頭審理調書 平成19年10月26日
審決 平成20年 2月 5日
(請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。)
知的財産高等裁判所出訴 平成20年 3月17日
判決言渡 平成20年12月24日
(審決を取り消す。)

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、「特許第2948055号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、下記の甲第1号証ないし甲第6号証を提出して、以下の無効理由を主張する。その無効理由の要点は、次のとおりである。
〔無効理由〕:本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許発明の出願前に日本国内において頒布された甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて、出願前当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:特開平4-206626号公報
甲第2号証:特開昭63-190679号公報
甲第3号証:特開平5-13322号公報
甲第4号証:特開昭64-61917号公報
甲第5号証:特開平1-298720号公報
甲第6号証:特開平4-65115号公報

2 被請求人の主張
被請求人は、請求人の前記主張に対し、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、下記の乙第1号証及び乙第2号証を提出して、「本件特許に係る請求項1及び請求項2記載の発明は、甲第1号証から甲第6号証に記載の発明から当業者が容易に発明できたものであるとはいえないので、本件特許の請求項1及び請求項2は特許法第123条第1項第2号の規定に該当しない。よって、答弁の趣旨のとおりの審決を求める。」旨を主張した。

乙第1号証:本件特許第2948055号発明についての平成12年3月13日付けの「特許異議申立書」の写し
乙第2号証:本件特許第2948055号発明についての平成12年8月17日付けの「異議の決定」の写し

第3 当審の職権による審理
1 当審の職権による無効理由通知
当審が本件無効審判事件について審理をした結果、審判事件弁駁書において請求人が提出した新たな証拠方法としての甲第7号証〔特開昭63-58831号公報〕を含む、請求人が主張する新たな無効理由は、当審の審理を不当に遅延させるおそれはないが、請求の理由の要旨を変更するものであり、前記新たな無効理由の主張が、審判事件答弁書の当初記載に合理的な理由があることによるものでもなく、また被請求人の訂正請求により補正の必要が生じたものでもないので、請求人が主張する新たな無効理由は、請求の理由の要旨を変更するものであることにより許可できないところ、当審が上記本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明に関して職権により審理をした結果として、前記本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、請求人が提出した新たな証拠方法としての甲第7号証〔特開昭63-58831号公報〕を含む甲第1号証ないし甲第7号証の各刊行物に記載の各発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の進歩性要件の欠如(特許法第29条第2項違反)を内容とする無効理由を請求人及び被請求人の両当事者双方に対してファクシミリの送信により通知したものである。

2 当審の職権による無効理由通知の内容の要点
前記当審の職権による無効理由通知の内容の要点は、請求人及び被請求人の両当事者双方に対して平成19年8月14日に送信した下記のファクシミリにおける「第1 被請求人に対する事項」欄の「2.」項の部分に示すとおりである。

『無効審判事件(2006-80274)に関し、当審が口頭審理において審理する予定の下記の項目について、当事者は、意見等をあらかじめ「口頭審理陳述要領書」にまとめて、口頭審理期日の少なくとも2週間前までに提出してください。

第1 被請求人に対する事項
1. 請求人が提出した弁駁書の副本を被請求人に送付しますので、その弁駁書における請求人の主張に対する被請求人の意見。
2. 請求人が提出した弁駁書における無効理由(特許法第29条第2項違反)についての請求人の新たな主張に関連して、当審が職権により審理した新たな無効理由として、本件第2948055号特許の請求項1及び請求項2に係る特許発明は、甲第1ないし7号証の各刊行物に記載の各発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるという、当審の職権による無効理由通知(特許法第29条第2項違反)に対する、被請求人の意見。

第2 請求人に対する事項
1. 請求人が審判請求書において主張する無効理由(特許法第29条第2項違反)に関して、本件第2948055号特許の請求項1及び請求項2に係る特許発明の各構成要素と、甲第1ないし6号証の各刊行物に記載の各発明の引用すべき各構成要素との個々の具体的な対応関係についての説明。
2. 請求人が弁駁書において、新たな証拠方法として甲第7号証を追加して主張する無効理由(特許法第29条第2項違反)に関して、本件第2948055号特許の請求項1及び請求項2に係る特許発明の各構成要素と、甲第1ないし7号証の各刊行物に記載の各発明の引用すべき各構成要素との個々の具体的な対応関係についての説明。
3. 上記「第1 被請求人に対する事項」欄の2.において指摘した当審の職権による無効理由通知(特許法第29条第2項違反)に対する、請求人の意見。』

第4 訂正請求の訂正の適否についての判断
1 訂正請求の内容
被請求人は、当審の職権による無効理由通知に対して、平成19年10月12日付の訂正請求書を提出し、その訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、訂正請求書に添付された全文訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)に記載された次のとおりのものである。
(1)〔訂正事項1〕 本件特許出願の特許査定時の明細書又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】 回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放し、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けたことを特徴とする基板端縁洗浄装置。」
の記載を、
「【請求項1】 回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けたことを特徴とする基板端縁洗浄装置。」
と訂正する。

(2)〔訂正事項2〕 本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項2の、
「【請求項2】 回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放し、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設け、かつ前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成したことを特徴とする基板端縁洗浄装置。」
の記載を、
「【請求項2】 回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設け、かつ前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成したことを特徴とする基板端縁洗浄装置。」
と訂正する。

(3)〔訂正事項3〕 本件特許明細書等の発明の詳細な説明欄の段落【0005】の、
「【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明の基板端縁洗浄装置は、上述のような目的を達成するために、回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放し、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けて構成する。」
の記載を、
「【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明の基板端縁洗浄装置は、上述のような目的を達成するために、回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けて構成する。」
と訂正する。

(4)〔訂正事項4〕 本件特許明細書等の発明の詳細な説明欄の段落【0006】の、
「請求項2に係る発明の基板端縁洗浄装置は、上述のような目的を達成するために、回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放し、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設け、かつ前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成する。」
の記載を、
「請求項2に係る発明の基板端縁洗浄装置は、上述のような目的を達成するために、回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設け、かつ前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成する。」
と訂正する。

2 本件訂正請求の訂正の目的の適否について
(1)上記〔訂正事項1〕の訂正は、請求項1に係る発明に「開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、」の発明特定事項を加えることにより請求項1に係る発明を限定して、その構成を特定する訂正であるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条の規定による改正前の特許法(以下、「平成6年改正前特許法」という。)第134条第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。

(2)上記〔訂正事項2〕の訂正は、請求項2に係る発明に「開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、」の発明特定事項を加えることにより請求項2に係る発明を限定して、その構成を特定する訂正であるから、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。

(3)上記〔訂正事項3〕の訂正は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明欄の段落【0005】の訂正前の記載を、訂正後の請求項1に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

(4)上記〔訂正事項4〕の訂正は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明欄の段落【0006】の訂正前の記載を、訂正後の請求項2に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

(5)したがって、本件訂正請求における上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項4〕の訂正は、いずれも平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。

3 新規事項の有無及び実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
(1)本件訂正請求により、本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に「開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、」の発明特定事項を加える上記〔訂正事項1〕及び〔訂正事項2〕の訂正、並びに、本件特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0005】及び【0006】の記載に「開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、」の事項を加える上記〔訂正事項3〕及び〔訂正事項4〕の訂正は、いずれも本件特許明細書等、すなわち本件特許出願の願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であると認める。
したがって、本件訂正請求における上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項4〕の訂正は、いずれも平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書の規定に適合する。

(2)また、本件訂正請求の上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項4〕の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、本件訂正請求における上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項4〕の訂正は、いずれも特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合する。

4 本件訂正請求に対する独立特許要件の有無について
本件の特許無効審判の請求の趣旨に係る特許発明は、請求項1及び請求項2に係る発明であり、また、特許無効審判の請求がされている請求項1及び請求項2に係る発明についての訂正が、上記「2 本件訂正請求の目的の適否について」欄の「(1)」に前述したとおり、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当しているところ、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号の場合は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」の規定に該当する、本件の特許無効審判の請求の趣旨から除外されている請求項が、本件訂正請求に係る特許請求の範囲に存在していないから、当審は、本件訂正請求後の請求項に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かの、いわゆる独立特許要件の有無について、検討をする必要を認めない。

5 むすび
当審が本件無効審判事件における本件訂正請求について審理をした結果は、以上のとおりであり、本件特許明細書等についての本件訂正請求による訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書、同ただし書各号及び特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の各規定に適合する。
よって、本件訂正請求の訂正を認める。

第5 当審の職権による無効理由についての検討
1 本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められたので、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、平成19年10月12日付の訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのもの(以下、これを請求項順に「本件発明1」及び「本件発明2」という。)である。
「【請求項1】 回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けたことを特徴とする基板端縁洗浄装置。
【請求項2】 回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設け、かつ前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成したことを特徴とする基板端縁洗浄装置。」

2 甲号各証の記載事項
(1)甲第1号証〔特開平4-206626号公報参照〕の記載事項
甲第1号証には、「周辺レジスト除去方法」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
(1)被塗布板状体上にレジスト塗布後周辺部にレジスト溶剤を供給して周辺部のレジストを薄くする工程と、この工程後に上記周辺部を露光する工程と、この工程の後現像液を供給する工程とを具備してなる周辺レジスト除去方法。
3.発明の詳細な説明
「発明の目的」
【産業上の利用分野】
本発明は、半導体ウエハ周辺部のレジストを除去する除去方法に関するものである。
【従来の技術】
半導体製造工程中には、半導体ウエハ上にレジストを塗布し、次いで所定のパターンに露光と現像工程を施し、更にエッチング等の種々の処理工程を経るものがある。
レジストを塗布した半導体ウエハは、搬送時に搬送機構等との接触によりウエハ周辺部のレジストが剥離して飛散し、この飛散部分のレジストが半導体ウエハに付着して不良品となることがしばしば生じる。特に、最近のように露光の線幅が狭くウエハの高密度化に伴って、レジスト剥離による歩留まりの低下が大きな問題となっている。
そこで、通常、半導体ウエハ周辺部のレジストをあらかじめ除去する方法が提案されている。
この方法には、溶剤を周辺部に噴射して除去する溶剤除去方法、ガスを周辺部に吹き付けて除去する方法あるいは周辺部を露光させて除去する周辺露光方法等が知られている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来のウエハの周辺除去方法は、いずれもウエハの周辺部のレジストの表層が減少して層が薄くなるが完全に除去されるものではなく、依然としてウエハの周辺部のレジストが剥離して飛散し、この飛散部分のレジストが付着する等の課題を残していた。
しかも、半導体ウエハのオリフラ部の周辺部分は、いずれの除去方法を実行してもこの部分のレジストの除去は困難であった。
本発明は、上記の実情に鑑みて開発したものであり、発塵対策した周辺レジスト除去方法を提供するものである。
「発明の構成」
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明は、被塗布板状体上にレジスト塗布後周辺部にレジスト溶剤を供給して周辺部のレジストを薄くする工程と、この工程後に上記周辺部を露光する工程と、この工程の後現像液を供給する工程とを具備してなる周辺レジスト除去方法である。
【作 用】
本発明は、レジストがウエハ表面全面に拡散してウエハの全域にレジスト膜を形成したのち、続いて、ウエハの周辺部に設けたノズルから溶剤を噴射してウエハの周辺部のレジスト膜の表面を除去して薄くし、次に薄くなった周辺露光現像工程を実施することにより周辺レジストを除去する。このように、上記のように溶剤により周辺のレジストはある程度まで除去が進んでいるので、ウエハの周辺露光と現像工程により短時間でより確実に周辺除去することが可能となる。
【実施例】
以下に、本発明における周辺レジストの除去方法の実施例を図面に従って説明する。
第1図において、密閉式のチャンバ1内には、回転モータにより同図の矢印のように回転するスピンチャック2を設け、このスピンチャック2上にウエハ3を真空吸着して仮固定する。
上記スピンチャック2は所定の速度で回転させる如く上記チャンバ1外に回転モータ15を設ける。
スピンチャック2の上方中央部には、レジスト液塗布用ノズル4が垂下されており、このノズル4の先端からレジスト液5をウエハ3の表面に例えば滴下する。上記チャック2を高速回転させてウエハ3の表面に厚さ例えば3000?8000Åにレジスト膜5を形成する。上記レジスト液5には、レジスト成分にECA等の溶剤を混入させて、レジスト液5の粘性を所望値に保持させると共に、溶剤の揮発性によってレジスト膜は固化する。
上記のチャンバ1内の上方周辺位置に周辺除去用のノズル6を設け、スピンチャック2を低速回転(例えば1rpm以下)させて上記したレジスト膜の溶剤をこのノズル6より外周側に供給、例えば噴射して第1図に示した矢印7の方向に溶剤を吸引し、第3図に示すようにウエハ3周辺部のレジスト液5膜の表面層を除去して周辺のレジスト膜5の厚さを中央部の厚さより薄く減少させると共に、ウエハ3のオリフラ部3Aの周辺部のレジスト膜も薄くできるように、オリフラ部3Aで上記ノズル6を側縁に沿って移動させるようにしている。
次に、ウエハ3上のレジスト5の溶剤を気化させてレジスト膜を固化させるためプリベーク工程において加熱処理を行う。この工程によって周辺レジスト5Aの表面が固化して第4図に示す如くやや薄くなる(X1≫X1’,X2≫X2’)。
上記、第4図に示すようなレジスト膜が被着された状態のウエハ3に対して、周辺露光と現像工程を行う。具体的には、第5図に示す如くチャック8上に仮固定したウエハ3の周辺部に対して周辺露光機9を設け、チャック8を回転させながら周辺部のレジスト5Aを露光した後に同図の矢印10に示すように現像液を供給し、矢印11に示す方向に現像液が流れるように吸引して、周辺部で残りの周辺レジスト5Aを確実に除去する。この場合、上記した様に現像工程ではある程度周辺レジストの除去が進んでいるため、当然のことながら短時間のうちに周辺除去の処理が実行できる。
この2工程により周辺除去境界をきれいに除去できる。
次に、レジストの周辺除去工程を中心に説明する。
密閉式チャンバ1内のスピンチャック2上にウエハ3を吸着固定し、次いで、ウエハ3上の中心部にノズル4を近づけレジスト5を滴下させ、ウエハ3を高速回転させると遠心力によってレジスト5をウエハ3の全表面に拡散させてウエハ3の全域にレジスト膜を形成する。
次いで、このチャンバ内1において、ウエハ3の周辺部に設けたノズル6から溶剤を噴射してウエハ3の周辺部レジストの表面部分を除去して周辺部のみ薄くし、ここでプリベーク工程を経て中央部のレジスト膜と共に、周辺レジスト5Aの表面を固化する。
上記のように溶剤により周辺のレジストはある程度まで薄くなっているので、ウエハ3の周辺露光と現像工程により短時間で確実に周辺除去することが可能となる。
「発明の効果」
以上のことから明らかなように、本発明によると、半導体ウエハの周辺部のレジストを短時間で確実に除去し、もって歩留まりの向上を図ることができる効果がある。」(1頁左欄4行?3頁左上欄20行)

そして、甲第1号証に添付された正面説明図である溶剤除去工程を示した第1図には、「密閉式のチャンバ1内に設けられ、チャンバ1外の回転モータ15により回転するスピンチャック2と、前記スピンチャック2上に真空吸着により仮固定されるウエハ3と、前記ウエハ3の表面に、レジスト液5を滴下する前記スピンチャック2の上方中央部に垂下されたレジスト液塗布用ノズル4と、前記チャンバ1内の上方周辺位置に設けられ、レジスト膜の溶剤を外周側に供給噴射する周辺除去用のノズル6と、ウエハ3周辺部のレジスト液5膜の表面層を除去するための、ウエハ3周辺部外側の第1図中矢印7の方向にレジスト膜の溶剤を吸引する手段からなる溶剤除去装置」が図示されている。
また、上記実施例部分には、「チャック8上に仮固定されたウエハ3周辺部に設けられた周辺露光機9と、ウエハ3周辺部の周辺レジスト5Aを露光した後に同図の矢印10に示すように現像液を供給し、矢印11に示す方向に現像液が流れるように吸引して、周辺部で残りの周辺レジスト5Aを確実に除去する。」と記載され、同記載を参照すれば、甲第1号証に添付された部分正面図である周辺露光現像工程を示した第5図には、チャック8上に仮固定されたウエハ3周辺部に設けられた周辺露光機9が図示されるとともに、ウエハ3周辺部の周辺レジスト5Aを露光した後に現像液を同図の矢印10の方向に供給し、同図の矢印11の方向に現像液が流れるように吸引することが記載され、現像液を吸引するための何らかの手段が存在することが示唆されているといえる。

そうしてみると、上記甲第1号証の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、これを、「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「ウエハ3上にレジスト液5を塗布後ウエハ3周辺部にレジスト膜の溶剤を供給してウエハ3周辺部の周辺レジスト5Aを薄くする工程に使用する溶剤除去装置と、前記工程後に上記ウエハ3周辺部を露光する工程と前記露光工程の後に現像液を供給する工程に使用する周辺露光現像装置とからなり、ウエハ3周辺部の周辺レジスト5Aを除去する周辺レジスト除去装置であって、
前記周辺レジスト除去装置は、
密閉式のチャンバ1内に設けられ、チャンバ1外の回転モータ15により回転するスピンチャック2と、
前記スピンチャック2上に真空吸着により仮固定されるウエハ3と、
前記ウエハ3の表面に、レジスト液5を滴下する前記スピンチャック2の上方中央部に垂下されたレジスト液塗布用ノズル4と、
前記チャンバ1内の上方周辺位置に設けられ、レジスト膜の溶剤を外周側に供給噴射する周辺除去用のノズル6と、
ウエハ3周辺部のレジスト液5膜の表面層を除去するための、ウエハ3周辺部外側方向にレジスト膜の溶剤を吸引する手段と、
チャック8上に仮固定されたウエハ3周辺部に設けられた周辺露光機9と、
ウエハ3周辺部の周辺レジスト5Aを露光した後に現像液を供給する手段と、
ウエハ3周辺部外側方向に現像液が流れるように吸引する手段とからなり、
ウエハ3周辺部で残りの周辺レジスト5Aを確実に除去する周辺レジスト除去装置」

(2)甲第2号証〔特開昭63-190679号公報参照〕の記載事項
甲第2号証には、「塗布材料の塗布装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「次に動作について説明する。チャック3上に、吸着されたウエハ1上にレジスト吐出ノズル6よりレジストを滴下し、チャック3を回転させレジストを基板上に均一に塗布する。次にチャック3を回転させながらレジスト溶剤吐出手段5よりレジスト溶剤を吐出し、ウエハ周辺および裏面のレジストを除去する。」(1頁右欄7?13行)
「次に動作について説明する。従来の装置と同様にして、ウエハ1上にレジストを均一に塗布する。次に基板のプリアライメントを行ないウエハカバー2形状に合うようオリフラを合わせてウエハカバー2にはめる。次にウエハ1を回転させながらレジスト溶剤をレジスト溶剤吐出手段5より数秒間小量吐出する。次に回転させたままレジスト溶剤の吐出を止め、その後回転速度を上げレジスト溶剤を乾燥させる。」(2頁右上欄3?11行)

(3)甲第3号証〔特開平5-13322号公報参照〕の記載事項
甲第3号証には、「被膜溶剤塗布装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【0003】 次に、動作について説明する。被膜溶剤は、塗布液ノズル3内を図の矢印a方向に送られ、半導体基板1の表面上に滴下される。このとき、スピンヘッド2により半導体基板1を回転させることによって、被膜溶剤は半導体基板1の表面に均一に塗布される。また、洗浄液は、裏面洗浄ノズル4内を図の矢印b方向に送られ、半導体基板1の裏面の周縁部に噴出される。これにより、半導体基板1の裏面が洗浄され、被膜溶剤が半導体基板1の裏面に回り込むのが防止される。」
「【0008】【実施例】 以下、この発明の実施例を図について説明する。図1はこの発明の第1実施例による被膜溶剤塗布装置を示す側面図であり、図4と同一又は相当部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
図において、5は先端部が半導体基板1の表面の周縁部、即ちチップが形成されていない部分に対向している表面洗浄ノズルであり、この表面洗浄ノズル5は、裏面洗浄ノズル4から分岐されたものである。
【0009】 上記のように構成された被膜溶剤塗布装置においては、従来と同様に、半導体基板1の表面に被膜溶剤が塗布され、かつ半導体基板1の裏面への被膜溶剤の回り込みが防止される。また、この実施例の装置では、表面洗浄ノズル5により、半導体基板1の表面周縁部にも洗浄液が噴出されるので、裏面洗浄ノズル4からの洗浄液の表面への回り込みが防止され、半導体基板1の表面周縁部での被膜溶剤の盛り上がりが防止される。このため、パーティクルの発生が防止され、半導体基板1に形成されるチップの品質が向上する。」

(4)甲第4号証〔特開昭64-61917号公報参照〕の記載事項
甲第4号証には、「基板端部の塗布膜除去装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「このような問題が生じないようにするため従来基板端部に形成された塗布膜を除去する方法および装置が種々知られており、第4図および第5図に基づいてその一例を説明する。シリコン1の表面には回転塗布法によりポジ型フォトレジスト2が約1μmの厚さに塗布されているものとする。この時前述したように基板1の表面端部には厚く盛り上がるように塗布され、かつ基板1の裏面にも囲り込みが生じている。基板1をはさみ込むように上下から2本の管3,4を約10mmの間隙5を有するように対向させて配置し、この間隙5の間に前述した厚さ0.6mmの塗布済シリコン基板1を挿入し、管3,4からフォトレジスト2の溶剤6を供給して基板1の端部に形成されたフォトレジスト2を溶解して除去するようにしている。」(2頁左上欄19行?同右上欄13行)
「(実施例)
以下本発明の実施例を図に基づいて詳細に説明する。第1図は本発明にかかる塗布膜除去装置の要部の構成を示した斜視図である。上下に端部が対向するように第1、第2の管21および22を間隙23を持たせて配置し、この間隙23の一部を塞ぐように第1、第2の管21,22に直交して第3の管24を接続している。
第1、第2の管21,22の管径は2mm、間隙は10mmとし、第3の管24の管径は接続部25で10mm、その他の部分は20mmとした。
第2図は第2図[当審注:「第1図」の明らかな誤記と認める。]に示す装置を用いて基板端部の塗布膜を除去する方法を示した図である。第3の管24の軸方向から対向するように間隙23内にレジスト26が塗布された基板27の周縁部を挿入し、この基板27を10?20rpmの低速で回転させる。挿入深さは移動機構(図示せず)により管24を水平方向に移動させることにより調整可能となっている。
次に基板端部のレジスト除去について説明すると、第1、第2の管21,22からレジスト溶剤28を供給し、第3の管24は排気装置またはダクトに連結する。まず基板27の周縁部を2mmほど間隙23内に挿入し、第1、第2の管21,22より溶剤28を供給し、基板27端部のレジスト26を溶解させ、第3の管24より溶剤と溶解物とを排出させるようにする。
このようにして基板端部のレジスト膜を除去しながら基板27を回転移動させていくことにより基板端部全周のレジスト膜を除去した。この時回転速度が遅いので例えばオリエンテーションフラット部の径変化に合わせて第3の管24を若干移動させて挿入深さが常に2mmになるように調整するようにしている。
これによって第3図に示すように除去幅31を常に基板全周にわたって2mmとすることができた。なお本実施例では第1、第2の管21,22におのおの1本づつの円管を使用しているが、これに限定されるものではなく、複数本の管を組み合せて用いることもできる。
また円管に限定されることなくだ円や長方形の管を用いることもできる。さらに第3の管24に関しても同様である。
さらに第1の管および第2の管を基板面に垂直に設けるだけでなく開口部が基板外周方向に向かうように傾斜をさせてもよい。
また間隙や距離は基板の厚みや溶剤の供給圧、排気圧によって最適値が選ばれる。
また上述した実施例においては、第1、第2の管21,22を上下に配置しているが、水平方向に配置し基板を垂直方向に回転させるようにしてもよい。
〔発明の効果〕
以上実施例に基づいて説明したように、本発明では第3の管を設けて溶剤や溶解物の排出を行なうようにしているため飛散やはね返りが全く生じない。また基板の移動速度(回転速度)が遅くても溶剤が基板内部に侵入していかないため挿入深さを調整することが可能となり、オリエンテーションフラット等の異径部があっても除去幅を一定にすることができる。
さらに矩形等の円形以外の基板であっても同様にして全周にわたって端部の塗布膜の除去が可能である。」(3頁左上欄7行?同頁右下欄10行)

(5)甲第5号証〔特開平1-298720号公報参照〕の記載事項
甲第5号証には、「ウエハ裏面への回り込みレジストの除去・乾燥方法」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「第2図は本発明方法を説明する概略工程図、第3図は本発明方法に適用しうる装置の概略構成を示す図である。
第3図中、10はウエハであり、スピンチャック11上にチャッキングされている。
12はモータであり、スピンチャック11を回転させる。
13はレジスト剥離液用ノズル、14は窒素ガス用ノズルであり、ウエハ10の裏面10bのうち周囲部10b-1に斜めに対向して配設してある。
15はレジスト剥離液タンク、16は窒素ガスボンベである。」(2頁左下欄20行?同頁右下欄12行)
「この状態でポンプ31を駆動させ、レジスト剥離液をフィルタ32を通してノズル13より噴射させる。これにより、回り込みレジストの除去が開始される。」(3頁左下欄8?11行)
「弁33を開き窒素ガスをフィルタ34を通してノズル14より噴射させる。
また再びモータ12を始動させて、ウエハ10を500rpmの低速N2で回転させる。
これにより、窒素ガス噴流がウエハ10の裏面の周囲部を繰り返し走査し、ウェハ10に付いているレジスト剥離液を吹き飛ばすと共にウエハ10を乾燥させる。」(3頁左下欄20行?同右下欄7行)
「第6図は本発明の別の実施例に適用しうる装置を示す図であり、第7図は第6図に示す装置の動作を説明する図である。各図中、第4図及び第5図に示す構成部分と実質上同一構成部分には同一符号を付しその説明は省略する。
この装置は、第6図に示すように、ノズル13,14及び壁部材26をブロック40に取り付けてユニット化し、このユニット41を、ウエハ10の上方にウエハ10を囲むように設けた環状のガイドレール42に沿って移動可能に設けた構成である。
レジスト洗浄除去工程は、第7図に併せて示すように、ウエハ10は回転させずに、ノズル13よりレジスト剥離液を噴射させながら、ユニット41をガイドレール42に沿って矢印A方向及びB方向に略-周毎交互に往復移動させて行なう。
乾燥工程もウエハ10は回転させずに、ノズル14より窒素ガスを噴射させるから[当審注:「噴射させながら」の誤記と認める。]、ユニット41をガイドレール42に沿って矢印A方向及びB方向に略一周毎交互に往復移動させて行なう。」(3頁右下欄20行?4頁左上欄19行)

(6)甲第6号証〔特開平4-65115号公報参照〕の記載事項
甲第6号証には、「不要レジスト除去装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「そして、上記各エアシリンダ20のピストンロッド20aの先端には、第2図に拡大して示すようなL字形断面を有するパッド21aと、これを保持するベース21bとからなるクリーニングヘッド21が、基板の側面から底面にかけて接触可能な状態で装着されている。上記パッド21aは、例えばブチルゴムなどの高分子材からなるスポンジゴムのような弾力性のある材料により構成されている。
また、各パッド21aを保持するベース21bの上面には複数のノズル23aを有するパイプ23が配設されており、各ノズル23aはパッド21aの上面に、アセトンようなレジスト除去液を供給できるように先端が下向きに形成されている。」(2頁右下欄7?20行)
「第3図に示すレジスト塗付装置により表面にフォトレジストが塗付されたガラス基板aは、第1図に2点鎖線A?Dで示すように、全エアシリンダ20を外側に回転させた状態で不要レジスト除去装置の固定テーブル12上に載置され、図示しない真空吸着手段により固定される。次に、第2のエアシリンダ30を作動させて4つのエアシリンダ20を第1図に実線で示されるような位置まで回動させる。それから、パイプ23に設けられたノズル23aよりレジスト除去液を滴下させながら、エアシリンダ20に圧縮空気を送ってシリンダロッド20aを往復動させる。すると、パッド22a[当審注:「パッド21a」の明らかな誤記と認める。]が基板aの側面から底面にかけて接触したままこすられるように移動するため、基板aの側面から底面にかけて付着した不要なレジストがパッド22a[当審注:「パッド21a」の明らかな誤記と認める。]によってこすりとられて脱落し、基板の周縁が清浄化される。」(3頁左上欄13行?同頁右上欄9行)

(7)甲第7号証〔特開昭63-58831号公報公報参照〕の記載事項
甲第7号証には、「異形基板のレジスト剥離方法および装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「14、14は左右一対の剥離液噴出手段であって、基板10の下縁とほぼ平行に配設された送液管16、16と、各送液管16、16に設けた多数のノズル18とを備える。各ノズル18は基板10の下縁付近の両側から斜め下方を指向し、レジスト縁部12Aに剥離液を噴射する。この剥離液は使用するレジストの種類とも関係するが、-般にはフェノールとハロゲン系有機溶剤とを主成分とするもの、熱濃硫酸、発煙硝酸、硫酸・過酸化水素などが用いられている。」(2頁左下欄2?11行)
「剥離液噴出手段14は前記第1図と同様に送液管16、16と、多数のノズル18とを備える。
116は容器100の側壁に設けた排気ダクト、118は容器100の底部に設けた排液管である。なお120は気液分離板であって前記下板112の周囲を囲み下方にのびている。
この実施例を使用する際には、剥離液を送液管16、16から供給する一方、ガス供給口114からN2ガスを供給する。また排気ダクト116を排気ファン(図示せず)に接続して剥離液の蒸気を外部に排気し、排液管118を排液容器(図示せず)に接続しておく。
この状態でスリット102から基板10を挿入し、レジスト縁部12Aに剥離液を当てつつスリット102と平行にノズル18のピッチ相当量移動すれば、レジスト縁部12Aのみが剥離される。この際剥離液やその蒸気はN2ガスによって上方への流動が規制されるので、基板10の下縁以外のレジスト12は損傷を受けることがない。」(3頁左上欄15行?同頁右上欄13行)
「この実施例では容器100の底に排液管118を設け、容器100の底に剥離液が溜らないようにしたので、剥離液の蒸気発生量が減り、また常時排気ダクト116で蒸気を排気するようにしたのでスリット102からの蒸気の逆流を確実に防止できる。従って蒸気が基板10の中央付近のレジスト12を傷めるおそれは一層少なくなり、室内での使用も可能になる。」(3頁左下欄1?8行)

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)ここで、本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「レジスト膜」、「ウエハ3」、「密閉式のチャンバ1内に設けられ、チャンバ1外の回転モータ15により回転するスピンチャック2」、「レジスト膜の溶剤」及び「周辺レジスト除去装置」のそれぞれが、本件発明1の「薄膜」、「基板」、「基板を載置保持する基板保持手段」、「不要薄膜を溶解する溶剤」及び「基板端縁洗浄装置」のそれぞれに相当することは、明らかである。
そして、引用発明1の「チャンバ1内の上方周辺位置に設けられ、レジスト膜の溶剤を外周側に供給噴射する周辺除去用のノズル6」が、本件発明1の「その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズル」に相当するといえる。

(イ)また、引用発明1の「ウエハ3周辺部のレジスト液5膜の表面層を除去するための、ウエハ3周辺部外側方向にレジスト膜の溶剤を吸引する手段」は、レジスト膜の溶剤を吸引して排出するものであり、また、同「ウエハ3周辺部外側方向に現像液が流れるように吸引する手段」は、現像液を吸引することにより、溶解物を吸引排出して残りの周辺レジスト5Aを確実に除去するためのものであり、そして、通常気体ないし流動体を吸引するためには、吸引すべき当該個所の雰囲気に対し負圧の環境を形成する吸引排気手段を当該個所の近傍に設ける必要があることは、当該技術分野における技術常識であるから、甲第1号証に明示の記載はないが、引用発明1が何らかの吸引排気手段を備えていることは、甲第1号証に記載されているに等しい技術事項であるといえる。
そうすると、引用発明1の前記「ウエハ3周辺部のレジスト液5膜の表面層を除去するための、ウエハ3周辺部外側方向にレジスト膜の溶剤を吸引する手段」と「ウエハ3周辺部外側方向に現像液が流れるように吸引する手段」とからなる吸引排気手段は、本件発明1の「その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管」に相当するといえるがその具体的構成は明らかではない。

(ウ)そうすると、本件発明1と引用発明1とは、
「回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置。」
である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。

[相違点1]
本件発明1が「前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け」るのに対し、引用発明1は「チャンバ1内の上方周辺位置に設け」る点。

[相違点2]
本件発明1が「前記排気管の開口端を基板保持手段に保持された基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けた」のに対し、引用発明1では、排気管の具体的構成については限定がない点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
a 甲第2号証及び添付図面の第2図と第3図の記載からみて、甲第2号証には、次の技術事項が記載されている。
(a)「チャック3上に吸着されたウエハ1上にレジスト吐出ノズル6よりレジストを滴下し、チャック3を回転させレジストをウエハ1上に均一に塗布する。」
(b)「ウエハ1のプリアライメントを行ないウエハカバー2形状に合うようオリフラを合わせてウエハカバー2にはめる。」
(c)「チャック3を回転させてウエハ1を回転させながらレジスト溶剤をレジスト溶剤吐出手段5より数秒間小量吐出し、ウエハ1周辺及びウエハ1裏面のレジストを除去する。」
(d)「回転させたままレジスト溶剤の吐出を止め、その後回転速度を上げレジスト溶剤を乾燥させる。」
(e)「ウエハ1周辺及びウエハ1裏面にレジスト溶剤を吐出するレジスト溶剤吐出手段5は、ウエハカバー2にはめられたウエハ1の周辺の上方及び下方に位置するように、ウエハカバー2の上方内面側及び下方内面側に設けられている。」
そうすると、甲第2号証には、「ウエハカバー2にはめられたウエハ1の周辺の上方及び下方に位置するように、ウエハカバー2の上方内面側及び下方内面側に設けられている、ウエハ1周辺及びウエハ1裏面にレジスト溶剤を吐出するレジスト溶剤吐出手段5」の記載が認められる。

b また、甲第3号証及び添付図面の第1図ないし第3図の記載からみて、甲第3号証には、次の技術事項が記載されている。
(f)「半導体基板1の裏面の周縁部に対向し、裏面洗浄ノズル4から半導体基板1の裏面の周縁部に洗浄液が噴出されて、半導体基板1の裏面が洗浄され、被膜溶剤が半導体基板1の裏面に回り込むのが防止される。」
(g)「半導体基板1の表面の周縁部に対向し、裏面洗浄ノズル4から分岐された表面洗浄ノズル5から半導体基板1の表面の周縁部に洗浄液が噴出されて、裏面洗浄ノズル4からの洗浄液の表面への回り込みが防止される。」
そうすると、甲第3号証には、「半導体基板1の表面及び裏面の周縁部にそれぞれ対向して設けられた表面洗浄ノズル5及び裏面洗浄ノズル4から半導体基板1の表面及び裏面の周縁部に洗浄液を噴出するようにした、半導体基板1の表裏両面洗浄用の半導体基板周縁部洗浄ノズル」の記載が認められる。

c さらに、甲第4号証及び添付図面の第1図及び第2図の記載からみて、甲第4号証には、次の技術事項が記載されている。
(h)「レジスト溶剤28を供給する第1の管21及び第2の管22を間隙23を持たせて上下に端部が対向するように配置し、前記間隙23の一部を塞ぐように前記第1の管21及び第2の管22に直交して第3の管24を接続し、さらに前記第3の管24を排気装置またはダクトに連結した塗布膜除去装置」
(i)「基板27の周縁部を2mmほど間隙23内に挿入し、第1の管21及び第2の管22からレジスト溶剤28を供給し、基板27端部のレジスト26を溶解させ、第3の管24から溶剤と溶解物とを排出して基板端部のレジストを除去する塗布膜除去手段」
そうすると、甲第4号証には、「レジスト溶剤28を供給する第1の管21及び第2の管22を間隙23を持たせて上下に端部が対向するように配置し、前記間隙23の一部を塞ぐように前記第1の管21及び第2の管22に直交して第3の管24を接続し、さらに前記第3の管24を排気装置またはダクトに連結した塗布膜除去装置の前記間隙23内に基板27の周縁部を2mmほど挿入し、第1の管21及び第2の管22からレジスト溶剤28を供給し、基板27端部のレジスト26を溶解させ、第3の管24から溶剤と溶解物とを排出して基板端部のレジストを除去する塗布膜除去手段」の記載が認められる。

d そして、甲第7号証には、「基板10の下縁とほぼ平行に配設された各送液管16、16に、基板10の下縁付近の両側から斜め下方を指向し、レジスト縁部12Aに剥離液を噴射する多数のノズル18を備えた左右一対の剥離液噴出手段14、14を有する異形基板のレジスト剥離装置において、前記レジスト剥離装置は、容器100の側壁に設けた排気ダクト116と、容器100の底部に設けた排液管118とを備え、前記排気ダクト116は排気ファンに接続されて剥離液の蒸気を外部に排気し、また前記排液管118が排液容器に接続されており、剥離液を送液管16、16から供給するとともにガス供給口114からN2ガスを供給することにより、レジスト縁部12Aに剥離液を当ててレジスト縁部12Aのみを剥離し、剥離液及びその蒸気の上方への流動をガス供給口114からのN2ガスによって規制し、常時排気ダクト116で蒸気を排気するようにした異形基板のレジスト剥離装置」が記載されている。

e かかる甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第7号証の前記記載から、「溶剤ノズルを基板の端縁を挟んで上下両方に設ける技術手段」は、本願特許出願時の周知技術であるといえる。

f そうすると、引用発明1の「前記チャンバ1内の上方周辺位置に設けられ、レジスト膜の溶剤を外周側に供給噴射する周辺除去用のノズル6」に対し、前記周知技術の手段を適用することにより、本件発明1の前記相違点1に係る「溶剤ノズルを基板の端縁を挟んで上下両方に設け」る構成に変更することは、当業者が格別の技術力を要せずに容易に想到できることである。

(イ)相違点2について
a 上記甲第4号証に、「レジスト溶剤28を供給する第1の管21及び第2の管22を間隙23を持たせて上下に端部が対向するように配置し、前記間隙23の一部を塞ぐように前記第1の管21及び第2の管22に直交して第3の管24を接続し、さらに前記第3の管24を排気装置またはダクトに連結した塗布膜除去装置の前記間隙23内に基板27の周縁部を2mmほど挿入し、第1の管21及び第2の管22からレジスト溶剤28を供給し、基板27端部のレジスト26を溶解させ、第3の管24から溶剤と溶解物とを排出して基板端部のレジストを除去する塗布膜除去手段」が記載されていることは、上記「イ 相違点についての検討」欄の「(ア)相違点1について」に前述したとおりであり、前記「塗布膜除去手段」における「基板27の周縁部」が、本件発明1の「基板の端縁」に相当することは明らかである
しかし、本件発明1の「排気管の開口端」に相当する部分は、「接続部25」の開口端であり、第1、第2の管21,22の管径は2mmであるとの記載から、「第3の管24を排気装置またはダクトに連結した塗布膜除去装置の前記間隙23内に基板27の周縁部を2mmほど挿入し」たとしても、「接続部25」の開口端を基板の端縁よりも中央側に突出させることにならず、上記相違点2に係る構成の内「前記排気管の開口端を基板保持手段に保持された基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け」る構成とはならない。

b 上記相違点2に係る構成の内「この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けた」構成についても、上記aで述べたように、前提となる「基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分」が甲第4号証に記載されていないのであるから、たとえ、種々の部材等の組み立てに際して、「差し込む」という技術手段により一方の部材を他方の部材に取り付けることは、極めて広範な技術分野において採用されている常套手段であるとしても、甲第4号証の記載から容易とすることはできない。

c 他の証拠にも、上記相違点2に係る構成は記載されておらず、また、示唆する記載もない。

d そして、本件発明1の奏する作用効果は、訂正明細書に記載されるように引用発明1、並びに、甲第2号証から甲第7号証に記載された発明、周知技術から予測できない、格別のものである。

ウ まとめ
以上のとおりであり、請求項1に係る本件発明1は、甲第1号証から甲第7号証に記載された発明、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとすることはできない。

(2)本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1に、「前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成した」点を付加したものである。

イ そうすると、本件発明1が、上記「(1)本件発明1について」で検討したように、甲第1号証から甲第7号証に記載された発明、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないのであるから、同様の理由により、本件発明2も、甲第1号証から甲第7号証に記載された発明、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1、請求項2に係る本件発明1、本件発明2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件各発明の特許を無効とすることはできない。
審判の総費用は、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
基板端縁洗浄装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けたことを特徴とする基板端縁洗浄装置。
【請求項2】回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、
前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、
前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設け、かつ前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成したことを特徴とする基板端縁洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、回転塗布によって、フォトレジスト塗布液や感光性ポリイミド樹脂やカラーフィルター用の染色剤といった薄膜が表面に形成された液晶用のガラス基板やフォトマスク用のガラス基板、半導体ウエハなどの基板に対し、その薄膜形成後の基板の端縁に溶剤を吐出して、基板の端縁に付着した不要薄膜を溶解除去するために、回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された基板の端縁の表裏両面の少なくともいずれか一方に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上述のような基板端縁洗浄装置としては、従来、特公平3-78777号公報に開示されているものがあった。この従来例によれば、表面に薄膜が形成された基板の周縁部の上面と下面に対向して第1の管と第2の管が設けられるとともに、第1および第2の管の間の間隙部でかつ基板端部の延長上に第3の管が設けられ、第1および第2の管から基板の周縁部の上面と下面に溶剤を供給するとともに、それらの溶剤ならびに溶解除去された不要薄膜を第3の管から吸引排出できるように構成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した基板端縁洗浄装置では、第1および第2の管の開口端と第3の管の開口端とが近接しているものの、排気時にその吸引力を十分作用させることができず、また、第3の管内において、気流の乱れを生じ、第1および第2の管から吐出された溶剤をすぐに排出しにくく、基板の端縁に近い位置で不測に残り、その残った溶剤が基板の端部に付着してフォトレジストの塗布面に侵入し、基板に塗布された膜厚の均一性を低下する欠点があった。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、排気管による吸引力を良好に作用できるようにして、溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解された不要薄膜を良好に吸引排出できるようにすることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明の基板端縁洗浄装置は、上述のような目的を達成するために、回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設けて構成する。
【0006】
請求項2に係る発明の基板端縁洗浄装置は、上述のような目的を達成するために、回転塗布によって表面に薄膜が形成された基板を載置保持する基板保持手段と、その基板保持手段によって保持された前記基板の端縁に溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤ノズルと、その溶剤ノズルから吐出された溶剤および溶解物を吸引排出する排気管とを備えた基板端縁洗浄装置において、前記溶剤ノズルを前記基板の端縁を挟んで上下両方に設け、前記排気管の開口端を前記基板保持手段に保持された前記基板の端縁よりも中央側に突出させるとともに、基板に対して非接触状態で基板の中央側に向けて開放することにより、基板端縁の上下に突出した上側部分と下側部分を設け、この突出した上側部分と下側部分にそれぞれ前記溶剤ノズルを差し込むことにより、前記溶剤ノズルの吐出端を、前記排気管の開口端よりも内奥側に位置する状態で設け、かつ前記排気管と溶剤ノズルとを一体に基板の端縁に沿って移動可能に構成する。
【0007】
使用する溶剤としては、フォトレジスト塗布液を溶解する場合には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトンなどのケトン類や、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-n-アミル、蟻酸メチル、プロピオン酸エチル、フタル酸ジメチル、安息香酸エチルなどのエステル類や、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類や、四塩化炭素、トリクロルエチレン、クロロホルム、1,1,1-トリクロルエタン、モノクロルベンゼン、クロルナフタリンなどのハロゲン化炭化水素類や、テトラヒドロブラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテル類や、ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキサイドなどを用いることができる。また、染色剤を溶解する場合には、30?60℃の温湯や、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールや、アセトンなどを用いることができ、そして、これらの液体中に基板との濡れを良くするために界面活性剤を添加しても良い。
【0008】
【作用】
請求項1に係る発明の基板端縁洗浄装置の構成によれば、回転塗布によって表面に均一に薄膜を形成した基板を基板保持手段に載置保持し、その基板の表裏両面の端縁に排気管の開口端よりも内奥側で上下両方に設けられた溶剤ノズルから溶剤を吐出して基板の端縁の薄膜を溶解し、その溶解した不要薄膜ならびに溶剤を排気管を通じて即座に吸引排出して除去することができる。
【0009】
請求項2に係る発明の基板端縁洗浄装置の構成によれば、排気管の開口端よりも内奥側の上下両方に設けられた溶剤ノズルと、排気管とを一体に基板端縁に沿って移動させながら、上下の溶剤ノズルから溶剤を吐出して基板の端縁の薄膜を溶解し、その溶解した不要薄膜ならびに溶剤を排気管を通じて即座に吸引排出して除去することができる。
【0010】
【実施例】
次に、本発明の実施例を図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施例に係る基板端縁洗浄装置の一部切欠全体概略側面図、図2は全体概略平面図であり、回転塗布によって表面に薄膜が形成された角型基板1を載置して真空吸着により保持する基板保持手段2の周囲4箇所それぞれに、角型基板1の表面および裏面の端縁にそれぞれ溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する上下の溶剤ノズル3…と、溶剤および溶解した不要薄膜を吸引する排気管4…とが備えられて、基板端縁洗浄装置5が構成されている。なお、図1では下側の溶剤ノズル3の図示を省略してある。
【0011】
図3の要部の側面図、および、図4の要部の斜視図に示すように、排気管4に、接続チューブ6aとドレンタンク6bとを介して真空吸引源6cが接続されるとともに、排気管4の開口端4aが、基板保持手段2に保持された角型基板1の端縁よりも中央側に突出されるとともに、角型基板1に対して非接触状態で角型基板1の中央側に向けて開放されている。その突出した上側部分および下側部分に2本の溶剤ノズル3,3がそれぞれ差し込まれ、各溶剤ノズル3の吐出端が、排気管4の開口端4aよりも内奥側に位置され、排気流が高速の箇所で溶剤を吐出して角型基板1の表裏面の端縁洗浄を同時に行うように構成されている。
【0012】
また、排気管4は、その鉛直方向での開口断面積が開口端4aから離れる程小さくなるように構成され、真空吸引源6cの排気吸引力が比較的小さくても、開口端4aでの排気流をより高速にできるようになっている。
【0013】
前記溶剤ノズル3,3および排気管4がノズルブロック7に一体的に取り付けられ、そのノズルブロック7を取り付けた支持アーム8が、固定フレーム9に付設した上下一対のガイド10,10を介して、角型基板1の端縁に沿って移動可能に設けられている。
【0014】
基板保持手段2に保持された角型基板1のひとつの角部に対応する箇所に、正逆転可能な駆動機構としての電動モータ11を設けたモータブラケット12が立設されるとともに、電動モータ11の駆動軸に駆動プーリー13が連動連結されている。
【0015】
基板保持手段2に保持された角型基板1のひとつの角部に対応する箇所に1個の遊転プーリー14が、そして、他の3箇所の角部に対応する箇所に2個づつの遊転プーリー14,14がそれぞれ設けられ、駆動プーリー13と遊転プーリー14…とにわたって一対のワイヤー15,15が巻回され、そのワイヤー15,15の所定の四箇所それぞれに支持アーム8が連結され、電動モータ11の正逆転により、四個の溶剤ノズル3…、排気管4…それぞれを角型基板1の各辺に沿わせて往復移動し、角型基板1の端縁を洗浄できるように構成されている。
【0016】
(削除)
【0017】
図5の(a)は、本発明に係る基板端縁洗浄装置の第2実施例を示す要部の側面図、図5の(b)はその平面図であり、第1実施例と異なるところは次の通りである。すなわち、排気管4が開口端4aに近い所定長さの部分が、角型基板1の面に平行で、かつ、基板面に直交する方向での長さが等しくなるように構成され、そして、排気管4の開口端4aが突出した上側部分および下側部分にそれぞれ8本の溶剤ノズル3…が差し込まれている。他の構成は第1実施例と同じであり、同一図番を付すことにより、その説明は省略する。
【0018】
上述実施例では、基板端縁洗浄装置をフォトレジスト塗布液などによる薄膜形成のための回転塗布装置とは別に専用に構成し、スループットを向上できるように構成しているが、本発明としては、回転塗布装置内に組み込み、回転塗布装置の基板保持手段を基板端縁洗浄装置の基板保持手段2に兼用構成するものでも良い。
【0019】
また、上記実施例では、基板保持手段2に保持された角型基板1の4辺それぞれに対応して溶剤ノズル3と排気管4とを設けているが、本発明としては、1辺にのみ対応させて設けるものでも良い。
【0020】
また、本発明は角型基板1に限らず、円形の基板を洗浄処理する基板端縁洗浄装置にも適用できる。
【0021】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1に係る発明の基板端縁洗浄装置によれば、排気管の開口端よりも内奥側で上下両方に設けられた溶剤ノズルから溶剤を吐出して基板の表裏面の端縁の薄膜を溶解し、その溶解した不要薄膜ならびに溶剤を排気管を通じて吸引排出するから、排気管による吸引力を良好に作用させて、排気流が高速の箇所で洗浄でき、排気管の開口端に溶剤などが残って基板端縁に付着することを回避でき、膜厚の均一性を向上できるようになった。
【0022】
請求項2に係る発明の基板端縁洗浄装置によれば、排気管の開口端よりも内奥側の上下両方に設けられた溶剤ノズルと、排気管とを一体に基板端縁に沿って移動させながら、上下の溶剤ノズルから溶剤を吐出して基板の端縁の薄膜を溶解し、その溶解した不要薄膜ならびに溶剤を排気管を通じて吸引排出するので、基板端縁の薄膜を一層均一かつ迅速に除去することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る基板端縁洗浄装置の一部切欠全体概略側面図である。
【図2】全体概略平面図である。
【図3】要部の側面図である。
【図4】要部の斜視図である。
【図5】(a)は本発明の第2実施例に係る基板端縁洗浄装置の要部の側面図、(b)は(a)の平面図である。
【符号の説明】
1…角型基板
2…基板保持手段
3…溶剤ノズル
4…排気管
4a…排気管の開口端
5…基板端縁洗浄装置
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-06-05 
結審通知日 2008-01-25 
審決日 2008-02-05 
出願番号 特願平5-120671
審決分類 P 1 113・ 121- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 勉  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 村田 尚英
森林 克郎
登録日 1999-07-02 
登録番号 特許第2948055号(P2948055)
発明の名称 基板端縁洗浄装置  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 片寄 武彦  
代理人 青木 健二  
代理人 杉谷 勉  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 小山 卓志  
代理人 戸高 弘幸  
代理人 戸高 弘幸  
代理人 森川 聡  
代理人 米澤 明  
代理人 杉谷 勉  

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