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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
管理番号 1204157
審判番号 不服2006-4371  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-09 
確定日 2009-09-17 
事件の表示 平成 9年特許願第 12996号「車両のライディングシミュレーション装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月 7日出願公開、特開平10-207345〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年1月27日の特許出願であって、平成17年11月10日付けの拒絶理由通知に応答して平成18年1月13日付けで手続補正がされたが、平成18年2月2日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成18年3月9日付けで本件審判請求がされるとともに、平成18年4月7日付けで明細書についての手続補正がされ、その後、当審において、平成18年4月7日付けの手続補正を平成21年2月27日付けで却下するとともに、同日付けで拒絶理由を通知し、これに対して平成21年5月7日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明は、平成21年5月7日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
操作者の模型二輪車の操縦操作を制御回路が検知し、この制御回路からの検知情報に基づいてCGI発生装置がディスプレイ上に走行情景を映像として表示し、前記操作者に走行状態を疑似体験させるとともに、交差点に進入する手前の位置において、制御回路が、該制御回路に予め記憶されたシナリオ設定路に基づき、前記模型二輪車の操作者に対して前記交差点の進行方向を、スピーカを通じてアナウンスして指示する車両のライディングシミュレーション装置において、
前記制御回路は、前記模型二輪車が、前記スピーカを通じてアナウンスにより指示された前記交差点の進行方向以外の進路を採ったことを検知したとき、前記CGI発生装置を通じ、前記ディスプレイ上に前記交差点に進入する所定の直前位置における走行情景を表示させ、前記模型二輪車が前記所定位置から再スタートできる状態とする ことを特徴とする車両のライディングシミュレーション装置。」(以下、「本願発明」という。 )

3.引用例に記載された事項
当審において通知した拒絶の理由に引用した本願の出願日前に頒布された刊行物(1)?(3)には、図示とともに以下の記載がある。

(1)特開平8-248871号公報(以下、「引用例1」という。)
【特許請求の範囲】
「【請求項1】 模擬運転席に着座する運転者に対して模擬視界画像を表示するための表示手段と、
前記運転者の運転操作に基づいて、該運転操作に応じて模擬走行路上を走行する仮想的な自車両の模擬走行路座標上における位置を表す第1の位置情報を順次更新する自車両情報更新手段と、
前記順次更新される第1の位置情報に基づいて、模擬走行路上又はその近傍に存在する移動体の移動が自車両の移動に同期するように、模擬走行路座標上の移動体の位置を表す第2の位置情報を順次更新する移動体情報更新手段と、
前記第1の位置情報が表す自車両の位置と前記第2の位置情報が表す移動体の位置とに基づいて、自車両の運転席からの視界を模擬した模擬視界画像を表す情報を順次生成し、前記模擬視界画像を前記表示手段に表示させる模擬視界生成手段と、
を含む自動車模擬運転装置。
【請求項2】 前記模擬走行路に沿って自車両の通過確認箇所が予め複数設定されていると共に、模擬走行路上又はその近傍に前記複数の通過確認箇所に対応して移動体の経路制御点が予め複数設定されており、
前記移動体情報更新手段は、前記順次更新される第1の位置情報より自車両が既に通過した通過確認箇所からの自車両の移動距離を順次演算し、移動体が前記複数の経路制御点を結ぶ経路に沿って移動し、かつ移動体が既に通過した経路制御点からの移動体の移動距離が前記演算した自車両の移動距離に比例するように第2の位置情報を順次更新する、
ことを特徴とする請求項1記載の自動車模擬運転装置。」

段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は自動車模擬運転装置に係り、特に運転者の運転操作に応じた模擬視界画像を生成し表示する自動車模擬運転装置に関する。」

段落【0002】「【従来の技術】従来より、運転者の訓練や自動車の研究開発等を支援するための装置としてドライビングシミュレータが知られている。ドライビングシミュレータは、運転者が着座する模擬運転席、模擬運転席が設置された揺動台を揺動させる揺動装置、映像を表示する表示装置、音を発生する音響装置等を備えており、模擬運転席に着座した運転者の運転操作に基づいて該運転操作に従って走行する仮想的な自車両の状態(自車両に加わる加速度、運転者の視界、運転者に聴取される音等)を判断し、揺動装置により揺動台を揺動させることによって車両に加わる加速度等を模擬させ、表示装置により運転者の視界に相当する模擬視界映像を表示させ、音響装置より運転者に聴取される走行音等を模擬した音を発生させる等によって、実際の車両を運転している感覚に近い感覚を運転者に与えるものである。」
段落【0003】「ドライビングシミュレータでは自車両が予め設定された模擬走行路を走行しているものとして模擬視界映像を生成するが、任意の状況の模擬走行路を予め設定しておき、自車両がこの模擬走行路を走行しているものとして模擬視界映像を生成、表示することにより、例えば交差点の通過、高速道路の走行等の任意の状況における運転操作を模擬することができ、特に実際には行うことが困難な、危険を伴う状況(例えば他車両や歩行者との接触の危険がある状況)での試験や訓練を安全にかつ繰り返し行うことが可能となる。」

段落【0006】「【発明が解決しようとする課題】また訓練や試験の精度を向上させるには、危険を伴う他車両等が絡む状況を正確に再現することも重要であるが、従来のドライビングシミュレータでは、自車両の位置が模擬走行路上の予め定められた所定位置に到達したときに他車両を出現させ、以後はこの他車両が予め定められた経路を予め定められた速度で移動するように模擬視界映像を生成している。これに対し自車両の速度は運転者の運転操作に応じて定まるため、運転者の運転操作の内容によっては所望の状況を再現できないことがある、という問題があった。」

段落【0007】「例えば衝突を回避するための運転操作の試験、訓練では、交差点等において右折する対向車両と異常接近する等の状況が多用される。従来は、運転者の運転操作による自車両の速度を予め想定し、想定した自車両の速度に応じて異常接近する状況が生ずるように他車両の移動速度を定めているが、前記想定した自車両の速度と、運転者の運転操作による自車両の速度と、の差が大きくなると、自車両が交差点に進入するタイミングに対して他車両が交差点に進入するタイミングが速過ぎたり遅過ぎたりすることになり、異常接近するという状況を正確に再現できない。」

段落【0008】「本発明は上記事実を考慮して成されたもので、運転者による運転操作の内容に拘わらず、所望の状況を正確に再現することができる自動車模擬運転装置を得ることが目的である。」

段落【0009】「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために請求項1記載の発明は、模擬運転席に着座する運転者に対して模擬視界画像を表示するための表示手段と、前記運転者の運転操作に基づいて、該運転操作に応じて模擬走行路上を走行する仮想的な自車両の模擬走行路座標上における位置を表す第1の位置情報を順次更新する自車両情報更新手段と、前記順次更新される第1の位置情報に基づいて、模擬走行路上又はその近傍に存在する移動体の移動が自車両の移動に同期するように、模擬走行路座標上の移動体の位置を表す第2の位置情報を順次更新する移動体情報更新手段と、前記第1の位置情報が表す自車両の位置と前記第2の位置情報が表す移動体の位置とに基づいて、自車両の運転席からの視界を模擬した模擬視界画像を表す情報を順次生成し、前記模擬視界画像を前記表示手段に表示させる模擬視界生成手段と、を含んで構成している。」

段落【0010】「請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、模擬走行路に沿って自車両の通過確認箇所が予め複数設定されていると共に、模擬走行路上又はその近傍に前記複数の通過確認箇所に対応して移動体の経路制御点が予め複数設定されており、移動体情報更新手段は、前記順次更新される第1の位置情報より自車両が既に通過した通過確認箇所からの自車両の移動距離を順次演算し、移動体が前記複数の経路制御点を結ぶ経路に沿って移動し、かつ移動体が既に通過した経路制御点からの移動体の移動距離が前記演算した自車両の移動距離に比例するように第2の位置情報を順次更新することを特徴としている。」

段落【0035】「次に本実施例の作用を説明する。本実施例では、運転者の運転操作により仮想的な自車両が走行する走行路(模擬走行路)として、複数種類の模擬走行路(例えば市街地路、高速道路等)が予め定められており、データベース22には、前記複数種類の模擬走行路に対応して各模擬走行路を規定する複数の模擬走行路情報が予め記憶されている。」

段落【0070】「一例として図11に示すように、自車両が交差点を直進する際に、対向車両が自車両の走行路を横切って強引に右折してくる状況を再現する場合、模擬走行路上に通過確認ラインRP_(n) 、RP_(n+1) 、RP_(n+2) を設定すると共に、この通過確認ラインに対応して経路制御点AP_(n) 、AP_(n+1) 、AP_(n+2 )を設定し、上述した位置比例運動制御により他車両Nの移動を制御したとすると、自車両の車速に拘わらず自車両が通過確認ラインRP_(n+2) を通過するときには他車両Nは必ず経路制御点AP_(n+2) に到達しているので、運転者の運転操作に拘わらず他車両Nを自車両と異常接近させることができる。しかし、運転者が他車両Nとの異常接近という状況に対し自車両が通過確認ラインRP_(n+2)を通過した付近で急制動をかける運転操作により対応し、これに伴って自車両が急減速したとすると、位置比例運動制御では他車両Nの移動速度も急に低下するので、対向車両が強引に右折してくる状況は再現できない。」

前記特許請求の範囲の請求項2に係る記載をこれが引用する請求項1記載を用いて書き下すと以下のものとなる。
「模擬運転席に着座する運転者に対して模擬視界画像を表示するための表示手段と、
前記運転者の運転操作に基づいて、該運転操作に応じて模擬走行路上を走行する仮想的な自車両の模擬走行路座標上における位置を表す第1の位置情報を順次更新する自車両情報更新手段と、
前記順次更新される第1の位置情報に基づいて、模擬走行路上又はその近傍に存在する移動体の移動が自車両の移動に同期するように、模擬走行路座標上の移動体の位置を表す第2の位置情報を順次更新する移動体情報更新手段と、
前記第1の位置情報が表す自車両の位置と前記第2の位置情報が表す移動体の位置とに基づいて、自車両の運転席からの視界を模擬した模擬視界画像を表す情報を順次生成し、前記模擬視界画像を前記表示手段に表示させる模擬視界生成手段と、
を含む自動車模擬運転装置において、
前記模擬走行路に沿って自車両の通過確認箇所が予め複数設定されていると共に、模擬走行路上又はその近傍に前記複数の通過確認箇所に対応して移動体の経路制御点が予め複数設定されており、
前記移動体情報更新手段は、前記順次更新される第1の位置情報より自車両が既に通過した通過確認箇所からの自車両の移動距離を順次演算し、移動体が前記複数の経路制御点を結ぶ経路に沿って移動し、かつ移動体が既に通過した経路制御点からの移動体の移動距離が前記演算した自車両の移動距離に比例するように第2の位置情報を順次更新する、
ことを特徴とする自動車模擬運転装置。」
以下、当該自動車模擬運転装置を「引用発明」という。

(2)特開平6-35395号公報(以下、「引用例2」という。)
(A)1欄43?47行
「【産業上の利用分野】本発明はライディングシミュレーション装置に関し、一層詳細には、人が搭乗可能な模擬自動二輪車を用いて搭乗者の操縦操作に従って走行状態をシミュレートすることが可能なライディングシミュレーション装置に関する。」

(B)12欄30?32行
「走行コース案内アナウンスデータなど大量のデータを記憶することができるほか、シミュレーション装置に使用する映像、音、挙動」

(3)特表平5-501981号公報(以下、「引用例3」という。)
(ア)1頁右下欄4?5行
「発明の分野
本発明は一般的に自動訓練に関し、さらに詳しくは乗物シミュレータに関する。」

(イ)3頁左上欄13?16行
「システム100は、利用者102に走行用のトラックの型を選択させる。選択されたトラックは、ある場合には図2に示されるように、オートクロストラック134であり、交差点や信号、スタントコース等を備えた車道である。」

(ウ)3頁左上欄23行?3頁右上欄2行
「チェックポイント138は、多くのチェックポイント(チェックポイントとなるスタートライン138とフィニッシュライン140を含む)のうちの一つであり、2つの基本的な役割を果たす。第一に、運転者は予定された時間内にチェックポイント138を通過することによって自分の残り時間を増やすことができて、ゲームを行う時間を延ばすことができる。第二に、もし運転者102がチェックポイント138の近くのコースで事故を起こしたならば、模擬実験車はトラック134のチェックポイント138の位置で自動的にセットし直されることとなる。即時の再生能力は、運転者102に事故の様子を「神の目」で見た景色を再生することにより、何が間違いであったかを示す。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「表示手段」は、「模擬運転席に着座する運転者に対して模擬視界画像を表示する」ためのものであり、本願発明の「走行情景を映像として表示」する「ディスプレイ」にひとまず相当する。
引用発明の「自車両情報更新手段」は、「前記運転者の運転操作に基づいて、該運転操作に応じて模擬走行路上を走行する仮想的な自車両の模擬走行路座標上における位置を表す第1の位置情報を順次更新する」ものであって、「運転者の運転操作」を検知するものといえるから、本願発明の「操作者の模型二輪車の操縦操作を制御回路が検知し、」と特定される「操作者の操縦操作」を検知することが明らかな「制御回路」と機能において共通する。
また、引用発明の「自車両情報更新手段」に加えて、引用発明の「移動体情報更新手段」は、「前記順次更新される第1の位置情報に基づいて、模擬走行路上又はその近傍に存在する移動体の移動が自車両の移動に同期するように、模擬走行路座標上の移動体の位置を表す第2の位置情報を順次更新する」ものであって、同「模擬視界生成手段」は、「前記第1の位置情報が表す自車両の位置と前記第2の位置情報が表す移動体の位置とに基づいて、自車両の運転席からの視界を模擬した模擬視界画像を表す情報を順次生成し、前記模擬視界画像を前記表示手段に表示させる」ものであるから、これらの三つの手段は、本願発明の「この制御回路からの検知情報に基づいて」「ディスプレイ上に走行情景を映像として表示」するところの「CGI発生装置」に相当する。
また、引用発明が、運転者に走行状態を擬似体験させるものであって、ここでいう「運転者」が、「操作者」と呼び得るものであり、本願発明の「操作者」に相当することは明らかである。
してみると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致している。

《一致点》
「操作者の模型車両の操縦操作を制御回路が検知し、この制御回路からの検知情報に基づいてCGI発生装置がディスプレイ上に走行情景を映像として表示し、前記操作者に走行状態を疑似体験させる車両のライディングシミュレーション装置。」

他方、本願発明と引用発明とは以下の点で相違している。
《相違点1》
本願発明は、「模型車両」が「模型二輪車」に特定されているのに対して、引用発明は前記特定を有しない点。

《相違点2》
本願発明は「交差点に進入する手前の位置において、制御回路が、該制御回路に予め記憶されたシナリオ設定路に基づき、前記模型二輪車の操作者に対して前記交差点の進行方向を、スピーカを通じてアナウンスして指示する」と特定されているのに対して、引用発明は前記特定を有しない点。

《相違点3》
本願発明においては、「前記制御回路は、前記模型二輪車が、前記スピーカを通じてアナウンスにより指示された前記交差点の進行方向以外の進路を採ったことを検知したとき、前記CGI発生装置を通じ、前記ディスプレイ上に前記交差点に進入する所定の直前位置における走行情景を表示させ、前記模型二輪車が前記所定位置から再スタートできる状態とする」と特定されているのに対して、引用発明は前記特定を有しない点。

5.判断
上記各相違点について検討する。
《相違点1》について
引用例1の段落【0003】には「交差点の通過、高速道路の走行等の任意の状況における運転操作を模擬することができ、特に実際には行うことが困難な、危険を伴う状況(例えば他車両や歩行者との接触の危険がある状況)での試験や訓練を安全にかつ繰り返し行う」とあるが、四輪車だけではなく二輪車も交差点を通過したり高速道路を走行したりするのであるから、このような状況における運転操作を模擬した試験や訓練を二輪車に対しても行うことは当業者が容易に想到し得ることである。
また、二輪車のライディングシミュレーション装置は一般的なものであって、引用例2の記載(A)にも「模擬自動二輪車を用いて搭乗者の操縦操作に従って走行状態をシミュレートすることが可能なライディングシミュレーション装置に関する。」とある。
よって、引用発明において、本願発明の相違点1に係る構成を備えることは、引用例2の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

《相違点2》について
引用発明では「自車両の通過確認箇所が予め複数設定されている」のであり、かつ、引用例1の【図7】のフローチャートの手順128に「自車両が走行終了点に到達?」とあるように、この模擬走行路は、勝手気ままに走るのではなく、走行終了点に到達することが予定されているのであるから、「シナリオ設定路」といえる。

引用例1の段落【0003】に「交差点の通過、高速道路の走行等の任意の状況における運転操作を模擬することができ、特に実際には行うことが困難な、危険を伴う状況(例えば他車両や歩行者との接触の危険がある状況)での試験や訓練を安全にかつ繰り返し行う」、段落【0007】に「例えば衝突を回避するための運転操作の試験、訓練では、交差点等において右折する対向車両と異常接近する等の状況が多用される。」とあるように交差点で他車両や歩行者と接触しないような運転を訓練することも意図されている。
そして、同じ交差点でも右折と左折では運転の仕方が異なるし、引用例1の【図4】がT字路に関するものであり、【図11】が四つ角交差点に関するものであるように、交差点の形状や幅も種々あるから、ある交差点でのある曲がり方を訓練させたければ、交差点に進入する前に操作者にどの方向に曲がるかを知らせておかなければならないことは当然である。
一方、引用例2の記載(B)には「走行コース案内アナウンスデータなど大量のデータを記憶することができるほか、シミュレーション装置に使用する映像、音、挙動」とあるから、引用例2記載のライディングシミュレーション装置は、走行コースの案内をアナウンスして行うものである。
走行コースの案内において、ある地点を通過後にその地点の案内をしても操作者が操縦操作に反映させることはできず、一度に全コース範囲の案内をしたのでは覚えきれないこともあるから、各地点を通過する手前で逐次案内することは当然のことである。

以上のことから、引用発明において、本願発明の相違点2に係る構成を備えることは、引用例1の記載及び引用例2の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

《相違点3》について
(I)引用例1の段落【0008】の「運転者による運転操作の内容に拘わらず、所望の状況を正確に再現することができる自動車模擬運転装置を得ることが目的である。」の記載から、車両のシミュレーション装置には、運転者の運転操作に拘わらず、所望の状況を再現して訓練させるという課題があるものと認められる。

(II)上記「《相違点2》について」で述べたとおり、引用発明では、ある交差点でのある曲がり方を訓練することが意図されているが、ある交差点で間違った方向に曲がった場合は意図する訓練ができなかったのであるから、もう一度その交差点の状況を再現して訓練させるべきことは明らかである。
そして、その交差点での曲がり方をもう一度訓練するのであれば、その交差点の手前に戻せばよいことになる。

(III)引用例3の記載(ウ)には、チェックポイント138の近くのコースで事故を起こしたならば、模擬実験車がトラック134のチェックポイント138の位置で自動的にセットし直されることが記載されている。
引用例3には、オートクロストラックでのレースの事例が主に記載されているが、引用例3の記載(イ)には、使用者が選択する走行するトラックの型として、交差点や信号、スタントコース等を備えた車道もあることが記載されている。
よって、引用例3の記載からは「車両のライディングシミュレーション装置に、走行状態を体験中にある事象が発生したとき、交差点を含む走行路中の所定の位置に模擬実験車を自動的にセットし直す機能を備えること」(以下、「引用技術」という。)が把握できる。

上記(I)?(III)より、引用発明において、ある交差点で間違った方向に曲がったため、もう一度その交差点での曲がり方を訓練すべくその交差点の手前に車両の位置を戻そうとする場合に、引用技術を適用し、本願発明の相違点3に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たことである。

まとめ
以上のことから、引用発明において、本願発明の相違点1?相違点3に係る構成を備えることは、引用例1の記載、引用例2の記載及び引用例3の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、それによる効果も、当業者が予想し得た程度のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、引用例1の記載、引用例2の記載及び引用例3の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-14 
結審通知日 2009-07-21 
審決日 2009-08-03 
出願番号 特願平9-12996
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒井 隆一  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 藏田 敦之
長島 和子
発明の名称 車両のライディングシミュレーション装置  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 佐藤 辰彦  
代理人 宮寺 利幸  

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