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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E05B
管理番号 1204219
審判番号 不服2007-33642  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2009-09-17 
事件の表示 特願2003-310501「車両用遠隔ドアロック制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 76369〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年9月2日の出願であって、平成19年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年1月10日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成21年2月27日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成21年4月23日付けで回答書が提出された。

2.平成20年1月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年1月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容、補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、次のとおりに補正しようとする補正事項を含むものである。
「携帯機と、
車両に搭載され、前記携帯機との間で電波による無線通信を行い、通信結果に応じてドアロックの施解錠を制御する制御装置と、
車両外部周辺に存在する前記携帯機と無線通信を行うために前記車両に配置される少なくとも3個のアンテナとを備え、
前記少なくとも3個のアンテナのうち、少なくとも1個のアンテナが前記車両の後端の角部に配置され、
残りのアンテナは、その通信範囲が前記角部に配置されたアンテナの通信範囲と一部重なり、かつ、前記角部を挟む車両の両面にそれぞれ配置され、
前記残りのアンテナのうち、一方のアンテナは、前記車両における運転席側のアウタードアハンドルまたは助手席側のアウタードアハンドルよりも車両前方に配置され、
前記角部に配置されたアンテナは、該角部に配置されたアンテナの指向方向が鉛直方向に対し前記車両の車幅方向に傾けられた状態で取り付けられる
ことを特徴とする車両用遠隔ドアロック制御装置。」

上記補正事項は、補正前の請求項1に係る発明の「1個のアンテナが前記車両の角部に配置され」を「1個のアンテナが前記車両の後端の角部に配置され」に限定し、
3個のアンテナのうち、角部に配置されたアンテナを除く、残りのアンテナについて、「前記残りのアンテナのうち、一方のアンテナは、前記車両における運転席側のアウタードアハンドルまたは助手席側のアウタードアハンドルよりも車両前方に配置され、」と限定するものであり、
さらに、角部に配置されたアンテナについて、「前記角部に配置されたアンテナは、該角部に配置されたアンテナの指向方向が鉛直方向に対し前記車両の車幅方向に傾けられた状態で取り付けられる」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)刊行物及びその記載内容
刊行物:米国特許第6522241号明細書

原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された上記刊行物には、図面とともに、次のことが記載されている。以下、訳文で示す。
(1a)「この発明は、自動車が装備するいわゆるハンドフリーアクセスシステムに関する。」(第1欄7?8行)、
(1b)「このようなシステムでは、ドアをロックする手段を制御するために識別装置が車両に搭載されており、この識別装置はユーザが身につけている識別機と遠隔的にデータを交換することができるので、識別機が識別装置によって相手を認証すると車両にアクセス可能になる。
両者のデータ交換を可能にするために複数のアンテナが車両の外回りに配置されているので、識別機の存在を検知することができる。」(第1欄11?17行)、
(1c)「図1で、車両Vは、車両の後部、トランクリッド部分に設置された側面対向アンテナ1,2を備えており、各外部アンテナ1,2はそれぞれ車両の各側面に拡げられた独自のカバーエリアI,IIを有している。」(第2欄53?57行)、
(1d)「2つのアンテナ1,2はまたトランクリッド3の近くまで拡張された共通のオーバーラップエリアIIIを備えている。」(第2欄60?62行)
(1e)「例えば、アンテナ1,2を、リアバンパー3aの両端部に、或いは車両のリアライトに、或いは車両の後部側面の成型部材に取り付けることも可能である。」(第3欄8?11行)、
(1f)「図2に示す他の例として、二つの側面アンテナ11,12を車両中央のピラーに、或いは例えば前部と後部のドアの間に、或いはフロントドアのドアハンドルに取り付けることも可能である。
各アンテナ11,12は独自のカバーエリアXI,XIIをそれぞれ有している。」(第3欄25?31行)、
(1g)「勿論、図1と図2に示された2つの例を組み合わせてもよい。この場合、車両のドア4に対するユーザの接離は、一の識別機から信号をアンテナ1,11が同時に受信検知することができる。
いずれを選択する場合であっても、アンテナ1,2又はアンテナ11,12は、およそ車両の幅の空間が開けられる。」(第3欄41?47行)。
(1h)FIG.1,FIG.2には、下記の図が記載され、アンテナ1,2のカバーエリアI,IIは、それぞれ車両の後方から側方までを覆うことが、FIG.2には、アンテナ11,12のカバーエリアXI,XIIは、それぞれ車両の側方の後端近傍まで覆うことが記載されている。


上記記載事項(1g)には、図1に示される車両5の後部に設置された側面対向アンテナ1,2と図2に示された側面アンテナ11,12を組み合わせて使用することが示されており、かつ、アンテナ1のカバーエリアIとアンテナ11のカバーエリアXIが一部重なることは、FIG.1及びFIG.2の記載から明らかである。

したがって、上記記載よれば、刊行物には、次の発明が記載されていると認められる。
「ユーザが身につけている識別機と、
車両に搭載され、前記識別機との間で遠隔的にデータを交換し、その結果に応じてドアをロックする手段を制御する識別装置と、
前記識別機と遠隔的にデータを交換するために前記車両に配置される4つのアンテナ1,2,11,12とを備え、
前記アンテナのうち、アンテナ1,2が前記車両のリアバンパー3aの両端部に取り付けられ、
アンテナ11,12が前記車両の車両中央のピラー、前部と後部のドアの間に、或いはフロントドアのドアハンドルに取り付けられ、
アンテナ1と2とは、その通信範囲が一部重なり、アンテナ1とアンテナ11、またはアンテナ2とアンテナ12とは、その通信範囲が一部重なる、
自動車が装備するハンドフリーアクセスシステム。」(以下、「刊行物記載の発明」という。)

(3)対比
そこで、本願補正発明と上記刊行物記載の発明とを対比すると、
刊行物記載の発明の「ユーザが身につけている識別機」は、本願補正発明の「携帯機」に相当し、以下同様に、
「遠隔的にデータを交換し」は「電波による無線通信を行い」に、
「ドアをロックする手段を制御する」は「ドアロックの施解錠を制御する」に、
「識別装置」は「制御装置」に、
「車両のリアバンパー3aの両端部」は「車両の後端の角部」に、
「自動車が装備するハンドフリーアクセスシステム」は「車両用遠隔ドアロック制御装置」にそれぞれ相当する。
また、刊行物記載の発明の「4つのアンテナ1,2,11,12」は、本願補正発明の「少なくとも3個のアンテナ」に相当し、そのうち「アンテナ1及び2」は、「車両の後端の角部に配置される」から、「アンテナ1」を、本願補正発明の「角部に配置されるアンテナ」に相当するものとすると、角部に配置される他方の「アンテナ2」及びアンテナ1と通信範囲が一部重なる「アンテナ11」は、本願補正発明の「その通信範囲が前記角部に配置されたアンテナの通信範囲と一部重なり、かつ、前記角部を挟む車両の両面にそれぞれ配置され」た「残りのアンテナ」に相当する。
したがって、両者は、
「携帯機と、
車両に搭載され、前記携帯機との間で電波による無線通信を行い、通信結果に応じてドアロックの施解錠を制御する制御装置と、
車両外部周辺に存在する前記携帯機と無線通信を行うために前記車両に配置される少なくとも3個のアンテナとを備え、
前記少なくとも3個のアンテナのうち、少なくとも1個のアンテナが前記車両の後端の角部に配置され、残りのアンテナは、その通信範囲が前記角部に配置されたアンテナの通信範囲と一部重なり、かつ、前記角部を挟む車両の両面にそれぞれ配置された、
車両用遠隔ドアロック制御装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
角部に配置されたアンテナを除く、残りのアンテナのうちの一方のアンテナの取り付け配置位置が、本願補正発明では「車両における運転席側のアウタードアハンドルまたは助手席側のアウタードアハンドルよりも車両前方」であるのに対し、上記刊行物記載の発明では、「車両中央のピラー、前部と後部のドアの間に、或いはフロントドアのドアハンドル」である点。
[相違点2]
角部に配置されたアンテナが、本願補正発明では「アンテナの指向方向が鉛直方向に対し車両の車幅方向に傾けられた状態で取り付けられる」ものであるのに対し、上記刊行物記載の発明は、指向方向が不明な点。

(4)判断
上記相違点1について検討すると、アンテナを、車両のアウタードアハンドルよりも車両前方に配置することは、拒絶査定における拒絶の理由に引用された特開昭60-159264号公報、審尋において例示した特開平10-317754号公報(段落【0029】)、特開昭62-121285号公報(3頁左上欄10?12行)等に記載されているように、周知技術にすぎない。
そして、刊行物には「一の識別機から信号をアンテナ1,11が同時に受信検知することができる。」と記載され(記載事項(1g))、車両の後端の角部に配置されたアンテナ1と車両の側面側に位置するアンテナ11の通信範囲を、アンテナ11がどこに位置するかに拘わらず、一部重なるようにすることを意図していることが示されており、しかも、アンテナの通信範囲の拡がりは適宜設定できるものであるから、車両のアウタードアハンドルよりも車両前方とし、かつ、車両の後端の角部に配置されたアンテナの通信範囲と一部重ねることは、適宜なし得ることである。
したがって、上記刊行物記載の発明において、上記周知技術を適用して、上記相違点1の本願補正発明に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

上記相違点2について検討する。
本件明細書の段落【0046】に「LFアンテナ46、50を山形の取付板302の上部に取り付けた状態で、すなわち電波遮蔽部材である車両12の外板(鋼板)であるリアパネル300から浮かした状態でリアパネル300に取り付けているので、LFアンテナ46、50から放射される電波が車両後面及び車両側面により回り込み易くなる。LFアンテナ46、50の軸(アンテナの指向方向)は、鉛直方向に対して左右に30゜程度傾けられている。」と記載されていることからみて、アンテナの姿勢を変更し、指向方向を傾斜させたのは、アンテナを浮かした状態で取る付けることと同様に、電波が車両後面及び車両側面により回り込み易くするためと理解できる。
しかし、車両の後端の角部に配置されたアンテナの取付下地は、通常、鉄板であり、その鉄板に邪魔をされて、角部を挟む車両の両面側への電波の放射が妨げられることは容易に想像でき、また、アンテナを傾斜させて指向方向を変更することは従来周知である(例えば、特開平10-176447号公報参照)ことから、電波の放射が妨げられることを解消するために、アンテナの指向方向を傾斜させて、角部を挟む両側面側に良好に電波が放射されるようにすることは、当業者であれば、適宜なし得る設計事項にすぎない。

そして、上記相違点2に関して、請求人が審判請求理由(平成20年1月10日付け手続補正書【本願発明が特許される理由】(1))で主張する、
「また、前記角部に配置されたアンテナの指向方向を鉛直方向に対して前記車両の車幅方向に傾けた状態で、該角部に配置されたアンテナが取り付けられているので、前記鉛直方向に対して前記車幅方向に傾けずに取り付けた場合と比較して、同じ電力の大きさでありながら、前記角部に配置されたアンテナから放射された電波を、前記車両の側面において、より前方に回りこませることが可能となる。これにより、前記車両の運転席側のアウタードアハンドル又は助手席側のアウタードアハンドルよりも前方に配置された、残りのアンテナのうちの一方のアンテナから放射される電波の通信範囲にまで、必要最小限の電力で、前記角部に配置されたアンテナから放射される電波を届かせることができる。」(平成20年1月10日付け手続補正書【本願発明が特許される理由】(1))という作用効果も、当業者であれば当然予測できる作用効果にすぎない。

また、本願補正発明の作用効果について、請求人は、審判請求理由において、
「少なくとも1個のアンテナを車両の後端の角部に配置しているので、前記角部に配置されたアンテナから放射される電波は、該角部を挟む車両の両面へ回り込んで放射され、この結果、前記角部に配置されたアンテナの通信範囲が形成される。この場合、前記角部に配置されたアンテナの通信範囲に対して、通信範囲が一部重なるように残りのアンテナが前記角部を挟む前記車両の両面にそれぞれ配置されるので、前記少なくとも3個のアンテナと、車両外部における前記角部を挟む車両の両面周辺に位置する携帯機との無線通信を確実に行うことができる。」、及び
「従って、新請求項1に係る発明によれば、車両に配置されるアンテナの数量を少なくすることが可能になると共に、前記数量の少ないアンテナを用いて、より短時間で前記車両の外部に位置する前記携帯機を検出することができ、さらには、アンテナの数量を減らしても、車両外部のうち、該車両のドア周辺における電波の通信範囲を効率よくカバーすることができるという顕著な効果を奏する。」と主張しているが、
これらの作用効果は、いずれも上記刊行物記載の発明から予測することができるものであり、本願補正発明の作用効果は全体として、上記刊行物記載の発明及び周知技術から予測することができる程度のことであって、格別のものとは認められない。

したがって、本願補正発明は、上記刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年1月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成19年5月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、次のとおりである。
「携帯機と、
車両に搭載され、前記携帯機との間で電波による無線通信を行い、通信結果に応じてドアロックの施解錠を制御する制御装置と、
車両外部周辺に存在する前記携帯機と無線通信を行うために前記車両に配置される少なくとも3個のアンテナとを備え、
前記少なくとも3個のアンテナのうち、少なくとも1個のアンテナが前記車両の角部に配置され、残りのアンテナは、その通信範囲が前記角部に配置されたアンテナの通信範囲と一部重なり、かつ、前記角部を挟む車両の両面にそれぞれ配置される
ことを特徴とする車両用遠隔ドアロック制御装置。」

(2)刊行物の記載内容
原査定に引用され本願出願前に頒布された刊行物及びその記載内容は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「1個のアンテナが前記車両の後端の角部に配置され」の限定事項である「後端の」との構成を省き、「3個のアンテナのうち、角部に配置されたアンテナを除く、残りのアンテナ」の限定事項である「前記残りのアンテナのうち、一方のアンテナは、前記車両における運転席側のアウタードアハンドルまたは助手席側のアウタードアハンドルよりも車両前方に配置され、」との構成を省き、「角部に配置されたアンテナ」の限定事項である「前記角部に配置されたアンテナは、該角部に配置されたアンテナの指向方向が鉛直方向に対し前記車両の車幅方向に傾けられた状態で取り付けられる」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、上記刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-14 
結審通知日 2009-07-21 
審決日 2009-08-03 
出願番号 特願2003-310501(P2003-310501)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E05B)
P 1 8・ 575- Z (E05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辻野 安人  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伊波 猛
山本 忠博
発明の名称 車両用遠隔ドアロック制御装置  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 田久保 泰夫  
代理人 田久保 泰夫  
代理人 大内 秀治  
代理人 大内 秀治  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 鹿島 直樹  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 鹿島 直樹  
代理人 宮寺 利幸  

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