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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1204240
審判番号 不服2006-22199  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-03 
確定日 2009-09-18 
事件の表示 平成7年特許願第349536号「常温硬化型ポリウレタン塗膜材組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成9年7月8日出願公開、特開平9-176569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成7年12月22日の特許出願であって、平成14年10月31日付けで手続補正書が提出され、平成17年3月24日付けで拒絶理由が通知され、平成17年6月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年8月11日付けで拒絶査定がされたものであり、平成18年10月3日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成19年3月16日付けで手続補正書(方式。審判請求書の補正。)が提出されたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成14年10月31日付け及び平成17年6月20日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものであると認める(以下、「本願発明」という。)。

「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、架橋剤、可塑剤および無機質充填剤を含有する硬化剤とを混合して、塗工、硬化せしめる常温硬化型ポリウレタン手塗り塗膜材において、トリレンジイソシアネートとして2,4-異性体含有率が80重量%以上のものを使用し、ポリオールとしてポリオキシプロピレンポリオールまたはポリオキシエチレンプロピレンポリオールを使用し、イソシアネート末端プレポリマーのNCO含有率を2.0?5.0重量%とし、該硬化剤中に、架橋剤としてジエチルトルエンジアミンを使用し、イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し0.1?10重量部の合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤と、20?130重量部の可塑剤を配合し、主剤と硬化剤とを施工現場で混合、手塗り塗工し、硬化せしめることを特徴とする、可使時間延長用速硬化性常温硬化型ポリウレタン手塗り塗膜材(防水材、塗り床材)組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された引用文献1?9に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであるところ、引用文献1、8は、下記のとおりである。


1.特開平7-330854号公報(原査定における引用文献1。以下、「刊行物1」という。)
2.特開平7-228831号公報(原査定における引用文献8。以下、「刊行物2」という。)

第4 各刊行物に記載された事項
上記の刊行物1、2、また、周知例として示す、刊行物3(「ポリウレタン応用技術の新展開」、株式会社 シーエムシー発行、1994年8月、第147頁)、刊行物4(社団法人 色材協会編、「塗料用語辞典」1993年1月、技報堂出版株式会社発行、第81頁)には、次の事項が記載されている。

刊行物1

(1a)「【請求項1】 トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンを主成分とする硬化剤とからなる2液型常温硬化性塗膜防水材の製造方法において、
硬化剤の主成分である芳香族ポリアミンとして、ジエチルトルエンジアミンと一般式(1)で表わされる芳香族2級アミンとの混合物を使用し、
【化1】


(ただし、R_(1)=C_(1)?C_(4)のアルキル基)
該芳香族ポリアミンの30?90モル%がジエチルトルエンジアミンであり、10?70モル%が一般式(1)で表わされる芳香族2級アミンであり、
主剤と硬化剤とを施工現場で主剤のイソシアネート基と硬化剤の芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合し、塗工し硬化せしめることを特徴とする常温硬化性塗膜防水材の製造方法。
【請求項2】 ポリオールが分子量400?8000のポリプロピレンエーテルポリオールまたはポリエチレン-プロピレンエーテルポリオールである特許請求の範囲第1項記載の常温硬化性塗膜防水材の製造方法。
【請求項3】 トリレンジイソイアネートが2,4-異性体含有率が80重量%以上のトリレンジイソシアネ-トである特許請求の範囲第1項記載の常温硬化性塗膜防水材の製造方法。
【請求項4】 トリレンジイソイアネートが2,4-異性体含有率が85重量%以上のトリレンジイソシアネ-トである特許請求の範囲第3項記載の常温硬化性塗膜防水材の製造方法。
【請求項5】 イソシアネ-ト末端プレポリマーのNCO含有率が1.5?8重量%である特許請求の範囲第1項記載の常温硬化性塗膜防水材の製造方法。
【請求項6】 硬化剤中の芳香族ポリアミンの60?90モル%がジエチルトルエンジアミンであり、10?40モル%が(1)で表される芳香族2級アミンである特許請求の範囲第1項記載の常温硬化性塗膜防水材の製造方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「【産業上の利用分野】本発明は、常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材などの製造方法に関する。」(段落【0001】)

(1c)「本発明の方法において硬化剤の必須成分として使用するDETDAは3,5-ジエチルトルエン-2,4および2,6-ジアミンの混合物で、常温液状でありたとえばエタキュア#100(エチルコーポレーション社製)などが市販されている。
DETDAと共に使用する前記一般式[化1]で表わされる芳香族2級アミンとしては、N,N’-ジ-セカンダリ-ブチル-パラ-フェニレンジアミン(商品名:ユニリンク#4100,UOP社製)が市販されており、常温液状である」(段落【0010】?【0011】)

(1d)「このように硬化剤の必須成分である本発明に使用する芳香族ポリアミンは常温で液状であり、可塑剤などの稀釈剤とは自由に相溶するので従来技術のMOCAの溶解という工程が不要で、これに由来する種々の困難は解消される。DETDAを硬化剤中の芳香族ポリアミンの90モル%以上使用すると主剤のイソシアネート成分との反応が速いため高温(夏場)には所望の可使時間がとりにくくなる。」(段落【0012】)

(1e)「前記一般式(1)の芳香族2級アミンを硬化剤中の芳香族ポリアミンの70モル%以上使用すると主剤との反応が遅くなり過ぎ、低温時の硬化性が悪くなり、得られた硬化塗膜の機械的強度も弱いので本発明の用途には不適なものとなる。従って本発明の方法では、硬化剤中のDETDAと一般式(1)の芳香族2級アミンとは上述の範囲で組合わせて使用される。このことにより低温時(冬場)はもちろん、高温時(夏場)においても可使時間と硬化性のバランスが良好な、すなわち年間を通して安定な施工の可能な処方を組み立てることができる。速硬化で防水材、塗り床材用途に好適な機械的物性を有する硬化塗膜とするため最も好ましいDETDAの使用量は硬化剤中の芳香族ポリアミン架橋剤の60?90モル%である。」(段落【0013】)

(1f)「硬化剤中にDETDAを使用することによりMOCAを使用する場合よりも硬化剤中あるいは施工環境からもたらされる湿分による影響が小さくなるから、発泡によるフクレあるいは仕上り性の悪さなどの従来技術のかかえていた困難が防止できる。しかも本発明の方法による硬化塗膜は従来技術によるよりも塗膜表面にベタつきが残り難く、短時間のうちにタックのとれた良好な仕上りとなる。本発明の方法におけるDETDAおよび前記一般式(1)の芳香族2級アミンは、日本においては既存化学物質に登録されており、従来技術のMOCAとは異り、製造または使用に際しての制約はない。」(段落【0014】)

(1g)「本発明の方法において硬化剤の主成分として使用する芳香族ポリアミンは、上述のように常温液状のものが主体であるから、特に可塑剤などの稀釈剤または溶剤に溶解する必要はないが硬化剤の組成を組み立てるときに主剤との量的なバランスを考慮して、あるいは主剤との反応性を勘案して可塑剤で稀釈するのが好ましい。可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP),アジピン酸ジオクチル(DOA),リン酸トリクレジル(TCP),塩素化パラフィンなどの通常の可塑剤が使用できる。可塑剤は硬化剤中に主として加えられるが場合により主剤に一部添加することがある。可塑剤の使用量は主剤のプレポリマー100部に対し130部以下の量が好ましい。130部を越えると硬化塗膜表面から可塑剤がブリードしたり塗膜の機械的強度が弱くなって不適である。」(段落【0015】)

(1h)「本発明の硬化剤には場合により炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、硅ソウ土などの無機充填剤、酸化クロム、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック、酸化鉄などの顔料、またはヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、ベンゾチアゾール系などの安定剤を添加することができる。」(段落【0018】)

(1i)「本発明を実施するには、TDIとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、DETDAおよびN,N’-ジ-セカンダリ-ブチル-パラ-フェニレンジアミン等の芳香族2級アミンを特定の範囲で配合した硬化剤(場合により可塑剤、ポリオール、充填剤、触媒などを含む)とを施工現場において主剤のイソシアネート基と硬化剤の芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合して被塗物上に塗工し、硬化せしめるのである。主剤のイソシアネート基と硬化剤中のアミノ基との当量比が0.8未満では、未反応のアミンが塗膜表面にブリードしてきて変色の原因となり、2.0を越えると硬化性が遅くなりすぎ機械的強度も低いので、いずれも本発明の目的を達成することができない。」(段落【0019】)

(1j)「本発明の方法により、年間を通して安定した常温施工ができ、短時間のうちにベタつきのない仕上り性の良好な、耐熱性および耐候性に優れた塗膜防水材、塗り床材などの用途に好適な硬化塗膜が得られる。本発明の方法は手作業による混合、塗工に主として用いられるが、可使時間およびレベリング可能時間が長くとれるため、スタチックミキサー、あるいは、ダイナミックミキサー等の自動混合装置を使用した機械施工にも使用することができる。」(段落【0020】)

(1k)「【実施例】以下に実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例において使用される各記号はそれぞれ下記の意味を有する。
表中の”←”は左欄の数値と同じ値であることを示す。
[主剤]
D-2000:ポリプロピレンエーテルジオール 分子量 2000(武田薬品工業社製)
D-3000:ポリプロピレンエーテルジオール 分子量 3000(武田薬品工業社製)
D-400:ポリプロピレンエーテルジオール 分子量 400(武田薬品工業社製)
T-3000:ポリプロピレンエーテルトリオール 分子量 3000(武田薬品工業社製)
T-5000:ポリプロピレンエーテルトリオール 分子量 5000(武田薬品工業社製)
[硬化剤]
DETDA:ジエチルトルエンジアミン(エタキュア100、エチルコーポレーション社製)
ユニリンク4100:N,N’-ジ-セカンダリ-ブチル-パラ-フェニレンジアミン(UOP社製)
MOCA:4,4´-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)(イハラケミカル社製)
DOP:フタル酸ジオクチル(可塑剤、大八化学工業所製)
ポリオール:ポリプロピレンエーテルジオール D-2000
炭酸カルシウム:無機充填材(丸尾カルシウム社製)
鉛オクトエート:触媒、鉛含有率20重量%、(日本化学産業社製)
NCO/NH_(2) (NH)当量比:プレポリマー(主剤)のNCO基と硬化剤の芳香族ポリアミン架橋剤のアミノ基との当量比(但し比較例8のみNCO基/(NH_(2)+OH)基の当量比)
[可使時間と硬化性]
可使時間:主剤と硬化剤とを混合した後、支障なく塗工できる限度の時間(分)(混合後の粘度が10万センチポイズに達するまでの時間)
タックフリータイム:塗膜表面にベトつきがなくなるまでの時間(時間)(塗工後塗膜上に人が乗れるようになるまでの時間)
[硬化塗膜の物性]
基礎物性:塗工後塗膜を20℃、7日間硬化させた後JISA-6021に準じて行う塗膜物性試験結果(JIS規格では破断伸びは450%以上、引張強度は25kgf/cm^(2)以上)
耐熱性:20℃、7日間硬化後、80℃のオーブンで7日間加熱した後の塗膜物性試験結果
引張強度保持率:耐熱性試験後の引張強度と基礎物性のそれとの強度比(百分率)(JIS規格では80以上150以下)」(段落【0021】?【0024】)

(1l)「実施例1 2リットルのガラスコルベンに2,4-異性体/2,6-異性体重量比が65/35のTDIを148.2g仕込み、681.4gのD-2000と170.4gのT-3000(D-2000/T-3000=80/20重量比)を徐々に加え、窒素気流下に80℃に加熱し攪拌しながら90?100℃に昇温しこの温度で5時間保ち反応を完結させ、NCO含有率3.5重量%のプレポリマー1000gを調製した。これとは別に、2リットルの円筒型開放容器に49gのDETDA、15gのユニリンク4100(硬化剤中の芳香族ポリアミン中に、DETDAが80モル%およびユニリンクが20モル%含有)、436gのDOPおよび500gの炭酸カルシウムを仕込み、室温でデイゾルバーにて15分間攪拌し1000gの硬化剤を調製した。
上記で調製した主剤と硬化剤とを3分し、10℃(冬場を想定)、20℃および35℃(夏場を想定)の雰囲気に2時間以上静置した後、それぞれの雰囲気で主剤と硬化剤を重量比1/1(主剤のNCO基/硬化剤のNH_(2) およびNH基当量比=1.2)の割合に混合し、可使時間をチェックしながらプライマー処理したスレート板にコテまたはヘラを用いて厚さ1.5?2mmになるように塗布した。20℃で混合したものの1部をガラス板上に厚さ1.5?2mmになるように流延し、このまま20℃で硬化させ塗膜物性(基礎物性および耐熱性)測定用の試験片とした。
【表4】

その結果表4のように10℃、20℃および35℃の可使時間はそれぞれ40分、28分および15分であり高温時(夏場)においても所望の可使時間が保持でき、タックフリータイムはそれぞれ5時間、2.5時間および1.5時間と低温においても硬化性が良好であり、発泡もなく良好な仕上り性を示した。20℃7日後の塗膜の基礎物性および耐熱性は表の通りであり塗膜防水材のJIS規格を充分に満足する性能を示した。」(段落【0030】?【0032】)

(1m)「実施例2?5 実施例2?4は、主剤の原料TDIとして2,4-異性体/2,6-異性体の重量比が80/20、85/15または100/0のものを用いて調整したプレポリマーを使用し、主剤と硬化剤の重量比1/1(主剤のNCO基/硬化剤のNH_(2 )およびNH基の当量比=1.2)の割合に混合し実施例2および3は20℃で、実施例4は10℃および35℃のテストも実施した。結果は表4の通りである。すなわち2,4-異性体含有率の多いものほど可使時間が長くなり所望の可使時間を保持し易くなるが、硬化性はやや遅くなる傾向を示す。しかしながら実施例4にみられるように、硬化が遅いものであっても低温(10℃)においてさえ8時間でタックフリーとなり速硬化性であり(比較例8の従来法ではこれが30?40時間)、また高温(35℃)においても30分の可使時間が保持でき、発泡もなく仕上り性良好な塗膜となった。これらの硬化塗膜はいづれも防水材として好適な物性を示した。すなわち年間を通して支障なく施工が可能であることが示された。実施例5は実施例4の組成で硬化剤に触媒を小量添加した例であるが、実施例4より速硬化性となり、この程度の触媒の添加量であれば所望の可使時間を保持しながら耐熱性が劣化しないことを示している。
実施例6?7 主剤のプレポリマーは実施例4と同一のものを使用し、硬化剤の芳香族ポリアミン架橋剤中のDETDAとユニリンク4100の芳香族2級アミンの使用割合を実施例1?5の場合と異り実施例6および7ではDETDA/ユニリンク4100=65/35または40/60モル%として実施例4と同様にテストした。結果は表4からわかるように実施例4に比較して芳香族2級アミンの使用割合が増加する(実施例6および7)に従って可使時間が長くなり、それに伴って硬化性が遅くなりかつ塗膜がやや軟く強度が低下する傾向を示すが実施例7のように20℃におけるタックフリータイムが8時間とやや遅くなってもなお比較例8の従来法に比べて速硬化性であり、硬化塗膜の物性も防水材として好適な性能を保持することが示された。」(段落【0033】?【0034】)

刊行物2

(2a)「a)ポリイソシアネート成分、
b)式:
【化1】

(式中、Xはn価を有し100℃以下の温度でイソシアネート基に対して不活性である有機基を示し、R_(1)及びR_(2)は同一でも異なっていても良く、100℃以下の温度でイソシアネート基に対して不活性である有機基を示し、R_(3)及びR_(4)は同一でも異なっていても良く、水素、又は100℃以下の温度でイソシアネート基に対して不活性である有機基を示し、並びにnは少なくとも2の整数を示す。)に対応する少なくとも1種の化合物、及びc)塗料組成物の全重量に基づき0.1乃至15重量%の吸水性ゼオライトから成るポリ尿素塗膜調製用塗料組成物。」(【請求項1】)

(2b)「【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、塗料組成物の乾燥時間を実質的に増加させることなく、そしてその他の所望の性質を何等変更させることなく、より長いポットライフを提供することである。この目的は、以下に記載するように、ポットライフを増加させる為にゼオライトを含有する本発明塗料組成物によって達成される。吸水性ゼオライトを含有させることによってポットライフの増加が達成されることは驚くべきことである。ゼオライトは、塗料組成物の調製前に、成分中に存在する水を吸収させるために通常用いられているが、少量の水を吸収することが塗料組成物のポットライフに重要な影響を及ぼすものとは予想されていなかった。これは塗料組成物に存在するイソシアネート反応性成分、即ち、第2アミノ基含有ポリアミン、に較べて、水はポリイソシアネートと非常に遅く反応するからである。従って、水を除去することによってかかる組成物のポットライフが何らかの影響を受けるものとは予想されていなかった。」(段落【0003】)

(2c)「本明細書中、「ポリ尿素」とは、ウレア基及び適宜ウレタン基のようなその他の基を含有するポリマーを意味する。本発明によるプロセスで起こる架橋はポリイソシアネート成分a)と、「ポリアスパラギン酸誘導体」とも呼ばれる第2アミノ基含有ポリアミンb)との間の付加反応に基づくものである。この反応は前掲の米国特許第5,126,170 号明細書、及び適当な基体に塗布され高温で複素環最終生成物に変換される中間体を調製するための反応を開示するドイツ特許公開公報第2,158,945 号によって、公知のものである。本発明のポリイソシアネート成分a)として使用することの出来る例としては、モノマー性ジイソシアネート、好適にはNCOプレポリマー及びより好適にはポリイソシアネート付加物がある。適当なモノマー性ジイソシアネートは、式:R(NCO)_(2) (式中、Rは分子量約112-1,000 ,好適には140-400 を有する有機ジイソシアネートからイソシアネート基を除いて得られる有機基を示す。)で表される。本発明に好適なジイソシアネートは上の式中Rが、4から18個の炭素原子を有する2価の脂肪族炭化水素、5から15個の炭素原子を有する2価の脂環式炭化水素、7から15個の炭素原子を有する2価の芳香脂肪族炭化水素、又は6から15個の炭素原子を有する2価の芳香族炭化水素である。適当な有機ジイソシアネートの例としては、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-及び1,4-ジイソシアネート、1-イソシアナト-2-イソシアナトメチルシクロペンタン、1-イソシアナト-3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチル-シクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート又はIPDI)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)-メタン、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-及び1,4-ビス(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン、ビス-(4-イソシアナト-3-メチルシクロヘキシル)-メタン、α,α,α’,α’-テトラメチル-1,3-及び/又は-1,4-キシレンジイソシアネート、1-イソシアナト-1-メチル-4(3)-イソシアナトメチルシクロヘキサン、2,4-及び/又は2,6-ヘキサヒドロトルイレンジイソシアネート、1,3-及び/又は-1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-及び/又は-2,6-トルイレンジイソシアネート 2,4-及び/又は-4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ジイソシアナトナフタレン及びそれらの混合物がある。アニリン/ホルムアルデヒド濃縮物をホスゲン化して得られるポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート及び4,4’,4''-トリフェニルメタンジイソシアネートのような3以上のイソシアネート基を有する芳香族ポリイソシアネートも使用しうる。」(段落【0005】)

(2d)「本発明におけるポリイソシアネート成分としても使用しうるNCOプレポリマーは、上記のモノマー性ポリイソシアネート又はポリイソシアネート付加物、特にモノマー性ジイソシアネート、及び少なくとも2つのイソシアネート反応性基、好適には少なくとも2つのヒドロキシ基を有する有機化合物から調製される。これらの化合物には、400 乃至約6,000 、好ましくは800 乃至約3,000 の分子量を有する高分子量化合物、及び適宜分子量400 未満の低分子量化合物が含まれる。分子量は、数平均分子量(M_(n) ) であり、末端基分析(OH数)によって決定される。ポリイソシアネートを低分子量化合物とのみ反応させて得られた生成物はウレタン基含有ポリイソシアネート付加物であり、NCOプレポリマーとは見做されない。
高分子量化合物の例としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリヒドロキシポリカーボネート、ポリヒドロキシポリアセタール、ポリヒドロキシポリアクリレート、ポリヒドロキシポリエステルアミド、及びポリヒドロキシポリチオエーテルが挙げられる。ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びポリヒドロキシポリカーボネートが好適である。低分子量化合物及び出発物質並びに高分子量ヒドロキシ化合物に関する詳細は米国特許第4,701,480 号明細書に開示されており、該明細書は参照として本明細書中に引用される。」(段落【0007】?【0008】)

(2e)「・・・ゼオライト成分c)には、水を吸収することの出来るいかなる公知のゼオライトも含まれる。好適なゼオライトは、塗料組成物中のバインダー成分を吸収することなく水を吸収するだけの十分小さい開孔を有しているものである。この点に関して、ゼオライトは好ましくは10Å未満、より好ましくは5Å未満の孔直径を有している。適当なゼオライトの例としては、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウムナトリウム、例えば、「Baylith T Powder」及び「Baylith L Powder」としてマイルス(Miles)から市販されているものがある。該ゼオライトは塗料組成物中に存在する水の20乃至100%、好ましくは60乃至100%、より好ましくは100%を吸収する十分な量を該塗料組成物に加える。過剰量のゼオライトを添加しても良いが、いかなる利点も生じない。必要なゼオライト量はゼオライトの吸水能に基づいて計算される。例えば、前記Baylith Powder類は自重の約25%の水を吸収することが出来る。」(段落【0010】)

(2f)「・・・本発明塗料組成物は、粉霧、はけ塗り、浸漬、流し塗布、又はローラー若しくはナイフ塗布機等の公知手段により、基体上に1層以上塗布されるものである。本発明の塗料組成物は、例えば、金属、プラスチック、木材、セメント、コンクリート、又はガラスのような各種基体上に塗膜を形成させるために適している。特に、例えば、自動車本体、機械トリムパネル、バット又は容器を製造する為の鋼板上に塗膜を形成させるために適している。本発明の塗料組成物が塗布される基体は、その前に適当なプライマーで処理することも出来る。塗料は上述の基体に塗布されたのち、室温にて、例えば、空気乾燥又は所謂強制乾燥、或いは、高温にて硬化させる。塗料プラントの故障によって起こるより高温においてさえも、本発明の塗料組成物は熱硬化しないことは大変有利な点である。」(段落【0013】)

(2g)「以下に示す出発物質を実施例で使用した。
ポリイソシアネート1
1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアネート部分をオリゴマー化させることによって調製され、イソネート含有量22.1%、モノマー性ジイソシアネート含有量0.1%未満、及び25℃に於ける粘度200mPa.s.を有する、ウレトジオン及びイソシアネート基含有ポリイソシアネート。
ポリイソシアネート2
ガス栓、機械的攪拌手段、温度計及び濃縮器を備えた三口フラスコ(500ml) に、ヘキサメチレンジイソシアネート301.7部及び1-ブタノール13.3部を加えた。混合物を攪拌しながら60℃にて1時間加熱し、その間窒素ガスを反応混合物に吹き込んだ。反応混合物の温度を90℃まで上げた。90℃の反応混合物にN,N,N-トリメチル-N-ベンジル-アンモニウム水酸化物の4.4%1-ブタノール溶液0.214部を添加した。反応混合物がNCO含有量34.8%に達したら、ジ-(2-エチルヘキシル)-ホスフェート0.214部を添加して反応を停止させた。過剰のモノマーを薄層フィルム蒸発によって除去し、25℃に於ける粘度630mPa.s.、NCO含有量19.7%及び遊離モノマー(HDI)含有量0.35%を有するほぼ無色透明の液体が得られた。収率は48.6%であった。
ポリアスパラギン酸エステル(PAE)
機械的攪拌手段、温度計及び追加の漏斗を備えた三口丸底フラスコに2モルのマレイン酸ジエチルを入れてポリアスパラギン酸エステル(PAE)を調製した。窒素雰囲気下、25℃にて攪拌されたマレイン酸ジエチルに以下の表のジアミン1モルを徐々に添加し、必要に応じて氷水浴を使用しながら、反応温度を50℃以下に維持した。ジアミン添加の終了時に、TLCで求めて反応混合物中にマレイン酸ジエチルが存在しなくなるまで反応温度を50℃に維持した。粗反応混合物を室温まで冷却し容器に注入して封印した。
【表1】
PAE ジアミン出発物質
PAE A ビス-(4-アミノシクロヘキシル)-メタン
PAE B ビス-(4-アミノ-2-メチル-シクロヘキシル)
-メタン
添加剤 ジラウリン酸ジブチル錫(T-12,エアープロダクト社製)
ゼオライトA Baylith L Powder(マイルス(Miles)社製)
顔料A 二酸化チタン(Ti-Pure R-960 DuPont 社製)
顔料分散剤A Anti-Terra U (Byk Chemie 社製)
ポリオールA ポリエステルエーテルポリオール
(Desmophen1150マイルス社製)」(段落【0015】?【0016】)

(2h)「・・・実施例2
PAE A又はポリオールAのいずれか及びポリイソシアネート2に基づく2成分系ポリ尿素顔料塗料組成物に対するゼオライトAの影響:容器に1当量のPAE A又はポリオールAのいずれかを入れ、残りの成分を組成に従って適量加え、これらを高速カウレス(Cowles)分散器で混合することによって、表3に示した組成E-Hの成分1を調製した。該混合物の一部を240mlプラスチックカップに挿入し、ポリイソシアネート2を1.1 当量に加えた。得られた混合物を攪拌し、その一部を密閉した60mlの容器に入れた。この混合物の初期粘度及び経時変化による粘度の増加を25℃にてブルックフィールド粘度計で測定した。混合物の粘度に応じて適当なLV針を使用した。結果を表4に示す。
【表4】


【表5】


組成E及びFの比較から、本発明によって、ポットライフが増加することが判る。しかしながら、組成G及びHの比較から、ゼオライトは、ポリイソシアネートとポリアスパラギン酸を含有する系のポットライフを増加させるようには、ポリオールとポリイソシアネートを含有する系のポットライフを増加させるものではないことが判る。・・・」(段落【0020】?【0023】)

刊行物3

(3a)「(2) 速硬化型
汎用の二成分型常温硬化型ウレタン塗膜防水材は,主剤にTDIとポリオールからのプレポリマーを使用し,硬化剤の架橋剤にMOCA(3,3'-ジクロロ-4,4'-ジアミノジフェニルメタン)とポリオールを併用するのが主流であるが,硬化性向上のために主剤に反応性の高いMDI系プレポリマーや,硬化剤に反応性の高いポリアミン(ジエチルトルエンジアミン,3,5-ジメチルチオトルエンジアミン,3,3'-ジエチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン等)を使用することで,20分の可使時間を確保し,ほぼ2時間で硬化するコテ塗り作業用または機械施工用の防水材も開発されている。しかし冬期下地温度が0℃またはそれ以下に冷えている条件下でも同一の硬化時間を確保するにはまだ工夫を要す。」(第147頁第8?16行)

刊行物4

(4a)「可使時間 pot life, usable life, spreadable life =使用時限,ポットライフ
主剤,硬化剤,さらには促進剤がセットである多液形反応性塗料は,使用に際し必要量だけの塗料を指定配合比により混合する.各剤の混合後,塗装作業に支障なく使用可能な時間をいう.可使時間は,塗料系,配合量,温度,湿度,塗料液の濃度および作業中のかき混ぜ状態により左右される.また塗装作業性のみでなく,配合後の経時塗膜物性の変化も可使時間内は保証されなくてはならない.別に塗料類の貯蔵時限をシェルフライフ(shelf life)と呼ぶ.」(第81頁「可使時間」の項)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンを主成分とする硬化剤とからなる2液型常温硬化性塗膜防水材の製造方法において、硬化剤の主成分である芳香族ポリアミンとして、ジエチルトルエンジアミンと一般式(1)で表わされる芳香族2級アミン(審決注;以下、一般式(1)は省略。摘示(1a)参照。以下、「一般式(1)で表わされる芳香族2級アミン」を、「式(1)アミン」という。)との混合物を使用し、該芳香族ポリアミンの30?90モル%がジエチルトルエンジアミンであり、10?70モル%が式(1)アミンであり、主剤と硬化剤とを施工現場で主剤のイソシアネート基と硬化剤の芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合し、塗工し硬化せしめることを特徴とする常温硬化性塗膜防水材の製造方法」(摘示(1a)の【請求項1】)に関し記載され、産業上の利用分野として、「常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材などの製造方法に関する」(摘示(1b))とも記載されているから、刊行物1は、「常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材などの製造方法」の発明に関し記載するものであって、上記「常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材などの製造方法」によって製造される「常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材」の発明も記載されているものと認められる。
そこで、以下、刊行物1に記載の「常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材」の発明について検討するに、上記「常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材」は、「手作業による混合、塗工に主として用いられる」(摘示(1j))ものであり、また、各配合成分に関して、「ポリオールが分子量400?8000のポリプロピレンエーテルポリオールまたはポリエチレン-プロピレンエーテルポリオール」であり(摘示(1a)の【請求項2】)、「トリレンジイソイアネート(審決注;「トリレンジイソシアネート」の誤記と認められる。)が2,4-異性体含有率が80重量%以上のトリレンジイソシアネ-ト」であり(摘示(1a)の【請求項3】)、「イソシアネ-ト末端プレポリマーのNCO含有率が1.5?8重量%」である(摘示(1a)の【請求項5】)ものである。
さらに、刊行物1には、「可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP),アジピン酸ジオクチル(DOA),リン酸トリクレジル(TCP),塩素化パラフィンなどの通常の可塑剤が使用できる。可塑剤は硬化剤中に主として加えられる・・・。可塑剤の使用量は主剤のプレポリマー100部に対し130部以下の量が好ましい」(摘示(1g))と記載されているから、硬化剤中に可塑剤を主剤のプレポリマー100部に対し130部以下の量で配合し得るものであり、「硬化剤には・・・炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、硅ソウ土などの無機充填剤・・・を添加することができる」(摘示(1h))と記載されているから、硬化剤に無機充填剤を含有し得るものである。
したがって、刊行物1には、
「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンを主成分とし、可塑剤および無機充填剤を含有する硬化剤とからなる2液型常温硬化性塗膜防水材において、硬化剤の主成分である芳香族ポリアミンとして、30?90モル%のジエチルトルエンジアミンと10?70モル%の式(1)アミンとの混合物を使用し、トリレンジイソイアネートが2,4-異性体含有率が80重量%以上のものであり、ポリオールが分子量400?8000のポリプロピレンエーテルポリオールまたはポリエチレン-プロピレンエーテルポリオールであり、イソシアネ-ト末端プレポリマーのNCO含有率が1.5?8重量%であり、可塑剤を主剤のプレポリマー100部に対し130部以下の量で配合し、主剤と硬化剤とを施工現場で主剤のイソシアネート基と硬化剤の芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合し、塗工し硬化せしめることを特徴とする手作業による混合、塗工に主として用いられる常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

2 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「芳香族ポリアミン」は、本願発明の架橋剤として用いられるのと同じ「ジエチルトルエンジアミン」(審決注;以下、略称として、摘示(1c)、本願明細書の段落【0004】等に記載の「DETDA」を使う場合がある。)をその一成分として含有し、さらに、刊行物1には、「硬化塗膜とするため最も好ましいDETDAの使用量は硬化剤中の芳香族ポリアミン架橋剤の60?90モル%である」(摘示(1e))という記載もあるから、引用発明の「芳香族ポリアミン」は、本願発明の「架橋剤」に相当する。また、引用発明の「可塑剤」は、具体的には、フタル酸ジオクチル(DOP)等であり(摘示(1g)及び(1k))、本願発明の「可塑剤」も、本願明細書の段落【0014】及び実施例1によれば、フタル酸ジオクチル等を包含するから、引用発明の「可塑剤」は、本願発明の「可塑剤」に相当し、引用発明の「無機充填剤」が炭酸カルシウムの場合(摘示(1h)及び(1k))、本願発明の「無機質充填剤」も、本願明細書の段落【0016】及び実施例1によれば、炭酸カルシウム等を包含するから、引用発明の「無機充填剤」は、本願発明の「無機質充填剤」に相当する。さらに、引用発明の「ポリオール」である「ポリプロピレンエーテルポリオール」、「ポリエチレン-プロピレンエーテルポリオール」は、それぞれ「ポリオキシプロピレンポリオール」、「ポリオキシエチレンプロピレンポリオール」ということができ、引用発明では、これらが「分子量400?8000」であると特定されているが、本願発明も、本願明細書の実施例1において、分子量2000のポリオキシプロピレンジオール及び分子量3000のポリオキシプロピレントリオールを使用しているから、引用発明の「分子量400?8000のポリプロピレンエーテルポリオールまたはポリエチレン-プロピレンエーテルポリオール」は、本願発明の「ポリオキシプロピレンポリオールまたはポリオキシエチレンプロピレンポリオール」に相当する。
そして、引用発明の「常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材」は、「手作業による混合、塗工に主として用いられる」から、その塗工作業は、手塗りであるといえ、また、引用発明を具体化した実施例2?4(摘示(1l)の表4及び(1m)、主剤の原料TDI(審決注;「トリレンジイソシアネート」の略称)として2,4-異性体/2,6-異性体の重量比が80/20、85/15または100/0であるもの)において、「タックフリータイム:塗膜表面にベトつきがなくなるまでの時間(時間)(塗工後塗膜上に人が乗れるようになるまでの時間)」(摘示(1k))が、3?5時間であり、一方、本願発明も、本願明細書の実施例(段落【0027】)によれば、「タックフリー時間(指触による)」が、「4.5時間で速硬化であった」とあるから、引用発明も本願発明と同程度のタックフリー時間を有し、速硬化性であるといえる。そうすると、引用発明の「手作業による混合、塗工に主として用いられる常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材」は、本願発明の「速硬化性常温硬化型ポリウレタン手塗り塗膜材(防水材、塗り床材)」に相当する。
また、引用発明は、「主剤のイソシアネート基と硬化剤の芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合」するものであるが、本願発明も、本願明細書の段落【0021】に記載されるように、「主剤中のNCO基と硬化剤中のNH_(2)基との当量比が0.8?2.0となるように施工現場で混合」するものである。
よって、両者は、
「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、架橋剤、可塑剤および無機質充填剤としての炭酸カルシウムを含有する硬化剤とを混合して、塗工、硬化せしめる常温硬化型ポリウレタン手塗り塗膜材において、トリレンジイソシアネートとして2,4-異性体含有率が80重量%以上のものを使用し、ポリオールとしてポリオキシプロピレンポリオールまたはポリオキシエチレンプロピレンポリオールを使用し、イソシアネート末端プレポリマーのNCO含有率を2.0?5.0重量%とし、主剤と硬化剤とを施工現場で混合、手塗り塗工し、硬化せしめることを特徴とする、速硬化性常温硬化型ポリウレタン手塗り塗膜材(防水材、塗り床材)」
である点で一致するが、以下のA?Eの点で相違するといえる。

A 本願発明は、「イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し、0.1?10重量部の合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤」を配合するのに対し、引用発明は、そのような特定がない点
B 本願発明は、「硬化剤中に、架橋剤としてジエチルトルエンジアミンを使用」するのに対し、引用発明は、「硬化剤の主成分である芳香族ポリアミンとして、30?90モル%のジエチルトルエンジアミンと10?70モル%の式(1)アミンとの混合物を使用」する点
C 本願発明は、「イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し、20?130重量部の可塑剤を配合」するのに対し、引用発明は、「可塑剤を主剤のプレポリマー100部に対し130部以下の量で配合」する点
D 本願発明は、「可使時間延長用」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点
E 本願発明は、「塗膜材(防水材、塗り床材)組成物」であるのに対し、引用発明は、「塗膜防水材、塗り床材」である点
(以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点A」、「相違点B」、「相違点C」、「相違点D」及び「相違点E」という。)

3 相違点についての判断
(1)相違点Aについて
引用発明は、「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンを主成分とする硬化剤とからなる2液型常温硬化性塗膜防水材」であり、芳香族系ポリアミンというアミン系の架橋剤を使用するもので、「所望の可使時間がとりにくくなる」(摘示(1d))という点を改良することを課題のひとつとしているから、同様の課題の解決について記載されている刊行物2について検討する。
刊行物2には、「a)ポリイソシアネート成分、b)式(I)に対応する少なくとも1種の化合物(審決注;該化合物は「ポリアスパラギン酸誘導体」であって、以下、「ポリアミンb)」という。)、及びc)塗料組成物の全重量に基づき0.1乃至15重量%の吸水性ゼオライトから成るポリ尿素塗膜調製用塗料組成物」(摘示(2a))に関し記載され、ここで、「ポリ尿素」とは、「ウレア基及び適宜ウレタン基のようなその他の基を含有するポリマーを意味する」(摘示(2c))ものであるから、上記ポリ尿素塗膜とは、ポリイソシアネート成分a)、ポリアミンb)との間の付加反応に基づいて架橋が行われ、塗膜が形成されるものである(摘示(2c))。そして、「a)ポリイソシアネート成分として使用することの出来る例としては、・・・好適にはNCOプレポリマー」があり(摘示(2c))、該「NCOプレポリマーは、・・・モノマー性ジイソシアネート、及び少なくとも2つのイソシアネート反応性基、好適には少なくとも2つのヒドロキシ基を有する有機化合物から調製され」(摘示(2d))、該「少なくとも2つのヒドロキシ基を有する有機化合物」の例として、「ポリエーテルポリオール」(摘示(2d))が挙げられ、該「モノマー性ジイソシアネート」の例として、「2,4-及び/又は-2,6-トルイレンジイソシアネート」(摘示(2c))が挙げられ、これは、引用発明の「トリレンジイソシアネート」と同一の化合物であるから、上記ポリ尿素塗膜とは、a)ポリイソシアネート成分として、2,4-及び/又は2,6-トルイレンジイソシアネートとポリエーテルポリオールから調製されるウレタン基を含有するイソシアネート末端プレポリマーを使用することができ、該プレポリマーとポリアミンb)との架橋反応により形成される塗膜ということができる。
ところで、刊行物2に記載の塗料組成物は、上記ポリ尿素塗膜を調製するに際し、「ポットライフを増加させる為にゼオライトを含有する」(摘示(2b))ものであるところ、「ポットライフ」とは、英語で「可使時間」を意味する用語であり(摘示(4a)参照。)、「ゼオライト成分c)には、水を吸収することの出来るいかなる公知のゼオライトも含まれる。・・・適当なゼオライトの例としては、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウムナトリウム」が挙げられている(摘示(2e))。
この点についてさらにみるに、刊行物2の上記塗料組成物を具体化した実施例2における「組成F」は(摘示(2g)及び(2h))、ゼオライトが、ポリアミンb)であるPAE Aと混合されて成分1が調製され、成分2であるポリイソシアネート2と混合された後、この混合物の25℃における初期粘度及び経時変化による粘度の増加が測定されているものであるが、ゼオライトを含有しない「組成E」と比較すると、「組成F」において「ポットライフが増加する」との結果が得られている。また同じく実施例2における「組成H」は、ポリアミンb)であるPAE Aに代えて、ポリオールAを使用したものであるが、「ゼオライトは、ポリイソシアネートとポリアスパラギン酸(審決注;「ポリアミンb)」を意味する。)を含有する系のポットライフを増加させるようには、ポリオールとポリイソシアネートを含有する系のポットライフを増加させるものではないことが判る」と記載されていることから、ポリイソシアネートと、ヒドロキシド系の架橋剤であるポリオールを使用する場合は、ポットライフの増加効果は認められないものの、ポリイソシアネートと、アミン系の架橋剤であるポリアミンb)を使用する場合は、ポットライフが増加しているものと認められる。また、その際、ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤は、「塗料組成物の全重量に基づき0.1乃至15重量%」(摘示(2a))の範囲で使用されるが、上記実施例2における「組成F」では、371.8gのポリイソシアネート2に対し、27.8gのゼオライトAを配合しているから、ポリイソシアネート2を100重量部とすると、ゼオライトAは(27.8/371.8)×100=7.48重量部配合していることになる。
以上のことを踏まえると、刊行物2には、イソシアネート末端プレポリマーと、ポリアミンb)との架橋反応により、塗膜が形成される塗膜調製用塗料組成物において、イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し、7.48重量部のナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を含有することにより、可使時間を増加させることが記載されているということができる。
そして、可使時間が増加することで、上記塗料組成物は、「粉霧、はけ塗り、浸漬、流し塗布、又はローラー若しくはナイフ塗布機等の公知手段により、基体上に1層以上塗布され」(摘示(2f))、「塗料は上述の基体に塗布されたのち、室温にて、例えば、空気乾燥又は所謂強制乾燥・・・にて硬化させる」(摘示(2f))ものであって、はけ塗り等の手塗り塗工手段によって塗布することができ、その後、室温で硬化せしめることで塗膜を形成させるものということができる。
そうしてみると、引用発明においてもゼオライトは配合できるのであるから(摘示(1h))、引用発明の課題のひとつである可使時間を増加させるために、刊行物2に記載されているように、ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合し、そのイソシアネート末端プレポリマー100重量部に対する配合量を、実施例の7.48重量部を含む特定の範囲、例えば「0.1?10重量部」に設定することも当業者が適宜なし得るものである。また、ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤として、合成物である合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を使用することは、当業者が適宜選択し得るものである。
したがって、引用発明において、「イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し、0.1?10重量部の合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤」を配合することは、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)相違点Bについて
刊行物1には、「硬化剤中にDETDAを使用することによりMOCA(審決注;「4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)」の略称)を使用する場合よりも硬化剤中あるいは施工環境からもたらされる湿分による影響が小さくなるから、発泡によるフクレあるいは仕上り性の悪さなどの従来技術のかかえていた困難が防止できる」(摘示(1f))と記載され、「速硬化で防水材、塗り床材用途に好適な機械的物性を有する硬化塗膜とするため最も好ましいDETDAの使用量は硬化剤中の芳香族ポリアミン架橋剤の60?90モル%である」(摘示(1e))と記載されているように、引用発明は、従来使用されていたMOCAに代えて、DETDAを主成分とする芳香族ポリアミンを用いるものということができる。
また、速硬化型の二成分型常温硬化型ウレタン塗膜防水材の分野において、主剤にTDIとポリオールからのプレポリマーを使用し、硬化剤として、従来使用されていたMOCAに代えて、ジエチルトルエンジアミンを使用することは、出願時当業者に周知であったと認められる(摘示(3a)を参照。)。
しかし、その一方で、「DETDAを硬化剤中の芳香族ポリアミンの90モル%以上使用すると主剤のイソシアネート成分との反応が速いため高温(夏場)には所望の可使時間がとりにくくなる」(摘示(1d))ことから、引用発明は、「硬化剤中のDETDAと一般式(1)の芳香族2級アミンとは上述の範囲で組合わせて使用され」るもので、「このことにより低温時(冬場)はもちろん、高温時(夏場)においても可使時間と硬化性のバランスが良好な、すなわち年間を通して安定な施工の可能な処方を組み立てることができる」(摘示(1e))ところ、刊行物1の実施例6?7にも、「表4からわかるように実施例4に比較して芳香族2級アミンの使用割合が増加する(実施例6および7)に従って可使時間が長く」なる(摘示(1m))ことが示されている。よって、引用発明における式(1)アミンは、芳香族ポリアミンとしてDETDAを主成分とする系に、可使時間を延長するために、他の架橋剤成分として混合されるものということができる。
そうすると、引用発明において、式(1)アミンに代わる可使時間の延長のための手段を講じることができれば、架橋剤として、式(1)アミンとの混合物とすることなく、ジエチルトルエンジアミンを使用し得ることは、当業者が容易に想到し得るものであるところ、上記(1)で相違点Aについて記載したように、合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合することにより、可使時間を延長することができるのであるから、架橋剤として、式(1)アミンとの混合物とすることなく、ジエチルトルエンジアミンを使用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明において、式(1)アミンとの混合物とすることなく、「硬化剤中に、架橋剤としてジエチルトルエンジアミンを使用」することは当業者が容易に想到し得るものである。

(3)相違点Cについて
引用発明を具体化した刊行物1の実施例2?5(摘示(1m))における可塑剤の配合量についてみると、主剤の原料TDIとして2,4-異性体/2,6-異性体の重量比を変えた以外は、実施例1(摘示(1k)及び(1l))と同様に各成分が調製されており、それによれば、プレポリマー1000gに対し、436gのDOP(フタル酸ジオクチル、可塑剤)を配合しているから、イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し、43.6重量部の可塑剤を使用していることになり、「20?130重量部」の範囲内にある。
よって、相違点Cは、実質的な相違点であるとはいえない。
また、本願発明の「20?130重量部」という数値範囲を考慮したとしても、引用発明の「主剤のプレポリマー100部に対し130部以下の量」における「部」の単位は、上記実施例1において使用量が重量(g)で表されているように、「重量部」であることは明らかであるから、引用発明の「130部以下の量」は、本願発明の「20?130重量部」における上限と一致するものである。そして、刊行物1には、「本発明の方法において硬化剤の主成分として使用する芳香族ポリアミンは、上述のように常温液状のものが主体であるから、特に可塑剤などの稀釈剤または溶剤に溶解する必要はないが硬化剤の組成を組み立てるときに主剤との量的なバランスを考慮して、あるいは主剤との反応性を勘案して可塑剤で稀釈するのが好ましい」(摘示(1g))とも記載されているから、可塑剤を主剤のプレポリマー100重量部に対し130重量部以下の量の範囲内で、実施例の43.6重量部を含む特定の範囲に設定することは当業者が適宜なし得るものである。
したがって、引用発明において、イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し、20?130重量部の可塑剤を配合することは、当業者が適宜なし得るものである。

(4)相違点Dについて
上記(1)で相違点Aについて述べたように、引用発明において、可使時間を延長するために、合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合することは当業者が容易に想到し得るものであるから、それにより、引用発明を「可使時間延長用」とすることも当業者が適宜なし得るものである。

(5)相違点Eについて
本願発明の「主剤と硬化剤とを施工現場で混合、手塗り塗工し、硬化せしめることを特徴とする、可使時間延長用速硬化性常温硬化型ポリウレタン手塗り塗膜材(防水材、塗り床材)組成物」について、「主剤と硬化剤とを施工現場で混合、手塗り塗工し、硬化せしめ」たものは、塗膜であって、手塗り塗膜材(防水材、塗り床材)組成物ではないところ、ここでいう「組成物」とは、上記混合、手塗り塗工、硬化に用いるための「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、架橋剤、可塑剤および無機質充填剤を含有する硬化剤」とからなるものをいうものと認められる。一方、引用発明の「混合し、塗工し硬化せしめることを特徴とする手作業による混合、塗工に主として用いられる常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材」に用いるための「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンを主成分とし、可塑剤および無機充填剤を含有する硬化剤とからなる」ものも、常温硬化性ポリウレタン塗膜防水材、塗り床材に用いるための組成物といえるものである。
よって、相違点Eは、実質的な相違点であるとはいえない。

(6)本願発明の効果について
ア 本願発明は、本願明細書の段落【0030】に記載されるように、「TDI(審決注;「トリレンジイソシアネート」の略称)とポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、架橋剤のDETDAと合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を含む硬化剤とを、主剤中のNCO基と硬化剤中のDETDAのNH2基との当量比が所定範囲内となるように施工現場で混合し、手塗り塗工して硬化させることによって、年間を通して安定な施工のできる、可使時間延長用速硬化性常温硬化型ポリウレタン塗膜材組成物を得ることができる」ものであり、また、本願明細書の段落【0017】に記載されるように、イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し0.1?10重量部の合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合することにより、「複雑な作業を伴う役物まわりや立面部(特に夏場)においても充分に余裕をもって施工ができる程度に可使時間の延長が達成でき、DETDAという高反応性の芳香族ポリアミン架橋剤の使用と相伴って年間を通じて安定した施工が可能となるのである」という効果を奏するものである。
イ しかしながら、前者の効果は、主剤中のNCO基と硬化剤中のDETDAのNH_(2)基との当量比が所定範囲内となるように混合することによるものであるが、当該事項は、本願発明で特定される事項ではないうえ、引用発明も、「主剤と硬化剤とを施工現場で主剤のイソシアネート基と硬化剤の芳香族ポリアミンのアミノ基との当量比が0.8?2.0となるように混合」されるものであるから、その点において顕著な効果を奏するということはできない。
ウ また、後者の効果、つまり、「イソシアネート末端プレポリマーの使用量100重量部に対し0.1?10重量部の合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合する」ことにより、「可使時間の延長が達成」できるという効果については、上記(1)で相違点Aについて述べたとおり、刊行物2には、ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合することにより、可使時間を延長させることができることが記載されているから、本願発明が、上記特定量の合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合したことにより、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するものということはできない。

(7)請求人の主張について
ア 請求人は、平成19年3月16日付けで手続補正された審判請求書(以下、「審判請求書」という。)の「3.(3-1)」において、「引用文献1は硬化剤の成分としてジエチルトルエンジアミン(以下、DETDAと略称)とパラフェニレンジアミン系の芳香族2級アミン併用が必須であり、・・・併用する理由はDETDA単独では主剤のイソシアネート基との反応が夏場の高温時では速過ぎて、所望する可使時間がとりにくく、DETDAと芳香族2級アミンを併用することにより可使時間の保持と硬化性とのバランスをとり、通年を通し安定した施工ができるようにしたもので・・・本願発明とは構成が異なっています。」と主張する。
しかし、上記(2)で相違点Bについて述べたとおりであるから、上記主張は採用できない。
イ また、請求人は、審判請求書の「3.(3-2)」において、「引用文献8(審決注;審決における刊行物2。以下、同様。)に記載された発明は塗料組成物に関するもので、本願発明とは技術分野が相違するものです。」と主張する。
しかし、上記(1)で述べたとおり、刊行物2に記載の塗料組成物は、はけ塗り等の手塗り塗工手段によって塗布することができ、その後、室温で硬化せしめることで塗膜を形成させるものといえるのに対し、本願発明も、主剤と硬化剤とを施工現場で混合、手塗り塗工し、硬化せしめるものであるから、技術分野は共通するものといえ、技術分野が相違するとの上記主張は採用できない。
ウ さらに、請求人は、審判請求書の「3.(3-2)」において、下記(ア)?(ウ)のとおり主張する。
(ア)「また硬化剤の成分として第1ポリアミンとマレイン酸またはフマル酸エステルとの反応生成物を必須の成分としているという点で本願発明とは構成が異なっています。・・・段落[0015]に実施例で使用されたポリイソシアネート1およびポリイソシアネート2が記載されていますが、これらのポリイソシアネート化合物はひとたび水と反応すると、硬化剤成分である第2アミノ基含有ポリアミンよりもはるかに反応性の高い、末端にアミノ基を有する脂肪族第1級アミンに加水分解します。これが更にイソシアネート基と反応する結果、粘度が急上昇してしまうことになります。すなわち、引用文献8の[実施例]表1?表8に記載された結果は硬化剤中にゼオライトを添加して水分を吸収し除去することで、塗料組成物のポットライフが増加(延長)しているものと考えます。特に実施例3の結果が表6に示されていますが、ゼオライトAの含有されていない組成1では1時間後に発泡が起きていて、ポリイソシアネート1と水との反応が優先していることがわかります。このことから引用文献8で使用しているポリアスパラギン酸エステル系の2級アミンは、イソシアネート1との反応性において水と差が無いことがわかります。」
(イ)「本願発明では、架橋剤として芳香族第1級アミンであるジエチルトルエンジアミン(DATDAと略称)を使用しており、イソシアネート基との反応性は水と比較してかなり高いことが知られています。すなわちイソシアネート基との反応性は、DETDA(芳香族第1級アミン)>ポリアスパラギン酸誘導体(第2級アミン)>水の順に低下します。このためトリレンジイソシアネートとポリオールとの反応生成物であるプレポリマーに水が反応することよりも、プレポリマーとDETDAの反応の方がはるかに優先する為、水分による可使時間への影響はほとんどありません。このことは本願当初明細書の段落[0017]で説明されている通りであり、むしろゼオライトは本来塩基性であるので硬化反応が促進されて可使時間が短縮される傾向というのが常識であり、研究担当者にとって可使時間延長が達成できることは予想できないことでした。」
(ウ)「引用文献8の第5ページ左欄第23行目?47行目の記載、同ページ第29行目?32行目、第9ページ表6の「組成1」の発泡結果を見れば、当業者であれば引用文献8におけるポットライフ延長のメカニズムが含有水分の除去にあると理解するのが自然です。上述しましたように本願と引用文献8に記載の発明の違いは、架橋剤でありますアミン化合物とイソシアネート基との反応性と対水とイソシアネート基との反応性の差において、両発明間に大きな開きがあることです。この反応性の大きな開きがもたらす水分除去の影響に着目すれば、引用文献8の[実施例]表1?表8に記載された測定結果を説明することができます。よって引用文献8に記載された発明に基づいて、本願発明の2液型常温硬化性塗膜防水材においてゼオライトを採用することで可使時間延長効果を奏することに想到するのは、当業者でも容易にできたものではありません」
しかし、上記(ア)は、刊行物2の実施例に基づく主張であるが、刊行物2に記載のa)ポリイソシアネート成分は、実施例で使用された末端にアミノ基を有する脂肪族第1級アミンに加水分解され得る構造を有するものに限定されず、上記(1)で述べたとおり、2,4-及び/又は2,6-トルイレンジイソシアネートとポリエーテルポリオールから調製されるウレタン基を含有するNCOプレポリマーも包含し得るから、上記特定のポリイソシアネート成分であることを前提とした主張を採用することはできない。
また、上記(イ)における「イソシアネート基との反応性は、DETDA(芳香族第1級アミン)>ポリアスパラギン酸誘導体(第2級アミン)>水の順に低下」するとの主張や、「ゼオライトは本来塩基性であるので硬化反応が促進されて可使時間が短縮される傾向というのが常識」との主張が、根拠をもって示されているということができず、また、たとえ、当該主張が根拠のあるものであるとしても、上記(1)で相違点Aについて述べたとおり、引用発明において、可使時間を延長させるために、合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合することは当業者に容易に想到し得るものである、という当審の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
上記(ウ)についても、たとえ、刊行物2において、「ポットライフ延長のメカニズムが含有水分の除去にあると理解」されるものとしても、上記(1)で相違点Aについて述べたとおり、引用発明において、可使時間を延長させるために、合成ナトリウムアルミノ珪酸塩系吸着剤を配合することは当業者に容易に想到し得るものである、という当審の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
よって、上記(ア)?(ウ)の主張も採用することはできない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-10 
結審通知日 2009-06-30 
審決日 2009-07-13 
出願番号 特願平7-349536
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智寺坂 真貴子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 常温硬化型ポリウレタン塗膜材組成物  

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