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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
管理番号 1204244
審判番号 不服2007-6442  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-02 
確定日 2009-09-18 
事件の表示 平成 9年特許願第290694号「内燃機関の燃料供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月11日出願公開、特開平11-125161〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成9年10月23日の出願であって、平成18年11月7日付けで拒絶理由が通知され、平成18年12月22日に意見書が提出されたが、平成19年1月31日付けで拒絶査定がなされ、平成19年3月2日に同拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年3月30日付けで手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、その後、平成20年11月28日付けで当審において審尋がなされ、平成21年1月26日に回答書が提出され、平成21年3月27日付けで当審において上記平成19年3月30日付けの手続補正書によりなした明細書を補正する手続補正を却下する補正の却下の決定がなされ、平成21年4月14日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成21年6月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであり、その請求項1ないし3に係る発明は、上記平成21年6月18日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
燃料タンク内の燃料を低圧ポンプで汲み上げ、その燃料を、内燃機関のカム軸に嵌着されたカムの回転運動によって駆動される高圧ポンプにより高圧にして燃料噴射弁へ圧送するようにした内燃機関の燃料供給装置において、内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時に前記高圧ポンプの吸入口を開閉する燃圧制御弁を用い、始動時に前記燃圧制御弁を開弁状態に維持することで前記高圧ポンプの吐出圧が働かない状態に維持して前記低圧ポンプから送られてくる燃料を前記高圧ポンプの内部を素通りさせる始動時燃圧安定化手段を備えていることを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。」


2.引用文献
2-1.引用文献1記載の発明
(1)当審において平成21年4月14日付けで通知した拒絶理由に引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-250426公報(平成9年9月22日公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。)

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃料タンクから高圧ポンプへ供給するフィードポンプを有し、高圧ポンプで昇圧した燃料をリザーバに圧送する内機機関の燃料噴射制御装置において、
前記リザーバ内の燃料圧力が所定圧より小さいとき、前記フィードポンプにより供給された燃料を前記リザーバに直接送出する弁手段を設けたことを特徴とする内機機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】 前記弁手段は、前記高圧ポンプに設けられた吸入弁と吐出弁であり、該吸入弁と吐出弁は前記リザーバの燃料圧力が所定圧より小さいときに共に開弁されるようにその設定圧が設定された逆止弁であることを特徴とする請求項1に記載の内機機関の燃料噴射制御装置。」(【特許請求の範囲】)

イ.「【0011】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1?図3に基づいて説明する。図1に示すように、この実施形態の内燃機関は、高圧ポンプで昇圧してリザーバ内に蓄積した燃料を各気筒内に直接噴霧する筒内噴射タイプの燃料噴射装置を装備している。
【0012】図1に示すように、燃料タンク1から汲み上げた燃料を吐出ポートから圧送するフィードポンプ2はベーンポンプからなり、バッテリを電源として駆動される。フィードポンプ2の吐出ポートはプレッシャレギュレータ3に接続されており、プレッシャレギュレータ3から分岐して並列に延びる配管4,5上には高圧ポンプ6及び弁手段を構成する電磁開閉弁7がそれぞれ介装されている。プレッシャレギュレータ3はその排出側の燃料圧がその設定圧(フィードポンプ圧(以下、フィード圧という))を越えると、フィードポンプ2から圧送された燃料を燃料タンク1に還流することにより、高圧ポンプ6及び電磁開閉弁7に常に一定圧(フィード圧)の燃料を圧送する。なお、本実施形態においてフィード圧は0.3MPaに設定されている。
【0013】高圧ポンプ6はプランジャ型のポンプであって、内燃機関としてのエンジン8のカムシャフト(図示せず)に直結されてエンジン8と同期して回転駆動する。高圧ポンプ6の1回転毎に一往復動するプランジャによりそのポンプ室(図示せず)での燃料の吸入・吐出が行われ、吸入ポートから吸入した燃料をその吸入圧より高い燃料圧で吐出ポートから吐出する。
【0014】電磁開閉弁7はノーマルクローズの電磁弁であって、エンジン始動時にフィードポンプ2の駆動が開始されると同時に励磁されて開弁し、後述する所定時期になると消磁されて閉弁されるようになっている。高圧ポンプ6及び電磁開閉弁7は共に下流側がリザーバとしてのデリバリパイプ9に接続されている。デリバリパイプ9は1回の燃料噴射による圧力降下でその燃料圧が高圧ポンプ6の1回の吐出量で補えないほど低下してしまわないように十分な所定容積を有している。
【0015】デリバリパイプ9には弁手段を構成する圧力センサ10が装着されており、デリバリパイプ9内の燃料圧は圧力センサ10により検出されるようになっている。電磁開閉弁7は圧力センサ10からの検出信号に基づいてその閉弁タイミングが決められており、デリバリパイプ9内の燃料圧がフィード圧に達したとき閉弁されるようになっている。
【0016】デリバリパイプ9にはエンジン8の気筒数に応じた数の燃料噴射弁11が接続されており、燃料噴射弁11が所定の噴射タイミングで開閉制御されることにより、デリバリパイプ9内の高圧燃料が各気筒毎の噴射ノズル(図示せず)から各気筒内へ噴射されるようになっている。」(段落【0011】ないし【0016】)

ウ.「【0032】(第2の実施形態)次に、本発明を具体化した第2の実施形態を図4に従って説明する。この実施形態では、フィードポンプ2から圧送されたフィード圧の燃料をデリバリパイプ9へ直接圧送するための弁手段が高圧ポンプ6の内部に設けられていることが、前記第1の実施形態と大きく異なる。本実施形態では、前記第1の実施形態に設けられていた配管5及び電磁開閉弁7は設けられておらず、プレッシャレギュレータ3とデリバリパイプ9の間には高圧ポンプ6が直列に配置されているだけの構造となっており、それ以外の構造については前記第1の実施形態と同様である。よって、特に高圧ポンプ6の構造についてのみ詳しく説明する。
【0033】図4は高圧ポンプ6の内部構造を示す。同図に示すように、高圧ポンプ6のポンプハウジング21には、ポンプ室21aが区画形成されるとともに、このポンプ室21aに連通した円筒状のシリンダ21bが突設されている。プランジャ22はシリンダ21b内に嵌挿されており、プランジャ22のカム面(同図では下面)は、カムシャフト23に一体回転可能に設けられたカム24の外周面に当接されている。エンジン8の回転に同期してカム24が回転することにより、プランジャ22はシリンダ21b内を往復運動し、ポンプ室21aに吸入した燃料を圧縮して吐出する。
【0034】ポンプ室21aの吸入ポートには吸入弁としてのチェック弁25が設けられ、その吐出ポートには吐出弁としてのチェック弁26が設けられている。チェック弁25,26は共にその設定圧がフィード圧に等しく設定されており、デリバリ圧Pd がその設定圧(フィード圧)より小さいときには共に開弁するようになっている。
【0035】また、高圧ポンプ6にはポンプ室21aと連通するスピルポート27が形成されており、スピルポート27にはそのポートを開閉するための電磁弁であるスピル弁28が設けられている。スピル弁28は圧力センサ10(図1参照)からの圧力検出信号に基づき開閉制御され、デリバリ圧Pd がその設定圧を越えたときに開弁され、燃料噴射時のデリバリ圧Pd が常に一定となるように制御される。
【0036】エンジン始動に伴いフィードポンプ2の駆動が開始されると、プレッシャレギュレータ3からフィード圧の燃料が高圧ポンプ6に圧送される。このとき、デリバリパイプ9内の燃料圧(デリバリ圧)Pd がフィード圧より小さいうちは、図4(a)に示すようにチェック弁25,26が共に開弁し、フィードポンプ2から圧送された燃料はポンプ室21aを通ってそのままデリバリパイプ9へ圧送される。そのため、デリバリパイプ9内の燃料圧(デリバリ圧Pd )は直ちにフィード圧まで昇圧する。このとき、高圧ポンプ6内ではプランジャ22がエンジン回転に同期したゆっくりした速度でシリンダ21b内を往復運動し、その圧縮過程で加圧された分の燃料はデリバリ圧Pd の昇圧に寄与する。
【0037】そして、デリバリ圧Pd がフィード圧に達すると、各チェック弁25,26はその設定圧に応じて開閉し、両者が同時に開弁されることはなくなる。すなわち、プラッジャ23の吸入行程に吸入側のチェック弁25だけが開き、プラッジャ23の圧縮行程に吐出側のチェック弁26だけが開く。また、吐出側のチェック弁26が開弁されるのは、ポンプ室21a内の燃料圧がデリバリ圧Pd より高くなっているときだけので、デリバリパイプ9内の燃料がチェック弁26を介してポンプ室21a側に流れることはない。
【0038】こうしてデリバリ圧Pd が短時間でフィード圧に達した後、フィード圧からの昇圧のみを高圧ポンプ6が行うことになるので、デリバリパイプ9内の燃料圧(デリバリ圧)Pd は、短時間で必要な設定圧に達する。その結果、エンジン8の始動時間が短縮される。
【0039】各気筒内へ燃料が噴射されてデリバリ圧Pd が降下する度に、プランジャ23の次回の圧縮行程で吐出された燃料がチェック弁26を介してデリバリパイプ9へ圧送される。このとき、プランジャ23の圧縮行程において、デリバリ圧Pdがその設定圧を越えたことが圧力センサ10からの圧力検出信号により検知されると、スピル弁28が開弁され、ポンプ室21a内で圧縮された燃料がスピルポート27を介して溢流される。こうして毎回の燃料噴射サイクルにおいて、その燃料噴射開始時までにデリバリ圧Pd は常に一定の設定圧に保持される。
【0040】この第2の実施形態によれば、以下に列記した効果が得られる。
(a)高圧ポンプ6内にその燃料通路上にチェック弁25,26を設け、これらの設定圧を共にフィード圧に設定し、デリバリパイプ9内の燃料圧(デリバリ圧Pd )がフィード圧以下のときにはチェック弁25,26が共に開弁するようにした。そのため、エンジン始動時においてデリバリパイプ9内の燃料圧が低いときにはチェック弁25,26が共に開いてデリバリ圧Pd を直ちにフィード圧まで昇圧させることができ、その結果、エンジン8の始動時間を短縮することができる。そして、前記第1の実施形態の構成のように、新たな配管5を設ける必要がなく、余分な配設スペースを必要としない。さらに、通常の高圧ポンプに比較し、新たにチェック弁25を設けただけなので、本実施形態の燃料噴射制御装置を採用しても僅かな設計変更で済ませることができる。一層簡単な構成で済ませることができる。
【0041】(b)チェック弁25,26は、その上流側と下流側の圧力差に応じて機械的に開閉する構造なので、前記第1の実施形態で述べた電磁開閉弁7のようなECU12によるソフト的な開閉制御を必要としない。」(段落【0032】ないし【0041】)

エ.「【0042】尚、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で例えば次のように構成することもできる。
(1)第1の実施形態において、電磁開閉弁7をチェック弁に替えてもよい。この構成によれば、ソフト的な制御を不要にすることができる。
【0043】(2)弁手段が燃料を直接リザーバへ圧送させることを許容するリザーバ内の燃料圧は、フィードポンプ圧にほぼ等しい圧力値に限定されない。例えば電磁開閉弁7を閉弁させるデリバリ圧Pd をフィード圧より小さめに設定してもよい。また、チェック弁25,26の設定圧をフィード圧より小さく設定してもよい。弁手段が開弁される設定圧をフィード圧より小さくしても、リザーバ内の燃料圧がその設定圧に達するまでの時間は短縮されるので、エンジンの始動時間を少しでも短縮できる。
【0044】(3)高圧ポンプ6内にポンプ室21aを経由しない燃料通路(バイパス通路)を設け、この燃料通路を開閉するための電磁弁もしくはチェック弁を設けた構成としてもよい。この構成によれば、燃料をリザーバに直接圧送する燃料通路が高圧ポンプ内に収容されることから、新たな配設スペースがほとんど必要とせず、装置自体をコンパクトにすることができる。
【0045】(4)電磁弁は配管5などの燃料通路を開閉できればよく、高圧ポンプに繋がる配管通路と燃料通路との分岐点に設けた流路切換弁としてもよい。流路切換弁を採用しても簡単な構成で済ませることができる。
【0046】(5)前記各実施形態では、本発明を気筒内噴射方式のガソリンエンジンに適用したが、ディーゼルエンジンに本発明を適用してもよい。また、気筒内噴射方式以外のガソリンエンジンに使用しても勿論よい。フィードポンプと高圧ポンプの両方を備えた燃料噴射制御装置であれば、本発明を採用することにより、弁手段を用いた簡単な構成でエンジンの始動時間を短縮することができる。
【0047】前記実施の形態から把握され、特許請求の範囲に記載されていない発明を、その効果とともに以下に記載する。
(イ)請求項1に記載の発明において、前記弁手段は前記高圧ポンプと並列に設けられた燃料通路と、該燃料通路を開閉するための電磁弁と、前記リザーバ内の燃料圧力を検知するための圧力検出手段と、前記圧力検出手段からの検出信号に基づき前記リザーバ内の燃料圧力が所定圧未満のときには前記電磁弁を開弁し、前記リザーバ内の燃料圧力が所定圧以上のときには前記電磁弁を閉弁する制御手段とを備えている。
【0048】この構成によれば、リザーバ内の燃料圧力が実際に所定圧に達したときに精度良く電磁弁を閉弁させることができるので、例えば所定圧をフィードポンプ圧に設定した場合、リザーバ内の燃料圧力が実際に所定圧に達した時期より遅れて弁手段が閉弁したために起こるリザーバからの燃料の逆流の発生を確実に防止することができる。従って、リザーバ内の燃料昇圧を効率良く行うことができる。
【0049】
【発明の効果】以上詳述したように請求項1に記載の発明によれば、リザーバ内の燃料圧力が所定圧より小さいとき、フィードポンプにより供給された燃料を直接リザーバに送出する弁手段を設けたので、弁手段という比較的簡単な構成だけで、リザーバ内の燃料圧力がフィードポンプ圧に達するまでの所要時間を短縮し、ひいては内燃機関の始動時間を短縮することができる。
【0050】請求項2に記載の発明によれば、弁手段を高圧ポンプに設けられた逆止弁からなる吸入弁及び吐出弁とし、これらの設定圧をリザーバの燃料圧力が所定圧より小さいときに共に開弁されるように設定したため、高圧ポンプの内部構成だけで弁手段を構成でき、装置自体をコンパクトにできる。」(段落【0042】ないし【0050】)

(2)ここで、上記記載事項(1)ア.ないしエ.及び図面から、次のことが分かる。

オ.上記記載事項(1)ア.ないしウ.及び図面から、引用文献1には、燃料タンク1内の燃料をフィードポンプ2で汲み上げ、その燃料を、エンジン8のカムシャフト23に一体回転可能に設けられたカム24の回転運動によって駆動される高圧ポンプ6により高圧にして燃料噴射弁11へ圧送するようにした内燃機関の燃料噴射装置が記載されていることが分かる。

カ.上記記載事項(1)ア.ないしウ.及び図面から、引用文献1に記載された内燃機関の燃料噴射装置は、内燃機関の始動時に、高圧ポンプ6の吸入口を開閉するチェック弁25を用い、始動時に前記チェック弁25を開弁状態に維持することで前記フィードポンプ2から送られてくる燃料を前記高圧ポンプ6のポンプ室21aを通るようにすることにより、デリバリパイプ9内の燃料圧を昇圧する始動時燃料圧昇圧手段を備えていることが分かる。

キ.上記記載事項(1)ウ.及び図面から、引用文献1に記載された内燃機関の燃料噴射装置において、内燃機関の始動時に、前記フィードポンプ2から送られてくる燃料は前記高圧ポンプ6のポンプ室21aを通ってそのままデリバリパイプ9へ圧送されるが、高圧ポンプ6内ではプランジャ22がエンジンエンジン回転に同期したゆっくりした速度でシリンダ21b内を往復運動し、その圧縮過程で加圧された分の燃料はデリバリ圧Pdの昇圧に寄与することが分かる。

ク.上記記載事項(1)エ.(特に段落【0044】)及び図面から、引用文献1に記載された内燃機関の燃料噴射装置において、電磁開閉弁とチェック弁は、相互に置換可能であると考えられていることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記記載事項(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

「燃料タンク1内の燃料をフィードポンプ2で汲み上げ、その燃料を、エンジン8のカムシャフト23に一体回転可能に設けられたカム24の回転運動によって駆動される高圧ポンプ6により高圧にして燃料噴射弁11へ圧送するようにした内燃機関の燃料供給装置において、内燃機関の始動時に高圧ポンプ6の吸入口を開閉するチェック弁25を用い、始動時に前記チェック弁25を開弁状態に維持することで前記高圧ポンプ6の圧縮過程では燃料を加圧しつつ前記フィードポンプ2から送られてくる燃料を前記高圧ポンプ6のポンプ室21aを通るようにする始動時燃料圧昇圧手段を備えている内燃機関の燃料供給装置。」


2-2.引用文献2記載の発明
(1)当審において平成21年4月14日付けで通知した拒絶理由に引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-121281号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。(なお、下線は、当審で付した。)

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 高圧ポンプから供給された燃料を蓄圧配管に蓄圧し、この蓄圧配管を経由して、内燃機関の各気筒に設けられた燃料噴射弁から前記各気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、
前記高圧ポンプに燃料を供給する低圧ポンプと、
前記内燃機関の運転開始時刻を予告する運転開始予告手段と、
前記運転開始予告手段が予告する運転開始時刻前に前記低圧ポンプの駆動を開始し前記低圧ポンプの燃料吐出を制御する制御手段と、
前記蓄圧配管内の燃料圧力が前記低圧ポンプの吐出圧より低いとき前記低圧ポンプの吐出燃料を前記蓄圧配管に流入させる連通路とを備えたことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】 前記運転開始予告手段は、イグニッションスイッチであることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】 前記制御手段は、前記高圧ポンプの吐出圧力が所定圧以上になるように前記低圧ポンプから前記高圧ポンプへの吐出圧力を制御することを特徴とする請求項1または2記載の燃料噴射装置。
【請求項4】 前記所定圧は、前記内燃機関の運転に必要な圧力値であることを特徴とする請求項3記載の燃料噴射装置。
【請求項5】 前記所定圧は、前記低圧ポンプの最大吐出圧であることを特徴とする請求項3記載の燃料噴射装置。
【請求項6】 前記制御手段は、前記内燃機関の運転開始後、前記低圧ポンプの吐出圧を前記高圧ポンプの必要所定圧に減少させる制御を行うことを特徴とする請求項3記載の燃料噴射装置。
【請求項7】 前記制御手段は、前記低圧ポンプの吐出圧を前記高圧ポンプの必要所定圧以上に増加させる制御を所定期間以上持続し、所定期間経過後、前記高圧ポンプの前記必要所定圧に前記低圧ポンプの吐出圧を減少させる制御を行うことを特徴とする請求項3記載の燃料噴射装置。
【請求項8】 前記蓄圧配管には、前記蓄圧配管内の燃料圧力を検出する圧力検出手段が設けられ、前記蓄圧配管内の燃料圧力が所定圧力以上に達したとき、高圧ポンプの必要所定圧に前記低圧ポンプの吐出圧を減少させることを特徴とする請求項3記載の燃料噴射装置。
【請求項9】 前記連通路は、前記高圧ポンプ内に形成される流路と、前記高圧ポンプと前記蓄圧配管とを連通する配管と、前記配管中に設けられる逆止弁とからなることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項10】 前記連通路は、前記高圧ポンプを経由することなしに前記低圧ポンプと前記蓄圧配管とを連通するバイパス配管と、前記バイパス配管中に設けられる逆止弁とからなることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項11】 前記逆止弁の開弁圧は、前記低圧ポンプの吐出圧以下に設定されることを特徴とする請求項9または10記載の燃料噴射装置。」(【特許請求の範囲】)

イ.「【0018】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)本発明の第1実施例による燃料噴射装置を図1?図6に基づいて説明する。図1に示すように、エンジン1には例えば4気筒に対応した4個のインジェクタ2が配設されており、主にこのインジェクタ2、噴射制御用電磁弁3、コモンレール4、高圧供給ポンプ7、燃料タンク8、低圧供給ポンプ9、電子制御ユニット11とから燃料噴射装置が構成されている。
【0019】インジェクタ2の上流側に位置する噴射制御用電磁弁3(以下「電磁弁」という)は、後述する電子制御ユニット11(以下「ECU」という)からオンオフ制御されることにより図示しない弁を開閉しインジェクタ2への高圧燃料の供給を制御している。電磁弁3の数量は、インジェクタ2の数量に対応しており、例えば本第1実施例の場合、4個のインジェクタ2にそれぞれ対応する電磁弁3が4個配設されている。
【0020】コモンレール4は、電磁弁3の上流側に位置し、分岐通路を介して複数のインジェクタ2に供給される高圧燃料を蓄圧している。前述の電磁弁3が開弁している間、コモンレール4に蓄圧された高圧燃料が各インジェクタ2を経由し各気筒内に噴射される。またコモンレール4内には、コモンレール4内の燃料圧力を検出する圧力センサ14が設けられており、このセンサ14で検出した圧力検出信号はECU11に伝達される。
【0021】配管6aによりコモンレール4に接続されるとともに配管6bにより低圧供給ポンプ9に接続される高圧供給ポンプ7は、燃料タンク8から低圧供給ポンプ9を経て吸入した燃料を高圧に加圧した後、逆止弁5を経由してコモンレール4に高圧燃料を圧送する。コモンレール4への燃料圧送量は、高圧供給ポンプ7内の設けられている調量電磁弁10によって調整される。
【0022】図2に示すように、ECU11は、CPU11a、RAM11b、ROM11c、入出力部11d、双方向性バス11eから構成されている。入出力部11dには、イグニッションスイッチセンサ12、スタータセンサ13、圧力センサ14、カム角度センサ15等より各センサ信号が入力され、CPU11a、RAM11b、ROM11c等により演算される。この演算結果によって入出力部11dを介して電磁弁3、低圧供給ポンプ9、調量電磁弁10等が制御される。
【0023】例えば図示しないエンジン回転数センサや負荷センサによりエンジンの回転数、負荷状態を検知し、これらの検知信号により判断されるエンジンの運転状態に応じた最適燃料噴射時期および燃料噴射量をECU11が演算する。この演算結果によりECU11が電磁弁3を制御し、所定の燃料噴射時期に所定量の燃料をインジェクタ2から噴射する。またECU11は、コモンレール4の圧力センサ14から検出した圧力検出信号により、コモンレール4内の燃料圧力をあらかじめエンジンの回転数や負荷に応じて設定した最適値になるように高圧供給ポンプ7の吐出量を制御する。さらにECU11には、エンジン運転開始時刻を予告するイグニッションスイッチセンサ12からのイグニッションスイッチ信号と運転開始を判断するスタータセンサ13からのスタータ信号が入力され、後述する高圧供給ポンプ7の制御に用いられる。
【0024】高圧供給ポンプ7は、図示しないカムシャフトを備え、エンジン1の図示しないクランク軸の回転運動を図示しないベルトを介してこのカムシャフトが受けることにより、カムシャフトが回転駆動されている。カムシャフトとクランク軸との回転比は、1:1であり、カムシャフトには図示しない偏心円形状のカム面が形成されている。高圧供給ポンプ7のポンプハウジング30の下端側には、図示しないカム室が形成されており、このカム室には前述のカム面が形成されているカムシャフトが挿入されている。
【0025】図3に示すように、ポンプハウジング30内にはシリンダ31が取付けられ、このシリンダ31内には往復動可能なプランジャ32が摺動自在に収容されている。このプランジャ32の端面とシリンダ31の内壁とによりポンプ室33が区画形成されている。このシリンダ31の吸入側には低圧通路36が形成され、低圧通路36とポンプ室33とは調量電磁弁10を介して連通している。また、シリンダ31の吐出側には、逆止弁5が設けられている。
【0026】調量電磁弁10は、ソレノイド37、弁体38、シート部39、図示しないアーマチャ、スプリングとから構成されている。ソレノイド37に通電することにより、発生する電磁力によりアーマチャが図3中、上方に吸引され移動する。このアーマチャの移動にともないアーマチャの端部に形成される弁体38が閉弁方向に移動し、弁体38がシート部39に着座し閉弁する。一方、ソレノイド37が非通電時、スプリングがアーマチャを図3中、下方に付勢するため弁体38が開弁方向に移動し開弁する。
【0027】逆止弁5は、弁体34とこの弁体34を閉弁方向に付勢する復帰用スプリング35とからなる。図3(a) に示すように、カムシャフトの回転によりプランジャ32が降下するとき、電磁弁10がECU11に制御され非通電状態になる。これにより、電磁弁10が開弁し低圧通路36とポンプ室33とが連通するため、低圧供給ポンプ9から供給される低圧燃料がポンプ室33に吸入される。この吸入行程によりポンプ室33に低圧燃料が充填される。
【0028】図3(b) に示すように、カムシャフトの回転によりプランジャ32が上昇するとき、所定の時期に電磁弁10がECU11に制御され非通電状態から通電状態になる。これにより、電磁弁10が閉弁し低圧通路36とポンプ室33とが遮断されるため、ポンプ室33内の低圧燃料が加圧される。この加圧行程によりポンプ室33内の燃料が加圧される。
【0029】図3(c) に示すように、カムシャフトの回転によりプランジャ32がさらに上昇すると、ポンプ室33内に充満する燃料の圧力が増加する。この燃料圧の増加により、逆止弁5の開弁圧に燃料圧が達するとき復帰用スプリング35の付勢力に抗して弁体34を開弁方向に押し逆止弁5を開弁する。これにより、加圧された高圧燃料はコモンレール4に圧送され、圧送行程が終了する。
【0030】このように吸入行程、加圧行程、圧送行程を繰返すことで低圧供給ポンプ9から供給される低圧燃料を高圧供給ポンプ7により加圧し、コモンレール4に高圧燃料を供給している。またコモンレール4への燃料供給量は、ECU11により制御される電磁弁10への通電時間によって変化させることが可能である。つまり、ECU11がエンジン1の図示しないクランク軸に配設されたカム角度センサ15から得る情報により電磁弁10の通電状態を制御することにより、加圧開始時期が決定され、コモンレール4への燃料供給量を変化させている。」(段落【0018】ないし【0030】)

ウ.「【0031】低圧供給ポンプ9は、電気式燃料供給ポンプであり、燃料タンク8から吸上げた燃料を加圧し、前述の高圧供給ポンプ7に圧送している。低圧供給ポンプ9の燃料供給の開始および終了は、ECU11からの駆動信号により制御されることから、供給燃料流量、圧力がECU11により制御可能である。次に、第1実施例による燃料噴射装置の作動を図1?図6に基づいて説明する。
【0032】図6に示すフローチャート図は割込みルーチンを表しており、この割込みルーチンはECU11の電源投入後、所定時間毎の割込みによって実行される。まずステップ51においてエンジン停止判断を行う。このエンジン停止判断は、エンジン1の図示しないクランク軸に配設した図2に示すカム角度センサ15からのセンサ信号の入力を監視し、センサ信号の入力インターバルを算出することによりこの入力インターバルが所定時間に達するか否かにより行う。例えば入力インターバルが1sec 以上となる場合、エンジン1が運転されていないとみなしエンジン停止の判断をする。
【0033】ステップ51においてエンジン停止ではないと判断した場合、エンジン稼働中であることからステップ59に制御を移行する。ステップ59では、高圧供給ポンプ7に低圧燃料を供給するため、低圧供給ポンプ9の駆動電圧Vf としてVnor を低圧供給ポンプ9に印加する。このVnor は、低圧供給ポンプ9の加圧燃料が高圧供給ポンプ7内のポンプ室33内に充填されるのに必要な最低電圧に相当する。これにより、消費電力を低減し、次のステップ60で割込みルーチンを終了する。
【0034】ステップ51においてエンジン停止と判断した場合、次のステップ52にてコモンレール4内の燃料圧力Pc を圧力センサ14で検出し、この検出した燃料圧力Pc と所定圧力P1 との大小関係を比較する。この比較によって、低圧供給ポンプ9の燃料吐出圧が高圧供給ポンプ7内の逆止弁5の開弁圧であるか否かを判断する。ここで、所定圧力P1 は、低圧供給ポンプ9の最大吐出圧よりも幾分高い値に設定されている。
【0035】ステップ52において、燃料圧力Pc と所定圧力P1 とがPc ≦P1 ではないと判断した場合、低圧供給ポンプ9を駆動してもコモンレール4内に燃料が流入しないことからステップ58に制御を移行する。ステップ58では、低圧供給ポンプ9に印加する駆動電圧Vf を0、すなわち印加電圧を遮断し低圧供給ポンプ9の駆動を停止させる。
【0036】ステップ52において、Pc ≦P1 であると判断した場合、つまりコモンレール4内の燃料圧が充分に低いと判断したとき、次のステップ53にてイグニッションスイッチセンサ12からのイグニッションスイッチ信号がオンか否かを検出し、エンジン運転再開の意思を運転者が有するか否かを判断する。ステップ53においてイグニッションスイッチ信号がオンではないと判断した場合、エンジン1の運転が開始されないことから、ステップ58にて低圧供給ポンプ9の印加電圧を遮断し低圧供給ポンプ9の駆動を停止させる。
【0037】ステップ53においてイグニッションスイッチ信号がオンである判断した場合、エンジン運転再開の意思を運転者が有することから、エンジン1の運転が開始されることを予告しており、次のステップ54にて低圧供給ポンプ9の駆動電圧Vf を最大駆動電圧Vmax とする。これにより、コモンレール4内には低圧供給ポンプ9からの加圧燃料が圧送されることになる。ここで、最大駆動電圧Vmaxは、低圧供給ポンプ9の吐出圧を最大圧に制御する印加電圧である。
【0038】次にステップ55においてスタータセンサ13のスタータ信号を検出し、スタータが稼働しているか否かを判断する。ステップ55においてスタータ信号がオンであると判断した場合、前記ステップ54にて低圧供給ポンプ9の駆動電圧Vf を最大駆動電圧Vmax としたことから、バッテリ電圧の異常低下するおそれがあり、またエンジン1の運転により高圧供給ポンプ7からコモンレール4への燃料吐出が可能となるため、ステップ59に制御を移行する。ステップ59では、前述のように低圧供給ポンプ9の駆動電圧Vf をVnor に設定する。これにより、消費電力を低減し、次のステップ60で割込みルーチンを終了する。
【0039】ステップ55においてスタータ信号がオンではないと判断した場合、次のステップ56にて低圧供給ポンプ9の最大吐出圧継続カウンタC_(VM)を1カウントアップする。ステップ57では、ステップ56で1カウントアップされた最大吐出圧継続カウンタC_(VM)と低圧供給ポンプ9の所定の最大吐出圧継続時間例えば2sec に相当する定数C_(N )とを比較する。この所定の最大吐出圧継続時間は、コモンレール4内の燃料圧力が大気圧の状態において低圧供給ポンプ9を最大吐出圧駆動した場合、コモンレール4内の燃料圧力が低圧供給ポンプ9の最大吐出圧に達するまでの時間である。
【0040】ステップ57においてC_(VM)≧C_(N) であると判断した場合、コモンレール4内の燃料が充分に予圧縮されたと判断し、ステップ59に制御を移行する。ステップ59では、前述のように低圧供給ポンプ9の駆動電圧Vf をVnor に設定し、低圧供給ポンプ9の吐出圧を下げる。これにより、消費電力を低減し、次のステップ60で割込みルーチンを終了する。
【0041】ステップ57においてC_(VM)≧C_(N) ではないと判断した場合、コモンレール4内の燃料が充分に予圧縮されていないとみなし、最大吐出圧制御を継続した状態を維持し次のステップ60で割込みルーチンを終了する。図5に示すタイミングチャート図は、前述のフローチャート図に従って、低圧供給ポンプ9を制御した際、特にPc ≦P1 の状態(ステップ53)より制御を開始したときのコモンレール4内の燃料圧力の挙動を表している。ここで、図5に示す点線は、前述のフローチャート図の制御を行わない比較例の燃料噴射装置によるコモンレール内の燃料圧力の上昇特性を表したものである。」(段落【0031】ないし【0041】)

エ.「【0042】ECU11の電源を投入してからイグニッションスイッチがオンになるまでの間、低圧供給ポンプ9が駆動されないことから、コモンレール4内の燃料圧は一定圧(大気圧)になる。イグニッションスイッチが運転者によりオンにされると、イグニッションスイッチセンサ12からイグニッションスイッチ信号がECU11に伝達され、図6に示すステップ53においてイグニッションスイッチ信号がオンである判断する。このステップ53の判断により、図6に示すステップ54において低圧供給ポンプ9の吐出圧が最大吐出圧となるように低圧供給ポンプ9にVmax が印加される。すると、低圧供給ポンプ9から高圧供給ポンプ7に圧送される吐出燃料によりポンプ室33の燃料圧が上昇し、逆止弁5の開弁圧以上になった時点で図5に示すように逆止弁5が開弁する。この逆止弁5の開弁によりポンプ室33内の燃料がコモンレール4内に流入し、コモンレール4内の燃料圧が低圧供給ポンプ9の吐出圧まで徐々に昇圧する。所定時間経過後、低圧供給ポンプ9の駆動電圧はVnor に下がるが、高圧供給ポンプ7内の逆止弁5が閉弁されることにより、コモンレール4から高圧供給ポンプ7への燃料流出が阻止されるため、コモンレール4内の燃料圧は低下することなく保持される。
【0043】スタータスイッチが運転者によりオンにされると、スタータが稼働しエンジン1の運転により高圧供給ポンプ7が回転駆動される。この高圧供給ポンプ7内に収容される図示しないカムシャフトに形成されるカム面により決まるプランジャ32の往復動に同期し、高圧供給ポンプ7からコモンレール4内に高圧燃料が圧送される。このプランジャ32の往復動に同期した高圧燃料の圧送により、コモンレール4内の燃料圧はさらに昇圧し、エンジン1が要求する最低噴射圧にコモンレール4内の燃料圧が達した時点でエンジン1への燃料噴射が開始される。このように、図5に示す点線の比較例の場合と較べコモンレール4内の燃料圧の昇圧がエンジン始動前よりスムーズに行われることから、エンジン始動性を向上することができる。
【0044】第1実施例によると、ECU11がエンジン停止を判断した後、コモンレール4内の燃料圧力Pc と所定圧力P1 との大小関係がPc ≦P1 である場合、イグニッションスイッチがオンになることによりエンジン運転再開の意思を運転者が有するとECU11が判断する。すると、スタータスイッチがオンになるまで低圧供給ポンプ9を稼働させコモンレール4に加圧燃料を圧送することから、スタータスイッチのオンにより稼働する高圧供給ポンプ7によってコモンレール4に圧送する加圧燃料量を減少させることができる。これにより、エンジン1が要求する最低噴射圧にコモンレール4内の燃料圧が達する時間を短縮し、エンジン1の再始動性を向上させる効果がある。」(段落【0042】ないし【0044】)

(2)ここで、上記記載事項(1)ア.ないしエ.及び図面から、次のことが分かる。

オ.上記記載事項(1)ア.ないしウ.及び図面から、引用文献2には、燃料タンク8内の燃料を低圧供給ポンプ9で汲み上げ、その燃料を、内燃機関のカムシャフトに形成されたカム面の回転運動によって駆動される高圧供給ポンプ7により高圧にして燃料噴射弁3へ圧送するようにした内燃機関の燃料供給装置が記載されていることが分かる。

カ.上記記載事項(1)ア.ないしエ.及び図面から、引用文献2に記載された燃料供給装置において、イグニッションスイッチがオンにされると、低圧供給ポンプ9を駆動するとともに、高圧供給ポンプ7の吸入側の低圧通路36を開閉する調量電磁弁10を用い、始動時に前記調量電磁弁10を非通電状態とし開弁状態を維持することで前記高圧供給ポンプ7の吐出圧が働かない状態に維持して前記低圧供給ポンプ9から送られてくる燃料を前記高圧供給ポンプ7の内部を素通りさせる制御手段を備えていることが分かる。

(3)引用文献2記載の発明
上記記載事項(1)及び(2)から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用文献2記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

「燃料タンク8内の燃料を低圧供給ポンプ9で汲み上げ、その燃料を、内燃機関のカムシャフトに形成されたカムの回転運動によって駆動される高圧供給ポンプ7により高圧にして燃料噴射弁3へ圧送するようにした内燃機関の燃料供給装置において、内燃機関が回転を開始するまでの内燃機関の始動時に高圧供給ポンプの吸入口を開閉する調量電磁弁10を用い、始動時に前記調量電磁弁10を開弁状態に維持することで前記高圧供給ポンプ7の吐出圧が働かない状態に維持して前記低圧供給ポンプ9から送られてくる燃料を前記高圧供給ポンプ7の内部を素通りさせる制御手段を備えている内燃機関の燃料供給装置。」


3.本願発明と引用文献1又は引用文献2記載の発明との対比及び判断
3-1.本願発明と引用文献1記載の発明との対比及び判断
(A)本願発明と引用文献1記載の発明との対比
本願発明と引用文献1記載の発明を対比すると、引用文献1記載の発明における「燃料タンク1」は、その技術的意義からみて、本願発明における「燃料タンク」に相当する。以下同様に、引用文献1記載の発明における「フィードポンプ2」は本願発明における「低圧ポンプ」に、「エンジン8」は「内燃機関」に、「カムシャフト」は「カム軸」に、「一体回転可能に設けられ」は「嵌着され」に、「カム24」は「カム」に、「高圧ポンプ6」は「高圧ポンプ」に、「燃料噴射弁11」は「燃料噴射弁」に、「(高圧ポンプ6の)吸入側の低圧回路36」は「(高圧ポンプの)吸入口」に、「始動時燃料圧昇圧手段」は「始動時燃圧安定化手段」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明における「チェック弁25を用い、始動時に前記チェック弁25を開弁状態に維持する」は、「開閉弁を用い、始動時に前記開閉弁を開弁状態に維持する」である限りにおいて、本願発明における「燃圧制御弁を用い、始動時に前記燃圧制御弁を開弁状態に維持する」に相当する。
また、引用文献1記載の発明における「高圧ポンプ6のポンプ室21aを通るようにする」は、「高圧ポンプの内部を通るようにする」である限りにおいて、本願発明における「高圧ポンプの内部を素通りさせる」に相当する。

そうすると、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「燃料タンク内の燃料を低圧ポンプで汲み上げ、その燃料を、内燃機関のカム軸に嵌着されたカムの回転運動によって駆動される高圧ポンプにより高圧にして燃料噴射弁へ圧送するようにした内燃機関の燃料供給装置において、内燃機関の始動時に前記高圧ポンプの吸入口を開閉する開閉弁を用い、始動時に前記開閉弁を開弁状態に維持することで前記高圧ポンプの吐出圧が働かない状態に維持して前記低圧ポンプから送られてくる燃料を前記高圧ポンプの内部を通るようにする始動時燃圧安定化手段を備えている内燃機関の燃料供給装置。」
で一致し、次の[相違点1]ないし[相違点3]において相違している。
(1)[相違点1]
「内燃機関の始動時」を、本願発明においては、「内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時」と限定しているのに対し、引用文献1記載の発明は、そのように限定していない点。

(2)[相違点2]
「開閉弁を用い、始動時に前記開閉弁を開弁状態に維持する」を、本願発明においては、「燃圧制御弁を用い、始動時に前記燃圧制御弁を開弁状態に維持する」のに対し、引用文献1記載の発明においては、「チェック弁25を用い、始動時に前記チェック弁25を開弁状態に維持する」点。

(3)[相違点3]
「高圧ポンプの内部を通るようにする」について、本願発明においては、「前記高圧ポンプの吐出圧が働かない状態に維持して前記低圧ポンプから送られてくる燃料を前記高圧ポンプの内部を素通りさせる」のに対し、引用文献1記載の発明においては、「前記高圧ポンプ6の圧縮過程では燃料を加圧しつつ前記フィードポンプ2から送られてくる燃料を前記高圧ポンプ6のポンプ室21aを通るようにする」点。

(B)当審の判断
(1)まず、上記[相違点1]について検討する。
本願発明において、「所定回転速度」の値については、特に限定されていない。一方、引用文献1記載の発明においては、デリバリ圧Pdがフィード圧に達すると、チェック弁25の開弁の維持を終了するものであるが、このとき、内燃機関の回転速度は、ある所定値に達していることは明らかである。したがって、引用文献1記載の発明において、「内燃機関の始動時」を、「内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時」とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
(なお、仮に、本願発明の「所定回転速度」が、機関始動時の完爆時の回転速度を意味するとしても、本願発明は、「内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時」にずっと燃料制御弁を開弁状態に維持しているというわけではなく、本願明細書の段落【0015】ないし【0018】及び【図3】に記載されているように、内燃機関の始動時に燃圧が所定圧力になるまで燃料制御弁を開弁状態に維持するものも含むものであるから、同様に、内燃機関の始動時にデリバリパイプ9内の燃料圧(デリバリ圧Pd)がフィード圧に達するまでチェック弁25を開弁状態に維持している引用文献2に記載された発明と、格別相違しないものである。)

(2)次に、上記[相違点2]について検討する。
引用文献1の段落【0034】に「チェック弁25,26は共にその設定圧がフィード圧に等しく設定されており、デリバリ圧Pd がその設定圧(フィード圧)より小さいときには共に開弁するようになっている。」と記載されているように、デリバリ圧Pd を設定するものであるから、引用文献1記載の発明における「チェック弁25」は、機能からみると、一種の「燃圧制御弁」といえないこともない。
そうすると、上記[相違点2]は、実質的な相違点ではない。
また、仮に、本願発明における「燃圧制御弁」が、段落【0012】に記載された「電磁弁からなる燃圧制御弁22」を意味するとしても、引用文献1記載の発明において、「チェック弁」と「電磁弁」は、相互に置換可能とされている(前記2-1.(2)ク.を参照。)から、引用文献1記載の発明において、「チェック弁25」を「電磁弁」に置換することは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)最後に、上記[相違点3]について検討する。
本願発明においても、引用文献1記載の発明においても、高圧ポンプは、内燃機関のカム軸に嵌着されたカムによって駆動されているものであるから、内燃機関の始動時には、内燃機関の回転につれて、高圧ポンプのピストン(プランジャ)がゆっくりと往復動していることは明らかである。したがって、本願発明においても、引用文献1記載の発明においても、高圧ポンプの圧縮過程においては、燃料がゆっくりと加圧されている。このように高圧ポンプのピストン(プランジャ)がゆっくりと往復動して燃料がゆっくりと加圧されている状態を、本願発明においては、「高圧ポンプ14のピストン19が往復動しても、燃料は加圧されない」(段落【0021】)と認識しているのに対し、引用文献1記載の発明においては、「このとき、高圧ポンプ6内ではプランジャ22がエンジン回転に同期したゆっくりした速度でシリンダ21b内を往復運動し、その圧縮過程で加圧された分の燃料はデリバリ圧Pd の昇圧に寄与する」(段落【0036】)と認識しているだけの違いであり、要するに、小さな加圧分を、無視するかどうかの違いにすぎない。
したがって、上記[相違点3]もまた、実質的な相違点ではない。

(4)また、本願発明を全体として検討しても、引用文献1記載の発明から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

以上から、本願発明は、引用文献1記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


3-2.本願発明と引用文献2記載の発明との対比及び判断
(A)本願発明と引用文献2記載の発明との対比
本願発明と引用文献2記載の発明を対比すると、引用文献2記載の発明における「燃料タンク8」は、技術的意義からみて、本願発明における「燃料タンク」に相当する。以下同様に、引用文献2記載の発明における「低圧供給ポンプ9」は、本願発明における「低圧ポンプ」に、「内燃機関」は「内燃機関」に、「カムシャフト」は「カム軸」に、「形成されたカム」は「嵌着されたカム」に、「高圧供給ポンプ7」は「高圧ポンプ」に、「燃料噴射弁3」は「燃料噴射弁」に、「調量電磁弁10」は「燃圧制御弁」に、「制御手段」は「始動時燃圧安定化手段」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載の発明における「内燃機関が回転を開始するまでの内燃機関の始動時」は、「内燃機関の回転速度がある回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時」である限りにおいて、本願発明における「内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時」に相当する。

そうすると、本願発明と引用文献2記載の発明とは、
「燃料タンク内の燃料を低圧ポンプで汲み上げ、その燃料を、内燃機関のカム軸に嵌着されたカムの回転運動によって駆動される高圧ポンプにより高圧にして燃料噴射弁へ圧送するようにした内燃機関の燃料供給装置において、内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時に前記高圧ポンプの吸入口を開閉する燃圧制御弁を用い、始動時に前記燃圧制御弁を開弁状態に維持することで前記高圧ポンプの吐出圧が働かない状態に維持して前記低圧ポンプから送られてくる燃料を前記高圧ポンプの内部を素通りさせる始動時燃圧安定化手段を備えている内燃機関の燃料供給装置。」

で一致し、次の[相違点]において相違している。

[相違点]
本願発明においては、「内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時」に燃圧制御弁を開弁状態に維持するのに対し、引用文献2記載の発明においては、「内燃機関が回転を開始するまでの内燃機関の始動時」に燃圧制御弁に相当する調量電磁弁を開弁状態に維持する点。

(B)当審の判断
本願発明の「所定回転速度」がどの程度の回転速度であるのかについては、本願の発明の詳細な説明にも記載されていない。したがって、該「所定回転速度」は、内燃機関の始動時にスタータによりエンジンが回転し始めるときの回転速度とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
(なお、仮に、本願発明の「所定回転速度」が、機関始動時の完爆時の回転速度を意味するとしても、本願発明は、「内燃機関の回転速度が所定回転速度以上となるまでの内燃機関の始動時」にずっと燃料制御弁を開弁状態に維持しているというわけではなく、内燃機関の始動時に燃圧が所定圧力になるまで燃料制御弁を開弁状態に維持するものも含むものであるから、同様に、内燃機関の始動時にコモンレールの燃料圧力が所定圧力になるまで、本願発明における燃料制御弁に相当する調量電磁弁を開弁状態に維持している、引用文献2に記載された発明と、格別相違しないものである。)

また、本願発明を全体として検討しても、引用文献2記載の発明から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

以上から、本願発明は、引用文献2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-17 
結審通知日 2009-07-22 
審決日 2009-08-04 
出願番号 特願平9-290694
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 金澤 俊郎
森藤 淳志
発明の名称 内燃機関の燃料供給装置  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  

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