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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01J |
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管理番号 | 1204451 |
審判番号 | 不服2007-17327 |
総通号数 | 119 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-06-21 |
確定日 | 2009-09-24 |
事件の表示 | 特願2002-310767「プラズマディスプレイパネルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月20日出願公開、特開2004-146231〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成14年10月25日の出願であって、平成19年5月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年6月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年7月20日付けで手続補正がなされたものである。 そして、当審において、平成21年4月23日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成21年6月24日付けで手続補正がなされたものである。 第2 当審拒絶理由 当審拒絶理由の概要は、 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1 ・引用文献等 1-3 引用文献等一覧 1.特開2002-304946号公報 2.特開平3-230447号公報 3.特開2000-299065号公報 というものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年6月24日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 放電空間の一部が、Zn_(2)SiO_(4):Mn材料を有する蛍光体層を備えるプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、封着工程の後、250℃以上かつ封着部材が再軟化してしまう温度以下の温度状態とした上で、放電空間を還元ガスで置換することで酸素が過剰な状態となった緑色蛍光体材料を還元し、その後、放電空間を排気し、引き続いて放電ガスを封入するプラズマディスプレイパネルの製造方法。」 2 引用文献に記載された発明 当審拒絶理由に引用され、本願の出願前である平成14年10月18日に頒布された刊行物である特開2002-304946号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。 <記載事項1> 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、プラズマディスプレイパネル(以下「PDP」とも呼ぶ)の製造方法に関し、特に、酸化した蛍光体を還元して蛍光体の色純度を向上させる技術に関する。」 <記載事項2> 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】一般的に、青色発光用蛍光体(例えばBaMgAl_(10)O_(17):Euが多用されている)は蛍光体の焼成工程や封着工程のように大気中、即ち酸化雰囲気中での加熱処理時に酸化劣化しやすい。このため、従来のPDPは蛍光体の劣化による色純度の低下という問題点を有している。 【0008】本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、酸化した蛍光体を還元して蛍光体の色純度を向上しうるPDPの製造方法を提供することを第1の目的とする。」 <記載事項3> 「【0017】 【発明の実施の形態】<実施の形態1>実施の形態1に係るプラズマディスプレイパネル(PDP)の製造方法を説明する前に、まず、当該製造方法が適用されるPDP100の一例を図1の模式的な断面図を参照しつつ説明する。なお、説明のため、図1では後述の排気穴140及び排気管(チップ管とも呼ばれる)141を併せて図示している。図1に示すようにPDP100は対面配置された前面基板110と背面基板120とに大別される。」 <記載事項4> 「【0019】他方、背面基板120はガラス基板121、書き込み電極122、障壁(隔壁又はバリアリブとも呼ぶ)125及び蛍光体(層)126を備えている。詳細には、ガラス基板121上にストライプ状の書き込み電極122が形成されている。隣接する書き込み電極122を区画するようにストライプ状の障壁125が形成されている。各障壁125の高さは例えば100?200μmであり、例えば300?500μmのピッチで配列されている。 【0020】そして、障壁125とガラス基板121とで形成される略U字型の溝の内面上に蛍光体(層)126が形成されている。このとき、上述溝単位で、例えば(Y,Gd)BO_(3):Eu等の赤色発光用の蛍光体(層)126R、例えばZn_(2)SiO_(4):Mn等の緑色発光用の蛍光体(層)126G又は例えばBaMgAl_(10)O_(17):Eu等の青色発光用の蛍光体(層)126Bのいずれかが形成されている。」 <記載事項5> 「【0022】前面基板110と背面基板120とは、障壁125と保護膜114とを接触させて且つ表示電極112と書き込み電極122とが(立体)交差するように対面配置されており、周縁部においてフリットガラス130で封着されている。前面基板110と背面基板120との間の放電空間には放電ガス、例えばNe-Xeの混合ガスが封入されている。なお、完成品としてのPDP100では排気管140が封止されておりPDPの気密が保たれる。」 <記載事項6> 「【0024】PDP100は以下のように製造される。まず、一般的な製造方法により前面基板110及び背面基板120を準備する。そして、前面基板110と背面基板120とを(換言すれば2枚のガラス基板111,121を)対面配置し(アライメント工程)、フリットガラス130で互いに封着する(封着工程)。これにより、パネル状の容器101を形成する。次に、ガラス基板121の排気穴140及び排気管141を介して容器101内を真空排気しながら、容器101(換言すれば封着後の状態のPDP100)を加熱する(排気工程)。かかる排気工程によって容器101の内部を清浄化する。なお、排気管141は排気工程までに排気穴140に接続する。その後、容器101内へ放電ガスを封入し、排気管141を封止する。」 <記載事項7> 「【0026】さて、発明者は、実験の末、蛍光体126の焼成工程等の大気中で行われる加熱処理時に酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bを真空中で加熱すると還元され、その色純度が向上(回復)することを見出した。しかも、真空中での加熱時間が長いほど向上効果が高いことを確認した。そこで、実施の形態1に係るPDPの製造方法では上述の実験結果に基づいて、蛍光体126を真空中で加熱する処理にあたる排気工程において蛍光体の色純度の向上(回復)を図る。なお、実施の形態1に係る製造方法は上述の図2の製造装置(排気加熱装置)150を用いて実施可能である。」 <記載事項8> 「【0028】図3に示すように、排気工程ST1では、容器101内を真空排気しつつ当該容器101を加熱し、所定温度(清浄化保持温度)Tv1に到達したならば、所定の時間、容器101を当該保持温度Tv1に保持する(清浄化温度保持ステップST11)。このとき、容器101内を清浄化するためには保持温度Tv1はより高温の方が望ましいが、フリットガラス130(図1参照)の耐熱性に鑑みて保持温度Tv1の上限値が設定される。例えば、保持温度Tv1を350℃?400℃程度に設定する。」 <記載事項9> 「【0032】これに対して、図3に示すように実施の形態1に係る清浄化温度保持ステップST11では容器101内の圧力が収束値に大略到達した後に更に引き続いて容器101内を真空排気しつつ容器101を清浄化保持温度Tv1で加熱・保持する。つまり、容器101内の圧力を上記収束値に保った状態で、即ち従来の清浄化温度保持ステップよりも低い圧力で(より高い真空度で)容器101を清浄化保持温度Tv1で加熱・保持する。これにより、酸化された青色発光用蛍光体126Bを還元することができる。従って、従来の清浄化温度保持ステップと比較して、青色の色純度を向上させることができ、その結果、表示品質の高いPDP100を製造することができる。」 ア 記載事項1、記載事項2の記載のとおり、引用文献1には、「蛍光体の焼成工程や封着工程のように大気中での加熱処理時に酸化劣化した蛍光体を還元するプラズマディスプレイパネルの製造方法」に関する発明が記載されている。 イ 記載事項3の「実施の形態1に係るプラズマディスプレイパネル(PDP)の製造方法を説明する前に、まず、当該製造方法が適用されるPDP100の一例を図1の模式的な断面図を参照しつつ説明する。(中略)図1に示すようにPDP100は対面配置された前面基板110と背面基板120とに大別される。」との記載、並びに、記載事項4の「他方、背面基板120はガラス基板121、書き込み電極122、障壁(隔壁又はバリアリブとも呼ぶ)125及び蛍光体(層)126を備えている。」との記載、及び、「そして、障壁125とガラス基板121とで形成される略U字型の溝の内面上に蛍光体(層)126が形成されている。このとき、上述溝単位で、例えば(Y,Gd)BO_(3):Eu等の赤色発光用の蛍光体(層)126R、例えばZn_(2)SiO_(4):Mn等の緑色発光用の蛍光体(層)126G又は例えばBaMgAl_(10)O_(17):Eu等の青色発光用の蛍光体(層)126Bのいずれかが形成されている。」との記載から、引用文献1には、上記アの製造方法が適用されるプラズマディスプレイパネルとして、「前面基板110と背面基板120とを備え、背面基板120はガラス基板121及び障壁125を備え、さらに障壁125とガラス基板121とで形成される溝の内面上に蛍光体(層)126が形成され、蛍光体(層)は、溝単位で、(Y,Gd)BO_(3):Euの赤色発光用の蛍光体(層)126R、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色発光用の蛍光体(層)126G又はBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色発光用の蛍光体(層)126Bのいずれかが形成されているプラズマディスプレイパネル」が記載されている。 ウ 記載事項5の「前面基板110と背面基板120との間の放電空間には放電ガス、例えばNe-Xeの混合ガスが封入されている。」との記載のとおり、上記イのプラズマディスプレイパネルは、「前面基板110と背面基板120との間に放電空間を有するプラズマディスプレイパネル」である。 エ 記載事項6の記載のとおり、引用文献1には、「前面基板110と背面基板120とをフリットガラス130で互いに封着して容器101を形成する封着工程の後、容器101内を真空排気しながら、容器101を加熱して容器101の内部を清浄化する排気工程を行い、その後、容器101内へ放電ガスを封入するプラズマディスプレイパネルの製造方法」が記載されている。 オ 記載事項7の「さて、発明者は、実験の末、蛍光体126の焼成工程等の大気中で行われる加熱処理時に酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bを真空中で加熱すると還元され、その色純度が向上(回復)することを見出した。(中略)そこで、実施の形態1に係るPDPの製造方法では上述の実験結果に基づいて、蛍光体126を真空中で加熱する処理にあたる排気工程において蛍光体の色純度の向上(回復)を図る。」との記載のとおり、引用文献1には、「焼成工程等の大気中で行われる加熱処理時に酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bを、排気工程において真空中で加熱することにより還元する」ことが記載されている。 カ 記載事項8及び記載事項9の記載から、引用文献1には、「酸化された青色発光用蛍光体126Bの還元を、排気工程で容器101内を真空排気しつつ容器101を清浄化保持温度Tv1で加熱・保持することにより行い、保持温度Tv1の上限値がフリットガラス130の耐熱性に鑑みて設定され、保持温度Tv1を350℃?400℃程度に設定する」ことが記載されている。 キ 上記オ及びカをまとめると、引用文献1には排気工程について、「容器101内を真空排気しつつ、容器101をフリットガラス130の耐熱性に鑑みて上限値が設定された350℃?400℃程度の清浄化保持温度Tv1で加熱・保持して、焼成工程等の大気中で行われる加熱処理時に酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bを、真空中で加熱することにより還元する排気工程」が記載されているといえる。 したがって、記載事項1?記載事項9の記載に基づけば、引用文献1には次の発明が記載されている。 「前面基板110と背面基板120との間に放電空間を有し、背面基板120はガラス基板121及び障壁125を備え、さらに障壁125とガラス基板121とで形成される溝の内面上に蛍光体(層)126が形成され、蛍光体(層)は、溝単位で、(Y,Gd)BO_(3):Euの赤色発光用の蛍光体(層)126R、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色発光用の蛍光体(層)126G又はBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色発光用の蛍光体(層)126Bのいずれかが形成されているプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前面基板110と背面基板120とをフリットガラス130で互いに封着して容器101を形成する封着工程の後、容器101内を真空排気しつつ、容器101をフリットガラス130の耐熱性に鑑みて上限値が設定された350℃?400℃程度の清浄化保持温度Tv1で加熱・保持して、蛍光体の焼成工程や封着工程のように大気中での加熱処理時に酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bを、真空中で加熱することにより還元する排気工程を行い、その後、容器101内へ放電ガスを封入するプラズマディスプレイパネルの製造方法。」(以下、「引用発明1」という。) 当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-230447号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。 <記載事項10> 「〔概 要〕 プラズマディスプレイパネル(PDP)の製造方法に関し、 表示動作の安定化に要する時間を短縮し、生産性の向上を図ることを目的とし、 少なくとも片側の基板に電極、誘電体層、及び保護用酸化膜を順次形成した一対の基板を間隙を設けて対向配置し、両基板の周囲を封止して放電空間を形成したプラズマディスプレイパネルの製造方法において、前記放電空間に対して還元ガスの充填及び排出を行う工程を含むことを特徴として構成される。」(第1頁左下欄第18行?同右下欄第10行参照。) <記載事項11> 「〔課題を解決するための手段] 本発明に関係する製造方法は、上述の課題を解決するため、第1図?第3図に示すように、電極13,14、誘電体層15,16、及び保護用酸化膜21,22を順次形成した一対の基板11,12を間隙を設けて対向配置し、両基板11,12の周囲を封止して放電空間19を形成したプラズマディスプレイパネルの放電空間19に対して還元ガスの充填及び排出を行う工程を含ませたことを特徴とする。 (作 用) 放電空間19に対して還元ガスが充填される。 還元ガスは、保護用酸化膜21,22の表層部に存在する過剰の酸素を放電空間19に析出させ、保護用酸化膜21,22を還元する。 これにより、放電特性に影響を与える保護用酸化膜21,22の酸化状態が安定なものとなる。 析出された酸素は、還元ガスとともに外部へ排出される。」(第2頁右上欄第12行?同左下欄第11行参照。) <記載事項12> 「 常温で、PDP1aに対する排気を開始し、放電空間19が10_(-4)[Torr]程度の真空状態になった時点t0で、排気を行いつつベーキング炉31による加熱を始め、PDP1aを昇温する。 加熱により、放電空間19の残留ガスの運動が活発になる。したがって、残留ガスが真空ポンプ32によって吸引され易くなり、ベーキング炉31内の温度が360[℃]に達した時点t1で、放電空間19は10_(-5)[Torr]程度の真空状態になる。 その後、360[℃]の温度を時点t1?t3までの約4時間の期間Tにおいて一定に保ち、ベーキングを継続する。 本実施例では、ベーキング中の期間Tにおいて、放電空間19への浄化用ガス(窒素ガス又は水素ガス)の充填と排気とを30分毎に交互に行う。 すなわち、時点t1で弁装置33を切り換え、まず、放電空間19の圧力が500?600[Torr]になるように窒素ガス(N_(2))を充填する。 これにより、熱エネルギーを得て放電空間19を活発に運動するN_(2)(分子)が、保護膜21,22の表面などに吸着している残留ガス(分子)に衝突し、両分子間で運動エネルギーの交換が起こり、残留ガスが弾き飛ばされるように吸着状態から解放されて放電空間19で活発に運動する。 1回目のN_(2)の充填から30分が経過した時点で、弁装置33を切り換え、-旦、真空ポンプ32によって放電空間19の内部気体の吸引を行う。吸着状態から解放された残留ガスは、N_(2)とともに排気される。 30分の排気の後に、2回目のN_(2)の充填を行って再び排気する。3回目のN_(2)の充填及び排気が終了した時点t2で弁装置33を切り換える。 そして、続いて水素ガス(H_(2))を放電空間19に充填する。 H_(2)は、保護膜21,22の表層部に存在する過剰の酸素を放電空間19に析出させ、保護膜21,22を還元する。 これにより、従来において実施されていたエージングの効果と同様に、放電特性に影響を与える保護膜21,22の酸化状態が安定なものとなる。 H_(2)の充填から30分が経過した時点で、弁装置33を切り換え、真空ポンプ32によって放電空間19の内部気体の吸引を行う。これにより、析出された酸素がH_(2)とともに外部へ排出される。 期間Tが終了すると、排気を続けながら、ベーキング炉31による保温を停止し、PDP1aを自然冷却する。 その後においては、放電空間19に、放電ガスボンベ36から放電ガスを500?600[Torr]の圧力になるように封入し、PDP1を完成させる。」(第3頁左上欄第13行?同右下欄第4行参照。) ク 記載事項10、記載事項11の記載のとおり、引用文献2には、「少なくとも片側の基板に保護用酸化膜を形成した一対の基板を間隙を設けて対向配置し、両基板の周囲を封止して放電空間を形成したプラズマディスプレイパネルの放電空間19に対して還元ガスの充填及び排出を行う工程を含ませて、保護用酸化膜21,22を還元するプラズマディスプレイパネルの製造方法」が記載されている。 ケ 記載事項12には、上記クの製造方法の具体例が記載されている。記載事項12の「ベーキング炉31内の温度が360[℃]に達した時点t1で、放電空間19は10_(-5)[Torr]程度の真空状態になる。その後、360[℃]の温度を時点t1?t3までの約4時間の期間Tにおいて一定に保ち、ベーキングを継続する。」との記載、「本実施例では、ベーキング中の期間Tにおいて、放電空間19への浄化用ガス(窒素ガス又は水素ガス)の充填と排気とを30分毎に交互に行う。」との記載、「そして、続いて水素ガス(H_(2))を放電空間19に充填する。H_(2)は、保護膜21,22の表層部に存在する過剰の酸素を放電空間19に析出させ、保護膜21,22を還元する。」との記載、「H_(2)の充填から30分が経過した時点で、弁装置33を切り換え、真空ポンプ32によって放電空間19の内部気体の吸引を行う。これにより、析出された酸素がH_(2)とともに外部へ排出される。」との記載、及び、「その後においては、放電空間19に、放電ガスボンベ36から放電ガスを500?600[Torr]の圧力になるように封入し、PDP1を完成させる。」との記載のとおり、引用文献2には、「還元ガスである水素の充填と排気はベーキング炉内の360[℃]の温度を一定に保って行い、水素の排気後に放電ガスを封入する」ことが記載されている。 コ 上記ク及びケをまとめると、引用文献2には、「少なくとも片側の基板に保護用酸化膜を形成した一対の基板を間隙を設けて対向配置し、両基板の周囲を封止して放電空間を形成したプラズマディスプレイパネルの放電空間19に対して、ベーキング炉内の360[℃]の温度を一定に保って還元ガスである水素の充填及び排気を行う工程により保護用酸化膜21,22を還元し、水素の排気後に放電ガスを封入するプラズマディスプレイパネルの製造方法。」が記載されているといえる(以下、「引用発明2」という。)。 当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-299065号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。 <記載事項13> 「【0002】 【従来の技術】以下では、従来のプラズマディスプレイパネルについて図面を参照しながら説明する。図13は交流型(AC型)のプラズマディスプレイパネルの概略を示す断面図である。」 <記載事項14> 「【0004】また、45は背面ガラス基板であり、この背面ガラス基板45上には、アドレス電極46および隔壁47、蛍光体層(50?52)が設けられており、49が放電ガスを封入する放電空間となっている。」 <記載事項15> 「【0006】蛍光体層50?52を構成する蛍光体としては、一般的に以下の材料が用いられている。 「青色蛍光体」:BaMgAl_(10)O_(17):Eu 「緑色蛍光体」:Zn_(2)SiO_(4):MnまたはBaAl_(12)O_(19):Mn 「赤色蛍光体」:Y_(2)O_(3):Euまたは(Y_(x)Gd_(1-x))BO_(3):Eu 各色蛍光体は以下のようにして作製できる。」 <記載事項16> 「【0017】 【発明が解決しようとする課題】従来プラズマディスプレイパネルの製造方法においては、前記のように基板加熱を要する工程がいくつか存在する。 【0018】しかし、これらの加熱工程において、使用している蛍光体が熱劣化するという問題があり、特に封着工程において、青色蛍光体の劣化が大きった。これは青色蛍光体として使用しているBaMgAl_(10)O_(17):Eu中の付活剤であるEu_(2+)イオンが封着工程で酸化してEu_(3+)イオンになり、発光強度低下ならびに発光色度の劣化を起こす原因となっていると考えられている。」 サ 記載事項13?記載事項15の記載によれば、引用文献3には従来例として、青色蛍光体としてBaMgAl_(10)O_(17):Eu、緑色蛍光体としてZn_(2)SiO_(4):MnまたはBaAl_(12)O_(19):Mnを用いた蛍光体層が設けられたプラズマディスプレイパネルが記載されている。 シ 記載事項16の記載のとおり、引用文献3には、従来のプラズマディスプレイパネルの製造方法においては、封着工程のような加熱工程において蛍光体が熱劣化するという問題点が記載され、特にBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色蛍光体の酸化による熱劣化が大きいことが記載されているが、この記載は、緑色蛍光体についても、青色蛍光体に比べて程度は小さいものの、酸化による熱劣化の問題があることを示唆するものといえる。 ス 上記サ及びシをまとめると、引用文献3には、「青色蛍光体としてBaMgAl_(10)O_(17):Eu、緑色蛍光体としてZn_(2)SiO_(4):MnまたはBaAl_(12)O_(19):Mnを用いた蛍光体層が設けられたプラズマディスプレイパネルの製造方法において、封着工程のような加熱工程において、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色蛍光体を含む蛍光体が酸化により熱劣化し、特にBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色蛍光体の酸化による熱劣化が大きい」ことが示唆されているといえる。 3 対比 本願発明と引用発明1とを比較する。 ア 引用発明1の障壁125とガラス基板121とで形成される溝の内面上に形成される、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色発光用の蛍光体(層)126Gを含む蛍光体(層)126は、前面基板110と背面基板120との間の放電空間に形成されることは、引用発明1の図1の記載や本願出願時の技術常識からみて明らかである。したがって、引用発明1の「前面基板110と背面基板120との間に放電空間を有し、背面基板120はガラス基板121及び障壁125を備え、さらに障壁125とガラス基板121とで形成される溝の内面上に蛍光体(層)126が形成され、蛍光体(層)は、溝単位で、(Y,Gd)BO_(3):Euの赤色発光用の蛍光体(層)126R、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色発光用の蛍光体(層)126G又はBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色発光用の蛍光体(層)126Bのいずれかが形成されているプラズマディスプレイパネルの製造方法」は、本願発明の「放電空間の一部が、Zn_(2)SiO_(4):Mn材料を有する蛍光体層を備えるプラズマディスプレイパネルの製造方法」に相当することは明らかである。 イ 引用発明1の「前面基板110と背面基板120とをフリットガラス130で互いに封着して容器101を形成する封着工程の後」は、本願発明の「封着工程の後」に相当し、同様に、「フリットガラス130」は「封着部材」に相当する。 ウ プラズマディスプレイパネルの製造方法において容器を加熱する工程においては、通常、容器の温度と放電空間の温度とは平衡状態にあり一致すると考えて差し支えない。よって、引用発明1の容器101を「清浄化保持温度Tv1で加熱・保持して」は、放電空間を清浄化保持温度Tv1の温度状態にすることに他ならない。また、引用発明1の「フリットガラス130の耐熱性に鑑みて清浄化保持温度Tv1の上限値が設定」されることと、本願発明の「封着部材が再軟化してしまう温度以下」とすることとは、封着部材の耐熱性で決まる温度以下とする点で共通するといえる。 よって、引用発明1の「容器101をフリットガラス130の耐熱性に鑑みて上限値が設定された350℃?400℃程度の清浄化保持温度Tv1で加熱・保持して」と、本願発明の「(放電空間を)250℃以上かつ封着部材が再軟化してしまう温度以下の温度状態とした上で」とは、放電空間を250℃以上かつ封着部材の耐熱性で決まる温度以下の温度状態とする点で共通する。 エ 引用発明1で容器101内を真空排気することは、放電空間を真空排気することを意味していることは明らかである。そうすると、引用発明1の「容器101内を真空排気し」と、本願発明の「放電空間を還元ガスで置換する」とは、放電空間を所定の雰囲気とする点で共通する。 オ 引用発明1の「酸化劣化した青色発光用蛍光体126B」は、酸素が過剰な状態となった青色発光用蛍光体126Bであるといえるから、引用発明1の「蛍光体の焼成工程や封着工程のように大気中での加熱処理時に酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bを、真空中で加熱することにより還元する」と、本願発明の「酸素が過剰な状態となった緑色蛍光体材料を還元し」とは、酸素が過剰な状態となった蛍光体材料を還元する点で共通する。 カ 上記ウ、エ及びオをまとめると、引用発明1の「容器101内を真空排気しつつ、容器101をフリットガラス130の耐熱性に鑑みて上限値が設定された350℃?400℃程度の清浄化保持温度Tv1で加熱・保持して、蛍光体の焼成工程や封着工程のように大気中での加熱処理時に酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bを、真空中で加熱することにより還元する排気工程を行い」と、本願発明の「250℃以上かつ封着部材が再軟化してしまう温度以下の温度状態とした上で、放電空間を還元ガスで置換することで酸素が過剰な状態となった緑色蛍光体材料を還元し」とは、放電空間を、250℃以上かつ封着部材の耐熱性で決まる温度以下の温度状態の、所定の雰囲気とすることで酸素が過剰な状態となった蛍光体材料を還元する点で共通する。 キ 引用発明1の「その後、容器101内へ放電ガスを封入する」と、本願発明の「その後、放電空間を排気し、引き続いて放電ガスを封入する」とは、その後、放電ガスを封入する点で共通する。 よって、本願発明と引用発明1の両者は、 「放電空間の一部が、Zn_(2)SiO_(4):Mn材料を有する蛍光体層を備えるプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、封着工程の後、放電空間を、250℃以上かつ封着部材の耐熱性で決まる温度以下の温度状態の、所定の雰囲気とすることで酸素が過剰な状態となった蛍光体材料を還元し、その後、放電ガスを封入するプラズマディスプレイパネルの製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 封着工程の後、酸素が過剰な状態となった蛍光体材料を還元するときの250℃以上の温度が、本願発明は、封着部材が再軟化してしまう温度以下であるのに対して、引用発明1は、フリットガラス130の耐熱性に鑑みて上限値が設定された350℃?400℃程度の清浄化保持温度Tv1である点。 [相違点2] 本願発明は、所定の温度状態とした上で、放電空間を還元ガスで置換することで蛍光体材料を還元し、その後、放電空間を排気するのに対して、引用発明1は、容器101内を真空排気しつつ、清浄化保持温度Tv1で加熱・保持して、蛍光体を真空中で加熱することにより還元する点。 [相違点3] 還元される酸素が過剰な状態となった蛍光体材料が、本願発明は、緑色蛍光体材料であるのに対して、引用発明1は、青色発光用蛍光体126Bである点。 4 当審の判断 上記相違点について検討する。 [相違点1について] 引用発明1でフリットガラスの耐熱性に鑑みて清浄化保持温度の上限値を設定するとは、封着工程後のフリットガラスが封着状態を維持できるような温度に設定することを意味していることは自明のことである。そうすると、そのような上限値として、フリットガラス、即ち封着部材が再軟化してしまう温度以下に設定とすることは、ごく一般的な設計事項に過ぎないものである。 したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は格別なものではない。 [相違点2について] 引用発明2を再掲する。 「少なくとも片側の基板に保護用酸化膜を形成した一対の基板を間隙を設けて対向配置し、両基板の周囲を封止して放電空間を形成したプラズマディスプレイパネルの放電空間19に対して、ベーキング炉内の360[℃]の温度を一定に保って還元ガスである水素の充填及び排気を行う工程を行って保護用酸化膜21,22を還元し、水素の排気後に放電ガスを封入するプラズマディスプレイパネルの製造方法。」 引用発明2でベーキング炉内の温度を360[℃]の温度を一定に保って還元ガスである水素の充填及び排気を行うことは、放電空間を所定の温度状態とした上で、放電ガスを還元ガスで置換し、その後、放電空間を排気するものであるといえる。 引用発明1と引用発明2とは、還元される構成部材が、引用発明1は蛍光体であり、引用発明2は保護用酸化膜という違いはあるものの、封着工程後に、放電空間を加熱された所定の温度状態の、所定の雰囲気とすることで、プラズマディスプレイパネルの放電空間に備えられる構成部材を還元する点で共通している。そして、一般に、所定の雰囲気に置かれた被処理物を還元する手段として、被処理物を、引用発明1のように真空中で加熱することや、引用発明2のように還元雰囲気で加熱することは、いずれも常套手段である。 したがって、引用発明1において、蛍光体を還元するために、容器101内を真空排気しつつ、清浄化保持温度Tv1で加熱・保持して、蛍光体を真空中で加熱することに代えて、引用発明2のように、放電空間を加熱して所定の温度を一定に保って、即ち放電空間を所定の温度状態とした上で、放電空間に対して還元ガスを充填、即ち放電空間を還元ガスで置換して、その後、排気することは、常套手段を置換する程度の設計変更に過ぎないものである。 また、引用発明1に引用発明2を適用した際に、還元ガスを充填する際の所定の温度状態として、蛍光体を還元できる程度の温度以上とすることは当然の設計事項である。また、当該温度状態を封着部材が再軟化してしまう温度以下とすることについても、[相違点1について]で述べたとおりごく一般的な設計事項に過ぎないものである。 したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に想到しうる事項である。 [相違点3について] 引用文献3には、青色蛍光体としてBaMgAl_(10)O_(17):Eu、緑色蛍光体としてZn_(2)SiO_(4):MnまたはBaAl_(12)O_(19):Mnを用いた蛍光体層が設けられたプラズマディスプレイパネルの製造方法において、封着工程のような加熱工程において、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色蛍光体を含む蛍光体が酸化により熱劣化し、特にBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色蛍光体の酸化による熱劣化が大きいことが示唆されていることは先に述べたとおりである。 ところで、引用文献3のZn_(2)SiO_(4):Mnの緑色蛍光体は、引用発明1でも緑色発光用の蛍光体(層)126Gとして用いられているものである。また、引用文献3において特に熱劣化が大きいと記載されているBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色蛍光体も、引用発明1の大気中での加熱処理時に酸化劣化し、還元されるBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色発光用蛍光体126Bと同じものである。 そうすると、引用発明1においても引用文献3で示唆されているように、蛍光体の焼成工程や封着工程のような大気中での加熱処理時の酸化劣化が特に大きいのはBaMgAl_(10)O_(17):Euの青色発光用蛍光体126Bではあるものの、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色発光用の蛍光体(層)126Gも加熱処理時に酸化劣化すると考えるのが自然である。 そして、[相違点2について]で述べたように、引用発明1において所定の温度状態とした上で放電空間を還元ガスで置換して蛍光体を還元する際には、緑色発光用の蛍光体126Gも青色発光用蛍光体126Bと同様に所定の温度状態で還元ガス雰囲気に配置されることは明らかである。そして、このとき、酸化劣化した青色発光用蛍光体126Bが還元されるのと同様に、酸化劣化した緑色発光用の蛍光体126Gも還元されると考えるのが自然である。 したがって、本願発明の酸素が過剰な状態となった緑色蛍光体材料を還元する点は、[相違点2について]で述べたように、引用発明1において所定の温度状態とした上で放電空間を還元ガスで置換する構成を採用した際に、自然に得られる結果に過ぎない。 また、引用文献3の上記の示唆から、引用発明1において、Zn_(2)SiO_(4):Mnの緑色発光用の蛍光体(層)126Gも加熱処理時に酸化劣化すると考えるのが自然であることが上記のとおりである以上、酸化劣化した緑色発光用の蛍光体(層)126Gを本来の発光作用を得るべく、青色発光用蛍光体126Bと同様に還元することも、当業者ならば当然に考えることである。 したがって、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1?2及び引用文献3の記載に基づいて当業者が容易に想到しうる事項である。 また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明1?2及び引用文献3の記載から、当業者が予測し得る範囲内のものである。 よって、本願発明は、引用発明1?2及び引用文献3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-07-22 |
結審通知日 | 2009-07-28 |
審決日 | 2009-08-10 |
出願番号 | 特願2002-310767(P2002-310767) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松岡 智也 |
特許庁審判長 |
江塚 政弘 |
特許庁審判官 |
山川 雅也 波多江 進 |
発明の名称 | プラズマディスプレイパネルの製造方法 |
代理人 | 岩橋 文雄 |
代理人 | 永野 大介 |
代理人 | 内藤 浩樹 |