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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1204458
審判番号 不服2007-23462  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-27 
確定日 2009-09-24 
事件の表示 平成 9年特許願第269024号「振幅変調および位相変調を行うための整調可能な薄膜バルク型音響共振器が組み込まれている装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月15日出願公開、特開平10-126160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本件は、平成9年10月1日(パリ条約による優先権主張1996年10月2日、米国)の特許出願であって、平成18年8月15日付けで拒絶理由通知がなされ、平成19年2月22日付けで手続補正書が提出され、同年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされた。


2.本件発明
本件の請求項1に係る発明は、平成19年2月22日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本件発明」という)。

「【請求項1】 基板と、
共振手段と、
前記共振手段の第1の面に隣接する第1電極と、
前記共振手段の第2の面に隣接する第2電極と、
前記第2電極および前記基板間に位置する膜と、
1対のエッチング窓と、
前記基板の少なくとも一部分を前記膜の少なくとも一部分から隔てるエアギャップと
からなり、前記エアギャップが、前記エッチング窓を通して前記基板の一部分を除去することにより形成され、
前記共振手段が、前記の第1および第2の電極間に印加された電圧によって当該電極間に生じた電界に応答して共振し、前記エアギャップが、前記共振手段により生成された振動を前記基板から絶縁するバルク型音波共振器。」


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-103709号公報(以下、「引用例」という)には、下記の事項が記載されている。

(ア)「 <産業上の利用分野>
本発明は音響共振器とその製造方法に関し、更に具体的には、支持基体の1側から全ての工程を成し得る音響共振器とその製造方法に関するものである。」(公報第2頁右上欄5行?9行)

(イ)「第1図と第2図は本発明による多層構造の、GaAs構成体上に蒸着された共振器を示すものである。図示の通り、GaAs基体10の上にはAlNの第1層12、Alの第2層14、AlNの第3層16、そしてAlの第4層18が形成されている。電極層14及び18は充分な導電性を有して共振作動が助長されるような厚みを有しており、通常約0.10?0.20μm厚としている。AlNの層16は、電極によって形成される電界に応答して固有振動数にて共振する圧電体であり、この共振周波数は層16の厚さの関数である。層16は一般には1.0?25.0μm厚とし、これによって約1.0GHz以上から200MHz以下までの基本周波数範囲となる。AlNの層12は充分な厚みを有していて、後述するようにエッチング工程中に層14を保護している。上記層12は、共振器作動中にスプリアス変換の制御をするものとして作用させるためにも、充分な厚さを有している。具体的には、0.5μm程度の厚さが典型的である。」(公報第3頁左上欄16行?右上欄15行)

(ウ)「次いで上記蒸着された多層複合剤から音響共振器が作製される。まず最初の段階としては層18からAl電極を形成することである。電極とする層18の部分を従来周知の方法にて覆い、次に同じ層18の覆われていない部分を除去して層18の電極とする。本発明の方法を示した第1図及び第2図において、1個の多層複合材から複数の共振器が形成されている。第1図において電極20は、200μm×200μmのパッド21とリード線22を有し、リード線22によって基体上の他の回路部品と集積化される。」(公報第3頁右下欄7行?17行)

(エ)「電極20が形成された後で、その近傍にキャビティ25を形成して層16、14及び12を通ってGaAs基体に到るようにする。」(公報第4頁左上欄7行?9行)

(オ)「最後に、キャビティ25からGaAs基板10にエッチング剤を入れて電極パッド21の反対のGaAs部を除去する。エッチング剤はパッド21の反対側のピラミッド状開口27を蝕刻し、その結果形成される共振器はGaAs基体に周辺を支持した棚状の形状を有する構成体となる。」(公報第4頁左上欄19行?右上欄5行)

(カ)「共振器の電極となる層14は種々の方法によって電気的接点を具備するように出来る。」(公報第4頁左下欄3行?4行)

(キ)「本発明の製造方法に従って、たて波共振器を作製した。Al電極の厚さは0.2μm、AlNの遮蔽層の厚さは0.5μm、そして共振器の厚さは6.5μmであった。基本直列共振周波数は994.96MHzであり、基本並列共振周波数は1000.21MHzであった。」(公報第4頁右下欄16行?第5頁左欄3行)

よって、上記(ア)乃至(キ)及び関連図面から、引用例には、
「GaAs基体10と、
AlNの第3層16と、
前記AlNの第3層16の上面に隣接するAlの第4層18と、
前記AlNの第3層16の下面に隣接するAlの第2層14と、
前記Alの第2層14および前記GaAs基体10間に位置するAlNの第1層12と、
キャビティと、
前記GaAs基体10の一部分を前記AlNの第1層12の一部分から隔てるピラミッド状開口と
からなり、前記ピラミッド状開口が、前記キャビティを通して前記GaAs基体10の一部分を除去することにより形成され、
前記AlNの第3層16が、電極によって形成される電界に応答して共振する音響共振器。」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。


4.対比
(1)本件発明と引用発明との対応関係について
引用発明の「GaAs基体10」、「AlNの第1層12」は、本件発明の「基板」、「膜」に相当している。
引用例には、Alの第4層18を電極にする事が上記(ウ)に記載され、Alの第2層14を電極にする事が上記(カ)に記載されているので、引用発明の「Alの第4層18」、「Alの第2層14」は、本件発明の「第1電極」、「第2電極」に相当している。
引用例には、「キャビティ25からGaAs基板10にエッチング剤を入れて電極パッド21の反対のGaAs部を除去する」ことが上記(オ)に記載されているので、引用発明の「キャビティ」は、本件発明の「エッチング窓」に相当している。
引用発明の「ピラミッド状開口」は、GaAs基体10の一部分を除去することにより形成され、GaAs基体10の一部分をAlNの第1層12の一部分から隔てるものであるから、本件発明の「エアギャップ」に相当している。
引用例には、「AlNの層16は、電極によって形成される電界に応答して固有振動数にて共振する圧電体であり、この共振周波数は層16の厚さの関数である。」ことが上記(イ)に記載されているので、引用発明の「AlNの第3層16」、「上面」、「下面」は、本件発明の「共振手段」、「第1の面」、「第2の面」に相当している。
また、本件発明と引用発明は、共振器である点で共通している。

(2)本件発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本件発明と引用発明は、
「基板と、
共振手段と、
前記共振手段の第1の面に隣接する第1電極と、
前記共振手段の第2の面に隣接する第2電極と、
前記第2電極および前記基板間に位置する膜と、
エッチング窓と、
前記基板の少なくとも一部分を前記膜の少なくとも一部分から隔てるエアギャップと
からなり、前記エアギャップが、前記エッチング窓を通して前記基板の一部分を除去することにより形成され、
前記共振手段が、前記の第1および第2の電極間に印加された電圧によって当該電極間に生じた電界に応答して共振する共振器。」
の点で一致している。

(3)本件発明と引用発明の相違点について
本件発明と引用発明は、下記の点で相違する。
(相違点A)
本件発明の共振器は「バルク型音波共振器」であるのに対し、引用発明の共振器は音響共振器である点で相違する。

(相違点B)
本件発明は、エッチング窓が「一対」であるのに対し、引用発明はそのような構成になっていない点で相違する。

(相違点C)
本件発明では、エアギャップが「共振手段により生成された振動を前記基板から絶縁する」構成となっているのに対し、引用例にはAlNの第3層16で生成した振動がピラミッド状開口によりGaAs基体10から絶縁されることが記載されていないので、引用発明がそのような構成を有しているかは定かではない点で相違する。


5.当審の判断
(1)相違点Aについて
本件明細書の段落9には、「バルク型音波(BAW)共振器」を「薄膜バルク型音響共振器」ともいうことが記載されている。また、引用発明の音響共振器は、圧電薄膜である「AlNの第3層16」が、「電極によって形成される電界に応答して共振する」ものであり、引用例にはたて波共振器として作製することも上記(キ)に記載されていることから、引用発明の音響共振器は「薄膜バルク型音響共振器」であると解される。
してみると、本件発明の「バルク型音波(BAW)共振器」と引用発明の「音響共振器」とは、どちらも「薄膜バルク型音響共振器」であるので、相違点Aには実質的な差違はない。

(2)相違点Bについて
圧電薄膜共振器等の分野では、圧電薄膜の下部にエアギャップを形成するために、エッチング用の一対の穴を圧電薄膜が形成された面側に設けることは、原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-98311号公報の第2図、特開平6-204776号公報の図21に記載されているように周知技術である。
してみると、引用発明において、ピラミッド状開口を形成するエッチングのためにエッチング窓を一対設けることは、上記周知技術にすぎず、引用発明には該周知技術が適用されることを阻害する特段の事情も認められないので、引用発明において、エアギャップを形成するために、一対のエッチング窓を設けることは、当業者ならば容易に想到し得たものである。

(3)相違点Cについて
一般に薄膜バルク型音響共振器では、圧電体を共振させるために圧電体が共振する領域にエアギャップを設けて、圧電体の共振による振動が基板から絶縁されるように構成されている。
そして、引用例には、上記(ウ)に、
「第1図において電極20は、200μm×200μmのパッド21とリード線22を有し、リード線22によって基体上の他の回路部品と集積化される。」
と記載され、上記(オ)に、
「キャビティ25からGaAs基板10にエッチング剤を入れて電極パッド21の反対のGaAs部を除去する。」
と記載されていることから、引用発明では、主に電極20のパッド21の領域で圧電体が共振し、その共振する領域に対応したGaAs部が除去されていると認められる。
してみると、引用発明においても、ピラミッド状開口が圧電体であるAlNの第3層16により生成された振動をGaAs基板10から絶縁する構成になっていると認められるので、相違点Cは格別なものとすることができない。

(4)本件発明の作用効果について
本件発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本件発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件は、他の請求項について、検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-22 
結審通知日 2009-04-24 
審決日 2009-05-08 
出願番号 特願平9-269024
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 聡史  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 飯田 清司
立川 功
発明の名称 振幅変調および位相変調を行うための整調可能な薄膜バルク型音響共振器が組み込まれている装置  
代理人 奥山 尚一  
代理人 深川 英里  
代理人 河村 英文  
代理人 吉田 尚美  
代理人 松島 鉄男  
代理人 森本 聡二  
代理人 有原 幸一  
代理人 中村 綾子  
代理人 岡本 正之  

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