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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1204509
審判番号 不服2008-5393  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-05 
確定日 2009-09-24 
事件の表示 特願2003-427743「製品設計支援システムおよび製品設計支援方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-189978〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年12月24日の出願であって、平成19年7月25日付けの拒絶理由通知に対して同年9月27日付けで手続補正がなされ、同年10月31日付けの再度の拒絶理由通知に対して平成20年1月4日付けで手続補正がなされたが、同年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月4日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正前及び本件補正後の特許請求の範囲
本件補正は、明細書についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前(平成20年1月4日付け手続補正)に、
「【請求項1】
金型によって製造される製品の設計を支援する製品設計支援システムであって、
前記製品形状の入力を受ける製品形状設定手段と、
前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方を設定する金型構成設定手段と、
前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方が、金型の構成部品同士が干渉するか否かの金型成立要件を充足するか否かを判定する金型成立要件判定手段と、
前記設定された前記金型の寸法および構造の少なくとも一方が金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方では、前記製品を製造することができないことを通知するとともに、前記製品形状を含む設計変更対象の候補を提示する変更候補提示手段と、
前記設計変更対象として製品形状が選択されたとき、前記製品形状の変更の入力を受ける製品形状再設定手段と、を備え、
前記製品形状再設定手段に入力された製品形状に基づいて、前記金型成立要件判定手段が再度、判定を行う、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項2】
前記通知を表示する表示手段を更に備えている、
請求項1に記載の製品設計支援システム。
【請求項3】
前記金型成立要件に関するデータベースを備え、該データベースの内容に基づいて、前記判定を行う、
請求項1または2に記載の製品設計支援システム。
【請求項4】
前記製品形状に関するデータベースを備え、該データベースの内容に基づいて、前記判定を行う、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製品設計支援システム。
【請求項5】
前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方が金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記設定された金型の寸法および構造の変更例を提示する提示手段を備えている、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製品設計支援システム。
【請求項6】
前記データベースが、更新可能である、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の製品設計支援システム。
【請求項7】
前記製品設計支援システムは、前記通知手段からの通知に基づいて、製品形状または前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方を再設定できるように構成されている、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製品設計支援システム。
【請求項8】
前記データベースが、再設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方に基づくデータを付加的に記憶することによって更新される、
請求項6または1ないし請求項7に記載の製品設計支援システム。
【請求項9】
前記データベースが、再設定された製品形状に基づくデータを付加的に記憶することによって更新される、
請求項6または1ないし請求項7に記載の製品設計支援システム。
【請求項10】
コンピュータを使用して金型によって製造される製品の設計を支援する製品設計支援方法であって、
前記製品形状の入力を受ける製品形状設定工程と、
前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方を設定する金型構成設定工程と、
前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方が、金型の構成部品同士が干渉するか否かの金型成立要件を充足するか否かを判定する金型成立要件判定工程と、
前記設定された前記金型の寸法および構造の少なくとも一方が金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方では、前記製品を製造することができないことを通知するとともに、前記製品形状を含む設計変更対象の候補を提示する変更候補提示工程と、
前記設計変更対象として製品形状が選択されたとき、前記製品形状の変更の入力を受ける製品形状再設定工程と、を備え、
前記製品形状再設定工程で入力された製品形状に基づいて、前記金型成立要件判定工程で再度、判定が行われる、
ことを特徴とする製品設計支援方法。」
とあったものを、本件補正(平成20年4月4日付け手続補正)において、
「【請求項1】
金型によって製造される製品の設計を支援する製品設計支援システムであって、
前記製品の複数の設計段階の各々における製品形状の入力を受ける製品形状設定手段と、
前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方を設定する金型構成設定手段と、
前記金型構成設定手段により設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方が、金型の構成部品同士が干渉するか否かという金型成立要件を充足するか否かを判定する金型成立要件判定手段と、
前記金型構成設定手段により設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方が前記金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記金型構成設定手段により設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方では、前記製品形状を持つ前記製品を製造することができないことをユーザに通知するとともに、前記製品形状を含む設計変更対象の候補をユーザに提示する変更候補提示手段と、
前記設計変更対象として製品形状が選択されたとき、前記製品形状の変更の入力を受ける製品形状再設定手段と、を有し、
前記金型成立要件判定手段は、前記製品形状再設定手段に前記製品形状の変更が入力されたとき、入力された変更後の製品形状に基づいて再度判定を行うように構成される、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項2】
請求項1記載の製品設計支援システムであって、
前記変更候補提示手段は、前記通知を表示する表示手段を有する、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製品設計支援システムであって、
前記金型成立要件に関するデータベースを更に有し、
前記金型成立要件判定手段は、前記データベースの内容に基づいて、前記判定を行う、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の製品設計支援システムであって、
前記製品形状に関するデータベースを更に有し、
前記金型成立要件判定手段は、前記データベースの内容に基づいて、前記判定を行う、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項5】
請求項3又は4記載の製品設計支援システムであって、
前記データベースは、更新可能に構成される、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項記載の製品設計支援システムであって、
前記金型構成設定手段により設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方が前記金型成立要件判定手段によって前記金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記金型構成設定手段により設定された前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の変更例をユーザに提示する提示手段を更に有する、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項7】
請求項3乃至5のいずれか一項記載の製品設計支援システムであって、
前記変更候補提示手段により前記通知が行われたときに、前記製品形状または前記金型構成設定手段により設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方を再設定できるように構成される、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項8】
請求項7記載の製品設計支援システムであって、
前記データベースは、再設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方に基づくデータを付加的に記憶することによって更新される、ように構成される、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項9】
請求項7又は8記載の製品設計支援システムであって、
前記データベースは、再設定された製品形状に基づくデータを付加的に記憶することによって更新される、ように構成される、
ことを特徴とする製品設計支援システム。
【請求項10】
コンピュータを使用して、金型によって製造される製品の設計を支援する製品設計支援方法であって、
前記製品の複数の設計段階の各々における製品形状の入力を受ける製品形状設定工程と、
前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方を設定する金型構成設定工程と、
前記金型構成設定工程において設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方が、金型の構成部品同士が干渉するか否かという金型成立要件を充足するか否かを判定する金型成立要件判定工程と、
前記金型構成設定工程において設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方が金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記金型構成設定工程において設定された、前記製品形状を持つ前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方では、前記製品形状を持つ前記製品を製造することができないことをユーザに通知するとともに、前記製品形状を含む設計変更対象の候補をユーザに提示する変更候補提示工程と、
前記設計変更対象として製品形状が選択されたとき、前記製品形状の変更の入力を受ける製品形状再設定工程と、を有し、
前記金型成立要件判定工程は、前記製品形状再設定工程において前記製品形状の変更が入力されたとき、入力された変更後の製品形状に基づいて再度判定を行うように構成される、
ことを特徴とする製品設計支援方法。」
と補正しようとするものである。

2.補正の適否
本件補正には、新規事項の追加はない。また、本件補正は、請求項1ないし10に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、かつ、本件補正後の請求項1ないし10に記載された発明は、本件補正前の請求項1ないし10に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下に検討する。

本件補正後の請求項1において、「前記製品の複数の設計段階の各々における製品形状の入力を受ける製品形状設定手段」と補正しているが、請求項1の上記以外の部分の記載において、上記「製品の複数の設計段階の各々における製品形状」を使用する記載がなく、何のために上記「製品形状設定手段」が上記「製品の複数の設計段階の各々における製品形状の入力を受ける」のか不明であり、また、上記「前記製品の複数の設計段階の各々における製品形状の入力を受ける製品形状設定手段」とそれ以外の請求項1の発明特定事項との関係が不明である。
換言すれば、上記「製品形状設定手段」に入力される「製品形状」がどの設計段階の「製品形状」であっても、同じ処理が行われるだけであり、上記「製品形状設定手段」に入力される「製品形状」が「製品の複数の設計段階の各々における製品形状」であることによって、何らかの特別な処理が行われることは記載されておらず、何のために上記「製品形状設定手段」が上記「製品の複数の設計段階の各々における製品形状の入力を受ける」のか不明であり、また、上記「前記製品の複数の設計段階の各々における製品形状の入力を受ける製品形状設定手段」とそれ以外の請求項1の発明特定事項との関係が不明である。

したがって、本件補正後の請求項1と請求項1に従属する請求項2ないし8及び請求項1と同様の記載がある請求項10の記載は明確でない。
よって、本件補正後の請求項1ないし10に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年4月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成20年1月4日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1.」の本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平11-296566号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、CADシステム装置およびCADによる製品設計方法に係り、適用機能ごとに分けられた複数の知識ベースを持ち、その知識ベースに基づいて設計部品の形状を自動的に修正し、設計効率をあげるために好適なCADシステム装置およびCADによる製品設計方法に関する。」

(イ)「【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る一実施形態を、図1ないし図20を用いて説明する。
〔CADシステム装置のシステム構成〕
先ず、図1および図2を用いて本発明に係るCADシステム装置のシステム構成について説明する。
図1は、本発明に係るCADシステム装置の機能構成を表すブロック図である。
図2は、本発明に係るCADシステム装置のハードウェア構成を表すブロック図である。
【0038】
形状操作装置10aは、本発明のCADシステム装置の中核となる装置であり、知識ベースやユーザとインターフェイスを持ち、CADデータの変換やCAE(Computer Aided Engineering)解析、加工シミュレーションなどをおこなう。この形状操作装置10aは、知識ベース管理装置16を介して知識ベース12a,12b,12cに接続され、また制御装置13を介して出力装置14aや入力装置14bに接続されている。
【0039】
形状操作装置10aは、部品形状要素定義部10b、部品形状変更駆動部10c、金型形状要素データ生成部10d、加工除去要素データ生成部10f、CAE解析部10e、および加工シミュレーション部10gで構成されている。部品形状要素定義部10bは、部品形状要素の形状を定義する部分である。金型形状要素データ生成部10dは、部品形状要素定義部10bのデータを基にしてその部品を加工するための金型の形状要素データを生成する部分である。加工形状要素データ生成部10fは、金型を加工するための加工除去要素のデータを生成する部分である。CAE解析部10eは、CAE解析をおこなって金型や部品の形状要素を決定する部分である。加工シミュレーション部10gは、金型の加工除去要素を決定するための加工シミュレーションをおこなう。部品形状変更駆動部10cは、金型形状要素データ生成部10dで決定された金型の形状要素やCAE解析部10eでのCAE解析の結果を受け、部品形状要素定義10bを駆動して部品形状要素の定義を変更するようにする。」

(ウ)「【0044】
〔本実施形態で取り上げる部品〕
次に、図3および図4を用いて本実施形態の説明のために取り上げる部品のモデルとそのデータ構造について説明する。
図3は、本実施形態に係る部品とその形状要素に分解したときの様子を示す図である。
図4は、本実施形態に係る部品を表すためにCADシステム装置が保持するデータ構造を表す図である。
【0045】
本実施形態で採り上げる部品1は、図3(a)に示されるような整形プラスチック部品であり、図3(b)に示されるように1つのシェル1aと3つのリブ1b1,1b2,1b3と言う形状要素から構成されている。このように形状要素に分解するのは、本発明は、部品を形状要素に分けてCADの設計対象にすることに特徴があるからである。
【0046】
部品としての完成された姿は、これらの形状要素が一体化されてものであるが、本発明のCADシステム装置は、個々の形状要素を設計対象として独立に扱えるものである。そのために、形状要素個々に、形状要素の境界と「シェル」や「リブ」といった形状要素の名称を属性として保持している。このような部品形状の要素を定義するのは、図1に示される部品形状要素定義部10bであった。各部品の形状要素は、ライブラリ資産として形状要素ライブラリ(図示せず)に蓄えられている。CADによる設計にあたっては、この形状要素ライブラリから必要な形状要素を呼び出して、必要によって形状を変形させて組み合わせることになる。その際に形状要素の境界と名称は設計過程で自動的に決定される。あるいは、部品形状を設計した後に、形状要素の境界と名称を明示的に指定して定義してもよい。」

(エ)「【0054】
〔CADシステム装置による部品形状検査の概要〕
次に、図5を用いて本発明のCADシステム装置による部品形状検査の概要について説明する。
図5は、本発明のCADシステム装置による部品形状検査のアルゴリズム概要を示すフローチャートである。
【0055】
(1)本発明では、CADの対象とする部品は、図3の例で示したようにいくつかの形状要素に分解し、その形状要素一つ一つに対してCADによる設計がおこなえるようにする。そのため、予め、その部品がどのような形状要素に分解されるのか、どのような仕様とするのかを定義する。
【0056】
一般に部品を設計し製作する際に、前の方の段階を上流工程、後ろの方の段階を下流工程と言う。定義した部品形状要素は、上流工程から下流工程に行くに従って、形状要素のデータを変換する必要が生じるかもしれない。このときの形状要素データを変換するためのルールを形状変換ルールと言うことにする。また、製作にあたっての制限事項やノウハウから形状が制約されることもある。このときの形状要素を制約するルールを形状制約ルールと言うことにする。
【0057】
このCADシステム装置を使って部品の形状検査をおこなう際には、予め上流工程から下流工程に移行するための形状変換ルールと、各工程での形状制約ルールからなる知識ベースを構築する必要がある。
【0058】
一般に、図3で示したような部品は、金型を用いて成形することが多い。そのため、部品形状要素を設計するためには、金型を作ることを考慮にいれて設計する必要がある。また、実際にどのように金型を加工するかも考慮に入れなければならないこともある。ここで、部品形状を設計する工程から見ると、金型を設計する工程は、下流工程になり、金型を加工する工程は、金型を設計する工程から見ると下流工程になる。
【0059】
本実施形態では、製造にあたり金型を用いて成形することを前提とした部品の形状要素を検査する場合について説明する。また、その金型を加工する工程も考慮して形状要素の検査をするものとする。
【0060】
(2)ユーザがこのCADシステム装置で形状検査をおこなう場合には、画面上で形状検査をおこなおうとする形状要素の一つを選択する(S70)。そして、その形状要素に対して、形状検査命令を入力する。本発明のCADシステム装置は、機能、製造性、強度といった形状を検査するための知識分野を複数持ち、その中から適用する知識ベースの種類を選択できるようになっている。ここで、製造性の知識ベースを選択することにする(S71)。
【0061】
(3)金型を使って加工する場合には、金型形状要素知識ベースが設計のために十分あるか否かを調べる(S72a)。十分にあると判定したときには、その知識を用い、部品形状要素データを基にして、金型形状要素データを作成する(S72b)。
【0062】
(4)設計のために十分でないと判定したときには、CAE(Computer Aided Engineering)解析をおこなう(S72d)。CAE解析とは、コンピュータにより、設計の解析をおこない、設計対象に関して必要な知識を得る手法である。CAE解析システムが存在しないときには、検査のためには、知識ベースは「知識不足」である旨を表示して(S76)、終了する。CAE解析を実行して、有用な知識が得られたときには、その知識を用い、部品形状要素データを基にして、金型形状要素データを作成する(S72b)。
【0063】
(5)次に、金型を加工する工程のことを考える。金型を加工するための加工除去要素知識ベースが、金型加工のために十分あるかを判定する(S73a)。十分にあると判定したときには、その知識を用い、部品形状要素データと金型形状要素を基にして、加工除去要素データを作成する(S72b)。
【0064】
(6)加工除去要素を決定するために十分でないと判定したときには、加工シミュレーションをおこなう(S73d)。加工シミュレーションとは、コンピュータにより、仮想的に加工をおこなったものとして、必要な情報を得る手法である。加工シミュレータシステムが存在しないときには、検査のためには、知識ベースは「知識不足」である旨を表示して(S76)、終了する。加工シミュレーションを実行して、有用な知識が得られたときには、その知識を用い、部品形状要素データと金型形状要素を基にして、加工除去要素データを作成する(S72b)。
【0065】
(7)加工除去要素データが得られたときには、その加工除去要素データを用いて、金型形状要素データを再作成する(S74)。
【0066】
(8)次に、金型形状要素データが得られたときには、その金型形状要素データを用いて、部品形状要素データを再作成する(S75)。この部品形状要素が、金型加工、その金型を加工する工程での制約を考慮したものになる。」

(オ)「【0086】
(III)金型加工と形状制約ルールについて
知識ベースを用いた形状検査が実行に移されると、次に、この部品を成形するための金型の形状が適切であるかを検査する
先ず、図9および図10を用いて本実施形態で説明している部品1の金型について説明する。
図9は、部品1の金型のコア駒80を示す斜視図である。
図10は、部品1の金型のコア駒80とキャビ駒81で成形しているところを示す正面図と側面図である。
【0087】
部品1は、成形プラスチック部品であり、金型で成形する。金型は、凸型の形状をしたコア駒と、凹型の形状をしたキャビ駒があり、成形するときには、図10に示されるようにこれらを組み合わせて用い、コア駒80とキャビ駒81の中空部分で部品1が成形されることになる。図9の平面101の切断面101で見ると、図10(a)の側面図で、図9の平面102の切断面102で見ると、図10(b)の正面図で、それぞれ示されるようにコア駒80、部品1、およびキャビ駒81が咬み合わさることになる。
【0088】
金型を成形する際には、部品の方の加工する形状の制約に影響されることになる。これを、データベース化して蓄えたものが「形状制約ルール」である。この部品1の場合の形状制約ルールを図11を用いて説明しよう。
図11は、部品1のリブ形状要素1b1の形状制約例を図示した模式図である。
【0089】
図11(a)は、部品1のリブ形状要素1b1の部分の原型の形状であり、これは、図10(a)の方向から見たものである。
【0090】
形状制約の第一の例としては、金型加工の際に、部品1を成形後にコア駒80から抜け易くするために、図11(b)に示されるように抜き勾配82a,82bをリブ形状要素1b1の両側に付加する場合が考えられる。リブ形状要素1b1のコア駒80からの抜け易さは、部品1のプラスティック材料の種類、コア駒80の表面荒さによって変わるため、この場合に「知識ベース2:製造性」知識ベース12bにはこれらのパラメータに応じた抜き勾配82a,82bの大きさが形状制約ルールとして蓄積されている。
【0091】
形状制約の第二の例としては、部品1のリブ形状要素1b1がシェル形状要素1aに結合した部分の背面にひけ(凹形状の成形不良)が発生するのを防ぐために、図11(c)に示されるようにリブ形状要素1b1のシェル形状要素1aとの結合部の周囲に溝83a,83bを付加する場合が考えられる。リブ形状要素1b1のシェル形状要素1aとの結合部の背面のひけの大きさは、部品1のプラスティック材料の金型内部での流動特性、シェル形状要素1aの厚み寸法、リブ形状要素1b1の厚み寸法によって変わるため、この場合に「知識ベース2:製造性」知識ベース12bには、これらのパラメータに応じて生じるひけの大きさとひけを防止するための溝83a,83bの大きさが形状制約ルールとして蓄積されている。
【0092】
形状制約の第三の例としては、厚み寸法の異なる部品1のリブ形状要素1b1がシェル形状要素1aに結合したことによる反り変形が発生するのを防ぐために、図11(d)示されるようにシェル形状要素1aの厚み“a”(84a)とリブ形状要素1b1の厚み“b”(84b)とを比較して“a=b”となるようにする場合が考えられる。リブ形状要素1b1がシェル形状要素1aと結合したことによる反り変形の大きさは、両形状要素の冷却時間の差、部品1のプラスティック材料の金型内部への充填密度の差によって変わるため、この場合に「知識ベース2:製造性」知識ベース12bには、これらのパラメータに応じて生じる反り変形の大きさと反りを防止するための厚み寸法“a”(84a)、“b”(84b)の許容差が形状制約ルールとして蓄積されている。
【0093】
さて、金型形状のデータを生成する際には、これらの形状制約ルールを参考にしておこなうことになる。単純に形状要素のデータを転写するだけでは、成形品質を損なう恐れがあるからである。
【0094】
形状制約ルールが存在する場合には、その形状制約ルールを自動的に適用しても良いし、画面上に図11のような構造と寸法などのデータを表示して、候補例の中からユーザに明示的に選択させるようにしても良い。
【0095】
さて、形状検査実行の指示が与えられると、制御装置13は形状操作装置10aに対して形状制約ルール検査命令を送る(AR15g)。形状操作装置10aは、図4に示されるリブ形状要素1b1のデータブロックの属性部42bの形状要素名称「リブ」42b1を知識ベース管理装置16に転送する(AR15k)。そして、金型形状要素データ生成部10dが部品形状要素であるリブ形状要素1b1を基にして、金型形状要素のデータを生成するに当たり利用することができる知識ベースが存在するどうかを問い合わせる(図5のS72a)。リブ形状要素1b1の金型形状要素データ知識ベースが存在すれば(S72a)、知識ベース管理装置は「知識ベース2:製造性」知識ベース12bから該当する形状制約ルールを形状操作装置10aの金型形状要素データ生成部10dに返送する(AR15b、AR15j)。
【0096】
金型形状要素データ生成部10dは、送られてきた形状制約ルールを参照して、適切な金型形状のデータを生成する(S72b)。」

(カ)「【0112】
(VI)金型加工における加工除去処理
上記の部品1の加工方法と、加工に使用する工具の特性から来る形状の制約を踏まえて、本発明のCADシステム装置における部品1の形状検査の処理について説明する。
【0113】
金型形状要素データが生成されると(S72b)、部品1がその部品1を成形する金型を加工可能ならしめる形状をしているか否かを調べなければならない。そのために、図1に示される制御装置13は、形状操作装置10aの金型形状要素データ生成部10dから加工除去要素データ生成部10fに金型形状要素データを転送して調べさせる(AR11b)。加工除去要素データ生成部10fは、「知識ベース2:製造性」知識ベース12bに加工手順や加工工具に関する知識ベースが存在すれば(S73a)、知識ベースを照らし合わせて、素材から金型を削り出すために除去すべき形状を決定する。また、その除去すべき形状を、さらに小さな要素に分解しなければならない場合には、個々の加工除去要素を決定する(S73b)。
【0114】
加工方法Aの場合には、第一段階の加工除去要素として、枠形状90bを定め、第二段階の加工除去要素として、四方形ブロック91a,91b,91cを定め、第三段階の加工除去要素として、凹型の三角ブロック93a,93b,93c,93dを定めることがこれに該当する。
【0115】
また、加工方法Bの場合には、第一段階の加工除去要素として、枠形状90bを定め、第二段階の加工除去要素として、凹型の三角ブロック95を定め、第三段階の加工除去要素として、凸型の三角ブロック97a,97b,97cを定めることがこれに該当する。
【0116】
どちらの加工方法を選ぶかは、要求される加工精度・公差、適用可能な加工方法、使用できる工具に依存して決まり、これらの条件は「知識ベース2:製造性」知識ベース12bに加工除去要素形状制約ルールとして蓄積されている。
【0117】
ここで、加工除去要素形状制約ルールとして、上で説明したような工具から来る制限、すなわち、ミル98の刃先の長さhが、リブの高さH(=溝の深さ)よりも短いとする。このときには、加工方法Aでも加工方法Bでも溝加工のときに、H-h分の高さの彫り残した要素が残ることになる。したがって、このような場合には、加工除去要素データ生成部10fは、加工除去要素を作成するために制約が出たので、これをリブ形状要素1b1,1b2,1b3の形状要素にフィードバックするために形状要素のデータを修正することを要求する。
【0118】
リブの高さhを縮める方法としては、図18により既に説明したように形状修正方法Aと形状修正方法Bの二通りがある。形状修正方法Aの方の成形は、加工方法Aでも加工方法Bを使っても可能であるが、形状修正方法Bの成形は、加工方法Aでは成形できず、加工方法Bの方しか成形できないことに注意する必要がある。というのも、加工方法Bの場合に、形状修正方法Bを適用すると図19(b)に示されるように、図13の段階で切り出される四方形ブロック91aが、変形ブロック91a′の形状となり、この場合でもミル98の刃先の長さは、Hだけ必要だからである。
【0119】
本実施形態では、図8に示されているように、ユーザは「加工手順1:面→溝」を選択しているで、加工方法Bで成形する手順が選ばれている。したがって、形状修正方法Aでも形状修正方法Bでも選ぶことができる。このような場合は、「知識ベース2:製造性」知識ベース12bの加工除去要素形状制約ルールに優先順位を予め付けておくか、取り得る形状修正案の候補一覧を画面に表示してユーザに選択させるようにするとよい。
【0120】
このように、加工除去要素に制約が生じたために形状要素データの形状変更を要求する必要があるときは、加工除去要素データ生成部10fは、形状修正データを金型形状要素データ生成部10dに送る(AR11c)。金型形状要素データ生成部10dは、送られてきた加工除去要素データを、金型形状修正データと再び整合を取り(S74)、金型形状修正データ要素を部品形状変更駆動部10cに送る(AR11d)。
【0121】
最後に、部品形状変更駆動部10cは、金型形状要素、加工除去要素の制約により生じる部品形状要素の形状修正内容データを受け取り、最終的に部品形状要素を修正して(S75)、部品形状要素定義部10bの部品形状データを更新する(AR11f)。
【0122】
制御装置13は、更新した部品形状データを受け取り(AR15d)、出力装置14aに転送して(AR15e)表示する。」

上記(ア)ないし(カ)の記載事項を勘案すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

「金型によって製造される部品の設計を行うCADシステム装置であって、
部品形状要素の形状を形状要素ライブラリから入力して定義する部品形状要素定義部10bと、
前記部品を製造するための金型の形状を前記部品形状要素定義部10bからの部品形状要素データと形状制約ルールを参考にして設定する金型形状要素データ生成部10dと、
前記設定された金型の形状を加工することができるか否かを判定する加工除去要素データ生成部10fと、
前記設定された金型の形状を加工することができないと判定されたとき、取り得る形状修正案の候補一覧を画面に表示してユーザに選択させる手段と、
加工除去要素に制約が生じたために形状要素データの形状変更を要求する必要があるとき、前記加工除去要素データ生成部10fは、形状修正データを前記金型形状要素データ生成部10dに送り、前記金型形状要素データ生成部10dは、送られてきた加工除去要素データを、金型形状修正データと再び整合を取り、金型形状修正データ要素を部品形状変更駆動部10cに送り、金型形状要素、加工除去要素の制約により生じる部品形状要素の形状修正内容データを受け取り、部品形状要素を修正して、部品形状要素定義部10bの部品形状データを更新する前記部品形状変更駆動部10cを備える
CADシステム装置。」

<刊行物2>
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、平林哲生,樹脂金型設計におけるソリッド設計の考え方と応用,UNISYS技報,2003年11月,第23巻,第3号,p.350-363には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(キ)「樹脂金型の設計プロセスは大きく分けると,製品にかかわる形状部設計と金型の構造部設計からなる.形状部設計とは,最終的な製品形状を表す製品モデルに対して,これを射出成形により制作するために必要な形状要件を折り込むことである.構造部設計とは,射出成形するために必要となる金型の構成・構造を決定し,製品を金型から取り出す機構を決定する,多種多数の部品群を配置するとともに対応する穴あけ加工データを生成することである.」(第351ページ第5行ないし第9行)

(ク)「これら機構部品は金型が閉じているときの初期状態においては製品形状に密着させる.したがって接合部は製品に忠実な形状でなければならない.また金型が開くときにはある方向に逃がして(抜いて)行くが,その過程で製品に傷をつけてはならない.機構タイプの決定,そのスライド逃がし方向と距離の適合性検討,周辺形状および複数の機構部位同士の干渉防止を確認しながら,機構を構成する複数個の部品群の組み合わせとそれぞれのサイズ,位置を確定して行く難度が高い設計作業である.
機構部位は金型の内部に格納され,かつ3次元的に動くものであるから,その検討過程で金型のサイズを調整するし,逆に金型のサイズを基準にしてその内部に格納できるよう試行錯誤を繰り返す.」(第352ページ第7行ないし第16行)

(ケ)「樹脂金型で使用される部品には数十の種類がある.この工程では,金型を締め付ける部品,金型の開閉時にぶれやずれが生じないよう型板を誘導したり開閉動作を押しとどめる部品,金型が開いた後の突き出しを円滑に行うための部品,溶融した樹脂の流路を中継したり塞ぐ部品など各種専用部品を配置して行く.
個々の部品の配置自体は比較的単純であるが,部品本体のみならずそれらの穴まで考えてお互いに干渉することがないように試行錯誤を繰り返すことが多い.」(第353ページ第5行ないし第10行)

(コ)「樹脂金型の設計において最大の課題は,短納期化をいかに実現するかということである.納期を短縮するためには設計作業の生産性を上げることと設計ミスを防止することが必要である.したがって,樹脂金型設計のCADシステムは以下に挙げる昨日要件を満たすものでなければならない.」(第353ページ第18行ないし第21行)

(サ)「3)モールドベースの検討,部品の配置設計では試行錯誤に柔軟に追随できること
これは位置とサイズを仮決めした後,周りにある形状や他部品との関係でサイズを調整したり位置を変更することを何度も繰り返す.この試行錯誤が手早く単純な操作でできることが必要である.」(第354ページ第6行ないし第9行)

(シ)「4)機構部位および部品同士の干渉検査
アンダカットを回避するためのスライドや傾斜機構部位は,3次元的に動く部品である.運動するとき周りにある形状や他部品に対して干渉しないよう設計段階で検査できることが必要である.
また配置済みの部品同士,特に縦横に走る水管穴に対して他部品が干渉しないことの安全確認検査が重要である.」(第354ページ第10行ないし第15行)

(ス)「7)サーフェスモデルへの対応
製品モデルが未完成の状態でも金型設計を始める.形状の欠落があるし,作成済みの形状が変更されることも頻繁に発生する(設変).一方,樹脂金型に特有のことであるが,製品モデルに対して射出成形するための形状変更を加えて金型モデルを作成する(第2章参照).また形状の特質という点から見ると,製品モデルはデザイン性が重視されるいわゆる意匠面であり,自由曲面で作成されることが多い.
元になる製品モデル自体の変更と金型モデルを作成するための変更に際して,一般に再度のモデリング作業は小さな領域内で周りの形状にあわせる細かい作業が続くことが多い.そのため一つのサーフェスごとに形状を作成し直すことが広い範囲にわたってなされる.つまりある領域内の形状のまとまりを部位として捉える集合演算や局所変形を主とするソリッドモデリング手法だけでは設計の実情に合わない面もある.したがって製品モデル,金型モデルとも細部の変更に強いサーフェスモデルを許容することが適用拡大につながる.」(第354ページ第28行ないし第40行)

上記(キ)ないし(ス)の記載事項を勘案すると、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が開示されていると認められる。

「金型によって製造される製品の設計を、製品にかかわる形状部設計と金型の構造部設計とからなる設計プロセスで行うCADシステムであって、
金型の構成部品同士が干渉しないように部品のサイズを調整したり位置を変更したりする試行錯誤を繰り返し、
製品モデルが未完成の状態でも金型設計を始め、製品モデル自体の変更と金型モデルを作成するための変更とが可能な
CADシステム。」

3.対比
本願発明と、刊行物1発明と比較する。

(ア)一般的に「部品」は、「製品」の一部又は全部であり、当該部品がいくつか集まって製品となったり、当該部品そのものが製品となったりするものであるから、刊行物1発明における「部品」は、本願発明における「製品」に相当するといえる。そのため、以下では、「部品」は「製品」に相当するものとして記載する。

(イ)刊行物1発明における「CADシステム装置」は、部品を設計する際に、設計者を支援するシステムであるから、本願発明における「製品設計支援システム」に相当するといえる。

(ウ)刊行物1発明における「部品形状要素の形状を形状要素ライブラリから入力して定義する部品形状要素定義部10b」は、本願発明における「製品形状の入力を受ける製品形状設定手段」に相当する。

(エ)物の「形状」には、物の「寸法および構造の少なくとも一方」が含まれていることが一般的であるから、刊行物1発明における「部品を製造するための金型の形状を前記部品形状要素定義部10bからの部品形状要素データと形状制約ルールを参考にして設定する金型形状要素データ生成部10d」は、本願発明における「製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方を設定する金型構成設定手段」に相当するといえる。そのため、以下では、物の「形状」は物の「寸法および構造の少なくとも一方」に相当するものとして記載する。

(オ)刊行物1発明における「前記設定された金型の形状を加工することができるか否か」は、金型が成立する要件の一つであるから、刊行物1発明における「前記設定された金型の形状を加工することができるか否かを判定する加工除去要素データ生成部10f」と本願発明における「前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方が、金型の構成部品同士が干渉するか否かの金型成立要件を充足するか否かを判定する金型成立要件判定手段」とは、「前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方が、金型成立要件を充足するか否かを判定する金型成立要件判定手段」という点で一致している。

(カ)刊行物1発明における「前記設定された金型の形状を加工することができないと判定されたとき、取り得る形状修正案の候補一覧を画面に表示してユーザに選択させる」のは、前項の記載を考慮すると、「前記設定された金型の形状」が「金型成立要件」を充足していないと判定されたためである。
また、「取り得る形状修正案の候補一覧を画面に表示」することによって「前記設定された金型の形状」では、前記部品を製造することができないことをユーザに通知することになることは明らかである。
さらに、「取り得る形状修正案の候補」は、部品形状要素の設計変更対象の候補である。
してみると、刊行物1発明における「前記設定された金型の形状を加工することができないと判定されたとき、取り得る形状修正案の候補一覧を画面に表示してユーザに選択させる手段」は、本願発明における「前記設定された前記金型の寸法および構造の少なくとも一方が金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方では、前記製品を製造できないことを通知するとともに、前記製品形状を含む設計変更対象の候補を提示する変更候補提示手段」に相当するといえる。

(キ)刊行物1発明において「加工除去要素に制約が生じたために形状要素データの形状変更を要求する必要があるとき、前記加工除去要素データ生成部10fは、形状修正データを前記金型形状要素データ生成部10dに送り、前記金型形状要素データ生成部10dは、送られてきた加工除去要素データを、金型形状修正データと再び整合を取り、金型形状修正データ要素を部品形状変更駆動部10cに送り、金型形状要素、加工除去要素の制約により生じる部品形状要素の形状修正内容データを受け取り、部品形状要素を修正して、部品形状要素定義部10bの部品形状データを更新する前記部品形状変更駆動部10c」は、前項の記載を考慮すると、ユーザが取り得る形状修正案の候補一覧から形状修正案の一つを選択したことによって部品形状データを更新するから、刊行物1発明には、本願発明における「前記設計変更対象として製品形状が選択されたとき、前記製品形状の変更の入力を受ける製品形状再設定手段」に相当する手段が存在するといえる。

すると、本願発明と、刊行物1発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「金型によって製造される製品の設計を支援する製品設計支援システムであって、
前記製品形状の入力を受ける製品形状設定手段と、
前記製品を製造するための金型の寸法および構造の少なくとも一方を設定する金型構成設定手段と、
前記設定された金型の寸歩および構造の少なくとも一方が、金型成立要件を充足するか否かを判定する金型成立要件判定手段と、
前記設定された前記金型の寸法および構造の少なくとも一方が金型成立要件を充足しないと判定されたとき、前記設定された金型の寸法および構造の少なくとも一方では、前記製品を製造することができないことを通知するとともに、前記製品形状を含む設計変更対象の候補を提示する変更候補提示手段と、
前記設計変更対象として製品形状が選択されたとき、前記製品形状の変更の入力を受ける製品形状再設定手段と、を備える
製品設計支援システム。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
金型成立要件が、本願発明では、「金型の構成部品同士が干渉するか否か」であるのに対し、刊行物1発明では、「金型の形状を加工することができるか否か」である点。

<相違点2>
本願発明では、「前記製品形状再設定手段に入力された製品形状に基づいて、前記金型成立要件判定手段が再度、判定を行う」のに対し、刊行物1発明では、金型成立要件判定手段が、再度、判定を行うか否か明確でない点。

4.判断
上記相違点1及び2について検討する。

(ア)相違点1について
刊行物2発明では、「金型の構成部品同士が干渉しないように部品のサイズを調整したり位置を変更したりする試行錯誤を繰り返し」ており、「金型の構成部品同士が干渉」するか否かを見て、「部品のサイズを調整したり位置を変更したりする試行錯誤」を行うのであるから、「金型の構成部品同士が干渉」するか否かが金型成立要件となっていることは明らかである。
してみると、刊行物1発明と刊行物2発明とは、ともにCADを使用した製品設計支援システムという同一の技術分野に属しているから、刊行物1発明における金型成立要件として、刊行物2発明における「金型の構成部品同士が干渉」するか否かを適用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
刊行物2発明では、「金型の構成部品同士が干渉しないように部品のサイズを調整したり位置を変更したりする試行錯誤を繰り返し」ていることから、前項の記載を考慮すると、金型成立要件である「金型の構成部品同士が干渉」するか否かの判定を繰り返し行った上で部品のサイズを調整したり位置を変更したりする試行錯誤を行っていることは明らかである。
また、刊行物2発明では、「金型によって製造される製品の設計を、製品にかかわる形状部設計と金型の構造部設計とからなる設計プロセスで」行い、「製品モデルが未完成の状態でも金型設計を始め、製品モデル自体の変更と金型モデルを作成するための変更とが可能」であることから、製品モデルの変更によっても、上記金型成立要件である「金型の構成部品同士が干渉」するか否かの判定を繰り返し行うことになることは、明らかである。
してみると、刊行物1発明と刊行物2発明とは、ともにCADを使用した製品設計支援システムという同一の技術分野に属しているから、刊行物1発明において、製品形状再設定手段が製品形状の変更の入力を受けると、製品形状再設定手段に入力された製品形状に基づいて、金型成立要件判定手段が、刊行物2発明のように、再度、判定を行うことは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、上記両相違点を総合的に検討しても、CADを使用した製品設計支援システムという同一の技術分野に属する上記刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることにより、本願発明を構成することは、当業者が容易に想到し得ることであり、その作用効果も当業者が予測し得るものにすぎない。
したがって、本願発明は、刊行物1発明と刊行物2発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-22 
結審通知日 2009-07-27 
審決日 2009-08-10 
出願番号 特願2003-427743(P2003-427743)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 537- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 功加舎 理紅子  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 千葉 輝久
畑中 高行
発明の名称 製品設計支援システムおよび製品設計支援方法  
代理人 弟子丸 健  
代理人 井野 砂里  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 大塚 文昭  

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