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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B09B
管理番号 1204557
審判番号 不服2006-25359  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-09 
確定日 2009-10-01 
事件の表示 特願2004- 55366「ダイオキシン類の拡散抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-238198〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成16年2月27日に特許出願されたものであって、平成18年10月4日付けで拒絶査定がなされ、それに対し、同年11月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、当審において平成21年2月6日付けで拒絶理由通知がなされ、その指定期間内の同年4月17日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたもので、その請求項1に係る発明は、同年4月17日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】炭酸マグネシウムを810?840℃で焼成後、粉砕して平均粒径を10?16μmに調整してなる軽焼マグネシアを、ダイオキシン類を含む土壌に添加して混合することを特徴とするダイオキシン類の拡散抑制方法。」

2.当審拒絶理由の引用文献の記載事項
(ア)特開2003-225640号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア-1)「MgOおよび/またはMgO含有材からなることを特徴とする有害物質汚染土壌用固化不溶化剤」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(ア-2)「MgO100質量部に対して固化不溶化助剤を10?300質量部添加したことを特徴とする有害物質汚染土壌用固化不溶化剤」(【特許請求の範囲】【請求項2】)、
(ア-3)「MgOおよび/またはMgO含有材のみ、あるいはMgOおよび/またはMgO含有材と上記固化不溶化助剤のみでは、土壌の種類によって不溶化のために必要な固化強度が効率良く得られなかったり、あるいは固化強度発現までに長時間を要する場合がある。この場合には更なる固化不溶化助剤として固化を促進させるような薬剤(以下第2助剤とする)を使用することが好ましい。
上記第2助剤としては、例えば・・・、硫酸カルシウム、・・・等があり、・・・。上記硫酸カルシウムとしては無水または半水石膏が例示され、特に半水石膏の使用が望ましく」(第2頁右欄第49行?第3頁左欄第14行、段落【0011】?【0012】)、
(ア-4)「〔有害物質〕本発明において、汚染土壌に含まれる有害物質には、例えばマンガン・・・等の重金属、・・・、含塩素有機化合物等がある。該含塩素有機化合物としては、テトラクロロジベンゾパラシオキシン(ダイオキシン)、・・・等が例示される。」(第3頁右欄16?23行、段落【0019】)、
(ア-5)「〔実施例4〕現場から採取したシルト(含水比=69.6%、砂分=35%、シルト・粘土分=65%、密度=1.58g/cm^(3) )の重金属類溶出試験結果は表5のようであった。上記重金属類汚染土1m^(3)に下記組成の固化剤を15(質量/容量)%添加攪拌混合して固化せしめた。上記固化処理から28日後の固化体の環境庁告示第46号による溶出試験結果を表5に示す。
固化剤Dの組成
軽焼酸化マグネシウム 100質量部
硫酸カルシウム(半水石膏) 20質量部
二酸化ケイ素(ホワイトカーボン) 10質量部
【表5】・・・
上記固化体の28日後の一軸圧縮強度は2,500KN/m^(2) 、・・・であった。」(第5頁左欄第26?末行及び同右欄第19?20行、段落【0032】?【0033】)、
(ア-6)「【発明の効果】 本発明においては、重金属類等の有害物質によって汚染された土壌を植物成長に差支えないpH範囲でMgOによって固化不溶化し、有害物質を再溶出することなく固化土内に封鎖することが出来る。」(第6頁右欄第26?29行、段落【0039】)
(イ)特開2000-213727号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(イ-1)「ドロマイトおよび該ドロマイトを焼成してなる焼成ドロマイトよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種を含むものであることを特徴とするダイオキシン類による汚染物の改良剤。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(イ-2)「請求項1または2に記載の改良剤を、ダイオキシン類による
汚染土壌に添加する、またはダイオキシン類による汚染水と接触させることを特徴とするダイオキシン類による汚染物の改良方法。」(【特許請求の範囲】【請求項3】)、
(イ-3)「具体的には、ドロマイト、焼成ドロマイトA、Bのいずれの場合にも、平均粒度が5?35μm、好ましくは5?20μmのものが適している。ドロマイト、焼成ドロマイトA、Bのいずれの場合にも、平均粒度が5μm未満の場合には、性能面及び技術的な問題は特にないが、比較的硬質の鉱物およびその焼成物であるため微粉化に要するコストがかかり、また取り扱い時に粉塵が発生するおそれがあるため好ましくない。」(第5頁左欄第26?34行、段落【0029】)
(ウ)特開2003-13063号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
(ウ-1)「軽焼マグネシアは、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムを800?900℃の温度で焼成して得られた多孔質の酸化マグネシウムであり」(第2頁右欄第16?18行、段落【0009】)、
(ウ-2)「軽焼マグネシア(MgO)は、炭酸マグネシウム(MgCO_(3) )又は水酸化マグネシウム(Mg(OH)_(2) )を800?900℃の温度で焼成して得られた多孔質の酸化マグネシウム(MgO)であり」(第3頁左欄第38?41行、段落【0015】)
(エ)化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8縮刷版」共立出版株式会社、1993年6月1日発行、第840頁の「マグネシア」の項(以下、「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。
(エ-1)「軽焼マグネシアは、工業的には炭酸マグネシウム,水酸化マグネシウムをカ焼してつくられ、カ焼温度が800?900℃である」こと。
(オ)特開平10-316967号公報(以下、「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
(オ-1)「酸化マグネシウムおよび/または硫酸マグネシウムまたは酸化マグネシウムおよび/または硫酸マグネシウム含有物からなる土壌固化剤」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(オ-2)「【発明の実施の形態】本発明に使用される酸化マグネシウムには、低温焼成品と高温焼成品とがあるが、反応性の点からみて低温焼成品(軽焼マグネシア)の使用が望ましい。また本発明ではドロマイトのような酸化マグネシウムを含むものも使用出来る。」(第2頁右欄第19?23行、段落【0006】)
(カ)特開2000-239660号公報(以下、「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。
(カ-1)「酸化マグネシウムと、硫酸アルミニウム、硫酸第1鉄、ポリ塩化アルミニウム、酸性硫酸ナトリウム、スルファミン酸、ポリアクリル酸、硫酸アンモニウム、明ばん、仮焼明ばん石、および硫酸亜鉛からなる群から選ばれた一種または二種以上の固化剤とを含むことを特徴とする土壌固化剤」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(カ-2)「【発明の実施の形態】本発明に使用される酸化マグネシウムには、低温焼成品と高温焼成品とがあるが、反応性の点からみて低温焼成品(軽焼マグネシア)の使用が望ましい。また本発明ではドロマイトのような酸化マグネシウムを含むものも使用出来る。」(第2頁右欄第27?31行、段落【0006】)

3.対比・判断
引用文献1には、記載事項(ア-1)に「MgOからなる有害物質汚染土壌用固化不溶化剤」が記載されている。そして、該記載中の「MgO」に関して、記載事項(ア-5)に「軽焼酸化マグネシウム」が記載され、「有害物質」に関して、記載事項(ア-4)に「ダイオキシン」が記載され、さらに、「有害物質汚染土壌用固化不溶化剤」に関して、記載事項(ア-5)に「汚染土」「に」「添加」「混合」することが記載され、また、記載事項(ア-6)に「有害物質によって汚染された土壌を」「MgOによって固化不溶化し、有害物質を再溶出することなく固化土内に封鎖する」ことが記載されていて、該記載中の「有害物質」及び「MgO」に関して上記のようにそれぞれ「ダイオキシン」及び「軽焼酸化マグネシウム」が記載されている。
これらの記載を本願発明の記載振りに則して整理すると、記載事項(ア-5)中の「汚染土」が「ダイオキシン汚染土壌」を表すことが明らかであるから、引用文献1には、「軽焼酸化マグネシウムからなるダイオキシン汚染土壌用固化不溶化剤をダイオキシン汚染土壌に添加混合してダイオキシンによって汚染された土壌を軽焼酸化マグネシウムによって固化不溶化し、ダイオキシンを再溶出することなく固化土内に封鎖する方法」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。
そして、本願発明と引用1発明を対比すると、引用1発明の「軽焼酸化マグネシウム」、「ダイオキシン汚染土壌」及び「ダイオキシンによって汚染された土壌を軽焼酸化マグネシウムによって固化不溶化し、ダイオキシンを再溶出することなく固化土内に封鎖する」ことが、それぞれ、本願発明の「軽焼マグネシア」、「ダイオキシン類を含む土壌」及び「ダイオキシン類の拡散抑制」に相当する。
してみると、両者は、「軽焼マグネシアを、ダイオキシン類を含む土壌に添加して混合するダイオキシン類の拡散抑制方法」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点a:本願発明では「炭酸マグネシウムを810?840℃で焼成後、粉砕して平均粒径を10?16μmに調整してなる軽焼マグネシア」を用いているのに対して、引用1発明では軽焼酸化マグネシウムの製法及び粒径についての記載がない点
そこで、上記相違点aについて検討する。
引用文献3〔記載事項(ウ-1)、(ウ-2)〕及び引用文献4〔記載事項(エ-1)〕に記載されているように軽焼マグネシア(軽焼酸化マグネシウム)の製法として炭酸マグネシウムを800?900℃で焼成するものが本願出願前周知であって、その範囲から下限として810℃、上限として840℃を選択することは、本願発明が臨界的意義をその温度範囲で奏するものではないので、当業者であれば適宜なし得ることであるというべきである。 したがって、引用1発明に対して軽焼酸化マグネシウムを炭酸マグネシウムを810?840℃で焼成して製造するものとすることは当業者であれば適宜なし得ることである。
そして、引用文献5〔記載事項(オ-1)、(オ-2)〕及び引用文献6〔記載事項(カ-1)、(カ-2)〕に記載されているようにドロマイトが酸化マグネシウムを含み且つ土壌固化剤として軽焼マグネシアと置換可能なものであることが本願出願前周知であり、また、引用文献2〔記載事項(イ-1)?(イ-3)〕に記載されているようにドロマイトからなるダイオキシン類による汚染物の改良剤をダイオキシン類による汚染土壌に添加してダイオキシン類による汚染物を改良する際に該改良剤として平均粒径が5?20μmのものが好ましいことが本願出願前公知であり、さらに、上記改良剤の上記平均粒径範囲の下限値を5μmとする理由が引用文献2〔記載事項(イ-3)〕に記載されているように「微粉化に要するコストがかかり、また、取り扱い時に粉塵が発生するおそれがあるため好ましくない」という経済的な観点によるものであって臨界的意義によるものでないことを勘案すると、上記平均粒径範囲の下限値を更に取扱いが容易な10μmとすることは当業者であれば適宜なし得ることである。また、上記平均粒径範囲の上限値を16μmとすることも臨界的意義をその粒径範囲で奏するものではないので当業者であれば適宜なし得ることというべきである。
そうすると、引用1発明に対して、軽焼酸化マグネシウムとして「粉砕して平均粒径を10?16μmに調整した」ものを用いるようにすることは当業者であれば格別の困難なく採用し得る操業条件にすぎない。
そして、上記相違点aにおける本願発明の構成を採ることにより奏される「ダイオキシン類が付着した土粒子の移動を抑制でき、土壌中のダイオキシン類の拡散を抑制することができ、また、重金属による2次汚染を防止することができる」という効果も当業者であれば予測し得る範囲内のものである。
してみると、本願発明は、引用1発明及び引用文献2に記載された発明並びに引用文献3?6に記載されているような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.当審拒絶理由に対する意見書の主張について
請求人は、平成21年4月17日付けで意見書を提出して、「一方、本願発明1におきましては、炭酸マグネシウムを810?840℃で焼成後、粉砕して平均粒径を10?16μmに調整した軽焼マグネシアを使用することにより、土壌100質量部に対して10質量部以下の少ない添加量でも、土壌中のダイオキシン類の拡散を抑制することができる(すなわち土壌中のダイオキシン類を不溶化することができる)という顕著な作用効果を奏するものです。引用文献1、2の記載から、本願発明1に記載の特定の軽焼マグネシアを使用することにより、少ない添加量でも土壌中のダイオキシン類を不溶化できる効果は、当業者にも予測することはできないと考えます。」と主張するが、係る作用効果は、単に本願明細書(10質量部)と引用文献1の実施例1、2、4(15(質量/容量)%)の比較によりなされたもので、同文献の有機塩素化合物であるトリクロロエチレン(トリクレン)についてなされた実施例6(10(質量/容量)%)と比較すると格別の相違といえず、しかも、本願の明細書に記載のないものであるから採用することはできない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用文献1及び引用文献2に記載された発明並びに引用文献3?引用文献6に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-28 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-08-12 
出願番号 特願2004-55366(P2004-55366)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
繁田 えい子
発明の名称 ダイオキシン類の拡散抑制方法  

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