• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
管理番号 1204568
審判番号 不服2007-10337  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-11 
確定日 2009-10-01 
事件の表示 特願2003-86607「MgO単結晶基板」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開,特開2004-292237〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成15年3月26日の出願であって,平成18年5月26日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年6月6日),同年8月7日付けで意見書・手続補正書が提出され,同年10月16日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年同月24日),同年12月25日付けで意見書・手続補正書が提出され,平成19年3月9日付けで拒絶査定され(発送日は同年同月13日),その後,同年4月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,平成21年5月20日付けで当審より拒絶理由が通知され(発送日は同年同月26日),同年7月15日付けで意見書が提出されたものであり,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,平成18年8月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 表面に,原子層として2?10層分の高さのステップが形成されてなるMgO単結晶基板。」

2.当審による拒絶理由
当審による平成21年5月20日付け拒絶理由通知の理由の概要は,本願発明1は,本願出願前に頒布された刊行物である,「石井幸恵他,「MgO単結晶基板の表面処理」電子情報通信学会技術研究報告,Vol.100,No.274,1?5頁,2000年8月22日発行」(以下,「引用例」という。)に記載された発明であるか,引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,または,同条第2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。

3.引用例の記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である引用例(「石井幸恵他,「MgO単結晶基板の表面処理」電子情報通信学会技術研究報告,Vol.100,No.274,1?5頁,2000年8月22日発行」)には,次の事項が記載されている。
(ア)「2.実験方法 試料として・・・MgO単結晶・・・を用意した。そのような試料を・・・500℃?1000℃で12時間熱処理を行った。」(2頁左欄22?27行)
(イ)「3.結果及び考察 ・・・このようなMgO基板に熱処理を施し表面観察を行った。・・・MgOは・・・0.5格子(0.21nm)単位で反応していくと推察される。・・・熱処理温度を高温にすることでバンチングステップを形成していく様子も確認した。・・・1000℃での熱処理では2格子高さのバンチングステップが生じた」(2頁左欄34行?4頁左欄35行)

4.対比・判断
引用例の記載事項(イ)には,「2格子高さのバンチングステップが生じた」ことが記載され,「MgO基板」の「表面観察を行った」ところ「バンチングステップを形成していく様子も確認した」ことが記載されているといえるから,「2格子高さのバンチングステップ」は「MgO基板」の表面に生じたことが自明といえる。
この引用例の記載事項(イ)を本願発明1の記載ぶりに則して整理すると,引用例には,「表面に,2格子高さのバンチングステップが生じたMgO基板」(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで,本願発明1と引用発明とを対比する。

まず,引用発明の「バンチングステップ」の技術的内容についてみると,結晶技術の分野では,一般的に「ステップが収束し大きなステップが形成された」ものを指すことが明らかであるから(要すれば,特開2000-294777号公報の段落【0005】参照),引用発明の「バンチングステップ」は,その形状についてみると,ステップであるといえる。そうすると,引用発明の「2格子高さのバンチングステップ」は,2格子高さのステップであるといえ,本願発明1の「原子層として2?10層分の高さのステップ」と,ステップの高さが特定されている点で共通している。
そして,引用発明の「MgO基板」の技術的内容についてみると,引用例の記載事項(ア)には,「実験方法」として,試料として用意した「MgO単結晶」を「熱処理」することが記載され,記載事項(イ)には,「結果及び考察」として,「MgO基板」に「熱処理」を施し表面観察を行ったことが記載されている。ここで,記載事項(ア)の「実験方法」と,記載事項(イ)の「結果及び考察」は,一連の実験過程を示すことが明らかであるから,記載事項(ア)と(イ)における「熱処理」の対象物,すなわち,「MgO単結晶」と「MgO基板」は同じ物を指していると解され,「MgO基板」は「MgO単結晶基板」であるといえる。

以上のことから,本願発明1と引用発明は,「表面に,特定の高さのステップが形成されてなるMgO単結晶基板」である点で一致するが,以下の点において一応相違する。

相違点:本願発明1のステップの高さは「原子層として2?10層分の高さ」であるのに対し,引用発明のバンチングステップの高さは「2格子高さ」である点。

そこで,この相違点について検討する。

まず,相違点の検討に先立って,本願発明1の特定事項である「原子層として2?10層分の高さ」の技術的内容についてみておくと,上記特定事項に関し,本願明細書には,実施例2として段落【0030】に「各ステップの高さは・・・原子層10個分に相当する約4nmであった」ことが記載されている。原子層の数え方として,「?個分」と「?層分」が同義であることは明らかであるから,上記の記載からみると,原子層1層分の高さは,約0.4nm(約4nm÷10)であるといえる。この点に関連し,本願明細書の段落【0028】には「ステップの高さは・・・原子層2?4層分にほぼ等しい約1.2nmである」と記載されているが,上記のとおり原子層1層分の高さが約0.4nmであるとした場合に,原子層2?4層分の高さは約0.8?1.6nm(約0.4nm×2?約0.4nm×4)であり,「約1.2nm」は約0.8?1.6nmの中間値であることから,「原子層2?4層分にほぼ等しい」として表現された「約1.2nm」は,中間値を代表して記載したものとみることが自然である。そうすると,原子層1層分の高さを約0.4nmとみることは妥当であり,「原子層として2?10層分の高さ」とは,約0.8?4nmであるといえる。
次に,引用発明の「2格子高さ」についてみると,引用例の記載事項(イ)には「0.5格子(0.21nm)」と記載され,0.5格子が0.21nmに等しいことが示されているから,2格子とは0.84nm(0.21nm×4)であるといえる。そうすると,引用発明の「2格子高さ」とは,その高さが「0.84nm」であるといえることから,上記本願発明1の特定事項に関する検討に照らしてみると,引用発明の「2格子高さ」は,本願発明1の「原子層として2?10層分の高さ」との数値範囲に含まれるものである。
以上のことから,本願発明1と引用発明との相違点に係る特定事項に表現上の違いがあるとしても,ステップの高さについて0.84nmである点で重複一致していることから,本願発明1と引用発明とは,実質的な差異があるとはいえない。

なお,請求人は平成21年7月15日付け意見書において,本願発明1と引用発明には(1)使用目的の差異,(2)本願発明1の効果と応用例,の2つの大きな差異があるとし,(1)については「本願発明によるMgO単結晶では,・・・,新たな効果を得ることを目的としており,例えば,・・・,良好な特性を持つ超伝導薄膜の作成があ」る旨,(2)については「微量の酸化物超伝導体Bi2Sr2CaCu2Ox(Bi2212)をMgO基板上にパルスレーザ蒸着法により低温蒸着した後,熱処理を施した薄膜」につき,「本願発明以外のMgO基板ではステップが小さいため,結晶がステップを飛び越えて成長してしまうため細線とはな」らない旨,主張している。
しかしながら,「1.手続の経緯・本願発明」で述べたとおり,本願発明1は,平成18年8月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであって,その特定事項として超伝導薄膜の作成を含むものではないから,請求人の上記主張は請求項の記載に基づかないものであるがゆえに採用することができない。
そして,請求人の上記意見書における「たしかに,・・・,引用例での2格子高さのバンチングステップの場合のみ,本願と同様の構造のものが結果的に生成されます」との主張を勘案しても,本願発明1と引用発明とは,実質的な差異があるとはいえないとする上記判断は妥当であるといえる。

5.むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-03 
結審通知日 2009-08-04 
審決日 2009-08-20 
出願番号 特願2003-86607(P2003-86607)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鮎沢 輝万  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 五十棲 毅
松本 貢
発明の名称 MgO単結晶基板  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ