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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1204622
審判番号 不服2008-24822  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-26 
確定日 2009-09-30 
事件の表示 特願2003-285871「等速自在継手」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月 3日出願公開、特開2005- 54879〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年8月4日の出願であって、平成20年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年9月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年10月22日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたものである。

2.平成20年10月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されたローラ機構とを備え、前記ローラ機構は、脚軸に対して首振り揺動自在で、前記ローラ案内面に沿って外側継手部材の軸線と平行な方向に案内されるローラを有する等速自在継手において、前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さを0.25Ra以下としたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記ローラ機構は、ローラ案内面に案内されるローラと、脚軸の外周面に外嵌されて前記ローラを複数の転動体を介して回転自在に支持するリングとからなるローラアッセンブリ体である請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記ローラ機構は、リングの内周面が円弧状凸断面で、かつ、脚軸の外周面がストレート形状の縦断面である請求項1又は2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記脚軸の横断面を、長軸が継手の軸線に直交する略楕円形とした請求項1乃至3のいずれか一項に記載の等速自在継手。」
と補正された。
上記補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さ」についての「0.35Ra以下」を「0.25Ra以下」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
上記のとおり請求項1の補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
特開2001-208091号公報(以下、「引用例」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 内周部に軸方向の3本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した3本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されたローラ機構とを備え、前記ローラ機構は、前記脚軸に対して首振り揺動自在で、前記ローラ案内面に沿って外側継手部材の軸線と平行な方向に案内されるローラを有する等速自在継手において、
少なくとも1つの構成部品の表層部がマルテンサイトの基地中に炭化物を分散させた組織を有することを特徴とする等速自在継手。」
(い)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や各種産業機械等の動力伝達装置に使用される等速自在継手に関し、特にトリポード型等速自在継手に関するものである。」
(う)「【0016】本発明によれば、構成部品の少なくとも表層部の組織をマルテンサイトの基地(マトリックス)中に炭化物を分散させたものとしたので、表面硬さが高くなり、接触面の耐摩耗性が向上してフレーキングが抑制されると共に、接触面に異物噛み込みによる圧痕が生じにくく、上記の表面起点型損傷も抑制される。そのため、接触面の転動疲労寿命が向上する。」
(え)「【0033】図1に示すように、等速自在継手は外側継手部材10とトリポード部材20とを主体として構成され、連結すべき2軸の一方が外側継手部材10と連結され、他方がトリポード部材20と連結される。
【0034】外側継手部材10は内周部に軸方向に延びる3本のトラック溝12を有する。各トラック溝12の円周方向で向かい合った側壁にそれぞれローラ案内面14が形成されている。トリポード部材20は半径方向に突設した3本の脚軸22を有し、各脚軸22にはローラ34が取り付けてあり、このローラ34が外側継手部材10のトラック溝12内に収容される。ローラ34の外周面34aはローラ案内面14に適合する凸曲面である。
【0035】ここでは、ローラ34の外周面34aは脚軸22の軸線から半径方向に離れた位置に曲率中心を有する円弧を母線とする凸曲面であり、ローラ案内面14の断面形状はゴシックアーチ形状であって、これにより、ローラ34の外周面34aとローラ案内面14とがアンギュラコンタクトをなす。図1(A)に、2つの当たり位置を一点鎖線で示してある。球状のローラ外周面に対してローラ案内面14の断面形状をテーパ形状としても両者のアンギュラコンタクトが実現する。このようにローラ34の外周面34aとローラ案内面14とがアンギュラコンタクトをなす構成を採用することによって、ローラが振れにくくなるため姿勢が安定する。なお、アンギュラコンタクトを採用しない場合には、たとえば、ローラ案内面14を軸線が外側継手部材10の軸線と平行な円筒面の一部で構成し、その断面形状をローラ34の外周面34aの母線に対応する円弧とすることもできる。
【0036】脚軸22の外周面22aに支持リング32が外嵌している。この支持リング32とローラ34とは複数のニードルローラ36を介してアッセンブリ(ユニット化)され、相対回転可能なローラアセンブリを構成している。すなわち、支持リング32の円筒形外周面を内側軌道面とし、ローラ34の円筒形内周面を外側軌道面として、これらの内外軌道面間にニードルローラ36が転動自在に介在する。図1(B)に示されるように、ニードルローラ36は、できるだけ多くのころを入れた、保持器のない、いわゆる総ころ状態で組み込まれている。符号33,35で示してあるのは、ニードルローラ36の抜け落ち止めのためにローラ34の内周面に形成した環状溝に装着した一対のワッシャである。
【0037】脚軸22の外周面22aは、縦断面{図1(A)}で見ると脚軸22の軸線と平行なストレート形状であり、横断面{図1(B)}で見ると、長軸が継手の軸線に直交する楕円形状である。脚軸の断面形状は、トリポード部材20の軸方向で見た肉厚を減少させて略楕円状としてある。言い換えれば、脚軸の断面形状は、トリポード部材の軸方向で互いに向き合った面が相互方向に、つまり、仮想円筒面よりも小径側に退避している。
【0038】支持リング32の内周面32cは円弧状凸断面を有する。すなわち、内周面32cの母線が半径rの凸円弧である{図1(C)}。このことと、脚軸22の断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸22と支持リング32との間には所定のすきまが設けてあることから、支持リング32は脚軸22の軸方向での移動が可能であるばかりでなく、脚軸22に対して首振り揺動自在である。また、上述のとおり支持リング32とローラ34はニードルローラ36を介して相対回転自在にアッセンブリ(ユニット化)されているため、脚軸22に対し、支持リング32とローラ34がユニットとして首振り揺動可能な関係にある。ここで、首振りとは、脚軸22の軸線を含む平面内で、脚軸22の軸線に対して支持リング32およびローラ34の軸線が傾くことをいう(図2参照)。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例には、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「内周部に軸方向の三本のトラック溝12が形成され、各トラック溝12の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面14を有する外側継手部材10と、半径方向に突出した三本の脚軸22を有するトリポード部材20と、前記トリポード部材20の各脚軸22にそれぞれ装着されたローラ機構とを備え、前記ローラ機構は、脚軸22に対して首振り揺動自在で、前記ローラ案内面14に沿って外側継手部材10の軸線と平行な方向に案内されるローラ34を有する等速自在継手。」
(3)対比
本願補正発明と引用例発明とを対比すると、両者は、
「内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されたローラ機構とを備え、前記ローラ機構は、脚軸に対して首振り揺動自在で、前記ローラ案内面に沿って外側継手部材の軸線と平行な方向に案内されるローラを有する等速自在継手」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は、「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さを0.25Ra以下とした」のに対して、引用例発明は、前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さがどの程度のものか不明である点。
(4)判断
上記相違点について検討する。
上記に摘記した引用例の(う)にも記載されているように、一般に、等速自在継手のローラの外周面とローラ案内面等の接触面に耐摩耗性や対損傷性が要求されること、また、例えば特開昭63-38718号公報(特に第2頁左上欄第14行?第3頁左上欄第6行)に示されているように、転動接触する二部材間の潤滑性を改善し、長寿命化を図るために、接触面の表面粗さを相当に小さな好適値・好適範囲に設定することは、当業者にとって技術常識であり、引用例発明の「ローラ案内面14に接触するローラ34の外周面の面粗さ」をそのような相当に小さな値とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。そして、どの程度の値にするかは、用途や所要性能等を考慮して適宜設計する事項にすぎない。
一方、本願発明の「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さを0.25Ra以下とした」という事項の意義について、本願明細書には「耐久寿命後に外側継手部材のローラ案内面に発生する摩耗を10μm以下に抑制することができ、その摩耗に起因する誘起スラストおよびスライド抵抗の低位安定化が図れ、良好なNVH特性を得ることができる」(段落番号【0016】)の記載があり、本願図面【図3】及び【図4】には、それぞれ、「摩耗深さ」と「誘起スラスト」との関係、「面粗さ」と「摩耗深さ」との関係が示されているが、摩耗に関連する他の条件、例えば表面硬さ等の物理的化学的性状のいかんにかかわらず「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さを0.25Ra以下とした」ことによって上記のような効果を奏し得るのかどうかは必ずしも明らかではなく、「0.25Ra」という上限値に格別顕著な技術的意義を認めることはできない。また、本願明細書には「耐久試験後の誘起スラストの目標値を30Nとした」(段落番号【0027】)の記載も認められるが、「誘起スラストの目標値」をどの程度にするかは用途や所要の性能等に応じて適宜設定する事項にすぎず、本願明細書及び図面を参照しても、これを「30N」にすることに格別顕著な意義ないし技術的必然性があるとは認められない。
このように「0.25Ra」という上限値に格別顕著な技術的意義を認めることはできない以上、引用例発明において「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さを0.25Ra以下」の値とすることは、上記の適宜の設計例として当業者が容易に想到し得たものと認められる。
また、トリポード型等速自在継手において、ローラ案内面での摩耗量と誘起スラストのバラツキ等とが関連することは当業者に明らかであるから(例えば、特開2000-256694号公報の特に【0013】、【0024】、【0027】)、ローラの外周面の面粗さの適宜の設定により、ローラ案内面での摩耗量の低減、誘起スラストおよびスライド抵抗の低位安定化が図れるという程度の作用効果は、引用例発明に基づいて当業者が予測し得たものと認められる。

なお、審判請求人は、審判請求の理由において、「従いまして、刊行物1のように処理前の接触面の表面粗さをRa0.2?0.8に規定した技術思想が、本願発明のように処理後のローラ外周面の面粗さを0.25Ra以下に規定する技術思想を示唆しているとは到底言えません。」、「しかしながら、本願発明では、ローラの最終的な外周面の面粗さを0.25Ra以下に規定したことにより、本願発明の図4を見ても明らかなように、耐久寿命後に外側継手部材のローラ案内面での摩耗深さが10μm以下に維持でき(当初明細書の段落番号[0029]参照)、そのローラ案内面に発生する摩耗を著しく抑制することができるという特有の効果を奏します。このような効果を奏する点は刊行物1に全く開示されておらず、それを示唆するような記載も一切ありません。この点からも、本願発明の効果は当業者が予測可能な範囲を超えるものであると思料いたします。」と主張している。
しかしながら、引用例発明において「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さを0.25Ra以下」とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められること、及び、本願発明の作用効果は引用例発明に基づいて当業者が予測し得たものと認められること、はいずれも上述のとおりである。

よって、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
(1)平成20年10月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年6月6日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面からみて、その請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されたローラ機構とを備え、前記ローラ機構は、脚軸に対して首振り揺動自在で、前記ローラ案内面に沿って外側継手部材の軸線と平行な方向に案内されるローラを有する等速自在継手において、前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さを0.35Ra以下としたことを特徴とする等速自在継手。」
(2)引用例
引用例、その記載事項は上記「2.平成20年10月22日付けの手続補正についての補正却下の決定」に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明は、実質的にみて、上記「2.平成20年10月22日付けの手続補正についての補正却下の決定」で検討した本願補正発明の「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さ」についての「0.25Ra以下」を「0.35Ra以下」として、拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項をすべて含み、さらに「前記ローラ案内面に接触する前記ローラの外周面の面粗さ」についての範囲を本願発明より狭く限定したものに相当する本願補正発明が、上記「2.平成20年10月22日付けの手続補正についての補正却下の決定」に記載したとおり、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明が特許を受けることができないものである以上、本願請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-04 
結審通知日 2009-08-05 
審決日 2009-08-19 
出願番号 特願2003-285871(P2003-285871)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 宏和  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 川本 真裕
岩谷 一臣
発明の名称 等速自在継手  
代理人 白石 吉之  
代理人 熊野 剛  
代理人 田中 秀佳  
代理人 城村 邦彦  

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