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審決分類 |
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない E03B 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正しない E03B 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない E03B 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない E03B 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない E03B 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない E03B |
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管理番号 | 1204825 |
審判番号 | 訂正2009-390056 |
総通号数 | 119 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-11-27 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2009-04-27 |
確定日 | 2009-10-07 |
事件の表示 | 特許第3301860号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 本件特許第3301860号に係る特許出願は、平成6年6月14日に出願した特許出願(特願平6-132265号)であり、平成14年4月26日に当該特許権の設定登録がなされた。 2 その後、これに対して平成20年2月29日に特許無効審判(無効2008-800039)が請求され、平成21年1月15日付けで請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされたところ、平成21年2月24日に上記審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に訴えが提起された[平成21(行ケ)第10043号]。 3 その訴えの提起があった日から起算して90日の期間内であって、当該事件について審決の取消しの判決又は審決の取消しの決定がされていない、平成21年4月27日に本件訂正審判が請求された。 4 そして、平成21年5月19日付けで本件訂正審判の手続を中止する旨を請求人に通知したが、請求人より平成21年6月9日付けで上記中止の解除を求める上申書(手続中止解除の申出)が 提出され、当審は、これを審理し上記中止を解除し、平成21年7月7日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、平成21年8月10日付けで意見書が提出された。 第2 請求の趣旨 本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3301860号に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を、審判請求書に添付した全文訂正明細書(以下、「訂正特許明細書」という。)のとおりに訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。 1 訂正事項1 本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項1について、 「【請求項1】中高層建物の各階床に対する給水を、低階床では水道用配水管に直結された低階床側給水管により行ない、中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管に接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」とあるのを、 「【請求項1】中高層建物の各階床に対する給水を、低階床では水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された低階床側給水管により行ない、中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした受水槽を備えない給水システムにおいて、上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」 と訂正する。 (当審注:下線は請求人が付与した。以下同様。) すなわち、訂正事項1は、以下の(ア)ないし(ウ)の訂正事項からなる。 (ア)訂正前の「水道用配水管に直結された低階床側給水管」を「水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された低階床側給水管」と訂正する訂正(以下、「訂正(ア)」という。)。 (イ)訂正前の「給水システム」を「受水槽を備えない給水システム」と訂正する訂正(以下、「訂正(イ)」という。)。 (ウ)訂正前の「上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管に接続して」を「上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に接続して」と訂正する訂正(以下、「訂正(ウ)」という。)。 2 訂正事項2 本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項2について、 「【請求項2】中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割し、下階床群に属する階床に対する給水は水道用配水管に直結された下階床群用給水管により行ない、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」とあるのを、 「【請求項2】中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割し、下階床群に属する階床に対する給水は水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された下階床群用給水管により行ない、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした受水槽を備えない給水システムにおいて、上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に夫々接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」 と訂正する。 すなわち、訂正事項2は、以下の(エ)ないし(カ)の訂正事項からなる。 (エ)訂正前の「水道用配水管に直結された下階床群用給水管」を「水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された下階床群用給水管」と訂正する訂正(以下、「訂正(エ)」という。)。 (オ)訂正前の「給水システム」を「受水槽を備えない給水システム」と訂正する訂正(以下、「訂正(オ)」という。)。 (カ)訂正前の「上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して」を「上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に夫々接続して」と訂正する訂正(以下、「訂正(カ)」という。)。 3 訂正事項3 発明の詳細な説明の欄の段落【0015】について、 「【0015】 【課題を解決するための手段】上記目的は、給水対象となる中高層建物の各階床を高層ゾーンと低層ゾーンに分け、低層ゾーンの階床に対しては、水道用配水管に直結された低階床側給水管により給水し、高層ゾーンの階床では、上記低階床側給水管に吸込管が接続された増圧ポンプを用い、その吐出管に接続された中高階床側給水管により給水するようにしたものである。」とあるのを、 「【0015】 【課題を解決するための手段】上記目的は、給水対象となる中高層建物の各階床を高層ゾーンと低層ゾーンに分け、低層ゾーンの階床に対しては、水道用配水管に直結された低階床側給水管により給水し、高層ゾーンの階床では、上記低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に吸込管が接続された増圧ポンプを用い、その吐出管に接続された中高階床側給水管により給水するようにしたものである。」 と訂正する。 すなわち、訂正事項3は、以下の(キ)の訂正事項からなる。 (キ)訂正前の「上記低階床側給水管に吸込管が接続された増圧ポンプ」を「上記低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に吸込管が接続された増圧ポンプ」と訂正する訂正(以下、「訂正(キ)」という。)。 第3 訂正事項1ないし3についての当審の判断 第3-1 訂正の目的の適否 ア 訂正事項1について (ア) 訂正(ア)について 訂正前の請求項1に記載した「水道用配水管に直結された低階床側給水管」という事項自体は明りょうであり、訂正(ア)は、水道用配水管と低階床側給水管とに介在されない構成要素を「増圧ポンプ」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (イ) 訂正(イ)について 訂正前の請求項1に記載した「給水システム」という事項自体は明りょうであり、訂正(イ)は、給水システムが「受水槽を備えない」点を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (ウ) 訂正(ウ)について 訂正前の請求項1に記載した「上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管に接続して」という事項自体は明りょうであり、訂正(ウ)は、上記増圧ポンプの吸込側が接続される上記低階床側給水管の位置を、上記低階床側給水管「の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 してみると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 イ 訂正事項2について (エ) 訂正(エ)について 訂正前の請求項2に記載した「水道用配水管に直結された低階床側給水管」という事項自体は明りょうであり、訂正(エ)は、水道用配水管と低階床側給水管とに介在されない構成要素を「増圧ポンプ」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (オ) 訂正(オ)について 訂正前の請求項2に記載した「給水システム」という事項自体は明りょうであり、訂正(オ)は、給水システムが「受水槽を備えない」点を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (カ) 訂正(カ)について 訂正前の請求項2に記載した「上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して」という事項自体は明りょうであり、訂正(カ)は、上記専用の増圧ポンプの吸込側が接続されるその階床群の下階床群側の給水管の位置を、その階床群の下階床群側の給水管「の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 してみると、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、請求項1を訂正する訂正事項1に伴って、発明の詳細な説明の段落【0015】の記載を特許請求の範囲と整合させるための訂正であり、明りようでない記載の釈明を目的する訂正に該当する。 したがって、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正(上記訂正事項1、2)を含む訂正である。 第3-2 新規事項の有無 本件特許明細書の記載と、訂正事項1ないし訂正事項3とを比較検討するに、訂正事項1ないし訂正事項3は、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。 第3-3 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 訂正事項1ないし訂正事項3は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 第3-4 独立特許要件 本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第一号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正(上記訂正事項1、2)を含む訂正であるから、同条第5項の規定に基づき、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明(以下、「訂正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。 そこで、訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明のそれぞれについて、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか検討する。 1 訂正発明 訂正後の請求項1、請求項2に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)は、訂正特許明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、下記のとおりのものである。 訂正発明1: 「 【請求項1】中高層建物の各階床に対する給水を、低階床では水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された低階床側給水管により行ない、中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした受水槽を備えない給水システムにおいて、上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」 訂正発明2: 「【請求項2】中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割し、下階床群に属する階床に対する給水は水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された下階床群用給水管により行ない、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした受水槽を備えない給水システムにおいて、上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に夫々接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」 2 刊行物に記載された発明 実願昭58-1506号(実開昭59-107072号公報)のマイクロフイルム(以下、「引用刊行物1」という。) 水道協会雑誌 平成4年2月第61巻第2号第689号(以下、「引用刊行物2」という。) なお、引用刊行物1及び引用刊行物2は、いずれも本件訂正審判の請求にあたり、請求人が提示した刊行物である甲第2号証及び甲第3号証であり、かつ、上記特許無効審判(無効2008-800039)において、上記特許無効審判の請求人が提示した証拠方法でもある。 (1)引用刊行物1【実願昭58-1506号(実開昭59-107072号)のマイクロフィルム】 平成21年7月7日付けで通知した訂正拒絶理由(以下単に「訂正拒絶理由」という)で引用され、本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用刊行物1には、以下に示す(1-1)?(1-6)の事項が記載されている。 (1-1) 「実用新案登録請求の範囲 ビル等の高所への給水システムであって、下部に水を貯める受水槽と下部あるいは任意の階に水を収容する圧力タンクと受水槽から配管を介して前記圧力タンクへ揚水するポンプとを有し、前記圧力タンクは、剛性のある気密構造の中空の本体と、この本体内に柔軟弾性材によりなる袋体を有しこの袋体内へ水を収納するようになし、かつ、前記本体と袋体間の液体を収納する側と反対側に気体が密封してある給水装置において数階毎にポンプと圧力容器を逆止弁を介して配置し、数階毎の前記ポンプ逆止弁、圧力容器を送水管により直列に複数配置したことを特徴とする圧力容器。」(明細書第1ページ第3?15行) (1-2) 「考案の詳細な説明 本考案は、ビル等の高所への給水装置に関するものである。 従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け、ビルの屋上に開放形の高過水槽を設置したもの、中空気密構造で剛性容器からなる本体内に柔軟弾性部材よりなる変形自在の袋体又は隔膜を有し、袋体又は隔膜と本体間に気体を加圧封入してある給水圧力タンクを地上あるいは任意の階に設置し、前記袋体内又は隔膜を介しての一方の側にポンプから揚水した水を一時収納するようにした給水装置、さらにはバリアブルポンプによる給水システムがある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし、さらに吐出量も時間平均使用量の2?3倍のポンプ又はバリアブルポンプが使用され、設備費、運転費等も高価であり、またポンプ吐出口にかかるウォータハンマー等も大きく故障の原因ともなる。」(明細書第1ページ第16行?第2ページ第15行) (1-3) 「本考案の目的は、従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し、低い揚程のポンプを使用し、揚水管を介して直列に接続することによりポンプの設備費を下げるとともに、運転費をも少なくできる給水装置を提供するものである。」(明細書第2ページ第16行?第3ページ第2行) (1-4) 「本考案の要旨とするところは、ビル等の高所への給水装置において、数階毎に低楊程のポンプ逆止弁と内部に液体を収納する袋体を有した圧力容器とを送水管を介し直列に配置した給水装置であって以下実施例を図面により説明する。」(明細書第3ページ第3?7行) (1-5) 「第3図は、下部受水槽より下部ポンプ12により下部圧力タンク11と連通する下部送水管13を介して上部ポンプ22の吸込側へ揚水するようにし、さらに上部ポンプ22により上部圧力タンク21と連通する上部送水管23を介して各階へ揚水する給水装置であり各ポンプ吐出側と圧力タンクとの間には逆止弁15を設けてある。この場合下部で水を使用した場合、一旦下部圧力タンク11内に収容された水は排出され、ある設定圧力以下になると下部ポンプ12が起動し、揚水を開始する。水の使用が止まった後も下部ポンプ12は、揚水を継続し、下部圧力タンク11内へ送水し、設定最高圧力になると、下部ポンプは停止する。この状態で上部において水の使用が開始されると、一旦上部圧力タンク21内に収容された水が排出され、その圧力タンク21位置での低圧側設定圧力以下になると上部ポンプ22が起動する。上部ポンプ22の起動後は、下部圧力タンク11より水が加圧供給され、さらに水の使用が継続されると、下部圧力タンク11の位置での低圧側設定圧力以下となり下部ポンプ12が起動し上部へ給水する。 下部ポンプ12は下部圧力タンク11近くに取付けた圧力スイッチ17により起動、停止を制御し、上部ポンプ22は、上部圧力タンク21近くに取付けた圧力スイッチ27により起動、停止を制御する。」(明細書第3ページ第8行?第4ページ第12行) (1-6) 「以上のように本考案の効果は、ポンプと圧力タンクを数階毎に設置することにより、各々のポンプの運転時間を少なくし、下部にポンプ1台を設置したのに比べて、設備費、運転費供安くすることができ、さらに従来の給水装置の場合に生じる最上階と、一階の給水圧力差をほとんどなくすことができ、長い揚水管を持つ給水装置において発生するウォータハンマー等もなくすことができる等、すぐれた効果を奏するものである。」(明細書第4ページ第13行?第5ページ第1行) ア 記載事項(1-1)から「ビル等の高所への給水システム」を読み取ることができる。そして、第3図には、1階から6階の各階に給水することが図示されているから、ビルの各階に対して給水する給水システムを読み取ることができる。 イ 第3図は、数階毎にポンプを設置した、ビル等の高所への給水システムの実施例を示す図であり、具体的には、上記ポンプが3階毎に設置された給水システムが第3図に図示されており、第3図の記載から、1階から3階では下部送水管13により給水を行なうこと、及び4階から6階では上部送水管23により給水を行なうことを読み取ることができる。 ウ 第3図の記載から、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13を読み取ることができる。 エ 第3図の記載から、上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23を読み取ることができる。 オ したがって、上記アないしエから、ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行なう給水システムを読み取ることができる。 カ また、第3図の記載から、上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続して給水を行なうように構成したことを読み取ることができる。 よって、記載事項(1-1)ないし記載事項(1-6)及び図面からみて、引用刊行物1には、 「ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行なう給水システムにおいて、上記上部ポンプ22の吸込側を上記下部送水管13に接続して給水を行なうように構成したビル等の高所への給水システム。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 そして、引用刊行物1には、以下の発明も記載されている。 ア 記載事項(1-1)から「ビル等の高所への給水システム」を読み取ることができる。 そして、第3図には、1階から6階の各階床に給水することが図示されているが、記載事項(1-3)の「数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し」等の記載からみて、図示はされていないが、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定していることは明らかである。 したがって、記載事項(1-1)、(1-3)、及び第3図の記載から、ビルの各階に対して給水する給水システムを読み取ることができる。 イ (ア)第3図は、数階毎にポンプを設置した、ビル等の高所への給水システムの実施例を示す図であり、具体的には、上記ポンプが3階毎に設置された給水システムが第3図に図示されており、第3図の記載から、1階から3階では下部送水管13により給水を行なうこと、及び4階から6階では上部送水管23により給水を行なうことを読み取ることができる。 (イ)第3図の記載から、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13、及び上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23を読み取ることができる。 (ウ)「ア」の項で述べたように、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定しており、7階建て、8階建て、9階建て以上の階数に応じて、7階では、7階から8階では、7階から9階では、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により給水を行なうことを読み取ることができる。なお、上記「7階では、7階から8階では、7階から9階では」を、これ以降、7階から所定の階ではと呼称する。 (エ) したがって、ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により給水を行なう給水システムを読み取ることができる。 ウ 第3図の記載から、上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続して給水を行なうように構成したことを読み取ることができる。 エ 第3図の記載から、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吸込側を上部送水管23に接続して給水を行なうように構成したことを読み取ることができる。 よって、記載事項(1-1)ないし記載事項(1-6)及び図面からみて、引用刊行物1には、 「ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により行なう給水システムにおいて、上記上部ポンプ22の吸込側を上記下部送水管13に接続して給水を行ない、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吸込側を上記上部送水管23に接続して給水を行なうように構成したビル等の高所への給水システム。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 (2)引用刊行物2【水道協会雑誌、平成4年2月第61巻第2号(第689号)】 同じく、訂正拒絶理由で引用され、本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用刊行物2には、以下に示す(2-1)?(2-5)の事項が記載されている。 (2-1) 「1.はじめに 近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm2)以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合,これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(第34頁左欄第1行?同右欄第2行) (2-2) 「2.ブースタ装置外観 図-1にブースタ装置外形図を示す。 800×800mmのべース上に2台のステンレスプレス製の陸上ポンプと吸込,吐出配管,吐出側圧力タンク,制御盤,バルブ類が搭載されている。 2台のポンプ吸込側と吐出配管の合計3箇所にメンテナンス用のバタフライ弁がある。各ポンプの吐出側はフロースイッチ,逆止弁を介して吐出し曲管へ配管される。 吸込管は逆止弁を介して吐出管へポンプをバイパスするように配管され,十分な入口圧力がある場合はこの経路でポンプを必要とせずに給水できる。圧力センサは配管の吸込側と吐出側にそれぞれ1個づつ付いている。」(第35頁左欄第3行?第36頁右欄第3行) (2-3) 「3.ブースタ装置運転フロー ブースタ装置の運転フローを図-2に示す。 2台のポンプがそれぞれ独立してインバータに接続され可変速運転するようになっている。同時に2台が並列運転することはなく,停止するたびに始動ポンプを切り替える単独交互方式である。」(第36頁右欄第8?13行) (2-4) 「3.1 基本動作 装置を起動すると,1号又は2号のいずれか一方のポンプが起動する。水量が減少しポンプを停止させた後運転ポンプを切り替える。 流量が増大すると回転速度が上昇し,流量が減少すると回転速度を下げて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。また,入口圧力が増大すると回転速度が減少し,入口圧力が減少すると回転速度を上昇させて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。流量の増減,入口圧力の増減により前記動作をくり返す。 また,入口圧力が増大し吐出設定圧力以上になると,ポンプは自然停止し,バイパス配管を通って給水する。」(第36頁右欄第14行?第37頁左欄第6行) (2-5) 「4.検証試験 1991年10月より,上記ブースタ装置を実際の住宅に据え付けて検証試験を行った。 試験現場として選定したのは,横須賀市内の5階建て40戸の集合住宅で,現在41m3の受水槽を持ち,圧力タンク方式の給水装置で給水している。住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm2)以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」(第37頁右欄第7?16行) 3 訂正発明1の独立特許要件について (1)訂正発明1 訂正発明1は、「第2-4 独立特許要件 1 訂正発明」の項に記載したとおりである。 (2)引用刊行物1に記載された発明 引用発明1は、「第2-4 独立特許要件 2 刊行物に記載された発明」の項に記載したとおりである。 (3)対比 訂正発明1と引用発明1とを比較すると、 ア 引用発明1の「ビル等」、「各階」は、訂正発明1の「中高層建物」、「各階床」に、それぞれ相当する。 イ 引用発明1の「1階から3階」は、訂正発明1の「低階床」に相当し、また、引用発明1の「下部送水管13」は、訂正発明1の「低階床」に相当する1階から3階に給水を行なう配管であるから、「低階床側給水管」に相当する。 したがって、引用発明1の「給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行ない」と訂正発明1の「給水を、低階床では水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された低階床側給水管により行ない」とは、給水を、低階床では低階床側給水管により行なう点で共通する。 ウ 引用発明1の「4階から6階」、「上部ポンプ22」、「行なう」は、訂正発明1の「中高階床」、「増圧ポンプ」、「行なうようにした」に、それぞれ相当する。 また、引用発明1の「上部送水管23」は、訂正発明1の「中高階床」に相当する4階から6階に給水を行なう配管であるから、訂正発明1の「中高階床側給水管」に相当する。 したがって、引用発明1の給水を「4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行なう」は、訂正発明1の給水を「中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした」に相当する。 また、引用発明1の「給水システム」と訂正発明1の「受水槽を備えない給水システム」とは給水システムの点で共通する。 エ 引用発明1の「上記上部ポンプ22」、「上記下部送水管1」は、訂正発明1の「上記増圧ポンプ」、「上記低階床側給水管」に相当するから、引用発明1の「上記上部ポンプ22の吸込側を上記下部送水管13に接続して」と訂正発明1の「上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に接続して」とは、上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管に接続してという点で共通する。 オ 引用発明1の対象である「ビル等の高所への給水システム」は、上部ポンプ22、下部ポンプ12によって給水圧力を増圧させていることが明らかであるから、訂正発明1の対象である「中高層建物用増圧給水システム」に相当する。 したがって、訂正発明1と引用発明1の両者は、 「中高層建物の各階床に対する給水を、低階床では低階床側給水管により行ない、中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管に接続して給水を行なうように構成した中高層建物用増圧給水システム。」の点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1?1] 低階床に対する低階床側給水管により行う給水について、訂正発明1では、水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結されて行われるのに対して、引用発明1では、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給されて行われる点。 [相違点1?2] 給水システムが、訂正発明1では、受水槽を備えないものであるのに対して、引用発明1では、下部受水槽を備えたものである点。 [相違点1?3] 増圧ポンプの吸込側を低階床側給水管に接続する位置が、訂正発明1では、低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置であるのに対して、引用発明1では、そのように限定されていない点。 (4) 判断 ア 相違点1?1、相違点1?2 (ア)引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程) 引用刊行物1の記載事項(1-2)に、「従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け、・・・ようにした給水装置、さらにはバリアブルポンプによる給水システムがある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載され、また、記載事項(1-2)に、「本考案の目的は、従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに」と記載されている。 これらの記載をまとめると、従来の下部ポンプのみでビル等の高所に給水する場合、その下部ポンプ12の揚水能力は、そのポンプが給水するビルの最上階の高さでは十分ではなく、更に10m程度高い揚程を必要とするということである。 引用発明1の下部ポンプ12について、その揚水能力(揚程)について検討するに、駆動ポンプとして下部ポンプ12のみを使用して1階から3階まで給水するから、上述した従来の下部ポンプと同様に、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、3階の高さに加えて更に10m程度高い揚程能力を有することは明らかである。 具体的には、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度で十分であることは当業者において自明である。 そして、引用発明1において、4階以上への給水は上部ポンプ22等のポンプによって更に給水が増圧されるから、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、各階に給水するために必要な下部ポンプ12の揚水能力は、1階から3階までの揚水能力である概ね20m程度で十分である。このことは、引用刊行物1の記載事項(1-3)の「低い揚程のポンプを使用し」という記載からも明らかである。 したがって、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、概ね20m程度である。 (イ)引用刊行物2の記載から把握される技術常識 a 直結給水 引用刊行物2には、「要旨-横須賀市において、直結給水範囲拡大に当たり、既存の配水圧力で直結給水できない地域」との記載や引用刊行物2の記載事項(2-1)の「3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。」との記載から、引用刊行物2が頒布された平成4年2月、すなわち本件特許の出願前において、「直結給水」が実施されていたことは明らかである。 b 配水管圧力(水道本管圧力) 引用刊行物2の記載事項(2-5)には、 「住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm2)以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」と記載され、また、引用刊行物2の水道本管の圧力変動を図示した図-8には、水道本管の圧力は概ね2.8kgf/cm2であることが記載されている。 これらの記載からみて、引用刊行物2には、高台ではない場所に配管された場合には、水道本管圧力は、約3kgf/cm2程度である点が記載されているものといえ、この場合、水道本管の揚水能力は約30m程度となる。 c 直結給水できる範囲 引用刊行物2の記載事項(2-1)には、 「1. はじめに 近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm2)以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(第34頁左欄第1行?同右欄第2行)と記載されている。 してみると、地盤が高くない給水区域内に建てられた余り高くない、例えば5階未満の建物に対して、給水管内圧力をブースタ装置で加圧することなく既存の配水管圧力(水道本管圧力)のみで直接給水できる点は、当業者が引用刊行物2の記載から把握できる事項といえる。 また、この記載から、配水管圧力(水道本管圧力)で給水が可能できる範囲は、配水管圧力(水道本管圧力)の高低によっても決まることは自明な事項である。 更に、引用刊行物2の記載事項(2-1)の趣旨は、「3階建て以上の」例えば「5階」や「6階以上の」「建物への直接給水が検討されて」おり、この場合には「給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる」ことであるといえるので、当業者がこの趣旨を踏まえたならば、既存の配水管圧力のみで直結給水できる建物の範囲は、既存の配水管圧力によって概ね3階程度までである点、すなわち、建物の3階程度までであれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とせず、既存の配水管圧力のみで直結給水できる点も、当業者が引用刊行物2の記載から把握できる事項といえる。 してみると、建物が、既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた場合、水道本管圧力による揚水能力と水道が使用される住居の部屋の高さとの関係から、その建物の1階から3階程度までは、水道本管圧力を利用すれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく、水道管からの直結給水が可能であることは、当業者において引用刊行物2の記載から把握される技術常識であるといえる。 また、引用刊行物2の記載事項(2-1)からみて、給水方式には、増圧ポンプを有する受水槽を備えた給水方式や、既存の配水管圧力で直結給水する受水槽を備えない給水方式などがあることも、当業者において引用刊行物2の記載から把握される技術常識であるといえる。 (ウ)引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)と引用刊行物2の記載から把握される技術常識との関係 そして、この項の「(ア)」で述べたように、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、概ね20m程度であり、また、この項の「(イ)b」で述べたように、引用刊行物2の記載から把握される技術常識における水道本管圧力の揚水能力は約30m程度であるから、水道本管圧力の揚水能力は引用発明1における「下部ポンプ12」のものと同等以上である。 (エ)小括 してみると、上記引用刊行物2の記載から把握される技術常識を有する当業者が、上記引用発明1に接したとき、引用発明1における1階から3階に対する下部送水管13により行う給水を、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給されるものから、上記技術常識に係る、水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結されるものに代えて、水道本管の給水圧力のみを利用した、「受水槽を備えない給水システム」に変更することは当業者が容易に想到し得る事項である。 したがって、相違点1?1及び相違点1?2に係る訂正発明1の構成要件は、いずれも引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。 イ 相違点1?3 引用発明1は、1階から3階に対する給水を下部送水管13により行う給水システムであるが、この給水システムとしての当然の機能として、1階から3階の中で最も水圧が低くなり得る一番高い階である3階においても、少なくとも生活に必要な程度の給水圧は確保されるようになされているはずである。すなわち、引用発明1では下部送水管13の約3階位置での水圧は概ね生活に必要な程度の給水圧が確保されているものといえる。そして、引用発明1において、下部送水管13の約3階位置とは「上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続」する位置とほぼ等しい。とすれば、引用発明1では「上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続」する位置での水圧は概ね生活に必要な程度の給水圧が確保されているものといえる。 ここで、原則として数値範囲の最適化又は好適化を計ることは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、更に上記「生活に必要な程度の給水圧」の数値範囲として「0.2?0.5kgf/cm2程度」は常識的な値に過ぎないことから、上記「生活に必要な程度の給水圧」の数値範囲を「0.2?0.5kgf/cm2程度」と具体化することに格別の困難性はない。 よって、当業者が引用発明1において「上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続」する位置を「下部送水管13」の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に限定することは、容易に想到し得るものと認められる。 なお、増圧ポンプの吸込側を低階床側給水管に接続する位置を、相違点1?3に係る訂正発明1のように、「低階床側給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置」と限定する技術的意義について検討する。 訂正特許明細書には、訂正発明1の実施例について説明した箇所において上記位置の限定に関して、以下の記載がある。 「【0017】 【実施例】以下、本発明による中高層建物用増圧給水システムについて、図示の実施例により詳細に説明する。図1は、6階建のビルを給水対象の建物とし、その1階から3階までを低層ゾーン(低階床群)、4階から6階までを高層ゾーン(高階床群)に分けて本願発明を適用した場合の実施例で、特許請求の範囲の第1項に対応したものであり、・・・以下、・・・」 【0018】なお、以下、この実施例の説明では、給水管3、8について、夫々低層ゾーン用給水管3と、高層ゾーン用給水管8とに分けて説明する。まず、この実施例では、増圧ポンプ4の吸込管は、低層ゾーン用給水管3の一部で、0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置、例えば給水管3の立上り配管の一部などに接続されており、その吐出管は、高層ゾーン用給水管8に接続されている。そして、この実施例では、水道配水管1から供給される水道水の圧力が略20m以上期待できるものとしてあり、この結果、低層ゾーン用給水管3に接続されている1階から3階までの各階床にある水栓10a?10cには、水道配水管1の水圧により、直接、給水が得られるようになっている。」 そして、図1には、増圧ポンプ4の吸込管と低層ゾーン用給水管3の立上り配管との接続位置が、中高層建物の3階と4階の間であることが図示されている。 これらの記載からみて、訂正特許明細書には、増圧ポンプの吸込側を低階床側給水管に接続する位置を、低階床側給水管、即ち、低層ゾーン用給水管3の「0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置」と限定したことについての技術的意義が明記されているものとはいえず、よって係る技術的意義は必ずしも明確であるものとはいえない。 しいていえば、 (ア)水道配水管1から供給される水道水の圧力が略20m以上期待できる場合、増圧ポンプの吸込側と低階床側給水管に接続する位置が、中高層建物の3階と4階の間であること (イ)上記接続する位置における水圧について「0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる」とは、低階床の中で一番高い階床においても、低階床側給水管から供給される水道水の水圧により、生活に必要な給水圧が確保できるということである。 しかしながら、上記(ア)については、引用発明1の「上部ポンプ22の吸込側」と「下部送水管13」との接続位置は、引用刊行物1の第3図の記載からみて、建物の3階と4階の間であるから、引用発明1との比較において格別なものとまではいえない。 また、上記(イ)についても、上述したとおり、引用発明1は、1階から3階の中で最も水圧が低くなり得る一番高い階である3階においても、少なくとも生活に必要な程度の給水圧は確保されているのであるから、やはり引用発明1との比較において格別なものとまではいえない。 したがって、相違点1?3に係る訂正発明1の構成要件は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。 また、訂正発明1によってもたらされる効果は、引用刊行物1、2の記載から当業者が予測し得る程度のものである。 よって、訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)訂正発明1の独立特許要件のまとめ したがって、訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 訂正発明2の独立特許要件について (1)訂正発明2 訂正発明2は、「第2-4 独立特許要件 1 訂正発明」の項に記載したとおりである。 (2)引用刊行物1に記載された発明 引用発明2は、「第2-4 独立特許要件 2 刊行物に記載された発明」の項に記載したとおりである。 (3) 対比 訂正発明2と引用発明2とを比較すると、 ア 引用発明2の「ビル等」、「各階」は、訂正発明2の「中高層建物」、「各階床」に、それぞれ相当する。 イ 引用発明2は、ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部送水管13により行ない、4階から6階では上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により行なうから、ビル等の各階は、訂正発明2のように、「下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割」されているといえる。 ウ 引用発明2の「1階から3階」は訂正発明2の「下階床群に属する階床」に相当し、以下同様に、「4階から6階」及び「7階から所定の階」は「下階床群以外の階床群に属する階床」に、「行なう」は「行なうようにした」に、それぞれ相当する。 エ 引用発明2の「下部送水管13」は、訂正発明2の「下階床群に属する階床」に相当する1階から3階に給水を行なう配管であるから、「下階床群用給水管」に相当する。引用発明2の「上部送水管23」、「送水管」は、訂正発明2の「下階床群以外の階床群に属する階床」に相当する4階から6階、7階から所定の階に給水を行なう配管であるから、いずれも本件発明2の「高階床群用給水管」に相当する。 オ 引用発明2の「給水を、1階から3階では、下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行ない」と訂正発明2の「下階床群に属する階床に対する給水は水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結された下階床用給水管により行ない」とは、下階床群に属する階床に対する給水は下階床用給水管により行なう点で共通する。 カ 引用発明2の「上部ポンプ22」は4階から6階に給水し、「上部ポンプより上方に設置されるポンプ」は7階から所定の階に給水するから、引用発明2の「上部ポンプ22」及び「上部ポンプより上方に設置されるポンプ」は、訂正発明2の「各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプ」に相当する。 引用発明2の「給水システム」と訂正発明2の「受水槽を備えない給水システム」とは、給水システムの点で共通する。 したがって、引用発明2の「4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により行なう給水システム」と訂正発明2の「下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした受水槽を備えない給水システム」とは、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした給水システムの点で共通する。 キ 引用発明2の「上記上部ポンプ22」及び「上部ポンプ22より上方に設置されるポンプ」は、訂正発明2の「上記専用の増圧ポンプ」に相当する。 したがって、引用発明2の「上記上部ポンプ22の吸込側を上記下部送水管13に接続して給水を行ない、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吸込側を上記上部送水管23に接続して」は、訂正発明2の「上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に夫々接続して給水を行なうように構成したこと」とは、上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続してという点で共通する。 ク 引用発明2の対象である「ビル等の高所への給水システム」は、上部ポンプ22、下部ポンプ12、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプによって給水圧力を増圧させていることが明らかであるから、訂正発明2の対象である「中高層建物用増圧給水システム」に相当する。 したがって、訂正発明2と引用発明2の両者は、 「中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割し、下階床群に属する階床に対する給水は下階床群用給水管により行ない、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して給水を行なうように構成した中高層建物用増圧給水システム。」の点で一致し、次の点で相違する。 [相違点2-1] 下階床群に属する階床に対する下階床群用給水管により行う給水について、訂正発明2では、水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結されて行なわれるのに対して、引用発明2では、下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給されて行なわれる点。 [相違点2?2] 給水システムが、訂正発明2では、受水槽を備えないものであるのに対して、引用発明2では、下部受水槽を備えたものである点。 [相違点2?3] 専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に接続する位置が、訂正発明2では、その階床群の下階床群側の給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置であるのに対して、引用発明2では、そのように限定されていない点。 (4) 判断 ア 相違点2?1、相違点2?2 (ア)引用発明2の下部ポンプ12の揚水能力(揚程) 引用刊行物1の記載事項(1-2)に、「従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け、・・・ようにした給水装置、さらにはバリアブルポンプによる給水システムがある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載され、また、記載事項(1-2)に、「本考案の目的は、従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに」と記載されている。 これらの記載をまとめると、従来の下部ポンプのみでビル等の高所に給水する場合、その下部ポンプ12の揚水能力は、そのポンプが給水するビルの最上階の高さでは十分ではなく、更に10m程度高い揚程を必要とするということである。 引用発明2の下部ポンプ12について、その揚水能力(揚程)について検討するに、駆動ポンプとして下部ポンプ12のみを使用して1階から3階まで給水するから、上述した従来の下部ポンプと同様に、引用発明2の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、3階の高さに加えて更に10m程度高い揚程能力を有することは明らかである。 具体的には、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、引用発明2の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度で十分であることは当業者において自明である。 そして、引用発明2において、4階以上への給水は上部ポンプ22等のポンプによって更に給水が増圧されるから、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、各階に給水するために必要な下部ポンプ12の揚水能力は、1階から3階までの揚水能力である概ね20m程度で十分である。このことは、引用刊行物1の記載事項(1-3)の「低い揚程のポンプを使用し」という記載からも明らかである。 したがって、引用発明2の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、概ね20m程度である。 (イ)引用刊行物2の記載から把握される技術常識 a 直結給水 引用刊行物2には、「要旨-横須賀市において、直結給水範囲拡大に当たり、既存の配水圧力で直結給水できない地域」と記載や引用刊行物2の記載事項(2-1)の「3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。」との記載から、引用刊行物2が頒布された平成4年2月、すなわち本願の出願前において、「直結給水」は実施されていたことは明らかである。 b 配水管圧力(水道本管圧力) 引用刊行物2の記載事項(2-5)には、 「住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm2)以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」と記載され、また、引用刊行物2の水道本管の圧力変動を図示した図-8には、水道本管の圧力は概ね2.8kgf/cm2であることが記載されている。 これらの記載からみて、引用刊行物2には、高台ではない場所に配管された場合には、水道本管圧力は、約3kgf/cm2程度である点が記載されているものといえ、この場合、水道本管の揚水能力は約30m程度となる。 c 直結給水できる範囲 引用刊行物2の記載事項(2-1)には、 「1. はじめに 近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm2)以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(第34頁左欄第1行?同右欄第2行)と記載されている。 してみると、地盤が高くない給水区域内に建てられた余り高くない、例えば5階未満の建物に対して、給水管内圧力をブースタ装置で加圧することなく既存の配水管圧力(水道本管圧力)のみで直接給水できる点は、当業者が引用刊行物2の記載から把握できる事項といえる。 また、この記載から、配水管圧力(水道本管圧力)で給水が可能できる範囲は、配水管圧力(水道本管圧力)の高低によっても決まることは自明な事項である。 更に、引用刊行物2の記載事項(2-1)の趣旨は、「3階建て以上の」例えば「5階」や「6階以上の」「建物への直接給水が検討されて」おり、この場合には「給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる」ことであるといえるので、当業者がこの趣旨を踏まえたならば、既存の配水管圧力のみで直結給水できる建物の範囲は、既存の配水管圧力によって概ね3階程度までである点、すなわち、建物の3階程度までであれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とせず、既存の配水管圧力のみで直結給水できる点も、当業者が引用刊行物2の記載から把握できる事項といえる。 してみると、建物が、既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた場合、水道本管圧力による揚水能力と水道が使用される住居の部屋の高さとの関係から、その建物の1階から3階程度までは、水道本管圧力を利用すれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく、水道管からの直結給水が可能であることは、当業者において引用刊行物2の記載から把握される技術常識であるといえる。 また、引用刊行物2の記載事項(2-1)からみて、給水方式には、増圧ポンプを有する受水槽を備えた給水方式や、既存の配水管圧力で直結給水する受水槽を備えない給水方式などがあることも、当業者において引用刊行物2の記載から把握される技術常識であるといえる。 (ウ)引用発明2の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)と引用刊行物2の記載から把握される技術常識との関係 そして、この項の「(ア)」で述べたように、引用発明2の下部ポンプ12の揚水能力は、概ね20m程度であり、また、この項の「(イ)b」で述べたように、引用刊行物2の記載から把握される技術常識における水道本管圧力の揚水能力は約30m程度であるから、水道本管圧力の揚水能力は引用発明2における「下部ポンプ12」のものと同等以上である。 (エ)小括 してみると、上記引用刊行物2の記載から把握される技術常識を有する当業者が、上記引用発明2に接したとき、引用発明2における1階から3階に対する下部送水管13により行う給水を、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給されるものから、上記技術常識に係る、水道用配水管に増圧ポンプを介さずに直結されるものに代えて、水道本管の給水圧力のみを利用した、「受水槽を備えない給水システム」に変更することは当業者が容易に想到し得る事項である。 したがって、相違点2?1及び相違点2?2に係る訂正発明2の構成要件は、いずれも引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。 イ 相違点2?3 引用発明2は、1階から3階に対する給水を下部送水管13により行う給水システムであるが、この給水システムとしての当然の機能として、1階から3階の中で最も水圧が低くなり得る一番高い階である3階においても、少なくとも生活に必要な程度の給水圧は確保されるようになされているはずである。すなわち、引用発明2では下部送水管13の約3階位置での水圧は概ね生活に必要な程度の給水圧が確保されているものといえる。そして、引用発明2において、下部送水管13の約3階位置とは「上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続」する位置とほぼ等しい。とすれば、引用発明2では「上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続」する位置での水圧は概ね生活に必要な程度の給水圧が確保されているものといえる。 ここで、原則として数値範囲の最適化又は好適化を計ることは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、更に上記「生活に必要な程度の給水圧」の数値範囲として「0.2?0.5kgf/cm2程度」は常識的な値に過ぎないことから、上記「生活に必要な程度の給水圧」の数値範囲を「0.2?0.5kgf/cm2程度」と具体化することに格別の困難性はない。 よって、当業者が引用発明2において「上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続」する位置を「下部送水管13」の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置に限定することは、容易に想到し得るものと認められる。 なお、専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に接続する位置を、相違点2?3に係る訂正発明2のように、「その階床群の下階床群側の給水管の0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置」と限定する技術的意義について検討する。 訂正特許明細書には、訂正発明2の実施例について説明した箇所において上記位置の限定に関して、以下の記載がある。 「【0031】次に、本発明の他の実施例について説明する。図4は、給水対象となる建物が9階建てのビルで、これを1階から3階までの低層ゾーン(低階床群)と、4階から6階までの中層ゾーン(中階床群)、それに7階から9階までの高層ゾーン(高階床群)に分け、それに本発明を適用した場合の一実施例で、特許請求の範囲の第2項に記載の発明に対応したものであり、図から明らかなように、この実施例は、図1の実施例に、さらに増圧ポンプ40と逆止弁50、7階から9階までの各階床の水栓10g、10h、10iに接続された高層ゾーン用の給水管80、圧力センサ120、140、流量センサ130、圧力タンク150、それに制御装置160を加えたものであり、従って、その他は、図1の実施例と同じであるが、以下、この実施例では、4階から6階までの階床を中層ゾーンと記し、7階から9階までの階床を高層ゾーンと記すことにする。なお、1階から3階までの低層ゾーンについては、図1の実施例と同じである。 【0032】増圧ポンプ40の吸込管は、中層ゾーン用給水管8の一部で、第1段目の増圧ポンプ4により0.2?0.5Kgf/cm2 程度の水圧が確保できる位置、例えば給水管8の立上り配管の一部などに接続されており、その吐出管は、高層ゾーン用給水管80に接続されている。そして、この高層ゾーン用給水管80には、上記したように7階から9階までの各階床の水栓10g、10h、10iが接続されている。」 そして、図4には、増圧ポンプ4の吸込管と低層ゾーン用給水管3の立上り配管との接続位置が、中高層建物の3階と4階の間であること、及び増圧ポンプ40の吸込管と中層ゾーン用給水管8の立上り配管との接続位置が、中高層建物の6階と7階の間であることが図示されている。 これらの記載からみて、訂正特許明細書には、専用の増圧ポンプの吸込側を、その階床群の下階床群側の給水管に接続する位置を、その階床群の下階床群側の給水管の「0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置」と限定したことについての技術的意義が明記されているものとはいえず、よって係る技術的意義は必ずしも明確であるものとはいえない。 しいていえば、 (ア)水道配水管1から供給される水道水の圧力が略20m以上期待できる場合、専用の増圧ポンプである、例えば増圧ポンプ4の吸込側と低層ゾーン用給水管3に接続する位置が、中高層建物の3階と4階の間であること (イ)上記接続する位置における水圧について「0.2?0.5kgf/cm2程度の水圧が確保できる」とは、例えば、低階床群に属する階床の中で一番高い階床においても、低層ゾーン用給水管3から供給される水道水の水圧により、生活に必要な給水圧が確保できるということである。 しかしながら、上記(ア)については、引用発明2の「上部ポンプ22の吸込側」と「下部送水管13」との接続位置は、引用刊行物1の第3図の記載からみて、建物の3階と4階の間であるから、引用発明2との比較において格別なものとまではいえない。 また、上記(イ)についても、上述したとおり、引用発明2は、1階から3階の中で最も水圧が低くなり得る一番高い階である3階においても、少なくとも生活に必要な程度の給水圧は確保されているのであるから、やはり引用発明2との比較において格別なものとまではいえない。 したがって、相違点2?3に係る訂正発明2の構成要件は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。 また、訂正発明2によってもたらされる効果は、引用刊行物1、2の記載から当業者が予測し得る程度のものである。 よって、訂正発明2は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)訂正発明2の独立特許要件のまとめ したがって、訂正発明2は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、訂正発明1及び2は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第5項の規定に適合しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-18 |
結審通知日 | 2009-08-20 |
審決日 | 2009-09-02 |
出願番号 | 特願平6-132265 |
審決分類 |
P
1
41・
841-
Z
(E03B)
P 1 41・ 121- Z (E03B) P 1 41・ 851- Z (E03B) P 1 41・ 856- Z (E03B) P 1 41・ 854- Z (E03B) P 1 41・ 855- Z (E03B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河本 明彦 |
特許庁審判長 |
江塚 政弘 |
特許庁審判官 |
森口 正治 飯野 茂 |
登録日 | 2002-04-26 |
登録番号 | 特許第3301860号(P3301860) |
発明の名称 | 中高層建物用増圧給水システム |
代理人 | 特許業務法人 武和国際特許事務所 |