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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない E03C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない E03C
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない E03C
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正しない E03C
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない E03C
管理番号 1204826
審判番号 訂正2009-390058  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2009-04-27 
確定日 2009-10-07 
事件の表示 特許第3392390号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第3392390号に係る特許出願は、平成6年6月14日に出願した特願平6-132265号の出願の一部を平成12年4月7日に出願した特許出願(特願2000-106839号)であり、平成15年1月24日に当該特許権の設定登録がなされた。
2 その後、これに対して平成20年2月29日に特許無効審判(無効2008-800041)が請求され、平成21年1月15日付けで請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされたところ、平成21年2月24日に上記審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に訴えが提起された[平成21(行ケ)第10045号]。
3 その訴えの提起があった日から起算して90日の期間内であって、当該事件について審決の取消しの判決又は審決の取消しの決定がされていない、平成21年4月27日に本件訂正審判が請求された。
4 そして、平成21年5月19日付けで本件訂正審判の手続を中止する旨を請求人に通知したが、請求人より平成21年6月9日付けで上記中止の解除を求める上申書(手続中止解除の申出)が 提出され、当審はこれを審理し上記中止を解除し、平成21年7月7日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、平成21年8月10日付けで意見書が提出された。

第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3392390号に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を、審判請求書に添付した訂正明細書(以下、「訂正特許明細書」という。)のとおりに訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。

1 訂正事項1
本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】 中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配管に直接接続し、
上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、
上記専用の増圧ポンプによる各階床毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」とあるのを
「【請求項1】 受水槽を備えない中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を増圧せずに水道用配管に直接接続し、上記最も下の階床群の各階床には前記水道用配管の水圧のみで常時給水し、
上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、 上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御され、上記運転の制御に際して、一の階床群の増圧ポンプの吸込管側の水圧が所定値以下にならないように上記一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプの運転を制御するように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」と訂正する。 (当審注:下線は請求人が付与した。以下同様。)
なお、本件訂正審判の請求人は、訂正前の明細書を、特許第3392390号に対する無効2008-800041についての平成21年1月21日付け審決で訂正が認められた明細書としているが、上記審決は確定していないから、本件訂正審判の請求に係る訂正前の明細書は、特許第3392390号の設定登録時の願書に添付した明細書である。

すなわち、訂正事項1は、以下の(ア)ないし(ウ)の訂正事項からなる。
(ア)訂正前の「中高層建物」を「受水槽を備えない中高層建物」と訂正する訂正(以下、「訂正(ア)」という。)。
(イ)訂正前の「上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配管に直接接続し」を「上記最も下の階床群の給水管の下端を増圧せずに水道用配管に直接接続し、上記最も下の階床群の各階床には前記水道用配管の水圧のみで常時給水し、」と訂正する訂正(以下、「訂正(イ)」という。)。
(ウ)訂正前の「各階床毎」、「各階床」をそれぞれ「各階床群毎」、「各階床群」と訂正する訂正(以下、「訂正(ウ)」という。)。
(エ)訂正前の「増圧ポンプの運転が制御される」を「増圧ポンプの運転が制御され、上記運転の制御に際して、一の階床群の増圧ポンプの吸込管側の水圧が所定値以下にならないように上記一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプの運転を制御する」と訂正する訂正(以下、「訂正(エ)」という。)。

2 訂正事項2
発明の詳細な説明の欄の段落【0015】について、
「【0015】
【課題を解決するための手段】上記目的は、中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配管に直接接続し、上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、上記専用の増圧ポンプによる各階床毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床の増圧ポンプの運転が制御されるようにして達成される。」とあるのを、
「【0015】
【課題を解決するための手段】上記目的は、受水槽を備えない中高層建物の各階床を、下側から順次少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、上記最も下の階床群の給水管の下端を増圧せずに水道用配管に直接接続し、上記最も下の階床群の各階床には前記水道用配管の水圧のみで常時給水し、上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御され、上記運転の制御に際して、一の階床群の増圧ポンプの吸込管側の水圧が所定値以下にならないように上記一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプの運転を制御するようにして達成される。」
と訂正する。

第3 訂正事項1及び2についての当審の判断

第3-1 訂正の目的の適否
ア 訂正事項1について
(ア) 訂正(ア)について
訂正前に記載した「中高層建物」という事項自体は明りょうであり、訂正(ア)は、中高層建物が「受水槽を備えない」点を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
(イ) 訂正(イ)について
訂正前に記載した「上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配管に直接接続し」という事項自体は明りょうであり、訂正(イ)により、給水管の下端を水道用配管に直接接続することに関し、「増圧せずに」という限定が付加された。 また、訂正(イ)により、最も下の階床群の各階床に対する給水について、「上記最も下の階床群の各階床には前記水道用配管の水圧のみで常時給水し、」という限定が付加された。
したがって、訂正(イ)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
(ウ) 訂正(ウ)について
訂正前の特許明細書の請求項1の記載、該記載と発明の詳細な説明との関係について検討する。
請求項1には
「中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、 上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し、
上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続する」、及び「中高層建物用増圧給水システム」(これらを以下、「前者の事項」という。)は、訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項であり、明確な記載である。
前者の事項によれば、「各階床」は、少なくとも2群の階床群に分割する対象としての意味しか有せず、専用の増圧ポンプとの関係は規定されていない。一方、「各階床群」の方は、専用の増圧ポンプが設けられる対象であり、また、増圧ポンプ及び給水管との接続関係が規定されている。

そこで、訂正前の請求項1に記載された
「上記専用の増圧ポンプによる各階床毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したこと」(以下、「後者の事項」という。)について検討する。
前者の事項における、各階床群に夫々専用の増圧ポンプが設けられる点、及び階床群の給水管と増圧ポンプとの接続関係からみて、増圧ポンプの運転を制御することによって、「各階床群毎」の給水圧力を制御することはできても、後者の事項における「各階床毎」の給水圧力を制御できないことは明らかである。
また、訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明に、増圧ポンプの運転を制御することによって、「各階床群毎」の給水圧力を制御することは説明されているが、「各階床毎」の給水圧力を制御することについて何ら説明されていないことは明らかである。

したがって、後者の事項のうち、「各階床毎」、「各階床」は、本来「各階床群毎」、「各階床群」と記載すべきであったものを、それぞれ「各階床毎」、「各階床」と誤記したものといえる。
よって、訂正(ウ)は、誤記の訂正を目的とするものである。

(エ) 訂正(エ)について
訂正(エ)は、「増圧ポンプの運転」の制御について、「上記運転の制御に際して、一の階床群の増圧ポンプの吸込管側の水圧が所定値以下にならないように上記一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプの運転を制御する」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

してみると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1を訂正する訂正事項1に伴って、発明の詳細な説明の段落【0015】の記載を特許請求の範囲と整合させるための訂正であり、明りようでない記載の釈明を目的する訂正に該当する。

したがって、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とする 訂正(上記訂正事項1)を含む訂正である。

第3-2 新規事項の有無
本件特許明細書の記載と、訂正事項1及び訂正事項2とを比較検討するに、訂正事項1及び訂正事項2は、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。

第3-3 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1及び訂正事項2は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

第3-4 独立特許要件
本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第一号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第二号に掲げる誤記の訂正を目的とする訂正(上記訂正事項1)を含む訂正であるから、同条第5項の規定に基づき、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明(以下「訂正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。
そこで、訂正後の請求項1に係る発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか検討する。

1 訂正発明
訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正発明1」という)は、訂正特許明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、下記のとおりのものである。
訂正発明1:
「 【請求項1】 受水槽を備えない中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を増圧せずに水道用配管に直接接続し、上記最も下の階床群の各階床には前記水道用配管の水圧のみで常時給水し、
上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、
上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御され、上記運転の制御に際して、一の階床群の増圧ポンプの吸込管側の水圧が所定値以下にならないように上記一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプの運転を制御するように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」

2 刊行物に記載された発明
実願昭58-1506号(実開昭59-107072号公報)のマイクロフイルム(以下、「引用刊行物1」という。)
水道協会雑誌 平成4年2月第61巻第2号第689号(以下、「引用刊行物2」という。)
なお、引用刊行物1及び引用刊行物2は、いずれも本件訂正審判の請求にあたり、請求人が提示した刊行物である甲第2号証及び甲第3号証であり、かつ、上記特許無効審判(無効2008-800041)において、上記特許無効審判の請求人が提示した証拠方法でもある。

(1)引用刊行物1【実願昭58-1506号(実開昭59-107072号)のマイクロフィルム】
平成21年7月7日付けで通知した訂正拒絶理由(以下、単に「訂正拒絶理由」という)で引用され、本件特許の出願の原出願である特願平6-132265号の出願前(以下「本件特許の出願前」という。)に頒布された刊行物である引用刊行物1には、以下に示す(1-1)?(1-6)の事項が記載されている。

(1-1)
「実用新案登録請求の範囲
ビル等の高所への給水システムであって、下部に水を貯める受水槽と下部あるいは任意の階に水を収容する圧力タンクと受水槽から配管を介して前記圧力タンクへ揚水するポンプとを有し、前記圧力タンクは、剛性のある気密構造の中空の本体と、この本体内に柔軟弾性材によりなる袋体を有しこの袋体内へ水を収納するようになし、かつ、前記本体と袋体間の液体を収納する側と反対側に気体が密封してある給水装置において数階毎にポンプと圧力容器を逆止弁を介して配置し、数階毎の前記ポンプ逆止弁、圧力容器を送水管により直列に複数配置したことを特徴とする圧力容器。」(明細書第1ページ第3?15行)

(1-2)
「考案の詳細な説明
本考案は、ビル等の高所への給水装置に関するものである。
従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け、ビルの屋上に開放形の高過水槽を設置したもの、中空気密構造で剛性容器からなる本体内に柔軟弾性部材よりなる変形自在の袋体又は隔膜を有し、袋体又は隔膜と本体間に気体を加圧封入してある給水圧力タンクを地上あるいは任意の階に設置し、前記袋体内又は隔膜を介しての一方の側にポンプから揚水した水を一時収納するようにした給水装置、さらにはバリアブルポンプによる給水システムがある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし、さらに吐出量も時間平均使用量の2?3倍のポンプ又はバリアブルポンプが使用され、設備費、運転費等も高価であり、またポンプ吐出口にかかるウォータハンマー等も大きく故障の原因ともなる。」(明細書第1ページ第16行?第2ページ第15行)

(1-3)
「本考案の目的は、従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し、低い揚程のポンプを使用し、揚水管を介して直列に接続することによりポンプの設備費を下げるとともに、運転費をも少なくできる給水装置を提供するものである。」(明細書第2ページ第16行?第3ページ第2行)

(1-4)
「本考案の要旨とするところは、ビル等の高所への給水装置において、数階毎に低楊程のポンプ逆止弁と内部に液体を収納する袋体を有した圧力容器とを送水管を介し直列に配置した給水装置であって以下実施例を図面により説明する。」(明細書第3ページ第3?7行)

(1-5)
「第3図は、下部受水槽より下部ポンプ12により下部圧力タンク11と連通する下部送水管13を介して上部ポンプ22の吸込側へ揚水するようにし、さらに上部ポンプ22により上部圧力タンク21と連通する上部送水管23を介して各階へ揚水する給水装置であり各ポンプ吐出側と圧力タンクとの間には逆止弁15を設けてある。この場合下部で水を使用した場合、一旦下部圧力タンク11内に収容された水は排出され、ある設定圧力以下になると下部ポンプ12が起動し、揚水を開始する。水の使用が止まった後も下部ポンプ12は、揚水を継続し、下部圧力タンク11内へ送水し、設定最高圧力になると、下部ポンプは停止する。この状態で上部において水の使用が開始されると、一旦上部圧力タンク21内に収容された水が排出され、その圧力タンク21位置での低圧側設定圧力以下になると上部ポンプ22が起動する。上部ポンプ22の起動後は、下部圧力タンク11より水が加圧供給され、さらに水の使用が継続されると、下部圧力タンク11の位置での低圧側設定圧力以下となり下部ポンプ12が起動し上部へ給水する。
下部ポンプ12は下部圧力タンク11近くに取付けた圧力スイッチ17により起動、停止を制御し、上部ポンプ22は、上部圧力タンク21近くに取付けた圧力スイッチ27により起動、停止を制御する。」(明細書第3ページ第8行?第4ページ第12行)

(1-6)
「以上のように本考案の効果は、ポンプと圧力タンクを数階毎に設置することにより、各々のポンプの運転時間を少なくし、下部にポンプ1台を設置したのに比べて、設備費、運転費供安くすることができ、さらに従来の給水装置の場合に生じる最上階と、一階の給水圧力差をほとんどなくすことができ、長い揚水管を持つ給水装置において発生するウォータハンマー等もなくすことができる等、すぐれた効果を奏するものである。」(明細書第4ページ第13行?第5ページ第1行)

ア 記載事項(1-1)から「ビル等の高所への給水システム」を読み取ることができる。
そして、第3図には、1階から6階の各階に給水することが図示されているが、記載事項(1-3)の「数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し」等の記載からみて、図示はされていないが、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定していることは明らかである。
したがって、記載事項(1-1)、(1-3)、及び第3図の記載から、ビルの各階に対して給水する給水システムを読み取ることができる。

イ 第3図は、数階毎にポンプを設置した、ビル等の高所への給水システムの実施例を示す図であり、具体的には、上記ポンプが3階毎に設置された給水システムが第3図に図示されており、第3図の記載から、以下の点を読みとることができる。
(ア)1階から3階に給水する下部ポンプ12を設ける点
(イ)4階から6階に給水する上部ポンプ22を設ける点
(ウ)1階から3階に給水する下部送水管13の下端部を、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続し、1階から3階の各階には下部ポンプ12により給水する点
(エ)「ア」の項で述べたように、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定しており、7階建て、8階建て、9階建て以上の階数に応じて、7階に、7階から8階に、7階から9階に、給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設ける点を読み取ることができる。そして、上記「7階に、7階から8階に、7階から9階に」を、これ以降、7階から所定の階にと呼称する。
したがって、第3図の記載から、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設ける点を読み取ることができる。
(オ)4階から6階に給水する上部送水管23の下端部は、上部ポンプ22を介して下部送水管13の上端部に接続する点
(カ)7階から所定の階に給水する送水管の下端部は、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを介して上部送水管13の上端部に接続する点

よって、記載事項(1-1)ないし記載事項(1-6)及び図面からみて、引用刊行物1には、
「ビルの各階に対して給水する給水システムにおいて、1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け、4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け、
上記1階から3階に給水する下部送水管13の下端部を、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続し、上記1階から3階の各階には前記下部ポンプ12により給水し、
上記4階から6階に給水する上部送水管23の下端部は、上記上部ポンプ22を介して下部送水管13の上端部に接続し、かつ、7階から所定の階に給水する送水管の下端部は、上記上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを介して上部送水管13の上端部に接続した、
ビルの各階に対して給水する給水システム。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(2) 引用刊行物2【水道協会雑誌、平成4年2月第61巻第2号(第689号)】
同じく、訂正拒絶理由で引用され、本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用刊行物2には、以下に示す(2-1)?(2-5)の事項が記載されている。

(2-1)
「1. はじめに
近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm2)以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(第34頁左欄第1行?同右欄第2行)

(2-2)
「2.ブースタ装置外観
図-1にブースタ装置外形図を示す。
800×800mmのべース上に2台のステンレスプレス製の陸上ポンプと吸込,吐出配管,吐出側圧力タンク,制御盤,バルブ類が搭載されている。
2台のポンプ吸込側と吐出配管の合計3箇所にメンテナンス用のバタフライ弁がある。各ポンプの吐出側はフロースイッチ,逆止弁を介して吐出し曲管へ配管される。
吸込管は逆止弁を介して吐出管へポンプをバイパスするように配管され,十分な入口圧力がある場合はこの経路でポンプを必要とせずに給水できる。圧力センサは配管の吸込側と吐出側にそれぞれ1個づつ付いている。」(第35頁左欄第3行?第36頁右欄第3行)

(2-3)
「3.ブースタ装置運転フロー
ブースタ装置の運転フローを図-2に示す。
2台のポンプがそれぞれ独立してインバータに接続され可変速運転するようになっている。同時に2台が並列運転することはなく,停止するたびに始動ポンプを切り替える単独交互方式である。」(第36頁右欄第8?13行)

(2-4)
「3.1 基本動作
装置を起動すると,1号又は2号のいずれか一方のポンプが起動する。水量が減少しポンプを停止させた後運転ポンプを切り替える。
流量が増大すると回転速度が上昇し,流量が減少すると回転速度を下げて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。また,入口圧力が増大すると回転速度が減少し,入口圧力が減少すると回転速度を上昇させて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。流量の増減,入口圧力の増減により前記動作をくり返す。
また,入口圧力が増大し吐出設定圧力以上になると,ポンプは自然停止し,バイパス配管を通って給水する。」(第36頁右欄第14行?第37頁左欄第6行)

(2-5)
「4. 検証試験
1991年10月より,上記ブースタ装置を実際の住宅に据え付けて検証試験を行った。
試験現場として選定したのは,横須賀市内の5階建て40戸の集合住宅で,現在41m3の受水槽を持ち,圧力タンク方式の給水装置で給水している。住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm2)以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」(第37頁右欄第7?16行)

3 訂正発明1の独立特許要件について
(1)訂正発明1
訂正発明1は、「第3-4 独立特許要件 1 訂正発明」の項に記載したとおりである。

(2)引用刊行物1に記載された発明
引用発明1は、「第3-4 独立特許要件 2 刊行物に記載された発明」の項に記載したとおりである。

(3) 対比
訂正発明1と引用発明1とを比較すると、

(ア) 引用発明1の「ビル等」、「各階」は、訂正発明1の「中高層建物」、「各階床」に相当する。
(イ) 引用発明1は、ビル等の各階に対する給水するために、1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け、4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設けているから、ビル等の各階は、訂正発明1のように、「下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割」されているといえる。
(ウ) 引用発明1の「1階から3階」は訂正発明1の「最も下の階床群」に相当し、以下同様に、「4階から6階」及び「7階から所定の階」は「最も下の階床群を除く各階床群」に相当する。引用発明1の「上部ポンプ22」は4階から6階に給水し、「ポンプ」は7階から所定の階に給水するから、引用発明1の「上部ポンプ22」及び「上部ポンプより上方に設置されるポンプ」は、訂正発明1の「各階床群に夫々専用の増圧ポンプ」に相当する。
(エ) 引用発明1の「4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け」と訂正発明1の「最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け」とは、最も下の階床群は別として各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設ける点で共通する。
(オ) したがって、引用発明1の「ビルの各階に対して給水する給水システムにおいて、1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け、4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け」と訂正発明1の「受水槽を備えない中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け」とは、中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群は別として各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設ける点で共通する。

イ 引用発明1の「下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管」と訂正発明1の「水道用配管」とは、給水配管の点で共通する。
したがって、引用発明1の「1階から3階に給水する下部送水管13の下端部を、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続し」と訂正発明1の「上記最も下の階床群の給水管の下端を増圧せずに水道用配管に直接接続し」とは、上記最も下の階床群の給水管の下端を給水配管に接続しの点で共通する。

ウ 引用発明1の「4階から6階に給水する上部送水管23」、「7階から所定の階に給水する送水管」と訂正発明1の「最も下の階床群を除く各階床群の給水管」とは、最も下の階床群は別として各階床群の給水管の点で共通する。
したがって、引用発明1の「4階から6階に給水する上部送水管23の下端部は、上部ポンプ22を介して下部送水管13の上端部に接続し、かつ、7階から所定の階に給水する送水管の下端部は、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを介して上部送水管13の上端部に接続し」と訂正発明1の「上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続する」とは、上記最も下の階床群は別として各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続する点で共通する。

エ 引用発明1の対象である「ビルの各階に対して給水する給水システム」は、上部ポンプ22、下部ポンプ12、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプによって給水圧力を増圧させていることが明らかであるから、訂正発明1の対象である「中高層建物用増圧給水システム」に相当する。

したがって、訂正発明1と引用発明1の両者は、
「中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群は別として各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を給水配管に接続し、
上記最も下の階床群は別として各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続した、
中高層建物用増圧給水システム。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
中高層建物が、訂正発明1では、受水槽を備えないものであるのに対して、引用発明1では、下部受水槽を備えたものである点。
[相違点2]
専用の増圧ポンプが設けられる各階床群について、訂正発明1では、最も下の階床群は除かれるのに対して、引用発明1では、1階から3階は除かれない、すなわち最も下の階床群は除かれない点。
[相違点3]
最も下の階床群の給水管の下端の接続について、訂正発明1では、増圧せずに水道用配管に直接接続するのに対して、引用発明1では、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続する点。
[相違点4]
訂正発明1では、最も下の階床群の各階床には水道用配管の水圧のみで常時給水するのに対して、引用発明1では、1階から3階の各階には下部ポンプ12により給水する点。
[相違点5]
訂正発明1では、上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御され、上記運転の制御に際して、一の階床群の増圧ポンプの吸込管側の水圧が所定値以下にならないように上記一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプの運転を制御するように構成したのに対して、引用発明1では、そのように限定されていない点。

(4)判断
ア 相違点1、相違点3、相違点4について

(ア)引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)
引用刊行物1の記載事項(1-2)に、「従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け、・・・ようにした給水装置、さらにはバリアブルポンプによる給水システムがある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載され、また、記載事項(1-2)に、「本考案の目的は、従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに」と記載されている。
これらの記載をまとめると、従来の下部ポンプのみでビル等の高所に給水する場合、その下部ポンプ12の揚水能力は、そのポンプが給水するビルの最上階の高さでは十分ではなく、更に10m程度高い揚程を必要とするということである。
引用発明1の下部ポンプ12について、その揚水能力(揚程)について検討するに、駆動ポンプとして下部ポンプ12のみを使用して1階から3階まで給水するから、上述した従来の下部ポンプと同様に、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、3階の高さに加えて更に10m程度高い揚程能力を有することは明らかである。
具体的には、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度で十分であることは当業者において自明である。
そして、引用発明1において、4階以上への給水は上部ポンプ22等のポンプによって更に給水が増圧されるから、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、各階に給水するために必要な下部ポンプ12の揚水能力は、1階から3階までの揚水能力である概ね20m程度で十分である。このことは、引用刊行物1の記載事項(1-3)の「低い揚程のポンプを使用し」という記載からも明らかである。
したがって、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)は、概ね20m程度である。

(イ)引用刊行物2の記載から把握される技術常識
a 直結給水
引用刊行物2には、「要旨-横須賀市において、直結給水範囲拡大に当たり、既存の配水圧力で直結給水できない地域」との記載や引用刊行物2の記載事項(2-1)の「3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。」との記載から、引用刊行物2が頒布された平成4年2月、すなわち本件特許の出願前において、「直結給水」が実施されていたことは明らかである。

b 配水管圧力(水道本管圧力)
引用刊行物2の記載事項(2-5)には、
「住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm2)以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」と記載され、また、引用刊行物2の水道本管の圧力変動を図示した図-8には、水道本管の圧力は概ね2.8kgf/cm2であることが記載されている。
これらの記載からみて、引用刊行物2には、高台ではない場所に配管された場合には、水道本管圧力は、約3kgf/cm2程度である点が記載されているものといえ、この場合、水道本管の揚水能力は約30m程度となる。

c 直結給水できる範囲
引用刊行物2の記載事項(2-1)には、
「1. はじめに
近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm2)以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合,これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(第34頁左欄第1行?同右欄第2行)と記載されている。
してみると、地盤が高くない給水区域内に建てられた余り高くない、例えば5階未満の建物に対して、給水管内圧力をブースタ装置で加圧することなく既存の配水管圧力(水道本管圧力)のみで直接給水できる点は、当業者が引用刊行物2の記載から把握できる事項といえる。
また、この記載から、配水管圧力(水道本管圧力)で給水が可能できる範囲は、配水管圧力(水道本管圧力)の高低によっても決まることは自明な事項である。
更に、引用刊行物2の記載事項(2-1)の趣旨は、「3階建て以上の」例えば「5階」や「6階以上の」「建物への直接給水が検討されて」おり、この場合には「給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる」ことであるといえるので、当業者がこの趣旨を踏まえたならば、既存の配水管圧力のみで直結給水できる建物の範囲は、既存の配水管圧力によって概ね3階程度までである点、すなわち、建物の3階程度までであれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とせず、既存の配水管圧力のみで直結給水できる点も、当業者が引用刊行物2の記載から把握できる事項といえる。
してみると、建物が、既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた場合、水道本管圧力による揚水能力と水道が使用される住居の部屋の高さとの関係から、その建物の1階から3階程度までは、水道本管圧力を利用すれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく、水道管からの直結給水が可能であることは、当業者において引用刊行物2の記載から把握される技術常識であるといえる。
また、引用刊行物2の記載事項(2-1)からみて、給水方式には、増圧ポンプを有する受水槽を備えた給水方式や、既存の配水管圧力で直結給水する受水槽を備えない給水方式などがあることも、当業者において引用刊行物2の記載から把握される技術常識であるといえる。
(ウ)引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力(揚程)と引用刊行物2の記載から把握される技術常識との関係
そして、この項の「(ア)」で述べたように、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、概ね20m程度であり、また、この項の「(イ)b」で述べたように、引用刊行物2の記載から把握される技術常識における水道本管圧力の揚水能力は約30m程度であるから、水道本管圧力の揚水能力は引用発明1における「下部ポンプ12」のものと同等以上である。

(エ)小括
してみると、上記技術常識を有する当業者が、上記引用発明1が記載された引用刊行物1に接したとき、引用発明1における1階から3階までの各階には下部受水槽と下部ポンプ12による給水することから、相違点4に係る訂正発明1の「最も下の階床群の各階床には水道用配管の水圧のみで常時給水する」ことに変更することは当業者が容易に想到し得る事項である。
換言すると、最も下の階床群の給水管の下端の接続について、引用発明1のように、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続することから、相違点3に係る訂正発明1の「増圧せずに水道用配管に直接接続する」ことに変更することは当業者が引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて容易に想到し得る事項である。

したがって、相違点3及び相違点4に係る訂正発明1の構成要件は、当業者が引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて容易に想到し得るものである。

また、相違点1に係る訂正発明1の構成要件である「受水槽を備えない中高層建物」は、相違点4及び相違点3に係る訂正発明1の構成要件に付随する中高層建物の限定に過ぎないから、格別なものではない。
よって、相違点1、相違点3、相違点4に係る訂正発明1の構成要件は、当業者が引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて容易に想到し得るものである。

イ 相違点2について
上記相違点3に係る訂正発明1の構成要件である「最も下の階床群の給水管の下端を増圧せずに水道用配水管に直接接続」すると、相違点2に係る訂正発明1の構成要件である「専用の増圧ポンプが設けられる各階床群」として、「最も下の階床群が除かれる」ことになるから、相違点2に係る訂正発明1の構成要件は、相違点3に係る訂正発明1に付随する構成要件に過ぎない。
よって、「ア」の項で述べたように、相違点3に係る訂正発明1の構成要件が、当業者が引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて容易に想到し得るものであるから、同様な理由により、相違点2に係る訂正発明1の構成要件も、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 相違点5について
(ア)相違点5に係る訂正発明1の構成要件における、上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御される点について

引用刊行物1の記載事項(1-2)に、「下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載されていることを踏まえ、また、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、上部ポンプ22の給水圧力は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度であり、また、4階から6階における水の使用量に応じて上部ポンプ22の給水圧力を若干制御する必要があることは引用刊行物1の記載から当業者にとって自明である。してみると、4階から6階に設けられた上部ポンプ22の給水圧力が、高さ換算で約20mより大幅に超えない値に制御されることが引用刊行物1に示唆されているといえる。
また、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプについても、同様に、その給水圧力が、高さ換算で約20mより大幅に超えない値に制御されることが引用刊行物1に示唆されているといえる。
そして、ポンプの給水圧力について、引用刊行物1に示唆されているとした「高さ換算で約20mより大幅に超えない値」や訂正発明1の「最大値は、高さ換算で約30m」も、減圧弁の設置を要しない低い圧力の点で同じであり、また訂正発明1において、最大値は、高さ換算で約30mと限定した点に、それ以上の格別な技術的意義を認めることができない。

(イ)相違点5に係る訂正発明1の構成要件における、各階床群の増圧ポンプの運転の制御に際して、一の階床群の増圧ポンプの吸込管側の水圧が所定値以下にならないように上記一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプの運転を制御する点について

引用刊行物1の記載事項(1-5)には、第3図に記載された引用発明1の実施例について、
「第3図は、下部受水槽より下部ポンプ12により下部圧力タンク1と連通する下部送水管13を介して上部ポンプ22の吸込側へ揚水するようにし、さらに上部ポンプ22により上部圧力タンク21と連通する上部送水管23を介して各階へ揚水する給水装置であり各ポンプ吐出側と圧力タンクとの間には逆止弁を設けてある。・・・この状態で上部において水の使用が開始されると、一旦上部圧力タンク21内に収容された水が排出され、その圧力タンク21位置での低圧側設定圧力以下になると上部ポンプ22が起動する。上部ポンプ22の起動後は、下部圧力タンク11より水が加圧供給され、さらに水の使用が継続されると、下部圧力タンク11の位置での低圧側設定圧力以下となり下部ポンプ12が起動し上部へ給水する。」と記載されている。

この記載及び第3図によれば、第1に、上部ポンプ22の吸込側と下部ポンプ12の吐出側とは下部送水管13により連通しており、また、上部ポンプ22の吸込側と下部圧力タンク1とは連通していることを読み取ることができる。
同じく、この記載及び第3図によれば、第2に、上部ポンプ22の起動後、下部圧力タンク11の位置での低圧側設定圧力以下となり、すなわち、上部ポンプ22の吸い込み側圧力が所定値より低くなったとき、下部ポンプ12が起動することを読み取ることができる。
そうすると、上部ポンプ22の起動後は、上部ポンプ22と下部ポンプ12とは関連付けられて運転されていることは明らかである。

そして、一般のポンプ技術において、ポンプの吸い込み側圧力が大気圧以下のときにポンプを駆動すると、ポンプの空回りやキャビテーションが発生するという問題が生じることは技術常識であるから、引用刊行物1の上記記載は、上部ポンプ22の吸い込み側圧力が大気圧以下に低下したときに、下部ポンプ12が起動することを示唆するものである。
また、引用発明1は、7階以上の階も給水対象としていることから、この記載における下部ポンプ12と上部ポンプ22との関係は、上部ポンプ22と上部ポンプ22より上方に設置されるポンプとの関係にも当てはまるから、引用刊行物1には、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプ(一の階床群の増圧ポンプ)の起動後は、上記ポンプと上部ポンプ22とは関連付けられて運転されていること、及び上部ポンプ22より上方に設置されるポンプ(一の階床群の増圧ポンプ)の吸い込み側圧力が所定値以下にならないように上記上部ポンプ22(一の階床群の直下の階床群における増圧ポンプ)を運転することが示唆されているといえる。

(ウ)以上、(ア)及び(イ)で検討したことから、相違点5に係る訂正発明1の構成要件は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

また、訂正発明1によってもたらされる効果は、引用刊行物1、2の記載から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)訂正発明1の独立特許要件のまとめ
したがって、訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、訂正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第5項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-18 
結審通知日 2009-08-20 
審決日 2009-09-02 
出願番号 特願2000-106839(P2000-106839)
審決分類 P 1 41・ 121- Z (E03C)
P 1 41・ 841- Z (E03C)
P 1 41・ 851- Z (E03C)
P 1 41・ 854- Z (E03C)
P 1 41・ 855- Z (E03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河本 明彦  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 飯野 茂
森口 正治
登録日 2003-01-24 
登録番号 特許第3392390号(P3392390)
発明の名称 中高層建物用増圧給水システム  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
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