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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200717080 審決 特許
不服20062586 審決 特許
不服20072731 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1204848
審判番号 不服2005-23716  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-08 
確定日 2009-10-05 
事件の表示 特願2001-521332「タンパク質溶液製剤およびその安定化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月15日国際公開、WO01/17542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成12年9月8日(優先権主張、平成11年9月8日、日本)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成21年3月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。以下、これを「本願発明」という。
「タンパク質溶液製剤を収納する容器の少なくとも該製剤と直接接触する部分の容器材質が疎水性の樹脂であって、前記タンパク質がエリスロポエチンであって、前記疎水性樹脂が以下のものから選択される、少なくとも2年常温保存してもエリスロポエチン残存率を95%以上に保つことができる安定したタンパク質溶液製剤:
1)ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンと、エチレンまたはプロピレンとの共重合体;
2)ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンの開環重合体、
3)ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンの開環重合体に水素添加したもの。」
(なお、「常温」の範囲について、本願明細書中に格別の定義はないが、医薬品の保存安定性に関する用語であるから、日本薬局方通則にいう「常温」すなわち15?25℃を指すものと解される。)

2.引用例の記載の概要
当審における平成21年1月15日付けの拒絶理由通知書に引用された刊行物である特開平10-182481号公報(以下、「引用例A」という。)、特開平8-155007号公報(以下、「引用例B」という。)及び特開平5-317411号公報(以下、「引用例C」という。)には、以下の事項が記載されている。

引用例A
(1) 安定化剤としてアミノ酸を含むエリスロポエチン溶液製剤。(特許請求の範囲の請求項1)
(2) 安定なEPO製剤を市場に供給するための処方設計では、EPOに見られる化学変化(加水分解、ジスルフィド交換反応など)あるいは物理的変化(変性、凝集、吸着など)を抑制する必要がある。(【0004】)
(3) 本発明の溶液製剤は、通常密封、滅菌されたプラスチックまたはガラス容器中に収納されている。容器はアンプル、バイアルまたはディスポーザブル注射器のような規定用量の形状で供給することができ、あるいは注射用バックまたは瓶のような大用量の形状で供給することもできる。(【0018】)
(4) 調剤溶液1ml中に、EPO 1500国際単位、ポリソルベート80 0.05mg、塩化ナトリウム 8.5mg、 L-ヒスチジン塩酸塩 1mgを含み、10mMリン酸緩衝溶液でpH 6.0に調整した溶液を、5mlのガラスバイアルに1ml充填した溶液製剤を、25℃-6ヶ月加速試験を行った後のEPO残存率が99.9%であったこと。(【0022】及び【0033】)

引用例B
(5) 近年、注射筒又は容器に薬剤を予め充填した製剤(いわゆるプレフィルドシリンジ製剤)の開発・研究が盛んに行われている。このような薬剤充填済み製剤に用いる注射筒又は容器の素材は、当初ガラスが用いられていたが、近年、ガラスに代わってプラスチック樹脂を用いる検討がなされている。(【0002】)
(6) 本発明は、次の(A-1)、(A-2)及び(A-3)
(A-1):下記式(1)又は(2)で表される環状オレフィンとエチレンとのランダム共重合体、
(A-2):下記式(1)又は(2)で表される環状オレフィンの開環(共)重合体、
(A-3):(A-2)の開環(共)重合体の水素化物から選ばれる1種又は2種以上の環状オレフィン系樹脂(A)を成形して得られる注射筒又は容器に薬剤を充填してなる製剤を提供するものである。
式(1)及び(2)略(【0009】?【0013】)
(7) 式(1)又は(2)で表される環状オレフィンのより具体的な例として、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、テトラシクロ[4.4.0,1^(2,5),17,10]-3-ドデセンなどが挙げられている。(【0030】?【0037】)
(8) 本発明の製剤は、注射筒又は容器に予め薬剤が充填されたものであるが、当該薬剤は直接体内に注入されるため、高度の安全性が要求される。その製剤例としては静脈内投与用、動脈内投与用、筋肉内投与用、皮下投与用、臓器内直接注入用の薬剤等が挙げられる。注射筒又は容器予め充填される薬剤の種類は、特に限定されないが、各種疾病の治療又は診断に用いる薬剤、化学薬品、試薬、リンゲル液、生理的に許容し得る各種栄養剤等を挙げることができる。(【0014】)
(9) 環状オレフィン系樹脂を用いて製造された注射筒若しくは容器の中に、薬剤液等を充填した製剤の安全性について説明する。本発明に係る製剤は、内容物の薬品の安定性から捕えて、長期間安定である、また、容器からの溶出物がないという面から捕えて、長期間安定である。この場合の長期間とは、3年間以上を意味する。この期間内は、薬剤が安定であり、また、用いた容器からの樹脂への各種添加剤及び樹脂成分の溶出がなく、人体に投与又は注入しても安全である。(【0015】)

引用例C
(10)熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる医療用器材。(特許請求の範囲の請求項1)
(11) 医療用の薬品容器においては、内容物の視認が容易になるように、ある程度以上の透明性が必要であり、従来、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどが用いられている。しかし、ガラスは割れることがあり、重く、さらにアルカリイオンなどが溶出することがあった。また、燃やすのが困難であったり、破片の処理が危険であるなど、使い捨てにするのには、困難な場合もあった。(【0003】)
(12) 本発明の医療用器材としては、例えば、注射用の液体薬品容器、アンプル、プレフィルドシリンジ、……注射器等の医療器具……などが例示される。特に、長期に渡り、薬品、特に液体薬品を保存する薬ビン、プレフィルド・シリンジ、密封された薬袋、点眼用容器、アンプル、バイアル、点滴薬容器などにおいては、従来の樹脂製のものに比較して、透明性、物理的性質などのほかに、樹脂から溶出する不純物等がなく、また、薬品を吸着しないので、薬品の変質が少ないという好ましい性質を有する。(【0041】)
(13) エチルテトラシクロドデセン開環重合体及びその水素添加物を得たこと。(参考例1?3)

3.対比・判断
引用例Aには、安定なエリスロポエチン(以下、EPOという。)製剤を市場に供給するためには化学変化(加水分解、ジスルフィド交換反応など)あるいは物理的変化(変性、凝集、吸着など)(上記 (2))を抑制する必要があり、安定化剤としてアミノ酸を含むEPO溶液製剤(上記 (1))、特にアミノ酸としてL-ヒスチジン塩酸塩1mgを配合し、ガラスバイアルに充填したEPO溶液製剤は25℃-6ヶ月後の残存率が 99.9%であったこと(上記 (4))が記載されている。

本願発明と引用例Aに記載された上記のガラスバイアルに収納されたEPO含有溶液製剤(これを「引用発明」という。)とを対比する。
両者は、タンパク質がEPOである安定したタンパク質溶液製剤である点で一致し、前者は該溶液製剤を収納する容器の少なくとも該製剤と直接接触する部分の容器材質が疎水性の樹脂であって、前記疎水性樹脂が1)ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンと、エチレンまたはプロピレンとの共重合体、2)ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンの開環重合体又は3)ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンの開環重合体に水素添加したものから選択されるのに対して、後者はそれがガラスである点(相違点1)及び前者は少なくとも2年常温保存してもEPO残存率を95%以上に保つことができると限定しているのに対して、後者は25℃-6ヶ月後の残存率は99.9%であるが2年保存後の残存率は不明である点(相違点2)で相違する。

そこで、これらの相違点について検討する。

・相違点1について
引用例Bの式(1)又は(2)で表される環状オレフィンは、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(=ノルボルネン)、テトラシクロ[4.4.0,1^(2,5),1^(7,10)]-3-ドデセン(=テトラシクロドデセン)を含む(上記(7))から、本願発明における1)?3)の重合体からなる疎水性樹脂を成形して注射筒等の医療用容器として使用することは既に公知である。
また、引用例C にもテトラシクロドデセンの開環重合体に水素添加した重合体を医療用器材に成形して用いることが開示されている。
引用例B及びCに記載の樹脂容器は、何れも従来のガラス容器に代えて用いることを目的としており(上記 (5)及び(11))、内容物である薬剤の安定性から捕らえて長期間安定であり、容器からの樹脂への各種添加剤及び樹脂成分の溶出がない点(上記 (9))や、従来の樹脂製のものに比較して、透明性、物理的性質などのほかに、樹脂から溶出する不純物等がなく、また、薬品を吸着しないので、薬品の変質が少ない点(上記 (12))がその有利な性質として記載され、その中に収納可能な薬品の種類も限定されるものではない(上記 (8)及び(12))。
一方、引用例Aにおいては、安定なEPO製剤を市場に供給するための処方設計では、EPOに見られる化学的変化(加水分解など)、物理的変化(変性、凝集、吸着など)を抑制する必要があること(上記(2))が指摘され、EPO溶液製剤を収容する容器素材としてガラスのみならずプラスチックにも言及されている(上記(3))。そうすると、引用例AのEPO溶液製剤の容器として、その安定性に寄与するところが大きい引用例Bや引用例Cの疎水性樹脂容器を採用し、薬剤の長期安定性の向上を図ることは当業者が容易に行いうることである。

・相違点2について
引用例Aには、安定化剤としてヒスチジン塩酸塩を1mg含有する特定のEPO調剤溶液がガラスバイアル中、25℃、6ヶ月後に99.9 %という高いEPO残存率を示すことが明記されているほか、実施例3においては安定化剤のEPOの分解物生成抑制効果自体も確認されている。また、「本明細書中で安定化とは、エリスロポエチン溶液製剤を例えば10℃で2年間以
上、又は25℃で6ヶ月以上、あるいは40℃で2週間以上保存し、その際にエリスロポエチンの残存率を90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上に保つことを意味する。」(【0009】)として、安定化剤の使用により得られる安定性の程度について言及されている。
そして、上記したとおり、引用発明のEPO溶液製剤について引用例B、Cの容器を使用するならば、長期間の安定性や、ガラス容器の使用に帰因するEPOの吸着や変質の減少が予測でき、その保存性がさらに向上することは優に期待されるところである。
したがって、ガラス容器の使用に代えて引用例B、Cの容器を用いた場合に各温度条件における保存期間を延長し、EPOの残存率を検討することは当業者が容易に行う範囲のことであり、特に、引用例Bには収容する薬品が3年以上安定であることがうたわれている(上記(9))以上、上記検討過程において、少なくとも2年常温保存してもエリスロポエチン残存率を95%以上に保つことができるという品質を見いだすことに格別の困難性を要したとすることはできない。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用例A?Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-11 
結審通知日 2009-08-12 
審決日 2009-08-25 
出願番号 特願2001-521332(P2001-521332)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 榎本 佳予子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 穴吹 智子
弘實 謙二
発明の名称 タンパク質溶液製剤およびその安定化方法  
代理人 千葉 昭男  
代理人 江尻 ひろ子  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 増井 忠弐  
代理人 社本 一夫  

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