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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1204921
審判番号 不服2007-8107  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-20 
確定日 2009-10-08 
事件の表示 特願2001-364297「セラミックス多層配線基板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月16日出願公開、特開2002-232140〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年11月29日(優先権主張:平成12年11月30日)の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年3月20日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
セラミックス粉体とバインダー樹脂を含むセラミックス混合材料を用いて形成されるシートの表面に、導電体粉体とバインダー樹脂を含む導電体混合材料を用いて1或いは複数の回路素子のパターンが印刷され、前記1或いは複数の回路素子のパターンが印刷されたシートを複数重ね合わせて積層体が構成され、該積層体を圧縮し、焼成してなるセラミックス多層配線基板において、
前記セラミックス粉体の平均粒子径をRsとし、前記導電体粉体の平均粒子径をRd、前記導電体粉体の粒子径の分布を正規分布関数で表わしたときの標準偏差をσdとするとき、Rsの値は、(Rd-σd)の値以下であることを特徴とするセラミックス多層配線基板。」


2.引用刊行物及びその摘記事項
原査定の拒絶の理由に引用した本願出願前に国内において頒布された下記の刊行物1には、次の事項が記載されている。

刊行物1:特開2000-315616号公報
(平成18年11月6日付け拒絶理由通知書の引用文献1)

<刊行物1の摘記事項>
a)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】・・・積層セラミックコンデンサは小型化、大容量化が急速に進んでおり、これらを達成するためにセラミックシートの厚みを薄くし、さらには積層数を多くする試みがなされている。しかしながら、薄いセラミックシート上に導電体層を形成する工程やセラミックシートを挟んで導電体層が対向するように積層する工程において、導電体ペースト中に含まれる金属粒子がセラミックシートの表面のみならず、セラミック粒子間の空隙を伝ってセラミックシート内部にまで達してしまう。セラミッシートが特に薄い場合については金属成分がセラミックシートを貫通する場合もあり、この時には積層焼成後、ショート状態になり、コンデンサとしての機能を果たさなくなるという問題点を有していた。・・・
【0005】そこで本発明は、セラミックシート内部への金属成分の侵入を防止することによりショート不良の少ない積層セラミック電子部品を提供することを目的とするものである。」

b)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミック粉末と有機物とからなるセラミックシートと導電体層とを交互に積層して積層体とし、この積層体を焼成したものの端面に外部電極を設ける積層セラミック電子部品において、前記導電体層中の金属成分の平均粒径を前記セラミック粉末の平均粒径よりも大きくした積層セラミック電子部品。」

c)「【0010】(実施の形態1)図1は本実施の形態におけるベースフィルム11上に形成されたセラミックシート12と導電体層13の要部拡大断面図・・・。
【0011】次に本実施の形態における積層セラミックコンデンサの製造方法を説明する。
【0012】・・・チタン酸バリウムを主体とする平均粒径が0.7μmの誘電体材料粉末と、・・バインダ成分と・・・を混合してスラリー化した後、・・・図1、図2に示すように・・・ベースフィルム11上にセラミックシート12を形成した。
【0013】次にセラミックシート12上に導電体層13としてニッケルペーストを所定のパターン状に印刷法などで形成し、乾燥して導電体層付きセラミックシート14を作製した。このニッケルペースト中には球状でかつ平均粒径が0.8μmのニッケル粉末と・・・、有機バインダ成分が含れている。・・・乾燥後の導電体層13は金属成分と有機バインダ成分のみとなる。・・・
【0014】また、誘電体材料の平均粒径に対するニッケル粉末の平均粒径制御の効果を比較するために、ニッケル粉末の平均粒径が0.7μm、0.9μm、1.0μmの場合のニッケルペーストを用いて、同様にして図1及び図2に示す導電体層付きセラミックシート14をそれぞれ作製した。
【0015】・・・
【0016】次いで、それぞれの導電体層付きセラミックシート14を100回熱転写により積層した後、・・・積層体を得た。熱転写は一軸プレス機を用いて・・・100kg/cm^(2)で行った。
【0017】その後、積層体を・・・焼成して焼結体を得た。・・・焼結体の内部には構造欠陥は存在しなかった。
【0018】次いで焼結体の内部電極2の露出した両端面に銅ペーストを用いて外部電極3を形成し、外部電極3の上にメッキを施し、積層セラミックコンデンサを完成させた。」

d)「【0019】ニッケル粉末の形状や粒径が異なる5種類の積層セラミックコンデンサについて、ショート不良率、破壊電圧を調べた結果を(表1)に示す。
【0020】
【表1】
ニッケル粉末の ショート不良率 最小破壊電圧値 平均破壊電圧値
形状と平均粒径 (%) (V) (V)
球状:0.7μm 35 30 230
球状:0.8μm 8 180 300
球状:0.9μm 4 200 310
球状:1.0μm 2 230 350
リン片状・・・
【0021】・・・
【0022】(表1)からも明らかなようにセラミックシート12に含まれる誘電体材料粉末の平均粒径以上の平均粒径を有するニッケル粉末を用いた方が、ショート不良率、最小破壊電圧、平均破壊電圧のすべての点で良化する傾向がある。・・・ショート不良品のすべてにおいて、対向する内部電極2間が短絡していることが分かった。
【0023】以上のことより、セラミック粉末の平均粒径より大きい平均粒径の金属粉末を用いることにより、金属粉末がセラミックシート12に侵入することを抑制し、ショート不良や耐電圧不良といった積層セラミック電子部品にとって致命的な不良の発生を抑制できることが分かる。・・・
【0024】また、ここで用いた平均粒径とは・・・セラミック粉末と金属粉末との相対粒径において、金属粉末の方が大きい時にその効果が期待できるものである。
【0025】さらに、セラミック粉末の最小粒径よりも金属粉末の最小粒径を大きくすることにより、金属成分のセラミックシート12への侵入を更に抑制することができる。」

e)「【0028】・・・
さらに上記実施の形態は、積層セラミックコンデンサについて説明したが、本発明は導電体層とセラミック層を層状に積層する積層工程を有する一般な積層セラミック電子部品、例えば、・・・多層基板に適用することができ、ショート不良や耐圧不良を抑制することができるものである。」


3.当審の判断
(1)刊行物1に記載の発明
ア)上記摘記事項c)には、実施の形態1として、積層セラミックスコンンサの例が挙げられているが、上記摘記事項e)の記載から、この実施の形態1を多層基板に適用できることは明らかである。

そこで、上記ア)の事項を考慮し、上記摘記事項b)、c)を整理すると刊行物1には、「セラミック粉末とバインダ成分とを混合して形成されたセラミックシート上に、ニッケル粉末と有機バインダ成分とからなる導電体層を所定のパターンに印刷法で形成し、これらセラミックシートと導電体層とを交互にプレス機を用いた熱転写により積層して積層体とし、この積層体を焼成した多層基板において、導電体層中のニッケル粉末の平均粒径をセラミック粉末の平均粒径よりも大きくした多層基板」に関する発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものである。

(2)対比・判断
そこで、本願発明と刊行物発明とを対比すると、刊行物発明の「セラミック粉末」、「バインダ成分」、「セラミックシート上」、「ニッケル粉末」、「有機バインダ成分」、「導電体層」及び「これらセラミックシートと導電体層とを交互にプレス機を用いた熱転写により積層して積層体とし、この積層体を焼成した多層基板」は、本願発明の「セラミックス粉体」、「バインダー樹脂」、「セラミックス混合材料を用いて形成されるシートの表面」、「導電体粉体」、「バインダー樹脂」、「導電体混合材料」及び「パターンが印刷されたシートを複数重ね合わせて積層体が構成され、該積層体を焼成してなるセラミックス多層基板」に相当する。

そうすると、両者は、「セラミックス粉体とバインダー樹脂を含むセラミックス混合材料を用いて形成されるシートの表面に、導電体粉体とバインダー樹脂を含む導電体混合材料を用いてパターンが印刷され、前記パターンが印刷されたシートを複数重ね合わせて積層体が構成され、該積層体を焼成してなるセラミックス多層基板」の点で一致するものの、次の点で相違する。
相違点1:積層体の圧縮のタイミングについて、本願発明では、積層体を構成してから圧縮するのに対して、刊行物発明では、熱転写によりプレスしながら積層していく点。
相違点2:本願発明では、印刷されたパターンが、「1或いは複数の回路素子」であり、セラミックス多層基板が「セラミックス多層配線基板」であるのに対して、刊行物発明では、それらの何れも具体的な特定がなされていない点。
相違点3:平均粒子径について、本願発明は、「セラミックス粉体の平粒子径をRsとし、導電体粉体の平均粒子径をRd、導電体粉体の粒子径分布を正規分布関数で表わしたときの標準偏差をσdとするとき、Rsの値は、(Rd-σd)の値以下」としているのに対し、刊行物発明には、そのような特定がなされていない点。
次に、上記相違点1?3について検討する。

<相違点1>
セラミック電子部品の製造工程として、焼成に加えて圧縮を行うことは、常套手段であり、製品の形状形成時、形状形成後焼成前、或いは、焼成中等種々のタイミングで行われており、何れのタイミングを選択するかは、当業者の実施化における選択的設計事項の範囲のものである。
そして、本願発明において、積層後に圧縮を行うタイミングを採用することによる格別な効果も見いだせない。

<相違点2>
上記摘記事項c)、d)によれば、刊行物発明は積層セラミック電子部品としての多層基板であり、セラミックシート上にニッケルペーストを所定のパターン状に印刷法で形成して積層体としたものであるが、多層基板として、各導電体層に回路パターン或いは回路素子を組み込んだ多層配線基板は、よく知られたものであり、刊行物発明においてこれを採用することを妨げる格別な理由も無い。
したがって、刊行物発明において、印刷された導電層のパターン及び多層基板を、本願発明の1或いは複数の回路素子を印刷したセラミックス多層配線基板とすることは、当業者ならば容易に想到し得たものである。

<相違点3>
刊行物1の上記摘記事項b)、c)、d)によれば、セラミック粉末の平均粒径よりも導電体層中の金属成分(以下「導電体粉末」という。)の平均粒径を大きくすること、さらに、セラミック粉末の最小粒径よりも導電体粉末の最小粒径も大きくすることが記載されており、これは、各粉末の大小関係と共に、各粉末の粒径サイズを所定幅に限定すべき事を示しているものである。
加えて、上記摘記事項a)には、「導電体ペースト中に含まれる金属粒子がセラミックシートの表面のみならず、セラミック粒子間の空隙を伝ってセラミックシート内部にまで達してしまう。セラミッシートが特に薄い場合については金属成分がセラミックシートを貫通する」と記載されていることからも、金属粒子がセラミック粒子間の空隙を伝わらない大きさにしたいとの課題も示唆されているものである。
また、従来から、積層セラミックコンデンサ等の内部電極材料に用いる導電性体粉末について、内部電極間の短絡を防ぐ或いは充填性・分散性をよくする等の課題のもと、所定の平均粒子径とし、更に、狭い粒度分布とすべきことも下記刊行物2,3に記載されているように周知の事項であり、狭い粒度分布において、複数の粒径サイズのピークを持たせることは行われていない。
してみると、刊行物発明においては、導電体粉末を、粒度分布において、意図的に複数の粒径サイズのピークを持たせる等の特定がなされていないことから、目標とする粒径サイズを一つのピークとし、所定の平均粒子径を有し且つ狭い粒度分布を持たせているか或いは少なくとも持たせようとすることは周知事項の単なる適用にすぎない。

**刊行物2:特開2001-200301号公報
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明はニッケル粉及び積層セラミックコンデンサ用導電ペーストに関し、より詳しくは、狭い粒度分布及び導電ペースト中での優れた充填性を有し・・・積層セラミックコンデンサの薄くて均質な内部電極を形成するのに適した・・・。」
「【0005】薄い内部電極層を得るにはそれに見合った平均粒子径の小さな金属微粉を用いればよい・・平均粒子径が所定の範囲内にあったとしても粗粒が混入していると、・・・内部電極の突起を形成し,その突起が薄いセラミック誘電体層を突き破って内部電極間の短絡を引き起こす・・・。」

**刊行物3:特開平11-152507号公報
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明はニッケル微粉末の製造方法に関し、・・積層セラミックコンデンサの内部電極材料として用いるのに適しており、粒度分布がシャープで凝集が少なく、且つペースト化した際の充填性に優れている・・・。」

そして、刊行物1の上記摘記事項d)に挙げた表1によれば、ニッケル粉末の平均粒径が、セラミック粉末の平均粒径(実施の形態1として、チタン酸バリウムを主体とする誘電体材料粉末の平均粒径0.7μmが記載されている。)と同じ0.7μmのものと、平均粒径がそれより大きいものとを比較すると、ニッケル粉末の平均粒径が、0.8μm、0.9μm、1.0μmと、セラミック粉末の平均粒径よりも大きくなるにつれて、ショート不良率、最小破壊電圧値、平均破壊電圧値のいずれも、より改善していることがわかる。
ところで、一つのピークを有する分布状態を表現する際に、これを正規分布として仮定することは、例えば、下記刊行物4に記載されているように一般的に知られており、また、正規分布の広がり等の状態を表現する場合に標準偏差を用いることは、統計的手法においては基本的な事項である。
したがって、刊行物発明において、径の分布状態を正規分布に近似するものとして、その分布幅を標準偏差で規定するようなことは適宜決定できる程度の事項にすぎない。

**刊行物4:特開平11-329067号公報
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、半導体部品等を搭載するセラミック配線基板の表面や内部に導体、絶縁体、誘電体及び抵抗体を形成するのに用いられる厚膜ペーストに関する。」
「【0011】・・・無機粉末組成物の粒度分布が正規分布に近い通常の分布であれば、・・・・。」

一方、本願発明において、平均粒子径の関係を「セラミックス粉体の平粒子径をRsとし、導電体粉体の平均粒子径をRd、導電体粉体の粒子径分布を正規分布関数で表わしたときの標準偏差をσdとするとき、Rsの値は、(Rd-σd)の値以下」と規定しているものの、導電体粉体の平均粒子径とセラミック粉体の平均粒子径とのその差が、導電体粉体の粒径分布の標準偏差を境に、優位な効果を有するとの臨界的な具体的根拠を示す記載・及び実験データは、本願の出願当初明細書からは見出せない。
してみると、上記摘記事項d)に記載されているように、セラミック粉の平均粒径よりも金属粉末の平均粒径の方が大きくなればなるほど、その効果、すなわち、ショート不良や耐電圧不良といった積層セラミック電子部品における不良の発生程度を下げる効果が期待でき、しかも、正規分布の状態は一般的に[標準偏差]を用いて表現する事が統計的手法として基本的な表現で有ることから、刊行物発明において、本願発明のように、[セラミック粉末の平均粒径]の値を金属粉末、すなわち、ニッケル粉末の正規分布における所定の範囲より小さい値である、[ニッケル粉末の平均粒径-標準偏差]以下の値と設定することは、当業者ならば容易に想到し得たものである。

よって、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載された周知技術に基づいて業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許を受けることができないものであり、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-30 
結審通知日 2009-08-04 
審決日 2009-08-24 
出願番号 特願2001-364297(P2001-364297)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鈴木 正紀
國方 康伸
発明の名称 セラミックス多層配線基板及びその製造方法  
代理人 ▲角▼谷 浩  

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