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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1205007
審判番号 不服2007-9705  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-05 
確定日 2009-10-07 
事件の表示 特願2000-113014「はんだ付け方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月23日出願公開、特開2001-293559〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年4月14日の出願であって、平成18年12月15日付けで拒絶の理由が通知され、平成19年2月8日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成19年2月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年4月5日に拒絶査定不服審判がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件補正は、明細書の特許請求の範囲について補正をするものであって、補正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下の通りである。
<補正前>
「【請求項1】 予備加熱工程とはんだ付け工程とを有し前記予備加熱工程において被はんだ付けワークを予め加熱し続いて前記はんだ付け工程において亜鉛を3?12重量%含有したSn-Zn系はんだの溶融はんだの噴流波に接触させて前記被はんだ付けワークの被はんだ付け部に前記Sn-Zn系はんだを供給してはんだ付けを行うはんだ付け方法であって、前記予備加熱工程において酸素濃度が1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中で前記被はんだ付けワークを予め加熱し、続いて前記はんだ付け工程において酸素濃度が500ppm以下の不活性ガス雰囲気中で前記被はんだ付けワークと前記Sn-Zn系はんだの溶融はんだの噴流波とを接触させることを特徴とするはんだ付け方法。」
<補正後>
「【請求項1】 予備加熱工程とはんだ付け工程とを有し前記予備加熱工程において被はんだ付けワークを予め加熱し続いて前記はんだ付け工程において亜鉛を3?12重量%含有したSn-Zn系はんだの溶融はんだの噴流波に接触させて前記被はんだ付けワークの被はんだ付け部に前記Sn-Zn系はんだを供給してはんだ付けを行うはんだ付け方法であって、前記予備加熱工程において酸素濃度が1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中で前記被はんだ付けワークを予め80°C?150°Cに加熱し続いて前記はんだ付け工程において酸素濃度が500ppm以下の不活性ガス雰囲気中で前記被はんだ付けワークと温度が210°C?250°Cの前記Sn-Zn系はんだの溶融はんだの噴流波とを接触させることを特徴とするはんだ付け方法。」

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1の被はんだ付けワークの予備加熱に関して「80°C?150°C」と温度を限定し、同じく補正前の請求項1の溶融はんだに関して「温度が210°C?250°C」と限定するものであるから、平成18年法律第55号による改正前特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-10385号公報には、次の事項が記載されている。
ア 請求項1
「【請求項1】 錫に配合されることにより共晶合金を形成する金属成分(但し鉛を除く)と錫とからなり錫及び該金属成分以外の他金属の含有量が0.1wt%以下で含有酸素が100ppm 以下である二元ハンダを非酸化性環境下で加熱溶融し、酸素量が2000ppm 以下の雰囲気中で溶融ハンダをハンダ付けする母材に接触させることを特徴とするハンダ付け方法。」
イ 請求項3
「【請求項3】 前記金属成分は亜鉛であって、前記二元ハンダの錫の含有割合は85?97wt%であり亜鉛の含有割合は3?15wt%であり、該二元ハンダの加熱溶融は210?230℃で行うことを特徴とする請求項1記載のハンダ付け方法。」
ウ 段落【0019】
「・・・。溶融ハンダと母材とを接触させる環境を非酸化性とすることにより溶融ハンダの濡れ性が良好に維持され、振動エネルギーの供給による母材の表面状態の改善によって溶融ハンダと母材表面との接触性が高められることにより、ハンダと母材との濡れ性が改善され、鉛を用いることなく汎用性の高い金属を用いたハンダによる微細なハンダ付けが可能となる。従って、ハンダを用いた製品の廃棄物中の鉛による環境汚染が防止され、又、製品の製造工程においてフラックスを使用せずにハンダ付け処理を行うことが可能となる。」
エ 段落【0027】
「ハンダの母材に対する濡れを阻害する要素はもう1つあり、それは母材表面に形成される被膜である。例えば、母材が銅材である場合、雰囲気中の酸素によって表面に酸化銅の被膜が生成し、ハンダの濡れ性や接合強度の低下を生じる。従って、ハンダの濡れ性の改善には母材表面のクリーニングが必要となる。これに関しては、超音波、高周波、アーク等のような振動エネルギーを母材表面に供給することが極めて有効である。・・・」
オ 段落【0029】
「・・・、鉛を含有しないハンダの中でも濡れ性が低いものの一つと言われる錫/亜鉛ハンダの場合、表1に示すように、雰囲気の酸素含量が約10000ppm 以下の状態において金属酸化物の生成防止による濡れ性の向上が見られる。このようなことから、ハンダ付けを行う非酸化性雰囲気の酸素濃度は10000ppm 程度以下、好ましくは1000ppm 程度以下、より好ましくは500ppm 以下とするのがよい。」
カ 段落【0065】
「図10は、ハンダ付けを行う領域を不活性ガス雰囲気にするために供給する不活性ガスを循環・回収するように構成されたハンダ付け装置の一例を示す。このハンダ付け装置500は、ハンダを溶融するためのヒータ501を備える溶融槽503と、溶融したハンダSを循環するためのポンプ505と、溶融ハンダの液面近辺に配置されポンプ505から送出されたハンダSに弾性波を供給するための振動子507と、ガス供給管509及びガス吸引管511とを備える。ヒータ501によって加熱溶融されるハンダSは、ポンプ505の出力によって振動子507の上方に噴出し、母材を振動子507の上方に位置させることによって噴出するハンダSが母材に接し、弾性波が振動子507からハンダSを介して母材に伝達されるように構成される。ハンダSの液面上の雰囲気は、ガス供給管509から放出される窒素などの不活性ガスによって置換され、ハンダSの表面及び母材の酸化を抑制する。不活性ガスによって置換される雰囲気は、外部の酸素の混入による濃度上昇の防止及び再利用のためにガス吸引管511から排出される。ガス吸引管511は酸素除去処理装置(図示せず)に接続される。・・・」
上記ウの記載事項から、引用発明は振動エネルギーの供給により母材表面の酸化膜をクリーニングすることで、フラックスを使用せずにハンダ付け処理を行うことが可能となったものと認められる。
ここで、上記ア乃至カの記載事項を技術常識を参酌しつつ整理すると、引用例には、
「母材を、ハンダ付け工程において、亜鉛を3?15重量%含有した亜鉛と錫とからなり錫及び亜鉛以外の他金属の含有量が0.1重量%以下で含有酸素が100ppm 以下である二元ハンダの溶融ハンダの噴流波に接触させて、母材の被ハンダ付け部に、前記二元ハンダを供給して、ハンダ付けを行うハンダ付け方法であって、前記ハンダ付け工程において、酸素濃度が500ppm以下の不活性ガス雰囲気中で、前記母材と、温度が210°C?230°Cの前記二元ハンダの溶融ハンダの噴流波とを、振動エネルギーを供給しつつ接触させるハンダ付け方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)対比
本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「母材」、「ハンダ」は、本願補正発明の「被はんだ付けワーク」、「はんだ」に相当する。
また、引用発明の「亜鉛と錫とからなり錫及び亜鉛以外の他金属の含有量が0.1重量%以下で含有酸素が100ppm 以下である二元ハンダ」は、錫(Sn)と亜鉛(Zn)からなるはんだであるから、「Sn-Zn系はんだ」とも呼びうるものであり、亜鉛の含有量も、本願補正発明が「3?12重量%」であるのに対し、引用発明は「3?15重量%」であるから、3?12重量%で共通する。
さらに、溶融はんだの温度に関して、本願補正発明が「210°C?250°C」であるのに対し、引用発明は「210°C?230°C」であるから、210°C?230°Cである点で共通する。
よって、両者は、
「はんだ付け工程を有し、はんだ付け工程において亜鉛を3?12重量%含有したSn-Zn系はんだの溶融はんだの噴流波に接触させて被はんだ付けワークの被はんだ付け部に前記Sn-Zn系はんだを供給してはんだ付けを行うはんだ付け方法であって、前記はんだ付け工程において酸素濃度が500ppm以下の不活性ガス雰囲気中で前記被はんだ付けワークと温度が210°C?230°Cの前記Sn-Zn系はんだの溶融はんだの噴流波とを接触させるはんだ付け方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願補正発明は、はんだ付け工程の前に「被はんだ付けワークを予め加熱する予備加熱工程を有し、予備加熱工程において酸素濃度が1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中で前記被はんだ付けワークを予め80°C?150°Cに加熱し」ているのに対し、引用発明では、予備加熱工程について特定されていない点。
(3)判断
上記<相違点>について検討する。
本願の願書に添付した明細書の段落【0021】には、「予備加熱工程17のプリヒータ7は、予めフラックスが塗布されたプリント配線板1の予備加熱を行い、フラックスの前置的活性化とプリント配線板1および搭載電子部品(不図示)に与えるヒートショックを軽減するために設けられている。」と記載されている。
一方、はんだ付け方法の技術分野において、フラックスが被はんだ付けワーク表面の酸化膜をクリーニングするために用いられることは技術常識であり、フラックスを用いるはんだ付け方法において、予備加熱工程を設け、フラックスを活性化させることは常套手段である。
また、はんだ槽と共に低酸素濃度雰囲気内に配置する予備加熱手段も、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-22570号(実開平5-28558号)のCD-ROM(段落【0011】及び図1を参照。)、特開平7-1113号公報(段落【0019】及び図1を参照。)、特開平11-340618号公報(段落【0006】?【0007】及び図3を参照。)、特開平6-170526号公報(段落【0010】及び図1を参照。)などに見られるように周知である。
してみると、引用発明の振動エネルギーの供給に代えて、被はんだ付けワーク表面の酸化膜をクリーニングするために、従来周知のフラックスを用い、その際はんだ槽と同じ酸素濃度500ppm以下程度の不活性ガス雰囲気中に配置する予備加熱手段による予備加熱工程を付加することは、当業者であれば容易に想到しえたものである。
また、予備加熱の温度については、被はんだ付けワークの材質、はんだの材質、フラックスの種類、被はんだ付けワークの種類(耐熱温度)等によって、実験的に最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
特に、ヒートショックの緩和のためには、被はんだ付けワークが耐えうる範囲で可能な限り溶融はんだの温度に近い方が効果が高いことは自明である。
したがって、本願補正発明は、引用例及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項で準用する改正前特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、改正前特許法第159条第1項で準用する改正前特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成19年2月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1.における<補正前>のとおりのものである。
2.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「第2の2.(1)」に記載したとおりである。
3.対比、判断
本願発明は、前記第2の1.で検討した本願補正発明から「予備加熱」の限定事項である「80°C?150°C」、「溶融はんだ」の限定事項である「温度が210°C?250°C」の構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の2.(3)に記載したとおり、引用例に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2乃至3について検討するまでもなく、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-23 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-17 
出願番号 特願2000-113014(P2000-113014)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 尾家 英樹
野村 亨
発明の名称 はんだ付け方法  

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