• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件  A21D
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A21D
審判 全部無効 2項進歩性  A21D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A21D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A21D
管理番号 1205414
審判番号 無効2008-800187  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-09-25 
確定日 2009-09-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3536093号発明「冷蔵生地製パン法及び本法によって得られるパン類」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3536093号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許第3536093号の請求項1?3に係る発明についての出願は,平成13年8月28日に出願され,平成16年3月26日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。

2.請求人は,平成20年9月25日付審判請求書,平成21年2月4日付弁駁書及び平成21年3月11日付弁駁書を提出し,本件の請求項1?3に係る発明の特許は,以下の理由により無効とされるべきものであると主張している。

無効理由1:
本件発明は,甲第1?7号証に記載された発明に基づいて,又は甲第1?7号証及び甲第8?10号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,本件発明は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

無効理由2:
本件特許は,特許法第36条第4項又は第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
そして請求人は,証拠方法として以下の甲第1?10号証を提出している。

甲第1号証:特開2000-354450号公報(出願人:北海道農試)
甲第2号証:特開2000-350559号公報(出願人:北海道農試)
甲第3号証:特開平11-75673号公報(出願人:協和発酵)
甲第4号証:特開平8-89158号公報(出願人:鐘淵化学)
甲第5号証:特開平7-246055号公報(出願人:協和発酵等)
甲第6号証:特開平8-266213号公報(出願人:協和発酵)
甲第7号証:特開平9-107868号公報(出願人:協和発酵等)
甲第8号証:Y. Inoue and W. Bushuk, Cereal Chemistry. 69(4), 423-428 (1992
甲第9号証:長尾精一著「世界の小麦の生産と品質 -下巻- 各国の小麦」,第113- 114頁,輸入食糧協議会事務局,平成10年10月28日発行)
甲第10号証:(社)日本製パン技術研究所 「冷凍パン生地の物性と製パン性に関する研究」製パン技術資料No.464(平成10年(1998年)7月(社)日本製パン技術研究所発行)

3.これに対して,被請求人は,平成20年12月15日付で訂正請求書を提出して本件明細書の訂正を求めると共に,同日付答弁書及びその平成21年2月21日付補正書,平成21年4月17日付答弁書並びに平成21年6月16日付上申書を提出し,本件審判の請求は成り立たない旨主張している。

そして被請求人は,証拠方法として以下の乙第1?52号証を提出している。

乙第1号証:農林省農林経済局統計調査部:第38次農林省統計表(昭和38年) p. 128-. 129
乙第2号証:
http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/seisan_bunkakai/06shiryou.pdf#search=’生産量 国産小麦 統計’
乙第3号証:農林省農林経済局統計調査部:第38次農林省統計表(昭和38年) p. 681
乙第4号証:
http://www.toukei.maff.go.jp/dijest/mugisoba/mugisoba03-03/mugisoba03-03.html
乙第5号証:
http://www.zenkokubeibaku.or.jp/mugi/jyukyuu/jyukyuu2.pdf#search=’麦の用途別需要量’
乙第6号証:
http://www.beibaku.net/wheat/20_komugi/h20_mugi_03.pdf"
乙第7号証:特開平5-336872(出願人:協和発酵工業株式会社)
乙第8号証:http://www.j-margarine.com/datalist/pdf/2_pan.pdf
乙第9号証:
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_zyukyu_kakaku/pdf/kakaku.pdf#search= ’小麦 国際価格 シカゴ グラフ’
乙第10号証:
http://www.beibaku.net/wheat/20_komugi/h20_mugi_09.pdf#search= ’小麦をめぐる情勢’
乙第11号証:農研機構北海道農業研究センターで測定した各種小麦粉について各種ピンミキサーを用いて測定したミキシングピークタイムのデータ
乙第12号証:American Association of Cereal Chemists (AACC):Approved Methods of the AACC, Method 54-40A, The Association, St.Paul, MN (1991)
乙第13号証:農研機構北海道農業研究センターで測定した各種小麦粉について代表的ピンミキサーを用いて測定したミキシング時のモーター電流値の生データとピーク時間のグラフ
乙第14号証:Takata et al:Food Sci. Technol. Res., 9, 67-72 (2003).
乙第15号証:乙第27号証のTable3のデータのピーククイム(PT(min))と破断力(BF(N))の相関関係を示したグラフ
乙第16号証:特許公報(特第3410210号)
乙第17号証:特許公報(特第3481396号)
乙第18号証:特許公報(特第3932577号)
乙第19号証:American Association of Cereal Chemists (AACC) :Approved Methods of the AACC, Method 10-10B, The Association, St.Paul, MN (1991).
乙第20号証:Swanson et a1.:Cereal Chem, 3, 65 (1927).
乙第21号証:協和発酵株式会社FRZイースト説明資料
乙第22号証:Mariatti et a1.:Int. J. Food Sci. Tech., 41, 151-157 (2006).
乙第23号証:Bugusu et a1. Cereal Chem., 78, 31-35 (2001).
乙第24号証:ピン型ミキサーに関する説明書(P社)
乙第25号証:AACC Method 10-09 Page l of 6
乙第26号証:Swanson, C. 0. and Working E. B. 1926. Cereal Chemistry 3(2):65-83
乙第27号証:パーカーコーポレーション社『マイクロミキサー』のちらし
乙第28号証:パーカーコーポレーション社『100-200グラムミキサー』のちらし
乙第29号証:パーカーコーポレーション社ホームページ
乙第30号証:Seguchi, S., Hayashi, M., Kanenaga, K., Ishihara, C. and Noguchi, S. 1998. Cereal Chemistry 75(1) :37
乙第31号証:Ohm, J. B., Chung, O. K. and Deyoe, C. W. 1998. Cereal Chemistry 75(1) :156-157
乙第32号証:Lu, X. and Seibu, P. A. 1998. Cereal Chemistry 75(2):200-201
乙第33号証:Vemulapalli, V., Miller, K. A. and Hoseney, R. C. 1998. Cereal Chemistry 75(4) :439-442
乙第34号証:Hayman, D' Anne, Hoseney, R. C., and Faubion, J.M. 1998. Cereal Chemistry 75(5) :581
乙第35号証:Kadharmestan, C, Baik, B.-K., and Czuchajowska, Z. 1998. Cereal Chemistry 75(5):762-763
乙第36号証:Bejosano, F. P. and Corke, H. 1998. Cereal Chemistry 75(2):171
乙第37号証:Delwiche, S. R., Graybosch, R. A., and Peterson. C. J. 1998. Cereal Chemistry 75(4) :412-413
乙第38号証:Ichinose et al. : Food Sci. Technol. Res., 7, 214-219 (2001)
乙第39号証:公開特許公報(特開平7-284366)
乙第40号証:公開特許公報(特開平10-4862)
乙第41号証:公開特許公報(特開平10-102084)
乙第42号証:一般的に小売店で販売している日清製粉株式会社製の最もポピュラーな市販強力小麦粉のカメリヤ(商品名)の袋の表裏の写真
乙第43号証:American Association of Cereal Chemists (AACC) Approved Methods of the AACC Method 54-21, The Association, St.Paul, MN (1991)
乙第44号証:日清製粉の「K青鶏」の出ているホームページ
http://www.panaderia.co.jp/php/flour/flour/_list.php?status=move&cp=10
乙第45号証:追加実験Iの結果(第1表)
乙第46号証:追加実験IIの結果(第2表)
乙第47号証:Kilborn et al., Cereal Chem., 50, 70-75 (1973)
乙第48号証:Kilborn et al., Cereal Chem., 49, 48-51 (1972)
乙第49号証:乙第47号証のFig5及びFig6のデータをグラフ化したもの(図1)
乙第50号証:乙第48号証のTable IIのデータをグラフ化したもの(図2)
乙第51号証:Journal of Cereal Science 26 (1997) 177-178
乙第52号証:Cereal Chemistry, Vol.64, No.4 (1987) 269-270

第2 訂正請求についての判断

1.訂正事項
平成20年12月15日付訂正請求の内容は,本件明細書及び図面を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,具体的な訂正事項は以下の通りである。

(1)訂正事項1:請求項1に「通常の強力粉の1.2倍以上,好ましくは1.5倍以上のミキシング時間を示す超強力粉含有粉」とあるのを「通常強力粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉」と訂正する。

(2)訂正事項2:請求項1に「超強力粉を含有する穀物粉の冷蔵生地」とあるのを「超強力粉を10%以上70%以下含有する,超強力粉と強力粉を混合した穀物粉の冷蔵生地」と訂正する(なお,訂正請求書の「(3)訂正事項」の「2)訂正事項2」の「冷凍生地」は,訂正前の特許明細書の記載及び訂正請求書に添付された訂正明細書の記載によれば,「冷蔵生地」の誤記と認められる。)。

(3)訂正事項3:請求項2に「超強力粉の含有割合が10%,または30%以上である」とあるのを「超強力粉の含有割合が10%以上50%以下である」と訂正する。

(4)訂正事項4:請求項3を削除する訂正をする。

(5)訂正事項5:明細書の段落0006に「好ましくは冷蔵イーストを用いる」とあるを「冷蔵イーストを用いる」と訂正をする(なお,訂正請求書の「(3)訂正事項」の「5)訂正事項5」の「冷凍生地」は,訂正前の特許明細書の記載及び訂正請求書に添付された訂正明細書の記載によれば,「冷蔵生地」の誤記と認められる。)。

(6)訂正事項6:明細書の段落0006に「本発明の第1は,ピン型のミキサーで通常の強力粉」とあるのを「本発明は,ピン型のミキサーで通常の強力粉」と訂正する。

(7)訂正事項7:明細書の段落0006に「1.2倍以上,好ましくは1.5倍以上」とあるのを「1.2倍以上」と訂正する。

(8)訂正事項8:明細書の段落0006に「本願の第2は」とあるのを「本発明は」と訂正する。

(9)訂正事項9:明細書の段落0006に「パン類に関するものである。」とあるのを「パン類を提供するものである。」と訂正する。

(10)訂正事項10:明細書の段落0007に「ピン型のミキサーで通常の強力粉」とあるのを「ピン型のミキサーで通常強力粉」と訂正する。

(11)訂正事項11:明細書の段落0007に「1.2倍以上,更に好ましくは1.5倍以上」とあるのを「1.2倍以上」と訂正する。

(12)訂正事項12:明細書の段落0007に「を示す小麦粉のことである。」とあるのを「を示す小麦粉のことである。本発明でいう通常強力粉とは,日清製粉(株)製の市販通常強力小麦粉(商品名 カメリヤ)のことである。」と訂正する。

(13)訂正事項13:明細書の段落0008に「穀物粉,例えば,小麦粉,大麦粉,ライ麦粉,そば粉,トウモロコシ粉等の,一種又は二種以上の粉に10%以上,更に好ましくは30%以上の超強力粉を混合した粉」とあるのを「強力小麦粉に10%以上70%以下の超強力粉を混合した粉」と訂正する。

(14)訂正事項14:明細書の段落0009に「本発明の冷蔵イーストとは」とあるのを「本発明でいう冷蔵イーストとは」と訂正する。

(15)訂正事項15:明細書の段落0009に「イーストすべてが包含される。」とあるのを「イーストのことである」と訂正する。

(16)訂正事項16:明細書の段落0011に「小麦粉にその他の穀物粉,」とあるのを「小麦粉に」と訂正する。

2.訂正事項についての判断

(1)上記の訂正事項のうち,訂正事項1,5?16については,明りようでない記載の釈明,訂正事項2?4については,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また,この訂正は,願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであるし,それにより実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとはいえない。

(2)請求人の主張について
請求人は,上記の訂正事項のうち,訂正事項1,2,5,6,10,12,14及び15について,それが不適法なものであると主張する。訂正事項2及び5については,上記1.に記載したとおり,訂正請求書の単なる誤記と認められるが,それ以外の訂正事項に関し請求人が主張する点についてさらに検討する。

ア 訂正事項1,6及び10について
(ア)請求人は,この訂正事項について,請求項1及び対応明細書の「通常の強力粉」から「通常強力粉」への訂正は,意味が変わらず,明りようでない記載の釈明に該当しない,と主張する。
(イ)しかし,「通常の強力粉」の「通常強力粉」への訂正は,文字数が減ることにより簡潔となっていると認められ,明りようでない記載の釈明ではないとまではいえない。
(ウ)したがって,この訂正は明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められる。

イ 訂正事項12
(ア)請求人は,この訂正事項について,以下のように主張する。
・明細書の段落【0007】の「日清製粉カメリヤ」に関する追加文は,「通常強力粉」の定義を変更するものであり,新規事項である。
・乙第17号証記載の「カメリヤ」のたんぱく含量からは「カメリヤ」は中力粉であるから,この訂正は矛盾しており,不明確にするものである。
(イ)しかし,「日清製粉カメリヤ」に関する記載が追加された文の前には,「通常の強力粉(商品名,日清製粉カメリヤ)」と,括弧書き内の「カメリヤ」が通常の強力粉として記載されており,それが例示であるのか,定義であるのかは別として,「カメリヤ」を通常強力粉の基準とすることができることは記載されていたと認められるから,この訂正が新規事項を導入するものであると言うことはできない。
(ウ)また,たんぱく含量については,強力粉か中力粉かについての明確な規格が存在するとはいえず,その強度は,形成されるグルテンの量のみならずその質にも左右されるものである(五十嵐脩ら編「丸善食品総合辞典」丸善株式会社,平成10年3月25日発行,「小麦粉」の項を参照。)。甲第8号証にも,蛋白含量の同じB-Dの小麦粉がその強さにおいて,超強力から強力の範囲で相違していることが記載されている(424頁右欄下から18?10行)。したがって,たんぱく含量のみから「カメリヤ」が中力粉であるという請求人の主張は採用できない。
(エ)また,乙第16?18,42号証の記載からも,「日清製粉 カメリヤ」強力粉に相当するものと認められる。
(オ)したがって,この訂正に特に矛盾はなく,これにより明細書の記載が不明瞭になるものでもない。

ウ 訂正事項14について
請求人は,この訂正事項の趣旨が不明である旨主張する。しかし,この訂正は,本発明が「冷凍イースト」自体に関するものではないことを明確にすることを目的とするものと認められるから,明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって,請求人の主張は採用できない。

エ 訂正事項15について
請求人は,この訂正事項の趣旨が不明である旨主張する。しかし,この訂正は,「イーストとは」に係る文章として「…が包含される。」では不自然なために,「…のことである。」としたものと認められ,明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって,請求人の主張は採用できない。

3.小括
以上の通りであるから,本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き,及び,同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであり,適法な訂正と認める。

第3 本件発明
以上の通りであるから,本件発明は,平成20年12月15日付訂正請求書に添付された訂正明細書の,特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下の通りのものと認められる(以下,「本件発明1」及び「本件発明2」という。)。
「【請求項1】 ピン型のミキサーで通常強力粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉を10%以上70%以下含有する,超強力粉と強力粉を混合した穀物粉の冷蔵生地,及び冷蔵イーストを用いて製パンすることを特徴とする冷蔵生地製パン法。
【請求項2】 超強力粉含有穀物粉中の超強力粉の含有割合が10%以上50%以下であることを特徴とする請求項1記載の冷蔵生地製パン法。

第4 無効理由1について

1.請求人の主張
請求人は,本件発明は,甲第1?7号証に記載された発明に基づいて,又は,甲第1?10号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張する。
そこで,まず,本件発明1の進歩性について検討する。

2.被請求人の主張
請求人の主張に対して,被請求人は,以下のように主張している。
(1)甲第1?10号証には,本件発明の構成要件である,特定の超強力粉を10%以上含有する,超強力粉と強力粉を混合した穀物粉の冷蔵生地および冷蔵イーストを用いて製パンする冷蔵生地製パン法については記載がない。
(2)甲第1?10号証により、超強力粉含有粉を用いた冷凍製パン法や,超強力粉含有粉が製パン特性に優れていることが知られているとしても,製パン技術として別異の製パン技術である,本件発明の冷蔵生地製パン法を当業者が容易に想到することは困難である。
(3)本件発明には,冷蔵生地製法において,(i)パンの風味,品質に問題がある,(ii)適用できるパンの種類に制限がある,(iii)コスト高になったりする,という問題を解決すること
を可能としたという予測し得ない格別な効果を奏する。

3.判断

(1)甲第1号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 超強力粉含有粉と冷凍耐性イーストを用いることを特徴とする冷凍生地製パン法。
【請求項2】 超強力粉含有粉中の超強力粉の含有割合が10%以上であることを特徴とする請求項1記載の冷凍生地製パン法。
【請求項3】 超強力粉含有粉中の超強力粉の含有割合が30%以上であることを特徴とする請求項1記載の冷凍生地製パン法。」(特許請求の範囲)

イ 「【発明の実施の形態】本発明でいう超強力粉とは、ピン型のミキサーで通常の強力粉(商品名、日清製粉カメリヤ)の1.2倍以上、更に好ましくは1.5倍以上のミキシング時間(ミキシング時のモーターの電流値のピークまでの時間)を示す小麦粉のことである。このような小麦粉の性質を示す代表的小麦品種、系統としては、Glenlea、Wildcat、Bluesky、VictoriaINTA、カンザス州立大学系統KS831957、北海道農業試験場育成系統PC-338、ホクレン農業協同組合連合会育成系統HW-2号等が挙げられるが、どのような品種、系統からの小麦粉でも上記のような性質を示すものであれば、本発明の超強力粉に包含される。」(【0007】)

ウ 「本発明の超強力粉含有粉とは、一般に冷凍生地パンの原料となる穀物粉、例えば、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、そば粉、トウモロコシ粉等の、一種又は二種以上の粉に10%以上、更に好ましくは、30%以上の超強力粉を混合した粉のことである。但し、本発明の効果を十分に発揮させるためには、上記の超強力粉含有粉のミキシング時間が一般的に冷凍生地製パンに使用される強力粉よりも長いことが重要である。そのため、超強力粉を混合する粉の種類、性質により超強力粉の最適混合割合は適当に決定すればよい。」(【0008】)

エ 「本発明の冷凍耐性イーストとは、冷凍なしの生地の発酵力に対する冷凍解凍後の発酵力の割合が通常の一般イーストに比べ高いものすべてが包含される。このような、冷凍耐性イーストとしては、オリエンタル酵母工業株式会社のFDイースト、鐘渕化学工業株式会社G、GAイースト、協和発酵株式会社のFRZイースト、旭フーズ株式会社のYFイースト、日本甜菜製糖株式会社のFRイースト、食品総合研究所開発のFRI-413イースト、FRI-501イースト等を挙げることができる。また、一般に冷凍耐性が高いことが知られているTorulaspora属のイースト、具体例としては、Torulaspora delbruecki、Torulaspora globosa、Torulaspora pretoriensisも本発明の冷凍耐性イーストに包含される。」(【0009】)

オ 「本発明でいうパン類とは、イーストの発酵と生地の冷凍工程を伴って製造されるパン類すべてが包含され、小麦粉にその他の穀物粉、油脂、糖類、粉乳、膨張剤、食塩、調味料、香料、乳化剤、イースト、イーストフード、酸化剤、還元剤、各種酵素類等の原料の全部または一部と水、その他の物を加えて混合発酵後、蒸す、焼く、揚げる、煮る等の加熱調理をすることによってできる食品のことである。例えば、フランスパン、食パンのようなリーンな生地のパン、テーブルロール、バターロール等のロール類、マフィン、ラスク等の特殊パン、クロワッサン、デニッシュ、あんパン、ジャムパン、クリームパン等の菓子パン、肉まん、あんまん等の蒸しパン、発酵ドーナツ等の油揚げパン、更にはピザクラスト等を挙げることができる。」(【0011】)

カ 市販強力粉と超強力粉を混合した小麦粉に関して,超強力粉を,10%含有する小麦粉の実施例1,50%含有する実施例3,5?7,及び70%含有する実施例8?10の評価(【0015】?【0017】の表1?3。なお。表3の実施例5?7は,実施例8?10の誤記と認められる。)

キ 「【発明の効果】 以上説明したように、本発明の超強力粉含有粉と冷凍耐性イーストを用いる冷凍生地製パン法により、生地冷凍経時で従来法に比べ品質良好なパン類を製造することが可能になる。冷凍生地製パン法は、フレシュなパンの提供と製パンの合理化、省力化の両面から、近年特に大きな伸びを示しているが、長期冷凍によるパン品質の低下が大きな問題となっていた。本発明は、この問題をほぼ解決するための技術を提供するものである。本発明により、高品質の焼き立てパンの安定的供給が可能になり、また、パン類の流通の合理化も達成され、パン類の需要拡大に多大の寄与が期待される。」(【0028】)

(2)引用発明
以上の記載事項からみて,甲第1号証には,「ピン型のミキサーで通常の強力粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉を10%以上70%以下,あるいは10%以上50%以下含有する,超強力粉と強力粉を混合した穀物粉の冷凍生地,及び冷凍耐性イーストを用いて製パンする冷凍生地製パン法」(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比
本件発明1と引用発明とを比較すると,両者は,「ピン型のミキサーで通常の強力粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉を10%以上70%以下,あるいは10%以上50%以下含有する,超強力粉と強力粉を混合した穀物粉の生地,及びイーストを用いて製パンする生地製パン法」である点で一致し,以下の点で相違している。

相違点:本件発明1は,冷蔵イーストを用いて製パンする冷蔵生地製パン法であるのに対し,引用発明は,冷凍耐性イーストを用いて製パンする冷凍生地製パン法である点

(4)相違点についての判断

ア 甲2?7号証の記載

(ア)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には,以下の記載がある。
・「【請求項1】 超強力小麦粉をl%以上含有することを特徴とする改質小麦粉。
【請求項2】 超強力小麦粉を10%以上含有することを特徴とする改質小麦粉。
【請求項3】 超強力小麦粉が市販のパン用小麦粉のl.2倍以上のミキシング時間を有する小麦粉であることを特徴とする請求項l又は2記載の改質小麦粉。
【請求項4】 超強力小麦粉が市販のパン用小麦粉のl.5倍以上のミキシング時間を有する小麦粉であることを特徴とする請求項l又は2記載の改質小麦粉。
【請求項5】 請求項l,2,3又は4記載の改質小麦粉を用いて製造されたことを特徴とする小麦粉食品。
【請求項6】 小麦粉食品がパン類、菓子類、麺類であることを特徴とする請求項5記載の小麦粉食品。」(特許請求の範囲)
・「本発明で超強力小麦粉を添加して改質する小麦粉としては、高品質の外麦強力粉よりグルテン強度の弱い小麦粉すべてが含まれる。日本の小麦では、チホク、ホクシン、タイセツ、ホロシリ、タクネ、ハルヒカリ、ハルユタカ、春のあけぼの、ナンブコムギ、コユキコムギ、農林61号、西海180号等が挙げられるが、品種、系統には特に限定はない。また、穂発芽等により低アミロ化しグルテンの劣化した小麦粉やそば、ライ麦、ライ小麦、大麦、トウモロコシ、あわ、ひえ、きび等の、もともと生地の柔らかい雑穀類の粉の改質にも本発明は有効である。
本発明の改質小麦粉とは、超強力粉を1%以上、更に好ましくは10%以上含有する粉のことであり、超強力粉を混合する粉は小麦粉、上記各種穀類粉等の1種又は2種以上であり、特に限定はない。」(【0008】)
・市販強力粉と超強力粉を混合した小麦粉に関して,超強力粉を5?80%含有する小麦粉を用いた製パン試験の評価(【0016】?【0018】の表1?3)

(イ)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には,以下の記載がある。
・「【従来の技術】パン業界においては、生産合理化の手段として、冷凍生地製パン法が行われている。この方法は、調製したパン生地を凍結保存することによって製パン工程を中途で分断するものであり、冷凍生地は解凍した後、ホイロをとるだけで焼成できるので、製パン工程の調節を行うことができる。また、冷凍生地は長期間の保存に耐えられるので、作業の分散が可能となり、さらに大手の製パン工場から冷凍生地が配送されれば、末端のパン販売店でも焼きたてのパンを消費者に提供することができる。」(【0002】)
・「生産合理化の別の手段として、冷蔵保存生地(冷蔵生地)製パン法が行われている。この方法は、パン生地を調製した後、パン生地が凍らない範囲の低温で保存し、必要なときにホイロをとって焼成するものである。この方法によると、冷凍生地製パン法に比べて、パン生地の保存に要するエネルギーコストを軽減することができ、保存したパン生地の解凍操作が不要であるため焼成までに要する時間を短縮することができる。また、生地を凍結しないため、凍結に由来する生地の損傷がなく、冷凍生地に比べて品質の良いパンを得ることができる。」(【0003】)
・「酵母としては、パン酵母として知られているものであれば、文献記載のもの、市販品等いずれも用いられるが、好ましくは冷蔵耐性または/および冷凍耐性を有する酵母が用いられる。具体的には、例えば、サッカロミセス・セルビジェ ( Saccharomyces cerevisiae ) FERM P-11937 、P-11938(特開平4-234939号公報) 、NCIMB40328、40329 、40330 、40331 、40332 (特開平5-76348 号公報)、FERM P-12916 (特開平5-284896号公報) 、ダイヤイーストREIZO 、FRZ 〔協和醗酵工業(株)〕、オリエンタル LTイースト、FDイースト、FD-1イースト〔オリエンタル酵母工業(株)〕、ニッテンRSイースト〔日本甜菜製糖(株)〕、カネカグリーンイースト、グリーンイーストWS〔鐘淵化学工業(株)〕、三共イーストY、M〔三共(株)〕、45イースト(黒)、45イースト-レッド、45FCイースト、45SAイースト〔旭フーズ(株)〕等が用いられる。」(【0013】)
・「本発明においてパン生地の保存は、小麦粉に冷蔵耐性酵母または/および冷凍耐性酵母、食塩、水さらに必要に応じて砂糖、脱脂粉乳、卵、イーストフード、抗酸化剤(例えば、トコフェロール)、乳化剤(例えば、モノグリセリド)、香料、色素等を加え、混捏した後のパン生地であれば、フロア、分割、ベンチ、成型等、いずれの工程におけるものを冷蔵保存または冷凍保存に供してもよいが、成型後のパン生地を冷蔵保存または冷凍保存することが好ましい。パン生地は、通常-2?15℃で1?7日間の冷蔵保存、または-10?-30℃で1?120 日間の冷凍保存を行う。」(【0014】)

(ウ)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には,以下の記載がある。
・「【産業上の利用分野】本発明は、生地改良剤及び冷凍・冷蔵生地に関し、更に詳しくは、冷凍又は冷蔵パン生地の製造に使用され、特にパンのボリュームの減少、パン表面の梨肌(フィッシュアイ)の出現、パンの老化及びパンの風味の低下を防止するパン生地改良剤及びこれを含有してなる冷凍・冷蔵生地に関するものである。」(【0001】)
・「また、同様に製パン工程を省力化、合理化する目的で、冷蔵生地製パン法が用いられている。冷蔵生地製パン法とは、作成した生地を数日間保存するのに際し、冷凍ではなく、生地をイーストの発酵が少ない温度から凍結前の低温で貯蔵する方法を言う。メーカーでは必要に応じてこれらの方法を使い分け、省力化、合理化を進めようとしている。
しかしながら、通常の冷凍パン生地や冷蔵パン生地を用いて製パンした場合、パンのボリウムの減少、パン表面の梨肌の出現、パン風味低下などが起こり、商品価値の著しく低下したものとなる。」(【0004】)
・「パン生地は小麦粉に水を加えミキシングすることによって、小麦タンパクのグルテンが伸張し、ネットワークを形成する。更にミキシングの物理的ストレスにより生地中に無数の気泡核が生成する。これがイースト発酵による二酸化炭素を保持して膨脹し、キメの細かいパンが得られる。製パン工程を途中で中断し、生地を保存するためには、イーストの発酵を止める必要があり、そのために生地の冷凍もしくは冷蔵を行っている。一方、生地中の気泡核には製パン工程の初期には主に窒素ガスが、それ以後は発酵による炭酸ガスが主に含まれているが、冷凍や冷蔵に伴う生地温度の低下により、気泡核中の炭酸ガスは殆ど生地中の水に溶け込み、気泡核は減少すると考えられる。気泡核の減少は内相の荒さや梨肌にもつながり、冷凍、冷蔵生地から得られるパンの品質が悪いことの1つの原因と考えられる。」(【0022】)
・「冷凍生地の場合は、更に生地を冷凍保存する際に生地中での相変化、すなわち液体としての水から氷結晶生成が起こる。このような氷結晶生成が原因となって以下に述べる多くの副次的変化が生地内部で起こることが考えられる。すなわち、氷結晶構造形成によるグルテンネットワークの機械的破壊、氷結晶生成にともなう脱水による溶液成分の高濃度化、pH変化、SH-SS交換反応、脱水和、疎水結合によるタンパク変性、酵素失活、イースト菌体からの還元性グルタチオン漏洩による生地劣化などである。
これに対し詳細は不明であるが、アミラーゼ類を加えることにより小麦粉中の損傷デンプンを分解し、焼成時のカマ伸びを助け、更に、乳化剤等の併用によりグルテンの変性を防止しネットワークを補強することによって上記悪影響を軽減し、その結果、製パン後のパンのボリューム減少や梨肌を抑制できるものと考えられる。」(【0023】)

(エ)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には,以下の記載がある。
・「【請求項1】 冷蔵耐性酵母を用いてパン生地を製造する際に、油脂を融解し、これを混捏しながら急冷固化させて得られる油脂処理物を用いることを特徴とするパン生地の製法。
【請求項2】 請求項1記載のパン生地を用いて常法により製パンすることを特徴とするパンの製法。」(特許請求の範囲)
・「【従来の技術】近年製パン業界において、生産合理化の手段として、冷凍生地が広く用いられているが、凍結、輸送、解凍等高いエネルギーコストを要する。これら高いエネルギーコストの軽減のため、最終発酵前の生地を冷蔵保存する冷蔵生地が注目を浴びている。」(【0002】)
・「本発明において、冷蔵耐性酵母とは、20?40℃では正常に発酵し、-2?15℃では市販酵母の1/3以下の発酵能を有する酵母を意味する。
本発明に用いられる冷蔵耐性酵母としては、前記性質を有するものであれば、いずれも用いられ、例えば、市販のダイヤイーストREIZO〔協和発酵工業(株)〕が用いられる。」(【0008】)

(オ)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には,以下の記載がある。
・「【請求項1】 小麦粉、ホスホリパーゼCまたはリゾホスホリパーゼ、酵母および水を混捏することを特徴とするパン生地の製造法。
【請求項2】 パン生地が成型冷蔵パン生地または成型冷凍パン生地である請求項1記載の製造法。
【請求項3】 請求項1または2記載のパン生地を用いて常法により製パンすることを特徴とするパンの製造法。」(特許請求の範囲)
・「【従来の技術】近年製パン業界において、生産合理化の手段として、冷凍生地が広く用いられているが、生地凍結、冷凍保存、冷凍輸送、解凍に多大のエネルギーを要する。これらエネルギーを軽減するために、最終発酵前の生地を冷蔵保存する冷蔵生地が注目されている。
しかしながら、このような冷蔵生地を使用する場合、冷蔵保存中にも酵母の発酵が進むため、生地に好ましくない影響が現れるだけでなく、生地自身も冷蔵により物性が変化するため、焼成後のパンはボリウムが小さく、外観、風味等が劣るという問題点がある。これらの問題点を改善するために、生地の冷蔵中に発酵が抑制される、発酵能が低温感受性を示す酵母を用いたパン生地、食パン、菓子パン等を製造する方法が知られている(特開平5-336872号公報)。」(【0002】,【0003】)
・「本発明で用いる酵母としては、パン酵母として知られているものであれば、文献記載のもの、市販品等いずれも用いられるが、好ましくは冷蔵耐性または/および冷凍耐性を有する酵母が用いられる。具体的には、例えば、サッカロミセス・セルビジェ( Saccharomyces cerevisiae ) FERM P-11937 、P-11938(特開平4-234939号公報) 、NCIMB40328、40329 、40330 、40331 、40332 (特開平5-76348 号公報)、FERE P-12916 (特開平5-284896号公報) 、ダイヤイーストREIZO 、FRZ 〔協和醗酵工業(株)〕、オリエンタル LTイースト、FDイースト、FD-1イースト〔オリエンタル酵母工業(株)〕、ニッテンRSイースト〔日本甜菜製糖(株)〕、カネカグリーンイースト、グリーンイーストWS〔鐘淵化学工業(株)〕、三共イーストY、M〔三共(株)〕、45イースト(黒)、45イースト-レッド、45FCイースト、45SAイースト〔旭フーズ(株)〕等が用いられる。」(【0011】)
・「本発明に係わるパン生地、特に成型冷蔵または成型冷凍パン生地は、通常小麦粉にホスホリパーゼCまたはリゾホスホリパーゼ、酵母、食塩、水さらに必要に応じて砂糖、脱脂粉乳、卵、イーストフード、ショートニング等を加え混捏した後、フロアタイム、分割、ベンチタイムをとり、成型した生地を-2?15℃で冷蔵または-10?-30℃で冷凍して得られる。」(【0012】)

(カ)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には,以下の記載がある。
「【請求項1】 冷蔵耐性酵母を用いてパン生地を製造する際に、アセチル化した乳化剤を含む油脂組成物を生地中に存在させることを特徴とするパン生地の製造法。

【請求項5】 請求項1記載のパン生地を用いて製パンすることを特徴とするパンの製造法。」(特許請求の範囲)
・「【従来の技術】近年製パン業界において、生産合理化の手段として、冷凍生地が広く用いられているが、凍結、輸送、解凍等高いエネルギーコストを要する。これら高いエネルギーコストの軽減のため、最終発酵前の生地を冷蔵保存する冷蔵生地が注目を浴びている。
しかしながら、このような冷蔵生地を使用する場合、冷蔵保存中にも酵母の発酵が進むため、生地に好ましくない影響が現れる。
生地の冷蔵中に発酵が抑制される発酵能が低温感受性を示す酵母およびそれを用いたパン生地、食パン、菓子パン等を製造する方法は知られている(特開平5-336872号公報)。」(【0002】,【0003】)
・「【発明の実施の形態】本発明において、冷蔵耐性酵母とは、20?40℃では正常に発酵し、-2?15℃では市販酵母の1/3以下の発酵能を有する酵母を意味する。
本発明に用いられる冷蔵耐性酵母としては、前記性質を有するものであれば、いずれも用いられ、例えば、市販のダイヤイーストREIZO、ダイヤイーストFRZ〔協和発酵工業(株)製〕、サッカロミセス・セレビシェIAM4274(特開昭61-195637 号公報)、FERM P-11937、FERM P-11938 (特開平4-234939号公報) 、NCIMB40328 、40329 、40330 、40331 、40332 (特開平5-76348 号公報)、FERM P-12916(特開平5-284896号公報)、K-56(FERM P-13386) (特開平6-245687号公報)、R-55(FERM P-13756) 、R-321(FERM P-13757) 、R-2401(FERM P-14350) 、R-5704(FERM P-14353) 、R-5799(FERM P-14354) 、R-5947(FERM P-14355) 、R-5982(FERM P-14356) 、R-6724(FERM P-14357) 、A-3364(FERM P-14391) 、A-3364(FERM P-14391) 、A-3373(FERM P-14392) 、A-3417(FERM P-14393) 、R-6180(FERM P-14395) 、RM-4862(FERM P-14396) (特開平7-79767 号公報)等があげられる。」(【0010】,【0011】)

イ 請求人の具体的主張
請求人は,本件発明1の進歩性について以下のように主張する。
(ア)甲第2号証には甲第1号証に記載されている超強力粉含有粉が製パン用の生地として適していることが記載されており,甲第3及び4号証には製パン法として冷凍製パン法と冷蔵製パン法があること,これらの製パン法は当業者が必要に応じて適宜選択できる旨記載されており,冷蔵生地製パン法のほうがより容易であることが記載されているから,第1号証記載の冷凍生地製パン法に代えて甲第3及び4号証に記載されている冷蔵生地製パン法を選択することは当業者が容易に想到し得ることである。
(イ)かかる冷蔵生地製パン法において,冷蔵イーストを用いることは甲第5及び7号証に記載されており,その選択には困難性がない。
(ウ)本件発明1の,梨肌が発生しにくい等の効果も,甲第1号証に記載されており,本件発明1が予想外に顕著な効果を奏するということはできない。

ウ 本件発明1の容易想到性について
そこで,本件発明1の容易想到性について検討する。
甲第2号証には,グルテン強度の弱い小麦粉に超強力小麦粉を添加することにより,より製パン性を向上させることが記載されているものの,超強力粉含有粉が通常の強力粉と比較して,製パンに適していることが記載されているわけではなく,そのような特殊な前提ではなく,一般的に超強力粉含有粉が通常の強力粉と比較して製パン用の生地として適していることが記載されているものとは認められない。
また,例えば,甲第4号証には,冷凍生地の場合のパンの品質低下の原因として,氷結晶生成を原因とする「氷結晶構造形成によるグルテンネットワークの機械的破壊、氷結晶生成にともなう脱水による溶液成分の高濃度化、pH変化、SH-SS交換反応、脱水和、疎水結合によるタンパク変性、酵素失活、イースト菌体からの還元性グルタチオン漏洩による生地劣化など」を挙げている(【0023】)。しかし,このような氷結晶の生成は,冷蔵生地においては生じることはないから,冷凍生地の場合と冷蔵生地の場合とでは,パンの品質低下の主要な原因に相違があるものと認められる。
また,甲第10号証には,「…含有される蛋白質の質が極めて強力な試料Dによる冷凍生地が、グルテンマトリックスの強度が極めて高いために氷結晶による損傷を受けた後でも依然として高い製パン性を示すガス保持力を有しているため,ガス発生力の顕著な低下が起こらない限り凍結貯蔵による製パン性の低下が少ないことが分かった。」(69頁12?16行)と記載されており,冷凍生地に強度が極めて高い小麦粉を用いるとよい理由として,甲第4号証に記載されたような氷結晶による損傷を受けた後でも高い製パン性を示すガス保持力を有していることが挙げられている。
これらの記載からみれば,氷結晶の生成がある冷凍生地においては,強度が極めて高い小麦粉を用いる技術的な意味はあるが,氷結晶の生成のない冷蔵生地においてもそのような小麦粉を用いればパンの品質低下が改善されることは予測できない。そして,その他の甲各号証等の記載をみても,冷蔵生地製パンによるパンの品質低下が超強力粉含有穀物粉を用いることにより解決できることを明確に示唆する記載はない。
したがって,甲第1号証に,超強力粉含有穀物粉を用いた冷凍パン生地法により品質が良好なパンが得られたことが記載されているからといって,それとはパンの品質低下の原因が異なる冷蔵生地製パンにおいて,甲第1号証に記載された超強力粉含有穀物粉を用いることを,当業者が容易に想到するということはできない。

(5)本件発明1の効果について
そして,本件発明1は、本件明細書の表2(【0015】),表4(【0018】)及び表6(【001520】)に記載されているように,市販強力粉と冷蔵イーストを用いた比較例に対して,特に冷蔵7日において,比容積,梨肌の状態,内相及び食感・風味の各項目において優れていることが認められるものである。
そして,上記したように甲第1?10号証の記載からは,冷蔵生地製パンによるパンの品質低下が超強力粉含有穀物粉を用いることにより解決できることを明確に示唆する記載はないのであるから,本件発明1の効果が,甲各号証の記載から予期できる程度のものであるということはできない。

(6)請求人の甲第1?3,6号証に記載された発明に基づく主張について
また,請求人は,甲第2号証に記載されているパン生地であって,甲第1号証により冷凍生地製パン法に適していることが明らかにされているパン生地において,冷凍耐性イーストに代えて甲第3及び6号証に記載されている冷蔵耐性イーストに適用してみることは当業者が容易に想到しうることであり,本件発明1は甲第1?3,6号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとも主張している
しかし,この理由についても,上記(4)ウ及び(5)に記載したと同様の理由により,超強力粉含有穀物粉が冷凍生地製パン法に適しているからといって,それをパンの品質低下の原因が異なる冷蔵生地製パンに用いることが容易に想到できるとはいえないし,また,本件発明1の効果も,甲各号証の記載から予期できる程度のものであるということはできない。

(7)小括
以上の通りであるから,本件発明1が,甲第1?7,又は1?10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

4.本件発明2について
本件発明2は,本件発明1において,超強力粉の含有割合の範囲を限定したものであり,本件発明1が,上記の通り甲第1?7,又は1?10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上,本件発明2も同様に,甲第1?7,又は1?10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第5 無効理由2について

1.請求人の主張
請求人は,「ピン型ミキサー」がどのようなミキサーであるのか,どう使用するのか,及び「ミキシング時間」の測定条件,測定方法,評価方法について,本件明細書には一切記載がないから,本件明細書は当業者が本件発明を容易に実施できる程度に(「当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に」の意味と解される。)記載されておらず(実施可能要件),本件の特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載されたものではなく(サポート要件),また,本件の請求項の記載が明確でない(明確性要件)と主張する。
そこで,まず,本件発明1を特定する事項である「 ピン型のミキサーで通常強力粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉」が,明確であるか否かについて検討する。
2.被請求人の主張
請求人の主張に対して,被請求人は,以下のように主張している。
(1)「ピン型ミキサー」は,出願時に,当業者の間で製パン実験に用いるものとして広く知られている(乙20)。また,「ピン型ミキサー」は,米国公定法で用いるミキサーであり(乙19,12),同じ装置,同じ条件で比較すれば,ミキシング時間はほぼ同一となる。したがって,所定の「ピン型ミキサー」で,測定した小麦粉サンプルのミキシング時間を基準として,強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉を特定することは可能である。
(2)小麦粉生地のミキシング時間は,ピン型ミキサーの種類,回転数,クリアランス等の条件により変化するが,小麦粉間の相対比は,条件が変わってもほとんど変化しないことがこれまでの穀物科学の知見から明らかになっている。また,そのことは,実験により検証された(乙11)。したがって,相対時間で評価すれば,どのようなピンミキサーを用いても超強力小麦粉を明確に判別することが出来る。

3.判断

(1)「ピン型ミキサー」の明確性

ア 被請求人の主張
被請求人は,以下のことから,例え明細書中に記載がなくとも「ピン型ミキサー」がどのような装置であるかは当業者の間では技術常識であると主張する。
(ア)製粉・製パン分野でのAACC(American Association of Cereal Chemists)が編集し,公定法となっている「Approved Methods of the AACC」では,「最適化ストレート生地製パン法」や「ミキソグラフ法」などでピン型ミキサーが採用されている(乙第19,12号証)。
(イ)「Approved Methods of the AACC」で採用されているミキサーは,現在,National Mfg. Co., Lincolon,NE(以下「N社」という。)が製造販売しており,国内で流通しているピン型ミキサーは,N社製のものに限られており仕様の変更もない(乙第24号証)から,したがって,現在,国内の関係者が採用しているピン型ミキサーの大多数は,N社製のピン型ミキサーである,
(ウ)「ピン型ミキサー」という用語は,学術論文において特定の装置を意味するものとして慣用されている(乙51,52)。

イ 「ピン型ミキサー」について
ピン型ミキサーについては,小麦粉生地の混合に用いられることが,例えば,本件特許の出願前に頒布された乙第19,20号証にも記載されており,それがどのような装置であるのかについても周知であったものと認められる。したがって,「ピン型ミキサー」の細部の構成がどのようなものであるかは別として,それがどのようなタイプのミキサーであるのかという点については,当業者は明確に理解できるものと認められる。

ウ 「特定の装置」について
しかし,被請求人が,「ピン型ミキサー」が特定の装置,具体的にはN社の製品を意味するものであると主張しているのだとすれば,その点については以下の理由により採用できない。
(ア)AACCは米国の団体であり,そこで定める公定法が世界的に採用されているということはできない。また,特許明細書の場合には,発明の効果を明らかにするためには,従来技術と対比して同じ測定条件での効果を確認すれば足りるのであって,発明を明確に特定するためには該公定法によらなければ不可能であるという事情もないのであるから,特に公定法を用いる必要はない。
したがって,AACCの定める公定法において,N社製のピン型ミキサーを用いるという記載があるからといって,我が国における特許明細書においては,記載がなくともN社製のピン型ミキサーが用いられているということはできない。
(イ)乙51,52号証には,生地のミキシングにN社製のピンミキサーを用いたことが記載されているが,だからといって,それ以外のピンミキサーが用いられないことを示すものではない。
(ウ)また,例えば,Cereal Chemistry, 51(4), 1974, p.500-508,Cereal Chemistry, 51(5), 1974, p.592-595及びFood Australia, 47(2), Feb 1995, p.66-70に,小麦粉生地のミキシングに用いる実験室用ピンミキサーとして,Grain Research Loboratory製のGRL-200等が記載されており,その他,同様のピン型ミキサーとしてはHobart Manufacturing 製のA-120なども知られている(J. Nutr. 110, 1980, p.2272-2283)ように,学術文献において用いられている「ピン型ミキサー」は,N社製のものに限られるわけではない。
(エ)とすれば,本件明細書に記載された「ピン型ミキサー」がN社製のものを意味するということはできない。

(2)ピン型ミキサーの種類,ミキシング条件とミキシング時間の小麦粉間の相対比

ア 以上のように「ピン型ミキサー」にもいろいろな種類があり(N社製の製品に限っても,乙第19号証には,1ポンド用,100g用,10g用の3種類があること,ピンを追加することもあることが記載されている。),また,回転数や生地の水分量などの測定条件も幅があるものと認められる。
とすれば,「ピン型ミキサー」の種類や測定条件についての具体的記載のない本件明細書の記載から,「ピン型のミキサーで強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉」が明確であるというためには,ミキシングピーク時間が「ピン型ミキサー」の種類や測定条件によって変化せず一定であることが必要である。

イ 被請求人の主張
被請求人は,この点について,以下のことから本件発明1の「ミキシングピークタイム」は明確であると主張する。
(ア)その後の実験結果(乙第11号証)によれば,異なるミキシング時間を有する小麦粉を,異なるミキサー及び回転数でミキシングした結果,対象の小麦粉(カメリヤ)に対する相対的ピーク時間はほぼ同一であり,これは出願後のデータではあるものの科学的事実である。
(イ)国内で流通しているピン型ミキサーは,N社製のものに限られている。仕様の変更もない(乙第24号証)。とすれば実験日時に関わらず,同様の条件で測定すれば,同様の「実験事実」が得られると推量される。
(ウ)ピン型ミキサーによる測定条件,測定方法については,明細書中に記載がなくとも,AACCの公定法(乙第19,12号証)に即した条件で測定が行われるべきことは,当業者にとって技術常識であり,この公定法に従って製パン・測定を行った事例が数多く散見される(乙第30?37号証)。
(エ)乙第47,48号証の結果をグラフ化した乙第49,50号証によれば,異なる回転数(2値)のミキシング時間には高い相関がある。

ウ 乙第11号証及び乙第13号証について
(ア)乙第19,12号証に記載されたAACCの公定法によれば,35gミキサーの場合の回転速度としては,ミキソグラムで88±2回転,ストレート生地製パン法で100-125回転が推奨されているが,乙第11号証及び乙第13号証には,その範囲のデータは記載がない。
(イ)また,乙第11号証に記載されたピーク時間のデータ,特に35g用ピンミキサー(150rpm)のデータは,乙第13号証のグラフに基づくものと認められるが,特に,「VictoriaINTA」,「北海261号」,「北海259号」,「北海260号」については,記載されたグラフのピークは曖昧であって,なぜこの数値をピーク時間と判断したのかが不明である。また,「ホクシン」,「ゴールデンヨット」,「北海261号」,「北海259号」,「北海260号」については,その数値が乙第13号証のグラフに記載されたものと乙第11号証の表に記載された数値とが,若干ではあるが異なっている。
(ウ)さらに,各超強力粉の市販強力粉(カメリヤ)に対する各条件におけるピーク時間の相対比をみると,例えば,「Wild Cat」,「VictoriaINTA」,「北海261号」,「北海259号」,「北海260号」において,その最大値と最小値との差が,0.09,0.11,0.18,0.17,0.15である。
また,同様に,被請求人が実験結果として提出した乙第46号証によれば,例えば,「スーパーカメリヤ」,「K青鶏」,「N龍舟」,「クードシャンス」においては,その相対比の最大値と最小値との差は,0.18,0.16,0.19,0.14である。
本件発明1が,市販強力粉に対して1.2倍以上,すなわち0.2倍多いミキシング時間を示す小麦粉を本件発明1の発明特定事項としているときに,ミキシング条件によってこの程度の差が存在するということは,発明を特定する上で無視することが出来ない程度の差であると認められる。

エ AACCの公定法について
AACCの公定法については,上記(1)ウ(ア)で述べた通りの理由により,その測定の仕方に関する具体的記載が全くない本件明細書における試験が,同公定法によって試験されていることは明らかであるとはいえない。

オ 乙第47?50号証について
被請求人は,乙第47?50号証を提出して,異なる回転数でのデータの相関係数rが高いことを以て,ミキシング時間の相対比に大きな変化はないと主張している。
しかし,例えば,乙第48号証の表2の試料3と4とを比較すると,そのミキシング時間の相対比は,140回転では1.17であるのに対し,110回転では1.38でありかなり相違している。また,乙第51号証をみても130回転でのミキシング時間が6分のところでは,回帰直線からかなり離れたデータが存在していることが見て取れる。
例え,全データの相関係数が高くとも,部分的にピーク時間の相対比がある程度程度異なるデータがあれば,ミキシングピーク時間が「ピン型ミキサー」の種類や測定条件によって変化せず一定であるとはいえない。

カ 本願の出願時における技術常識
仮に,被請求人の主張するように,ミキシングピーク時間の相対比が一定であることが科学的事実であるとした場合であっても,発明が明確であるか否かは,明細書の記載に基づき出願時の技術常識を参酌して判断すべきものであるから,そのような科学的事実が,それが本件特許の出願時において技術常識である必要がある。つまり,本件発明1が明細書の記載から明確に把握できるというためには,ピン型ミキサーの種類やミキシング条件にかかわらず,ミキシング時間の小麦粉間の相対比がほとんど変化しないということが本件特許の出願時において技術常識であり,それらを特定するまでもなく,「ピン型のミキサーで強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉」というものを明確に理解できる必要がある。
しかし,被請求人の提出した証拠をみても,この点が技術常識であることを示すものはない。

キ 以上のことから,本件発明の発明特定事項である「ピン型のミキサーで強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉」という記載は不明確であり,本件発明1自体が不明確である。
また,同様の理由により,本件発明1が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されているものとはいえず,また,本件発明1が発明の詳細な説明に記載したものであるということもできない。

ク その他
(ア)請求人は,
・「通常強力粉」がどのような特性のものであるかは本件明細書中に一切記載されていない,
・「1.2倍以上,好ましくは1.5倍以上」については,1.2倍以上であれば足りるのか,1.5以上でなければならないのかについて,必ずしも明確な記載とはいえない,
とも主張しているので,この点についても判断すると以下の通りである。
(イ)「通常強力粉」については,「強力粉」という語は,食品分野において慣用されている用語であって,特に特性を記載しなければ不明確な用語であるとは認められないし,「通常」とは,「普通であること。なみ。通例。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」という意味であって,特殊なものは含まれないという程度の特定であると認められるから,「通常強力粉」というものがどのようなものであるのかを理解することが困難であるとまではいえない。(なお,「通常強力粉」について,本件訂正明細書には,「本件発明1でいう通常強力粉とは,日清製粉(株)製の市販通常強力小麦粉(商品名 カメリア)のことである。」(【0007】)という定義が記載されている。)
(ウ)また,「好ましくは」という記載については,平成20年12月15日付訂正により,「好ましくは1.5倍以上」という記載が削除されたから,請求人の主張には理由がない。
(エ)したがって,これらの点によっては,本件発明が明確でないということはできない。実施可能要件及びサポート要件についても同様である。

ケ 本件発明2について
本件発明2は,本件発明1をさらに限定したものであり,「ピン型のミキサーで強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉」という発明特定事項を同様に含むものであるから,同様の理由により明確であるとはいえず,また,実施可能要件及びサポート要件も満たしていない。

コ 小括
以上のように,本件特許の請求項1及び2に係る発明の特許は,特許法第36条第6項第1号並びに第2号,及び同条第4項(平成14年改正前のもの)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

第6 むすび

以上のように,本件特許の請求項1及び2に係る発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえないから,この理由により本件特許を無効にすることはできない。
しかし,本件特許は,その請求項1及び2に関して,特許法第36条第4項並びに第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから同法第123条第4号に該当し,無効とすべきものである。
審判に対する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論の通り審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
冷蔵生地製パン法及び本法によって得られるパン類
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ピン型のミキサーで通常強力粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉を10%以上70%以下含有する、超強力粉と強力粉を混合した穀物粉の冷蔵生地、及び冷蔵イーストを用いて製パンすることを特徴とする冷蔵生地製パン法。
【請求項2】超強力粉含有穀物粉中の超強力粉の含有割合が10%以上50%以下であることを特徴とする請求項1記載の冷蔵生地製パン法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超強力粉含有穀物粉を用いる冷蔵生地製パン法とこの製法で得られるパン類に関し、更に詳しくは、超強力粉を適当量混合してタンパク質の強度を強化した穀物粉の冷蔵生地と冷蔵イーストとを組み合わせて用いる冷蔵生地製パン法と本法によって製造される品質良好なパン類に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、消費者のグルメ嗜好から、焼き立てのパンを求める声が高まっている。冷蔵生地製法は、このような要望と、より安定的に風味良好なパンを製造したいというパン業界の要望から開発されたものであり、低温下で発酵の停止する冷蔵イーストの開発により、最近急速に普及している。この製法は、冷凍生地製法と同様に製パン工程の途中で生地の冷蔵により製造を中断できるため、製パンの時間的制約が低減され、製造面からの合理化も達成できる。また、冷蔵イーストの開発により冷蔵中の生地の発酵を停止させることが可能になり、1?2週間程度であれば生地の保存ができるようになった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、冷凍生地製法ほどではないが、本製法においても、生地の長期の冷蔵中に生地の冷蔵劣化や酵母の冷蔵障害によりパンの品質が低下するという問題がある。
【0004】
これらの問題の対応策として、これまで▲1▼製パン条件の改良(特開平11-075671号、特開平11-056218号、特開平09-163914号、特開平09-121753号、特開平08-266213号、特開平08-196197号)、▲2▼各種糖類、乳化剤等の各種改良剤の添加(特開平10-033109号、特開平09-065822号、特開平09-065821号、特開平08-089158号)、▲3▼冷蔵イーストの改良(特開平09-000272号、特開平08-332084号、特開平08-154666号)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、上記の解決策では、▲1▼パンの風味、品質等に問題が生じる、▲2▼適用できるパンの種類に制限がある、▲3▼コスト高になる、等の新たな問題が生じる等、冷蔵生地の冷蔵中の劣化の問題は十分に解決されていないのが現状である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題について鋭意研究を行った結果、生地冷蔵耐性のある超強力粉含有穀物粉と、冷蔵イーストを用いる冷蔵生地製パン法により、コスト高にならず上記の問題を解決できることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、ピン型のミキサーで通常強力粉(商品名:カメリヤ、日清製粉(株)製)の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉を含有する穀物粉を用いることにより、冷蔵期間中の生地劣化の非常に少ない冷蔵生地製パン法を提供するものである。本発明は、この冷蔵生地製パン法によって製造された品質良好なパン類を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明でいう超強力粉とは、ピン型のミキサーで通常強力粉(商品名:カメリヤ、日清製粉(株)製)の1.2倍以上のミキシング時間(ミキシング時のモーターの電流値のピークまでの時間)を示す小麦粉のことである。本発明でいう通常強力粉とは、日清製粉(株)製の市販通常強力小麦粉(商品名、カメリヤ)のことである。このような小麦粉の性質を示す代表的小麦品種、系統としては、Glenlea、Wildcat、Bluesky、Victoria INTA、カンザス州立大学育成品種KS831957、独立行政法人農業技術研究機構北海道農業研究センター育成系統、勝系12、勝系14、勝系33等が挙げられるが、どのような品種、系統からの小麦粉でも上記のような性質を示すものであれば、本発明の超強力粉に包含される。
【0008】
本発明の超強力粉含有穀物粉とは、一般に冷蔵生地パンの原料となる強力小麦粉に10%以上70%以下の超強力粉を混合した粉のことである。但し、本発明の効果を十分に発揮させるためには、上記の超強力粉含有穀物粉のミキシング時間が一般的に冷蔵生地製パンに使用される強力粉よりも長いことが重要である。そのため、超強力粉を混合する粉の種類、性質により超強力粉の最適混合割合は適当に決定すればよい。
【0009】
本発明でいう冷蔵イーストとは、5℃の生地の発酵力が一般イーストの5℃発酵力の1/3以下のイーストのことである。このような冷蔵イーストとしては、オリエンタル酵母工業(株)のLTイースト、協和発酵(株)REIZOイースト、FRZイースト、鐘渕化学工業(株)WYイースト等を挙げることができる。本発明の冷蔵パン生地の製造方法は、ノータイム法、ストレート法、リミックスストレート法、中種法等の冷蔵生地製パン法であれば特に限定はない。また、冷蔵工程としては、大玉生地冷蔵、分割生地玉冷蔵、成型生地冷蔵、ホイロ後生地冷蔵等いずれの工程で冷蔵する方法も包含される。
【0010】
冷蔵方式については、特に限定はないが、生地表面が乾燥しない条件でなるべく急速に冷却した方が良好な結果が得られる。また、急速冷蔵するために、生地表面が凍結する直前まで生地の凍結温度以下の冷凍庫中で急速冷却後冷蔵庫に移してその後冷却、保存を行う方式も有効である。生地の冷蔵温度としては生地の凍結温度以上10℃以下の範囲が適当であり、長期保存する場合には5℃以下でなるべく低温の方が好適である。本発明の冷蔵温度は0℃以下の温度でもその生地が凍結する温度帯まですべてを包含する。生地配合によってその凍結点は変化するので当然冷蔵温度範囲は生地よって変化する。本発明の方法により、冷蔵貯蔵された冷蔵パン生地は、所望の時に昇温して、必要に応じて寝かし、発酵、ホイロ工程を経て焼成等を行って製品化することができる。
【0011】
本発明でいうパン類とは、イーストの発酵と生地の冷蔵工程を伴って製造されるパン類すべてが包含され、小麦粉に、油脂、糖類、粉乳、膨張剤、食塩、調味料、香料、乳化剤、イースト、イーストフード、酸化剤、還元剤、各種酵素類等の原料の全部または一部と水、その他の物を加えて混合発酵後、蒸す、焼く、揚げる、煮る等の加熱調理をすることによってできる食品のことである。例えば、フランスパン、食パンのようなリーンな生地のパン、テーブルロール、バターロール等のロール類、マフィン、ラスク等の特殊パン、クロワッサン、デニッシュ、あんパン、ジャムパン、クリームパン等の菓子パン、肉まん、あんまん等の蒸しパン、発酵ドーナツ等の油揚げパン、更にはピザクラスト等を挙げることができる。
【0012】
本発明の超強力粉含有穀物粉と冷蔵イーストを組み合わせた技術の効果は、混合粉が小麦粉のみの場合に特にその効果を発揮し、超強力粉以外の小麦粉がより強い強力粉の方がより好適な結果となる。冷蔵生地製パン法の条件としては、生地冷蔵前の発酵時間が長く、一般的に冷蔵による劣化の大きい製法の場合に本発明の効果はより顕著に発揮される。
【0013】
本発明の冷蔵生地製法によって、従来法以上の良好な冷蔵生地からのパンが長期の冷蔵期間にわたって得られる理由については、詳細は不明であるが、本発明においては、冷蔵イーストに加え、小麦粉生地そのものにも冷蔵耐性があると考えられる超強力粉を使用することに主に原因があると考えられる。即ち、冷蔵によりイーストがある程度障害を受けてガス発生量が低下しても、生地そのもののガス保持が維持され、パン体積の低下や内相の劣化が起こらず品質良好なパンが製造できると考えられる。
【0014】
【実施例】
次に表1?6に示す実施例(比較例を含む)に基づいて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
▲1▼実施例1?4、比較例1?3
表1に示す食パン配合で種々の量の超強力粉を混合した小麦粉について、ノータイム冷蔵生地製パン法により製パンを行い、冷蔵経時で生地を昇温して山型食パンを製造し、パン品質の評価を行った。その結果を表2に示す。なお、本発明のすべての実施例、比較例において、配合は、小麦粉100に対する重量部で示した。パン評価は、比容積を測定後、3人のパネラーにより梨肌、内相、食感、風味について行った。なお、評価は、◎:非常に良い、○:良い、△:やや劣る、×:劣る、の4段階で行った。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
【表3】

【0018】
【表4】

【0019】
【表5】

【0020】
【表6】

【0021】
以下に製パン工程を示す。
・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・分割、丸目:生地量100gずつ手分割、丸目
・ベンチ:30℃、20分
・成型:モルダー、シーターにて成型
・冷却・冷蔵:-10℃で1時間急速冷蔵後ポリエチレン袋に入れ3℃で保存
・昇温:30℃、湿度70%で1時間昇温
・ホイロ発酵:38℃、湿度85%で型上1cmまでホイロ発酵
・焼成:200℃、25分
なお、冷蔵なしの区は、冷蔵、昇温工程なしで成形後続いてホイロ発酵を行い焼成して製パンを行った。
【0022】
表2の結果から、生地冷蔵無のパンでは、すべての区で大きな品質の差はないが超強力粉を含有する穀物粉を使用した区ではパンの食感に引きがあり若干フランスパンに近い物性を示した。これに対し、生地冷蔵、4日、7日のパンでは、全般に比較例に比べ実施例では製パン評価結果が良好であり、生地冷蔵4日の実施例のパンでは実施例1以外冷蔵無のパンに近い品質を示した。また、生地冷蔵7日のパンでは比較例のパンがかなり大きく品質が低下するのに対し、超強力粉30%以上混合した小麦粉を使用している実施例2?4では、若干品質は低下したが、長期冷蔵した生地からのパンとは思えない良好なパンであった。
【0023】
▲2▼実施例5?7、比較例4?6
表3に示す食パン配合で種々の種類の超強力粉を混合した小麦粉について、発酵60分のストレート法冷蔵生地製パン法により製パンを行い、冷蔵経時で昇温して山型食パンを製造し、表2と同様の評価を行った。なお、製パン工程は発酵60分取った後分割、丸目を行うこと以外は実施例1?4、比較例1?3と同様に行った。その結果を表4に示す。この結果から、表2と同様に冷蔵無の生地からのパンでは実施例と比較例で大きな差はないが、冷蔵生地からのパンでは前発酵60分取った製法であるため全般にパンの品質は、実施例1?4、比較例1?3に比べ低下したが、比較例に比べ実施例の方がパン品質がかなり良好であり、特に、冷蔵7日の生地からのパンでは、その差が非常に大であった。
【0024】
以上の結果から、イーストの冷蔵障害の起こりやすい前発酵を長く取るストレート法冷蔵生地製法においても、本発明の効果は大であり、生地の長期冷蔵においても品質良好なパンが得られることがわかる。
【0025】
▲3▼実施例8?10、比較例7?9
表5に示すバターロール配合で種々の種類の超強力粉を混合した小麦粉について、ノータイム冷蔵生地製パン法により、製パンを行い冷蔵経時で生地を昇温してバターロールを製造し、表2と同様にパン品質の評価を行った。その結果を表6に示す。
【0026】
以下に製パン工程を示す。
・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・分割、丸目:生地量40gずつ手分割、丸目
・ベンチ:30℃、20分
・成型:手でロール型に成型
・冷却・冷蔵:-5℃で1時間急速冷蔵後ポリエチレン袋に入れ3℃で保存
・昇温:30℃、湿度70%で1時間昇温
・ホイロ発酵:38℃、湿度85%で生地が一定の大きさになるまで発酵
・焼成:200℃、13分
【0027】
なお、冷蔵無の区は、冷蔵、昇温工程なしで成型後ホイロ発酵を行い焼成して製パンを行った。表6の結果から、生地冷蔵無のパンでは、すべての区で大きな品質の差はなく、超強力粉含有小麦粉を使用したパンの食感が若干硬い程度であった。これに対し、冷蔵生地からのパンでは、全般に比較例に比べ実施例では、パンの品質が良好で、生地冷蔵4日の実施例のパンでは、生地冷蔵無のパンに近い品質を示し、生地冷蔵7日の実施例のパンでは、長期冷蔵にもかかわらず冷蔵障害の特徴である梨肌の発生もほとんどなくかなり良好なパンが得られた。
【0028】
以上の結果から、バターロールのようなリッチな配合の冷蔵生地製法のパンにおいても本発明の効果が十分に発揮されることがわかる。超強力粉の混合穀物粉においては、冷蔵無の生地からのパンの食感が若干硬いという傾向はあるが、冷蔵生地製パンの場合、冷蔵工程無のパンが提供されることはないことから、生地長期冷蔵においても良好なパンのできる本発明の効果は大きいと考えられる。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の超強力粉含有穀物粉と冷蔵イーストを用いる冷蔵生地製パン法により、生地冷蔵経時で従来法に比べ品質良好なパン類を製造することが可能になる。冷蔵生地製パン法は、フレシュなパンの提供と製パンの合理化、省力化の両面から、最近注目され、特に冷蔵イーストの開発によりリッチな配合のパンを中心に急速に伸びている。本法は、冷凍生地製法のように長期の保存はできないが、冷凍、解凍工程がないため生地劣化も比較的少ないながらもやはり冷蔵保存中の劣化によるパン品質の低下が問題となっていた。本発明は、この問題をほぼ解決するための技術を提供できる。本発明により、高品質の焼き立てパンの安定的供給が可能になり、また、パン類の流通の合理化も達成され、パン類の需要拡大に多大の寄与が期待される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-07-21 
結審通知日 2009-07-23 
審決日 2009-08-07 
出願番号 特願2001-257842(P2001-257842)
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (A21D)
P 1 113・ 121- ZA (A21D)
P 1 113・ 856- ZA (A21D)
P 1 113・ 853- ZA (A21D)
P 1 113・ 536- ZA (A21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
平田 和男
登録日 2004-03-26 
登録番号 特許第3536093号(P3536093)
発明の名称 冷蔵生地製パン法及び本法によって得られるパン類  
代理人 佐伯 憲生  
代理人 佐伯 裕子  
代理人 須藤 政彦  
代理人 須藤 政彦  
代理人 牛山 直子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ