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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C08J
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C08J
管理番号 1205504
審判番号 無効2008-800151  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-08-11 
確定日 2009-10-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4011962号発明「ポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法、製造された押出発泡シートおよび該発泡シートからなる成形体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4011962号の請求項1ないし3、6ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

(1)本件特許第4011962号に係る発明についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成14年4月26日に特許出願され、平成19年9月14日にその発明について特許権の設定登録(請求項の数7)がなされた。
(2)これに対して、請求人は、平成20年8月11日に特許無効審判を請求し、本件特許の請求項1?3,6?7に係る発明は、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである旨を主張するとともに、証拠方法として、甲第1?18号証を提出した。
(3)被請求人は、平成20年10月31日に審判事件答弁書を提出して、本件審判の請求は成り立たない旨を主張し、証拠方法として、乙第1?8号証を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正(請求項の数に変更は無い)を求めた。
(4)請求人は、平成20年12月15日に審判事件弁駁書を提出し、証拠方法として、甲第19?30号証を提出した。
(5)平成21年6月16日付けで、請求人及び被請求人に対して、この無効審判についての審理は書面審理によるものとする旨の通知がなされるとともに、被請求人に対して、上記訂正の請求に対する訂正拒絶理由の通知が、また、請求人に対して、その訂正拒絶理由の内容を記載した職権審理結果の通知が、それぞれなされた。
(6)被請求人は、訂正拒絶理由通知の指定期間内である平成21年7月21日に意見書を提出した。なお、請求人からは、職権審理結果通知に対する意見書の提出がなされなかった。



2.訂正の可否について

(1)訂正の内容
平成20年10月31日付けの訂正請求書による訂正請求は、本件特許第4011962号の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、訂正請求書に添付した全文訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものである。


(2)訂正事項
訂正請求書に添付した全文訂正明細書の記載から見て、被請求人が求める訂正(以下、「本件訂正」という。)は、次のとおりである。

[訂正事項1]
特許請求の範囲について、訂正前の
「【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法であって、着色剤マスターバッチ(B)のベースポリマーが低密度ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であり、ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)として230℃、2.16kg荷重におけるポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックスの比(着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックス/ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトインデックス)が0.01?40のものを用いることを特徴とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項2】 前記着色剤マスターバッチ(B)の着色剤がカーボンブラックを含む黒色系着色剤である請求項1記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項3】 前記着色剤マスターバッチ(B)の添加量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、1?10重量部である請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項4】 前記ポリプロピレン系樹脂(A)が、原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬して得られる改質ポリプロピレン系樹脂である請求項1、2または3記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項5】 前記ラジカル重合性単量体がイソプレンである請求項4記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項6】 請求項1、2、3、4または5記載のポリプロピレン系押出発泡シートの製造方法により得られたポリプロピレン系樹脂押出発泡シート。
【請求項7】 請求項6記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートを加熱炉で加熱後成形することによって得られる成形体。」

「【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)を基材樹脂とし、発泡剤として脂肪族炭化水素類;脂環式炭化水素類;ハロゲン化炭化水素類;無機ガスおよび水からなる群から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いてなり、密度が0.5?0.05g/cm^(3)、独立気泡率が60%以上であるポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法であって、前記ポリプロピレン系樹脂(A)が、電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン;超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン;原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記着色剤マスターバッチ(B)の添加量がポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して1?10重量部であり、着色剤マスターバッチ(B)のベースポリマーが低密度ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であり、ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)として230℃、2.16kg荷重におけるポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックスの比(着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックス/ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトインデックス)が0.1?20のものを用いることを特徴とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項2】 前記着色剤マスターバッチ(B)の着色剤がカーボンブラックを含む黒色系着色剤である請求項1記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項3】 前記着色剤マスターバッチ(B)中の着色剤濃度が20?50重量%であり、前記ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックスの比が0.1?10であり、前記着色剤マスターバッチ(B)の添加量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、2?6重量部である請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項4】 前記ポリプロピレン系樹脂(A)が、原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬して得られる改質ポリプロピレン系樹脂である請求項1、2または3記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項5】 前記ラジカル重合性単量体がイソプレンである請求項4記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項6】 請求項1、2、3、4または5記載のポリプロピレン系押出発泡シートの製造方法により得られたポリプロピレン系樹脂押出発泡シート。
【請求項7】 請求項6記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートを加熱炉で加熱後成形することによって得られる成形体。」
と訂正する。


(3)訂正拒絶理由通知の概要
平成21年6月16日付けで通知した訂正拒絶の理由の概要は、次のようなものである。

「3.訂正の適否
訂正事項1は、実質的に、次の訂正事項(a)?(h)からなるものである。
……
(c)請求項1において、「前記ポリプロピレン系樹脂(A)が、電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン;超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン;原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり」という記載を追加する訂正
……
[2]新規事項の有無
……
そうすると、訂正事項(c)は、特許明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとは認められず、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。
……
4.まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項(c)を含む訂正事項1は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは言えず、よって、特許法第134条の2第5項の規定において準用する同法第126条第3項の規定に適合しない。
したがって、本件訂正は認められない。」


(4)判断
訂正事項1は、請求項1において、「前記ポリプロピレン系樹脂(A)が、電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン;超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン;原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり」という記載を追加する訂正事項(c)を含むところ、この訂正事項(c)が特許明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるか否か、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かについて検討する。

訂正事項(c)は、上記のとおり、請求項1において「前記ポリプロピレン系樹脂(A)が、電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン;超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン;原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり」という記載を追加する訂正であるところ、この「ポリプロピレン系樹脂(A)が、電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン;超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン;原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり」とは、言い換えれば、「ポリプロピレン系樹脂(A)」が、次の七つの具体物?の何れかであることを意味するものと解される。
「電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン」
「超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン」
「原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体および
ラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロ
ピレン系樹脂」
上記
と上記との混合物
上記と上記との混合物
上記と上記
との混合物
上記
と上記と上記との混合物
そこで、「ポリプロピレン系樹脂(A)」が上記具体物
?の何れかであることについて、特許明細書にその記載が存在するか否かについて検討すると、段落【0006】に、「本発明でポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造に使用されるポリプロピレン系樹脂としては、たとえば電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレンや、超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン、原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂などが、高倍率の発泡体が得られる点から好ましい。」という記載が存在しており、この記載から、「ポリプロピレン系樹脂(A)」が上記具体物?の何れかであることは特許明細書中に記載されていると言えるものの、「ポリプロピレン系樹脂(A)」が上記具体物?の何れかであることまで記載されているとは言えない。
また、特許明細書の段落【0020】には、「本発明の発泡シートを製造するのに使用するポリプロピレン系樹脂は、一部を他の樹脂で置き換えて使用してもよい。」という記載が存在するものの、この記載は、「ポリプロピレン系樹脂(A)」の一部が、「ポリプロピレン系樹脂(A)」の範疇には属しない「他の樹脂」で置き換わり得ることを意味しているものと解するのが相当であって、「ポリプロピレン系樹脂(A)」が上記具体物?の何れかであることを意味しているものと解することはできない。
結局、特許明細書における全ての記載を検討しても、「ポリプロピレン系樹脂(A)」が、「電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン;超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン;原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂からなる群」から選択される「2種」や「3種」であることについては、特許明細書に明示的に記載されているとは言えないし、特許明細書の記載から自明であるとも言えない。
そうすると、訂正事項(c)は、特許明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとは認められず、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

訂正拒絶理由通知における、この点についての指摘に対して、被請求人は意見書において釈明しており、訂正事項(c)の意図としては、「ポリプロピレン系樹脂(A)」を上記具体物
?に限定した請求項1に係る発明についての特許性の判断を求めるものであって、上記具体物?をも含めた発明についての特許性の判断を求める意図は無い旨を主張している〔第3頁第16?24行〕。
しかし、訂正事項(c)によって追加された「ポリプロピレン系樹脂(A)が、電子線照射により長鎖分岐を有するポリプロピレン;超高分子量成分を含んだ線状のポリプロピレン;原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬させて得られる改質ポリプロピレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり」という文章は、その記載、特に「……からなる群から選択される少なくとも1種」という記載から見て、「ポリプロピレン系樹脂(A)」が上記具体物
?の何れかを意味することは明らかであって、これを、上記具体物?に限られると解釈すべき特別な事情は存在しない。
さらに被請求人は、当該意見書において、「
,,などが好ましい」という記載を根拠に「,,からなる群から選択される少なくとも1種」とする補正事項が新規事項の追加とされなかった三つの事例を挙げている〔第3頁第25行?第4頁第10行〕ものの、その三つの事例は何れも、本件特許とは異なる事例である。よって、被請求人が挙げている三つの事例は、訂正事項(c)に関しての上記判断を覆す根拠になり得ない。
そして被請求人は、当該意見書において、新規事項の追加を解消させた再訂正案を提示し、再度の訂正請求の機会を要求している〔第4頁第25行?第5頁下から第3行〕。しかし、特許無効審判における訂正の請求については、特許法第134条の2第1項において規定され、
(A)最初に送達された審判請求書に対する答弁のための指定期間[第134条
第1項]
(B)許可された審判請求書の補正書が送達された場合の答弁のための指定
期間[第134条第2項]
(C)職権探知した無効理由が通知された場合の意見申立てのための指定期
間[第153条第2項]
(D)審決取消訴訟において有効審決の取消判決があった場合又は(無効)審
決の差戻決定があった場合における再係属無効審判の再審理開始時の
指定期間[第134条の3第1項及び第2項]
これら四つの指定期間内に「限り」訂正を請求することができる旨が明定されており、上記の法定の指定期間以外には訂正請求をすることができないことが明確に規定されている。このような規定からすれば、訂正請求の機会に関する基本的な考え方としては、原則として特許法に明示的に規定された場合に限って訂正請求の機会を与えることとするのが適切と考えられる。そうすると、新規事項の追加が存在する訂正請求があったときに、その新規事項の追加を解消させるために行う再度の訂正請求について、そのような機会を認めるのが妥当であるとは言えない。


(5)訂正に関するまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項(c)を含む訂正事項1は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは言えず、よって、特許法第134条の2第5項の規定において準用する同法第126条第3項の規定に適合しない。
したがって、本件訂正は認められない。



3.本件特許発明

上記のとおり、平成20年10月31日付けの訂正請求書による訂正は認められないので、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)は、特許明細書の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法であって、着色剤マスターバッチ(B)のベースポリマーが低密度ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であり、ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)として230℃、2.16kg荷重におけるポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックスの比(着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックス/ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトインデックス)が0.01?40のものを用いることを特徴とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項2】 前記着色剤マスターバッチ(B)の着色剤がカーボンブラックを含む黒色系着色剤である請求項1記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項3】 前記着色剤マスターバッチ(B)の添加量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、1?10重量部である請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項4】 前記ポリプロピレン系樹脂(A)が、原料ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合性単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混錬して得られる改質ポリプロピレン系樹脂である請求項1、2または3記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項5】 前記ラジカル重合性単量体がイソプレンである請求項4記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法。
【請求項6】 請求項1、2、3、4または5記載のポリプロピレン系押出発泡シートの製造方法により得られたポリプロピレン系樹脂押出発泡シート。
【請求項7】 請求項6記載のポリプロピレン系樹脂押出発泡シートを加熱炉で加熱後成形することによって得られる成形体。」



4.請求人の主張

請求人は、「特許第4011962号の請求項1?3、6?7に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めるところ、特許を無効とする理由は、審判請求書の記載内容から判断して、次の点にあるものと認められる。

[無効理由]
本件特許発明1?3,6?7は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明と、甲第3?16,18号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

<証拠方法>
甲第1号証;特許第4011962号公報
甲第2号証;特開平11-315160号公報
甲第3号証;(社)日本合成樹脂技術協会 監修「やさしいプラスチ
ック配合剤 ──製品性能と成形加工性向上のための
基礎知識── 」,平成13年7月10 第2版,株式会社
三光出版社 発行,第46?49頁
甲第4号証;大阪市立工業研究所プラスチック読本編集委員会・
プラスチック技術協会 共編「プラスチック読本」,
1978年5月10日 改訂第11版,(株)プラスチックス・
エージ 発行,第189頁
甲第5号証;「合成樹脂工業 12/90」,VOL.37・No.12,
平成2年12月10日 発行,第172?174頁
甲第6号証;「合成樹脂工業 12/91」,VOL.38・No.12,
平成3年12月10日 発行,第158?159頁
甲第7号証;「12695の化学商品」,1995年1月25日,
化学工業日報社 発行,第987?988頁
甲第8号証;特開平10- 1572号公報
甲第9号証;特開平 8-325422号公報
甲第10号証;特開平 9-302099号公報
甲第11号証;特開2000-290513号公報
甲第12号証;「2002年版 プラスチック成形材料商取引便覧
──特性データベース── 」,2001年8月28日,
化学工業日報社 発行,目次第5?8頁,用語解説第11
?12頁,第738?775頁
甲第13号証;鈴木茂・堤和男 監修,東洋インキ製造(株) 編「プラ
スチック用着色剤・カラーコンパウンド総合技術」,
1990年10月15日,グレース ラボラトリ 発行,
第30,33?37頁
甲第14号証;「合成樹脂工業 4/90」,VOL.37・No.4,
平成2年4月10日 発行,第182?185頁
甲第15号証;「日本ゴム協会誌 8 1983」,VOL.56/1983,
昭和58年8月15日 発行,第473(47)?488(62)頁
甲第16号証;「プラスチックス 10 1998」,
平成10年10月1日 発行,第68?72頁
甲第17号証;本件出願に係る平成19年4月20日付け意見書
甲第18号証;JIS K 6748-1981
「ポリエチレン成形材料」に関するJIS
(甲第1?18号証は審判請求書に添付して提出)

甲第19号証;特開2000- 26646号公報
甲第20号証;特開平 9-188774号公報
甲第21号証;特許第2521388号公報
甲第22号証;特開平 8-176365号公報
甲第23号証;特開平 9-104789号公報
甲第24号証;ハイ・メルトストレングス・ポリプロピレン(HMS-PP)
に関する技術資料
甲第25号証;エドワード・P・ムーア・Jr. 編著,保田哲男・
佐久間暢 翻訳監修「ポリプロピレンハンドブック」,
1998年10月15日 初版第2刷,株式会社 工業調査会
発行,第404?405頁
甲第26号証;特開平 5-208442号公報
甲第27号証;特開平 6-192460号公報
甲第28号証の1;ANTEC '99,p.2104?2108
甲第28号証の2;甲第28号証の1の部分翻訳
甲第29号証の1;ANTEC '99,p.2071?2075
甲第29号証の2;甲第29号証の1の部分翻訳
甲第29号証の3;同上
甲第30号証;特開2000-327824号公報
(甲第19?30号証は審判事件弁駁書に添付して提出)



5.被請求人の主張

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めるとともに、乙第1?8号証を提出して、請求人が主張する、特許を無効とする理由に対して反論している。

<証拠方法>
乙第1号証;特開2001-220459号公報
乙第2号証;特開2001-246662号公報
乙第3号証;特開平 7- 48557号公報
乙第4号証;永和化成工業株式会社 吸熱分解型発泡剤
"セルボンSC"に関するカタログ
乙第5号証;「プラスチックスエージ」,Mar.2002,第108?112頁
乙第6号証;三協化成株式会社 セルマイクの応用加工に関する
技術資料
乙第7号証;「成形加工」,第13巻・第2号・2001,第76?82頁
乙第8号証;特開2000-109591号公報



6.甲号証に記載の事項

請求人が主張する無効理由は、上記のとおり、本件特許発明1?3,6?7は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明と、甲第3?16,18号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであるところ、その甲第2号証、及び、甲第3?16,18号証に記載の事項は、以下のとおりである。

[甲第2号証]
(2a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 軟化点が250゜F以上で、実質的にポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体のブレンド物と、ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤の混合物を押し出して得られ、バキュームを使用して、容器の形状に熱成形でき、その容器がマイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型に使用できる、強固で頑丈なシート。
【請求項2】 ポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体から選択されたポリオレフィン樹脂を、ポリスチレンまたはポリ-アルファメチルスチレンで被覆された発泡剤、および、必要により顔料と混合するステップ、この混合物を温度が380?480゜Fで発泡シートに変換するステップおよび0.015?0.120インチのキャリパーを有する発泡シートを作製するステップから成る請求項1に記載のシートの製造プロセス。
……
【請求項11】 シート中のポリプロピレンが、メルトフローインデックスが0.1?5.0であるアイソタクチックポリプロピレン・ホモポリマーであることを特徴とする請求項8,9または10に記載の容器。」〔特許請求の範囲請求項1,2,11〕
(2b) 「【0014】本発明にかかる容器および皿は、好ましくは図1で示したような押し出しを行ったシートを、その後、図2に示すような熱成形加工をして、うねりのある波状の表面を形成させる。用途により、うねりのある表面が必要とされないものもあり、本発明のプロセスはそのような容器を製造する場合にも適用可能である。発泡ポリオレフィンを作製する場合は、まず、ポリスチレンまたはポリ-α-メチルスチレンに封入された熱吸収発泡剤を入れたポリオレフィン混合物を、二軸型配合押出機の供給部の添加ポイントに移送する。この方法の代替法として、これらの構成成分を別々に上記の押し出し機に供給してもよいし、体積型フィーダおよび/または重量型(つまり、重量ロス型)フィーダを組み合わせて使用して、別の添加ポイントから別々に供給するようにしてもよい。この発泡押し出しシートは、アイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンエチレン共重合体またはそのブレンド物を使用しており、そのエチレン部分のモル百分率は、通常の場合、10%以下である。アイソタクチックポリプロピレン・ホモポリマーが好ましい。 …… 」〔段落【0014】〕
(2c) 「【0023】ポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体またはそのブレンドのようなポリオレフィンには、ポリスチレンまたはポリ-α-メチルスチレンにより被覆された吸熱性発泡剤や、結合剤、染料濃縮物、顔料、抗酸化剤、潤滑剤、核形成剤、静電防止剤のような添加物とブレンドされ、一緒に配合される。このブレンドから得た混合物を、二軸型配合押出機の供給部の添加ポイントに移送する。この代替法として、これらの構成成分を別々に上記の押し出し機に供給してもよいし、体積型フィーダおよび/または重量型(つまり、重量ロス型)フィーダを組み合わせて使用して、別の添加ポイントに別々に供給してもよい。」〔段落【0023】〕
(2d) 「【0025】さらに、黒色の着色のためには、黒の明度、分散性(これは、粒度を選択することにより制御が可能)、表面化学的特徴の点で望ましい特質がある、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは、微細構造の無定型炭素であり、天然ガスを不完全燃焼させるか(チャンネルブラック)、液体炭化水素を耐火炉で還元させるかの方法で得ることができる(ファーネスブラック)。有機顔料、無機顔料を含むその他の顔料を使用してもよい。 …… 」〔段落【0025】〕
(2e) 「【0031】ほとんどの色は、単一の着色剤だけでは、目的の色は出すことができず、2・3の着色剤を混合して使用する必要がある。プラスチック加工業者が自分で着色作業をすることはまれであり、市場から買い入れる場合がほとんである。最も普通に使用されているものは、プリカラー製品、ドライカラー製品、リキッドカラー製品およびカラー濃縮物である。加工でのコストや在庫管理、使いやすさ、柔軟性によりそれぞれの製品形態が異なる。」〔段落【0031】〕
(2f) 「【0035】カラー濃縮物というのは、大量の顔料または染料を配合した樹脂担体のことである。通常は、ペレット状またはダイス状であり2つの種類がある。その1つは、(1)特定用途向けのもので、加工樹脂に適合するように化学的な修飾をしてあり、もう1つは(2)ユニバーサル濃縮物であり、数種の異なった樹脂に使用が可能なものである。」〔段落【0035】〕
(2g) 「【0048】成形や熱成形プロセスまたは図2で示されたような好適な熱成形プロセスで使用される押し出しシートの厚さは、約0.010?0.080インチであり、0.010?0.050インチが都合がよく、好ましくは、0.015?0.025インチである。この押し出しシートは、ベース樹脂としての発泡アイソタクチック・ポリプロピレン・ホモポリマーから成り、そのメルトフローインデックスの範囲は、0.1?5.0であることが好ましく、0.2?2.0であることがより好ましい。エチレンレベルの範囲が1?10モル%、より好ましくは2?5モル%である発泡共重合体またはブレンド物が使用される。
【0049】メルトフローインデックス(MFR)は、溶融ポリマーの流れ特性を決定するために普通に使用される簡単な方法である。樹脂を円筒形のスペースに投入して溶解させる。温度平衡に到達した後、重りを使用して、プランジャを垂直に下方に押し下げ、そこで、狭いオリフィスから押し出す。ポリプロピレンの試験温度は通常230℃であり、加重は2.16Kgである。押出しの完了した樹脂を集め、重量を測り、特定の重量の樹脂を押し出すのに必要とした時間を記録する。MFRは10分間当たりのグラム数で表され、10分間に押出された樹脂の重量のことである。MFRは、ポリマーの粘度およびポリマーの分子量に反比例する。」〔段落【0048】?【0049】〕
(2h) 「【0051】押出しシートは、着色剤が含まれていることが外観の点から都合がよく、好ましくは、二酸化チタン、カーボンブラック、その他の不透明化剤であり、その含有量は全成分に対して0.5?3重量%、好ましくは2.5?6.3重量%である。 …… 黒色の着色のためには、黒色の明度、分散性のような特性を組合わせたカーボンブラックが好ましい。分散性は粒度の選択することによりと表面化学を注意深く調整することで可能である。カーボンブラックは、微細構造の無定型炭素であり、天然ガスを不完全燃焼させるか(チャンネルブラック)、液体炭化水素を耐火炉で還元させるかの方法で得ることができる(ファーネスブラック)。使用できるその他の顔料には、有機顔料も無機顔料も含まれる。白色顔料としては、二酸化チタン、硫化亜鉛、硫酸カルシウムがある。」〔段落【0051】〕
(2i) 「【0052】本発明は、マイクロ波で使用できる、食品接触に適した、使い捨ての剛直で頑丈な発泡ポリオレフィン容器、皿、バケットを成形するための適切なプロセスであり、ここでの発泡ポリオレフィンが、発泡ポリプロピレン、発泡プロピレン・エチレン共重合体またはそのブレンド物発泡体から選択され、このオレフィンを発泡させるために、ポリスチレンまたはアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤が使用される。このプロセスは以下のステップから成る。」〔段落【0052】〕
(2j) 「【0058】ここで開示した成形または熱成形プロセスを使用して、発泡ポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体またはそのブレンド物製のシートが、皿、ボウル、カップ、トレー、バケット、ソフレ皿、蓋などの容器に適切に成形される。これらの商品および容器を、コメットスターレット熱成形ユニット(Comet Starlett Thermoformer Unit)を使用して適切に製造する。この機械は、熱により軟化させた熱可塑性材料を使用して真空成型を行う能力があり、図2にはその機械の図面を示している。寸法が17.5x16.25インチのシート部分(23)を、2つの向かい合う側にクランプさせ、上部ヒータ(20)と下部ヒータ(21)を装着したオーブン(22)に入れる。
【0059】クランプされて熱で軟化しているシート(23)がオーブン(22)を出た時に、以下の手順(A)または手順(B)のいずれかにより真空成型されるが、 …… 」〔段落【0058】?【0059】〕


[甲第3号証]
甲第3号証には、「3.4 プラスチック用着色剤」という項目の記載があり、この項目の中に、「3.4.1 着色剤の形態と特徴」という項目の記載があり、そして、この項目の中に、次の記載がある。
(3a) 「 (5) マスターバッチ(MB)
着色しようとする樹脂をビヒクルの主成分として用い、染顔料を高濃度に分散させた着色剤です。物性への影響が少なく、取扱いが容易で非汚染性、計量性に優れています。着色剤の形状はペレット、板状、フレーク状の3種類あり、顔料濃度は20?70%です。粒子分散に優れているためフィルムや繊維等から、その他ほとんどのプラスチックの着色に適合します。原料樹脂とMBの希釈倍率は100:3?100:5が主流ですが、色ムラの発生がないように成形機の混練り能力に見合った範囲で設定することが重要です。」


[甲第4号証]
甲第4号証には、「6 着色剤」という項目の記載があり、この項目の中に、次の記載がある。
(4a) 「マスターバッチ……着色する樹脂と同種の材料にあらかじめ顔料を高濃度に分散させてあるもので,非常に計量しやすく,取扱いやすいので,広く用いられている.」


[甲第5号証]
甲第5号証には、「<特集II>プラスチック着色剤の技術動向と課題」という表題の記載、及び、「マスターバッチ」という表題の記載があり、
1.発展の経緯
2.需要動向
3.技術動向
4.課題と今後の展望
という四つの項目の記載がある。
上記項目「1.」の「発展の経緯」には、次の記載がある。
(5a) 「マスターバッチは各種あるプラスチック用着色剤の一つで、安定的な成長を続けて来た。その理由として、他の着色剤(着色樹脂を含む)と比べ、ハンドリング性、職場環境の汚染性、自動計量性や在庫管理の面等、総合的視野で見た場合の優位性が高いためである。 …… 特にマスターバッチにおいては、それまで10?20倍の希釈比であったものが現在では30?100倍のものが主流になりつつある。」
また、上記項目「3.」の「技術動向」には、
3-1.高濃度マスターバッチ
3-2.機能性マスターバッチ
3-3.エンプラ用マスターバッチ
3-4.合成繊維用マスターバッチ
3-5.マスターバッチ着色成形システム
という五つの項目の記載があり、上記項目「3-1.」の「高濃度マスターバッチ」には、次の記載がある。
(5b) 「マスターバッチの高濃度化についての技術はかなりのレベルまで来ており、射出成形分野を中心に採用例が多くなっている。従来のマスターバッチでは、実際に成形に使用する樹脂と同グレードのものをベース樹脂とするのが通例であったため、マスターバッチの高濃度化や分配性の向上において自ずと限界があった。」


[甲第6号証]
甲第6号証には、「<特集II>プラスチック着色剤の現状と高機能化の動向」という表題の記載、及び、「マスターバッチ」という表題の記載があり、
1.はじめに
2.マスターバッチの技術動向
3.おわりに
という三つの項目の記載があり、上記項目「1.」の「はじめに」には、次の記載がある。
(6a) 「プラスチック用着色剤としてのマスターバッチは、そのハンドリング性、自動計量適性等のため、従来から広範囲で使用されてきた。
マスターバッチは、樹脂と染顔料・分散剤を溶融混練し、対象樹脂中に高濃度に予備分散させた着色剤で、ベースとなる樹脂は希釈樹脂と同等か、または希釈時の色ムラに配慮し流動性のよいグレードを使用するのが一般的である。」
また、上記項目「2.」の「マスターバッチの技術動向」には、次の記載がある。
(6b) 「特に成形時の色ムラについては勘要で、ベース樹脂の選択、マスターバッチの組成・形状、希釈樹脂との流動性比較などから処方が設計されている。」


[甲第7号証]
甲第7号証には、「プラスチックス用着色剤」という項目の記載があり、この項目の中に、「着色剤の種類と特徴」という項目の記載があり、そして、この項目の中に、次の記載がある。
(7a) 「 (5) マスターバッチ
…… 着色しようとするプラスチックと同一かあるいは相溶性の高い樹脂に色材を予備分散することができれば、そのものを希釈することによって所期の発色と分散とを得ることが可能である。この考え方は古くからあり、各種のニーディングミルによって高濃度の色材を樹脂に練込み、板またはペレット状に整形したカラーコンセントレーテッドマスターバッチとして着色剤の主要な柱になっている。
この着色剤は、いわば完全に樹脂でコートされているため飛散や汚れはなく、計量性にも優れ、ごく扱いやすい着色剤である。」


[甲第8号証]
(8a) 「【0006】ポリプロピレンを着色するためには専ら顔料が用いられるが、顔料もしくは分散助剤を加えた粉末状着色剤は、その取り扱いで環境汚染があり、自動計量機における計量精度が悪い。その為取り扱い易い着色剤の一つとして粒状着色剤、通称マスターバッチカラーが多く使用されている。 …… 」〔段落【0006】〕
(8b) 「【0008】マスターバッチカラーをポリプロピレンへ希釈使用する際に問題となるのが、成形品へのマスターバッチカラーの分配性(解膠性)と着色樹脂の物性保持である。ポリプロピレンへのマスターバッチカラーの担体樹脂はポリエチレンやポリプロピレンが用いられるのが通常であるが、…… 」〔段落【0008】〕


[甲第9号証]
(9a) 「【0006】ポリプロピレンの着色には顔料が用いられるが、分散助剤を加えたままの粉体着色剤では、その取り扱いで環境汚染があり、自動計量機における計量精度も悪いので着色剤の形状の変更が求められてきている。
【0007】従来、このような要求に応える着色剤が種々提案されてきているが、最適な着色剤の一つとして粒状着色剤、通称マスターバッチカラーが多く使用されている。
【0008】マスターバッチカラーとはポリプロピレン成形品を着色する際に必要とされる顔料を最大で60重量%ぐらいまで濃縮して、適正な担体樹脂(ビヒクル樹脂)へ良分散で練り込んだ物である。従って射出成形や押出成形の段階では成形に用いる樹脂中に希釈して使用される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】マスターバッチカラーをポリプロピレンへ希釈使用する際に問題となるのが成形品へのマスターバッチカラーの分配性(解膠性)である。しかし、経済性を考慮して希釈比を大きくする(被着色樹脂に対しマスターバッチカラーの配合率を小さくする)ためにマスターバッチカラーの顔料濃度を上げると、マスターバッチカラーは溶融粘度が高くなるので成形機による混練不足が生じ、分配不良現象である色むらや色筋が発生する。
【0010】この様な場合、色むら、色筋解消策として従来はマスターバッチカラーの顔料濃度低下による希釈比の低減やマスターバッチカラーのビヒクル樹脂であるポリエチレンやポリプロピレンに流動性の良い物を使用する方法や他のオレフィン系樹脂を使用する方法、または成形機の混練条件を高めたりする方法が採用されてきている。しかしながら希釈比の低減や、混練条件を高める方法は着色コストが高くなり、経済性を目的としたことが無意味となる。」〔段落【0006】?【0010】〕


[甲第10号証]
(10a) 「【0002】
【従来の技術】 …… ポリプロピレン系複合材料をはじめプラスチックの着色には、種々の形態の着色剤が使用されている。これらの着色剤の中でもマスターバッチはその優れた性能(例えば、非汚染性、自動計量適性、輸送適性)から、着色剤の主流となってきている。 …… 一般に、マスターバッチの基材樹脂には、被着色樹脂との物性上或いはマスターバッチの流動性の関係から被着色樹脂と同一のもの若しくは類似のものが使用されている。 …… 一般的にマスターバッチの融点が高く流動性が悪い場合には、マスターバッチの解膠性が劣り、成形品に着色剤による色むらが発生する場合が多い。また、マスターバッチの融点が希釈樹脂に比較し、極端に低い場合にも同様の現象が見られた。 …… 」〔段落【0002】〕


[甲第11号証]
(11a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 密度が0.84?0.92g/cm^(3)であり、曲げ弾性率が100?3000kg/cm^(2)であって、かつ融点のピーク温度が120℃以下の熱可塑性樹脂(A)と顔料(B)とを含有することを特徴とする着色用樹脂組成物。」〔特許請求の範囲請求項1〕
(11b) 「【0016】本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)としては、特定の密度、曲げ弾性率、及び融点を呈するものであって、被着色樹脂と相溶性の良いものであれば種々のものを用い得るが、ポリオレフィン(a1)が好ましい。 …… ポリオレフィン(a1)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとの共重合体(ランダム又はブロック共重合体)の他、エチレン若しくはプロピレンと、α-オレフィン(エチレン若しくはプロピレンを除く)との共重合体(a1-1)等が挙げられ、…… 」〔段落【0016】〕
(11c) 「【0038】
【実施例2】実施例1で使用した(A)の熱可塑性樹脂の代わりに、密度:0.915(g/cm^(3)),曲げ弾性率:360(kg/cm^(2))、融点:105℃,MFR:4のメタロセン系ポリエチレン樹脂(日本エボリュー社製)を用いた以外は実施例1と同様にしてマスターバッチを得た。」〔段落【0038】〕
(11d) 「【0042】
【実施例6?9】実施例1で使用した(A)の熱可塑性樹脂の代わりに、それぞれ以下に示すような熱可塑性樹脂を用いて、実施例1と同様にしてマスターバッチを得た。
実施例6:密度:0.914(g/cm^(3)),曲げ弾性率:280(kg/cm^(2))、融点:90 ℃,MFR:20のメタロセン系ポリエチレン樹脂(宇部興産社製)
…… 」〔段落【0042】〕
(11e) 「【0057】(2)Tダイフィルムの強度
実施例1?23、比較例1?55で得られたマスターバッチと被着色樹脂であるポリプロピレン「F327BV」(密度:0.92(g/cm^(3)), 曲げ弾性率:2100(kg/cm^(2))、融点:130℃,MFR:7)とを顔料濃度1.5%になるように配合し、Tダイフィルム成形器(東洋精機製)を用いて、成形温度280℃、回転数60rpmで溶融押出し、膜厚30μmのフィルム状の成形物を得た。 …… 」〔段落【0057】〕


[甲第12号証]
甲第12号証には、「ポリプロピレン樹脂」に関し、「メーカー名」及び「商品名」ごとに、「特性データ」の記載があり、
「メーカー名」の「サンアロマ-(株)」の箇所に、次の記載がある。
(12a) 「



また、上記表中の「MFR」(メルトマスフローレイト)に関して、「用語解説」として、次の記載がある。
(12b) 「 4) メルトマスフローレイト(MFR)
一定の加熱温度と圧力によって溶融樹脂をオリフィスから押し出したとき、10分間に流出する量で表わし、熱可塑性プラスチックの溶融流動性を示すものである。」


[甲第13号証]
甲第13号証には、「表3」として、「樹脂別マスターバッチ一覧」に関する次の記載がある。
(13a) 「



また、甲第13号証には、「2. 成形性」という項目の記載があり、この項目の中に、次の記載がある。
(13b) 「 (2) 分配性
分配性とはマスターバッチを使用した、ある成形加工条件において、マスターバッチがどの程度、樹脂と均一に混ざるかという尺度である。分配性を左右する条件は、樹脂とマスターバッチの溶融特性の差、成形加工機の混練能力および成形加工条件などである。
マスターバッチの溶融特性は、マスターバッチの組成で決ってくる。樹脂に顔料を充てんしていくと他の充てん剤と同様、しだいに流動点が上昇し、溶融粘度も上っていく。顔料の充てん量(マスターバッチの顔料濃度)と、マスターバッチの溶融粘度の上がり方は顔料の吸油量や比表面積で変ってくる。同一顔料濃度での溶融粘度は、カーボンブラック>有機顔料>無機顔料の順となる。図7にLDPEにカーボンブラックを練り込んだ場合のカーボンブラック濃度と溶融粘度の関係を一例として示した。マスターバッチと希釈レジンの溶融粘度との間には次の関係がある。
○1 希釈レジンの溶融粘度は高いほうが、スクリューの混練エネルギーが有効に伝わるため、よりよい分配を示す。
○2 希釈レジンの溶融粘度の高いものには、それよりも溶融粘度の高いマスターバッチでもよい分配を示すが、希釈レジンの溶融粘度が下がるに従い、マスターバッチの溶融粘度は希釈レジンのそれよりも低くならなければよい分配を示さない。
これらの関係を概念図として示したのが図8である。すなわち図8の曲線Aの左側は分配のよい領域、右側は分配の悪い領域である。また、樹脂グレードとの対応をとりやすくするため、ポリオレフィンでの相当グレードも図中に示した、ブローグレード、インフレーショングレード、押し出しグレードのMFRの低いものなどでは、使用するマスターバッチの溶融粘度は希釈レジンの溶融粘度より高くてもよい分配が得られる。押し出しグレードの高MFRのものや射出グレードは、希釈レジンと同程度の溶融粘度が必要になり、ハイフローPPなどさらに溶融粘度の低いレジンではレジンより低い溶融粘度を有するマスターバッチが必要となる。」
※なお、上記において、「○1」,「○2」と記載している箇所は、
甲第13号証中においては、数字を○で囲っている丸数字である。
そして、「図8」として、次の記載がある。
(13c) 「





[甲第14号証]
甲第14号証には、「特集II プラスチック着色剤の新たな展開と応用事情」という表題の記載、及び、「マスターバッチ新着色成形システム」という表題の記載があり、
1.はじめに
2.マスターバッチの分配性
3.マスターバッチ着色成形システム
4.おわりに
という四つの項目の記載があり、上記項目「2.」の「マスターバッチの分配性」には、次の記載がある。
(14a) 「着色剤が希釈樹脂に対し、混合・混練が不十分な場合、成形品の外観に濃淡が生じる。この現象を分配不良というが、ドライカラー、リキッドカラーには余り見られず、マスターバッチに著しい現象である。
マスターバッチの分配不良の要因には、成形機の混練の違い、金型形状、成形条件、希釈樹脂及びマスターバッチの形状、溶融特性等が考えられる。中でも希釈樹脂及びマスターバッチの溶融粘度は分配性に大きな影響を与えるため、キャリア樹脂の選択は重要である。マスターバッチと希釈樹脂の溶融粘度と分配性について図1、図2に示す。」
そして、その「図2」として、次の記載がある。
(14b) 「





[甲第15号証]
甲第15号証には、「◆特集◆他業種にみる分散技術」という表題の記載、及び、「カラーマスターバッチ」という表題の記載があり、
1.はじめに
2.マスターバッチの技術的概説
3.マスターバッチの現況
4.マスターバッチの使用方法
5.樹脂別マスターバッチの解説
6.おわりに
という六つの項目の記載があり、上記項目「2.」の「マスターバッチの技術的概説」には、
2.1 マスターバッチ
2.2 マスターバッチに使用する顔料
2.3 マスターバッチの製造方法
2.4 マスターバッチの分配性
2.5 マスターバッチに要求される一般的必要特性
という五つの項目の記載がある。
上記項目「2.1」の「マスターバッチ」には、次の記載がある。
(15a) 「ちなみに,一般のポリオレフィンの着色での平均顔料濃度である0.5phrを得るための各倍率のマスターバッチの顔料濃度を計算してみると次のようになる.
10倍マスターバッチ 110×0.005/10×100(%)=5.5%
20倍 〃 〃 105×0.005/5×100(%)=10.5%
50倍 〃 〃 102×0.005/2×100(%)=25.5%
100倍 〃 〃 101×0.005/1×100(%)=50.5% 」
また、上記項目「2.4」の「マスターバッチの分配性」には、次の記載がある。
(15b) 「 2.4 マスターバッチの分配性
分配性とはマスターバッチを使用した,ある成形加工条件において,マスターバッチがどの程度,樹脂と均一に混ざるかという尺度である.分配性を左右する条件は,樹脂とマスターバッチの溶融特性の差,成形加工機の混練能力及び成形加工条件などである.
マスターバッチの溶融特性は,マスターバッチの組成で決ってくる.樹脂に顔料を充てんしていくと他の充てん剤と同様,しだいに流動点が上昇し,溶融粘度も上っていく.顔料の充てん量(マスターバッチの顔料濃度)と,マスターバッチの溶融粘度の上がり方は顔料の吸油量や比表面積で変ってくる.同一顔料濃度での溶融粘度は,カーボンブラック>有機顔料>無機顔料の順となる.図5にLDPEにカーボンブラックを練り込んだ場合のカーボンブラック濃度と溶融粘度の関係を一例として示した.マスターバッチを用いて,ある希釈レジンで成形する場合,マスターバッチと希釈レジンの溶融粘度との間には次の関係がある.
1) 希釈レジンの溶融粘度は高いほうが,スクリューの混練エネルギーが有効に系に伝わるため,よりよい分配を示す.
2) 希釈レジンの溶融粘度の高いものには,それよりも溶融粘度の高いマスターバッチでもよい分配を示すが,希釈レジンの溶融粘度が下がるに従い,マスターバッチの溶融粘度は希釈レジンのそれよりも低くならなければよい分配を示さない.
これらの関係を概念図として示したのが図6である.すなわち図6の曲線Aの左側は分配のよい領域,右側は分配の悪い領域である.また,樹脂グレードとの対応をとりやすくするため,ポリオレフィンでの相当グレードも図中に示した.ブローグレード,インフレーショングレード,押出しグレードのMFRの低いものなどでは,使用するマスターバッチの溶融粘度は希釈レジンの溶融粘度より高くてもよい分配が得られる.押出しグレードの高MFRのものや射出グレードは,希釈レジンと同程度の溶融粘度が必要になり,ハイフローPPなど更に溶融粘度の低いレジンではレジンより低い溶融粘度を有するマスターバッチが必要となる.」
さらに、「図6」として、次の記載がある。
(15c) 「



そして、甲第15号証には、「表5」として、「樹脂別マスターバッチ一覧」に関する次の記載がある。
(15d) 「





[甲第16号証]
甲第16号証には、「特集 プラスチック副材料活用ガイド ──配合剤・フィラーの進展── 」という表題の記載、及び、「着色剤活用技術」という表題の記載があり、
1.最近の新しい顔料の開発動向
2.着色剤活用技術によるプラスチック製品の高度化
3.プラスチックの識別,色分け表示
4.商品価値の向上,装飾効果
5.内容物保護,変質劣化防止効果 (紫外線カット)
6.高結晶化PP用着色剤マスターバッチ(MB)の開発
7.耐候性
8.着色剤に関連する環境問題
という八つの項目の記載があり、上記項目「6.」の「高結晶化PP用着色剤マスターバッチ(MB)の開発」には、次の記載がある。
(16a) 「近年射出成形用途に使用されるPPはハイフロー化が進み,それに伴いこれまでの樹脂組成では見られなかった各種の不良現象が発生する。
改良すべき品質問題,発生原因の推定を表5に示す。
以上の不良現象のほかにフォギング性,金型汚染性の改良要望がある。
これらの問題点の改良のため以下の考え方と各種の実験を重ねた結果,対策に記入の方向でほぼ満足すべき高結晶化PP用着色剤MBの開発ができた。
改良の考え方,対策を表6に示す。」
そして、その「表6」として、次の記載がある。
(16b) 「





[甲第18号証]
甲第18号証には、「ポリエチレン成形材料」についての「日本工業規格;JIS」に関して、
1.適用範囲 2.種類 3.品質
4.試験方法 5.包装及び表示
という五つの項目の記載がある。
上記項目「2.」の「種類」には、
(18a) 「成形材料は,密度及びメルトフローレートによって分け,表1に示す16種類とする。」という記載とともに、その「表1」に、「1種」として「1類」?「6類」が存在し、この「1種」を「低密度ポリエチレン」とする旨の記載がある。
また、上記項目「3.」の「品質」には、
(18b) 「成形材料は,4.によって試験を行い、表2の規定に適合しなければならない。」という記載とともに、その「表2」に、「1種」(1類?6類)の「密度 g/cm^(3)」を「0.910以上 0.930未満」とする旨の記載がある。



7.乙号証に記載の事項

被請求人は、答弁書に添付して乙第1?8号証を提出しているところ、その記載事項は、以下のとおりである。

[乙第1号証]
(乙1a) 「【0017】本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートの密度は300kg m^(-3)を越えて850kg m^(-3)以下であることが好ましく、更に好ましくは450?600kg m^(-3)である。密度が300kg m^(-3)以下の場合、発泡セルの独立気泡率が低下し、成形できても成形品の表面外観性が低下する。 …… 」〔段落【0017】〕
(乙1b) 「【0019】本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートは、例えばポリプロピレン系樹脂とポリテトラフルオロエチレンと発泡剤からなる樹脂組成物を押出成形する方法により製造することができる。」〔段落【0019】〕
(乙1c) 「【0021】本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートは、あるいは高溶融張力ポリプロピレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂と発泡剤からなる樹脂組成物を押出成形する方法により製造することもできる。」〔段落【0021】〕
(乙1d) 「【0023】発泡剤として化学発泡剤を用いる事ができる。重曹とクエン酸の混合物を好適に用いることができ、発生する発泡ガスは炭酸ガスである。 …… 」〔段落【0023】〕
(乙1e) 「【0024】化学発泡剤の添加量は、いずれの方法においてもポリプロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、0.1?1.5重量部である。 …… 1.5重量部を超えて添加した場合は、押出機中における発泡剤の均一分散及び十分な分解が進行せず、良好な発泡剤を得ることが出来ないために好ましくない。」〔段落【0024】〕
(乙1f) 「【0035】得られたシートサンプルのドローダウン性、シート密度及び独立気泡率の測定結果を表1に示す
【0036】
【表1】



〔段落【0035】?【0036】〕
(乙1g) 「【0039】得られたシートサンプルのドローダウン性、シート密度及び独立気泡率の測定結果は表2の通りである。
【0040】
【表2】



〔段落【0039】?【0040】〕


[乙第2号証]
(乙2a) 「【0015】本発明のポリプロピレン系樹脂を押出発泡して得られたシートの密度は500kg m^(-3)を超え、850kg m^(-3)以下であることが好ましい。シート密度を500kg m^(-3)以下とすると、発泡シートの製造方法としてよく使用されるT型ダイ法による押出発泡が困難となり、また、850kg m^(-3)を超えると発泡体の特性である断熱性、軽量性が低下するため好ましくない。」〔段落【0015】〕


[乙第3号証]
(乙3a) 「【0017】
【実施例】
(実施例1) …… そのステアリン酸カルシウム展着炭酸水素ナトリウムと市販のクエン酸モノソーダとをミキサーで50対50に混合し発泡剤組成物とした後、ポリ袋に入れ、一週間貯蔵後、ポリプロピレン100重量部に、該発泡剤組成物1重量部を均質に混合し、押出し機で常法により押出し発泡した。押出されたシートは、幅150mm、厚さ3.0mm、発泡倍率1.8倍で、気泡径0.05?0.1mmの微細気泡とシート表面の平滑性を有していた。」〔段落【0017】〕


[乙第4号証]
乙第4号証には、吸熱分解型発泡剤"セルボンSC"に関して、次の各記載がある。
(乙4a) 「



(乙4b) 「





[乙第5号証]
乙第5号証には、「特集 発泡技術による高付加価値の実現」という表題の記載、及び、「発泡用ポリプロピレンの特徴とその応用展開」という表題の記載があり、
1.発泡体とポリプロピレン
2.発泡成形方法
3.ポリプロピレン発泡製品
という三つの項目の記載がある。
上記項目「1.」の「発泡体とポリプロピレン」には、
1.1 発泡体の市場と主に用いられている材料
1.2 発泡体の原料としてのポリプロピレン
1.3 ポリプロピレンの発泡体製造が難しい理由
1.4 発泡を可能にするためのポリプロピレンの改良
1.5 HMS-PPの発泡性能
という五つの項目の記載があり、上記項目「1.4」と「1.5」とのそれぞれに、次の各記載がある。
(乙5a) 「溶融張力を向上させるため,バセルポリオレフィンズ社は独自の重合後の後処理技術により,HMS-PPと呼ばれる溶融張力の高い新しいタイプのポリプロピレンを開発した.」
(乙5b) 「高い溶融張力を付与し,ストレインハードニングを発現させることに成功したHMS-PPを用いることにより,ポリスチレンや低密度ポリエチレンの発泡成形に用いられている一般的な発泡体製造技術を応用して発泡倍率数十倍のポリプロピレン発泡体が製造できるようになった.」
また、上記項目「2.」の「発泡成形方法」には、
2.1 押出発泡成形方法
2.1.1 化学発泡成形
2.1.2 ガス発泡成形
2.2 HMS-PPの発泡成形
2.2.1 タンデム押出機
2.2.2 単軸押出機
2.2.3 二軸押出機
という項目の記載があり、上記項目「2.1.1」と「2.1.2」とのそれぞれに、次の各記載がある。
(乙5c) 「化学分解型発泡剤を用いた押出発泡成形(化学発泡成形)は,発泡倍率が約2倍までの発泡体を製造することができる.発泡剤としては,重曹/クエン酸の混合物やアゾジカルボンアミドなどが用いられている.」
(乙5d) 「揮発性ガスを用いた押出発泡成形(ガス発泡成形)は,使用される樹脂にもよるが,発泡倍率が2倍から50倍の発泡体を製造することができる.このプロセスでは,まず樹脂を押出機で溶融・混練し均一な溶融物をつくる. …… その後,大気中にダイを通して押出され,発泡体となる.」


[乙第6号証]
乙第6号証には、「押出発泡成形」という表題の記載があり、
1.成形上の要点
2.発泡剤
3.発泡剤添加量
4.成形条件例
という四つの項目の記載があり、上記項目「4.」に次の記載がある。
(乙6a) 「





[乙第7号証]
乙第7号証には、「解説 高溶融張力PPのメルトレオロジー挙動と発泡成形」という表題の記載があり、
1.はじめに
2.高溶融張力PPのレオロジー特性
3.成形性と成形品の特性
4.おわりに
という四つの項目の記載がある。
上記項目「3.」の「成形性と成形品の特性」には、
3.1 押出発泡特性
3.2 リサイクル特性
という二つの項目の記載があり、上記項目「3.1」に次の記載がある。
(乙7a) 「 …… ポリマーを溶融させるゾーンと冷却させるゾーンを持つ押出機を用いて押出発泡を行った結果を表3に示す.従来PP,高溶融張力PPともに10倍発泡品である. …… 従来PP(図11(a))では,独立気泡率は非常に低く,またセルの形状も不均一であることが分かる.しかし優れた溶融特性を持つ高溶融張力PPでは,独立気泡率が高く,また発泡シートの強度も比較的高い.この発泡セルは図11(b)に示したように,均一で破泡していない様子がわかる.」


[乙第8号証]
(乙8a) 「【0050】実施例における改質ポリプロピレン系樹脂からなる発泡シートは、独立気泡率が高く、外観美麗で、加熱成形性に優れるのに対し、比較例1に示した未変性のポリプロピレン系樹脂からなる発泡シートは、独立気泡率が低く、外観が悪く、加熱成形性に劣ることが判る。 …… 」〔段落【0050】〕



8.無効理由についての判断

8─1.本件特許発明1について

[1].引用発明A
甲第2号証には、摘示事項(2a)のとおり、「軟化点が250゜F以上で、実質的にポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体のブレンド物と、ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤の混合物を押し出して得られ、バキュームを使用して、容器の形状に熱成形でき、その容器がマイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型に使用できる、強固で頑丈なシート」が記載されている。また、甲第2号証には、上記の、「軟化点が250゜F以上で、実質的にポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体のブレンド物と、ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤の混合物」から、押出機による「押し出し」を経由して、「強固で頑丈なシート」を得るまでの、「製造プロセス」も記載されており〔摘示事項(2b),(2c)〕、得られた「強固で頑丈なシート」が「発泡押し出しシート」であることも記載されている〔摘示事項(2b)〕。
ここで、甲第2号証には、摘示事項(2h)のとおり、「押出しシートは、着色剤が含まれていることが外観の点から都合がよく」という記載があることから、甲第2号証に記載の「発泡押し出しシート」(強固で頑丈なシート)には、「着色剤」を使用した態様の「発泡押し出しシート」も当然に包含されているものと解される。また、「着色剤」の使用段階(添加時期)については、摘示事項(2a)に「ポリオレフィン樹脂を、……発泡剤、および、必要により顔料と混合するステップ」という記載があり、摘示事項(2c)に「ポリオレフィンには、……吸熱性発泡剤や、……、染料濃縮物、顔料、……のような添加物とブレンドされ、一緒に配合される」という記載があることから、「軟化点が250゜F以上で、実質的にポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体のブレンド物と、ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤の混合物」の中に、「着色剤」が配合されるものと解される。さらに、甲第2号証には、「着色剤」の選択肢として、「プリカラー製品、ドライカラー製品、リキッドカラー製品およびカラー濃縮物」という四種類が挙げられている〔摘示事項(2e)〕。

以上を勘案すると、甲第2号証には、
「軟化点が250゜F以上で、実質的にポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体のブレンド物と、ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤と、プリカラー製品、ドライカラー製品、リキッドカラー製品およびカラー濃縮物から選ばれる着色剤との混合物を、押出機にて押し出して、強固で頑丈な発泡押し出しシートを製造する方法であって、得られたシートが、バキュームを使用して、容器の形状に熱成形でき、その容器がマイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型に使用できる、発泡押し出しシートの製造方法」
の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。


[2].対比
本件特許発明1と引用発明Aとを対比する。
本件特許発明1の「製造方法」も、引用発明Aの「製造方法」も、ともに、「押出発泡シート」を製造するという点において同じである。
そして、「押出発泡シート」の樹脂成分としては、引用発明Aでは、「軟化点が250゜F以上で、実質的にポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体のブレンド物」であるのに対して、本件特許発明1では、「ポリプロピレン系樹脂(A)」であって、「軟化点」が限定されないものである。そうすると、本件特許発明1における「ポリプロピレン系樹脂(A)」は、引用発明Aにおける「軟化点が250゜F以上」の「ポリプロピレン」を包含しているものと解され、よって、引用発明Aで言う「軟化点が250゜F以上」の「ポリプロピレン」は、本件特許発明1で言う「ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当すると言える。
次に、「押出発泡シート」の「発泡剤」について検討する。引用発明Aでの「発泡剤」は、「ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤」である。これに対して、本件特許発明1では、「発泡剤」に関する言及が無いものの、これは、「発泡剤」を使用しないという意味ではなく、特許明細書における全ての開示内容(特に段落【0039】や【実施例】の記載内容)から見て、言及するまでも無く「発泡剤」は当然に使用し、しかも、その「発泡剤」の種類は何ら限定されない、という意味であるものと解される。そうすると、本件特許発明1の「押出発泡シートの製造方法」において使用される「発泡剤」は、引用発明Aにおける「ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤」を包含しているものと解され、よって、引用発明Aで言う「ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤」は、本件特許発明1において、特段言及していないがその使用が前提となっている「発泡剤」に相当すると言える。
してみると、両発明は、次の一致点、相違点a?cを有するものである。

[一致点]
「ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法」の点。
[相違点a]
本件特許発明1では、「着色剤」が「着色剤マスターバッチ(B)」であるのに対して、引用発明Aでは、「着色剤」が「プリカラー製品、ドライカラー製品、リキッドカラー製品およびカラー濃縮物」から選ばれるものである点。
[相違点b]
本件特許発明1では、「着色剤マスターバッチ(B)のベースポリマーが低密度ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂」であるのに対して、引用発明Aでは、そのような規定が無い点。
[相違点c]
本件特許発明1では、「ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)として230℃、2.16kg荷重におけるポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックスの比(着色剤マスターバッチ(B)のメルトインデックス/ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトインデックス)が0.01?40のものを用いる」のに対して、引用発明Aでは、そのような規定が無い点。


[3].相違点の検討
そこで、上記相違点について検討する。

[相違点a],[相違点b]の検討
引用発明Aにおいて、「着色剤」の選択肢の一つである「カラー濃縮物」とは、摘示事項(2f)における説明内容から見て、「マスターバッチ」を意味しているものと解される。
そして、一般的に、樹脂に「着色剤」を配合する際において、その「着色剤」を「マスターバッチ」の形態にすれば、取り扱いの容易さ、計量のし易さ等の種々の点において有利であることが、例えば、甲第3?10号証によって既に広く知られている〔摘示事項(3a),(4a),(5a),(6a),(7a),(8a),(9a),(10a),〕。
また、甲第3?10号証に記載されているとおり、「着色剤」を「マスターバッチ」の形態とする場合、その「マスターバッチ」において、「着色剤」と予め混合しておく樹脂の種類としては、その「マスターバッチ」の配合先である樹脂の種類と同じにしておくのが通例であり〔摘示事項(3a),(4a),(5b),(6a),(7a),(8b),(9a),(10a),〕、したがって、「マスターバッチ」の配合先が「ポリプロピレン」であるならば、「マスターバッチ」において、「着色剤」と予め混合しておく樹脂もまた、「ポリプロピレン」を選択するのは当然のことである。
さらに、甲第8?9号証によれば、「マスターバッチ」の配合先が「ポリプロピレン」である場合に、「マスターバッチ」において、「着色剤」と予め混合しておく樹脂としては、「ポリプロピレン」のみならず、「ポリエチレン」も選択されることが示唆されているところ〔摘示事項(8b),(9a)〕、甲第11号証には、「ポリプロピレン」に「マスターバッチ」を配合し、溶融押出してTダイフィルムを成形する場合に、その「マスターバッチ」において、「着色剤」と予め混合しておく樹脂として、密度0.915(g/cm^(3))の「ポリエチレン樹脂」や、密度0.914(g/cm^(3))の「ポリエチレン樹脂」を使用したことが記載されている〔摘示事項(11c)?(11e)〕。ここで、「ポリエチレン樹脂」のうち、密度0.915(g/cm^(3))のものや、密度0.914(g/cm^(3))のものは、特に「低密度ポリエチレン」として知られるものである〔摘示事項(18a)?(18b)〕。

そうすると、引用発明Aの「発泡押し出しシートの製造方法」を実施するにあたり、取り扱いの容易さ、計量のし易さ等の種々の有利性を踏まえて、「着色剤」の選択肢の中から、特に「カラー濃縮物」すなわち「マスターバッチ」を採用することは、当業者にとって格別困難無くなし得ることと解されるし、その際、「カラー濃縮物」すなわち「マスターバッチ」のベースポリマーとして「ポリプロピレン」又は「低密度ポリエチレン」を採用することも、当業者にとって格別困難無くなし得ることと解される。


[相違点c]の検討
甲第6号証や甲第10号証には、「マスターバッチ」を使用する場合に見られる「色ムラ」の問題について記載されている。
すなわち、甲第6号証には、「特に成形時の色ムラについては勘要で、ベース樹脂の選択、マスターバッチの組成・形状、希釈樹脂との流動性比較などから処方が設計されている。」という記載が存在し〔摘示事項(6b)〕、甲第10号証には、「一般的にマスターバッチの融点が高く流動性が悪い場合には、マスターバッチの解膠性が劣り、成形品に着色剤による色むらが発生する場合が多い。また、マスターバッチの融点が希釈樹脂に比較し、極端に低い場合にも同様の現象が見られた。」という記載が存在する〔摘示事項(10a)〕。
このように、「マスターバッチ」を使用する際の問題として、「色ムラ」があり、これが、「マスターバッチ」自体の溶融時の流動性と、「マスターバッチ」の配合先である樹脂(希釈樹脂)の溶融時の流動性との、二つの流動性の関係に依存することも明らかとなっている。
ここで、甲第10号証の上記記載が教示するところとは、「マスターバッチの融点が高く流動性が悪い場合」、すなわち、「マスターバッチ」の配合先である樹脂(希釈樹脂)の溶融時流動性に比べて、「マスターバッチ」自体の溶融時流動性が低い(流動性が悪い)場合には、「色ムラ」が発生し、逆に、「マスターバッチの融点が希釈樹脂に比較し、極端に低い場合」、すなわち、「マスターバッチ」の配合先である樹脂(希釈樹脂)の溶融時流動性に比べて、「マスターバッチ」自体の溶融時流動性が高い(流動性が良すぎる)場合にもまた、「色ムラ」が発生する、ということである。このような教示からすれば、当業者が、「色ムラ」を防止して最適な結果を得るために、「マスターバッチ」の配合先である樹脂(希釈樹脂)の溶融時流動性と、「マスターバッチ」自体の溶融時流動性とを揃えて、互いの溶融時流動性を同程度のものとすることは、当然に想起し得ることと解される。
事実、甲第13?15号証には、溶融時流動性の指標として「溶融粘度」を導入して、「マスターバッチ」の配合先である樹脂(希釈樹脂)の「溶融粘度」と、「マスターバッチ」自体の「溶融粘度」とを揃え、互いの「溶融粘度」を同程度のものとし、二つの「溶融粘度」の差[Δη]を「0」付近とすれば、「分配性」が良い結果となり、「色ムラ」(外観の濃淡)の問題が無い結果となることが示されている〔摘示事項(13c),(14b),(15c)〕。

そうすると、引用発明Aの「発泡押し出しシートの製造方法」を実施するにあたって、種々の有利性を踏まえた上で「着色剤」の選択肢の中から特に「カラー濃縮物」すなわち「マスターバッチ」を採用することが当業者にとって格別困難無くなし得ることと解されることは、上記したとおりであるところ、その際に、「マスターバッチ」の採用による「色ムラ」を防止して最適な結果を得るべく、「マスターバッチ」の配合先である「ポリプロピレン」の溶融時流動性と、「マスターバッチ」自体の溶融時流動性とを揃えて、互いの溶融時流動性を同程度のものとすることは、当業者にとって格別困難無くなし得ることと解されるし、また、これを具体的に行うにあたって、溶融時流動性の指標として、引用発明Aが記載されている甲第2号証では「ポリプロピレン」に関する「溶融ポリマーの流れ特性」に「230℃」,「2.16Kg」での「メルトフローインデックス」が使用されている〔摘示事項(2g)〕ことを踏まえて、「230℃、2.16kg荷重におけるメルトインデックス」をその指標として導入して、「ポリプロピレン」の「メルトインデックス」と、「マスターバッチ」自体の「メルトインデックス」とを揃えて、互いの「メルトインデックス」を同程度のものとし、「メルトインデックスの比」を「1」付近とすることもまた、当業者にとって格別困難無くなし得ることと解される。
そして、当該「メルトインデックスの比」を「1」付近とした上で、その数値範囲に関し、「1」を中心にどの程度の範囲とするかについては、「マスターバッチ」の配合先である「ポリプロピレン」の「メルトインデックス」と、「マスターバッチ」自体の「メルトインデックス」とを揃える際の揃え易さや、「色ムラ」の程度の許容範囲等を考慮しつつ、当業者が適宜設定すれば良いことである。それゆえ、本件特許発明1における、当該「メルトインデックスの比」の数値範囲としての上限値である「40」、下限値である「0.01」は、当業者が、上記の点を考慮した結果において設定する一つの基準に過ぎない。

ここで、被請求人は、このような相違点cに関する判断に対して、答弁書第6頁第17行?第7頁5行において反論しているので、その点について検討する。
まず、被請求人は、「溶融粘度」と「メルトインデックス」との差異を取り上げているが、上記で指摘したとおり、当業者は、「色ムラ」の問題回避のために、「マスターバッチ」の配合先である「ポリプロピレン」の溶融時流動性と、「マスターバッチ」自体の溶融時流動性とを揃えようとするのであって、それを具現化する際において、溶融時流動性の指標として何を導入するかについては、当業界でよく知られている指標の中から適宜選択すれば良いのであり、甲第13?15号証では「溶融粘度」を指標として選択したに過ぎない。引用発明Aが記載されている甲第2号証に、「230℃」,「2.16Kg」での「メルトフローインデックス」が、溶融時流動性の指標として記載されている〔摘示事項(2g)〕のであるから、溶融時流動性の指標として「メルトインデックス」を選択することは、当業者が容易に想起し得ることである。しかも、被請求人は、溶融時流動性の指標の違いによる有意な差異について主張している訳でもないし、特に、「溶融粘度」と「メルトインデックス」との間で生じる有意な差異について主張している訳でもない。
また、相違点cにかかわる甲号証に関し、「押出成形については記載されているものの、押出発泡シートの製造方法については記載されておらず」と主張するが、押出成形についての記載である以上、無発泡の場合に限定されると解釈すべき理由は無く、当然ながら、発泡の場合をも含めた一般的な意味での押出成形についての記載と見るのが自然である。しかも、甲第10,13?15号証における記載は、加熱溶融混練工程における「解膠性」,「分配性」についての記載であり、この工程は、発泡・無発泡何れの場合にも共通する工程である。それに、被請求人は、一般的な意味での押出成形に関する教示が「押出発泡シートの製造方法」には適用できないことについて、特段主張している訳でもない。
さらに、「メルトインデックスの比」に上限値が存在することについて主張しているが、上記で指摘したとおり、「色ムラ」の問題回避のために「メルトインデックスの比」を「1」付近とすることについて当業者が容易に想起する一方で、これが「1」付近から離れてしまえば「色ムラ」が顕在化することも、当然ながら予測するところである。すなわち、「メルトインデックスの比」に上限値及び下限値が存在することは、当業者が当然に気づくところである。
したがって、被請求人の主張は、何れも採用することができない。


そして、本件特許発明1が発明を特定するために必要な事項として相違点a?cに係る事項を備えることによって奏される効果について検討すると、特許明細書中の【発明の効果】欄には、次の記載が存在する。
「本発明の製造方法でポリプロピレン系樹脂発泡シートを製造することにより、発泡シートの特性が良好で、かつ均一に着色された発泡シートを得ることができる。また、得られた発泡シートを成形することにより、食品容器などに好適で外観美麗な成形体を得ることができる。」
そこで、「発泡シート特性」に関する効果と、「着色均一性」(成形体の外観美麗性)に関する効果とに関し、特許明細書中の【実施例】欄において開示された評価結果をもとに、以下に検討する。

<着色均一性>
特許明細書における「表1」の「着色均一性」を見ると、相違点cに係る「メルトインデックスの比(MIの比)」として、「0.16」,「0.43」,「0.6」,「7.7」である場合[実施例1?4]には「○」である一方、「46」である場合[比較例1]には「×」である、という結果は認められるところ、これは、上記[相違点c]の検討において、「色ムラ」に関して述べたとおりの結果である。すなわち、このような「着色均一性」の結果は、予測される範囲を超えた格別顕著な効果であるとは言えない。
また、[比較例2]での「着色均一性」が「×」であるのは、「カーボンブラック」を「マスターバッチ」化しなかったことによる当然の結果である。

<発泡シート特性>
特許明細書における「表1」に記載の評価結果に関し、段落【0076】?【0077】には「比較例1の場合、発泡シートの特性は実施例1?4の場合と変化は見られない……」,「比較例2の場合、独立気泡率、セル数の特性が良好でなく……」という記載があることから、[比較例2]と実施例とを対比しつつ、当該「表1」に記載の評価結果から見出される「発泡シート特性」の効果について検討すると、確かに、「ポリプロピレン系樹脂(A)」として「原料ポリプロピレン系樹脂とイソプレンとラジカル重合開始剤とを溶融混練して得られた改質ポリプロピレン系樹脂;PP-A」を選択し、かつ、「着色剤」として「カーボンブラック」を選択して、この「改質ポリプロピレン系樹脂;PP-A」と「カーボンブラック」とを組み合わせた態様においては、当該「カーボンブラック」を「マスターバッチ」化しない場合[比較例2]に比べて、それを「マスターバッチ」化した場合[実施例1]には、「独立気泡率(%)」,「セル数(個/mm^(2))」は何れも数値が高くなる、という結果が把握されるものの、上記の態様以外の態様のときに「発泡シート特性」としてどのような結果となるのかについては、それを把握し得るに足る資料は存在しない。
本件特許発明1での「ポリプロピレン系樹脂(A)」には「改質ポリプロピレン系樹脂;PP-A」をはじめとして広範なものが含まれ、また、本件特許発明1での「着色剤」には「カーボンブラック」をはじめとして広範なものが含まれることからすれば、上記の一態様の結果をもって、本件特許発明1での「ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤マスターバッチ(B)を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法」全体として奏する「発泡シート特性」に関しての効果が、格別顕著なものであるとまでは言えない。


[4].まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、引用発明A(甲第2号証に記載された発明)及び甲第3?10,11,13?15,18に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



8─2.本件特許発明2について

[1].対比
本件特許発明2は、本件特許発明1に対し、「着色剤マスターバッチ(B)の着色剤がカーボンブラックを含む黒色系着色剤である」という要件をさらに付加したものである。
これを踏まえた上で、本件特許発明2と引用発明Aとを対比すると、両者は、上記の「8─1.」に記載した一致点及び相違点a?cに加え、次の相違点dを有するものである。

[相違点d]
本件特許発明2では、「着色剤マスターバッチ(B)の着色剤がカーボンブラックを含む黒色系着色剤である」のに対して、引用発明Aでは、そのような規定が無い点。


[2].相違点の検討

[相違点d]の検討
引用発明Aでは、「着色剤」の色に関しては特段の限定が無いものの、何色を選択するかについては、得られた「発泡押し出しシート」の使用先、すなわち、「発泡押し出しシート」から作製する最終製品に求められる外観や意匠性に応じて、当業者が適宜決めれば良いことに過ぎない。
そして、当業者が、最終製品に求められる外観や意匠性を考慮した結果、「着色剤」の色として「黒色」を選択した場合では、引用発明Aが記載されている甲第2号証に「黒色の着色のためには、黒色の明度、分散性のような特性を組合わせたカーボンブラックが好ましい」という記載がある〔摘示事項(2d),(2h)〕ことから、引用発明Aで言うところの「着色剤」として、「カーボンブラックを含む黒色系着色剤」を選択することは、当業者にとって格別困難無くなし得ることと解される。

そして、本件特許発明2において、「着色剤」の色として「黒色」を選択した場合がそうでない場合に比べて顕著な効果を奏するとは認められないし、「黒色」を選択したときに、「カーボンブラックを含む黒色系着色剤」を選択した場合がそうでない場合に比べて顕著な効果を奏するとも認められない。


[3].まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、引用発明A(甲第2号証に記載された発明)及び甲第3?10,11,13?15,18に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



8─3.本件特許発明3について

[1].対比
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対し、「着色剤マスターバッチ(B)の添加量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、1?10重量部である」という要件をさらに付加したものである。
これを踏まえた上で、本件特許発明3と引用発明Aとを対比すると、両者は、上記の「8─1.」に記載した一致点及び相違点a?c、又は、これと上記の「8─2.」に記載した相違点dとに加えて、次の相違点eを有するものである。

[相違点e]
本件特許発明3では、「着色剤マスターバッチ(B)の添加量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、1?10重量部である」のに対して、引用発明Aでは、そのような規定が無い点。


[2].相違点の検討

[相違点e]の検討
「マスターバッチ」の量と、「マスターバッチ」の配合先である樹脂の量との関係について、甲第13,15号証を見ると、「対象レジン」が「ポリプロピレン」の場合で、「マスターバッチの種類」が「押出成形用マスターバッチ」の場合には、「希釈比」を「10/100?2/100」とする旨の記載がある〔摘示事項(13a),(15d)〕。
このような記載から見れば、相違点eに係る「着色剤マスターバッチ(B)の添加量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、1?10重量部である」という量的関係は、「マスターバッチ」を使用する際の通常の使用形態における量的関係であるものと解される。

そして、本件特許発明3において、「着色剤マスターバッチ(B)の添加量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100重量部に対して、1?10重量部である」場合がそうでない場合に比べて顕著な効果を奏するとは認められない。

ここで、被請求人は、このような相違点eに関する判断に対して、答弁書第11頁第25行?第12頁第1行において反論しており、「甲第……13号証のいずれにも押出発泡シートの製造に関しては記載されてはいない」と主張するが、甲第13,15号証に記載の「希釈比」は、押出成形についてのものであるところ、上記「8─1.」の[3]の[相違点c]の検討において述べたとおり、押出成形についての記載である以上、無発泡の場合に限定されると解釈すべき理由は無く、当然ながら、発泡の場合をも含めた一般的な意味での押出成形についての記載と見るのが自然である。しかも、被請求人は、一般的な意味での押出成形に関する教示が「押出発泡シートの製造方法」には適用できないことについて、特段主張している訳でもない。したがって、被請求人の主張は、採用することができない。


[3].まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明3は、本件特許発明1?2と同様に、引用発明A(甲第2号証に記載された発明)及び甲第3?10,11,13?15,18に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



8─4.本件特許発明6について

[1].引用発明B
上記「8─1.」に記載したとおり、甲第2号証には、引用発明Aとして「軟化点が250゜F以上で、実質的にポリプロピレンまたはプロピレン・エチレン共重合体またはポリプロピレンおよびプロピレン・エチレン共重合体のブレンド物と、ポリスチレンまたはポリアルファメチルスチレンで被覆された吸熱性発泡剤と、プリカラー製品、ドライカラー製品、リキッドカラー製品およびカラー濃縮物から選ばれる着色剤との混合物を、押出機にて押し出して、強固で頑丈な発泡押し出しシートを製造する方法であって、得られたシートが、バキュームを使用して、容器の形状に熱成形でき、その容器がマイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型に使用できる、発泡押し出しシートの製造方法」が記載されているところであるが、当然ながら、この引用発明Aの「発泡押し出しシートの製造方法」によって得られた「発泡押し出しシート」自体もまた、甲第2号証に記載されている。

すなわち、甲第2号証には、
「引用発明Aの『発泡押し出しシートの製造方法』によって得られた『発泡押し出しシート』 」
の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。


[2].対比、及び、相違点の検討
これに対して、本件特許発明6は、
「本件特許発明1,2又は3の『ポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法』によって得られた『ポリプロピレン系樹脂押出発泡シート』 」
である。
ここで、「引用発明Aの『発泡押し出しシートの製造方法』 」と、「本件特許発明1,2又は3の『ポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法』 」との一致点が、
「ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法」の点
であることは上記したとおりである。
そうすると、本件特許発明6と引用発明Bとを対比した場合に、両発明が有する一致点とは、次のとおりである。

[一致点]
「ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法によって得られたポリプロピレン系樹脂押出発泡シート」の点。

また、本件特許発明6と引用発明Bとを対比した場合に、両発明が有する相違点とは、本件特許発明1,2又は3と引用発明Aとの両発明が有する相違点と同じであることは明らかである。
そして、その相違点及びその相違点にかかわる効果については、上記「8─1.」?「8─3.」において既に検討したとおりである。


[3].まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明6は、本件特許発明1?3と同様に、引用発明B(甲第2号証に記載された発明)及び甲第3?10,11,13?15,18に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



8─5.本件特許発明7について

[1].引用発明C
上記「8─4.」に記載したとおり、甲第2号証には、引用発明Bとして、「引用発明Aの『発泡押し出しシートの製造方法』によって得られた『発泡押し出しシート』 」自体が記載されている。
ここで、当該「発泡押し出しシート」は、引用発明Aにその規定が存在するとおり、「バキュームを使用して、容器の形状に熱成形でき、その容器がマイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型に使用できる」というものであるところ、甲第2号証には、摘示事項(2j)のとおり、「発泡押し出しシート」から、熱による軟化と真空(バキューム)による成形とを経由して、「マイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型」の「容器」を得ることが記載されている。

すなわち、甲第2号証には、
「引用発明Bの『発泡押し出しシート』を、熱軟化させて真空成形することによって得られる、『マイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型の容器』 」
の発明(以下、「引用発明C」という。)が記載されていると認められる。


[2].対比、及び、相違点の検討
これに対して、本件特許発明7は、
「本件特許発明6の『ポリプロピレン系樹脂押出発泡シート』を、加熱炉で加熱後成形することによって得られる『成形体』 」
である。
ここで、「引用発明Bの『発泡押し出しシート』 」と、「本件特許発明6の『ポリプロピレン系樹脂押出発泡シート』 」との一致点が、
「ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法によって得られたポリプロピレン系樹脂押出発泡シート」の点
であることは、上記したとおりである。また、引用発明Cにおける「熱軟化させて真空成形する」という点は、本件特許発明7における「加熱炉で加熱後成形する」という点に相当する。さらに、引用発明Cにおける「マイクロ波で使用可能で、食品接触適合性の使い捨て型の容器」は、本件特許発明7における「成形体」に相当する。
そうすると、本件特許発明7と引用発明Cとを対比した場合に、両発明が有する一致点とは、次のとおりである。

[一致点]
「ポリプロピレン系樹脂(A)および着色剤を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法によって得られたポリプロピレン系樹脂押出発泡シートを、加熱炉で加熱後成形することによって得られる成形体」の点。

また、本件特許発明7と引用発明Cとを対比した場合に、両発明が有する相違点とは、本件特許発明1,2又は3と引用発明Bとの両発明が有する相違点と同じであることは明らかであるし、さらには、本件特許発明1,2又は3と引用発明Aとの両発明が有する相違点と同じであることも明らかである。
そして、その相違点及びその相違点にかかわる効果については、上記「8─1.」?「8─4.」において既に検討したとおりである。


[3].まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明7は、本件特許発明1?3,6と同様に、引用発明C(甲第2号証に記載された発明)及び甲第3?10,11,13?15,18に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



9.むすび
以上のとおり、本件特許発明1?3,6?7についての特許は、何れも、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当するので、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-14 
結審通知日 2009-08-19 
審決日 2009-09-04 
出願番号 特願2002-126931(P2002-126931)
審決分類 P 1 123・ 841- ZB (C08J)
P 1 123・ 121- ZB (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 前田 孝泰
小野寺 務
登録日 2007-09-14 
登録番号 特許第4011962号(P4011962)
発明の名称 ポリプロピレン系樹脂押出発泡シートの製造方法、製造された押出発泡シートおよび該発泡シートからなる成形体  
代理人 小山 雄一  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 関口 久由  
代理人 森岡 則夫  
代理人 柳野 隆生  
代理人 藤本 昇  

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