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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1205564
審判番号 不服2007-20468  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-25 
確定日 2009-10-14 
事件の表示 平成 8年特許願第292972号「参照電極組立体」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月30日出願公開,特開平 9-170998〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成8年11月5日(優先権主張日平成7年(1995年)11月3日,米国)の特許出願であって,平成19年3月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,平成19年7月25日付けで手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりに補正された。(下線は補正箇所を示す。)

「【請求項1】 別々の流路を有する液絡溶液と試料溶液との間に1つの制限拡散液絡を有する参照電極組立体であって、
(a)水および塩に対して透過性の多孔質材料の領域からなる制限体が取り付けられた流体セル、
(b)前記液絡溶液を保持する遠隔リザーバ、
(c)該液絡溶液を前記リザーバから前記制限体に移動させる手段、および
(d)参照接触領域、
からなる1つの制限拡散液絡を有する参照電極組立体。」

上記補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「液絡手段」についての「拘束」という記載を「制限」に,同「拘束体」を「制限体」と補正するとともに,同「拘束拡散液絡」を「1つの制限拡散液絡」と,同「・・・からなる参照電極組立体。」を「・・・からなる1つの制限拡散液絡を有する参照電極組立体。」と限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭57-53648号公報(以下,「引用例1」という。)には,「比較電極」について,図面と共に次の事項が記載されている。

(1-ア)
「2.特許請求の範囲
内部液が収容された内部室と、この内部室内の内部液中に挿入された内部電極と、前記内部室の外方に設けられ外部液の流入路および排出路が形成されるとともに内部に外部液のみたされた外部室と、この外部室と前記内部室との間の隔壁に形成された第1の液絡部と、前記外部室と試料室との間の隔壁に形成された第2の液絡部と、前記外部室の流入路に設けられた第1のペリスタポンプと、前記外部室の排出路および前記試料室の流出路に共通にまたはそれぞれ独立して設けられた第2のペリスタポンプと、この第2のペリスタポンプと前記外部室との間に設けられた開閉制御される流れ止めとを具備してなる比較電極。」(1頁左下欄5?19行)

(1-イ)
「第1図において、1は比較電極、2はイオン選択性電極、3は比較電極1の内部室、4は比較電極1の外部室、5は内部室3内の内部液S1内に挿入された内部電極、6は内部室3と外部室4の間の隔壁に形成された第1の液絡部、7は外部室4の外壁先端部の被検液すなわち試料中に挿入される部分に形成された第2の液絡部、8はイオン選択性電極2の先端部の試料中に挿入される部分に設けられたイオン感応膜、9は試料STでみたされた測定セル、10および11はそれぞれ比較電極1の内部電極5およびイオン選択性電極2に接続された導線である。また、第2図において、第1図と同様の部分に同符号を付して示し、12は比較電極、13は外部液SOの注入路を有する外部室、14は外部液13の外部液流入路に設けられたペリスタポンプ、15は第2の液絡部7を介して比較電極12の外部室13に結合され且つイオン感応膜8を介してイオン選択性電極2に結合されており試料STが流通する試料室、16は試料室15の排出路に設けられたペリスタポンプ、17は比較電極12,イオン選択性電極2および試料室15全体を保持固定する(比較電極12の一部および試料室15を形成する場合もある)本体保持部である。」(1頁右下欄11行?2頁左上欄15行)

(1-ウ)
「第3図において、第1図、第2図と同様の部分には同符号を付している。18は比較電極、19は外部液SOの流入路を形成するチューブ19aと排出路を形成するチューブ19bが接続された外部室、20および21は第1および第2のペリスタポンプ、22は試料室15の排出路を形成するチューブ、23は流れ止めである。
このように構成された装置について若干説明を加える。外部液SOは第1のペリスタポンプにより外部室13に流しこむ。外部液SOに圧力を加えるためには、第1のペリスタポンプ20を働かせて外部液SOの排出を止める。汚染された外部液SOは、流れ止め23を開放して第2のペリスタポンプ21を動かして排出させる。また試料STは、前記第2のペリスタポンプ21により、試料室15まで流し込み測定した後は同ペリスタポンプ21により排出させる。」(2頁左下欄16行?同頁右下欄14行)

(1-エ)
「次に、このような構成の装置による測定システムの動作を、第4図(a)?(d)のタイムチャートを参照して説明する。
第4図(a)は・・・示すものである。
まず第1のペリスタポンプ20は止めておき、流れ止め23は働いている状態つまり閉状態とし外部液SOの流れを止めておく。この状態で第2のペリスタポンプ21を作動させ試料STを試料室15に入れてから該第2のペリスタポンプ21を止め、測定を行なう。測定終了後、第1のペリスタポンプ20を動かし外部室19に外部液SOを流し込むが、このとき流れ止め23は働いているのでチューブ19bからは排出されずに、加わった圧力により一部が液絡部7を通して試料室15に流れ出る。次に、流れ止め23を開放し同時に、第2のペリスタポンプ21を動かし、試料STと汚染された外部液SOは廃液として排出される。
このような動作は、電極法を用いた自動分析装置に利用できるものである。(もちろん、手動動作によって実現してもよい。)」(2頁右下欄15行?3頁左上欄19行)

(1-オ)
「以上のような比較電極を用いることにより、次のような効果を発揮する。
(1)外部液の汚染による比較電極の電位の変動がなくなり、安定した電位を保つことが可能となる。
(2)試料に接続した液絡部の汚染が防止され、常に一定量の外部液の試料室への流出がなされ、比較電極は安定した電位を示す。
(3)したがって、連続測定での測定誤差も小さくなり、自動分析装置への利用に最適である。
(4)液絡部は通常の多孔質性、ピンホール等の材料を用いることができ、第2図の場合の液絡部のような加工精度を必要としない。」(3頁左上欄20行?同頁右上欄12行)

そして,前記記載事項(1-オ)によれば,引用例1記載の第1,第2の「液絡部」は通常の多孔質性材料で構成され,上記記載事項(1-ア)?(1-オ)および第1?3図を総合すると,引用例1には次の発明が記載されていると認められる。

「内部液S1が収容された内部室3と,この内部室3内の内部液S1中に挿入された内部電極5と,前記内部室3の外方に設けられ外部液S0の流入路および排出路が形成されるとともに内部に外部液S0のみたされた外部室4と,この外部室4と前記内部室3との間の隔壁に形成された第1の液絡部6と,前記外部室4と試料室15との間の隔壁に形成されるとともに通常の多孔質性材料で構成された第2の液絡部7と,前記外部室4の流入路に設けられた第1のペリスタポンプ20と、前記外部室4の排出路および前記試料室15の流出路に共通に設けられた第2のペリスタポンプ21と,この第2のペリスタポンプと前記外部室との間に設けられた開閉制御される流れ止め23とを具備してなる比較電極。」(以下,「引用発明」という。)

3 補正発明について
(1)対比
補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「比較電極」および「試料室15」は,その機能・構造からみて,それぞれ,補正発明の「参照電極組立体」および「流体セル」に相当することは明らかである。そして,引用発明の「外部液S0」は,「第2の液絡部7」で試料溶液との間を電気的に接続させるための溶液であるから,補正発明の「液絡溶液」に相当し,また,引用発明の「通常の多孔質性材料で構成され」は,比較電極における“液絡”について技術常識からして,当然,水および塩に対して透過性の多孔質材料領域からなる部材であって,それを介しての拡散は制限拡散といえるから,引用発明の「第2の液絡部7」および「通常の多孔質性材料で構成され」た部材は,それぞれ,補正発明の「制限拡散液絡」および「制限体」に相当するといえる。さらに,本願明細書の段落【0005】の記載によれば,補正発明の「参照接触領域」は,液絡溶液中に浸漬された電極素子を意味するものであるから,引用発明の「内部電極」が補正発明の「参照接触領域」に相当するといえる。
そうすると,両者は,
(一致点)
「別々の流路を有する液絡溶液と試料溶液との間に制限拡散液絡を有する参照電極組立体であって,
(a)水および塩に対して透過性の多孔質材料の領域からなる制限体が取り付けられた流体セル,
(c’)該液絡溶液を前記制限体に移動させる手段,および
(d)参照接触領域,
を備えた制限拡散液絡を有する参照電極組立体。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
「制限拡散液絡」について,補正発明では「(b)前記液絡溶液を保持する遠隔リザーバ」および「(c)該液絡溶液を前記リザーバから前記制限体に移動させる手段」を備えているのに対し,引用発明では「外部室4の流入路に設けられた第1のペリスタポンプ20」を備えるものの,「リザーバ」を備えているかどうか不明である点。

(相違点2)
補正発明は「1つの制限拡散液絡を有する」のに対し,引用例1発明は,「内部液が収容された内部室と,この内部室内の内部液中に挿入された内部電極と,前記内部室の外方に設けられた外部液の流入路および排出路が形成されるとともに内部に外部液のみたされた前記外部室と,この外部室と前記内部室との間の隔壁に形成された第1の液絡部を有する」,いわゆる「ダブルジャンクション式」である点。

(2)相違点について
まず,相違点1を検討するに,
そもそも,液絡溶液は適当な電解質塩を所定の濃度の溶液として調製したものであるから,外部液(液絡溶液)を流体セル(試料室)の第2の液絡部を構成する制限体にポンプ手段で移動させる際には,その供給源となる箇所に液絡液を収納,保持する容器やタンクのような「リザーバ」を存在させることは,例えば,本願優先権主張日前に頒布された特開昭61-17946号公報(「貯液槽11」ついての記載参照。)あるいは先行技術文献として拒絶理由通知書に示した特開昭61-260154号公報(「タンク17」ついての記載参照。)に記載されているように,周知の事項であるといえる。そして,装置の発明において「小型化」は一般的な課題に過ぎない。
してみると,引用例1発明において,上記周知の事項を適用し,相違点1における補正発明の構成とすることは,当業者ならば適宜採用し得る設計的事項であるといえる。

次に,相違点2を検討するに,
参照電極組立体としては,液絡溶液と試料溶液との間に1つの制限拡散液絡を有する参照電極組立体であって,水および塩に対して透過性の多孔質材料の領域からなる制限体が取り付けられた流体セルと,該液絡溶液中に挿入された測定電位信号を取り出すための参照接触領域(電極素子)からなる1つの制限拡散液絡を有する,シングルジャンクション式の参照電極組立体がまず存在し,液絡液への試料溶液拡散混入による電極電位の変化等を避けるために,中間室を介在させ2つの制限拡散液絡を有するダブルジャンクション式の参照電極組立体が生まれたものであり,シングルジャンクション式の参照電極組立体は,本願優先権主張日前に周知であるといえる。例えば,前掲の特開昭61-17946号公報には「一方、照合電極を用いる電位差の測定においては、測定対象液と照合電極の内部液との間の液絡を行なう液絡部を設け、この液絡部を介して両液間のイオン伝導による電気的接続を行なうことが必要である。この場合、照合電極の液絡部には、通常、例えばピンホール、ガラス摺合せなどの細孔や、ガラスフィルター、多孔質セラミックス、多孔質プラスチックなどの多孔質隔壁や、寒天などのゲル状電解質膜が用いられており、両液の液組成が異なるとき測定対象液が照合電極内に浸入しにくいように設計されている。しかしながら、このような液絡部では、時間の経過とともに測定対象液が拡散してきて内部液中に混入することは避け難い。従って、測定対象液と内部液との組成が異なる場合は、時間の経過と共に測定対象液の混入により内部液の組成が変化し、結果として照合電極の電極電位が許容誤差を超えて変動したり、電極本体の変質或いは腐食など種々の劣化を生ぜしむることになり、正確な測定値を得ることが困難になる。・・・・・又、その他の対策として、液絡部の経路を長くする方法、あるいは、測定対象液と内部液との間に、中間室を設け、該中間室と測定対象液、および該中間室と内部液とを前述した細孔、多孔質隔壁、ゲル状電解質膜によって液絡する方法が提案されているが・・・・・」(1頁右下欄18行?2頁右上欄12行)と記載され,シングルジャンクション式である「測定対象液との液絡部を有し、内部液が貫流する容器内に電極本体が収納されてなる照合電極であって、該容器には内部液導入口および内部液排出口が形成されていることを特徴とする照合電極」(1頁左下欄5?9行)が記載されている。また,先行技術文献として拒絶理由通知書に示した実願平2-2751号(実開平2-118256号)のマイクロフィルムにも「内部標準液は、入口管15を経て塩橋50に入り、出口管16を経て出る。この内部標準液は、アナライザー内の容器から直接的または間接的に供給される。出口管16を経た標準液は、廃液溜である適当な容器に直接的または間接的に排出される。標準液が電極すなわち塩橋50に間接的に出入りされる場合、内部標準液が出入りする他の電極があってもよい。」(9頁7行?14行)と記載され,シングルジャンクション式のものが明記されている。
そして,引用例1の図面を見るまでもなく,ダブルジャンクション式の参照電極組立体は,シングルジャンクション式の参照電極組立体に比較して当然構造が複雑で大きなサイズのものとならざるを得ないから,参照電極組立体の小型化を図る際に,引用発明のダブルジャンクション式のものからシングルジャンクション式の参照電極組立体に設計変更するとともに,液絡溶液を制限拡散液絡の制限体に移動させることで液絡部の汚染が防止され,安定した電位を示すことができるという,引用発明の利点が得られるように,液絡溶液を滞留保持するのではなく,液絡部に対して流し込み排出させるように変更し,相違点2における補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

したがって,補正発明は,引用発明および上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正が上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1?20に係る発明は,平成18年11月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載されたとおりのものであって,その請求項1は次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)

「【請求項1】 別々の流路を有する液絡溶液と試料溶液との間に拘束拡散液絡を有する参照電極組立体であって、
(a)水および塩に対して透過性の多孔質材料の領域からなる拘束体が取り付けられた流体セル、
(b)前記液絡溶液を保持する遠隔リザーバ、
(c)該液絡溶液を前記リザーバから前記拘束体に移動させる手段、および
(d)参照接触領域、
からなる参照電極組立体。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した引用例1及びその記載事項は,前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 本願発明について
本願発明は,補正発明において,「制限」が「拘束」という表現になっているとともに,液絡について「1つの」との限定がないものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含む補正発明が,前記「第2 3」において検討のとおり,引用発明および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をできたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例1発明に基づいて,当業者が容易に発明をできたものであるというべきである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願優先権主張日前に頒布された引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-15 
結審通知日 2009-05-19 
審決日 2009-06-01 
出願番号 特願平8-292972
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順黒田 浩一  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 秋月 美紀子
宮澤 浩
発明の名称 参照電極組立体  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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