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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47L
管理番号 1205579
審判番号 不服2007-30349  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-08 
確定日 2009-10-15 
事件の表示 平成10年特許願第127144号「電気掃除機用吸込口体及びそれを用いた電気掃除機」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月24日出願公開、特開平11-318782〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成10年5月11日の出願であって、同17年3月15日付けで手続補正書が提出され、同19年6月20日付けで拒絶の理由が通知され、同19年8月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同19年10月2日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同19年11月8日に本件審判の請求がなされ、同19年11月30日付けで明細書についての手続補正書が提出され、同21年2月6日付けで期間を指定して審尋がなされたが、当該指定期間内に回答がなかったものである。


第2 平成19年11月30日付けの明細書についての手続補正に対する補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年11月30日付けの明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容の概要
本件補正は、明細書について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について、補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)本件補正前の請求項1
「 上部ケース及び下面に吸込口を有する下部ケースからなる吸口本体と、前記吸込口に対向すると共にモーターで回転駆動される回転体と、前記吸口本体の床面への接地を検知する検出部と、前記下部ケースに回動自在に軸支され前記検出部の上下動に応じて回動する操作部と、前記操作部の回動に応じて前記モーターをON・OFFするスイッチと、前記操作部に固着された略棒状のストッパ片と、前記ストッパ片の上方を覆うガイドカバーと、移動自在のボールと、前記ボールを前記ストッパ片で挟持する挟持部と、前記ガイドカバーに設けられ傾斜角を有して前記ボールを前記挟持部へ誘導するガイド部とを備え、前記挟持部は、前記ガイド部とほぼ同一傾斜の挟持面と前記挟持面に垂直な受け面とで構成されて、前記ガイドカバーの天面と前記ガイド部が交わる位置の近傍に設けられ、前記吸口本体を上下逆向きにした時に、前記操作部の回動を阻止するように前記ボールが前記挟持部で、前記略棒状のストッパ片の先端近傍によって挟持されると共に、前記傾斜角を有したガイド部や挟持部の挟持面等により、前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした電気掃除機用吸込口体。」

(2)本件補正後の請求項1
「 上部ケース及び下面に吸込口を有する下部ケースからなる吸口本体と、前記吸込口に対向すると共にモーターで回転駆動される回転体と、前記吸口本体の床面への接地を検知する検出部と、前記下部ケースに回動自在に軸支され前記検出部の上下動に応じて回動する操作部と、前記操作部の回動に応じて前記モーターをON・OFFするスイッチと、前記操作部に固着された略棒状のストッパ片と、前記ストッパ片の上方を覆うガイドカバーと、移動自在のボールと、前記ボールを前記ストッパ片で挟持する挟持部と、前記ガイドカバーに設けられ傾斜角を有して前記ボールを前記挟持部へ誘導するガイド部とを備え、前記挟持部は、前記ガイド部とほぼ同一傾斜の挟持面と前記挟持面に垂直な受け面とで構成されて、前記ガイドカバーの天面と前記ガイド部が交わる位置の近傍に設けられ、前記吸口本体を上下逆向きにした時に、前記操作部の回動を阻止するように前記ボールが前記挟持部で、前記略棒状のストッパ片の先端近傍によって挟持されると共に、前記傾斜角を有し対向する前記ストッパ片との間で前記ボールの移動経路を形成するガイド部や挟持部の挟持面等により、前記ボールが垂直方向に対して常に斜めに方向に移動するように前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした電気掃除機用吸込口体。」

2 本件補正の適否
本件補正は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ガイド部や挟持部の挟持面等」について「対向する前記ストッパ片との間で前記ボールの移動経路を形成する」という事項を付加して限定するとともに、「前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした」という事項について「前記ボールが垂直方向に対して常に斜めに方向に移動するように」という事項を付加して限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することは明らかである。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書の記載からみて、以下の事項により特定されるとおりのものと認められる。

「 上部ケース及び下面に吸込口を有する下部ケースからなる吸口本体と、前記吸込口に対向すると共にモーターで回転駆動される回転体と、前記吸口本体の床面への接地を検知する検出部と、前記下部ケースに回動自在に軸支され前記検出部の上下動に応じて回動する操作部と、前記操作部の回動に応じて前記モーターをON・OFFするスイッチと、前記操作部に固着された略棒状のストッパ片と、前記ストッパ片の上方を覆うガイドカバーと、移動自在のボールと、前記ボールを前記ストッパ片で挟持する挟持部と、前記ガイドカバーに設けられ傾斜角を有して前記ボールを前記挟持部へ誘導するガイド部とを備え、前記挟持部は、前記ガイド部とほぼ同一傾斜の挟持面と前記挟持面に垂直な受け面とで構成されて、前記ガイドカバーの天面と前記ガイド部が交わる位置の近傍に設けられ、前記吸口本体を上下逆向きにした時に、前記操作部の回動を阻止するように前記ボールが前記挟持部で、前記略棒状のストッパ片の先端近傍によって挟持されると共に、前記傾斜角を有し対向する前記ストッパ片との間で前記ボールの移動経路を形成するガイド部や挟持部の挟持面等により、前記ボールが垂直方向に対して常に斜め方向に移動するように前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした電気掃除機用吸込口体。」

なお、本件補正後の請求項1には、「前記ボールが垂直方向に対して常に斜めに方向に移動するように」と記載されているが、前記「斜めに方向に」なる記載は、審判請求書の請求の理由「(2)補正の根拠の明示」、「(4)本願発明と引用例との対比」の記載からみて、「斜め方向に」の誤記であることが明らかであるから、上記のとおり認定した。

(2)引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由には、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である次の刊行物1が引用されている。
[引用刊行物]
刊行物1:特開平7-79894号公報

ア 刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
a 段落【0019】?【0020】
「【0019】
【実施例】
実施例1.以下、この発明の実施例を、図面を用いて説明する。図1はこの発明の実施例の構成を示す底面図、図2はこの発明の実施例の上面図、図3は図1のX-X断面図である。本発明の実施例で従来装置と対応する部分には、同一符号が使われている。
【0020】図1乃至図3において、1は電気掃除機の床ブラシである。2は長方形の床ブラシ1の本体、3は接続パイプである。4は樹脂で長方形の箱型に成型された本体2のケースで、開閉蓋4aを有する上ケース4bと下ケース4cで構成されている。5は下ケース4cの底面の前方寄りに横長に開口した吸込口、6は吸込口5に対応して設けられ外周に緩い螺旋状の弾性体からなる接触片6aを形成した回転ブラシである。回転ブラシ6は本体2の内部に設けられたモータに連結されて、接触片6aの部分を吸込口5から底面に露出させている。」

b 段落【0022】?【0024】
「【0022】10は床センサ、10aは収納部である。床センサ10は床面を機械的に検出して、回転ブラシ6を駆動するモータの回転を制御する。床センサ10は前述の従来装置を改良した構造に作られていて、その構成を示す分解斜視図と拡大図が図4と図5に示されている。11は下ケース4cの後部に形成された切欠部、12は切欠部11の周辺に立設され軸受け12aを有する立て壁である。床センサ10は、切欠部11を利用してケース4内に設けられている。
【0023】13は収納部10aを覆って本体2の内部との隔壁を構成する固定枠、14と15は軸受け14aを形成した中空状の中枠と押え枠である。また、16は上下の軸受け12aと14aに支持された揺動軸、17は浅い方舟状に形成され一端側に偏奇して固定された揺動軸16を支点に揺動する揺動枠(揺動角θ…図7)、18は蛇腹状で伸縮自在の封止膜である。固定枠13は、膨出部13aを形成したセンサ部13bとスイッチ部13cの2部分に分けられている。そして、センサ部13bの周辺部と中枠14により、封止膜18の上端が挟圧されて下ケース4cに固定されている。また、封止膜21の他端は、押え枠15により揺動枠17の周辺に連結されている。
【0024】19は揺動軸16の先端に固定されたカム、21はカム19により接点が開閉されるスイッチである。スイッチ21は、前記回転ブラシ6用のモータの電源回路に接続されている。22は揺動枠17の外側に設けられた補助輪、23と24は揺動枠17の内部に形成されたボスと一対のストッパである。25は例えば鋼製で重さのあるボール、26はコイルバネである。ボール25はストッパ24に横方向の移動範囲を制限されながら、固定枠13と揺動枠17に囲まれた空間内で自重により上下方向に移動可能に収容されている。また、コイルバネ26はボス23と固定枠13の間に配置されて、揺動枠17に常時図5における時計方向の弾性力を加える。」

c 段落【0026】?【0027】
「【0026】上記のような構成の本発明の動作を、次に説明する。接続パイプ3に延長パイプと可撓チューブを接続して、床ブラシ1を掃除機の本体に接続する。掃除機の本体のコードを引き出して電源コンセントに接続すると、連結部のピン端子7を介して床ブラシ1内の電気開路が結線されて回転ブラシ6が駆動可能な状態になる。ここで、手元スイッチを入れて床ブラシ1を床面F上に置くと、床ブラシ1の重さでコイルバネ26が圧縮されて揺動枠17が反時計方向に揺動して本体2に引き込まれる。同時に揺動軸16が回動してスイッチ21が閉じ、モータが駆動されて回転ブラシ6が回転を開始する。
【0027】このときの本体2に対する揺動枠17やボール25等の相対的な関係が、図3と図5に示されている。この状態で回転ブラシ6が回転すると、絨毯等の床面Fのゴミが回転する接触片6aで叩き出される。そして、延長パイプと可撓チューブを掴んで床ブラシ1を摺動させて、叩き出されたゴミが吸込口5から吸込まれて床面F上の掃除が行われる。吸込まれたゴミは、接続パイプ3等を通して掃除機の本体内の集塵袋に捕集される。」

d 段落【0029】?【0030】
「【0029】掃除の途中で本体2を床面Fから離すと、コイルバネ26の拡張力とボール25の重さで揺動枠17が角度θ揺動して図7の状態になる。この時、カム19が揺動軸16と連動して、スイッチ21をオフにして回転ブラシ6の回転が停止する。このようにして、本体2と床面Fとの接触と離隔に伴う揺動枠17の揺動動作によって床面Fが検知されて、スイッチ21を介して回転ブラシ6の回転がオン・オフ的に制御されるようになっている。この場合、揺動端17aの揺動する下限の位置が隆起部27の内側になっているので、揺動端17aが敷居等に当たって破損するのを防止することができる。また、揺動枠17は伸縮自在の封止膜18で下ケース4cに連結されて収納部10a内が封止されているので、ゴミの侵入が防止される。
【0030】一方、回転ブラシ6のゴミの付着状況の点検等を行うために本体2を逆さにしたときの状態が、図8に示されている。図示のように本体2の底面側を上に向けると、ボール25は自重で固定枠13側に移動して止められる。このときに、誤って揺動枠17を下に押し付けた場合でも、ストッパー24がボール25に接触して揺動枠17のそれ以上の移動が阻止される。したがって、揺動軸16上のカム19とスイッチ21はそのままの状態を継続して、回転ブラシ6の停止が維持される。よって、手指が回転ブラシ6に触れても、怪我の心配がなく、安全を保つことができる。」

e 図7-8
図7-8からは、ボール25の移動空間に関して、固定枠13の傾斜角を有する部分(図8のボール右下が接触している部材)と、ストッパー24との間で、斜め方向(図7の左下から右上方向)の移動経路が形成されること及び該移動経路の幅はボール25の直径よりも広いことが看取される。

f 図12
図12は、従来のものであり、ストッパ24の形状を一つの突起状としたことが看取される。

上記摘記事項d及びeからみて、図8の固定枠13の傾斜角を有する部分(図8のボール右下が接触している部材)は、ボールを案内するものであることは明らかであり、ガイド部ということができる。
また、上記摘記事項d及びeからみて、図8のボール右下及び左が固定枠13と接触している部分は、ストッパ24がボール25に接触して揺動枠17の移動が阻止されていることから、挟持部ということができる。
さらに、上記摘記事項d及びeからみて、上記移動経路内にてボール25は斜め方向のみならず他の方向にも移動可能と解されるが、ボール25が図7の位置から図8の一対のストッパ24とガイド部により挟持される位置まで移動する際、少なくとも上記移動経路のいずれかの部分において、ボールが斜め方向に移動する必要があることは、技術常識からみて明らかである。

そうすると、上記摘記事項を、技術常識を勘案しながら本件補正発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
[刊行物1記載の発明]
「上ケース4b及び下面に吸込口5を有する下ケース4cからなる本体2と、前記吸込口5に対向すると共にモータで回転駆動される回転ブラシ6と、前記本体2の床面への接地を検知する補助輪22と、前記下ケース4cに揺動自在に軸支され前記補助輪22の上下動に応じて揺動する揺動枠17並びにそれと一体の揺動軸16及びカム19と、前記揺動枠17並びにそれと一体の揺動軸16及びカム19の揺動に応じて前記モータをオン・オフするスイッチ21と、前記揺動枠17並びにそれと一体の揺動軸16及びカム19に固着された一対のストッパ24と、前記一対のストッパ24の上方を覆う固定枠13と、移動自在のボール25と、前記ボール25を前記一対のストッパ24で挟持する挟持部と、前記固定枠13に設けられ傾斜角を有して前記ボールを前記挟持部へ誘導するガイド部とを備え、前記本体2を上下逆向きにした時に、前記揺動枠17並びにそれと一体の揺動軸16及びカム19の揺動を阻止するように前記ボール25が前記挟持部で、前記一対のストッパ24の先端近傍によって挟持されると共に、前記傾斜角を有し対向する前記一対のストッパ24との間で前記ボール25の移動経路を形成するガイド部により、前記ボールが垂直方向に対して斜め方向に移動するように前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした電気掃除機の床ブラシ。」が記載されている。

(3)対比
刊行物1記載の発明と本件補正発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「上ケース4b」は本件補正発明の「上部ケース」に相当し、以下同様に「吸込口5」は「吸込口」に、「下ケース4c」は「下部ケース」に、「本体2」は「吸口本体」に、「モータ」は「モーター」に、「回転ブラシ6」は「回転体」に、「補助輪22」は「検出部」に、「揺動」は「回動」に、「揺動枠17並びにそれと一体の揺動軸16及びカム19」は「操作部」に、「オン・オフ」は「ON・OFF」に、「スイッチ21」は「スイッチ」に、「固定枠13」は「ガイドカバー」に、「ボール25」は「ボール」に、「電気掃除機の床ブラシ」は「電気掃除機用吸込口体」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1記載の発明の「一対のストッパ24」は、ストッパ片という限りにおいて、本件補正発明の「略棒状のストッパ片」と共通している。
さらに、刊行物1記載の発明の「移動経路を形成するガイド部」は、移動経路を形成する部材という限りにおいて、本件補正発明の「移動経路を形成するガイド部や挟持部の挟持面等」と共通している。

したがって、両者の一致点と相違点は以下のとおりと認められる。
[一致点]
「上部ケース及び下面に吸込口を有する下部ケースからなる吸口本体と、前記吸込口に対向すると共にモーターで回転駆動される回転体と、前記吸口本体の床面への接地を検知する検出部と、前記下部ケースに回動自在に軸支され前記検出部の上下動に応じて回動する操作部と、前記操作部の回動に応じて前記モーターをON・OFFするスイッチと、前記操作部に固着されたストッパ片と、前記ストッパ片の上方を覆うガイドカバーと、移動自在のボールと、前記ボールを前記ストッパ片で挟持する挟持部と、前記ガイドカバーに設けられ傾斜角を有して前記ボールを前記挟持部へ誘導するガイド部とを備え、前記吸口本体を上下逆向きにした時に、前記操作部の回動を阻止するように前記ボールが前記挟持部で、前記ストッパ片の先端近傍によって挟持されると共に、前記傾斜角を有し対向する前記ストッパ片との間で前記ボールの移動経路を形成する部材により、前記ボールが垂直方向に対して斜め方向に移動するように前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした電気掃除機用吸込口体。」である点。

[相違点1]
本件補正発明のストッパ片は、「略棒状」であるのに対し、刊行物1記載の発明のストッパ片は、「一対」のものであって「略棒状」ではない点。

[相違点2]
本件補正発明は、挟持部が「ガイド部とほぼ同一傾斜の挟持面と前記挟持面に垂直な受け面とで構成されて、前記ガイドカバーの天面と前記ガイド部が交わる位置の近傍に設けられ」ているのに対し、刊行物1記載の発明は、そのようなものではない点。

[相違点3]
本件補正発明は、移動経路が「ガイド部や挟持部の挟持面等」であり、「ボールが垂直方向に対して常に斜め方向に移動するように前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした」のに対し、刊行物1記載の発明は、移動経路が「ガイド部」であり、「ボールが垂直方向に対して斜め方向に移動するように前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とし」ているものの、ボールが常に斜め方向に移動するとは限らず、移動経路内で他の方向にも移動可能な点。

(4)判断
[上記相違点1について]
刊行物1記載の発明のストッパ片は一対のものであるが、本件補正発明と同様に、斜め方向の移動経路を形成すると共に、吸口本体を上下逆向きにした時にボールを挟持する機能を有するものである。
こうした、ストッパ片の形状を決定するにあたっては、上記両機能を達成できるものであればよく、具体的にいかなる形状を採用するかは、当業者が適宜選択し得るものである。
そして、ストッパ片の形状として一対のもの以外のものも採用し得ることは、上記摘記事項fのごとく、刊行物1の図12記載のストッパ24が、一つの突起状のものを用いていることからみても、明らかである。
よって、刊行物1記載の発明において、ストッパー片の形状を略棒状とすることは、当業者がその発明の具体化に伴い適宜選択し得た設計的事項である。

[上記相違点2について]
刊行物1記載の発明において、ガイド部を1つの部材で構成するか、あるいはガイド部やガイド部とほぼ同一傾斜の部材等の複数の部材で構成するかは、当業者が適宜選択できる設計的事項にすぎない。
そうすると、刊行物1記載の発明は、挟持部の一方がガイド部そのものであるが、ガイド部を上記複数の部材で構成し、挟持部の一方をガイド部とほぼ同一傾斜の部材とすることは、ガイド部の傾斜角をもってボールを挟持することに変わりはなく、当業者が適宜選択できる設計的事項である。
また、電気掃除機用吸込口体の技術分野において、挟持部を、ガイド面とガイド面に垂直な面とで構成することは、例えば、特開平8-332165号公報図22記載のガイド部42の壁面と吸込具本体31の上面のごとく、従来周知であって格別な構成ではない。
よって、刊行物1記載の発明において、挟持部をガイド部とほぼ同一傾斜の挟持面と前記挟持面に垂直な受け面とで構成することは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得たことである。
また、刊行物1の図8の記載からみて、刊行物1記載の発明も、ボールはガイド部によりガイドカバーの天面の手前まで移動し、ガイドカバーの天面の手前で挟持されることに鑑みれば、上記のように挟持部をガイド部とほぼ同一傾斜の挟持面と前記挟持面に垂直な受け面とで構成する際、挟持部の位置をガイドカバーの天面とガイド部が交わる位置の近傍とすることも、当業者が必要に応じて適宜選択し得た設計的事項にすぎない。

[上記相違点3について]
上記相違点2において述べたとおり、刊行物1記載の発明において、ガイド部を複数の部材で構成し、挟持部の一方を「ガイド部とほぼ同一傾斜の挟持面」とすることは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得たことであり、その場合、ボールの移動経路が「ガイド部や挟持部の挟持面等」となることは明らかである。
そして、上記のとおり、刊行物1記載の発明も、ボールが挟持部まで移動する際、移動経路内のいずれかの部分において斜め方向に移動する必要があることは、技術常識からみて明らかであり、また、ボールの移動経路の幅をどの程度とするかも、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項である。
よって、刊行物1記載の発明において、移動経路をガイド部や挟持部の挟持面等とするとともに、ボールを斜め方向に移動させるに際し、移動経路の幅を適宜調節して、常に斜め方向に移動するようにすることが、当業者にとって格別困難であったとすることはできない。
なお、本件請求人は、平成19年11月30日付けの手続補正書(方式)において、「本願発明は、・・・ボールの移動経路を斜め方向とすることで挟持部までの移動距離を稼ぐことができ、つまりボールが挟持部まで移動する移動時間を稼ぐことができ、・・・通常使用中に不用意にボールが挟持され吸口本体の底面から検出部が突出したままになり使用不可能になるといった最悪状態を避けることができる」という格別な効果を奏する旨主張しているが、当該効果は、移動経路の長さやストッパ片の位置及び長さ等が限定されて初めて奏する効果ということができ、単にボールが常に斜め方向に移動することをもって、その効果が格別顕著であるとは認められない。そして、上記のとおり刊行物1記載の発明もボールが斜め方向に移動するものである以上、同様の効果を奏するということができるから、上記請求人の主張は採用することができない。
さらに、本件補正発明の「常に斜め方向」なる事項は、本件出願の当初明細書に「常に斜め方向」とすることの記載がなく、また、当初明細書に添付された図面の図1(a)及び図2(a)には、移動経路の幅がボールの直径よりも広い部分が見受けられることから、厳密な意味での「常に斜め」ではなく、若干の他の方向の移動も許容した斜め方向と解するのが相当であり、本件補正発明が刊行物1記載の発明に比して格別顕著な効果を奏するものとは認められない。仮に、上記事項が厳密な意味での「常に斜め方向」であって、他の方向の移動を全く許容しないものと解釈するとすれば、上記のとおり当初明細書及び図面に開示がない以上、本件補正は新規事項の追加に該当し却下されるべきものということができる。

(5)本件補正発明の効果について
本件補正発明によってもたらされる効果は、刊行物1記載の発明と周知技術とから、当業者であれば予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。

(6)まとめ
したがって、本件補正発明は、刊行物1記載の発明と周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので
、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年8月9日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す本件補正前の請求項1に記載されたとおりの「電気掃除機用吸込口体」である。

2 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2の2の(2)に示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2の2で検討した本件補正発明から、「ガイド部や挟持部の挟持面等」について「対向する前記ストッパ片との間で前記ボールの移動経路を形成する」という事項を削除すると共に、「前記挟持部までの前記ボールの移動経路を垂直方向に対して斜め方向とした」という事項について、「ボールが垂直方向に対して常に斜めに方向に移動するように」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明を特定するすべての事項を含みさらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が上記第2の2(4)で示したとおり、刊行物1記載の発明と周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-10 
結審通知日 2009-08-18 
審決日 2009-08-31 
出願番号 特願平10-127144
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 隆司栗山 卓也五十嵐 康弘  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 千葉 成就
佐々木 一浩
発明の名称 電気掃除機用吸込口体及びそれを用いた電気掃除機  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 永野 大介  
代理人 岩橋 文雄  

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