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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1205624
審判番号 不服2005-15538  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-12 
確定日 2009-10-16 
事件の表示 特願2001-546034「ワイヤレスインターネット接続による患者モニタリングのための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月21日国際公開、WO01/45014、平成15年 5月27日国内公表、特表2003-517687〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯

本願の手続の経緯は次に示すとおりである。

平成12年12月16日 特許出願。(パリ優先権主張 1999年12月17日 米国)
平成14年 7月 2日 手続補正。
平成14年 7月 3日 手続補正。
平成16年 9月28日 拒絶理由通知。
平成17年 4月19日 手続補正。
平成17年 5月12日 拒絶査定。
平成17年 8月12日 拒絶査定不服審判請求。
平成17年 9月 9日 手続補正。
平成20年11月28日 当審拒絶理由通知。
平成21年 4月14日 手続補正。


2. 本願発明

本願発明は、平成21年4月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至33に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「請求項1発明」という。)は、この平成21年4月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

<請求項1発明>
「 【請求項1】
対象者又は患者の状態又は状況をモニタリングするワイアレス健康状態モニタリングシステムであって:
健康状態パラメータ決定手段、及び該決定手段で測定された該健康状態パラメータに対応する測定された生理学的データを伝える出力ポートを含む健康状態モニタリングデバイス(HMD);
ユーザインタフェースを有し、かつ包括入力/出力ポートを有する第一の通信ポートと、ワイアレスネットワークを介し、ワイアレス通信を行うための回路、及び該測定された生理学的データを該包括入力/出力ポートを介して受信し、かつ該測定された生理学的データを第二の通信ポートを介してワイアレスに転送するための、特定のロードされたアプリケーションソフトウエアを有する第二の通信ポートとを含む、携帯型インターネット対応ワイアレスウェブデバイス(WWD);及び
ワイアレスウェブデータに関するサーバアプリケーションを実行するサーバを含み;
該携帯型インターネット対応ワイアレスウェブデバイスは、該健康状態モニタリングデバイスによって測定され、かつ転送された対象者又は患者の状態又は状況に対応する該生理学的データを格納するように構成され、かつ該携帯型インターネット対応ワイアレスウェブデバイスは、該測定された生理学的データを、該ワイアレスネットワークを介して該サーバにワイアレスに転送するものであり;かつ
該サーバアプリケーションは、コンピュータ可読媒体上に常駐し、ワイアレスネットワークと通信するサーバ上に配置され、かつ該サーバに、該携帯型インターネット対応ワイアレスウェブデバイスから、該測定された生理学的データを受領させ、該測定された生理学的データを処理し、該測定された生理学的データに対する応答を計算し、かつ該応答を該インターネット対応ワイアレスウェブデバイスに提供する、前記ワイアレス健康状態モニタリングシステム。」


3. 引用例

当審における拒絶の理由に引用した、本願優先権主張日前である平成4年12月24日に頒布された刊行物である、特開平4-371134号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

「 【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、在宅医療を必要とする比較的軽い症状の患者もしくは老人などが、日々の健康上の管理のために必要なデータ、例えば体温、血圧、心電図などをホストコンピュータ等で制御される中央の医療サービス機関等に、家庭用の電話回線などを介して報告し、必要に応じ何らかの指示を受ける一方、異常な状態が発生した時には、自動的に電話回線等で通報することなどを目的に設けられた医療通信システムに用いる在宅医療管理装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来在宅医療システムと呼ばれるものは、例えば米国特許第4933873号公報に示されるように、中央の医療サービス機関等と電話回線等の通信網を利用して、患者の医療データを送信することにより、患者が自宅にいながらにしてその健康状態が監視出来るシステムである。この医療データとは、体温、脈拍、血圧、心電図などの定期的に測定したデータを言うが、その測定はケーブルで接続された別体型もしくは装置組込み型の測定装置で行い集計され結果が送信される。又最近では測定装置にICカード記録装置付きのものがあり、各種の測定結果をカード1枚に記録し、それを医療管理装置で読み取らせて集計し医療サービス機関へ送信するタイプのものも開発されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来の在宅医療管理装置では、測定装置が医療管理装置本体にケーブルで接続されている為、使用者は測定の都度本体の所へ行き、測定装置を体に装着して計測する必要がある。従って寝たきりとか、動きの不自由な人にとっては、その為の付添いが必要となり、装着不良によるデータの不備、計測忘れ等の可能性もあり、日常作業とはいえなかなか大変な作業である。又測定ミスなどはデータの信頼性を落とすばかりか、必要なときにデータが取得できず、その結果患者の命に係わることも考えられる。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は上述の問題点を解消すべくなされたもので、各種の機能を有する測定装置を小型化することで利用者に常時携帯可能とし、且つその測定結果は、無線式のデータ通信機能を内蔵させることにより自動的に送信され、受信機能を備えた医療管理装置へ送られ、自動的に集計できるように構成したものである。
【0005】
【作用】本発明は上述の如く構成したので、予め設定した時刻になると自動的に測定が行われる結果測定忘れがなくなると共に、測定の度に測定装置を装着する必要がなく装着不良が発生する可能性が少なくデータの信頼性が向上し、更に測定装置に識別番号を付与することにより、複数の利用者からの測定データを容易に管理することが可能である。
【0006】
【実施例】以下本発明の実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明による在宅医療管理システムの構成図で、図2は利用者宅に設置された医療管理装置の構成を示す図である。
【0007】図に於いて、(1)は本システムの全体をコントロールする中央医療サービス機関。(2)は在宅医療を必要とする患者または老人等が居住する住宅またはそれに類する施設を示す。(3)は電話回線等の通信回線で、自宅に設置された医療管理装置(4)と中央医療サービス機関(1)を接続している。医療管理装置(4)は表示部(5)、操作部(6)、全体動作や記憶処理を制御する制御装置(7)、各種測定装置などの外部装置からの無線データを受信する無線受信装置(8)、電話機(9)、携帯型測定装置(10)(10)・・・等より構成されている。
【0008】以下このシステムの基本的動作について説明する。
【0009】通信回線(3)は通常の電話回線が主に用いられる。ここでは、電話のほか、モデムを介したデータ通信、即ち医療管理装置(4)の利用者が測定した各種医療データ(体温、脈拍、血圧、心電図など)の定期的な測定結果の中央医療サービス機関等(1)への送信、逆に中央医療サービス機関等(1)から医療管理装置(4)への各種データ(健康管理スケジュール、医療内容の直接指示など)の送信が行われる。
【0010】利用者は、予め定められたスケジュールに基づく測定指示が記憶されている携帯型測定装置(10)を、身体の一部にセンサーを固定した状態で携帯しており、自動的に測定が行われる。測定結果は直ちに無線で医療管理装置(4)に送られると共に定期的な測定結果がメモリへ順次記録保存されて行く。測定結果の詳細判定は原則的には医療管理装置(4)では行わないが、簡易な判定機能を備えることは容易である。例えば、体温の異常、脈拍の異常等は基準データを入力しておくことで異常判定は可能である。もし利用者自身に異常な事態が起こったと判定された場合、決められた相手に自動で電話をかけることが出来る緊急応答システムを組み込むことは容易である。
【0011】図3は制御装置(7)の内部構成を示すブロック図であり、制御回路(11)はマイクロプロセッサで構成されており医療管理装置(4)全体の制御を司る。(12)は電話制御回路で電話回線(L)とハンドセット(13)とモデム回路(14)が接続されている。モデム回路(14)は制御回路(11)に接続されており、電話回線(L)に送出する信号を変調し又電話回線(L)より受信した信号を復調する。(15)はデータメモリで後で述べる測定装置(10)からの各種のデータを記憶保存する。(16)は識別番号(ID番号)管理メモリで、登録されている利用者のID番号が入力されている。またこの管理メモリ(16)には中央の医療サービス機関(1)の電話番号データも記憶されている。(8)は無線受信装置で、測定装置(10)から送られてくる測定結果のデータを受信する。(17)は受信アンテナを示す。
【0012】図4に携帯型測定装置(10)のブロック図を示し、(18)は測定並びに通信の全体を制御する制御回路で、マイクロプロセッサで構成されている。
(19)は携帯型の電池で、最低24時間程度は全体を動作継続させるだけの電力を供給することが可能である。(20)はこの装置を利用する人固有の識別番号設定回路で、この番号は予め医療管理装置(4)に登録されている番号と同一の番号が設定される。(21)は測定したデータが一時記憶されるメモリで、制御回路(18)の制御の下にデータの読み書きが行われる。(22)は無線送信装置で制御回路(18)の指示の下でセンサー(23)?(26)により測定された結果を、アンテナ(27)を介して医療管理装置(4)へ無線通信する。尚ここでは、センサー(23)?(26)は体温、血圧、心拍、心電図の4種類を測定し、その結果を医療管理装置(4)へ送信する場合について説明する。
(28)は緊急時に操作される緊急釦で、緊急釦の信号を検出した制御回路(18)は、医療管理装置(4)へ緊急呼び出し信号を送信する。
【0013】図4に示す携帯型の測定装置(10)は利用者の身体の一部にセンサー(23)?(26)と共に装着されており、予め決められた時間間隔で測定されたセンサー(23)?(26)からのデータを取り込み、送信装置(22)を介して医療管理装置(4)にデータを送る。この場合4種類のデータを測定完了後同時に送信するか、測定を終了したものから送信するかはシステムにより異なる。この時送信データには固有の識別番号(ID番号)が付加されて送信されるので、受信したデータは医療管理装置(4)側でどの利用者からのデータかを区別して保存される。尚、ここでは、測定装置(10)は送信機能のみ有するため、同一データを複数回送信するなど、データ送信の信頼性を上げる配慮が必要である。しかし測定装置(10)が受信機能を有するものであれば、医療管理装置(4)からの応答が分かるため、通信不備による再送信などは、その都度自動的に行うことが可能となる。また測定装置(10)には緊急釦(28)が組み込まれており、利用者が何等かの緊急事態を知らせたい時など、この操作で医療管理装置(4)に緊急信号を送ることが出来る。
【0014】次に本発明の動作について図5のフローチャートに基づき説明する。
【0015】予め設定された時刻に達すると、測定装置(10)が自動的に測定を開始し、測定を終了すると医療管理装置(4)本体へ測定データの送信を行う。医療管理装置(4)では制御装置(7)がステップ(S1)で測定装置(10)から送られた無線データを無線受信装置(8)で受信し、制御回路(11)へ送る。続いて制御回路(11)はステップ(S2)に進み受信したデータ内のID番号とID管理メモリ(16)に予め設定されているID番号の照合を行ない、登録されている利用者の測定装置(10)からの送信データかどうか判定する。このID番号はID管理メモリ(16)に複数個記憶されており、複数の利用者を管理できる。従って一般住宅のみならず、医療施設、老人ホーム等での利用に適している。ステップ(S2)のID番号の照合で一致がとれなかった場合、ステップ(S3)に進みID管理メモリ(16)から次のID番号を読み出しID番号の照合を行う。一致が取れるまでID管理メモリ(16)に記憶されているID番号との照合が順次行われる。その結果一致するものがなかった場合には、登録された使用者のものでないと判断し、ステップ(S4)に進み受信データを破棄して終了する。しかしID番号の一致が得られ受信したデータが該当する利用者のものであった場合、例えばステップ(S2)で一致が得られた場合には、ステップ(S2)よりステップ(S5)へ進み、受信したデータが緊急通信を要求するデータか否かの判定を行う。そこで緊急呼び出し信号ならステップ(S9)に進みID管理メモリ(16)より中央医療サービス機関(1)の電話番号を読み出し、ステップ(S10)で自動的にダイヤル発信を行い中央医療サービス機関(1)へ緊急事態を通報する。一方緊急通信データでなかった場合には、ステップ(S6)に進み受信した体温、脈拍、血圧、心電図の測定データと、対応するID番号と関連ずけてデータメモリ(15)へ記憶する。以後同様にして測定したデータが順次メモリ(15)に記憶される。
【0016】そして予め設定された時刻に達すると、制御回路(11)はID管理メモリ(16)より中央医療サービス機関(1)のダイヤル番号データを読み出しダイヤルし、回線が接続されるとデータメモリ(15)に記憶されている測定データを所定の手順に基づきモデム回路(14)、電話回線(L)を介して中央医療サービス機関(1)へ送信する。
【0017】
【発明の効果】上述の如く本発明の在宅医療管理装置は、携帯型の測定装置を利用者に装着させ、その装置で医療データを測定し、無線にて測定データを電話回線等で中央医療サービス機関等に接続されている医療管理装置に送るよう構成したので、利用者が何等測定装置を意識せずに医療データの測定が行え、その結果をリアルタイムで医療管理装置へ送ることにより、継続したデータが取れるばかりか、そのデータの解析により、異常の有無をも直ちにチェックできる、非常に優れた在宅医療システムを提供する事が出来るものである。
【0018】又携帯型測定装置は、個別のID番号を有しており、データを受信した医療管理装置は、複数の利用者のデータを一括管理することが可能である。」

上記記載事項、及び、図面を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「在宅医療を必要とする比較的軽い症状の患者もしくは老人の体温、血圧、心拍、心電図を監視する在宅医療管理システムであって、

体温センサ(23)、血圧センサ(24)、心拍センサ(25)、心電図センサ(26)、及び該センサ(23,24,25,26)で測定された体温、血圧、心拍、心電図の測定データを伝える無線送信装置(22)を含む携帯型測定装置(10)、

表示部(5)及び操作部(6)を有し、
無線受信装置(8)を有し、
通信回線(3)を介し、通信を行うためのモデム回路(14)及び電話制御回路(12)を有し、
該体温、血圧、心拍、心電図の測定データを該無線受信装置(8)を介して受信し、かつ、
該体温、血圧、心拍、心電図の測定データをモデム回路(14)及び電話制御回路(12)を介して転送する医療管理装置(4)、及び、

中央医療サービス機関(1)のホストコンピュータを含み、

該医療管理装置(4)は、該携帯型測定装置(10)によって測定され、かつ転送された在宅医療を必要とする比較的軽い症状の患者もしくは老人の体温、血圧、心拍、心電図の測定データをデータメモリ(15)に記憶保存するように構成され、かつ該医療管理装置(4)は、該体温、血圧、心拍、心電図の測定データを、該通信回線(3)を介して該中央医療サービス機関(1)のホストコンピュータに転送するものであり、かつ

通信回線(3)と通信する該中央医療サービス機関(1)のホストコンピュータは、該医療管理装置(4)から、該体温、血圧、心拍、心電図の測定データを受信し、健康管理スケジュール及び医療内容の直接指示を該医療管理装置(4)に提供する、前記在宅医療管理システム」


4. 対比

請求項1発明と引用発明とを比較すると、次のことがいえる。

(1) 引用発明における「在宅医療を必要とする比較的軽い症状の患者もしくは老人」は、請求項1発明における「対象者又は患者」に相当する。
(2) 引用発明における「在宅医療を必要とする比較的軽い症状の患者もしくは老人の体温、血圧、心拍、心電図」は、請求項1発明における「対象者又は患者の状態又は状況」に対応する。
(3) 引用発明における「監視」は、請求項1発明における「モニタリング」に相当する。
(4) 引用発明における「体温センサ(23)、血圧センサ(24)、心拍センサ(25)、心電図センサ(26)」は、請求項1発明における「健康状態パラメータ決定手段」に相当する。
(5) 引用発明における「体温、血圧、心拍、心電図の測定データ」は、請求項1発明における「健康状態パラメータに対応する測定された生理学的データ」に相当する。
(6) 引用発明における「無線送信装置(22)」は、請求項1発明における、健康状態パラメータ決定手段で測定された健康状態パラメータに対応する測定された生理学的データを伝える出力ポートに対応する。
(7) 引用発明における「携帯型測定装置(10)」は、請求項1発明における「健康状態モニタリングデバイス(HMD)」に相当する。
(8) 引用発明における「表示部(5)及び操作部(6)」は、請求項1発明における「ユーザインタフェース」に相当する。
(9) 引用例1の前記【0013】には、「測定装置(10)が受信機能を有するものであれば、医療管理装置(4)からの応答が分かる」と記載されているから、引用例1の測定装置(10)に設けられている無線送信装置(22)は、送信機能のみならず医療管理装置(4)からの応答を受信する機能をも有するものでもある。そうしてみると、携帯型測定装置(10)側にあるこの無線送信装置(22)と対をなしている医療管理装置(4)側の無線受信装置(8)は、受信機能のみならず送信機能をも有するものである。よって、引用発明における「無線受信装置(8)」は、請求項1発明における「包括入力/出力ポートを有する第一の通信ポート」に相当する。
(10) 引用発明における「通信回線(3)」は、請求項1発明における「ネットワーク」に相当する。
(11) 引用発明における「モデム回路(14)及び電話制御回路(12)」は、請求項1発明における「通信回線を行うための回路」及び「第二の通信ポート」に対応する。
(12) 引用発明における「医療管理装置(4)」は、請求項1発明における「デバイス(WWD)」に相当する。
(13) 引用発明における「中央医療サービス機関(1)のホストコンピュータ」は、請求項1発明における「サーバ」に相当する。
(14) 引用発明における「データメモリ(15)に記憶保存する」は、請求項1発明における「格納する」に相当する。
(15) 引用発明における「医療サービス機関のホストコンピュータは、・・・(中略)・・・受信し、」は、請求項1発明における「サーバに、・・・(中略)・・・受領させ、」に対応する。
(16) 引用発明における「健康管理スケジュール及び医療内容の直接指示」は、請求項1発明における「応答」に相当する。
(17) 引用発明における「在宅医療管理システム」は、請求項1発明における「健康状態モニタリングシステム」に相当する。

すると、請求項1発明と引用発明とは次の点で一致する。

<一致点>
「対象者又は患者の状態又は状況をモニタリングする健康状態モニタリングシステムであって、

健康状態パラメータ決定手段、及び該決定手段で測定された該健康状態パラメータに対応する測定された生理学的データを伝える出力ポートを含む健康状態モニタリングデバイス(HMD)、

ユーザインタフェースを有し、
包括入力/出力ポートを有する第一の通信ポートを有し、
ネットワークを介し、通信を行うための回路である第二の通信ポートを有し、
該測定された生理学的データを該包括入力/出力ポートを有する第一の通信ポートを介して受信し、かつ
該測定された生理学的データを第二の通信ポートを介して転送するデバイス(WWD)、及び、

サーバを含み、

該デバイスは、該健康状態モニタリングデバイスによって測定され、かつ転送された対象者又は患者の状態又は状況に対応する該生理学的データを格納するように構成され、かつ該デバイスは、該測定された生理学的データを、該ネットワークを介して該サーバに転送するものであり、かつ

ネットワークと通信する該サーバに、該デバイスから、該測定された生理学的データを受領させ、該サーバは、応答を該デバイスに提供する、前記健康状態モニタリングシステム」

一方で、請求項1発明と引用発明とは次の点で相違する。

<相違点1>
請求項1発明におけるデバイス(WWD)とサーバとが、ワイアレスネットワークを介してワイアレス通信を行うことが、引用例1には示されていない点。

<相違点2>
請求項1発明におけるデバイス(WWD)が、特定のロードされたアプリケーションソフトウエアを有するものであるのに対し、引用例1にはこれに対応する要件が示されていない点。

<相違点3>
請求項1発明におけるデバイス(WWD)が携帯型であることが、引用例1には示されていない点。

<相違点4>
請求項1発明におけるデバイス(WWD)が、インターネット対応であり、ウェブを対象とするものであることが、引用例1には示されていない点。

<相違点5>
請求項1発明におけるサーバが、データに関するサーバアプリケーションを実行するものであり、サーバアプリケーションが、コンピュータ可読媒体上に常駐するものであり、サーバ上に配置されるものであること、及び、このサーバアプリケーションが、測定された生理学的データを処理し、測定された生理学的データに対する応答を計算するものであることが、引用例1に明確には示されていない点。


5. 判断

上記相違点について検討する。

<相違点1,3について>
クライアントとサーバとの通信をワイヤレスで行うことが、例えば、当審における拒絶の理由に引用例3として挙げた特開平11-113859号公報に、健康管理支援装置(10)を外部機関のホストコンピュータに携帯電話機(60)を介して接続することとして示されているように、また、引用例5として挙げた特開平11-122369号公報に、センサ部(5)が計測した被測定者の血圧、脈拍、体温を携帯電話部(9)を用いて病院へ送信することとして示されているように、本願優先日前の周知技術であったから、引用発明における医療管理装置(4)の電話制御回路(12)として携帯電話を採用することにより、該医療管理装置(4)を携帯可能な装置とし、かつ、該医療管理装置(4)とサーバとの通信をワイヤレスで行うこと、すなわち請求項1発明におけるように、デバイスを携帯型とし、デバイスとサーバとがワイアレスネットワークを介してワイアレス通信を行うように構成することは、引用発明を実施しようとした当業者が適宜行い得たことである。

<相違点2について>
請求項1発明のデバイス(WWD)にある「特定のロードされたアプリケーションソフトウエア」が、どのようなソフトウエアであるのかを本願の明細書に立ち返って確認すると、このソフトウェアは、本願の明細書【0018】、【0040】等に記載されているように、対話型ユーザインタフェースと、生理学的データの測定用のアプリケーションソフトウェアであり、サーバからダウンロードされるものである。
引用発明の医療管理装置(4)は、ユーザインタフェースのための表示部(5)及び操作部(6)を備えているものであり、携帯型測定装置(10)から送信された体温、血圧、心拍、心電図の測定データを無線受信装置(8)で受信するものである。
引用例1の前記【0011】に記載されているように、引用例1の医療管理装置(4)の制御回路(11)はマイクロプロセッサで構成されており、マイクロプロセッサはアプリケーションソフトウェアがなければある特定の目的をもった機能を果たすための動作をすることはできないから、引用例1の医療管理装置(4)の制御回路(11)には、表示部(5)及び操作部(6)をユーザインタフェースとして機能させ、無線受信装置(8)に体温、血圧、心拍、心電図の測定データを受信させるように動作させるための特定のアプリケーションソフトウェアが存在していることは当業者に明らかである。
したがって、相違点2のうち請求項1発明のデバイス(WWD)に特定のアプリケーションソフトウエアが存在している点では、引用例1に示された発明と請求項1発明とは実質的に相違するものではない。
また、ソフトウェアをダウンロードすることも本願優先日前の周知技術であったから、請求項1発明の特定のアプリケーションソフトウエアがロードされたものである点も、技術的に特段の意味を生じさせるような有意な差異ではない。

<相違点4について>
インターネット対応であり、ウェブを対象とした通信は、例えば、当審における拒絶の理由に引用例2として挙げた特開平11-47101号公報の【0021】、引用例4として挙げた特開平11-136391号公報の【0015】、引用例6として挙げた特開平9-224917号公報の【0010】、【0040】、【図5】(b)、【図7】に示されているように、本願優先日前の周知技術であったから、引用発明の医療管理装置(4)すなわち請求項1発明のデバイスをインターネット対応とし、ウェブを対象としたものとすることは、引用発明を実施しようとした当業者が適宜行い得たことである。

<相違点5について>
請求項1発明に係る「データに関するサーバアプリケーション」とは、サーバでデータを処理するアプリケーションソフトウェアである。
引用発明の中央医療サービス機関(1)のホストコンピュータは、医療管理装置(4)から体温、血圧、心拍、心電図の測定データを受信して、健康管理スケジュールや医療内容の直接指示を医療管理装置(4)へ送信するものであるから、この受信から送信へ至る動作を行わせるために、このホストコンピュータ内にデータを処理するアプリケーションソフトウェアが設けられていることは当業者に明らかである。
また、アプリケーションソフトウェアをコンピュータ可読媒体上、つまり例えばメモリ上やハードディスク上に常駐させることも周知である。
そうしてみると、引用発明の中央医療サービス機関(1)のホストコンピュータのメモリ上やハードディスク上に、体温、血圧、心拍、心電図の測定データを受信させ、受信した測定データを処理して、測定データに対する健康管理スケジュール及び医療内容の直接指示等の応答を求め、該健康管理スケジュールや医療内容の直接指示等の応答を送信させるアプリケーションソフトウェアを設けること、すなわち請求項1発明におけるように、サーバアプリケーションをサーバのコンピュータ可読媒体上に常駐させ、サーバに、データに関するサーバアプリケーションを実行させること、及び、このサーバアプリケーションを、測定された生理学的データを処理し、測定された生理学的データに対する応答を計算するものとすることは、当業者が引用発明を実施するために当然行うことである。


また、請求項1発明の構成によってもたらされる効果も、引用発明及び周知技術から当業者であれば予測することができた程度のものであって、格別のものとは認められない。

したがって、本願請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求項1以外の独立請求項である請求項17,26,28,29,30に係る発明について検討しても、請求項17,26に係る発明は、システムの発明として記載されている請求項1発明を、方法の発明あるいはコンピュータプログラムの発明として記載したものであるから、請求項1発明について指摘したと同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項28,29,30に係る発明は、請求項1発明に係る構成要件のうち携帯型インターネット対応ワイアレスウェブデバイス(WWD)の部分だけを抜き出して携帯電話の発明あるいは携帯機器の発明あるいはコンピュータと携帯電話の発明として記載したものであって、これらの携帯電話、携帯機器、コンピュータはいずれも本願優先日前に周知の装置であるから、請求項28,29,30に係る発明も、請求項1発明について指摘したと同様の理由により、引用発明及び周知技術並びに周知の装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6. むすび

以上のとおり、本願の請求項1,17,26,28,29,30に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-14 
結審通知日 2009-05-19 
審決日 2009-06-02 
出願番号 特願2001-546034(P2001-546034)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅原 浩二  
特許庁審判長 立川 功
特許庁審判官 真木 健彦
手島 聖治
発明の名称 ワイヤレスインターネット接続による患者モニタリングのための方法及び装置  
代理人 石川 徹  

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