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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200625301 審決 特許
不服200717080 審決 特許
不服20062586 審決 特許
不服20072731 審決 特許
不服2006876 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1205694
審判番号 不服2006-13708  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-29 
確定日 2009-10-21 
事件の表示 特願2000-586382「医薬用エーロゾル製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月15日国際公開、WO00/33892、平成15年 7月15日国内公表、特表2003-521459〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年12月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1998年12月10日,米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答して平成18年2月28日受付けで手続補正がなされたが、平成18年3月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年6月29日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年6月29日受付けで手続補正がなされたものであり、その後、前置報告書を用いた審尋がなされたが、それに対し回答がなされなかったものである。

2.平成18年6月29日受付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年6月29日受付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関し、
補正前(平成18年2月28日受付けの手続補正書参照)の
「【請求項1】 医薬用エーロゾル製剤であって、
(a) 治療上有効な量の粒子状のタンパク質またはペプチド、
(b) 噴射剤、および
(c) 製剤中に存在する発生期の水に加え、製剤の100万重量部につき300重量部から2000重量部までの範囲の量の水から成る安定剤、
から実質的に構成され、
(a) i)前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を混合し、またはii)前記タンパク質またはペプチドおよび噴射剤を混合した後に水を加え、
(b) 前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を分散させる、
ことにより得られることを特徴とする製剤。」から、
補正後の
「【請求項1】 医薬用懸濁粒子エーロゾル製剤であって、
(a) 治療上有効な量の粒子状のタンパク質またはペプチド、
(b) 噴射剤、および
(c) 製剤中に存在する発生期の水に加え、製剤の100万重量部につき300重量部から2000重量部までの範囲の量の水から成る安定剤、
から実質的に構成され、
(a) i)前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を混合し、またはii)前記タンパク質またはペプチドおよび噴射剤を混合した後に水を加え、
(b) 前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を分散させる、
ことにより得られることを特徴とする製剤。」
とする補正を含むものである。

上記補正前後の発明特定事項を対比すると、上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「エーロゾル製剤」に関し、「懸濁粒子」との限定を付加するものであるから、限定を付加している点で減縮に相当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特表平7-503476号公報(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。
(i)「1. (a)ベクロメタゾンジプロピオナート一水和物であって、実質上すべての一水和物の粒度は20ミクロン以下であるもの、
(b)上記一水和物に伴う結晶水に加えて、処方物の少くとも0.015重量%の水、および
(c)フルオロカーボンまたは水素含有クロロフルオロカーボン噴射剤
を含んでなる、医薬エアゾール処方物。
2. ・・・略・・・。
3. 0.015?0.1重量%の添加水を含んでなる、請求項1または2に記載の処方物。
4. 少くとも0.026重量%の添加水を含んでなる、請求項1?3のいずれか一項に記載の処方物。
5. 0.026?0.08重量%の添加水を含んでなる、請求項1?4のいずれか一項に記載の処方物。
6.?11. ・・・略・・・
12. 1種以上の追加活性成分を含有してなる、請求項1?11のいずれか一項に記載の処方物。
13.?19.・・・略・・・
20. 噴射剤中に薬剤および添加水を分散させることを含んでなる、請求項1?16のいずれか一項に記載の医薬エアゾール処方物の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1,3?5,12,20参照)
(ii)「ベクロメタゾンジプロピオナートは9α-クロロ-16β-メチル-1,4-プレグナジェン-11β,17α,21-トリオ-ル-3,20-ジオン17α,21-ジプロピオナートであり、下記式(1)により表される

式(1)のコルチコステロイドは局所抗炎症活性を示すことが知られ、GB1047519に記載され、特許請求されている。喘息症状の治療において、(好ましくは微粉化により製造された)小さな粒子の薬剤を含有した乾燥粉末またはエアゾールの形で化合物を投与すると有効であることが知られている。しかしながら、無水ベクロメタゾンジプロピオナートを含有した従来の処方の粒度は、貯蔵中溶媒和により、薬剤粒子が大きすぎて気管支系に浸透できない程度まで増加してしまうことが知られている。」(第3頁左上欄7行?同頁右上欄6行参照)
(iii)「従来のエアゾール処方においては水の存在が多くの問題と関連していると思われており、これらの製造では実質上水を含有しないように維持されるべきであると一般的に考えられている。このような処方物の製造および貯蔵双方に際して気中の水分の厳格な排除は、満足しうる薬物含有エアゾールの製造の困難性を増して、最終製品の全体コストを上げる。
我々はベクロメタゾンジプロピオナートおよび水を含有したある新規エアゾール処方が意外にも安定であることを見出した。」(第3頁右上欄22行?同頁左下欄7行参照)
(iv)「本発明によるエアゾール処方は、処方の少くとも0.015重量%(例えば、0.015?0.1%)の水(ベクロメタゾンジプロピオナート一水和物に伴う結晶水を除く)、好ましくは少くとも0.02重量%、例えば0.025%以上の添加水を含有する。意外にも、実質上水を含有しない、例えば水0.005重量%以下で製造された、微粉砕化ベクロメタゾンジプロピオナートー水和物とフルオロカーボンまたは水素含有クロロフルオロカーボン噴射剤とのエアゾール処方は、貯蔵時に結晶成長を示し、許容されない。本発明による好ましい処方は、ベクロメタゾンジプロピオナート一水和物に伴う結晶水に加えて、少くとも0.026重量%、例えば0.026?0.08%の水を含有している。
しかしながら、当業者に明らかなように、個別のフルオロカーボンまたは水素含有クロロフルオロカーボン噴射剤の水溶性は同一ではなく、したがって本発明によるエアゾール処方を安定化する上で要求される添加水の最少量は用いられる具体的な噴射剤に依存する。」(第3頁右下欄4?21行参照)
(v)「噴射剤はその噴射剤よりも高い極性および/または高い沸点を有する補助剤を場合により含有していてもよい。用いられる極性補助剤には、エタノール、イソプロパノールおよびプロピレングリコールのような(例えば、C_(2-6))脂肪族アルコールおよびポリオール、好ましくはエタノールがある。一般にはほんの少量の極性補助剤(例えば、0.05?3.0%w/w)が分散液の安定性を改善するために要求される-5%w/wを超える量の使用は薬剤を溶解させる傾向がある。本発明による処方は、好ましくは1%w/w以下、例えば約0.1%w/wの極性補助剤を含有することができる。しかしながら、本発明の処方は好ましくは極性補助剤、特にエタノールを実質上含有しない。」(第4頁右上欄18行?同頁左下欄6行参照)
(vi)「場合により、本発明によるエアゾール処方は1種以上の界面活性剤を更に含んでいてもよい。」(第4頁左下欄12?13行参照)
(vii)「しかしながら、本発明の処方は実質上界面活性剤を含有しないことが好ましい。」(第5頁左上欄13?14行参照)
(viii)「本発明によるエアゾール処方が所望であれば1種以上の追加活性成分を含有してもよいことは、当業者にとり明らかであろう。2種の活性成分を(慣用的な噴射剤系中に)含有したエアゾール組成物は、例えば喘息のような呼吸障害の治療用に知られている。したがって、本発明は1種以上の追加粒状薬剤を含有した本発明によるエアゾール処方を更に提供する。追加薬剤は吸入治療で有用ないずれか他の適切な薬物から選択され、これは選択された噴射剤に実質上完全に不溶性である形で供与される。このため、適切な薬剤は、例えば鎮痛剤、例えばコデイン、ジヒドロモルヒネ、エルゴタミン、フェンタニルまたはモルヒネ;アンギナ製剤、例えばジルチアゼム;抗アレルギー剤、例えばクロモグリケート、ケトチフェンまたはネドクロミル;抗感染剤、例えばセファロスポリン、ペニシリン、ストレプトマイシン、スルホンアミド、テトラサイクリンおよびペンタミジン;抗ヒスタミン剤、例えばメタピリレン;抗炎症剤、例えばフルチカゾン、フルニゾリド、ブデソニド、チブレダンまたはトリアムシノロンアセトニド;鎮咳剤、例えばノスカピン;気管支拡張剤、例えばサルメチロール、サルブタモール、エフェドリン、アドレナリン、フェノテロール、フェルモテロール、イソプレナリン、メタプロテレノール、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、ピルブテロール、レプロテロール、リミテロール、テルブタリン、イソエタリン、ツロブテロール、オルシブレナリンまたは(-)-4-アミノ-3,5-ジクロロ-α-〔〔[6-(2-(2-ピリジニル)エトキシ〕ヘキシル〕アミノ〕メチル〕ベンゼンメタノール;利尿剤、例えばアミロリド;抗コリン作動剤、例えばイブラトロビウム、アトロピンまたはオキシトロビウム;ホルモン、例えばコルチゾン、ヒドロコルチゾンまたはプレドニゾロン;キサンチン、例えばアミノフィリン、コリンテオフィリネート、リジンテオフィリネートまたはテオフィリン;治療タンパク質およびペプチド、例えばインシュリンまたはグルカゴンから選択される。」(第5頁左上欄20行?同頁左下欄6行参照)
(ix)「本発明の処方は、適切な容器中において、例えば音波処理により、薬剤および添加水を選択された噴射剤に分散することで製造される。
本発明による処方は放置するとわずかに凝集した分散液を形成するが、意外にも、これらの懸濁液は緩かな攪拌により容易に再分散されて、長期貯蔵後であっても加圧吸入器での使用に適した優れた送達特性のある懸濁液が提供できることがわかった。本発明によるエアゾール処方では処方賦形剤、例えば界面活性剤、共溶媒等の使用を最少にして、好ましくは避けていることも、処方が従来の処方より実質上無味無臭で、低刺激性、低毒性であることから、有利である。」(第5頁左下欄20行?同頁右下欄7行参照)
(x)「医薬エアゾール製造業者に周知の慣用的なバルク製造法および機械は、充填容器の商業的生産用の大規模バッチの製造に用いることができる。このため、例えば、1つのバルク製造法において、計量バルブがアルミニウム缶に勘合され、空の容器を形成する。粒状薬剤および水が充填容器に加えられ、液化噴射剤が充填容器から製品容器中に加圧充填される。薬物懸濁液は充填機への再循環前に混合され、その後薬物懸濁液の一部が計量バルブから容器中に充填される。もう1つのバルク製造法では、水が水含有噴射剤中薬剤の懸濁液の調製前に液化噴射剤中に溶解される。その後薬物懸濁液が常法で空の容器中に加圧充填される。」(第6頁右上欄3?14行参照)
(xi)「下記非制限例は本発明を説明する上で役立つ。
例1
微粉化されたベクロメタゾンジプロピオナート一水和物(68mg)を秤量して、水(6.1mg)と一緒に清潔な乾燥プラスチック被覆ガラスボトルにいれた。乾燥(約17ppmH_(2)O)1,1,1,2-テトラフルオロエタン(18.2gまで)を真空フラスコから加えた。ボトルを計量バルブで速やかに密封した。得られたエアゾール(330ppmH_(2)O)は1回の作動量75.8mg当たり250マイクログラムのベクロメタゾンジプロピオナート(一水和物として)を排出した。」(第6頁右下欄2?12行参照)

(3)対比、判断
引用例には、上記「2.(2)」の摘示事項(特に(i)の摘示参照)の記載からみて、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「(a)ベクロメタゾンジプロピオナート一水和物であって、実質上すべての一水和物の粒度は20ミクロン以下であるもの、
(a’)1種以上の追加活性成分、
(b)上記一水和物に伴う結晶水に加えて、処方物の少くとも0.015?0.1重量%の添加水、および、
(c)フルオロカーボンまたは水素含有クロロフルオロカーボン噴射剤、
を含んでなる、医薬エアゾール処方物。」

そこで、本願補正発明と引用例発明を対比する。
(イ)引用例発明の「(a)ベクロメタゾンジプロピオナート一水和物であって、実質上すべての一水和物の粒度は20ミクロン以下であるもの」と「(a’)1種以上の追加活性成分」は、活性成分を治療上有効な量で用いることが当然と言えること、及び追加活性成分として追加粒状薬剤を含有し「治療タンパク質およびペプチド」も明示されていることに鑑み、本願補正発明の「(a) 治療上有効な量の粒子状のタンパク質またはペプチド」に対応し、いずれも「(a) 治療上有効な量の粒子状の薬剤」で一致する。
(ロ)引用例発明の「(b)上記一水和物に伴う結晶水に加えて、処方物の少くとも0.015?0.1重量%の添加水」は、該添加水がエアゾール処方物を安定化させるために加えられる(摘示(iii),(iv)参照)ため「安定剤」に相当し、また、処方物とは製剤のことであって、「0.015?0.1重量%」が「製剤100万重量部につき150重量部から1000重量部」と言い換えられることから、本願補正発明の「(c) 製剤中に存在する発生期の水に加え、製剤の100万重量部につき300重量部から2000重量部までの範囲の量の水から成る安定剤」に対応し、「最も好ましくは、付加水分の濃度は医薬用エーロゾル製剤の全重量の100万重量部につき500重量部から700重量部までの濃度」(本願明細書段落【0019】参照)とされていることに鑑み、両発明の添加する水の量は「製剤100万重量部につき300重量部から1000重量部」の範囲で一致する。
(ハ)引用例発明の「(c)フルオロカーボンまたは水素含有クロロフルオロカーボン噴射剤」は、本願補正発明の「(b) 噴射剤」に相当する。
(ニ)引用例発明の「医薬エアゾール処方物」は、本願補正発明の「医薬用懸濁粒子エーロゾル製剤」に対応し、「医薬エーロゾル製剤」で一致する。

してみると、両発明は、
「医薬用エーロゾル製剤であって、
(a) 治療上有効な量の粒子状の薬剤、
(b) 噴射剤、および
(c) 製剤の100万重量部につき300重量部から1000重量部までの範囲の量の水から成る安定剤、
を有してなる製剤。」
で一致し、次の相違点1?5で一応相違する。
<相違点>
1.「エーロゾル製剤」に関し、本願補正発明では、「懸濁粒子」と限定しているのに対し、引用例発明ではそのように限定していない点
2.「治療上有効な量の粒子状の薬剤」に関し、本願補正発明では「タンパク質またはペプチド」であるのに対し、引用例発明ではそのように特定していない点
3.安定剤としての水の量に関し、本願補正発明では「製剤中に存在する発生期の水に加え」ての量であると特定しているのに対し、引用例発明では、「上記一水和物に伴う結晶水に加えて」の量であると特定している点
4.本願補正発明では、(a)?(c)の成分「から実質的に構成され」と特定しているのに対し、引用例発明ではそのように特定していない点
5.水の分散のさせ方に関し、本願補正発明では、「(a) i)前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を混合し、またはii)前記タンパク質またはペプチドおよび噴射剤を混合した後に水を加え、(b) 前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を分散させる、ことにより得られる」と特定しているのに対し、引用例発明ではそのように特定していない点

そこで、これらの相違点について検討する。
<相違点1>について
引用例発明においても、ベクロメタゾンジプロピオナート一水和物は粒子状で用いられ、また、追加活性成分も「追加粒状薬剤」として用いられ「実質上完全に不溶性である形で供与される」(摘示(viii)参照)こと、及び、「薬物懸濁液」で提供されること(摘示(ix),(x)参照)から、「エーロゾル製剤」が「懸濁粒子エーロゾル製剤」であることは明らかである。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

<相違点2>について
引用例発明では、追加活性成分として、「治療タンパク質およびペプチド」が明示されている(摘示(viii)参照)から、「治療上有効な量の粒子状の薬剤」として「タンパク質またはペプチド」を用いることは、当業者が容易に想い至る程度のことといえる。なお、安定化が目的とされる引用例発明において、追加活性成分の追加があっても、安定なエーロゾル処方物が得られると解するのが相当である。
そして、本願明細書を検討しても、「タンパク質またはペプチド」は、適切な薬剤として例示された多数の薬剤の中の1例にすぎず(本願明細書段落【0011】参照)、これを用いたことによって他の薬剤を選択することに比べて格別予想外の作用効果を奏することは何ら記載されていないし、そもそも本願発明の作用効果を裏付けるべき実施例、比較例は一つも記載されていない。
よって、「治療上有効な量の粒子状の薬剤」として「タンパク質またはペプチド」を用いることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

<相違点3>について
引用例発明では、「製剤中に存在する発生期の水に加え」てとの言及はないけれども、製剤を安定化させるために、もともと含有される結晶水以外にあえて水を添加する点で、本願補正発明と軌を一にしている。
そして、本願明細書に「通常、付加水分は、製剤中で発生期の製剤水分の濃度より多い量で存在しなければならない。そのような発生期の製剤水分の濃度は通常、エーロゾル製剤の全重量の100万重量部につき300重量部までの範囲である。したがって、この発生期の水分濃度より多い付加水分は、エーロゾル製剤の100万重量部につき約300重量部から2000重量部までの範囲である。」(本願明細書段落【0019】参照)と説明されているのに対し、引用例発明でも「製剤100万重量部につき150重量部から1000重量部」(「0.015?0.1重量%」を換算;上記対比の(ロ)を参照)をわざわざ添加するのであり、例1でも0.033重量%(=6.1mg/(68mg+6.1mg+18.2g);摘示(xi)参照)の水が添加されていることから、両者の、添加水の量に実質的な相違はないというべきである。
なお、本願明細書には具体的実施例が1つもなく、添加水の規定重量部の数値限定が臨界的な技術的意義を有することは示されていない。
よって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

<相違点4>について
本願補正発明では、「から実質的に構成され」と特定されている。
しかし、本願発明の詳細な説明によれば、(a)?(c)の成分以外に、「従来の潤滑剤または界面活性剤、補助溶剤、エタノールなどようなさらなる成分が、・・・本発明のエーロゾル製剤中に存在してもよい。」(本願明細書段落【0021】参照)とされているし、また、「複数の治療上有効な投与量の提供に十分な量」(同書段落【0023】参照)とされるとともに、請求項1(本願補正発明)を引用し本願補正発明の実施の態様ともいえる請求項2?4等において「前記タンパク質またはペプチドが、ブデソニド、ホルモテロールまたはフルチカソンを含む」(当審注:ブデソニド、ホルモテロールまたはフルチカソンは、タンパク質でもなく、ペプチドでもない。)などの様に複数の治療上有効な活性成分を併用することを規定していることを勘案すると、「から実質的に構成され」ることは、(a)?(c)の成分以外の成分を有することを除外するものではないといえる。
なお、本願補正発明の一態様として含まれる前記ブデソニドとフルチカゾンは、ステロイド系の薬剤であるのに対し、引用例発明の「ベクロメタゾンジブロピオナート一水和物」もステロイド系の薬剤であるから、両薬剤はともにステロイド系薬剤である点で本質的な差異はないものといえる。
また、治療上有効な粒子状の薬物に関しては、本願当初明細書の記載では何でも良かったのであり、且つ1つの実施例も示されていないのであるから、多数例示された薬剤の中の単なる1例にすぎない(本願明細書段落【0011】参照)「タンパク質またはペプチド」に限定することは、その技術的意義の説明も無く、技術的意義があるとは言えない。
よって、引用例発明に含有される「ベクロメタゾンジブロピオナート一水和物」を更に含有することは、本願補正発明と引用例発明との実質的な相違点とはいえないし、本願補正発明で「から実質的に構成される」と特定されていることが、両発明の実質的な相違点というべきではない。

<相違点5>について
引用例には、「噴射剤中に薬剤および添加水を分散させること」(摘示(i)の請求項20参照)、「例えば、音波処理により、薬剤および添加水を選択された噴射剤に分散する」(摘示(ix)参照)、「粒状薬剤および水が充填容器に加えられ、液化噴射剤が充填容器から製品容器中に加圧充填される。薬物懸濁液は充填機への再循環前に混合され、その後薬物懸濁液の一部が計量バルブから容器中に充填される。もう1つのバルク製造法では、水が水含有噴射剤中薬剤の懸濁液の調製前に液化噴射剤中に溶解される。その後薬物懸濁液が常法で空の容器中に加圧充填される。」(摘示(x)参照)、例1として、薬剤と水をボトルにいれ、噴射剤を加えたこと(摘示(xi)参照)が記載されている。
そうすると、引用例には、少なくとも、薬剤、噴射剤および水を混合し、薬剤、噴射剤および水を分散させる態様が記載されているものと認められるし、そもそもどのような順序で薬剤と噴射剤と水を混合し分散させるかは、当業者が適宜選択する設計事項にすぎず、その順序によって格別予想外の作用効果が生じることは本願明細書に記載されていない。
よって、相違点5に係る本願発明の特定事項は、引用例に記載されているか、少なくとも当業者が適宜選択し得る態様にすぎないものというべきである。

<本願補正発明の作用効果>について
本願明細書には、作用効果を明らかにしそれを裏付けるための実施例(比較例も)が一つも記載されておらず、また、作用効果を説明する項目は無い。そこで、明細書全体の記載を検討すると、例えば、「エーロゾル製剤は安定であり、投与量調節弁から放出された加圧投与量を再現可能であることが重要である。攪拌後の急速なクリーミング、沈降、または凝集は、懸濁製剤において投与量が再現不可能であることの一般的な原因である。・・・少量の界面活性剤を含有する場合にそうである。」(段落【0004】参照)、「従来のエーロゾル製剤中に水分が存在することにより多くの潜在的な問題、例えば製剤の安定性、不安定な投与量の供給、および時に噴射剤中のフリーラジカル反応が生ずることが当該技術において知られている。・・・発生期の・・製剤水分と称されるそのような製剤の製造および保存中の大気水分を厳密に排除することにより、薬を含有する十分に安定なエーロゾルの調製がより困難とになり、・・」(段落【0006】参照)、「エタノールのような補助溶剤、または・・のような界面活性剤を使用せずに新しい医薬用エーロゾル製剤を得ることができることは驚くべき発見であった。安定な医薬用エーロゾル製剤は、付加水分の使用により得られる。」(段落【0009】参照)、「本発明は、・・・加圧供給に適切な安定した懸濁エーロゾル製剤に関する。」(段落【0010】参照)、「製剤を安定させるのに有効な量で付加水分を有し、攪拌の後すぐには薬は沈降、クリーミングまたは凝集せず、薬の再現可能な投与を妨げない。」(段落【0018】参照)などの記載があり、これらの記載からみて、本願補正発明は、水を添加することにより(物理的に)安定なエーロゾル製剤を提供することにあると認められる。
しかし、引用例発明においても、添加水を加えることによって、薬物含有エアゾール処方物が安定化されること(摘示(iii),(iv)参照)が明らかにされているし、処方にエタノールのような極性補助剤を実質上含有しないこと(摘示(v)参照)も、界面活性剤を含有しないこと(摘示(vii)参照)も明らかにされているのであるから、本願明細書に記載の如き何らの裏付けもない前記作用効果は、格別予想外のものとはいえない。

なお、請求人は、審判請求理由において、(A)本願補正発明では、「粒子状のタンパク質またはペプチドを、水中に溶解させるのではなく懸濁することにより、薬の種類に制限されることなく、界面活性剤を使用せずに安定な医薬用エーロゾル製剤を提供し、エーロゾル製剤の加工中に発生した除去が困難な発生期の水によってエーロゾル製剤が不安定になりその調整及び保存が困難になることを防止すると共に、製剤の調製において水分を排除するために必要な費用を削減できる」ことを主張し、そして、(B)引用例発明では、「エアゾール処方物に追加的に含有し得る水の量は、少なくとも0.026重量%、例えば0.026?0.08重量%とされていますが、このように、ごく少量の水を追加する構成では、エーロゾル製剤中において、大きい粒子状の薬剤成分であるタンパク質またはペプチドを水中に懸濁させて、医薬用懸濁粒子エーロゾル製剤を安定化させることは不可能であります。」と主張している。
しかし、(A)の主張については、引用例発明においても、懸濁すること(上記<相違点1>についてを参照)、界面活性剤を使用しなくても良いこと(摘示(vii)参照)が明らかにされているし、水を含有させることによって安定化できることも記載されている(摘示(iii),(iv)参照)のであり、水を添加するので水を排除することが不要でありそのための費用が不要であることも自明といえるから、前記請求人の主張は、本願補正発明が引用例発明に比べ格別に優れていることを示すものとは言えない。そして、(B)の主張については、そもそも粒子の大きさの影響については本願明細書に何ら言及はなく、作用効果を裏付ける実施例すらないのであるから、根拠のない不当な主張といえるものであり、しかも、引用例発明で添加する水の量が0.026?0.08重量%のごく少量であるとの主張は、上記の対比の(イ)で検討したように、本願補正発明で追加する水の量(なお、本願補正発明で規定する水の量を重量%で表現すると、0.03?0.2重量%であり、最も好ましいとする量は0.05?0.07重量%である。)とほぼ一致しているから、その前提の判断が誤っており、失当であることが明白である。

以上のとおりであるから、前記相違点1?5を総合的に勘案しても、それら相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することに格別の創意工夫が必要であるとは認められないし、格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

よって、本願補正発明は、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成18年6月29日受付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?26にかかる発明は、平成18年2月28日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 医薬用エーロゾル製剤であって、
(a) 治療上有効な量の粒子状のタンパク質またはペプチド、
(b) 噴射剤、および
(c) 製剤中に存在する発生期の水に加え、製剤の100万重量部につき300重量部から2000重量部までの範囲の量の水から成る安定剤、
から実質的に構成され、
(a) i)前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を混合し、またはii)前記タンパク質またはペプチドおよび噴射剤を混合した後に水を加え、
(b) 前記タンパク質またはペプチド、噴射剤および水を分散させる、
ことにより得られることを特徴とする製剤。」

(1)引用例
拒絶査定の理由に引用される引用例、およびその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比、判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「エーロゾル製剤」の限定事項である「懸濁粒子」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-22 
結審通知日 2009-05-26 
審決日 2009-06-08 
出願番号 特願2000-586382(P2000-586382)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 内田 淳子
弘實 謙二
発明の名称 医薬用エーロゾル製剤  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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