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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1205764 |
審判番号 | 不服2008-10920 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-04-30 |
確定日 | 2009-10-19 |
事件の表示 | 平成11年特許願第170964号「薄膜光電変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月12日出願公開、特開2001- 7361〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成11年6月17日に特許出願したものであって、その請求項に係る発明は、平成20年1月18日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のものである。 「第1と第2の主表面を有するガラス基板と、 前記ガラス基板の第1の主表面の上に形成された透明導電性酸化物層と、 前記透明導電性酸化物層の上に形成された光電変換ユニットと、 前記光電変換ユニットの上に形成された電極層とを備え、 前記光電変換ユニットは、 前記透明導電性酸化物層の上に形成されたp型シリコン層と、 前記p型シリコン層の上に形成された実質的に多結晶シリコンからなるi型の光電変換層と、 前記光電変換層の上に形成されたn型シリコン層とを含み、 前記ガラス基板の第2の主表面から光が入射されるタイプの薄膜光電変換装置において、 前記透明導電性酸化物層と前記p型シリコン層との界面は、前記透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以下の透過率を有する場合に0.1μm以上0.2μm以下の範囲内に設定された高低差を有する凹凸面を含み、前記透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率を有する場合に0.2μm以上0.5μm以下の範囲内に設定された高低差を有する凹凸面を含む、薄膜光電変換装置。」 2 引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開昭58-14581号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。 a.「第2図は本発明の一実施例としての薄膜半導体太陽電池の概略断面図である。 図において、21は透明ガラス基板、22はITOあるいは極めて薄い半導体金属膜、23は水素を含み高い濃度にドープされた非晶質Si(例えばp型)、24は同じ導電型(例えばp型)を有する多結晶Si薄膜、25は意図的にドープしないで形成されたi型(n^(-)あるいはp^(-)型)多結晶Si薄膜、26はドープされた多結晶Si薄膜(例えばn型)である。ガラス基板側から入射した太陽光は主として25のi層で吸収され電子と正孔対を数多く創る。極性がここに示された例の場合、正孔は電極22へ、電子は電極27へ向つて拡散し、電圧を発生する。」(2頁右上欄15行?左下欄8行) b.「・・・・基板を500℃に暖めた状態で非晶質Si薄膜を50nm被着する。この場合、B_(2)H_(6)をガス中に流入することにより、水素を含む非晶質薄膜23をp型に形成する。次いで、ほぼ同様のドーピング条件で引続いて膜厚30nmのp型多結晶Si薄膜24を被着する。・・・・次いで、・・・・i型多結晶Si薄膜25を1μmの厚さに形成する。引続いて、・・・・膜厚0.5μmのn型多結晶Si薄膜26を得る。」(2頁右下欄3?16行) c.上記a.及びb.に照らして第2図をみると、ITOあるいは極めて薄い半導体金属膜22は、透明ガラス基板21の上側の表面に形成され、水素を含み高い濃度にドープされた非晶質Si(例えばp型)23及び同じ導電型(例えばp型)を有する多結晶Si薄膜24は、前記ITOあるいは極めて薄い半導体金属膜22の上に形成され、i型(n^(-)あるいはp^(-)型)多結晶Si薄膜25は、前記非晶質Si23及び多結晶Si薄膜24の上に形成され、ドープされた多結晶Si薄膜(例えばn型)26は、前記多結晶Si薄膜25上に形成され、電極27は、前記多結晶Si薄膜26上に形成されていることが、みてとれる。 上記a.ないしc.によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「透明ガラス基板21と、 前記透明ガラス基板21の上側の表面に形成されたITOと、 前記ITOの上に形成された水素を含み高い濃度にドープされた非晶質Si薄膜(p型)23及び同じ導電型(p型)を有する多結晶Si薄膜24と、 前記非晶質Si薄膜23及び多結晶Si薄膜24の上に形成されたi型多結晶Si薄膜25と、 前記i型多結晶Si薄膜25の上に形成されたドープされた多結晶Si薄膜(例えばn型)26と、 前記多結晶Si薄膜26の上に形成された電極27を備え、 ガラス基板側から入射した太陽光は主としてi型多結晶Si薄膜25のi層で吸収され電子と正孔対を数多く創り、正孔は電極22へ、電子は電極27へ向かつて拡散し、電圧を発生する、薄膜半導体太陽電池。」 (2)同じく、特開平10-117006号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。 a.「【0012】 【発明の実施の形態】図1において、本発明の1つの実施の形態による薄膜光電変換装置が模式的な断面図で概略的に図解されている。この薄膜光電変換装置は、ガラス基板1上に順次積層された下地導電層2,金属反射層3,多結晶光電変換層4,および透明導電層5を含んでいる。 【0013】・・・・ 【0014】・・・・ 【0015】実質的に多結晶の光電変換層4は、プラズマCVD法によって形成され得る。ここで、「実質的に多結晶」とは、完全な多結晶体を意味するのみならず、少量のアモルファスを含む多結晶体をも含むことを意味している。たとえば、光電変換層4は、体積結晶化分率80%以上の多結晶シリコンで形成され得る。多結晶光電変換層4として、n型層4n,i型層4i,およびp型層4pが順次堆積される。プラズマCVD条件としては、たとえば、0.01?5Torrの圧力と50?550℃の温度の範囲を利用することができる。また、n型層4nは、たとえばホスフィン,シラン,および水素を含む混合ガスを用いたプラズマCVD法によって形成され得る。次に、実質的に真性の半導体であるi型層4iは、導電型不純物を含まないシランガスと水素との混合ガスを用いたプラズマCVD法によって堆積される。さらにp型半導体層4pは、ジボラン,シラン,および水素を含む混合ガスを用いるプラズマCVD法によって堆積される。 【0016】・・・・ 【0017】多結晶光電変換層4は約0.5?20μmの範囲内の平均厚さに成長させられ、その自由表面4Sは微細な凹凸を含む表面テクスチャ構造を有している。これらの凹凸4Sは、V字状の溝または角錐を含み、光電変換層4の平均厚さの1/2より小さな範囲内で約0.05?3μmの高低差を有している。 【0018】多結晶光電変換層4上には、さらに、たとえばITO(インジウム錫酸化物)のような透明導電性酸化物(TCO)層5が透明電極として形成される。 【0019】図1に示されているような多結晶光電変換層4においては、光が凹凸表面4Sで屈折して斜め入射し、さらに界面3Sと凹凸表面4Sとの間で多重反射を起こすので、実効光学長が増大し、薄膜でありながら大きな光吸収量が得られる。界面4Sにおける凹凸の密度や高低差は多結晶光電変換層4のプラズマCVD条件(温度,圧力,ガス流量,高周波電力等)の調節によって制御することができ、これにより、光電変換層4内で優先的に散乱される光の波長を選択することも可能である。すなわち、長波長の光を多結晶光電変換層4内で優先的に散乱させることにより、特に長波長の光に関する光吸収量を増大させることができる。 【0020】ここで、光が空気側から固体媒質に入射する場合、光はその波長に近いサイズの表面凹凸構造との強い相互作用によって大きな散乱効果を生じる。シリコンのように高い屈折率nを有する媒質内では伝播する光の波長が1/nとなるので、光電変換層4の内部から界面3Sまたは凹凸表面4Sに到達した光がそこで強く散乱されて再び光電変換層4内に閉じ込められるための凹凸のサイズとして、空気中での光の波長を1/n倍したものに相当する範囲が好ましい。したがって、界面3Sおよび凹凸表面4Sにおける高低差は0.08?1μmの範囲内にあることがより好ましい。 【0021】また、多結晶シリコン薄膜の厚さがたとえば2μmの場合、入射光のうちで、そのシリコン薄膜の裏面まで到達してその裏面と表面との間の多重反射で閉じ込められる光は約500nm以上の波長を有するものである。他方、シリコンに吸収されて光電変換に実質的な寄与し得る光の波長は長波長側で約1000nmまでである。ここで、500?1000nmの波長域ではシリコン膜の屈折率nは約3.5であるので、光散乱が強くなるための表面テクスチャのさらに好ましい凹凸サイズは、その波長を1/n倍したものの約75?175%の範囲であって、すなわち0.1?0.5μmの範囲が最も好ましい。」 b.「【0035】 【発明の効果】以上のように、本発明によれば、光吸収係数、特に長波長領域における光吸収係数が改善された薄膜光電変換装置を提供することができ、その薄膜光電変換装置においては大きな短絡電流および高い開放電圧が得られるとともに、高い光電変換効率を得ることができる。」 上記a.及びb.によれば、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「ガラス基板1上に順次積層された下地導電層2、金属反射層3、多結晶光電変換層4、および透明導電層5を含んだ薄膜光電変換装置であって、 体積結晶化分率80%以上の多結晶シリコンで形成される多結晶光電変換層4として、n型層4n,i型層4i,およびp型層4pが順次堆積され、 多結晶光電変換層4は約0.5?20μmの範囲内の平均厚さに成長させられ、その自由表面4Sは微細な凹凸を含む表面テクスチャ構造を有し、これらの凹凸4Sは、V字状の溝または角錐を含み、光電変換層4の平均厚さの1/2より小さな範囲内で約0.05?3μmの高低差を有し、光が凹凸表面4Sで屈折して斜め入射し、さらに界面3Sと凹凸表面4Sとの間で多重反射を起こすので、実効光学長が増大し、薄膜でありながら大きな光吸収量が得られ、 多結晶シリコン薄膜の厚さがたとえば2μmの場合、入射光のうちで、そのシリコン薄膜の裏面まで到達してその裏面と表面との間の多重反射で閉じ込められる光は約500nm以上の波長を有するものであり、シリコンに吸収されて光電変換に実質的な寄与し得る光の波長は長波長側で約1000nmまでであり、ここで、500?1000nmの波長域ではシリコン膜の屈折率nは約3.5であるので、光散乱が強くなるための表面テクスチャのさらに好ましい凹凸サイズは、その波長を1/n倍したものの約75?175%の範囲であって、すなわち0.1?0.5μmの範囲が最も好ましい、光吸収係数、特に長波長領域における光吸収係数が改善された薄膜光電変換装置。」 3 対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1の「透明ガラス基板21」、「透明ガラス基板21の上側の表面」、「ITO」、「電極27」及び「薄膜半導体太陽電池」は、それぞれ、本願発明の「ガラス基板」、「ガラス基板の第1の主表面」、「透明導電性酸化物層」、「電極層」及び「薄膜光電変換装置」に相当する。 イ 引用発明1における 「透明ガラス基板21」は、下側にも表面を有することは明らかであり、該下側の表面は、本願発明の「(ガラス基板の)第2の主表面」に相当する。 ウ 引用発明1における「水素を含み高い濃度にドープされた非晶質Si薄膜(p型)23及び同じ導電型(p型)を有する多結晶Si薄膜24」、「i型多結晶Si薄膜25」及び「ドープされた多結晶Si薄膜(例えばn型)26」は、それぞれ、本願発明における「p型シリコン層」、「実質的に多結晶シリコンからなるi型の光電変換層」及び「n型シリコン層」に相当する。 エ 上記ウから、引用発明1の「ITOの上に形成された水素を含み高い濃度にドープされた非晶質Si薄膜(p型)23及び同じ導電型(p型)を有する多結晶Si薄膜24と、前記非晶質Si薄膜23及び多結晶Si薄膜24の上に形成されたi型多結晶Si薄膜25と、前記i型多結晶Si薄膜25の上に形成されたドープされた多結晶Si薄膜(例えばn型)26と」からなる部分が、本願発明の「『透明導電性酸化物層の上に形成されたp型シリコン層と、前記p型シリコン層の上に形成された実質的に多結晶シリコンからなるi型の光電変換層と、前記光電変換層の上に形成されたn型シリコン層とを含』む、『前記透明導電性酸化物層の上に形成された光電変換ユニット』」に相当する。 オ 引用発明1は、「ガラス基板側から入射した太陽光は主としてi型多結晶Si薄膜25のi層で吸収され電子と正孔対を数多く創り、正孔は電極22へ、電子は電極27へ向かつて拡散し、電圧を発生する、薄膜半導体太陽電池」であり、「(ガラス基板の)第2の主表面」(上記イ参照。)から太陽光が入射するのは明らかだから、引用発明1は、「ガラス基板の第2の主表面から光が入射されるタイプの薄膜光電変換装置」であるといえる。 カ 以上アないしオより、本願発明と引用発明1とは、 「第1と第2の主表面を有するガラス基板と、 前記ガラス基板の第1の主表面の上に形成された透明導電性酸化物層と、 前記透明導電性酸化物層の上に形成された光電変換ユニットと、 前記光電変換ユニットの上に形成された電極層とを備え、 前記光電変換ユニットは、 前記透明導電性酸化物層の上に形成されたp型シリコン層と、 前記p型シリコン層の上に形成された実質的に多結晶シリコンからなるi型の光電変換層と、 前記光電変換層の上に形成されたn型シリコン層とを含み、 前記ガラス基板の第2の主表面から光が入射されるタイプの薄膜光電変換装置」 で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> 透明導電性酸化物層とp型シリコン層との界面につき、本願発明は「前記透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以下の透過率を有する場合に0.1μm以上0.2μm以下の範囲内に設定された高低差を有する凹凸面を含み、前記透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率を有する場合に0.2μm以上0.5μm以下の範囲内に設定された高低差を有する凹凸面を含む」ものであるのに対し、引用発明1はそのようなものではない点。 4 判断 (1)上記相違点について検討する。 ア 引用発明1は、太陽光を「i型多結晶Si薄膜25のi層で吸収」し、「電子と正孔対を数多く創り、正孔は電極22へ、電子は電極27へ向かつて拡散し、電圧を発生する、薄膜半導体太陽電池」であるから、前記i層すなわち「i型の光電変換層」を含む「光電変換ユニット」(上記3エ参照。)を、太陽光の吸収をより大きくする構成とすべきことは、当業者には自明の技術的課題である。 イ しかるところ、引用発明2は、上記2(2)に記載のとおりのものであり、「『n型層4n,i型層4i,およびp型層4pが順次堆積され』『体積結晶化分率80%以上の多結晶シリコンで形成される多結晶光電変換層4』」は、本願発明における「『p型シリコン層と、前記p型シリコン層の上に形成された実質的に多結晶シリコンからなるi型の光電変換層と、前記光電変換層の上に形成されたn型シリコン層とを含』む『光電変換ユニット』」に相当する。 ウ そして、引用発明2は、「光電変換ユニット」の表面を「微細な凹凸を含む表面テクスチャ構造を有」するものとし、入射光を「『光電変換ユニット』をなすシリコン薄膜の裏面(界面3S)と表面(凹凸表面4S)との間の多重反射で閉じ込め」、それにより実効光学長を増大し、薄膜でありながら大きな光吸収量を得るものであると理解できる。 エ そうすると、引用発明1において、太陽光の吸収をより大きくするために、引用発明2の「光電変換ユニット」の「微細な凹凸を含む表面テクスチャ構造」を適用し、「(光電変換ユニットの太陽光の入射する面、すなわち、表面をなす)透明導電性酸化物層とp型シリコン層との界面」を凹凸面となすことは、当業者が容易になし得ることである。 オ その際、凹凸面の高低差を具体的にどのような大きさにするかは、光吸収量が大きくなるように当業者が適宜設定すべき設計的事項であり、引用発明2における「光散乱が強くなるための表面テクスチャのさらに好ましい凹凸サイズ」は、「500?1000nmの波長域ではシリコン膜の屈折率nは約3.5であるので、は、その波長を1/n倍したものの約75?175%の範囲であって、すなわち0.1?0.5μmの範囲」であるから、シリコン膜を用いた引用発明1においても、これと同程度の凹凸サイズすなわち凹凸面の高低差を0.1?0.5μmの範囲とすることに、格別の困難があるものとは認められない。 カ 他方、上記凹凸面の高低差につき、本願発明が「透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以下の透過率を有する場合に0.1μm以上0.2μm以下の範囲内に設定」及び「透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率を有する場合に0.2μm以上0.5μm以下の範囲内に設定」することの技術的意義について、本願明細書には以下の記載がある。 (ア)「【0009】 この発明の薄膜光電変換装置において、透明導電性酸化物層とp型シリコン層との界面は、0.2μm以下の範囲内の高低差を有する凹凸面を含むのが好ましい。 【0010】 特に、透過スペクトルから調べた、透明導電性酸化物層における光の吸収が顕著な場合、たとえば、長波長(1000nmの波長)における光の透過率が80%以下の場合、透明導電性酸化物層とp型シリコン層との界面での凹凸面の高低差を0.2μm以下の範囲内に限定することにより、光電変換に寄与しない光の吸収、すなわち寄生的な光の吸収を抑制することができる。このようにして、透明導電性酸化物層における光吸収が顕著な場合にも、表面テクスチャ構造として凹凸面の高低差を最適化することにより、光閉じ込め効果を増加させることができ、光電変換効率を改善することができる。 【0011】 なお、透明導電性酸化物層における光吸収が逆に小さい場合、たとえば、長波長(1000nmの波長)における光の透過率が80%を超える場合、透明導電性酸化物層とp型シリコン層との界面における凹凸面の高低差は0.5μm以下であれば、光電変換効率の改善に寄与する光閉じ込め効果を得ることができる。」 (イ)「【0030】 図2は、透明導電性酸化物層2の形成温度を変更することにより、光の透過率を適宜調整した3種類の透明導電性酸化物層a、b、cの透過特性を示すグラフである。このグラフにおいて、透明導電性酸化物層aは長波長(1000nmの波長)において80%以下の透過率を示し、それ以外の透明導電性酸化物層bとcは80%以上の透過率を長波長(1000nmの波長)において示す。 【0031】 図3は、図2に示される透明導電性酸化物層aを用いて、透明導電性酸化物層2とp型のシリコン層3p(図1を参照)との間の界面2Sにおける凹凸面の高低差(深さ)を種々変更することによって得られた光電変換装置の外部量子効率(単位なし)を示すグラフである。図3から明らかなように、凹凸面の高低差が0.5μmの透明導電性酸化物層a1では、600nmを超える長波長領域で分光感度が悪くなっているのに対し、凹凸面の高低差が0.2μmの透明導電性酸化物層a2、0.1μmの透明導電性酸化物層a3では、600nmを超えた長波長領域での分光感度は良好であることがわかる。この結果、透明導電性酸化物層における光吸収が顕著な場合、たとえば光の透過率が80%以下の場合(図2における曲線a)、透明導電性酸化物層2とp型シリコン層3pの界面2Sでは、凹凸面の高低差が0.2μm以下であれば、良好な分光感度を得ることができることがわかる。 【0032】 図4は、図1において透明導電性酸化物層の光吸収が小さい場合、たとえば長波長(1000nmの波長)での光透過率が80%以上の場合(図2の曲線bとc)について透明導電性酸化物層2とp型シリコン層3pとの界面2Sにおける凹凸面の高低差を変更することによって薄膜光電変換装置の外部量子効率を調べた結果を示している。図4から明らかなように、凹凸面の高低差が0.8μmの透明導電性酸化物層cのとき、曲線c2で示すように分光感度が悪くなっているのに対し、凹凸面の高低差が0.5μmの場合には、曲線c1で示すように分光感度が良好である。また、凹凸面の高低差が0.2μmの透明導電性酸化物層bの場合には、曲線bで示すように良好な分光感度が得られている。このことから、透明導電性酸化物層の吸収が小さい場合、凹凸面の高低差が0.5μm以下であれば、良好な分光感度を得ることができることがわかる。」 キ 上記カから、本願明細書には以下の事項が記載されていると認められる。 (ア)透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以下の透過率である図2の曲線aで示される透過特性を有し、凹凸面の高低差が0.5μmの場合、600nmを超える長波長領域で分光感度が悪いこと。 (イ)透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以下の透過率である図2の曲線aで示される透過特性を有し、凹凸面の高低差が0.2μm、0.1μmの場合、600nmを超えた長波長領域での分光感度は良好であること。 (ウ)透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率である図2の曲線cで示される透過特性を有し、凹凸面の高低差が0.8μmの場合、分光感度が悪くなること。 (エ)透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率である図2の曲線cで示される透過特性を有し、凹凸面の高低差が0.5μmの場合、分光感度が良好であること。 (オ)透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率である図2の曲線bで示される透過特性を有し、凹凸面の高低差が0.2μmの場合、分光感度が良好であること。 ク 上記キ(ア)ないし(オ)によれば、凹凸面の高低差が0.1μm、0.2μm、0.5μm及び0.8μmのとき、分光感度が良好なものと悪いものがあって、これらのうち、該高低差が0.1μmで透明導電性酸化物層の分光特性が図2の曲線aで表されるもの、該高低差が0.2μmで透明導電性酸化物層の分光特性が曲線aまたはbで表されるもの、及び、該高低差が0.5μmで透明導電性酸化物層の分光特性が曲線cで表されるものが、分光感度が良好であったことを示すものと理解される。 ケ しかし、本願明細書には、分光感度に対する「透明導電性酸化物層の1000nmの波長の光に関する透過率」及び「凹凸面の高低差」の一般的な相関関係が理解できるほどの実験例が記載されているとは認められない。まして、「透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以下の透過率を有する場合に0.1μm以上0.2μm以下の範囲内に設定」及び「透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率を有する場合に0.2μm以上0.5μm以下の範囲内に設定」することに格別の臨界的意義を認める記載があるものとは認められない。 コ してみると、本願発明における上記凹凸面の高低差を「透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以下の透過率を有する場合に0.1μm以上0.2μm以下の範囲内に設定」及び「透明導電性酸化物層が1000nmの波長の光に関して80%以上の透過率を有する場合に0.2μm以上0.5μm以下の範囲内に設定」することは、透明導電性酸化物層の光吸収量(ないし分光感度)が大きくなるように、透明導電性酸化物層の凹凸面の高低差を適宜設定し、その結果分光感度が良好になったものにおいて、そこに用いられた透明導電性酸化物層の分光特性が上記曲線a?cのいずれのものであったかを調べて、分類した結果を示すにとどまるものであって、設計的事項以上の技術的意義を生じるものということはできない。 サ 以上の検討によれば、引用発明1に引用発明2を適用し、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることというべきである。 5 むすび 以上の検討によれば、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-24 |
結審通知日 | 2009-08-25 |
審決日 | 2009-09-07 |
出願番号 | 特願平11-170964 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
三橋 健二 吉野 公夫 |
発明の名称 | 薄膜光電変換装置 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |