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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680137 審決 特許
無効2009800076 審決 特許
無効2009800243 審決 特許
無効200480156 審決 特許
無効200580069 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1205909
審判番号 無効2007-800196  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-18 
確定日 2009-10-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2812998号発明「胃炎治療剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2812998号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯、本件特許発明

本件特許第2812998号に係る発明(平成1年8月14日出願、平成10年8月7日設定登録。以下「本件特許発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものである。

「【請求項1】2-(4-クロルベンゾイルアミノ)-3-(2-キノロン-4-イル)プロピオン酸またはその塩を有効成分とする、胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療剤。」

2.請求人の主張

これに対して、請求人は、「特許第2812998号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、甲第1?15号証を提出し、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきであると主張した。なお、口頭審理に先立ち、請求人は、平成20年6月27日付け口頭審理陳述要領書、及び証拠方法として甲第16、17号証を提出した。

請求人の主張、及び証拠方法は以下のとおりである。

<請求人の主張>
(1)抗潰瘍活性がある成分であれば抗胃炎作用があることは容易に想到することができ、甲第1号証に2-(4-クロルベンゾイルアミノ)-3-(2-キノロン-4-イル)プロピオン酸(以下、「本件化合物」という場合がある。)が抗潰瘍活性を有することが記載されているから、本件化合物を胃炎治療剤として用いることは容易である。
(2)本件化合物がプロスタグランジンE_(2)(PGE_(2))量を増加させる作用を有する旨の記載があり(甲第1号証)、このことから本件化合物が抗胃炎作用を有することは容易に想到できる。
(3)本件化合物の抗胃炎作用は既存の胃炎治療薬の作用に比べて顕著でなく、本件化合物の効果が予測の範囲を超えるようなものとは認められない。

<請求人が提出した証拠方法>
甲第1号証:特開昭60-19767号公報
甲第2号証:特開昭57-59862号公報
甲第3号証:特開昭58-77814号公報
甲第4号証:特開昭61-50978号公報
甲第5号証:特開昭63-250322号公報
甲第6号証:医療薬日本医薬品集 財団法人日本医薬情報センター編 1987年版 370?371頁「ゲファルナート」 株式会社薬業時報社 1987年7月7日発行
甲第7号証:医療薬日本医薬品集 財団法人日本医薬情報センター編 1989年版 715?716頁「テプレノン」 株式会社薬業時報社 1989年7月15日発行
甲第8号証:医療薬日本医薬品集 財団法人日本医薬情報センター編 1989年版 613頁「ソファルコン」 株式会社薬業時報社 1989年7月15日発行
甲第9号証:医療薬日本医薬品集 財団法人日本医薬情報センター編 1987年版 865?866頁「塩酸ピレンゼピン」 株式会社薬業時報社 1987年7月7日発行
甲第10号証:医療薬日本医薬品集 財団法人日本医薬情報センター編 1984年版 441?442頁「塩酸セトラキサート」 株式会社薬業時報社 1984年7月25日発行
甲第11号証:医療薬日本医薬品集 財団法人日本医薬情報センター編 1989年版 498?499頁「シメチジン」 株式会社薬業時報社 1989年7月15日発行
甲第12号証:特開昭62-174020号公報
甲第13号証:日本薬理学雑誌 Vol.82 131?147頁 「Trimoprostil(Ro 21-6937),Trimethyl-propstaglandin E_(2),の抗消化性潰瘍ならびに胃粘膜保護作用について」 1983年
甲第14号証:医学と薬学 20巻 3号 845?856頁 「主として薬剤起因性の胃潰瘍および胃炎に対するArbaprostilの臨床効果」 1988年
甲第15号証:薬理と治療 Vol.13 No.5 2791?2795頁 「実験慢性胃炎に対するピレンゼピンの予防効果」 1985年
甲第16号証:平成18年(行ケ)第10271号判決(平成19年7月4日判決言渡)
甲第17号証:臨床成人病 第23巻 1631?1657頁 「急性胃粘膜病変に対するRebamipideの臨床評価-二重盲検法によるCimetidineとの比較検討-」 1993年

3.被請求人の主張

一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として乙第1?34号証を提出し、上記請求人の主張する無効理由は理由がない旨主張した。なお、口頭審理に先立ち、被請求人は、平成20年6月27日付け口頭審理陳述要領書、及び証拠方法として乙第35号証を提出した。

被請求人の主張(請求人の主張(1)、(3)に対するもの)、及び証拠方法は以下のとおりである。

<被請求人の主張>
(1)胃炎と消化性潰瘍に関しては、明らかに区別されるべき疾患であり、抗潰瘍活性が確認されたからといって、それが胃炎治療剤として有効であるとは必ずしもいえない。胃炎と胃潰瘍とでは、前者が胃粘膜の炎症性変化であるのに対し、後者は組織欠損状態である点において、病態的に異なるものである(乙第1号証)。胃潰瘍が胃炎を経由して発症するという定説もなく、潰瘍より重篤な胃炎が存在すること、胃炎の治療が潰瘍の予防になるという定説もないなどの客観的な見解もあり、胃炎と胃潰瘍とは胃粘膜の病変が全く異なるものであることは強く支持されている。
また、請求人は審判請求書の中で、抗潰瘍と抗胃炎を効能とする医薬品のみを例示してあたかも既存の抗潰瘍剤の大部分が胃炎治療剤としても効能が認められているかのように主張しているが、抗潰瘍剤であって、抗胃炎作用が認められていない医薬品は非常に沢山ある。そして、我が国の医薬品承認機関である厚生労働省においても、現に抗潰瘍剤と胃炎治療剤とは区別しており、それぞれ独立した臨床データに基づいて、抗潰瘍作用と抗胃炎作用のそれぞれについて承認を与えるものであり、決して抗潰瘍作用がある成分だからといって、データなしにその成分に抗胃炎作用があるという判断はしていない。
以上より、請求人の主張する抗潰瘍活性がある成分であれば抗胃炎作用があることは容易に想到することができるとする主張は全くの失当である。
(3)本件化合物の抗胃炎作用については、本件特許明細書に記載された薬理実験1および薬理実験2を実施し、薬理実験1にて塩酸・タウロコール酸による胃粘膜損傷のラットモデル(胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎モデル)で、顕著な胃粘膜炎症に対する抑制効果を示したことより確認されており、更に、審査段階で提示した既存の胃炎・胃潰瘍治療用医薬品「シメチジン」との比較実験で、シメチジンによる胃粘膜損傷の抑制率が2%であったのに対し、本件化合物は77%と顕著な胃粘膜損傷に対する抑制効果を示すことが証明されている(乙第1号証)。
更に本件化合物については、本件特許出願後、抗胃炎作用についてヒトにおいて他剤との二重盲検臨床試験で高次評価するなど通常医薬品申請において要求される臨床試験を実施し、顕著な有効性も証明され(乙第2、3、34号証)、これらの顕著な有効性のデータによって厚生労働省において胃炎治療に関する効能が認められたものである。

<被請求人が提出した証拠方法>
乙第1号証:特願平1-210504号(本件特許第2812998号に係る発明についての出願)の平成6年12月2日付意見書
乙第2号証:臨床成人病 第24巻 第8号 1111?1142頁 「急性胃粘膜病変に対するRebamipideの臨床評価-二重盲検法によるTeprenoneとの比較検討-」 1994年8月
乙第3号証:消化器内視鏡 Vol.11 No.4 621?628頁 「幽門側胃切除後残胃炎の病態と活性酸素消去作用を有するレバミピドの治療効果」 1999年
乙第4号証:不服平成7-5763(特願平1-210504号(本件特許第2812998号に係る発明についての出願)の拒絶査定に対する審判)の平成10年2月4日付上申書
乙第5号証:医薬品要覧第5版 大阪府病院薬剤師会編 834?857頁 薬業時報社
乙第6号証:日本医薬品集 医療薬 2007年版 株式会社じほう編 株式会社じほう 平成18年9月1日発行
乙第6-1号証:「アセグルタミドアルミニウム」 57頁
乙第6-2号証:「エグアレンナトリウム」 415?416頁
乙第6-3号証:「エンプロスチル」 532?533頁
乙第6-4号証:「オメプラゾール」 576?580頁
乙第6-5号証:「オルノプロスチル」 588頁
乙第6-6号証:「L-グルタミン」 738?739頁
乙第6-7号証:「リンゴ酸クレボプリド」 741?742頁
乙第6-8号証:「幼牛血液抽出物」 833?834頁
乙第6-9号証:「スルピリド」 1128?1131頁
乙第6-10号証:「ポラプレジンク」 2248?2249頁
乙第6-11号証:「ミソプロストール」 2312?2313頁
乙第6-12号証:「ラベプラゾールナトリウム」 2482?2483頁
乙第6-13号証:「ランソプラゾール」 2499?2503頁
乙第7号証:特開昭62-277329号公報
乙第8号証:特開昭63-30443号公報
乙第9号証:特開昭63-132830号公報
乙第10号証:特開昭63-196522号公報
乙第11号証:特開昭63-215629号公報
乙第12号証:特開昭63-218652号公報
乙第13号証:特開昭64-56616号公報
乙第14号証:特開昭64-66115号公報
乙第15号証:特開平1-93532号公報
乙第16号証:特開平1-139532号公報
乙第17号証:特開平1-149728号公報
乙第18号証:日本消化器病学会雑誌 84巻 10号 2307?2313頁 1987年
乙第19号証:交通医学 40巻 3号 143?148頁 1986年
乙第20号証:日本薬理学会雑誌 85巻 2号 25?26頁 1985年
乙第21号証:GASTROENTEROLOGY Vol.88 No.1 353?361頁 1985年
乙第22号証:不服平成7-5763(特願平1-210504号(本件特許第2812998号に係る発明についての出願)の拒絶査定に対する審判)の審尋書に対する平成8年11月26日付回答書
乙第23号証:疾患別薬理学 529?533頁 廣川書店 昭和64年2月15日発行
乙第24号証:BIO Clinica Vol.13 No.14 1289?1292頁 「胃の炎症と抗潰瘍剤「ムコスタ」」 1998年
乙第25号証:GASTROENTEROLOGY Vol.93 No.6 1276?1286頁 1987年
乙第26号証:日本薬理学会雑誌 122巻 2号 9頁 B-17 2003年
乙第27号証:Ulcer Research Vol.30 No.1 9?13頁 2003年
乙第28号証:The American Journal of Medicine Vol.84(suppl. 2A) 35?40頁 1988年
乙第29号証:Japanese Journal of Pharmacology Vol.65 305?312頁 1994年
乙第30号証:Hepato-gastroenterol. Vol.30 107-112頁 1983年
乙第31号証:Digestive Diseases and Sciences Vol.33 No.11 1435?1440頁 1988年11月
乙第32号証:Gastroenterologia Japonica Vol.22 No.3 285?291頁 1987年
乙第33号証:Digestive Diseases and Sciences Vol.31 No.12 1281?1286頁 1986年12月
乙第34号証:消化器病セミナー 83巻 145?156頁 「慢性胃炎の治療」 2001年6月
乙第35号証:小林絢三大阪市立大学名誉教授による意見書 1997年12月10日

4.甲第1?11号証、及び甲第15号証の記載事項

甲第1号証には、一般式(I)で表されるカルボスチリル誘導体(P2左下欄)、より具体的には、同一般式中の符号R1,R2=H、R3=OH、R4=COPh-pClであり、3位側鎖が-CH2=C-COR3(-NHR4)である場合の化合物について、実施例138、232にその化学構造式が、また製剤例2に、2-(4-クロルベンゾイルアミノ)-3-(2-キノロン-4-イル)プロピオン酸としてその化合物の名称が記載されている。また、同一般式で表される化合物が抗潰瘍作用を有し、例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの消化器系の潰瘍の治療剤として有用であること(P3右上欄最終行?左下欄第2行)、さらに、内因性プロスタグランジンE_(2)量を増加させる作用を有し、プロスタグランジンE_(2)に由来する薬効、例えば、潰瘍の予防および治療薬などとして有用であること(P3左下欄第6?10行)も記載されている。
また、前記製剤例2に記載される化合物を供試化合物No5とするラットを用いた胃潰瘍実験方法、当該方法に従い行われた同化合物の胃潰瘍治療率が38.5%であった旨が記載されている(P74右上欄第1行?左下欄)。
以上の記載から、甲第1号証には、「2-(4-クロルベンゾイルアミノ)-3-(2-キノロン-4-イル)プロピオン酸を有効成分とする胃潰瘍治療剤」(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

また、甲第2?11号証、及び甲第15号証には、以下の事項(a)?(p)が記載されている。

(a)「上記一群の新規化合物(審決注:一般式(I)で示される(式、符号の定義略)ピロリドンカルボン酸誘導体)は、急性及び慢性の実験潰瘍に対して、後期薬理試験に示すように優れた抑制効果を示し、臨床状、胃潰瘍、胃炎の治療剤として有用である。」(甲第2号証2頁右下欄13?17行)
(b)「本発明のスルホデヒドロアビエチン酸(I)もしくはその塩は、・・・優れた甲潰瘍作用を有するため、消化性潰瘍や胃炎のような胃腸病の治療及び予防に有用である」(甲第3号証6頁左下欄12?16行)
(c)「本発明の化合物(I)(審決注:一般式(I)で表わされる(式、符号の定義略)ピリジン誘導体またはその塩)は、強い胃炎分泌抑制作用と胃粘膜防禦作用とを併有し、その結果顕著な抗潰瘍作用を示し・・・従って本発明化合物(I)は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎などの予防並びに治療に有用である。」(甲第4号証8頁左上欄 発明の効果)
(d)「本発明の有効成分(審決注:一般式(I)で示される(式、符号の定義略)5-置換テトラゾールまたは 3-置換-α-アミノプロピオン酸、そのエステルまたは非毒性塩)は、抗潰瘍作用を有することが明らかであり、胃潰瘍、胃炎などの消化器系疾患の治療および予防に有効な消化器系疾患治療剤である。」(甲第5号証3頁右上欄下から2行?左下欄2行)
(e)ゲファルナートの適応について「a胃潰瘍、十二指腸潰瘍 b・・・次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、急性潰瘍)の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」(甲第6号証370頁中欄[適応])」
(f)ゲファルナートの薬効・薬理作用として「a抗胃粘膜病変作用:各種実験胃粘膜病変に対して治癒促進あるいは発生抑制作用を示す[・・・塩酸-タウロコール酸塩胃病変(ラット)・・・]」(甲第6号証370頁右欄[作用]A薬効薬理)
(g)テプレノンの適応について「a胃潰瘍 b次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」(甲第7号証715頁右欄[適応])
(h)ソファルコンの適応について「a次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期 b胃潰瘍」(甲第8号証613頁中欄[適応])
(i)ソファルコンの薬効・薬理作用として「b実験胃炎に対する作用:タウロコール酸ナトリウム ・・・によって引き起こされるラットの慢性萎縮性胃炎に対し治癒及び予防効果 … n胃組織プロスタグランジン量に対する作用:・・・ラットのタウロコール酸ナトリウム引起し胃炎で15-OHプロスタグランジン脱水素酵素活性の上昇とプロスタグランジン量の低下を抑制」(甲第8号証613頁中欄?右欄[作用] 1薬効薬理)
(j)塩酸ピレンゼピンの適応について「a次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、付着粘液)並びに消化器症状の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期 b胃潰瘍、十二指腸潰瘍」(甲第9号証865頁中欄[適応])
(k)塩酸ピレンゼピンの薬効・薬理作用として「(f実験的急性胃炎に対する効果:塩酸-タウロコール酸 ・・・ 投与時の胃粘膜損傷に対して抑制効果を示す(ラット) g実験的慢性胃炎に対する効果:タウロコール酸投与時の慢性(萎縮性)胃炎の発症に対して抑制効果を示す(ラット)」(甲第9号証865頁右欄[作用] 1薬効薬理)
(l)塩酸セトラキサートの適応について「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期。胃潰瘍」(甲第10号証442頁左欄[適応])
(m)塩酸セトラキサートの薬効・薬理作用として「a各種実験胃粘膜病変に対する作用:・・・セロトニン・タウロコール酸塩(胆汁酸塩)などによるラット実験急性胃炎.胃潰瘍、・・・で予防・治癒効果が認められている・・・ e粘膜内ペプシノーゲンの活性化抑制作用:・・・タウロコール酸塩(胆汁酸塩)投与時の粘膜障害時にみられる水素イオンの逆拡散を抑制することが認められている」(甲第10号証441頁塩酸セトラキサート中欄?右欄[作用] 1薬効薬理)
(n)シメチジンの適応について「a胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-E1lison症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃炎による) b次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期。」(甲第11号証498頁シメチジン左欄[適応])
(o)シメチジンの薬効・薬理作用として「b動物での作用 ア各種実験胃粘膜病変に対する作用:ラットの・・・ セロトニン一胆汁酸塩・・・等による胃粘膜病変に対する発生抑制又は治癒促進効果」(甲第11号証499頁左欄[作用] 1薬効薬理)
(p)「胆汁の胃内逆流が胃炎ひいては慢性萎縮性胃炎発生の原因の重要な因子であることはこれまでの多くの報告が示している。実験的にも胆汁によって試獣に胃炎を作成することでこれは証明されており、著者らも胆汁の一成分であるTCAをラットに投与することによって実験萎縮性胃炎を作成している。」(甲第15号証264頁右欄 III考察)

5.対比

そこで、本件特許発明と引用発明1とを対比すると、両者は、2-(4-クロルベンゾイルアミノ)-3-(2-キノロン-4-イル)プロピオン酸を有効成分とする医薬品である点で一致し、本件特許発明が胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療剤であるのに対し、引用発明は胃潰瘍治療剤である点で相違する。

6.当審の判断

そこで、上記相違点について以下検討する。

請求人が提出した甲第2号証?甲第11号証には、各々、ピロリドンカルボン酸誘導体、スルホデヒドロアビエチン酸、ピリジン誘導体、5-置換テトラゾールまたは3-置換-α-アミノプロピオン酸誘導体、ゲファルナート、テプレノン、ソファルコン、塩酸ピレンゼピン、塩酸セトラキサート、シメチジンが、胃潰瘍等の消化器性潰瘍の治療に有効であると同時に、胃炎の治療にも有効であることが記載されている。上記のうち、甲第6?11号証記載のものは、厚生労働省から承認を受けた医薬品である。(上記摘示事項(a)?(o))
そして、上記の胃潰瘍と同時に胃炎の治療にも有効である化合物は特定の化学構造や物理的性質を有するものに限定されるものではなく、種々の化学構造や物理的性質を有するものである。
また、甲第6号証、甲第8?11号証、及び甲第15号証に記載されているとおり(上記摘示事項(f)、(i)、(k)、(m)、(o)、(p))胃炎の主な原因の一つとして、胆汁の胃内への逆流が知られており、胃炎に対する薬理効果は、胆汁酸(タウロコール酸)投与により胃炎を発生させた実験胃炎モデルを用いて調べることが一般的である。
そうすると、胃潰瘍の治療に有効な化合物について、種々の化学構造や物理的性質を有する化合物が、胃炎の治療にも有効であることが知られており、胆汁酸の胃内への逆流は胃炎の主な原因の一つであり、胆汁酸投与により胃炎を発生させた実験胃炎モデルを用いて調べることが一般的であるから、引用発明の胃潰瘍治療剤について、胃炎の治療に有効であることを期待し、胆汁酸投与により胃炎を発生させた実験胃炎モデルを用いて調べ、胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療剤としての有効性を確認することは当業者が容易に着想し、実施し得ることである。
そして、本件特許明細書の記載からは、本件特許発明の効果が当業者が予想できないものとは認められない。
これに対して、被請求人は、胃炎と消化性潰瘍とは病態も成因も異なり、両者は明らかに区別されるべき疾患であり、抗潰瘍活性が確認された化合物だからといって、それが胃炎治療剤として有効であるとは必ずしもいえないと主張するが、上記の容易想到との判断は、胃炎と消化性潰瘍とが同じ疾患であるとか、胃潰瘍治療剤が必ず胃炎の治療に有効であるとかいうことを前提とするものではない。したがって、上記被請求人の主張は、上記容易想到との判断に影響するものではない。
さらに、被請求人は、抗潰瘍剤であっても、抗胃炎作用が認められていない医薬品や特許文献記載の化合物が多数存在すること(乙第5?17号証)、そして、厚生労働省においても、抗潰瘍剤と胃炎治療剤とを区別しており、各々独立した臨床データに基づいて、抗潰瘍剤、胃炎治療剤のそれぞれについて承認を与えるものであり、抗潰瘍作用がある成分であれば抗胃炎作用があることが容易に想到できるものとはいえないと主張する。
しかし、胃潰瘍と同時に胃炎の治療にも有効である化合物がたまたま一つ存在する、あるいは、特定の種類の化合物だけが胃潰瘍と同時に胃炎の治療にも有効であるというのではなく、胃潰瘍と同時に胃炎の治療にも有効である種々の化学構造や物理的性質を有するものが多数存在するのであるから、抗潰瘍剤であっても、抗胃炎作用が認められていない医薬品が多数存在するとしても、上記のとおり、当業者であれば、胃炎の治療に有効であることを期待し、薬理効果を確認することは、当業者が容易に着想し、実施し得ることである。
なお、承認を受けた医薬品(乙第5、6号証)が、胃炎治療剤としての承認を受けておらず、抗潰瘍剤としての承認のみが与えられていることをもって直ちに、事実としてそれら成分が胃炎治療作用を有しないと結論づけうるものではない。
また、被請求人は、本件化合物の抗胃炎作用については、本件特許明細書に記載された薬理実験1および薬理実験2を実施し、薬理実験1にて塩酸・タウロコール酸による胃粘膜損傷のラットモデル(胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎モデル)で、顕著な胃粘膜炎症に対する抑制効果を示したことより確認されており、更に、審査段階で提示した既存の胃炎・胃潰瘍治療用医薬品「シメチジン」との比較試験で、シメチジンによる胃粘膜損傷の抑制率が2%であったのに対し、本件化合物は77%と顕著な胃粘膜損傷に対する抑制効果を示すことが証明されていると主張する。
更に本件化合物については、本件特許出願後、抗胃炎作用についてヒトにおいて他剤との二重盲検臨床試験で高次評価するなど通常医薬品申請において要求される臨床試験を実施し、顕著な有効性も証明され(乙第2、3号証、及び乙第34号証)、これらの顕著な有効性のデータによって厚生労働省において胃炎治療に関する効能が認められたものであり、これらの追加データは、出願時の薬理実験で証明された本件化合物の薬理作用が確かであることをサポートするものであり、本件化合物の効能として抗胃炎治療(審決注:胃炎治療の誤記)を厚生労働省が認めるに値するほどの顕著な効果を有することを証明するものであるとも主張する。
そこで、これらの主張について検討する。
上記のとおり、引用発明の胃潰瘍治療剤が胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療効果があることは当業者が予想し得ることである。
そして、本願明細書に記載された薬理実験1及び薬理実験2を検討するに、胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療剤である本件特許発明の薬理実験といえるのは、薬理実験1だけである。薬理試験1と、塩酸・エタノールによる胃粘膜損傷に対する効果に関する薬理実験2とを対比しても、薬理実験1の有効成分の用量は薬理実験2のそれの10倍であって両者の用量は異なるから、両実験結果から、胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療剤である本件特許発明の効果が当業者の予想できないものであると認めることはできない。
また、シメチジン1種だけとの比較試験(乙第1号証)をもって、胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療剤である本件特許発明の効果が当業者の予想できないものであると認めることもできない。
そして、本件特許出願後の臨床試験データに基づき、厚生労働省において、本件化合物の効能として胃炎治療が認可されたとしても、そもそも、引用発明の胃潰瘍治療剤が胆汁酸の胃内への逆流に起因する胃炎の治療効果があることは当業者が予想し得ることであるし、さらに、胃潰瘍と同時に胃炎の治療にも有効であるとして認可された医薬品がすでに複数存在する(甲第6?11号証)のであるから、本件特許発明が当業者の予想し得ない効果を奏したものとすることはできない。
また、その他の被請求人が提出した証拠を精査しても、上記当審の判断に影響するものではない。

7.むすび

以上のとおりであるから、本件特許発明は、請求人のその余の主張を検討するまでもなく、甲第1?11号証、及び甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
 
審理終結日 2008-08-15 
結審通知日 2008-08-20 
審決日 2008-09-10 
出願番号 特願平1-210504
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A61K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 谷口 博
穴吹 智子
登録日 1998-08-07 
登録番号 特許第2812998号(P2812998)
発明の名称 胃炎治療剤  
代理人 品川 永敏  
代理人 葛和 清司  
代理人 高河原 芳子  
代理人 田村 恭生  
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