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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60Q
管理番号 1206123
審判番号 不服2008-11634  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-08 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 特願2002-353482号「車輌用制動灯制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 2日出願公開、特開2004-182148号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成14年12月 5日の特許出願であって、平成20年 4月 3日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年 5月 8日付けで本件審判請求がなされるとともに同年 6月 4日付けで手続補正(前置補正)がなされた。
一方、当審においても平成21年 6月 2日付けで拒絶理由を通知し、これに対して、応答期間内である同年 7月22日に意見書が提出されたところである。
そして、この出願の請求項1?3に係る発明は、上記平成20年 6月 4日に提出された手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
車輌の走行状況に基づき車輌の目標減速度を決定する手段と、車輌の実際の減速度を検出する手段と、車輌の実際の減速度が目標減速度になるように自動制動により車輌を減速させる制動装置を備えた車輌の制動灯制御装置であって、目標減速度が目標減速度基準値より大きく且つ実際の減速度が実減速度基準値より大きいときに制動灯を点灯させる制御手段とを有することを特徴とする車輌の制動灯制御装置。」

2.引用例とその記載事項
平成21年 6月 2日付け拒絶理由通知で引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-30791号公報(以下「引用例1」という。)には、「車両の走行制御装置」に関し、図面とともに以下の事項(ア)?(カ)が記載されている。

(ア)「【請求項1】 自車と自車前方の障害物との距離、及び自車の車速に基づき目標減速度を決定し、この目標減速度に基づいて減速手段を作動させ、上記目標減速度が所定減速度以上になったときは、自車後方に警報し、上記所定減速度は、車両の走行状態または走行環境を検出して、この走行状態または走行環境に応じて補正することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】 自車と自車前方の障害物との距離、及び自車の車速に基づき目標減速度を決定し、上記目標減速度に基づいて減速手段を作動させ、上記減速手段の作動によって自車の減速度が所定減速度以上になったときは、自車後方に警報し、上記所定減速度は、車両の走行状態または走行環境を検出して、この走行状態または走行環境に応じて補正することを特徴とする車両の走行制御装置。」

(イ)「【0006】具体的に、第1の発明は、自車と自車前方の障害物との距離、及び自車の車速に基づき目標減速度を決定し、この目標減速度に基づいて減速手段を作動させ、上記目標減速度が所定減速度以上になったときは、自車後方に警報する。そして、上記所定減速度を、車両の走行状態または走行環境を検出して、この走行状態または走行環境に応じて補正することを特定事項とするものである。
【0007】すなわち、自車前方の障害物と自車との間の距離を検出する検出手段、例えば障害物レーダ、具体的には、スキャン式のレーザレーダ、ミリ波レーダ、若しくは超音波レーダと、自車速を検出する車速センサと、この自車前方の障害物と自車との間の距離が所定距離以下にならないために必要な目標減速度を上記車間距離及び自車速に基づいて決定する目標減速度決定手段と、上記目標減速度になるように、例えばブレーキ装置、スロットルバルブ、あるいは変速機等の減速手段の制御を行う減速制御手段と、上記目標減速度が所定減速度以上であるときに自車後方への警報を行う、例えばブレーキランプなどの警報手段と、車両の走行状態または走行環境を検出する、例えば路車間通信情報、地図データと自車の現在位置検出手段とによるいわゆるナビゲーションシステムなどにより構成された走行状態・環境検出手段と、この走行状態・環境検出手段の検出結果に応じて上記所定減速度を補正する補正手段とを備えるものとする。
【0008】そして、上記第1の発明は、目標減速度が所定減速度よりも大きいか否かによって後方への警報を行うか否かを判定するようにしているが、第2の発明は、制動手段の作動による実際の減速度が、所定減速度よりも大きいか否かによって後方への警報を行うか否かの判定を行う点が、上記第1の発明とは異なる。
【0009】具体的に、第2の発明は、自車と自車前方の障害物との距離、及び自車の車速に基づき目標減速度を決定し、上記目標減速度に基づき自車に設けられた減速手段を作動させ、上記減速手段の作動によって自車の減速度が所定減速度以上になったときは、自車後方に警報する。そして、上記所定減速度を、車両の走行状態または走行環境を検出して、この走行状態または走行環境に応じて補正することを特定事項とするものである。」

(ウ)「【0103】そして、上記ステップS222においては、自車と先行車との車間距離、及び相対速度に基づき目標減速度Gtを設定するようにする。この目標減速度Gtは、例えばマップを用いて設定すればよく、このマップは、上記車間距離が短い程、あるいは相対速度が大きい程、減速度が大になるようなものとすればよい。そして、ステップS223に進む。
【0104】このステップS223においては、上記ステップS222において設定した目標減速度Gtに基づきスロットルバルブ、ECATコントロールユニット61、及び自動ブレーキの制御、つまり、減速制御を行うようにする。そして、リターンする。」

(エ)「【0136】上記ステップS79においては、シフトダウンは実行せずに、スロットルバルブの全閉と、ブレーキ装置の作動とを行うようにする。すなわち、目標減速度Gtからスロットルバルブ全閉による減速度Gemaxdを差し引いた減速度(Gt-Gemaxd)に応じたブレーキ力を求め、このブレーキ力になるようにアクチュエータ3を制御して自動ブレーキを実行し、これと同時に上記スロットルバルブの全閉を行うようにする。そして、目標減速度Gtを達成させて、リターンする。
【0137】一方、ステップS78においては、緊急度が高い場合であるから、必要な減速度を、確実かつ素早く得られるようにするため、スロットルバルブの全閉と、シフトダウンと、自動ブレーキとの3つを行うようにする。
【0138】すなわち、目標減速度Gtから、スロットルバルブの全閉による減速度Gemaxd、及びシフトダウン実行による減速度Gadを差し引いた減速度(Gt-Gemaxd-Gad)を求める。そして、この減速度(Gt-Gemaxd-Gad)に応じたブレーキ力を求め、このブレーキ力が得られるようにアクチュエータ3を制御して自動ブレーキを行う。このとき、スロットルバルブの制御と、ECATコントロールユニット61の制御と、自動ブレーキの制御は同時に行うようにする。そして、リターンする。」

(オ)「【0151】そして、このようにして設定した所定減速度Gt0に基づき、ステップS84においてステップS222において設定した目標減速度の値Gt(図8b参照)が上記所定減速度の値Gt0よりも小さいか否かを判定する。そして、目標減速度の値Gtが所定減速度の値Gt0よりも小さい場合は、ステップS85に進みブレーキランプ63を点灯させる。すなわち、上述したように、減速度の値はマイナスであることから、目標減速度の値Gtが所定減速度の値Gt0よりも小さい場合は、減速度としては、目標減速度の方が所定減速度よりも大きいことになる。このため、ステップS85に進み、ブレーキランプ63を点灯させて、後方に警報を行う。」

(カ)「【0153】このように、本実施形態によれば、減速に伴う後方への警報を適正に行うことができるようになり、これによって、後続車の運転者が気になったりすることを回避できる一方、追突などを効果的に防止することができるようになる。
<他の実施形態>なお、本発明は上記実施形態に限らず、その他種々の実施形態を包含するものである。すなわち、上記実施形態では、目標減速度Gtが所定減速度Gt0よりも小さいか否かで、ブレーキランプ63を点灯させるか否かの判定を行うようにしているが、これに限らず、例えばブレーキ装置の制御による実際の減速度に基づき判定を行うようにしてもよい。
【0154】すなわち、追従制御中の目標減速度Gtに基づく減速制御の場合に、ステップS84において(図18参照)、目標減速度Gt0ではなく、実際の減速度が上記目標減速度Gt0よりも小さくなれば、ブレーキランプ63を点灯させるようにしてもよい。この場合であっても、後方への警報を適正に行うことができるようになる。」

これらの記載からみて、上記引用例1には、
「自車と先行車の車間距離や相対速度に基づき自車の目標減速度を設定する手段、自車の実際の減速度を検出する手段と、自車の実際の減速度が目標減速度になるように自動ブレーキにより車輌を減速させる制動装置を備えた車輌のブレーキランプ制御装置であって、目標減速度が所定減速度以上であるとき、または、自車の減速度が所定減速度以上になったときにブレーキランプを点灯させる制御手段を有する車両のブレーキランプ制御装置」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

また、同拒絶理由通知で引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-215541号公報(以下「引用例2」という。)には、「車両用制動灯点灯制御装置」に関し、図面とともに以下の事項(キ)が記載されている。

(キ)「【0007】
【作用】本発明の作用について述べると、車両走行中においては車間距離検出手段、車速検出手段並びに減速度検出手段によって、常時後続車両と自車との実車間距離、自車速並びに自車の減速度が検出されている。そしてこれらの検出値が常に制御手段に入力される。制御手段では、これら入力される検出値のうちの自車速から、後続車両と自車との間に確保されるべき目標車間距離を算出設定する。そして特にこの制御手段は、自車の減速状態において、自車速が制御手段に予め設定されている設定車速以上であり、かつ実車間距離が現在の自車速に応じて設定された目標車間距離よりも短く、さらに減速度が制御手段に予め設定された設定減速度よりも大きいときに、後続車両に対して減速状態を知らせるべき条件が満されたと判定して自動的に、即ちブレーキ操作等とは独立して、制動灯を点灯制御する。」

そして、同拒絶理由通知で引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭54-8497号公報(以下「引用例3」という。)には、「エンジンブレーキ表示装置」に関し、図面とともに以下の事項(ケ)、(コ)が記載されている。

(ケ)「この発明は、第1図にブロック図で示す通り、自動車において、車速νが一定値νaを越えている間は作動状態にありその一定値νa以下になると不作動状態で安定する車速応動装置(1)と、開くと車速が増加し閉じると車速が減少する絞り弁が、閉じている間は作動状態にあり開くと不作動状態で安定する絞り応動装置(2)と、減速度即ち負の加速度(-dν/dt)が一定値aaを越えたときからその一定値aa以下に復帰後所定時間Δtを経過するまでの間は作動状態にありその後その次に前記一定値aaを越えるまでは不作動状態にある減速度応動装置(3)と、これら車速応動装置(1)、絞り応動装置(2)、減速度応動装置(3)の3者のうち2者以上が同時に作動状態にあることに起因して出力を生じる指令装置(4)と、指令装置(4)の出力を受ける間のみ点灯する点灯装置(5)とを有するエンジンブレーキ表示装置である。
点灯装置(5)としては、このエンジンブレーキ表示装置に専用のものの他に、ブレーキペダルに連動して点灯する本来のブレーキ表示装置の点灯装置(6)を兼用してもよい。」(第1ページ右欄第3行?第2ページ左上欄第3行)

(コ)「即ち、エンジンブレーキ操作をした時にその事を後続車に知らせる必要が真に存在する時に、自動的に表示装置を(5),(6)を点灯するから、追突を受けることを防止する効果が大きい。」(第3ページ左下欄第3行?第7行)

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「自車」及び「車両」は、本願発明の「車輌」に相当し、引用発明の「自動ブレーキ」、「ブレーキランプ」、「ブレーキランプ制御装置」は、それぞれ本願発明の「自動制動」、「制動灯」、「制動灯制御装置」に相当し、引用発明の「自車と先行車の車間距離や相対速度」、「自車の目標減速度を設定する手段」は、それぞれ本願発明の「車輌の走行状況」、「車輌の目標減速度を決定する手段」を意味し、引用発明の「目標減速度が所定減速度以上であるとき」、「自車の減速度が所定減速度以上であるとき」は、それぞれ本願発明の「目標減速度が目標減速度基準値よりも大き」いとき、「実際の減速度が実減速度基準値より大きいとき」を意味している。
そうすると、両者は、
「車輌の走行状況に基づき車輌の目標減速度を決定する手段と、車輌の実際の減速度を検出する手段と、車輌の実際の減速度が目標減速度になるように自動制動により車輌を減速させる制動装置を備えた車輌の制動灯制御装置であって、制動灯を点灯させる制御手段とを有する車輌の制動灯制御装置。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

<相違点>
制動灯を点灯させる条件が、本願発明では、「目標減速度が目標減速度基準値より大きく且つ実際の減速度が実減速度基準値より大きいとき」であるのに対して、引用発明では、目標減速度が目標減速度基準値より大きいとき、または、実際の減速度が実減速度基準値より大きいときである点。

4.相違点の検討
上記引用例2,3で例示されるように、「車輌の制動灯制御手段において、実際の減速度が実減速度基準値より大きいときという1つの条件を含む複数の条件が、同時に満足された場合にはじめて車輌の制動灯を点灯させる」ということは、出願前周知であるとともに、上記摘記事項(コ)によれば、上記複数の条件を同時に満たすことにより、「真に必要な場合に後続車に知らせる」という作用効果を奏することも知られている。
してみれば、上記引用発明に上記周知技術を適用し、目標減速度が目標減速度基準値より大きく且つ実際の減速度が実減速度基準値より大きいときに制動灯を点灯させることとする程度のことは、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明の作用効果については、上記引用発明及び上記周知技術から予測される程度のものであって格別のものとはいえない。

なお、請求人は、平成21年 7月22日付け意見書にて、本願発明は、「目標減速度が目標減速度基準値より大きく且つ実際の減速度が実減速度基準値より大きいときに制動灯を点灯させる」ことにより、「制動灯の不必要な点灯を防止しつつ制動灯を遅れなく点灯させる」という格別の作用効果を奏する旨の主張をしているが、本願発明においても「目標減速度が目標減速度基準値より大きく且つ実際の減速度が実減速度基準値より大きいとき」という2つの条件を同時に満たすことでは、後者の条件に起因して「実際の減速度が基準値よりも大きくならない限り制動灯が点灯されないため、特に急激な自動制動が行われるような状況において、後続車両に対する自動制動による減速の注意喚起が遅れるという問題」を解決することはできないことから、制動灯の不必要な点灯を防止するものの、制動灯を遅れなく点灯させるものとは認められない。

5.むすび
したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、上記引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-19 
結審通知日 2009-08-25 
審決日 2009-09-07 
出願番号 特願2002-353482(P2002-353482)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 信勝  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 金丸 治之
藤井 昇
発明の名称 車輌用制動灯制御装置  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  

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