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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1206124 |
審判番号 | 不服2008-11772 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-08 |
確定日 | 2009-10-29 |
事件の表示 | 特願2003-118764「定着装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日出願公開、特開2004-325665〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本願は、平成15年4月23日の出願であって、平成19年11月13日付けで通知された拒絶理由に対して、平成20年1月21日付けで手続補正書が提出されたものの、平成20年4月3日付けで拒絶査定がなされたものであり、これに対し、同年5月8日付けで査定不服の審判請求がなされるとともに、同年6月9日付けで手続補正がなされたものである。 さらに、平成20年6月26日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成21年4月1日付けで審尋がなされたところ、審判請求人から同年6月5日付けで回答書が提出されたものである。 [2]平成20年6月9日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年6月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正 本件補正は、特許請求の範囲において、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項2を以下のように補正しようとする補正事項を含むものである。 (補正前) 「 【請求項1】 内部に熱源を有する薄肉円筒の加熱ローラと一定の押圧力で加熱ローラに当接する加圧ローラとを有し、加圧ローラを加熱ローラに対して離接自在に支持する加圧機構を用いて該加圧ローラの離接動作を制御する制御手段を備え、印刷要求に基づく被加熱体の画像形成プロセスの定着工程に用いられる定着装置において、 前記制御手段は、電源がオンされた後に前記加圧ローラを前記加熱ローラから離間させた状態で前記加熱ローラを所定の温度まで昇温させるウォーミングアップ動作を実行し、前記印刷要求に係る画像形成プロセスの実行中にのみ前記加圧ローラが前記加熱ローラに当接するように前記加圧機構の動作を制御することを特徴とする定着装置。 【請求項2】 前記加圧機構は、前記加圧ローラを前記加熱ローラ側に付勢する弾性体、弾性体を支持する弾性体保持部、周面が弾性体保持部に対して弾性体の付勢方向に当接する偏芯カム、偏芯カムを回転駆動する駆動源、を備え、 前記制御手段は、前記駆動源を駆動して前記偏芯カムの短径部又は長径部を前記弾性体保持部に選択的に当接させることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。」 (補正後) 「 【請求項1】 内部に熱源を有する薄肉円筒の加熱ローラと一定の押圧力で加熱ローラに当接する加圧ローラとを有し、加圧ローラを加熱ローラに対して離接自在に支持する加圧機構を用いて該加圧ローラの離接動作を制御する制御手段を備え、印刷要求に基づく被加熱体の画像形成プロセスの定着工程に用いられる定着装置において、 前記制御手段は、電源がオンされた後に前記加圧ローラを前記加熱ローラから離間させた状態で前記加熱ローラを所定の温度まで昇温させるウォーミングアップ動作を実行し、前記印刷要求に係る画像形成プロセスの実行中にのみ前記加圧ローラが前記加熱ローラに当接するように前記加圧機構の動作を制御し、 前記加圧機構は、前記加圧ローラを前記加熱ローラ側に付勢する弾性体、前記弾性体を支持する弾性体保持部、周面が弾性体保持部に対して弾性体の付勢方向に下方から当接する偏芯カム、偏芯カムを回転駆動する駆動源、を備え、 前記制御手段は、前記駆動源を駆動して前記偏芯カムの短径部又は長径部を前記弾性体保持部に選択的に当接させて前記加圧ローラを前記加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させることを特徴とする定着装置。」 2. 補正後の請求項1の補正事項 本件補正の補正後の請求項1は、 補正前の請求項2記載の「前記加圧機構は、前記加圧ローラを前記加熱ローラ側に付勢する弾性体、弾性体を支持する弾性体保持部、周面が弾性体保持部に対して弾性体の付勢方向に当接する偏芯カム、偏芯カムを回転駆動する駆動源、を備え、」を 「前記加圧機構は、前記加圧ローラを前記加熱ローラ側に付勢する弾性体、前記弾性体を支持する弾性体保持部、周面が弾性体保持部に対して弾性体の付勢方向に下方から当接する偏芯カム、偏芯カムを回転駆動する駆動源、を備え、」に限定し、 補正前の請求項2記載の「前記制御手段は、前記駆動源を駆動して前記偏芯カムの短径部又は長径部を前記弾性体保持部に選択的に当接させる」を、 「前記制御手段は、前記駆動源を駆動して前記偏芯カムの短径部又は長径部を前記弾性体保持部に選択的に当接させて前記加圧ローラを前記加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させる」に限定するものであるから、 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 3. 補正後の請求項1に記載された発明(本願補正発明) そこで、本件補正後の請求項1に記載された次の発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 (本願補正発明) 「 内部に熱源を有する薄肉円筒の加熱ローラと一定の押圧力で加熱ローラに当接する加圧ローラとを有し、加圧ローラを加熱ローラに対して離接自在に支持する加圧機構を用いて該加圧ローラの離接動作を制御する制御手段を備え、印刷要求に基づく被加熱体の画像形成プロセスの定着工程に用いられる定着装置において、 前記制御手段は、電源がオンされた後に前記加圧ローラを前記加熱ローラから離間させた状態で前記加熱ローラを所定の温度まで昇温させるウォーミングアップ動作を実行し、前記印刷要求に係る画像形成プロセスの実行中にのみ前記加圧ローラが前記加熱ローラに当接するように前記加圧機構の動作を制御し、 前記加圧機構は、前記加圧ローラを前記加熱ローラ側に付勢する弾性体、前記弾性体を支持する弾性体保持部、周面が弾性体保持部に対して弾性体の付勢方向に下方から当接する偏芯カム、偏芯カムを回転駆動する駆動源、を備え、 前記制御手段は、前記駆動源を駆動して前記偏芯カムの短径部又は長径部を前記弾性体保持部に選択的に当接させて前記加圧ローラを前記加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させることを特徴とする定着装置。」 4. 引用刊行物 (1) 刊行物1 原審において、拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平8-220909号公報(原査定の引用文献1。以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (1a) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、画像形成装置、より詳細には、トナー像が転写された記録紙を加熱体(定着ロール)に所定の圧力下で接触させることにより、前記記録紙上のトナー像を該記録紙に定着する定着装置を備えた画像形成装置に関する。」 (1b) 「【0002】 【従来の技術】図8は、本発明が適用される画像形成装置の一例として説明するレーザプリンタの要部概略構成図で、周知のように、プリンタ70の用紙受け71にある記録用紙は、プリント命令により、用紙ピックアップローラ72によりプリンタ内部へ移動し、用紙が所定の位置へ来た時に、レーザ走査部73より送られて来たプリントデータに基いて、回転感光体ドラム74上にレーザ光を照射し、感光体74上の表面電位レベルを前記データに基いて変化させ、該感光体74上に潜像を形成し、次いで、現像器75により、感光体74上にトナーを付着させてトナー像を形成する。感光体74は、さらに回転し、転写器76により、前述のごとくして送り込まれた用紙上にトナー像を転写する。用紙はさらに送り込まれ、該用紙上に転写されたトナー像は、定着器77において、定着ロール(ヒートロール)と、該定着ロールに接離可能に圧接される圧接ロール(バックアップロール)に挟持されて移送され、その間に、前記トナーが用紙上に定着され、排紙ローラ78によりプリンタ70の外部へ排出される。」 (1c) 「【0003】図9は、上述のごとき定着器の概要を説明するための概略図で、図中、81は薄肉のアルミ基材にトナーとの離型性が良好なPTFE,PFA等のフッ素樹脂をコートした定着(ヒート)ロール、82は上記ヒートロールの熱源となっているハロゲンランプ、83はステンレス等の中実丸棒の表面にシリコン等の耐熱性のゴム層を施したバックアップロール(圧接ロール)、84はバックアップロール83を上下させるための移動機構部材で、支点85を中心に上下に移動できるようになっている。86は他駆動源からの動力で回転し、バックアップロール83を上下に移動させるカムで、このカム86を回転軸87を中心に回転させることにより、バックアップロール83を上下動させ、ヒートロール81に圧接させ、或いは、ヒートロール81から離脱させる。」 (1d) 「【0004】電子写真プロセスを用いた複写機及びプリンタ等においては、上述のような構成をとることにより、通紙時には、カム86を矢印A方向に半回転させて、バックアップロール83を矢印B方向に移動させ、該バックアップロール83をヒートロール81に圧接させる。また、非通紙時には、カム86をさらに半回転させて図9の位置に戻すことにより、ヒートロール81とバックアップロール83との圧接を解除するようにしている。あるいは、カム86の代わりに、ソレノイドに通電し、該ソレノイドの電磁力の作用で鉄芯を移動させ、バックアップロール83をヒートロール81に圧接あるいは解除するようにしている。」 (1e) 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】而して、前記バックアップロール83の表面層に、用紙の搬送性、耐熱性、材料強度等を考慮し、ソリッドシリコンゴム等のJIS A ゴム硬度30?70度程度のものを使用していたため、ヒートロール81とバックアップロール83の接触によって形成されるニップ幅が小さいという問題点があった。また、バックアップロール83にソリッドシリコンゴムを用いた場合は、熱伝導率が小さいため、ウォームアップにかかる時間が大変長いという問題点もあった。そこで、ニップ幅を大きくし、ウォームアップ時間を短縮するため、発泡系ゴム等のアスカCゴム硬度20?50度程度を用いたが、その場合、ヒートロールとバックアップロールが、常時接触し、バックアップロールに大きな圧力(?2Kgf程度)がかかっているため、発泡系ゴムの永久変形が発生するという問題があった。本発明は、以上の問題点に鑑み、バックアップロールに発泡系ゴム材料を用いた場合でも、永久変形が生じることがなく、特別に動力源を設けることなくバックアップロールの圧接、解除ができる機構を安価に提供することを目的としてなされたものである。」 (1f)図9として、 「 」 これら記載によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。 (刊行物1発明) 「 薄肉のアルミ基材にトナーとの離型性が良好なPTFE,PFA等のフッ素樹脂をコートした定着(ヒート)ロール81と、 ヒートロール81の熱源となっているハロゲンランプ82と、 ステンレス等の中実丸棒の表面にシリコン等の耐熱性のゴム層を施したバックアップロール(圧接ロール)83と、 バックアップロール83を上下動させ、ヒートロール81に圧接させ、或いは、ヒートロール81から離脱させる、移動機構と、を備え、 プリント命令により、用紙受け71にある記録用紙が、用紙ピックアップローラ72によりプリンタ内部へ移動するようになっている、レーザプリンタ70において用いられる、 定着器77において、 移動機構は、支点85を中心に上下に移動できるようになっている、移動機構部材84と、他駆動源からの動力で回転し、バックアップロール83を上下に移動させるカム86と、を備え 通紙時には、カム86を半回転させて、バックアップロール83を矢印B方向に移動させ、該バックアップロール83をヒートロール81に圧接させ、また、非通紙時には、カム86をさらに半回転させてもとの位置に戻すことにより、ヒートロール81とバックアップロール83との圧接を解除するようにしている、定着器77。」 (2) 刊行物2 原審において、拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平10-293497号公報(原査定の引用文献2。以下「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (2a) 「【0011】図1は本発明の定着装置の構成の一例を示す部分断面図である。図において、10及び20は一対の定着用回転体である加熱ローラ及び加圧ローラ、15はクリーニングローラ、16はオイル塗布ローラである。 【0012】加熱ローラ10の内側芯部にはハロゲンランプ等からなる加熱ヒータ11が設けられている。加熱ローラ10の周囲温度は不図示のサーミスタなどからなる温度センサにより検知され、この検知信号によって制御されて所定の温度範囲内に保持される。 【0013】加熱ローラ10は、薄肉の金属円筒12の外周を30μmのフッ素樹脂でコーティングした表面層13を有する外径60mmのハードローラである。 【0014】加圧ローラ20は芯金21の周囲に、例えばゴム厚10mm、ゴム硬度アスカーC55度のゴム等の弾性体から成る弾性体層22を設け、その外周を厚み50μmのフッ素樹脂チューブをもって被覆、あるいはフッ素樹脂をコーティングして成る表面層23を有する外径65mmのソフトローラである。 【0015】加圧ローラ20は定着時後述する付勢部材であるバネ54によって加熱ローラ10に90kgfで圧着され弾性体層22の弾性変形によって圧着面に圧着部Nを形成している。このときの圧着部Nの長さは面圧やローラ表面の硬度によっても異なるがほぼ10.5mmになっている。加熱ローラ10は周速350?410(mm/sec)で反時計方向に回転し、加圧ローラ20は加熱ローラ10に圧着して従動回転する。」 (2b) 「【0018】本発明の定着装置では、電源OFFの停止時には加圧ローラ20は加熱ローラ10に対して離間した状態にあり、電源ONの状態では加圧ローラ20は加熱ローラ10に対して圧着状態にあるが、この圧着荷重は、正規荷重と軽荷重の2段階に切替え可能の構造となっている。この構造の一実施形態について説明する。 【0019】40は加圧ローラ20の加熱ローラ10に対する圧着荷重を変更可能にした加圧変更手段で、41は装置の側壁に植設された支軸42を中心に回動可能に設けた回動基板、43は回動基板41に植設したストッパピン、44は装置の側壁に固設した引き上げ部材であるプランジャ型のソレノイド、44aはソレノイド44のプランジャ、45は回動基板41を引き下げ方向に作用する引張りバネ、46,47は装置側壁の植設したピンでピン46は引張りバネ45の一端を係止するピン、ピン47は回動基板41が引張りバネ45によって引き下げられたときその先端部41aが突き当たって回動基板41の時計方向への回動を停止させるストッパピンである。51は装置の側壁に植設された支軸52を中心に回動可能に設けられた、加圧ローラ20の芯金21両端の軸受け部を支持する作動板、53は回動基板41に植設した支軸56中心に回動可能に設けたバネ受けアーム、54は作動板51の先端部51aとバネ受けアーム53との間に設けた圧縮バネ、55はモータ等の回転部材によって180°づつ回転し図に示す実線又は2点鎖線で示す姿勢に回転位置する偏心カムである。なお、回動基板41及び作動板51は加圧ローラ20の両端に対称的に設けられるが、両端にある作動板51の2者が剛性材で一体に形成される時は回動基板41とそれに付属する部分については一端にのみ設けて構造を簡単にすることができる。」 (2c) 「【0020】次に加圧変更手段40の動作について図1により説明する。 【0021】前記定着装置を備えた画像形成装置の電源がONになると、ソレノイド44は通電される。この通電によりソレノイド44はプランジャ44aをそのフランジ部がソレノイド44本体に当接するまで引張りバネ45の力に抗して吸引し、回動基板41を図1に示す加圧ローラ20が加熱ローラ10に圧接した状態まで引き上げる。画像形成装置のウォームアップ中又は待機時は、図示しない制御部の制御によって偏心カム55は2点鎖線で示す位置に停止している。従って、バネ受けアーム53は図の2点鎖線で示す下方に下がった状態になり、圧縮バネ54による加圧ローラ20の加熱ローラ10への圧着荷重は軽荷重状態になる。画像形成が開始され定着装置の定着動作時には制御部の制御により偏心カム55は実線で示す位置に回転され、バネ受けアーム53は図の実線で示す上方に上がった状態になり、圧縮バネ54は圧縮されて圧縮バネ54による加圧ローラ20の加熱ローラ10への圧着荷重は先の軽荷重状態より大きな正規の荷重状態になる。また電源がOFFとなるとソレノイド44の通電もOFFとなりソレノイド44はプランジャ44aを解放し、回動基板41は引張りバネ45により回動基板41の先端部41aがストッパピン47に当接するまで図の下方に引き下げられる。これにより回動基板41に設けたピン43は作動板51の先端部51aを押し下げることとなる。従って、作動板51の反時計方向への回動に伴って加圧ローラ20の軸受けは押し下げられ、加圧ローラ20は加熱ローラ10から離間した状態となる。これにより、画像形成装置の電源がOFFとなっている間、加圧ローラ20の加熱ローラ10への圧着荷重は0となるので加圧ローラ20の変形は避けられて、軸受けの寿命もさらに延長することができる。 【0022】なお、ソレノイド44には、通電によりプランジャ44aを吸引したのちラッチ部材が作動しプランジャ44aを吸引した状態に保持した後ソレノイド44への通電をOFFとし、また電源をOFFとする信号が発生すると上記ラッチ部材が解除され引張りバネ45により回動基板41が引き下げされてから電源をOFFとするラッチ機構が設けられることが好ましい。これにより電力の無用な消費と通電による無用な発熱を防止できる。」 (2d) 「【0023】本発明者らがテストした結果、前記定着装置において、完全に定着を行うためには加圧ローラ20の加熱ローラ10への圧着荷重(加圧ローラ20の両端の荷重の和)は90kgfあればよいことが判明した。また、通常のウォームアップにより加熱ローラ10の表面温度が200°に達するとき加圧ローラ20の表面温度が150?160°になるには圧着荷重は5?20kgfの間にあって従動回転がなされる状態にあればよいことが判明した。 【0024】圧着荷重が90kgfの場合の加圧ローラ20の弾性体及び軸受けの寿命は35万コピーであるが、ウォームアップ時及び待機時の圧着荷重を15kgfにすると上記寿命は45万コピーに延長することが判明した。 【0025】また、本発明によるときも連続コピーを行った場合の加圧ローラ20の表面温度は、トナー画像担持体であるシートPに熱を奪われるため図3のグラフに示すように初期の温度160℃から次第に低下する。しかしコピースタートより数百コピーまではシートPのカール低減効果が十分あることが判明した。図3のグラフは連続コピー時のグラフであって、途中に休止状態がある場合には加圧ローラ20の表面温度は160℃に復帰する。 【0026】以上のテスト結果より、本実施形態の定着装置で加圧ローラ20の加熱ローラ10への圧着荷重は、定着動作時の正規荷重は90kgf、待機中の軽荷重は20kgf以下、好ましくは5?15kgfとするのが適当である。但しこの値は定着装置によりそれぞれ実験的に求められる値である。」 (2e)図1として、 「 」 5.本願補正発明と刊行物1発明との対比 ここで、本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。 刊行物1発明の「ハロゲンランプ82」を熱源として有する「定着(ヒート)ロール81」は、本願補正発明の「内部に熱源を有する薄肉円筒の加熱ローラ」に相当する。 刊行物1発明の「ステンレス等の中実丸棒の表面にシリコン等の耐熱性のゴム層を施したバックアップロール(圧接ロール)83」は、本願補正発明の「一定の押圧力で加熱ローラに当接する加圧ローラ」に相当する。 刊行物1発明の「ヒートロール81に圧接させ、或いは、ヒートロール81から離脱させる、移動機構」は、本願補正発明の「加圧ローラを加熱ローラに対して離接自在に支持する加圧機構」に相当し、また、刊行物1発明において、「移動機構」は、バックアップロール83を上下動させる動作を、制御手段により行うことは明らかである。 刊行物1発明において「通紙時には、該バックアップロール83をヒートロール81に圧接させ、非通紙時には、ヒートロール81とバックアップロール83との圧接を解除するようにしている」ことは、本願補正発明の「前記印刷要求に係る画像形成プロセスの実行中にのみ前記加圧ローラが前記加熱ローラに当接するように前記加圧機構の動作を制御」することに相当する。 刊行物1発明の「プリント命令により、用紙受け71にある記録用紙が、用紙ピックアップローラ72によりプリンタ内部へ移動するようになっている、レーザプリンタ70において用いられる、定着器77」は、本願補正発明の「印刷要求に基づく被加熱体の画像形成プロセスの定着工程に用いられる定着装置」に相当する。 刊行物1発明の「カム86」は、本願補正発明の「偏芯カム」に相当する。 刊行物1発明の「他駆動源」は、本願補正発明の「偏芯カムを回転駆動する駆動源」に相当する。 刊行物1発明の「移動機構」と、本願補正発明の「加圧機構」とは、 「偏芯カム」、「偏芯カムを回転駆動する駆動源」とを備える点で共通する。 刊行物1発明の「移動機構」の上下動を制御する制御手段と、本願補正発明の「制御手段」とは、 前記駆動源を駆動して「前記偏芯カムの短径部又は長径部」を、「選択的に当接」させて「前記加圧ローラを前記加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させる」点で共通する。 そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。 [一致点] 「 内部に熱源を有する薄肉円筒の加熱ローラと一定の押圧力で加熱ローラに当接する加圧ローラとを有し、加圧ローラを加熱ローラに対して離接自在に支持する加圧機構を用いて該加圧ローラの離接動作を制御する制御手段を備え、印刷要求に基づく被加熱体の画像形成プロセスの定着工程に用いられる定着装置において、 前記制御手段は、 前記印刷要求に係る画像形成プロセスの実行中にのみ前記加圧ローラが前記加熱ローラに当接するように前記加圧機構の動作を制御し、 前記加圧機構は、 偏芯カム、偏芯カムを回転駆動する駆動源、を備え、 前記制御手段は、前記駆動源を駆動して前記偏芯カムの短径部又は長径部を選択的に当接させて、前記加圧ローラを前記加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させることを特徴とする定着装置。」 [相違点] (相違点1) 制御手段について 本願補正発明では、「電源がオンされた後に加圧ローラを加熱ローラから離間させた状態で加熱ローラを所定の温度まで昇温させるウォーミングアップ動作を実行」するのに対し、 刊行物1発明では、ウォーミングアップ動作についての特定がない点。 (相違点2) 加圧機構について 本願補正発明では、加圧機構が、「加圧ローラを加熱ローラ側に付勢する弾性体」、「弾性体を支持する弾性体保持部」、「周面が弾性体保持部に対して弾性体の付勢方向に下方から当接する偏芯カム」を備える、のに対し、 刊行物1発明では、加圧機構(移動機構)が、「加圧ローラを加熱ローラ側に付勢する弾性体」、「弾性体を支持する弾性体保持部」を備えるものでなく、また、刊行物1発明の「偏芯カム(カム86)」は「弾性体を支持する弾性体保持部」に当接するものではない点 6. 相違点についての検討 そこで、これらの相違点について、以下検討する。 (1) 相違点1について 内部に熱源を有する薄肉円筒の加熱ローラと一定の押圧力で加熱ローラに当接する加圧ローラとを有する、定着装置において、「電源がオンされた後に前記加圧ローラを前記加熱ローラから離間させた状態で前記加熱ローラを所定の温度まで昇温させるウォーミングアップ動作を実行」し、ウォーミングアップ時間を短縮することは、例えば、特開2003-15457号公報(段落【0009】参照)、特開平11-15322号公報(段落【0036】参照)、特開平5-241464号公報(段落【0021】参照)等に例示されているように周知である。 そうすると、刊行物1発明において、本願補正発明のように、「電源がオンされた後に加圧ローラを加熱ローラから離間させた状態で加熱ローラを所定の温度まで昇温させるウォーミングアップ動作を実行」することは、当業者が格別の創意を要することではない。 (2) 相違点2について 刊行物2には、電源OFFの停止時には加圧ローラ20は加熱ローラ10に対して離間した状態にあり、電源ONの状態では加圧ローラ20は加熱ローラ10に対して圧着状態にあるが、この圧着荷重は、正規荷重と軽荷重の2段階に切替え可能の構造となっている、定着装置が記載されている(前記(2b)参照)。 画像形成装置のウォームアップ中又は待機時には、図示しない制御部の制御によって偏心カム55は2点鎖線で示す位置に停止していて、バネ受けアーム53は図の2点鎖線で示す下方に下がった状態になり、圧縮バネ54による加圧ローラ20の加熱ローラ10への圧着荷重は軽荷重状態になる(前記(2c)参照)。 画像形成が開始される、定着装置の定着動作時には、制御部の制御により偏心カム55は実線で示す位置に回転され、バネ受けアーム53は図の実線で示す上方に上がった状態になり、圧縮バネ54は圧縮されて圧縮バネ54による加圧ローラ20の加熱ローラ10への圧着荷重は先の軽荷重状態より大きな正規の荷重状態になる(前記(2c)参照)。 偏心カム55は、モータ等の回転部材によって180°ずつ回転し図1に示す実線又は2点鎖線で示す姿勢に回転位置する偏心カムである(前記(2b)(2e)参照)。 この刊行物2に記載の定着装置において、正規荷重と軽荷重の2段階切替え機構は、 画像形成装置のウォームアップ中又は待機時には、偏心カム55は、2点鎖線で示す位置に停止していて(偏心カム55の短径部が、バネ受けアーム53に当接していて)、バネ受けアーム53は図の2点鎖線で示す下方に下がった状態になるように(加圧ローラ20が圧縮バネ54により下方に下がった状態になるように)、制御されるものであり、加圧ローラ20と加熱ローラ10との圧着状態が軽荷重状態になり、 画像形成が開始され定着装置の定着動作時には、制御部の制御により偏心カム55は実線で示す位置に回転され(偏心カム55の長径部が、バネ受けアーム53に当接していて)、バネ受けアーム53は図の実線で示す上方に上がった状態になるように(加圧ローラ20が圧縮バネ54により上方に上がった状態になるように)、制御されるものであり、加圧ローラ20と加熱ローラ10との圧着状態が正規の荷重状態になる、ものである。 そうすると、刊行物2に記載の定着装置における、加圧ローラ20の加熱ローラ10方向への移動機構としては、 加圧ローラを加熱ローラ側に付勢する圧縮バネ54、 圧縮バネ54支持するバネ受けアーム53、 周面がバネ受けアーム53に対して圧縮バネ54の付勢方向に下方から当接する偏芯カム55、 偏芯カム55を回転駆動するモータ等の回転部材、 を備えるものである。 そして、刊行物2の定着装置における、この移動機構の制御手段として、 モータ等の回転部材を駆動して、偏芯カム55の短径部又は長径部をバネ受けアーム53に選択的に当接させて、加圧ローラを加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させる、制御手段を備えるものである。 したがって、刊行物1発明における、移動機構に代えて、 本願補正発明のような、「加圧ローラを加熱ローラ側に付勢する弾性体、弾性体を支持する弾性体保持部、周面が弾性体保持部に対して弾性体の付勢方向に下方から当接する偏芯カム、偏芯カムを回転駆動する駆動源、」を備える、加圧機構を採用するとともに、 刊行物1発明における、移動機構の制御に代えて、 前記駆動源を駆動して前記偏芯カムの短径部又は長径部を前記弾性体保持部に選択的に当接させて前記加圧ローラを前記加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させる、制御手段を採用する程度のことは、 当業者が格別の創意を要することではない。 (3) 効果 そして、全体として、本願補正発明によってもたらされる効果は、刊行物1?刊行物2の記載事項、及び、周知技術、から当業者であれば予測し得る程度のことであって、格別のものではない。 (4) 相違点についての検討結果 以上のとおりであるから、本願補正発明は、刊行物1?2に記載の発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 7. 本件補正についての検討結果 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 8. むすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [3]本願発明について 1.本願の請求項1に係る発明 平成20年6月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年1月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。 「 【請求項1】 内部に熱源を有する薄肉円筒の加熱ローラと一定の押圧力で加熱ローラに当接する加圧ローラとを有し、加圧ローラを加熱ローラに対して離接自在に支持する加圧機構を用いて該加圧ローラの離接動作を制御する制御手段を備え、印刷要求に基づく被加熱体の画像形成プロセスの定着工程に用いられる定着装置において、 前記制御手段は、電源がオンされた後に前記加圧ローラを前記加熱ローラから離間させた状態で前記加熱ローラを所定の温度まで昇温させるウォーミングアップ動作を実行し、前記印刷要求に係る画像形成プロセスの実行中にのみ前記加圧ローラが前記加熱ローラに当接するように前記加圧機構の動作を制御することを特徴とする定着装置。」 2.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平8-220909号公報(原査定の引用文献1。以下「刊行物1」という。)の記載事項は、前記「[2]4.(1)」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明1は、本願補正発明(前記「[2]3.」参照)の、補正前の請求項の「加圧機構」「制御手段」の構成事項を省き、 さらに、 弾性体の付勢方向に「下方から」当接するという限定事項、 「前記加圧ローラを前記加熱ローラに対して離間する位置と弾性的に当接する位置との間に移動させる」という限定事項 を省いたものに相当する。 本願発明1と刊行物1発明を対比すると、前記「[2]5.」で示した相違点1と同様の点で相違する。 しかしながら、刊行物1発明において、これらの相違点1に係る本願発明1のごとくなすことは、本願補正発明の相違点1について示したのと同様の判断理由により(前記「[2]6.参照」)、当業者が容易になし得ることである。 したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび よって、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-20 |
結審通知日 | 2009-08-25 |
審決日 | 2009-09-07 |
出願番号 | 特願2003-118764(P2003-118764) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G) P 1 8・ 121- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村上 勝見 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
紀本 孝 一宮 誠 |
発明の名称 | 定着装置 |
代理人 | 小森 久夫 |
代理人 | 小澤 壯夫 |
代理人 | 特許業務法人 楓国際特許事務所 |