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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1206137
審判番号 不服2008-24687  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-25 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 特願2006-181721号「乗員保護装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月17日出願公開、特開2008- 7036号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年 6月30日の特許出願であって、平成20年 8月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年 9月25日付けで本件審判請求がなされるとともに、同年10月22日付けで手続補正(前置補正)がなされたものである。

II.平成20年10月22日付けの手続補正の却下
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
車両用シートの座部に収納され、車両の衝突時に少なくとも前記座部の着座領域にて膨張してクッション体を上方へ押圧するバッグと、当該バッグを膨張させるか否かを制御する制御手段を備えた乗員保護装置において、
前記車両用シートに着座する乗員の腰部の一方側から水平方向に腰部の前を経由して他方側に架け渡されて乗員を当該車両用シートに拘束するラップベルト部を有するシートベルトと、
前記シートベルトが前記車両用シートに着座する乗員を拘束しているか否かを判定する判定手段とを備え、
前記制御手段は、前記車両の衝突時又は衝突予測時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張させるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグを膨張させないように制御し、
前記座部の前部には収容凹部が設けられるとともに該収容凹部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容され、前記バッグには前方側から後方側へ向かって前記ガスが送られて、前記バッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部に相当する前記クッション体の領域を押圧することを特徴とする乗員保護装置。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記車両用シートに着座する乗員を当該車両用シートに拘束するシートベルト」を「前記車両用シートに着座する乗員の腰部の一方側から水平方向に腰部の前を経由して他方側に架け渡されて乗員を当該車両用シートに拘束するラップベルト部を有するシートベルト」と、また、「バッグ」を「バッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部に相当する前記クッション体の領域を押圧する」とそれぞれ限定するものであって、この限定した事項は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されており、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
原査定の平成20年 4月28日付けの拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-239872号公報(以下「引用例1」という。)には、「乗員保護装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。
a:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の車両の座席の乗員を衝突時に保護するための乗員保護装置に関するものである。」

b:「【0003】また、シートベルトを装着していても前衝突時に乗員がラップベルトの下側をくぐり抜けようとするサブマリン現象を防止するために車両衝突時にシートクッションの前部を高くする装置も提案されている。例えば特開平10-309967号には火薬式アクチュエータによってシートクッションの前端部を押し上げるようにした車両用シートが記載され、特開平10-217818号にはエアバッグによってシートクッション前端部を押し上げるようにした車両用シートが記載されている。」

c:「【0006】このように構成された乗員保護装置にあっては、車両衝突時等の緊急時にシートクッションの下側に配置された膨張体(エアバッグ)が膨張することにより、シートクッションが該エアバッグによって直接的に又は衝撃吸収材を介して押し上げられるか、或いは該シートクッションの衝撃吸収材又はエアバッグと当っている部分が下から押されて圧縮されて硬くなり、乗員のサブマリン現象が防止される。そして、このとき、乗員の臀部ないし大腿部がシートクッション前部に強く押し付けられても、該シートクッションとエアバッグとの間、又は該膨張体と座席底部との間に介在された衝撃吸収材が塑性変形して衝撃を吸収するため、乗員に加わる負荷を著しく軽減することができる。」

d:「【0009】この乗員保護装置が設置された自動車のシートは、乗員が腰掛けるシートクッション12を備えている。このシートクッション12は、該シートの底盤部を構成するベースプレート16上に設置されている。なお、図示はしないが、このシートは、シートクッション12の後部から立ち上がり、該シートクッション12に腰掛けた乗員がもたれかかるシートバックと、該シートバックの上部に取付けられ、該乗員の頭部を支承するヘッドレストとを備えている。また、この自動車の車両室内には、該シートに乗員の身体を拘束するためのシートベルト装置(図示略)が設置されている。
・・・
【0011】ベースプレート16の前部ないし中間部には、第1図に示すように、該ベースプレート16とシートクッション12との間に左右幅方向に長く延在し、且つ互いにシート前後方向に隣接した1対のエアバッグ31,32が設けられている。本実施の形態では、エアバッグ31がシートクッション12の前端側に配置され、エアバッグ32がエアバッグ31の後ろ側のシートクッション中央寄りに配置されている。
【0012】これらのエアバッグ31,32には、それぞれガス供給装置(図示略)が接続されている。ガス供給装置は、後述の図示しない制御装置からの作動信号によりガス噴出作動し、エアバッグ31,32にガスを供給する。エアバッグ31,32はこのガス供給装置からのガスにより膨張する。本発明の乗員保護装置においてこのガス供給装置と各エアバッグ31,32との接続構造は任意であり、例えば、エアバッグ31,32には、各々独立したガス供給装置が接続されてもよく、或いは、1個のガス供給装置が、各エアバッグ31,32のどちらか一方に又は両方同時に選択的にガスを導通可能な弁機構等を有したガス流通経路を介して接続されてもよい。また、ガス発生器が各エアバッグ31,32内に設置されてもよい。
【0013】エアバッグ31,32は、いずれもベースプレート16によってその下面側が支承されており、下方へは移動しないようになっている。このため、エアバッグ31,32は、該ガス供給装置からガスが供給されると、ベースプレート16に支えられて上方にふくらみ、下からシートクッション12を押し上げようとする。」

e:「【0016】なお、この乗員保護装置は、図示しない制御装置によって作動制御される。この制御装置は、車両衝突時の衝突速度を検知する衝突速度検知装置と、シートクッション12上の乗員の重量検知装置と、シートクッション12上にチャイルドシートが設置されているか否かを検知するチャイルドシート検知装置と、乗員の着座位置を検知する着座位置検知装置と、シートクッションに腰掛けた乗員が前記シートベルトを装着しているか否かを検知するシートベルト装着検知装置とを備えていることが好ましい。以下に、上記各検知装置を備えたこの制御装置による車両衝突時の乗員保護装置の作動制御手順の一例を述べる。
【0017】車両衝突時には、該衝突速度検知装置、重量検知装置、チャイルドシート検知装置、着座位置検知装置、シートベルト装着検知装置がそれぞれ車両の衝突速度、シートクッション12上の乗員の重量、チャイルドシートの設置状況、乗員の着座位置、シートベルトの装着状況を検知する。
【0018】制御装置は、検知された衝突速度やシートクッション12上の乗員の重量が所定の閾値以下のときには、乗員にサブマリン現象が起こりにくく、シートベルトやその他の乗員保護装置で十分に乗員を保護可能であると判断し、ガス供給装置を作動させない。また、この制御装置は、シートクッション12上にチャイルドシートが設置されている場合及び乗員が所定の着座位置よりもシートクッション12の前端側に着座している場合にもガス供給装置を作動させない。即ち、この制御装置は、シートクッション12上にチャイルドシートが設置されておらず、且つ該閾値以上の重量を有する乗員が所定位置よりも後ろ寄りにシートクッション12に腰掛けているときに車両が所定以上の衝突速度で衝突したときにガス供給装置を作動させる。
【0019】ガス供給装置の作動に際し、制御装置は、該シートベルト装着検知装置からの情報に基づき乗員がシートベルトを装着していると認知したときには、乗員がシートクッション12に深く腰掛けているものと判断し、該シートクッション12の前端側に配置されたエアバッグ31と、その後ろ側に配置されたエアバッグ31とが両方とも膨張するようにガス供給装置をガス噴出作動させる。
【0020】そうすると、第2図に示すように、ガス供給装置からの噴出ガスにより膨張したエアバッグ31,32がそれぞれ衝撃吸収材41,42を介してシートクッション12をその前端側から中央寄りの所定領域にわたって押し上げ、又はこの押し上げ力によりシートクッション12の該所定領域を下から圧縮して硬化させ、該シートクッション12に深々と腰掛けた乗員が車両の衝突による衝撃力により前方へ移動することを速やかに阻止し、サブマリン現象を防止する。
【0021】この際、乗員の臀部又は大腿部が、エアバッグ31,32の膨張によって押し上げられた或いは硬化したシートクッション12に対し強く押し付けられ、該シートクッション12と各エアバッグ31,32との間に配置された衝撃吸収材41,42に所定値以上の圧力が加えられたときには、該衝撃吸収材41,42が第3図に示すようにそれぞれ塑性変形するため、衝撃が吸収される。これにより乗員に加わる負荷は著しく軽減される。
【0022】一方、この制御装置は、該シートベルト装着検知装置からの情報から乗員がシートベルトを装着していないと認知したときには、乗員が該シートベルトを外してシートクッション12に比較的浅目に腰掛けている可能性があるため、該シートクッション12の前端側に配置されたエアバッグ31のみを膨張させるようにガス供給装置をガス噴出作動させる。即ち、乗員がシートクッション12に比較的浅目に腰掛けているときには、該シートクッション12の前端部よりも中央寄りに配置されたエアバッグ32が膨張しても乗員の前方移動を阻止する効果はさほどのものではないため、該制御装置は、エアバッグ32は膨張させず、シートクッション12の前端側のエアバッグ31のみを膨張させる。これにより、比較的浅くシートクッション12に腰掛けていた乗員も、しっかりと該シートクッション12によって受け止められる。
【0023】また、このとき乗員の臀部ないし大腿部がシートクッション12の前部に強く押し付けられても、前述のケースと同様、シートクッション12とエアバッグ31との間に配置された衝撃吸収材41が所定値以上の圧力で塑性変形するため、乗員に加わる負荷はきわめて小さい。」

f:「【0024】なお、本実施の形態では、シートクッションの下側にシート前後方向に隣接する2個のエアバッグが設けられているが、本発明の乗員保護装置が適用されるシートの用途又は使用状況によっては、シートクッションの下側に配置されるエアバッグは、例えば該シートクッションの前端部から中央寄りの領域にわたって延設された1個のエアバッグであってもよく、同領域内において前記シート前後方向に互いに隣接した3個以上のエアバッグであってもよい。さらに、本実施の形態では、各エアバッグは、シートの底盤部を構成するベースプレートによって支承されているが、エアバッグの支承構造はこれに限定されるものではない。
【0025】また、本実施の形態では衝撃吸収材はエアバッグとシートクッションとの間に配置されているが、該衝撃吸収材の配置はこれに限られるものではない。例えば、本発明の乗員保護装置においては、次の第5図の如く、該衝撃吸収材はエアバッグとベースプレートとの間に配置されてもよい。」

g:「【0031】このように構成された乗員保護装置において、車両衝突時に該制御装置がガス供給装置を作動させると、該ガス供給装置からの噴出ガスによりエアバッグ31A,32Aが膨張し、それぞれ衝撃吸収材41A,42Aに支えられてシートクッション12を押し上げ、又はこの押上げ力によりシートクッション12を下から圧縮して硬化させ、該シートクッション12に腰掛けた乗員の前方への移動を速やかに阻止してサブマリン現象を防止する。
【0032】この際、乗員の臀部又は大腿部が、エアバッグ31A,32Aの膨張によって押し上げられた或いは硬化したシートクッション12に対し強く押し付けられ、該シートクッション12と各エアバッグ31A,32Aとを支えている衝撃吸収材41A,42Aに所定値以上の圧力が加えられたときには、該衝撃吸収材41A,42Aがそれぞれ塑性変形するため、衝撃が吸収される。これにより、シートクッションとエアバッグとの間に衝撃吸収材が配置された前述の乗員保護装置と同様、エアバッグとベースプレートとの間に衝撃吸収材が配置された本実施の形態の乗員保護装置でも、シートクッションが乗員を受け止めた際に乗員に加わる負荷は著しく軽減される。」

h:上記摘記事項gの記載からみて、第5図には、「シートクッション12とベースプレート16間にエアバッグ31A、32Aが存在し、エアバッグ31A、32Aが、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部にかけたシートクッション12の領域を押し上げるもの」が示されている。

これらの摘記事項a?hからみて、上記引用例1には、
「自動車のシートのシートクッション12とベースプレート16との間に延在し、車両の衝突時に前記シートクッション12とベースプレート16の前端側から中央寄りの所定領域にて膨張してシートクッション12を押し上げるエアバッグ31,32と、当該エアバッグ31,32を膨張させるか否かを制御する制御装置を備えた乗員保護装置において、
前記自動車のシートに着座する乗員が装着するシートベルトと、
前記シートベルトを前記自動車のシートに着座した乗員が装着したか否かを判定するシートベルト装着検知手段とを備え、
前記制御装置は、前記車両の衝突時に、前記シートベルト装着検知手段の認知結果が装着である場合には、前記エアバッグ31,32を膨張させるように制御する一方、前記シートベルト装着検知手段の認知結果が装着していない場合には、前記エアバッグ31,32の一部32を膨張させないように制御し、
前記シートクッション12とベースプレート16の前端側から中央よりの所定領域に前記エアバッグ31A,32Aが収容されるとともに、前記エアバッグ31A,32A内にガス発生器が設置され、前記エアバッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部にかけたシートクッション12の領域を押し上げるものである乗員保護装置」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

また、同じく拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-322703号公報(以下「引用例2」という。)には、「車両の安全装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。

i:「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等車両の安全装置に係り、一層詳細には、シートバックにサイドエアバックを内蔵した車両の安全装置に関する。」

j:「【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、シートバックにサイドエアバックを内蔵した車両において、シートベルトの適正な装着状態を検出するシートベルト適正装着状態検出手段と、該シートベルト適正装着状態検出手段からの信号によりシートベルトが適正に装着されていない状態を検出した時は前記サイドエアバックを展開させないように制御する制御手段とを設けたので、サイドエアバックの不正な展開による加害性が低減される。
・・・
【0009】
また、請求項3に係る発明は、シートベルト適正装着状態検出手段は、シートベルトのバックルに設けられてシートベルトのタングの装着を検出するバックルセンサと、該シートベルトを肩位置に導くためのシートベルトガイドに設けられてシートベルトの挿通を検出するシートベルトガイドセンサとから成るので、既存のバックルセンサを効果的に利用してシートベルト適正装着状態を容易かつ確実に検出することができる。」

k:図1には、「3点式シートベルト」が示されており、該3点式シートベルトは、「乗員の腰部の一方側から水平方向に腰部の前を経由して他方側に掛け渡されて乗員を拘束するラップベルトを有するもの」と認められる。

そして、今回新たに提示する本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-237520号公報(以下「引用例3」という。)には、「車両のシート構造」に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。

l:「【請求項1】 シートの座部又は背もたれ部の表面に薄い袋状のマット体を備え、シートベルトが配置された車両のシート構造であって、
車体が衝突する直前であることを検出する衝突直前センサーと、
前記衝突直前センサーの検出に基づいて、前記シートの座部又は背もたれ部のマット体に急速に流体を供給する急速供給手段を備えてある車両のシート構造。
【請求項2】 シートの座部又は背もたれ部の表面に薄い袋状のマット体を備え、シートベルトが配置された車両のシート構造であって、
車体の衝突を検出する衝突センサーと、
前記衝突センサーの検出に基づいて、前記シートの座部又は背もたれ部のマット体に急速に流体を供給する急速供給手段を備えてある車両のシート構造。」

m:「【0010】[II]車両では一般に3点式のシートベルトが使用されることが多い。これにより、請求項1(請求項2)の特徴において、例えばシートの背もたれ部のマット体に急速に流体を供給するように構成すれば、シートに着座する乗員がシートに対して前方に少し押し出された状態となり、シートに着座する乗員の胸部付近に位置するシートベルトの部分に、シートに着座する乗員の胸部が押し付けられる状態となるので、シートに着座する乗員の上半身が前方に倒れる状態をシートベルトにより抑える機能が、充分に発揮され易くなる。
【0011】請求項1(請求項2)の特徴において、例えばシートの座部のマット体に急速に流体を供給するように構成すれば、シートに着座する乗員がシートに対して上方に少し押し上げられた状態となり、シートに着座する乗員の腰部付近に位置するシートベルトの部分に、シートに着座する乗員の腰部が押し付けられる状態となるので、シートに着座する乗員の腰部がシートの座部に沿って前方に移動する状態をシートベルトにより抑える機能が、充分に発揮され易くなる。」

n:「【0018】図1及び図2に示すように、合成樹脂製で薄い袋状の第1マット体21、第2マット体22、第3マット体23、第4マット体24及び第5マット体25が備えられている。第1?第4マット体21?24が長方形状であるのに対し、第5マット体25は長方形のドーナツ状に構成されている。シートの座部1におけるパッド部材13と表皮15との間において、第1マット体21がシートに着座する乗員の臀部の右及び左側の位置、第4マット体24がシートに着座する乗員の右及び左の太股部の位置、第5マット体25がシートに着座する乗員の臀部の中央の位置に配置されている。シートの背もたれ部2におけるパッド部材14と表皮16との間において、第2マット体22がシートに着座する乗員の腰部の右及び左側の位置、第3マット体23がシートに着座する乗員の腰部の中央の位置に配置されている。」

o:「【0026】これにより、衝突直前センサー40の検出値により、車体の障害物への衝突が避けることができない状態であると判断されると、図4から図5に示すように、第1?第5マット体21?25に急速に加圧空気が供給され、第1?第5マット体21?25の内圧が急速に最大値に高められる。
【0027】従って、シートに着座する乗員がシートに対して第2及び第3マット体22,23により前方に少し押し出された状態となり、シートに着座する乗員の胸部付近に位置するシートベルト12の部分に、シートに着座する乗員の胸部が押し付けられる状態となる。シートに着座する乗員がシートに対して第1,4,5マット体21,24,25により上方に少し押し上げられた状態となり、シートに着座する乗員の腰部付近に位置するシートベルト12の部分に、シートに着座する乗員の腰部が押し付けられる状態となる。このようにして、シートベルト12の弛みが少なくなる。」

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「自動車のシート」、「シートクッション12とベースプレート16」、「シートクッション12」、「エアバッグ31,32」、「制御装置」は、それぞれ本願補正発明の「車両用シート」、「座部」、「クッション体」、「バッグ」、「制御手段」に相当し、引用発明の「自動車のシートのシートクッション12とベースプレート16との間に延在し」は、本願補正発明の「車両用シートの座部に収納され」に相当し、「シートクッション12とベースプレート16の前端側から中央寄りの所定領域」は、「少なくとも座部の着座領域」を意味しているから、引用発明の「車両の衝突時に前記シートクッション12とベースプレート16の前端側から中央寄りの所定領域にて膨張してシートクッション12を押し上げるエアバッグ31,32と」は、本願補正発明の「車両の衝突時に前記座部の少なくとも着座領域にて膨張してクッション体を上方に押圧するバッグと」に相当する。また、「乗員がシートベルトを装着すること」は、「シートベルトが乗員を拘束すること」を意味しているから、引用発明の「前記自動車のシートに着座する乗員が装着するシートベルトと、前記シートベルトを前記自動車のシートに着座した乗員が装着したか否かを判定するシートベルト装着検知手段とを備え」ることは、本願補正発明の「前記車両用シートに着座する乗員を当該車両用シートに拘束するシートベルトと、前記シートベルトが前記車両用シートに着座する乗員を拘束しているか否かを判定する判定手段とを備え」ることに相当している。
そして、引用発明の「前記制御装置は、前記車両の衝突時に、前記シートベルト装着検知手段の認知結果が装着である場合には、前記エアバッグ31,32を膨張させるように制御する一方、前記シートベルト装着検知手段の認知結果が装着していない場合には、前記エアバッグ31,32の一部32を膨張させないように制御し」と、本願補正発明の「前記制御手段は、前記車両の衝突時又は衝突予測時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張させるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグを膨張させないように制御し」とは、「前記制御手段は、前記車両の衝突時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張されるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグの少なくとも一部を膨張させないように制御し」た限りにおいて一致している。
さらに、引用発明の「前記シートクッション12とベースプレート16の前端側から中央よりの所定領域に前記エアバッグ31A,32Aが収容されるとともに、前記エアバッグ31A,32A内にガス発生器が設置され、前記エアバッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部にかけたシートクッション12の領域を押し上げる」ことと、本願補正発明の「前記座部の前部には収容凹部が設けられるとともに該収容凹部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容され、前記バッグには前方側から後方側へ向かって前記ガスが送られて、前記バッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部に相当する前記クッション体の領域を押圧すること」とは、「前記座部の前部には収容部が設けられるとともに、該収容部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容され、前記バッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部にかけた前記クッション体の領域を押圧すること」という限りにおいて一致している。
そうすると、両者は、
「車両用シートの座部に収納され、車両の衝突時に少なくとも前記座部の着座領域にて膨張してクッション体を上方へ押圧するバッグと、当該バッグを膨張させるか否かを制御する制御手段を備えた乗員保護装置において、
前記車両用シートに着座する乗員を当該車両用シートに拘束するシートベルトと、
前記シートベルトが前記車両用シートに着座する乗員を拘束しているか否かを判定する判定手段とを備え、
前記制御手段は、前記車両の衝突時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張させるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグの少なくとも一部を膨張させないように制御し、
前記座部の前部には収容部が設けられるとともに、該収容部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容され、前記バッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部にかけた前記クッション体の領域を押圧する乗員保護装置」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点1>
車両用シートに着座する乗員を当該車両用シートに拘束するシートベルトが、本願補正発明では、「乗員の腰部の一方側から水平方向に腰部の前を経由して他方側に架け渡されて乗員を当該車両用シートに拘束するラップベルト部を有するシートベルト」であるのに対して、引用発明では、そのようなものであるか明記されていない点。

<相違点2>
制御手段は、前記車両の衝突時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張させるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグの少なくとも一部を膨張させないように制御するものにおいて、判定手段の判定結果が否定の場合には、本願補正発明では、バッグを膨張させないように制御するのに対して、引用発明では、バッグの一部を膨張させないように制御した点。

<相違点3>
座部の前部には収容部が設けられるとともに、該収容部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容されるものにおいて、本願補正発明では、収容部が「収容凹部」であり、「バッグには前方側から後方側へ向かってガスが送られ」るのに対して、引用発明では、そのようなものでない点。

<相違点4>
バッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部にかけたクッション体の領域を押圧するものにおいて、本願補正発明では、クッション体の領域が大腿部から臀部に相当する領域であるのに対して、引用発明では、それ以上のものでない点。

4.相違点の検討
まず、相違点1について検討する。
上記引用例2に例示されるような周知の3点式シートベルトであれば、上記相違点1に係る本願補正発明の構成を有するものと認められ、該構成とすることに格別の困難性はない。

次に、相違点2について検討する。
上記引用例2には、摘記事項i,jからみて、シートベルトの適正な装着状態が検出できない場合には、エアバッグを展開させないようにして、エアバッグの加害性を低減するものが開示されており、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

また、相違点3について検討する。
車両用シートの前部にエアバッグのインフレータを収容する収納凹部を形成することは、出願前周知の技術(以下「周知技術1」という。)に過ぎず(必要があれば、特開2004-210049号公報の図1?図4、特開2005-112000号公報の図3?図6を参照のこと)、且つ、車両用シートの座部設けたエアバッグには、前方から後方側に向かってガスが送られることも出願前周知の技術(以下「周知技術2」という。)に過ぎない(必要があれば、特開2002-79861号公報の【0028】、【0029】、図6?図8、特開2002-79862号公報の【0032】、図8、図9、特開2005-112000号公報の【0028】、図5を参照のこと)。
よって、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、上記周知技術1,2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

さらに、相違点4について検討する。
上記引用例3には、摘記事項l?o及び図5からみて、「衝突直前センサーまたは衝突センサーの検出に基づいて、シートの座部に設けたマット体21,24,25に急速に流体を供給して、シートに着座する乗員がシートに対して上方に少し押し上げられた状態となるものであって、上記マット体24が着座する乗員の左右の太股部の位置に、上記マット体21、25がシートに着座する乗員の臀部の左右及び中央位置に設けられたもの」が記載されており、上記引用例3に記載された事項の「マット体」、「太股部」は、本願補正発明の「バッグ」、「大腿部」に相当するから、上記引用例3には、「シートの座部に設けたバッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部に相当する領域を上方に押圧するもの」が開示されているものと認められる。
してみれば、上記引用発明および上記引用例3に開示された事項のいずれも、シートの座部にバッグを設け、衝突時に該バッグを急速に膨張させてシートベルトを充分に機能させることによりサブマリン現象を防止する点で共通していることから、上記引用発明に上記引用例3に開示された事項を適用することにより、上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、上記相違点1?4を併せ備える本願補正発明の奏する作用効果について検討しても、上記引用発明、上記引用例2,3に開示された事項、及び上記周知技術1,2から予測される程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、上記引用発明、上記引用例2,3に記載された事項及び上記周知技術1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

6.審判請求人の提出した回答書の補正案について
シートベルトのタングとバックルとが係合しているか否かを判定する接触センサについては、上記引用例2の摘記事項j:【0009】に「バックルセンサ」として開示されている。
また、シートの座部に設けた複数のバッグを1つにすることは、上記引用例1の摘記事項f:【0024】に開示されており、上記引用例3に開示された「シートの座部の乗員の大腿部から臀部の広い領域に設けた複数のバッグ」に適用することにより、「領域全体を上方に押圧すること」は、当業者が容易に想到し得たものである。

III.本願発明について
1.本願発明の記載事項
平成20年10月22日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成20年 7月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
車両用シートの座部に収納され、車両の衝突時に少なくとも前記座部の着座領域にて膨張してクッション体を上方へ押圧するバッグと、当該バッグを膨張させるか否かを制御する制御手段を備えた乗員保護装置において、
前記車両用シートに着座する乗員を当該車両用シートに拘束するシートベルトと
前記シートベルトが前記車両用シートに着座する乗員を拘束しているか否かを判定する判定手段を備え、
前記制御手段は、前記車両の衝突時又は衝突予測時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張させるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグを膨張させないように制御し、
前記座部の前部には収容凹部が設けられるとともに該収容凹部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容され、前記バッグには前方側から後方側へ向かって前記ガスが送られることを特徴とする乗員保護装置。」(以下「本願発明」という。)

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,2及びその記載事項は前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.で検討した本願補正発明の「前記車両用シートに着座する乗員の腰部の一方側から水平方向に腰部の前を経由して他方側に架け渡されて乗員を当該車両用シートに拘束するラップベルト部を有するシートベルト」を「前記車両用シートに着座する乗員を当該車両用シートに拘束するシートベルト」として限定を削除し、また、「前記バッグは、乗員の膝裏より後ろ側の大腿部から臀部に相当する前記クッション体の領域を押圧する」という限定を削除するものである。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「車両用シートの座部に収納され、車両の衝突時に少なくとも前記座部の着座領域にて膨張してクッション体を上方へ押圧するバッグと、当該バッグを膨張させるか否かを制御する制御手段を備えた乗員保護装置において、
前記車両用シートに着座する乗員を当該車両用シートに拘束するシートベルトと、
前記シートベルトが前記車両用シートに着座する乗員を拘束しているか否かを判定する判定手段とを備え、
前記制御手段は、前記車両の衝突時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張させるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグの少なくとも一部を膨張させないように制御し、
前記座部の前部には収容部が設けられるとともに、該収容部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容された乗員保護装置」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点2’>
制御手段は、前記車両の衝突時に、前記判定手段の判定結果が肯定の場合には、前記バッグを膨張させるように制御する一方、前記判定手段の判定結果が否定の場合には、前記バッグの少なくとも一部を膨張させないように制御するものにおいて、判定手段の判定結果が否定の場合には、本願発明では、バッグを膨張させないように制御するのに対して、引用発明では、バッグの一部を膨張させないように制御した点、

<相違点3’>
座部の前部には収容部が設けられるとともに、該収容部には前記バッグにガスを送るためのインフレータが収容されるものにおいて、本願発明では、収容部が「収容凹部」であり、「バッグには前方側から後方側へ向かってガスが送られ」るのに対して、引用発明では、そのようなものでない点、

上記各相違点については、前記II.4.の相違点2、相違点3について検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明、上記引用例2に開示された事項及び上記周知技術1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-19 
結審通知日 2009-08-25 
審決日 2009-09-07 
出願番号 特願2006-181721(P2006-181721)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 575- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 則夫  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 渡邉 洋
藤井 昇
発明の名称 乗員保護装置  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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