ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A41B |
---|---|
管理番号 | 1206184 |
審判番号 | 不服2007-19923 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-17 |
確定日 | 2009-10-28 |
事件の表示 | 特願2002-251018「消臭糸を含有する下着の付属部分品及びこれらが付設される消臭下着」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月25日出願公開、特開2004- 91935〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成14年8月29日の出願であって,平成19年6月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年7月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,平成19年8月8日付けで明細書を対象とする手続補正がなされたものである。 第2.平成19年8月8日付けの手続補正についての補正却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成19年8月8日付けの手続補正(以下,「本件補正」という)を却下する。 〔理由〕 1.本件補正の概要 本件補正により,特許請求の範囲は,次のとおりに補正された。 「【請求項1】塩基性悪臭物質を吸着脱臭する消臭糸を含有する下着の付属部分品であって,該消臭糸が,セルロース繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた改質セルロース繊維を原料とし,該改質セルロース繊維が前記消臭糸中5?40%含有され,前記消臭糸は,当該消臭糸が10%以上含まれるように,他の糸と混用され,当該下着の付属部分品が,少なくともマチ部分,パット,レース,コメット,ニードル又はブラジャーの肩ひもの下着本体に付設する繊維構造物であることを特徴とする下着の付属部分品。 【請求項2】前記消臭糸が30?60番手,又は60/2?120/2番手であることを特徴とする請求項1に記載の下着の付属部分品。 【請求項3】下着本体の生地に前記消臭糸が使用され,請求項1又は2に記載の下着の付属部分品が付設されることを特徴とする消臭下着。」 上記請求項1の補正は,付属部分品に含まれる消臭糸について「当該消臭糸が10%以上含まれるように,他の糸と混用され」との限定を付したものである。請求項2及び請求項3については,記載自体に変更はないが,請求項1をそれぞれ引用するものであるから,実質的に上記と同じ内容の補正がなされたものである。そして,本件補正が,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでないことは明らかである。 したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。 2.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3075130号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 (1-a) 「図1におけるTシャツ1は全体として通例のコットン地等によって成形されているが,脇対応部分にはセルロ-ス繊維にメタクリル酸を共重合させた消臭繊維を紡糸して得た糸材の織り込み部2・2を備えている。」(段落【0008】) 「また,前記した織り込み部2・2は消臭繊維で形成した布地あるいは不織布を当て布のように縫い付けた縫着部とすることも可能で必要とあれば,それら布地(布片)や不織布をテ-プやボタン,ホック等の手段によって着脱自在に備えさせることもできる。」(段落【0009】) (1-b) 「また,図3として示すパンティ5の場合も全体は通例の素材で成形されているが股間の対応部分に前記したと同様の消臭繊維による織り込み部6を備えており,この織り込み部6も前記したと同様に縫着部や着脱自在のものとすることが可能である。」(段落【0011】) (1-c) 「この消臭繊維はカルボキシル基を導入するため,過酸化水素と二価鉄塩を含む水溶液中で,セルロ-ス繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させる方法によって得られる。」(段落【0012】) 「カルボキシル基を導入したことで親水性が向上し,アンモニア,アミン,屎尿臭等の塩基性悪臭物質の吸着性に優れ,脱臭性繊維として作用する。」(段落【0013】) 上記記載事項(1-a)?(1-c)及び図面の記載によれば,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「セルロ-ス繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた消臭繊維を紡糸して得た糸材の織り込み部であって,Tシャツの脇対応部分やパンティの股間対応部分に,該消臭繊維で形成した布地や不織布を当て布のように縫い付けた縫着部とするか,あるいは,テ-プ,ボタン,ホック等の手段によって着脱自在のものとし,塩基性悪臭物質の吸着性に優れ,脱臭性繊維として作用する織り込み部。」 同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-329436号公報(以下,「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。 (2-a) 「親水性ビニル系モノマーが5?30重量%グラフト重合されたセルロース繊維を7?60重量%含有し,塩基性低分子物と低級脂肪酸の両臭気物質に対し同時に消臭効果を示すことを特徴とする消臭性セルロース系繊維紡績糸。」(【請求項1】) (2-b) 「【発明の属する技術分野】本発明は,ドレスシャツ,ブラウス,スポーツシャツ,肌着,寝具,作業服,ユニフォーム,カーテン,靴下,手袋等に用いられて消臭機能を発揮するセルロース系繊維紡績糸であり,更に該紡績糸を用いたそれらの繊維構造物及び繊維製品に関するものである。」(段落【0001】) (2-c) 「本発明における繊維構造物及び繊維製品は,実質的に綿(わた)の状態で親水性ビニル系モノマーがグラフト重合されたセルロース繊維からなる綿を紡績し,更には染色した紡績糸,該紡績糸を織物,編物等にしたものであり,その過程でセルロース繊維以外の繊維を混用してもよい。」(段落【0007】) (2-d) 「本発明における親水性ビニル系モノマーとしては,カルボン酸系ビニル化合物であり,アクリル酸,メタアクリル酸,マレイン酸,クロトン酸,ブテントリカルボン酸等,及びこれらの金属塩があげられるがこれらが単独もしくは混合されて使用されても良い。この中でも使用上のことを考慮すると,メタクリル酸及びアクリル酸が好ましい。」(段落【0009】) (2-e) 「カルボン酸系ビニルモノマーがグラフト重合された繊維の製造方法:精練処理した綿をメタクリル酸20.0g/l,硫酸第1鉄アンモニウム0.6g/l,過酸化水素0.3g/lの水溶液で浴比1:40,80℃×60minでオーバーマイヤー加工機を用いて,浸漬し処理した。この後,水洗,湯洗を繰り返した。この時のグラフト重合率は約10.15%であった。処理した綿を以下「GT綿」と呼ぶ。」(段落【0022】) 「実施例1「GT綿」の混率が50重量%,未加工綿の混率が50重量%から40番手の紡績糸を作成し,ブロード織物(経糸40番手の綿糸×緯糸40番手の綿糸/経糸密度 130本/inch×緯糸密度 70本/inch)を製織した。」(段落【0023】) 「実施例2「GT綿」の混率が25重量%,未加工綿の混率が75重量%から40番手の紡績糸を作成し,ブロード織物(経糸40番手の綿糸×緯糸40番手の綿糸/経糸密度 130本/inch×緯糸密度 70本/inch)を製織した。」(段落【0024】) 「実施例3「GT綿」の混率が10重量%,未加工綿の混率が90重量%から40番手の紡績糸を作成し,ブロード織物(経糸40番手の綿糸×緯糸40番手の綿糸/経糸密度 130本/inch×緯糸密度 70本/inch)を製織した。」(段落【0025】) 3.対比・判断 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「セルロ-ス繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた消臭繊維」,「消臭繊維を紡糸して得た糸材」,「Tシャツの脇対応部分」,「パンティの股間対応部分」及び「Tシャツ,パンティ」は,それぞれ本願補正発明の「セルロース繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた改質セルロース繊維」,「消臭糸」,「パット」,「マチ部分」及び「下着」に相当し,引用発明の「織り込み部」は,本願補正発明の「下着の付属部分品」及び「下着本体に付設する繊維構造物」に相当する。 したがって,本願補正発明は,引用発明と対比すると, 「塩基性悪臭物質を吸着脱臭する消臭糸を含有する下着の付属部分品であって,該消臭糸が,セルロース繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた改質セルロース繊維を原料とし,当該下着の付属部分品が,少なくともマチ部分,パット,レース,コメット,ニードル又はブラジャーの肩ひもの下着本体に付設する繊維構造物であることを特徴とする下着の付属部分品。」の点で一致し,次の点で相違する。なお,本願補正発明における「少なくともマチ部分,パット,レース,コメット,ニードル又はブラジャーの肩ひもの下着本体」は,「下着本体」が「マチ部分」,「パット」,「レース」,「コメット」,「ニードル」,「ブラジャーの肩ひも」のいずれか一つまたは複数であることを特定したものであり,引用発明の「織り込み部」が,これらの選択肢のうち,「マチ部分」又は「パット」に適用されるものである以上,本願補正発明が上記選択肢として「レース」,「コメット」,「ニードル」及び「ブラジャーの肩ひも」を含むことは,本願補正発明と引用発明との相違点にならない。 (相違点) 本願補正発明は,消臭糸中に改質セルロース繊維が5?40%含有され,かつ,該消臭糸が10%以上含まれるように該消臭糸が他の糸と混用されるのに対し,引用発明は,セルロ-ス繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた消臭繊維を紡糸して得た糸材中に消臭繊維がどの程度の割合で含まれるのか明らかでなく,また,該糸材が他の糸と混用されるのか否か明らかでない点。 上記相違点について検討する。 本願補正発明の「消臭糸中に改質セルロース繊維が5?40%含有され」における「5?40%」は,「5?40重量%」のことと解される。 記載事項(2-e)を参照すると,引用例2の実施例1では,メタクリル酸がグラフト重合されたセルロース繊維を50重量%含有するセルロース系繊維紡績糸が作成されており,同様に,実施例2では該セルロース繊維を25重量%含有するものが,実施例3では該セルロース繊維を10重量%含有するものがそれぞれ作成されているといえる。そして,記載事項(2-a)?(2-d)も参照すれば,引用例2には,スポーツシャツ,肌着等に用いられて消臭機能を発揮するセルロース系繊維紡績糸であって,メタクリル酸がグラフト重合されたセルロース繊維を10重量%,25重量%または50重量%含有するセルロース系繊維紡績糸を,織物や編物にする過程でセルロース繊維以外の繊維と混用することが記載されているといえる。この技術を引用発明の織り込み部に適用し,セルロ-ス繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた消臭繊維を紡糸して得た糸材中に含まれる該消臭繊維の割合を10重量%,25重量%または50重量%とし,かつ,該糸材を他の糸と混用することは,当業者が容易になし得たことである。該糸材を他の糸と混用する際に,該糸材の含有率を極端に小さくしたのでは,消臭効果が期待できなくなるのは明らかであり,これを10%以上,すなわち10%以上100%未満の値とする程度のことは,当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎないというべきである。したがって,上記相違点は,引用例2を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。なお,「10重量%,25重量%または50重量%」は,「5?40重量%」の下位概念にあたる。 したがって,本願補正発明は,引用例1及び引用例2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を,「本願発明」という)は,平成19年5月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「塩基性悪臭物質を吸着脱臭する消臭糸を含有する下着の付属部分品であって,該消臭糸が,セルロース繊維にメタクリル酸をグラフト共重合させた改質セルロース繊維を原料とし,該改質セルロース繊維が前記消臭糸中5?40%含有され,当該下着の付属部分品が,少なくともマチ部分,パット,レース,コメット,ニードル又はブラジャーの肩ひもの下着本体に付設する繊維構造物であることを特徴とする下着の付属部分品。」 第4.引用刊行物 引用刊行物及びその記載事項は,前記「第2」の「2.引用刊行物」に記載したとおりである。 第5.対比・判断 本願発明は,本願補正発明から,「当該消臭糸が10%以上含まれるように,他の糸と混用され」との限定を外したものである。 してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2」の「3.対比・判断」に記載したとおり,引用例1及び引用例2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様に,引用例1及び引用例2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用例1及び引用例2に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-20 |
結審通知日 | 2009-08-24 |
審決日 | 2009-09-04 |
出願番号 | 特願2002-251018(P2002-251018) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A41B)
P 1 8・ 575- Z (A41B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西尾 元宏 |
特許庁審判長 |
千馬 隆之 |
特許庁審判官 |
熊倉 強 村上 聡 |
発明の名称 | 消臭糸を含有する下着の付属部分品及びこれらが付設される消臭下着 |
代理人 | 清原 義博 |