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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1206231 |
審判番号 | 不服2006-5010 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-03-16 |
確定日 | 2009-10-29 |
事件の表示 | 平成10年特許願第311027号「酸化アルミニウム基焼結体及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月 9日出願公開、特開2000-128626〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成10年10月30日の出願であって、平成17年11月14日付けで拒絶理由が通知され、平成18年1月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年2月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年3月16日に拒絶査定不服審判が請求され、同年4月17日に手続補正がなされたものである。 II.平成18年4月17日付けの手続補正についての補正却下の決定 II-1.補正却下の決定の結論 平成18年4月17日付けの手続補正を却下する。 II-2.理由 平成18年4月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成18年1月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の 「【請求項1】 酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%の成分に加え、更に、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、けい素、チタンのうち少なくとも1種を、酸化物換算で外重量にて3重量%以下の範囲で含有する焼結体であって、 前記酸化ジルコニウムの平均粒径に対する前記酸化アルミニウムの平均粒径の比が1?5倍の範囲であり、更に、前記酸化アルミニウムの平均粒径が0.5?3μmの範囲で、且つ前記酸化ジルコニウムの平均粒径が0.1?1.0μmの範囲であり、更に、前記酸化ジルコニウムの粒子が焼結体中に均一に分散しているとともに、前記焼結体は切削工具に用いられるものであることを特徴とする酸化アルミニウム基焼結体。 【請求項2】 前記焼結体は、スローアウェイチップであることを特徴とする前記請求項1に記載の酸化アルミニウム基焼結体。 【請求項3】 前記焼結体は、着色されていることを特徴とする前記請求項1又は2に記載の酸化アルミニウム基焼結体。 【請求項4】 前記請求項1?3のいずれかに記載の酸化アルミニウム基焼結体の製造方法であって、 前記酸化アルミニウム80?95重量%と、酸化ジルコニウム5?20重量%と、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、けい素、チタンのうち少なくとも1種の酸化物を外重量で3重量%以下とを混合し、高分散させながら平均粒径で0.2μm以下の粒度まで粉砕し、焼成処理した後に、HIP処理を施すことを特徴とする酸化アルミニウム基焼結体の製造方法。 【請求項5】 前記焼成処理により、気体が侵入しない理論比重比程度まで緻密化を行なうことを特徴とする前記請求項4に記載の酸化アルミニウム基焼結体の製造方法。」 の記載を、 「【請求項1】 酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%の成分に加え、更に、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、けい素、チタンのうち少なくとも1種を、酸化物換算で外重量にて3重量%以下の範囲で含有する焼結体であって、 前記酸化ジルコニウムの平均粒径に対する前記酸化アルミニウムの平均粒径の比が1?5倍の範囲であり、更に、前記酸化アルミニウムの平均粒径が0.5?3μmの範囲で、且つ前記酸化ジルコニウムの平均粒径が0.1?1.0μmの範囲であり、 更に、前記酸化ジルコニウムの粒子が焼結体中に均一に分散しているとともに、前記分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上であり、 且つ、前記焼結体は切削工具に用いられるものであることを特徴とする酸化アルミニウム基焼結体。 【請求項2】 前記分散の程度は、前記着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上であり、且つ0.5?2μmの範囲で離れて存在している同粒子の平均が3?10個の範囲であることを特徴とする前記請求項1に記載の酸化アルミニウム基焼結体。 【請求項3】 前記焼結体は、スローアウェイチップであることを特徴とする前記請求項1又は2に記載の酸化アルミニウム基焼結体。 【請求項4】 前記焼結体は、着色されていることを特徴とする前記請求項1?3のいずれかに記載の酸化アルミニウム基焼結体。 【請求項5】 前記請求項1?4のいずれかに記載の酸化アルミニウム基焼結体の製造方法であって、 前記酸化アルミニウム80?95重量%と、酸化ジルコニウム5?20重量%と、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、けい素、チタンのうち少なくとも1種の酸化物を外重量で3重量%以下とを混合し、高分散させながら平均粒径で0.2μm以下の粒度まで粉砕し、焼成処理した後に、HIP処理を施すことを特徴とする酸化アルミニウム基焼結体の製造方法。 【請求項6】 前記焼成処理により、気体が侵入しない理論比重比程度まで緻密化を行なうことを特徴とする前記請求項5に記載の酸化アルミニウム基焼結体の製造方法。」 と補正することを含むものである。 そこで、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号の規定に該当するか否かについて検討する。 本件補正は、本件補正前の請求項1に、「前記分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上であり」という発明特定事項を加えるとともに、新たに請求項2として、「前記分散の程度は、前記着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上であり、且つ0.5?2μmの範囲で離れて存在している同粒子の平均が3?10個の範囲である」という発明特定事項を有するとともに請求項1を引用する請求項を挿入し、これにともない、本件補正前の請求項2?5を繰り下げて、本件補正後の3?6とすることを含むものであり、本件補正により、請求項の数が、5個から6個へと、1個増加している。 このような本件補正が、特許法第17条の2第4項で補正の目的とし得る事項として規定された「請求項の削除」(第1号)、「誤記の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」(第4号)のいずれにも該当しないことは、明らかである。 さらに、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当するか否かを検討するに、同法同条同項第2号の定める「特許請求の範囲の減縮」は、補正前後の請求項に係る発明が一対一の対応関係にあることを必要とすると解するのが相当であるところ(必要ならば知財高裁 平成17年(行ケ)10192号 審決取消請求事件 平成17年4月25日判決参照)、上記したように、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に発明特定事項を加えたものであるとともに、本件補正後の請求項2は新たに挿入されたものであり、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明および、請求項2に係る発明とが一対一の対応関係にあるということはできないから、本件補正が、「特許請求の範囲の減縮」に該当するとはいえない。 以上のことから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきである。 知財高裁 平成17年(行ケ)10192号 審決取消請求事件 平成17年4月25日判決 『したがって、一つの請求項に記載された発明を複数の請求項に分割して、新たな請求項を追加する態様による補正は、たとえそれが全体として一つの請求項に記載された発明特定事項を限定する趣旨でされたものであるとしても、2号の定める「特許請求の範囲の減縮」には当たらないというべきであり、2号の定める「特許請求の範囲の減縮」は、補正前後の請求項に係る発明が一対一の対応関係にあることを必要とすると解するのが相当である。』 なお、平成21年3月23日付けの回答書において、請求人は以下のように主張する。 「審判請求時に請求項を増加する増項補正の適否につきましては、裁判例「平成19年(行ケ)第10335号審決取消請求事件」にその判断基準が示されています。 前記裁判例の「付言」によれば、「増項補正が許される例外的な場合は,増項補正が許される典型的な場合を例示したにすぎず,法解釈上は,それに限られるわけではない。」とされ、更に、「本件の増項補正は,補正前の特定の請求項にいわゆる従属項を追加したものというのであるから,少なくとも従前の特許請求の範囲を全体として拡張するものではないということができ,特許請求の範囲の減縮には文言上該当しないとしても,法解釈論として成り立ち得ない見解といえず,明らかに違法な補正であると断じ得るものではない。」と判断されています。 つまり、前記裁判例は、「特許請求の範囲の減縮に文言上該当しないが、特許請求の範囲を拡張しない補正」に対して「違法な補正という訳ではない」と判断されたものですが、本願の請求項2による増項補正の場合は、補正前の本願の請求項1の「分散」という構成を、まさに限定的に減縮したものです。 従いまして、本願の増項補正は、明らかに特許法第17条の2第4項2号のカッコ書きに規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、即ち、「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る」と定義された減縮を目的とするものに該当しますので、適法な補正であると確信致します。」 上記主張について検討しておくと、本件補正は、補正前後に係る発明が一対一の対応関係にあるものであるとはいえないから、特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に当たるとはいえないことは上記した通りである。 請求人が引用する裁判例「平成19年(行ケ)第10335号審決取消請求事件」は、「本件の増項補正は,補正前の特定の請求項にいわゆる従属項を追加したものというのであるから,少なくとも従前の特許請求の範囲を全体として拡張するものではないということができ,特許請求の範囲の減縮には文言上該当しないとしても,法解釈論として成り立ち得ない見解といえず,明らかに違法な補正であると断じ得るものではない」から、「原告ないしその担当代理人が本件の手続において増項補正が許容されるものと推断したとしても、一概に不合理なものと断ずることはできない。」とし、「増項補正に係る部分が違法であると判断しただけで、本件各補正の全体を却下するとした措置の違法を指摘」しているのであって、請求人が主張するように、「特許請求の範囲の減縮に文言上該当しないが、特許請求の範囲を拡張しない補正」に対して「違法な補正という訳ではない」とすることは、前記裁判例を正解しないでなされた主張といわざるを得ない。現に、当該裁判例には、「本件が審判手続に戻った場合には、・・・原則に戻って、増項補正の違法のみを理由に本件各補正の全体を却下することは許されるものというべきである」と説示されているのである。 以上のことから、請求人の主張を採用して、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に該当するものであるとすることはできない。 III.本願発明 III-1.本願発明 平成18年4月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成18年1月20日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%の成分に加え、更に、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、けい素、チタンのうち少なくとも1種を、酸化物換算で外重量にて3重量%以下の範囲で含有する焼結体であって、 前記酸化ジルコニウムの平均粒径に対する前記酸化アルミニウムの平均粒径の比が1?5倍の範囲であり、更に、前記酸化アルミニウムの平均粒径が0.5?3μmの範囲で、且つ前記酸化ジルコニウムの平均粒径が0.1?1.0μmの範囲であり、更に、前記酸化ジルコニウムの粒子が焼結体中に均一に分散しているとともに、前記焼結体は切削工具に用いられるものであることを特徴とする酸化アルミニウム基焼結体。 III-2.引用刊行物とその記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-97254号公報(原査定における引用文献4、以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。 (1-あ)「平均結晶粒径1μm以下のジルコニア(ZrO_(2))を5?30重量%、ハフニア(HfO_(2))をZrO_(2)全量に対して1.0重量%以下、Fe,Ni,Coの酸化物の内少なくとも1種を0.01?5重量%、残部が平均結晶粒径1.5μm以下のアルミナ(Al_(2)O_(3))および不可避不純物からなるとともに、前記ジルコニア(ZrO_(2))の40%以上が正方晶ジルコニア(t-ZrO_(2))結晶であることを特徴とする高強度アルミナ質焼結体。」(特許請求の範囲の【請求項2】) (1-い)「本発明は、破壊靱性および抗折強度を向上させた切削工具用の高強度アルミナ質焼結体に関するものである。」(第2頁1欄20?22行、段落【0001】) (1-う)「ZrO_(2)全量に対するHfO_(2)量は、0.03?1.0重量%とすることが望ましい。HfO_(2)量が0.03重量%よりも少ないと、原料粉末の精製が非常に困難となるからである。HfO_(2)はZrO_(2)原料中に通常3?5重量%含有されているが、本発明のようにHfO_(2)含有量を少なくするためには、HfO_(2)の含有量の少ない鉱石を選んでZrO_(2)を精製すると良い。」(第3頁3欄16?23行、段落【0013】) (1-え)「焼結体中のAl_(2)O_(3)の平均結晶粒径が1.5μmを越えると母相であるAl_(2)O_(3)の強度が低くなる傾向にあり、ZrO_(2)を均一にAl_(2)O_(3)中に分散させても抗折強度は充分に向上しない。また、焼結体中のZrO_(2)の平均結晶粒径が1μmを越えると、粒子径のバラツキを考慮すると粒径3μm以上の比較的粗大なジルコニア粒子が焼結体中に残存することが多く、これらのジルコニア粒子が抗折試験を行った場合に破壊源となり強度が劣化する。Al_(2)O_(3)およびZrO_(2)の平均結晶粒径は0.5μm以下が好ましい。」(第3頁3欄27?36行、段落【0014】) (1-お)「実施例2 更に、試料番号6についてジルコニア(ZrO_(2))の平均結晶粒径を異ならせて・・・上記測定法によりt-ZrO_(2)結晶相の量による抗折強度および靱性の変化を調べた結果を表2に示す。・・試料番号21?24はジルコニア(ZrO_(2))の平均粒径が1μm以下と本発明の範囲内で」(第5頁7欄4行?33行、段落【0030】?【0036】) (1-か)「実施例3 純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末、ZrO_(2)粉末及び平均粒子径1.0μm以下のNiO、CoO、Fe_(2)O_(3)粉末を表3の量に秤量し、これを分散剤を添加した蒸留水に入れ、アトライタで混合粉砕する。粉砕後のスラリーを乾燥し、有機バインダーを添加し、さらに乾燥させて、成形用原料とした。 この原料を用いて所定寸法に成形した後、ポリエチレンの袋に真空パックし、4t/cm^(2)の圧力でCIP処理(冷間静水圧成形)した。 得られた成形体を脱バインダーし、大気雰囲気中で1450℃で2時間予備焼成した。その後、焼結体を1425℃で1時間2000気圧で熱間静水圧焼成した。 得られた焼結体を3×4×40mmの抗折強度試験片に研摩し、JISR1601に従って3点曲げ強度を測定した。また、前述の方法で同時に3×4×40mmのタブレットを作製し、焼上がりの未研摩面でX線回折を測定し、ZrO_(2)の結晶を調べた。 更に、3×4×40mmのタブレットを研摩後、3μmのダイヤモンドペーストでポリッシングを行い、ビッカース硬度用ダイヤモンドコーンを用いて荷重20kgでクラック長さを測定し、MI法によって破壊靱性を測定した。」(第5頁7欄44行?8欄48行、段落【0037】?【0041】) (1-き)段落【0035】の「表2」には、試料番号21?26のそれぞれについて、「ZrO_(2)の粒径 μm」の値が記載されている。 (1-く)段落【0042】の「表3」からは、「試料番号29」において、「組成 重量%」について、「Al_(2)O_(3)」が「89.80」、「ZrO_(2)」が「10」、「ZrO_(2)中のHfO_(2)量」が「0.5」、「CoO」が「0.1」、「NiO」が「0.1」であり、「Al_(2)O_(3)の粒径 μm」が「0.5」、「ZrO_(2)の粒径 μm」が「0.4」であることが見て取れる。 刊行物1には、記載事項(1-あ)より、「平均結晶粒径1μm以下のジルコニア(ZrO_(2))を5?30重量%、ハフニア(HfO_(2))をZrO_(2)全量に対して1.0重量%以下、Fe,Ni,Coの酸化物の内少なくとも1種を0.01?5重量%、残部が平均結晶粒径1.5μm以下のアルミナ(Al_(2)O_(3))および不可避不純物からなる」「アルミナ質焼結体」が記載されており、記載事項(1-い)より、当該「アルミナ質焼結体」は、「切削工具用」である。そして、具体的には、記載事項(1-か)、(1-く)より、「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末」を89.80重量%、「ZrO_(2)中のHfO_(2)量 0.5重量%」である「ZrO_(2)粉末」を10重量%、及び「NiO」「粉末」、「CoO」「粉末」をそれぞれ、「0.1重量%」ずつ秤量し、「これを分散剤を添加した蒸留水に入れ、アトライタで混合粉砕」し、「粉砕後のスラリーを乾燥し、有機バインダーを添加し、さらに乾燥させて、成形用原料とし」、「所定寸法に成形した後」、「CIP処理(冷間静水圧成形)し」、「得られた成形体を脱バインダーし、大気雰囲気中で1450℃で2時間予備焼成した」後、「焼結体を熱間静水圧焼成し」て得られた焼結体が記載されており、記載事項(1-く)より、この焼結体における「Al_(2)O_(3)の粒径」は「0.5μm」、「ZrO_(2)の粒径」は「0.4μm」である。 すると刊行物1には、記載事項(1-あ)、(1-い)、(1-か)、(1-く)より、 「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末を89.80重量%、ZrO_(2)中のHfO_(2)量が0.5重量%であるZrO_(2)粉末を10重量%、NiO粉末、CoO粉末をそれぞれ0.1重量%秤量し、これを分散剤を添加した蒸留水に入れ、アトライタで混合粉砕し、粉砕後のスラリーを乾燥し、有機バインダーを添加し、さらに乾燥させて、成形用原料とし、所定寸法に成形した後、CIP処理(冷間静水圧成形)し、得られた成形体を脱バインダーし、大気雰囲気中で1450℃で2時間予備焼成した後、焼結体を熱間静水圧焼成して得られたアルミナ質焼結体であって、 Al_(2)O_(3)の粒径が0.5μm、ZrO_(2)の粒径が0.4μmである、切削工具用アルミナ質焼結体」 の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。 III-3.対比 本願発明1と刊行物1発明とを対比する。 まず、刊行物1発明の「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末を89.80重量%、ZrO_(2)中のHfO_(2)量が0.5重量%であるZrO_(2)粉末を10重量%、NiO粉末、CoO粉末をそれぞれ0.1重量%秤量し、これを分散剤を添加した蒸留水に入れ、アトライタで混合粉砕し、粉砕後のスラリーを乾燥し、有機バインダーを添加し、さらに乾燥させて、成形用原料とし、所定寸法に成形した後、CIP処理(冷間静水圧成形)し、得られた成形体を脱バインダーし、大気雰囲気中で1450℃で2時間予備焼成した後、焼結体を熱間静水圧焼成して得られたアルミナ質焼結体」について検討する。 刊行物1発明の「焼結体」において、技術常識からみて、焼結体原料の「Al_(2)O_(3)」、「ZrO_(2)」、「HfO_(2)」、「NiO」、「CoO」はその製造工程で飛散、焼失せず、「分散剤」、「蒸留水」、「有機バインダー」は飛散、焼失するのが普通であるから、焼結体原料における「Al_(2)O_(3)」、「ZrO_(2)」、「HfO_(2)」、「NiO」、「CoO」それぞれの含有割合は、焼結体のそれに等しいとみることができる。 そこで、刊行物1発明におけるAl_(2)O_(3)、すなわち、酸化アルミニウム及び、ZrO_(2)、すなわち、酸化ジルコニウムの含有量を、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムの総量を100%として計算すると、その値は、「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末」におけるAl_(2)O_(3)の純度によって異なるが、当該Al_(2)O_(3)粉末の純度が98%であるとき、焼結体における酸化アルミニウム量、酸化ジルコニウム量、ニッケル量(酸化物換算、外重量)、コバルト量(酸化物換算、外重量)はそれぞれ、89.84(重量%)、10.16(重量%)、0.1(重量%)、0.1(重量%)となり、また、当該Al_(2)O_(3)粉末の純度が100%であるとき、焼結体における酸化アルミニウム量、酸化ジルコニウム量、ニッケル量(酸化物換算、外重量)、コバルト量(酸化物換算、外重量)はそれぞれ、90.03(重量%)、9.97(重量%)、0.1(重量%)、0.1重量%となるから(ただし、これらの算出方法については、後記する【参考】に記載)、いずれの場合も、刊行物1発明の焼結体は、本願発明1の「酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%」、「ニッケル、コバルト」を「酸化物換算で外重量にて3重量%以下」という規定を満たす。また、このことと、刊行物1発明の焼結体中の大部分は酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムが占め、「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末」中の不純物量や、ニッケル、コバルト量はこれらに対して微量といえることを鑑みれば、「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末」中のAl_(2)O_(3)純度が98%から100%の間のいずれの値であっても、焼結体は「酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%」、「ニッケル、コバルト」を「酸化物換算で外重量にて3重量%以下」という規定を満たすとみることができる。 以上のことから、刊行物1発明の、「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末を89.80重量%、ZrO_(2)中のHfO_(2)量が0.5重量%であるZrO_(2)粉末を10重量%、NiO粉末、CoO粉末をそれぞれ0.1重量%秤量し、これを分散剤を添加した蒸留水に入れ、アトライタで混合粉砕し、粉砕後のスラリーを乾燥し、有機バインダーを添加し、さらに乾燥させて、成形用原料とし、所定寸法に成形した後、CIP処理(冷間静水圧成形)し、得られた成形体を脱バインダーし、大気雰囲気中で1450℃で2時間予備焼成した後、焼結体を熱間静水圧焼成して得られたアルミナ質焼結体」は、本願発明1の「酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%の成分に加え、更に、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、けい素、チタンのうち少なくとも1種を、酸化物換算で外重量にて3重量%以下の範囲で含有する焼結体」のうち、「酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%の成分に加え、更に、ニッケル、コバルトを、酸化物換算で外重量にて3重量%以下の範囲で含有する焼結体」という規定を満たすといえる。 【参考】 (1)原料の「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末」の純度が100%であるとき (i)焼結体における酸化アルミニウム量(重量%) =【[89.80×(98/100)]/[89.80×(98/100)+10×(100-0.5)/100]】×100=89.84(重量%) (ii)焼結体における酸化ジルコニウム量(重量%) =【[10×(100-0.5)/100]/[89.80×(98/100)+10×(100-0.5)/100]】×100=10.16(重量%) (iii)焼結体におけるニッケル、コバルトの、酸化物換算、外重量による含有割合(重量%) =【0.1/ [89.80×(98/100)+10×(100-0.5)/100]】×100=0.10(重量%) (2)原料の「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末」の純度が98%であるとき (i)焼結体における酸化アルミニウム量(重量%) =【[89.80×(100/100)]/[89.80×(100/100)+10×(100-0.5)/100]】×100=90.03(重量%) (ii)焼結体における酸化ジルコニウム量(重量%) =【[10×(100-0.5)/100]/[89.80×(100/100)+10×(100-0.5)/100]】×100=9.97(重量%) (iii)焼結体におけるニッケル、コバルトの酸化物換算、外重量による含有割合(重量%) =【0.1/[89.80×(100/100)+10×(100-0.5)/100]】×100=0.10(重量%) 次に、刊行物1発明の、「Al_(2)O_(3)の粒径が0.5μm、ZrO_(2)の粒径が0.4μmである」について検討する。 記載事項(1-あ)の「平均結晶粒径1μ以下のジルコニア」、「平均結晶粒径1.5μ以下のアルミナ」という記載、及び、記載事項(1-え)の「焼結体中のAl_(2)O_(3)の平均結晶粒径が1.5μmを越えると」、「焼結体中のZrO_(2)の平均結晶粒径が1μmを越えると」、「Al_(2)O_(3)およびZrO_(2)の平均結晶粒径は0.5μm以下が好ましい」という記載によれば、刊行物1発明では、焼結体中のAl_(2)O_(3)、ZrO_(2)の「平均結晶粒径」に着目しているといえること、また、記載事項(1-き)の、表2中の「粒径 μm」という用語は、記載事項(1-お)の、「ジルコニア(ZrO_(2))の平均結晶粒径を異ならせて」の記載から、「平均結晶粒径」を意味しているといえることを鑑みると、刊行物1発明において「Al_(2)O_(3)の粒径」、「ZrO_(2)の粒径」の「粒径」とは、「平均結晶粒径」を意味すると解することができる。 さらに、記載事項(1-お)には、「平均結晶粒径」と「平均粒径」との用語が使用され、これらはともに、記載事項(1-き)の、「粒径」を意味しているといえるところ、本願発明1においても、段落【0010】の「酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウムの結晶粒子を微細にすることで」という記載や、段落【0013】の「酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))の大きな粒子とそれ以下の小さな酸化ジルコニウム(ZrO_(2))の結晶粒子の間に」という記載からみて、「焼結体」における「酸化アルミニウム」や「酸化ジルコニウム」の「平均粒径」の「粒径」は、「結晶粒子」の径を意味しているとみることができるから、刊行物1発明の「Al_(2)O_(3)の粒径」、「ZrO_(2)の粒径」の「粒径」、および、本願発明1の「酸化アルミニウムの平均粒径」、「酸化ジルコニウムの平均粒径」の「平均粒径」はともに、「平均結晶粒径」を意味しているといえる。 そうであれば、刊行物1発明の「Al_(2)O_(3)の粒径が0.5μm、ZrO_(2)の粒径が0.4μmである」とは、本願発明1の記載ぶりに則せば「酸化アルミニウムの平均粒径が0.5μm、酸化ジルコニウムの平均粒径が0.4μmである」ということを意味するといえるが、このとき、それぞれの粒径は、本願発明1の「酸化アルミニウムの平均粒径が0.5?3μmの範囲で、且つ前記酸化ジルコニウムの平均粒径が0.1?1.0μmの範囲で」あるという規定を満たし、また、ZrO_(2)の平均粒径に対するAl_(2)O_(3)の平均粒径=(0.5/0.4)=1.25であるから、本願発明1の、「酸化ジルコニウムの平均粒径に対する前記酸化アルミニウムの平均粒径の比が1?5倍の範囲であ」る、という規定を満たす。 また、刊行物1発明の、「切削工具用」、「アルミナ質焼結体」はそれぞれ、本願発明1の、「切削工具に用いられるものである」、「アルミナ基焼結体」に相当する。 すると本願発明1と刊行物1発明とは、 「酸化アルミニウム80?95重量%及び酸化ジルコニウム5?20重量%の成分に加え、更に、ニッケル、コバルトを、酸化物換算で外重量にて3重量%以下の範囲で含有する焼結体であって、 前記酸化ジルコニウムの平均粒径に対する前記酸化アルミニウムの平均粒径の比が1?5倍の範囲であり、更に、前記酸化アルミニウムの平均粒径が0.5?3μmの範囲で、且つ前記酸化ジルコニウムの平均粒径が0.1?1.0μmの範囲である切削工具に用いられるものである酸化アルミニウム基焼結体。」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 [相違点] 本願発明1においては、酸化ジルコニウムの粒子が焼結体中に均一に分布しているのに対して、刊行物1発明にはその旨の記載がない点。 上記相違点について検討する。 記載事項(1-か)によれば、刊行物1発明の焼結体を製造するにあたり、「純度98%以上のAl_(2)O_(3)粉末、ZrO_(2)粉末及び平均粒子径1.0μm以下のNiO、CoO・・・粉末を・・秤量し、これを分散剤を添加した蒸留水に入れ、アトライタで混合粉砕」したスラリーが形成されている。すなわち、ZrO_(2)粉末は、Al_(2)O_(3)粉末、ZrO_(2)粉末、NiO粉末、CoO粉末と、混合粉砕されているといえるが、技術常識からみて、混合粉砕により、ZrO_(2)粉末は、粉砕されるとともに、その他の原料粉末と混合されて均一に分散されるといえるところ、記載事項(1-か)をみても、スラリーの形成後、焼結体が形成されるまでにZrO_(2)粉末の分布に偏りが起こるような操作を行っていないこと、記載事項(1-え)には、「焼結体中のAl_(2)O_(3)の平均結晶粒径が1.5μmを越えると母相であるAl_(2)O_(3)の強度が低くなる傾向にあり、ZrO_(2)を均一にAl_(2)O_(3)中に分散させても抗折強度は充分に向上しない。」との記載があり、この記載によれば、刊行物1発明では、焼結体においてZrO_(2)を均一にAl_(2)O_(3)中に分散させることの重要性について着目されているといえること、Al_(2)O_(3)粉末、ZrO_(2)粉末を含む混合粉末から製造したアルミナ基セラミックスは、酸化アルミニウム素地中にZrO_(2)微粒子が均一に分散している組織を有することが知られていること(必要ならば、特開平4-260657号公報の第1欄段落【0002】参照)からみれば、刊行物1発明においても、酸化ジルコニウム粒子が焼結体に均一に分散しているとみるのが自然である。 一方、本願発明1の「均一に分散」の程度について、発明の詳細な説明の段落【0019】には、「尚、均一に分散させる程度としては、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上であり、且つ0.5?2μmの範囲で離れて存在している同粒子の平均が3?10個を採用できる。」と記載されているものの、「採用できる」としたこの記載をもって、本願発明1の「均一に分散」の程度が上記段落【0019】に記載された程度の分散であるとすることはできないし、発明の詳細な説明のその他の記載をみても、本願発明1の「均一に分散」の程度がどの程度であるのかを規定する記載も見当たらない。 ここで、請求人は、平成21年3月23日に提出された回答書において、次の様に主張する。 「本願発明の様に、「分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上である」ためには、本願明細書の段落[0035]に記載の様に、72時間(3日)もの間、粉砕を行う必要があります。 この理由は、本願発明の様な細かい粉末の場合、均一に分散させることは難しく、特に、酸化ジルコニウムは、凝集し易い特徴を持っていますので、この様な長時間の粉砕が必要になるからです。」 上記主張のうち「分散の程度は,着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上である」という発明特定事項は、平成18年4月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されていたが、当該手続補正は上記のように却下されたから、この主張を直接採用することはできないが、この主張や、本願明細書中、発明の詳細な説明の段落【0029】の「超微細に粉砕した原料を、焼結体中の平均粒径が、前記請求項1に示す様な最適な範囲になるように、焼結処理及びその後のHIP処理を施すものである。これにより、・・・酸化ジルコニウムの偏析、異常な粗大粒子などの欠陥を著しく低減できる。」との記載によれば、本願発明1の「均一に分散」の程度は、一見、原料を超微粉に粉砕することや、長時間粉砕することにより、達成できる程度といえなくもない。しかしながら、そうであっても、本願発明1の焼結体を製造するに当たり、原料を超微粉に粉砕する粉砕の程度や、粉砕の時間について、明確に定義がない一方、刊行物1発明においても、記載事項(1-か)にあるように、原料粉末は、アトライタで混合粉砕されることより、ある程度の時間、ある程度のサイズにまで粉砕されるといえるから、このことをもって、本願発明1が「均一に分散」という事項により、刊行物1発明と相違するとすることはできない。なお、段落【0027】には、粉砕の程度として「平均粒径で0.2μm以下の程度」との記載があるが、本願発明1の焼結体が「平均粒径0.2μm以下の程度」まで粉砕されたものに限定されることの理由は何らなく、このような記載があったとしても、これにより、本願発明1が「均一に分散」という事項により、刊行物1発明と相違するとすることはできない。 以上のことにより、「均一に分散」という点において、本願発明1と刊行物1発明との間に差異があるとはいえず、上記相違点は実質的な相違点ではない。 III-3.むすび 以上のことから、本願発明1は刊行物1に記載された発明である。 IV.請求人の提示する補正案について 平成18年4月17日付け手続補正が却下され、平成18年1月20日付け手続補正書に補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち、本願発明1が、刊行物1に記載された発明であることは上記したとおりであるが、平成21年3月23日付けの回答書において、請求人は、以下のとおりの補正案を提示している。 (1)「引用文献1?5に記載の様な短時間の粉砕しか行われない製造工程では、本願発明の様に、「前記酸化ジルコニウムの粒子が焼結体中に均一に分散しているとともに、前記分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上である酸化アルミニウム基焼結体」は得られません。 つまり、本願発明の様に、「分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上である」ためには、本願明細書の段落[0035]に記載の様に、72時間(3日)もの間、粉砕を行う必要があります。」 (2)「本願出願人は、本願の請求項2の増項補正を撤回する用意があります。」 (3)「本願の請求項1の発明を、審査請求時の補正の際の請求項2の発明の内容に限定する用意があります。また、審査請求時の補正の際の請求項5の発明(出願当初の請求項7の発明)に限定する用意があります。」 これらについての検討を付言しておく。 「分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μm以上である」という発明特定事項は、平成18年4月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されていたが、当該手続補正は上記のように却下されたから、主張(1)を採用することはできない。 また、仮に、主張(2)のように、請求項2の増項補正が撤回されたとしても、発明の詳細な説明の実施例、比較例で「着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均」の具体的数値が記載されておらず、当該「距離の平均」をどのように測定するかも明らかでないから、「分散の程度」が、「着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μ以上」である「酸化アルミニウム基焼結体」が発明の詳細な説明中に記載されているともいえないし、発明の詳細な説明が、「分散の程度」が、「着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μ以上」という事項を当業者が実施できる程度に記載されたものであるということもできない。 そもそも、上記したように発明の詳細な説明には「着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均」をどのように測定するかについて記載されていないから、「着目する酸化ジルコニウム粒子」をどのように設定するのか、また、「他の同粒子」とは、焼結体中の、「着目する酸化ジルコニウム粒子」以外の「酸化ジルコニウム粒子」全てとするのか、あるいは一部の「酸化ジルコニウム粒子」とするのかが不明であるところ、どのように「着目する酸化ジルコニウム粒子」や「他の酸化ジルコニウム粒子」を設定するかによって、当該「着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均」の値は変わるとみられることを鑑みると、「着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μ以上」なる語自体、不明瞭である。 さらに、主張(3)にあるように、「本願の請求項1の発明を、審査請求時の補正の際の請求項2の発明の内容に限定」(ここで、「審査請求時の補正」は「審判請求時の補正」の誤記と解される)したとしても、すなわち、「分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μ以上」という特定にさらに、「0.5?2μmの範囲で離れて存在している同粒子の平均が3?10個の範囲である」という特定事項を 加えたとしても、「分散の程度は、着目する酸化ジルコニウムの粒子と他の同粒子との距離の平均が0.5μ以上」という事項が発明の詳細な説明中に記載されているともいえないこと、発明の詳細な説明が、当該事項を当業者が実施できる程度に記載されたものであるともいえないこと、当該事項が不明瞭であることは、上記したとおりである。なお、「0.5?2μmの範囲で離れて存在している同粒子の平均が3?10個の範囲である」という事項についても、発明の詳細な説明の実施例、比較例で「0.5?2μmの範囲で離れて存在している同粒子の平均」の数値が記載されておらず、また当該数値をどのように測定するかも明らかでないから、上記したのと同様に、当該事項が発明の詳細な説明に記載されているともいえないし、発明の詳細な説明が、当該事項を当業者が実施できる程度に記載されたものであるということもできない。 また、主張(3)にあるように「審査請求時の補正の際の請求項5の発明(出願当初の請求項7の発明)に限定」(ここで、「審査請求時の補正」は「審判請求時の補正」の誤記と解される。)したとしても、原料粉末の混合粉砕の程度は当業者が適宜決定し得る程度の事項であるところ、本願明細書をみても、平均粒径を0.2μm以下の粒度まで粉砕したものの具体例があるのみであるから、平均粒径を0.2μm以下としたことによる効果を具体的に把握することもできないし、また、「0.2μm」という値が有する臨界的意義も不明であるから、直ちに進歩性を有するとすることはできない。 V.まとめ 以上のとおり、本願発明1は刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-20 |
結審通知日 | 2009-08-25 |
審決日 | 2009-09-07 |
出願番号 | 特願平10-311027 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C04B)
P 1 8・ 572- Z (C04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 増山 淳子 |
特許庁審判長 |
大黒 浩之 |
特許庁審判官 |
繁田 えい子 松本 貢 |
発明の名称 | 酸化アルミニウム基焼結体及びその製造方法 |
代理人 | 足立 勉 |