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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1206237
審判番号 不服2006-14040  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-03 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 特願2000-246577「シリコン-ゲルマニウム・トランジスタの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月 6日出願公開、特開2001- 94106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年8月16日(パリ条約による優先権主張、1999年8月16日、米国)の出願であって、平成18年3月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月2日付けで手続補正がなされ、その後、当審において、平成20年11月11日付けで審尋がなされ、平成21年5月12日に回答書が提出されたものである。

第2.拒絶理由通知、意見書、拒絶査定及び審判請求書の概要
1.原審における平成17年6月30日付けの拒絶理由通知(以下、「拒絶理由通知」という。)の概要

「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(略)


<請求項10、11、23、24、32、33、及び発明の詳細な説明について>
・理由 1
請求項10、請求項23、請求項32においては、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、「シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換する」と記載されているが、CVD法は膜を蒸着する方法であって、シリコンを酸化物に変換する方法ではないから、前記請求項に係る発明をどのように実施するのかが明らかではない。
また、発明の詳細な説明においても、段落番号【0026】?【0029】には、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、シリコンを直接シリコン酸化物に変換することが記載されており、特に段落番号【0029】には、詳細な条件が記載されているが、これをみても、どのようにすれば「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、シリコンを直接シリコン酸化物に変換できるのかが明らかではない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、「シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換する」ことを規定する請求項10、請求項23、請求項32について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
請求項10、請求項23、請求項32を引用する請求項11、24、33についても同様である。」(以下、「拒絶の理由1」という。)
「<請求項1?38、及び発明の詳細な説明について>
・理由 1
発明の詳細な説明における段落番号【0025】?【0026】においては、「二酸化シリコン層52および犠牲の酸化物レベル42は、シリコンのエピタキシャル層が形成された後に取り除かれるからである。」(段落番号【0025】)、「シリコンのエピタキシャル層54の少なくとも一部分が、図6に示されているように、シリコン酸化物に変換されて安定なゲート絶縁物層56を画定する。ゲート絶縁物層56は、プラズマ強化型CVDまたは高圧酸化などの低温のプロセスを使って形成されることが好ましい。ゲート絶縁物層56はシリコンの保護層58とゲート酸化物層60とを含む。」(段落番号【0026】)と記載されており、図6には、「エピタキシャル層54」が酸化されて「シリコン保護層58」と「ゲート酸化物層60」がシリコン基板上に形成された状態が記載されている。
しかしながら、段落番号【0025】によると、エピタキシャル層54を形成した後、「二酸化シリコン層52」及び「犠牲の酸化物レベル42」が取り除かれるのであるから、シリコンのエピタキシャル層54を酸化する段階では、当該エピタキシャル層54の側面を含め、シリコン基板の表面が全て露出しているものと認められる。そして、その状態で酸化処理を行えば、シリコン基板及びシリコンのエピタキシャル層の側面を含む全ての露出面が酸化されることになるから、シリコンエピタキシャル層の上側部分のみが酸化されるとする図6の記載は、発明の詳細な記載に照らして、不明確である。
また、シリコン基板及びシリコンのエピタキシャル層の側面を含む全ての露出面が酸化された場合に、どのようにすればトランジスタを製造できるのかについては、当業者にとって明らかであるといえない。
なお、段落番号【0025】の記載からは、エピタキシャル層を形成し、酸化した後に「二酸化シリコン層52」及び「犠牲の酸化物レベル42」を除去するとも解釈できるが、その場合においては、「二酸化シリコン層52」及び「犠牲の酸化物レベル42」を除去する際に、エピタキシャル層の上側に形成されたシリコン酸化物層も同時に除去されるものと認められ、図6に記載された状態を実現することはできない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。」(以下、「拒絶の理由2」という。)

2.原審における平成17年12月28日付け意見書(以下、「意見書」という。)の概要

「拒絶の理由1」及び「拒絶の理由2」についての「意見書」における、請求人の主張は以下のとおりである。

「理由1<請求項10,11,23,24,32,33及び発明の詳細な説明>:
審査官殿は、PECVD方は、シリコンを酸化物に変換する方法ではない旨主張されています。しかしながら、この点については、“Plasma-Assisted Oxidation Anodization and Nitridation of Silicon, IBM Journal of Research and Development, Vol. 43, Number 1/2, 1999”(参考として本従来例を、同日付け物件提出書にて提出致します。)、特に本従来例8頁に記載されるように、圧力、温度及びプラズマを用いて、シリコンを酸化して二酸化シリコンを生成する旨記載されています。従って、酸化物へシリコンを変換するためのプロセスは、明細書に記載された条件下、従来公知の技術によりなされます。」(以下、「意見書での主張1」という。)
「理由1<請求項1?38、発明の詳細な説明>:
本願発明においては、エピタキシャル層を形成し酸化した後に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去されます。しかしながら、二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42を除去するエッチングからシリコンエピタキシャル層をどのように保護するかは、当業者にとって自明な技術です。例えば、二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42を除去するために用いられるフッ化水素酸に対して耐性を有するシリコン窒化物層のようなマスク層が、防護用にエピタキシャル層上にわたって堆積され、後に除去されます。このような技術は、当業者にとって公知の技術です。」(以下、「意見書での主張2」という。)

3.原審における平成18年3月29日付け拒絶査定(以下、「拒絶査定」という。)の概要

拒絶査定において、審査官は、「この出願については、平成17年6月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものである。」と判断しており、その備考(1)及び(2)は以下のとおりである。
「備考 (1)
出願人は、意見書において、「理由1<請求項10,11,23,24,32,33及び発明の詳細な説明>」に対する意見として、物件提出書にて従来例を提示した上で、「圧力、温度及びプラズマを用いて、シリコンを酸化して二酸化シリコンを生成する旨記載されています。従って、酸化物へシリコンを変換するためのプロセスは、明細書に記載された条件下、従来公知の技術によりなされます。」と主張している。
しかしながら、出願人は、PECVD法、すなわち「プラズマ強化型化学蒸着」によって、シリコンを酸化することについて、何らの釈明もしていないから、拒絶理由は解消しない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、「シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換する」ことを規定する補正後の請求項6に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(拒絶理由通知でも述べているが、「プラズマ強化型化学蒸着」(PECVD)は、その文言が示す通り、「蒸着」の方法であり、シリコンを酸化物に変換する方法ではない。そして、圧力、温度及びプラズマを用いてシリコンを酸化して二酸化シリコンを生成することができるとしても、それは、「プラズマ酸化」であり、「プラズマ強化型化学蒸着」ではない。)」(以下、「拒絶査定の備考1」という。)

備考(2)における、出願人の「意見書での主張2」に対する審査官の判断は以下のとおりである。
「しかしながら、「本願発明においては、エピタキシャル層を形成し酸化した後に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去されます。」という主張に対応した記載は、発明の詳細な説明には存在せず、この主張の根拠が明らかではない。
ゆえに、この主張は採用できないから、拒絶理由は解消しない。
(略)
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(以下、「拒絶査定の備考2」という。)

4.平成18年9月15日付けの手続補正で補正した審判請求書(以下「審判請求書」という。)の請求理由の概要

審判請求書の請求理由における「3.本件発明が特許されるべき理由」の拒絶査定の備考(1)及び(2)に対する、請求人の主張は以下のとおりである。
「備考(1):
別途提出した手続補正書において、「前記シリコンのエピタキシャル層上にシリコン酸化物層を形成するステップ」についての規定を追加いたしましたが、補正後請求項1には、シリコンのエピタキシャル層の変換に関するステップの規定がありますので、この補正によっては、補正後請求項5に規定する「前記変換はプラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」との関係において、ご指摘の点を解消しておりません。従いまして、出願人は再度の補正により対処したいと考えております。この点ご考慮いただき、補正の機会を与えていただきたくお願い申し上げます。」(以下、「審判請求書での主張1」という。)
「備考(2):
ご指摘の通り、「本願発明においては、エピタキシャル層を形成し酸化した後に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去される」との記載は、発明の詳細な説明にはありません。
本件発明においては、二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42は、エピタキシャル層の形成後で酸化の前に除去されます。このように酸化前に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去される場合、これらの層の下部層は酸化処理にさらされることになります。しかしながら、この場合酸化の深さは、シリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層41に深さを考慮すれば比較的ごく少ないものです。更なるプロセスにおいてはそのような層上に形成されるべき追加の誘電体層が要求されることから、そのような最小の酸化層が一般的に無視できることは、当業者にとって明らかです。(以下略)」(以下、「審判請求書での主張2」という。)

第3.平成18年8月2日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年8月2日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、明細書の0005段落および0007段落を補正するとともに、補正前の請求項1、3ないし8(補正前の請求項2は欠落している)を補正後の請求項1ないし7と補正するものであって、補正後の請求項1は以下のとおりである。

「【請求項1】 トランジスタを作るための方法であって、
シリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層を含んでいるシリコン基板を用意するステップと、
前記シリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層のチャネル領域上にイオン注入用マスキング層を形成するステップと、
前記チャネル領域に隣接していて分離されているソースおよびドレインの領域を画定するために、イオン注入用マスキング層を使ってシリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層の中にドーパントをイオン注入するステップと、
前記チャネル領域を露出させるために前記イオン注入の後、前記イオン注入用マスキング層を取り除くステップと、
前記露出されたチャネル領域上にシリコンのエピタキシャル層を形成するステップと、ここで、前記シリコンのエピタキシャル層は、前記ソース及びドレイン上に形成されず、
前記シリコンのエピタキシャル層上にシリコン酸化物層を形成するステップと、
前記チャネル上であり前記ソース及びドレインに隣接する前記トランジスタのためのゲート絶縁物層を画定するために前記シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換するステップと、
前記ゲート絶縁物層上に導電性のゲートを形成するステップとを含む方法。」

2.請求項1についての補正内容の整理
請求項1についての補正は、補正前の請求項1の「前記チャネル上であり前記ソース及びドレインに隣接する前記トランジスタのためのゲート絶縁物層を画定するために前記シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換するステップ」の前に、「前記シリコンのエピタキシャル層上にシリコン酸化物層を形成するステップと、」を追加するものである(以下、「補正事項1」という。)。

3.請求項1についての補正による新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項1についての補正により、補正後の請求項1は、「前記チャネル上であり前記ソース及びドレインに隣接する前記トランジスタのためのゲート絶縁物層を画定するために前記シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換するステップ」と「前記シリコンのエピタキシャル層上にシリコン酸化物層を形成するステップ」との両ステップを備えるものとなった。
(2)しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書には、「前記トランジスタのためのゲート絶縁物層を画定するために前記シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換するステップ」「を含む方法」(請求項1)、「前記トランジスタのためのゲート絶縁物層を画定するために前記シリコンのエピタキシャル層の一部分だけをシリコン酸化物に変換し、前記ゲート絶縁物層がゲート酸化物層と、前記ゲート酸化物層と前記チャネル領域との間のシリコン保護層とを含んでいる変換のステップ」「を含む方法」(請求項14)、「前記シリコンのエピタキシャル層の厚さの75?95%をシリコン酸化物に変換し、ゲート酸化物層を画定し、残りのシリコンのエピタキシャル層が前記ゲート酸化物層と前記チャネル領域との間のシリコン保護層を形成するステップ」「を含む方法」(請求項27)、「その方法は、イオン注入の後でイオン注入用マスキング層を取り除いてチャネル領域を露出させるステップと、その露出されたチャネル領域の上にシリコンのエピタキシャル層を形成するステップとをさらに含む。プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)または高圧酸化のいずれかを使って、シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分がシリコン酸化物に変換されてゲート絶縁物層を形成することが好ましい。このステップは両方とも、シリコン酸化物が形成される時にチャネル領域からゲート絶縁物層へゲルマニウムが移動するのを防ぐために、低温において行われる。導電性のゲートがゲート絶縁物層の上面に形成される。」(0009段落)、「1つの実施形態においては、シリコン・エピタキシャル層の一部分だけがシリコン酸化物に変換されてゲート絶縁物層を画定することが好ましい。」(0011段落)、「本発明のもう1つの態様は、チャネル領域と、そのチャネル領域に隣接していて分離されているソースおよびドレインの領域のペアを有するシリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層を含んでいるシリコン基板を備えるシリコン-ゲルマニウム・トランジスタに関する。ゲート絶縁物層はチャネル領域の上にある。そのゲート絶縁物層はチャネル領域に隣接したゲート酸化物層と、そのゲート酸化物層とチャネル領域との間のシリコン保護層とを含むことが好ましい。導電性のゲートはそのゲート酸化物層の上面にある。」(0012段落)、「シリコンのエピタキシャル層54の少なくとも一部分が、図6に示されているように、シリコン酸化物に変換されて安定なゲート絶縁物層56を画定する。ゲート絶縁物層56は、プラズマ強化型CVDまたは高圧酸化などの低温のプロセスを使って形成されることが好ましい。」(0026段落)、「以下の表1を参照すると、代表的なプラズマ強化型CVDのパラメータがゲート絶縁物層56を形成するために提供されている。」(0027段落)、「プラズマ強化型CVDを使ってゲート絶縁物層56を形成することに対する代替案として、高圧酸化を使うことができる。表2は高圧酸化のパラメータを好適なパラメータの値と一緒にリストしている。」(0030段落)ことが記載されている。
(3)上記(2)の摘記事項と本願の図4ないし図7を参照すると、本願の明細書及び図面には、シリコンのエピタキシャル層上にシリコン酸化物層を形成するステップを「1回」備える「トランジスタを作るための方法」のみが記載されており、「前記シリコンのエピタキシャル層上にシリコン酸化物層を形成するステップ」と、「シリコンのエピタキシャル層54」の「一部分」を変換して「シリコン酸化物層を形成するステップ」とをともに備えた「トランジスタを作るための方法」は記載されておらず、補正前の請求項1に「前記シリコンのエピタキシャル層上にシリコン酸化物層を形成するステップ」を追加する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、請求項1についての補正を含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4.本願の明細書について
平成18年8月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の明細書および図面は、平成17年12月28日付けの手続補正により補正された明細書および図面であって、その特許請求の範囲に記載される、出願時の請求項1及び10にそれぞれ対応する請求項である、請求項1及び6は以下のとおりである。

「【請求項1】 トランジスタを作るための方法であって、
シリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層を含んでいるシリコン基板を用意するステップと、
前記シリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層のチャネル領域上にイオン注入用マスキング層を形成するステップと、
前記チャネル領域に隣接していて分離されているソースおよびドレインの領域を画定するために、イオン注入用マスキング層を使ってシリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層の中にドーパントをイオン注入するステップと、
前記チャネル領域を露出させるために前記イオン注入の後、前記イオン注入用マスキング層を取り除くステップと、
前記露出されたチャネル領域上にシリコンのエピタキシャル層を形成するステップと、ここで、前記シリコンのエピタキシャル層は、前記ソース及びドレイン上に形成されず、
前記チャネル上であり前記ソース及びドレインに隣接する前記トランジスタのためのゲート絶縁物層を画定するために前記シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換するステップと、
前記ゲート絶縁物層上に導電性のゲートを形成するステップとを含む方法。」
「【請求項6】 請求項1に記載の方法において、前記変換はプラズマ強化型化学蒸着(PECVD)又は高圧酸化を使って行われ、前記PECVD又は高圧酸化は600℃以下の温度において行われる方法。」

第5.当審の判断
1.「拒絶の理由1」について
出願時の請求項10に対応する、上記第4.に記載される、請求項6について以下に検討する。

(1)原審における拒絶理由通知において、請求項6に対応する、出願時の請求項10及び発明の詳細な説明について、以下の理由により、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと指摘している。
「請求項10・・・においては、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、「シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換する」と記載されているが、CVD法は膜を蒸着する方法であって、シリコンを酸化物に変換する方法ではないから、前記請求項に係る発明をどのように実施するのかが明らかではない。
また、発明の詳細な説明においても、段落番号【0026】?【0029】には、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、シリコンを直接シリコン酸化物に変換することが記載されており、特に段落番号【0029】には、詳細な条件が記載されているが、これをみても、どのようにすれば「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、シリコンを直接シリコン酸化物に変換できるのかが明らかではない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、「シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換する」ことを規定する請求項10・・・について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。」
(2)拒絶理由通知における、上記(1)の指摘に対して、請求人は意見書において、「意見書での主張1」として、以下のとおり反論している。
「審査官殿は、PECVD方は、シリコンを酸化物に変換する方法ではない旨主張されています。しかしながら、この点については、“Plasma-Assisted Oxidation Anodization and Nitridation of Silicon, IBM Journal of Research and Development, Vol. 43, Number 1/2, 1999”(参考として本従来例を、同日付け物件提出書にて提出致します。)、特に本従来例8頁に記載されるように、圧力、温度及びプラズマを用いて、シリコンを酸化して二酸化シリコンを生成する旨記載されています。従って、酸化物へシリコンを変換するためのプロセスは、明細書に記載された条件下、従来公知の技術によりなされます。」
(3)請求人は、意見書及び審判請求書において、本願の明細書に、「プラズマ強化型化学蒸着」によって、シリコンエピタキシャル層が酸化できることが記載されているとは主張しておらず、また、本願の明細書又は図面には、「プラズマ強化型化学蒸着」によって、シリコンエピタキシャル層が酸化できることは記載されていない。
また、「プラズマ強化型化学蒸着」(PECVD)は、その文言が示す通り、「蒸着」の方法であり、シリコンを酸化物に変換する方法ではない。ここで、圧力、温度及びプラズマを用いてシリコンを酸化して二酸化シリコンを生成することができるとしても、それは、「プラズマ酸化」であり、「プラズマ強化型化学蒸着」ではない。
(4)したがって、本願の明細書には、「プラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」によって、「シリコンのエピタキシャル層の少なくとも一部分を酸化物シリコンに変換する」ことを規定する請求項6に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(5)なお、意見書に添付された文献には、プラズマ酸化に関する技術は記載されているとしても、「プラズマ強化型化学蒸着」(PECVD)に関して何ら記載されていない。
さらに、平成18年8月2日付け手続補正により補正した、上記第4.に記載される請求項6に対応する、請求項5には、「請求項1に記載の方法において、前記変換はプラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」「を使って行われ、前記PECVD」「は600℃以下の温度において行われる方法。」と記載されており、また、平成21年5月21日付けの回答書に添付された、上記請求項6に対応する、「補正案」の請求項5においても、「請求項1に記載の方法において、前記変換はプラズマ強化型化学蒸着(PECVD)」「を使って行われ、前記PECVD」「は600℃以下の温度において行われる方法。」と記載されるのみであるから、上記第4.に記載される請求項6に対応する、請求項5に記載された発明をどのようにして実施するかについて、当業者が容易に実施できるように、本願の明細書または図面に記載がなく、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

2.「拒絶の理由2」について
出願時の請求項1に対応する、上記第4.に記載される、請求項1について以下に検討する。

(1)原審における拒絶理由通知において、請求項1及び発明の詳細な説明について、以下の理由により、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと指摘している。

「発明の詳細な説明における段落番号【0025】?【0026】においては、「二酸化シリコン層52および犠牲の酸化物レベル42は、シリコンのエピタキシャル層が形成された後に取り除かれるからである。」(段落番号【0025】)、「シリコンのエピタキシャル層54の少なくとも一部分が、図6に示されているように、シリコン酸化物に変換されて安定なゲート絶縁物層56を画定する。ゲート絶縁物層56は、プラズマ強化型CVDまたは高圧酸化などの低温のプロセスを使って形成されることが好ましい。ゲート絶縁物層56はシリコンの保護層58とゲート酸化物層60とを含む。」(段落番号【0026】)と記載されており、図6には、「エピタキシャル層54」が酸化されて「シリコン保護層58」と「ゲート酸化物層60」がシリコン基板上に形成された状態が記載されている。
しかしながら、段落番号【0025】によると、エピタキシャル層54を形成した後、「二酸化シリコン層52」及び「犠牲の酸化物レベル42」が取り除かれるのであるから、シリコンのエピタキシャル層54を酸化する段階では、当該エピタキシャル層54の側面を含め、シリコン基板の表面が全て露出しているものと認められる。そして、その状態で酸化処理を行えば、シリコン基板及びシリコンのエピタキシャル層の側面を含む全ての露出面が酸化されることになるから、シリコンエピタキシャル層の上側部分のみが酸化されるとする図6の記載は、発明の詳細な記載に照らして、不明確である。
また、シリコン基板及びシリコンのエピタキシャル層の側面を含む全ての露出面が酸化された場合に、どのようにすればトランジスタを製造できるのかについては、当業者にとって明らかであるといえない。
(略)
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。」
(2)拒絶理由通知における、上記(1)の指摘に対して、請求人は意見書において、「意見書での主張2」として、以下のとおり反論している。
「本願発明においては、エピタキシャル層を形成し酸化した後に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去されます。しかしながら、二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42を除去するエッチングからシリコンエピタキシャル層をどのように保護するかは、当業者にとって自明な技術です。例えば、二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42を除去するために用いられるフッ化水素酸に対して耐性を有するシリコン窒化物層のようなマスク層が、防護用にエピタキシャル層上にわたって堆積され、後に除去されます。このような技術は、当業者にとって公知の技術です。」
(3)ここで、請求人は、「意見書での主張2」において、「・・・は、当業者にとって自明な技術です。」また、「このような技術は、当業者にとって公知の技術です。」と主張するとともに、請求人は、「審判請求書での主張2」において、「ご指摘の通り、「本願発明においては、エピタキシャル層を形成し酸化した後に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去される」との記載は、発明の詳細な説明にはありません。」と主張し、「意見書での主張2」における、「本願発明においては、エピタキシャル層を形成し酸化した後に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去されます。」との主張の根拠となる記載が本願の明細書に記載されていないことを、請求人は認めている。
さらに、「意見書での主張2」は、「本願発明においては、エピタキシャル層を形成し酸化した後に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去されます。」との主張を前提とするものであるから、「意見書での主張2」における主張の全てが本願の明細書の記載に基づかないものであることを、請求人は認めている。
(4)次に、請求人は、「審判請求書での主張2」において、「二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が、エピタキシャル層の形成後で酸化の前に除去されること」を前提として主張している。
しかしながら、「二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が、エピタキシャル層の形成後で酸化の前に除去され」た後、「高圧酸化」により、シリコンエピタキシャル層を酸化して、「ゲート酸化物層60」を形成する際には、シリコン・ゲルマニウムのエピタキシャル層50の表面と、「シリコンエピタキシャル層54」の側面が露出されているから、「ゲート酸化物層60」の形成とともに、「シリコンエピタキシャル層54」の側面にシリコン酸化膜が形成され、さらに、シリコン・ゲルマニウムのエピタキシャル層50の表面にも、シリコン・ゲルマニウムの酸化物層が形成されることは明らかである。また、「二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が、エピタキシャル層の形成後で酸化の前に除去され」た後、「プラズマ強化型化学蒸着」により、「ゲート酸化物層60」を形成する際には、シリコン・ゲルマニウムのエピタキシャル層50の表面と、「シリコンエピタキシャル層54」の側面のいずれにも、「ゲート酸化物層60」と同一組成でほぼ同じ厚さの、シリコン酸化膜が形成されることは明らかである。
したがって、「高圧酸化」を用いた「ゲート酸化物層60」の形成によっても、「プラズマ強化型化学蒸着」を用いた「ゲート酸化物層60」の形成によっても、本願の明細書に記載された方法では、本願の図6に記載される構成が形成できるものとは認められない。
(5)ここで、請求人は、「審判請求書での主張2」において、「二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が、エピタキシャル層の形成後で酸化の前に除去されること」を前提として、「このように酸化前に二酸化シリコン層52及び犠牲の酸化物層42が除去される場合、これらの層の下部層は酸化処理にさらされることになります。しかしながら、この場合酸化の深さは、シリコン-ゲルマニウムのエピタキシャル層41に深さを考慮すれば比較的ごく少ないものです。更なるプロセスにおいてはそのような層上に形成されるべき追加の誘電体層が要求されることから、そのような最小の酸化層が一般的に無視できることは、当業者にとって明らかです。」と主張している。
しかしながら、例えば、「高圧酸化」により、シリコンエピタキシャル層を酸化して、「ゲート酸化物層60」を形成する際には、上記(4)で検討したとおり、シリコンエピタキシャル層の側面にも、「ゲート酸化物層60」と同程度の厚さのシリコン酸化膜が形成されるとともに、シリコン・ゲルマニウムのエピタキシャル層50の表面にも、「ゲート酸化物層60」と同程度の厚さのシリコン・ゲルマニウムの酸化物層が形成されること、さらには、前記形成された、シリコンエピタキシャル層の側面のシリコン酸化膜、及びシリコン・ゲルマニウムのエピタキシャル層50の表面に形成されるシリコン・ゲルマニウムの酸化物層は、無視できるほど薄い酸化膜であるとは認められず、仮に、シリコンエピタキシャル層の側面のシリコン酸化膜またはシリコン・ゲルマニウムの酸化物層が無視できる程度の厚さであるとすると、同程度の厚さの「ゲート酸化物層60」も無視できる程度の厚さとなるところ、そのような「ゲート酸化物層60」を備えた半導体装置は、素子として有効な特性を備えた半導体装置とはなりえないから、請求項1に記載された発明をどのようにして実施するかについて、当業者が容易に実施できるように、本願の明細書または図面に記載されていない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(6)以上のとおりであるから、本願の明細書及び図面に記載された「方法」によっては、請求項1に記載された発明をどのようにして実施するか不明であり、また、本願の図6に記載した構造を形成することはできず、本願の発明の詳細な記載は、当業者が容易に発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項の規定により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-05 
結審通知日 2009-06-08 
審決日 2009-06-19 
出願番号 特願2000-246577(P2000-246577)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 廣瀬 文雄
近藤 幸浩
発明の名称 シリコン-ゲルマニウム・トランジスタの製造方法  
代理人 臼井 伸一  
代理人 本宮 照久  
代理人 越智 隆夫  
代理人 岡部 正夫  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 朝日 伸光  

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