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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1206254
審判番号 不服2007-1809  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 特願2003-106183「圧縮比変更機構を備えた内燃機関および内燃機関の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-308618〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は、平成15年4月10日の出願であって、平成18年6月26日付けで拒絶の理由が通知され、平成18年9月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年11月20日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し平成19年1月18日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成19年2月19日付けで審判請求の理由を補正する手続補正書及び明細書を補正する手続補正書が提出され、その後平成20年10月16日付けで書面による審尋がなされ、平成21年6月8日付けで上申書が提出されたものである。

[2]平成19年2月19日付け手続補正書でした補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成19年2月19日付け手続補正書でした補正を却下する。

〔理由〕

1.本件補正の内容
平成19年2月19日付け手続補正書による明細書の補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の下記(2)に示す請求項1乃至18の記載を下記(1)に示す請求項1乃至11のように補正するものである。

(1)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
前記吸気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段と、
前記吸入空気の圧縮の程度を表す指標たる圧縮比を、少なくとも高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能な圧縮比変更機構と、
該圧縮比変更機構が前記高圧縮比状態で固着した故障状態を検出する高圧縮比固着検出手段と、
前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、
a)前記吸気弁の開弁特性を変更する開弁特性制御、
b)吸気温度の加熱を調整する吸気加熱制御、
c)排気再循環量を変更するEGR制御、
d)吸気ポートへの燃料噴射と筒内噴射とを切り替える燃料噴射制御、
のうちの少なくとも二つを組み合わせて行う特性制御手段と
を備える内燃機関。
【請求項2】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記変更可能な開弁特性は、開弁開始時期、開弁完了時期、閉弁開始時期、閉弁完了時期、開弁速度、閉弁速度、開弁時のリフト量のうちの少なくとも一つである内燃機関。
【請求項3】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段におけるa)開弁特性制御は、前記吸気弁の閉弁のタイミングにより定まる、前記吸入空気の圧縮が実質的に開始される圧縮開始時の燃焼室内容積と、圧縮終了時の燃焼室内容積とによって求めた前記圧縮比たる実圧縮比が小さくなる方向に、前記吸気弁の閉弁のタイミングを変更する制御である内燃機関。
【請求項4】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段におけるa)開弁特性制御は、吸気行程中の上死点から吸気下死点までの期間で前記吸気弁が閉弁している期間が短くなる方向に、該吸気弁の開弁特性を変更する制御である内燃機関。
【請求項5】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記燃焼によって生じた燃焼ガスを前記燃焼室から排出するための排気弁と、
該排気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該排気弁を駆動する排気弁駆動手段と
を備え、
前記特性制御手段におけるc)EGR制御は、前記燃焼室内に残留する前記燃焼ガスが減少する方向に、前記排気弁の開弁特性を変更する制御である
内燃機関。
【請求項6】 請求項5記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段におけるa)開弁特性制御は、前記吸気弁と前記排気弁とが同時に開弁している期間が減少するように、該吸気弁および該排気弁の少なくともいずれかの開弁特性を変更する制御である内燃機関。
【請求項7】 請求項5記載の内燃機関であって、
前記内燃機関の吸気行程中に前記排気弁を駆動するか、あるいは排気行程中に前記吸気弁を駆動するかの少なくとも一方の動作を行うことによって、前記燃焼ガスを前記燃焼室内に残留させる燃焼ガス残留手段を備え、
前記特性制御手段におけるc)EGR制御は、前記燃焼ガス残留手段の動作を抑制する制御である内燃機関。
【請求項8】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記燃焼によって生じた燃焼ガスを排出するための排気通路と、
前記排気通路から排出される燃焼ガスの一部を前記吸気通路内に還流させる燃焼ガス還流手段と
を備え、
前記特性制御手段におけるc)EGR制御は、前記吸気通路内に還流される燃焼ガスの還流量を抑制する制御である内燃機関。
【請求項9】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記吸気通路内で前記吸入空気を加熱する吸気加熱手段を備え、
前記制御手段におけるb)吸気加熱制御は、前記吸入空気の加熱を抑制する制御である内燃機関。
【請求項10】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記吸気通路内に燃料を噴射する第1の燃料噴射弁と、
前記燃焼室内に燃料を噴射する第2の燃料噴射弁と、
前記内燃機関の運転条件を検出する運転条件検出手段と、
前記検出した運転条件に応じて、前記第1の燃料噴射弁および前記第2の燃料噴射弁を駆動する燃料噴射弁駆動手段と
を備え、
前記特性制御手段におけるd)燃料噴射制御は、前記第1の燃料噴射弁に対する前記第2の燃料噴射弁の駆動割合を増加させる制御である内燃機関。
【請求項11】 吸気弁を介して燃焼室に吸い込んだ吸入空気の圧縮の程度を表す圧縮比を少なくとも高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能であり、該吸入空気を圧縮して燃料とともに燃焼させる内燃機関の制御方法であって、
前記圧縮比が前記高圧縮比状態から切り替え不能な故障状態となったことを検出し、
前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、
a)前記吸気弁の開弁特性を変更する開弁特性制御、
b)吸気温度の加熱を調整する吸気加熱制御、
c)排気再循環量を変更するEGR制御、
d)吸気ポートへの燃料噴射と筒内噴射とを切り替える燃料噴射制御、
のうちの少なくとも二つを組み合わせて行う
内燃機関の制御方法。」(下線部は補正箇所を示す。)

(2)本件補正前の特許請求の範囲、請求項1乃至18
「【請求項1】 吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
前記吸気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段と、
前記吸入空気の圧縮の程度を表す指標たる圧縮比を、少なくとも高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能な圧縮比変更機構と、
該圧縮比変更機構が前記高圧縮比状態で固着した故障状態を検出する高圧縮比固着検出手段と、
前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、前記吸気弁の開弁特性を変更する制御を行う特性制御手段と
を備える内燃機関。
【請求項2】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記変更可能な開弁特性は、開弁開始時期、開弁完了時期、閉弁開始時期、閉弁完了時期、開弁速度、閉弁速度、開弁時のリフト量のうちの少なくとも一つである内燃機関。
【請求項3】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記吸気弁の閉弁のタイミングにより定まる、前記吸入空気の圧縮が実質的に開始される圧縮開始時の燃焼室内容積と、圧縮終了時の燃焼室内容積とによって求めた前記圧縮比たる実圧縮比が小さくなる方向に、前記吸気弁の閉弁のタイミングを変更する制御を行う手段である内燃機関。
【請求項4】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段は、前記故障状態が検出された場合には、吸気行程中の上死点から吸気下死点までの期間で前記吸気弁が閉弁している期間が短くなる方向に、該吸気弁の開弁特性を変更する制御を行う手段である内燃機関。
【請求項5】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記燃焼によって生じた燃焼ガスを前記燃焼室から排出するための排気弁と、
該排気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該排気弁を駆動する排気弁駆動手段と
を備え、
前記特性制御手段は、前記吸気弁の開弁特性の前記制御に加えて、または前記吸気弁の開弁特性の前記制御に代えて、前記燃焼室内に残留する前記燃焼ガスが減少する方向に、
前記排気弁の開弁特性を変更する制御を行う手段である
内燃機関。
【請求項6】 請求項5記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段は、前記吸気弁と前記排気弁とが同時に開弁している期間が減少するように、該吸気弁および該排気弁の少なくともいずれかの開弁特性を変更する制御を行う手段である内燃機関。
【請求項7】 請求項5記載の内燃機関であって、
前記内燃機関の吸気行程中に前記排気弁を駆動するか、あるいは排気行程中に前記吸気弁を駆動するかの少なくとも一方の動作を行うことによって、前記燃焼ガスを前記燃焼室内に残留させる燃焼ガス残留手段を備え、
前記特性制御手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼ガス残留手段の動作を抑制する手段である内燃機関。
【請求項8】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記制御に加えて、前記吸気通路から吸い込む吸入空気の温度を直接低下する所定の制御を行う内燃機関。
【請求項9】 請求項8記載の内燃機関であって、
前記燃焼によって生じた燃焼ガスを排出するための排気通路と、
前記排気通路から排出される燃焼ガスの一部を前記吸気通路内に還流させる燃焼ガス還流手段と
を備え、
前記制御手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記吸気通路内に還流される燃焼ガスの還流量を抑制する手段である内燃機関。
【請求項10】 請求項8記載の内燃機関であって、
前記吸気通路内で前記吸入空気を加熱する吸気加熱手段を備え、
前記制御手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記吸入空気の加熱を抑制する手段である内燃機関。
【請求項11】 請求項8記載の内燃機関であって、
前記吸気通路内に燃料を噴射する第1の燃料噴射弁と、
前記燃焼室内に燃料を噴射する第2の燃料噴射弁と、
前記内燃機関の運転条件を検出する運転条件検出手段と、
前記検出した運転条件に応じて、前記第1の燃料噴射弁および前記第2の燃料噴射弁を駆動する燃料噴射弁駆動手段と
を備え、
前記制御手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記第1の燃料噴射弁に対する前記第2の燃料噴射弁の駆動割合を増加させる手段である内燃機関。
【請求項12】 請求項1記載の内燃機関であって、
前記特性制御手段は、前記故障状態が検出された場合に、前記燃焼室の壁面温度を低下させる燃焼室温度低下手段を備える内燃機関。
【請求項13】 請求項12記載の内燃機関であって、
前記燃焼室に供給される冷却水の温度を設定する冷却水温度設定手段を備え、
前記燃焼室温度低下手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記冷却水温度の設定を低下させる手段である内燃機関。
【請求項14】 請求項12記載の内燃機関であって、
前記燃焼室に供給される冷却水の温度を設定する冷却水温度設定手段と、
前記内燃機関の運転条件を検出する運転条件検出手段と、
前記検出した運転条件が所定の運転条件にある場合には、前記冷却水温度の設定を高く設定して前記内燃機関を制御する高水温制御を行う高水温制御手段と
を備え、
前記燃焼室温度低下手段は、前記故障状態が検出された場合には、前記高水温制御を抑制する手段である内燃機関。
【請求項15】 吸気弁を介して燃焼室に吸い込んだ吸入空気の圧縮の程度を表す圧縮比を少なくとも高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能であり、該吸入空気を圧縮して燃料とともに燃焼させる内燃機関の制御方法であって、
前記圧縮比が前記高圧縮比状態から切り替え不能な故障状態となったことを検出し、
前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、前記吸気弁の開弁特性を変更する
内燃機関の制御方法。
【請求項16】 請求項15記載の内燃機関の制御方法であって、
前記故障状態が検出された場合には、前記吸気弁の開弁特性の変更に加えて、または前記吸気弁の開弁特性の変更に代えて、前記燃焼された燃焼ガスを排気する排気弁の開弁特性を変更する
内燃機関の制御方法。
【請求項17】 請求項15記載の内燃機関の制御方法であって、
前記故障状態が検出された場合には、前記吸気弁の開弁特性の制御に加えて、前記吸気通路から吸い込む吸入空気の温度を直接低下する所定の制御を行う
内燃機関の制御方法。
【請求項18】 請求項15記載の内燃機関の制御方法であって、
前記故障状態が検出された場合には、前記吸気弁の開弁特性の制御に加えて、前記燃焼室の壁面温度を低下させる制御を行う
内燃機関の制御方法。」

2.本件補正の適否
本件補正により、本件補正前の請求項8、12乃至14及び16乃至18が削除され、これに伴い、本件補正前の請求項9乃至11及び15は、本件補正によりそれぞれ請求項8乃至11と繰り上がった。また、本件補正前の請求項1に記載されていた「故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、前記吸気弁の開弁特性を変更する制御を行う特性制御手段」について、本件補正により、「前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、
a)前記吸気弁の開弁特性を変更する開弁特性制御、
b)吸気温度の加熱を調整する吸気加熱制御、
c)排気再循環量を変更するEGR制御、
d)吸気ポートへの燃料噴射と筒内噴射とを切り替える燃料噴射制御、
のうちの少なくとも二つを組み合わせて行う特性制御手段」とされたが、当該補正により、本件補正前には必須とされていた「吸気弁の開弁特性を変更する制御」について、他の3つの制御パラメータを追加して4つの選択枝となった制御パラメータの一つとなったものであり、本件補正後の請求項1は当該「吸気弁の開弁特性を変更する制御」を行わないものを包含するように変更するものとなっている。このような補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に規定する、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明の何れかを目的とするものとは認められない。

また、本件補正前の請求項15についても、「前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、前記吸気弁の開弁特性を変更する」と記載されていたことを、本件補正後の請求項11に記載されたように「前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、
a)前記吸気弁の開弁特性を変更する開弁特性制御、
b)吸気温度の加熱を調整する吸気加熱制御、
c)排気再循環量を変更するEGR制御、
d)吸気ポートへの燃料噴射と筒内噴射とを切り替える燃料噴射制御、
のうちの少なくとも二つを組み合わせて行う」と補正されたものであり、上記請求項1に関する補正と同様に本件補正前には必須とされていた事項について、別の選択枝を追加した上で選択枝の1つに変更するものであるから、上記請求項1について判断したと同様に、本件補正前の請求項15を本件補正後の請求項11のようにする補正は、上記特許法第17条の2第4項各号に規定する、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明の何れかを目的とするものとは認められない。

したがって、本件補正は上記特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

しかし、仮に、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとして、本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、本件特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて以下に検討する。

3.独立特許要件について
(1)刊行物1に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭62-191545号(実開平1-95576号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、次のことが記載されている。

a)「(1)圧縮比可変機構を備えた内燃機関において、圧縮比が高圧縮比状態にスティックしているか否かを検出する圧縮比異常検出手段と、この異常検出手段の信号に基づいて点火時期を遅角側に補正する点火時期補正手段とを備えたことを特徴とする可変圧縮比内燃機関の制御装置。」(明細書第1頁第5乃至10行)

b)「この考案は、圧縮比可変機構を備えた内燃機関において、一部気筒の圧縮比が高圧縮比状態にスティックしている異常時に点火時期を遅角側へ補正するようにした可変圧縮比内燃機関の制御装置に関する。
従来の技術
近時、自動車用内燃機関にあっては、低負荷時における熱効率の向上と高負荷時におけるノッキングの抑制との両立などを図るために、従来から種々の可変圧縮比内燃機関が提案されている。例えば、実開昭58-25637号公報に記載されたものは、インナピストンとアウタピストンの二重構造にすると共に、インナピストンとアウタピストンとの間に液室を形成し、低負荷領域には、液室に油圧を供給してアウタピストンをインナピストンに対して上方へ相対移動させて高圧縮比状態を得る一方、高負荷領域には、液室内の油を排出してアウタピストンを下方へ相対移動させて低圧縮比状態を創成するようになっている。」(明細書第1頁第13行乃至第2頁第11行)

c)「しかしながら、上記のように各気筒毎に圧縮比可変機構を備えた可変圧縮比内燃機関にあっては、何んらかの原因で一部気筒の圧縮比可変機構が故障を起こしてアウタピストンがインナピストンに対して相対的に上方に移動したままスティックしてしまう、つまり高圧縮比状態を保持したまま固着してしまう場合がある。そして、このような圧縮比の異常事態を運転者が気付かずに運転を継続し、特に高負荷で運転した場合には、トルク変動により非常に大きな機関振動が引き起こされるのは勿論のこと、激しいノッキングを生じて機関が損傷する虞れがある。
問題点を解決するための手段及び作用
この考案は、上記のような問題点に鑑みて案出されたもので、第1図に示すように圧縮比可変機構を備えた内燃機関Aにおいて、圧縮比が高圧縮比状態にスティックしているか否かを検出する圧縮比異常検出手段Bと、この圧縮比異常検出手段Bからの異常検出信号に基づいて点火時期を遅角側に補正する補正手段Cとを備えたことを特徴としている。したがって、高圧縮比状態にスティックしている気筒の点火時期が大巾に遅角制御されることにより、特に高負荷運転時におけるノッキングを確実に回避できる。」(明細書第2頁第18行乃至第4頁第1行)

d)上記a)、b)及び第2図からみて、刊行物1に記載された可変圧縮比内燃機関は、吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力するものであることは明らかであり、また当該吸気弁については、何らかの駆動機構を備えたものであることも明らかである。

e)上記c)からみて、刊行物1に記載された可変圧縮比内燃機関は、高圧縮比状態にスティック、すなわち固着したことを検出した場合には、ノッキングを回避するように制御する(点火時期)補正手段Cを備えるものであることがわかる。

f)以上のこと及び図面の記載からみて、刊行物1には以下の発明が記載されているといえる。

「吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
前記吸気弁を駆動する駆動手段と、
前記吸入空気の圧縮の程度を示す指標たる、高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能な圧縮比可変機構と、
該圧縮比可変機構が前記高圧縮比状態にスティックしているか否かを検出する圧縮比異常検出手段Bと、
前記高圧縮比状態にスティックしていることが検出された場合には、ノッキングを回避するように点火時期を遅角側に補正する補正手段C、
を備える可変圧縮比内燃機関。」(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)

(2)本願補正発明と刊行物1に記載された発明との対比
本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の備える「圧縮比可変機構」、「スティックしているか否か」、「圧縮比異常検出手段B」及び「可変圧縮比内燃機関」は、それぞれ本願補正発明の備える「圧縮比変更機構」、「固着した故障状態」、「高圧縮比固着検出手段」及び「内燃機関」に相当し、また、刊行物1に記載された発明の備える「駆動手段」は吸気弁の開弁特定を変更可能であるかどうか明らかではないが、吸気弁を駆動するものである限りにおいて本願補正発明の備える「吸気弁駆動手段」と共通するものである。
さらに、本願補正発明において「燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる」なることは、ノッキングの発生を確実に回避しつつ内燃機関を運転可能とすることを目的とするものである(本願の発明の詳細な説明、段落【0008】)ことを参酌すると、刊行物1に記載された発明の備える「前記高圧縮比状態にスティックしていることが検出された場合には、ノッキングを回避するように点火時期を遅角側に補正する補正手段C」は、内燃機関が「高圧縮比状態に固着した場合に内燃機関に生ずるノッキングを回避する方向に制御パラメータを制御する制御手段」である点、本願補正発明の「前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、
a)前記吸気弁の開弁特性を変更する開弁特性制御、
b)吸気温度の加熱を調整する吸気加熱制御、
c)排気再循環量を変更するEGR制御、
d)吸気ポートへの燃料噴射と筒内噴射とを切り替える燃料噴射制御、
のうちの少なくとも二つを組み合わせて行う特性制御手段」と共通するものである。

したがって、両者は次の一致点及び相違点を有するものである。

〈一致点〉
「吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段と、
前記吸入空気の圧縮の程度を表す指標たる圧縮比を、少なくとも高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能な圧縮比変更機構と、
該圧縮比変更機構が前記高圧縮比状態で固着した故障状態を検出する高圧縮比固着検出手段と、
前記故障状態が検出された場合には、ノッキングを回避する方向に制御パラメータを制御する制御手段と
を備える内燃機関。」

〈相違点〉
1)本願補正発明は「吸気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段」を備えるものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は「吸気弁を駆動する駆動手段」を備えるものである点(以下、「相違点1」という。)。

2)本願補正発明は「故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、
a)前記吸気弁の開弁特性を変更する開弁特性制御、
b)吸気温度の加熱を調整する吸気加熱制御、
c)排気再循環量を変更するEGR制御、
d)吸気ポートへの燃料噴射と筒内噴射とを切り替える燃料噴射制御、
のうちの少なくとも二つを組み合わせて行う特性制御手段」を備えるものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は「高圧縮比状態にスティックしていることが検出された場合には、ノッキングを回避するように点火時期を遅角側に補正する補正手段C」を備えるものである点(以下、「相違点2」という。)。

(3)当審の判断
以下、上記2つの相違点について検討する。

1)相違点1について
吸気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段は、文献を挙げるまでもなく本願出願前において周知であり、また当該吸気弁の開弁特性変更可能な特性変更機構を備え吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段を圧縮比可変機構と併用することも、本願出願前に周知の技術(必要であれば、特開2002-285876号公報、特開2002-339737号公報等を参照されたい。以下、「周知技術1」という。)であり、刊行物1に記載された発明の吸気弁を駆動する駆動機構として当該周知技術1を採用し、相違点1に係る本願発明のようにすることは、当業者にとりごく普通に想到する程度のことにすぎない。

2)相違点2について
まず、a)吸気弁の開弁特性を変更し吸気温度を下げノッキングを回避することは原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-323146号公報(以下、「刊行物2」という。)に、b)吸気(温度)の加熱を調整してノッキングを制御することは原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-62589号公報(以下、「刊行物3」という。)に、c)排気再循環を変更するEGR制御を行い混合気(圧縮される吸入空気)の温度を制御しノッキングを回避することは原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-51727号公報(以下、「刊行物4」という。)又は特開2000-64863号公報(以下、「刊行物5」という。)に、また、d)吸気ポートへの燃料噴射と筒内噴射との配分を調整・切替え行うことにより燃焼室内の冷却作用を調整しノッキングを回避するように制御することが原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-20837号公報(以下、「刊行物6」という。)に、各々記載されている(各々「刊行物2に記載された技術」、「刊行物3に記載された技術」、「刊行物4に記載された技術」、「刊行物5に記載された技術」及び「刊行物6に記載された技術」という。)。これらのことと、ノッキング制御等の内燃機関の制御において圧縮比、EGR量、吸排気バルブタイミング等の制御パラメータのうち1又は複数を制御してノッキングあるいは燃焼室内の高温燃焼を回避するようにすることは本願出願前において周知の技術(必要があれば、特開2001-152908号又は特開2002-339737号公報等を参照されたい。以下、「周知技術2」という。)であることを考慮すると、刊行物1に記載された発明の補正手段Cについて、同じく吸気温度等を低減しノッキングを回避する技術である点技術分野を同じくする上記刊行物2乃至6に記載された技術を適宜組み合わせ、上記相違点2に係る本願補正発明のようにすることは、当業者にとり通常の創作力の範囲で適宜になし得る程度のことにすぎない。

また、本願補正発明を全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2乃至6に記載された技術並びに周知技術1及び2と比べ、格別顕著な効果が生じたものとも認められない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は刊行物1に記載された発明及び刊行物2乃至6に記載された技術並びに及び周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
上記2.において判断したとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正が、仮に特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、上記3.において判断したとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記結論のとおり決定する。

[3]本願発明について

1.本願発明
平成19年2月19日付け手続補正書によりなした明細書の補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1乃至18に係る発明は、平成18年9月4日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至18に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は以下のとおりである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】 吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
前記吸気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段と、
前記吸入空気の圧縮の程度を表す指標たる圧縮比を、少なくとも高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能な圧縮比変更機構と、
該圧縮比変更機構が前記高圧縮比状態で固着した故障状態を検出する高圧縮比固着検出手段と、
前記故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、前記吸気弁の開弁特性を変更する制御を行う特性制御手段と
を備える内燃機関。」

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記[2]、〔理由〕、3、(2)に指摘したとおりの、次の発明が記載されている。

「吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
前記吸気弁を駆動する駆動手段と、
前記吸入空気の圧縮の程度を示す指標たる、高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能な圧縮比可変機構と、
該圧縮比可変機構が前記高圧縮比状態にスティックしているか否かを検出する圧縮比異常検出手段Bと、
前記高圧縮比状態にスティックしていることが検出された場合には、ノッキングを回避するように点火時期を遅角側に補正する補正手段C、
を備える可変圧縮比内燃機関。」

3.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の備える「圧縮比可変機構」、「スティックしているか否か」、「圧縮比異常検出手段B」及び「可変圧縮比内燃機関」は、それぞれ本願発明の備える「圧縮比変更機構」、「固着した故障状態」、「高圧縮比固着検出手段」及び「内燃機関」に相当し、また、刊行物1に記載された発明の備える「駆動手段」は吸気弁の開弁特定を変更可能であるかどうか明らかではないが、吸気弁を駆動するものである限りにおいて本願発明の備える「吸気弁駆動手段」と共通するものである。
さらに、本願発明において「燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる」なることは「ノッキングの発生を確実に回避しつつ内燃機関を運転可能」とすることを目的とするものである(本願の発明の詳細な説明、段落【0008】)ことを参酌すると、刊行物1に記載された発明の備える「前記高圧縮比状態にスティックしていることが検出された場合には、ノッキングを回避するように点火時期を遅角側に補正する補正手段C」は、「内燃機関が高圧縮比状態に固着した場合に内燃機関に生ずるノッキングを回避する方向に制御パラメータを制御する制御手段」である点、本願発明の「故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、前記吸気弁の開弁特性を変更する制御を行う特性制御手段」と共通するものである。

したがって、両者は「吸気弁から吸い込んだ吸入空気を燃焼室内で圧縮し、燃料とともに燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
前記該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段と、
前記吸入空気の圧縮の程度を表す指標たる圧縮比を、少なくとも高圧縮比状態と低圧縮比状態とに変更可能な圧縮比変更機構と、
該圧縮比変更機構が前記高圧縮比状態で固着した故障状態を検出する高圧縮比固着検出手段と、
前記故障状態が検出された場合には、ノッキングを回避する方向に制御パラメータを制御する制御手段と
を備える内燃機関。」である点一致し、以下の相違点を有するものである。

〈相違点〉
1)本願発明は「吸気弁の開弁特性を変更可能な特性変更機構を備え、該吸気弁を駆動する吸気弁駆動手段」を備えるものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は「該吸気弁を駆動する駆動手段」を備えるものである点(以下、「相違点3」という。)。

2)本願発明は「故障状態が検出された場合には、前記燃焼室内で圧縮される吸入空気の温度を低下させる方向に、前記吸気弁の開弁特性を変更する制御を行う特性制御手段」を備えるものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は「高圧縮比状態にスティックしていることが検出された場合には、ノッキングを回避するように点火時期を遅角側に補正する補正手段C」を備えるものである点(以下、「相違点4」という。)。

4.当審の判断
(1)相違点3について
上記相違点1について判断したと同様であるが、刊行物1に記載された発明の吸気弁を駆動する駆動機構として当該周知技術1を採用し、相違点1に係る本願発明のようにすることは、当業者にとりごく普通に想到する程度のことにすぎない。

(2)相違点4について
吸気弁の開弁特性を変更し吸気温度を下げノッキングを回避することは原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2に記載されており、刊行物2に記載された技術と、ノッキング制御等の内燃機関の制御技術において、圧縮比、吸排気バルブタイミング等の複数の制御パラメータのうち1又は複数を制御してノッキングあるいは燃焼室内の高温燃焼を回避するようにすることは、上記周知技術2のとおり本願出願前において周知のことであることを考慮すると、刊行物1に記載された発明の補正手段Cについて、同じく吸気温度等を低減しノッキングを回避する技術である点技術分野を同じくする上記刊行物2に記載された技術を組み合わせ、上記相違点4に係る本願発明のようにすることは、当業者にとり通常の創作力の範囲で適宜になし得る程度のことにすぎない。
また、本願発明を全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2と比べ、格別顕著な効果が生じたものとも認められない。

5.むすび、
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、上記結論の通り審決する。
 
審理終結日 2009-08-07 
結審通知日 2009-08-11 
審決日 2009-09-04 
出願番号 特願2003-106183(P2003-106183)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 57- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉橋 紀夫鹿角 剛二  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 森藤 淳志
柳田 利夫
発明の名称 圧縮比変更機構を備えた内燃機関および内燃機関の制御方法  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  
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