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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24H
管理番号 1206274
審判番号 不服2007-14985  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-24 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 特願2000-316892号「貯湯装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年4月26日出願公開、特開2002-122351号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成12年10月17日の特許出願であって、平成19年4月19日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年4月25日)、これに対し、同年5月24日に拒絶査定不服審判が請求され、さらに、同年6月25日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成19年6月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年6月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された(以下「本件補正発明」という。)。
「内部に高温層と低温層の2つの貯湯領域を有する状態で湯を貯める貯湯槽を有する貯湯設備と、前記貯湯槽下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を前記貯湯槽の上部に戻すCO_(2)ヒートポンプと、前記貯湯槽内の湯を加熱源として用いる熱交換器と、前記熱交換器において加熱源として使用した湯を前記貯湯槽に戻す配管と、給湯口へと給水または給湯する給湯管と、前記貯湯槽に接続され、前記熱交換器において加熱源として使用し、温度が低下した湯を優先的に前記給湯管へと流出させる取水管と、前記貯湯槽の下部に接続され、給水圧により前記貯湯槽内に給水する給水配管とを有し、前記取水管は、前記CO_(2)ヒートポンプによって加熱された湯が前記貯湯槽に戻る位置とは異なる位置に接続されていることを特徴とする貯湯装置。」(下線は当審にて付与。)

上記補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「2つの貯湯領域」について「内部に高温層と低温層の2つの貯湯領域」と限定し、同様に、
「前記熱交換器において加熱源として使用した湯が優先的に供給される給湯設備と・・・を有し」との事項を「給湯口へと給水または給湯する給湯管と、前記貯湯槽に接続され、前記熱交換器において加熱源として使用し、温度が低下した湯を優先的に前記給湯管へと流出させる取水管と・・・を有し、前記取水管は、前記CO_(2)ヒートポンプによって加熱された湯が前記貯湯槽に戻る位置とは異なる位置に接続されている」と限定し、
「前記熱交換器において加熱源として使用した後の湯が前記貯湯槽内に流入する」との事項を「前記熱交換器において加熱源として使用した湯を前記貯湯槽に戻す配管と・・・を有し」と限定するとともに、
「貯湯槽下部から流出した湯を加熱するCO_(2)ヒートポンプと、・・・とを有し、前記CO_(2)ヒートポンプによって加熱された湯を前記貯湯槽上部に流入させ」とあったところを「貯湯槽下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を前記貯湯槽の上部に戻すCO_(2)ヒートポンプと・・・を有し、」と、補正に伴い必要となった文章の整合を図るものであって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2.独立特許要件
2-1進歩性について
(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-121157号公報(以下「刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「本発明は、給湯路が上部に接続された貯湯タンクと、その貯湯タンク内に湯水が温度成層を形成して貯湯されるように、貯湯タンクの底部から取り出した湯水を加熱手段にて加熱したのち、その温水を前記貯湯タンクの上部に供給する貯湯用循環状態で湯水を循環する湯水循環手段と、運転を制御する制御手段とが設けられた貯湯式の給湯熱源装置に関する。」(段落【0001】)
イ.「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のものでは、貯湯タンクへの貯湯を行う熱交換部と外部放熱部が兼用するように設けられているために、貯湯タンクへの貯湯を行うときには、加熱手段による熱を外部放熱部に奪われ、逆に、外部放熱部における放熱を行うときには、加熱手段による熱を熱交換部に奪われ、貯湯タンクへの貯湯および外部放熱部における放熱のそれぞれを効率よく行えないことがあった。
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、貯湯タンクへの貯湯および外部放熱部における放熱のそれぞれを効率よく行うことができる貯湯式の給湯熱源装置を提供する点にある。」(段落【0004】および【0005】、下線は当審にて付与、以下同様。)
ウ.「【発明の実施の形態】本発明にかかる貯湯式の給湯熱源装置をエンジンヒートポンプ式冷暖房給湯システムに適応した例を図面に基づいて説明する。このエンジンヒートポンプ式冷暖房給湯システムは、図1に示すように、室内の冷暖房をするエンジンヒートポンプ式冷暖房装置Cが設けられ、このエンジンヒートポンプ式冷暖房装置Cのエンジン排熱およびヒートポンプ式冷暖房における排熱、ならびに、補助熱源を利用しながら貯湯タンク1内の湯水を加熱する加熱手段としての加熱部K、貯湯タンク1内の湯を利用して放熱する外部放熱部Hのそれぞれが貯湯タンク1内の湯水を循環するための循環路2に設けられ、循環ポンプ3を作動させて貯湯タンク1内の湯水を循環路2にて循環するようにしている。そして、エンジンヒートポンプ式冷暖房装置Cの運転、加熱部Kおよび循環ポンプ3などの動作を制御する制御手段としての制御装置Sが設けられている。
前記貯湯タンク1には、その底部から貯湯タンク1に水道水圧を用いて給水する給水路4が接続され、その上部から風呂場や台所などの給湯栓5に給湯する給湯路6が接続され、給湯栓5で使用された量だけの水を給水路4から貯湯タンク1に給水するようにしている。また、循環路2を通流する湯水を貯湯タンク1内に戻す、または、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すために、循環路2と貯湯タンク1とが、貯湯タンク1の上部、中間部、底部の3箇所で連通接続されている。
つまり、貯湯タンク1の上部には、循環路2と貯湯タンク1とを接続する上部接続路7aと、循環路2と上部接続路7aとの接続箇所に上部用三方弁7bとが設けられ、貯湯タンク1の中間部には、循環路2と貯湯タンク1とを接続する中間部接続路8aと、循環路2と中間部接続路8aとの接続箇所に中間部用三方弁8bとが設けられ、貯湯タンク1の底部には、循環路2と貯湯タンク1とを接続する底部接続路9aと、循環路2と底部接続路9aとの接続箇所に底部用三方弁9bとが設けられている。
したがって、各三方弁7b,8b,9bを切換えることによって、循環路2を通流する湯水を貯湯タンク1に戻したり、または、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すようにし、湯水循環手段Jが、循環路2、循環ポンプ3、各接続路7a,8a,9a、各三方弁7b,8b,9bなどによって構成されている。また、上部用三方弁7bにより、加熱部Kにて加熱した温水を、外部放熱部Hに分岐供給する温水量を変更調節自在に構成している。
また、貯湯タンク1内に加熱された湯を貯湯する際には、底部接続路9aにより貯湯タンク1の底部の水を循環路2に取り出し、その水を加熱部Kで加熱しながら循環路2を循環させて、その加熱された湯を上部接続路7aにより貯湯タンク1の上部に戻して温度成層を形成して貯湯する。そして、その貯湯量が必要最小貯湯量以上であるかを、その湯温を検出することにより検出する貯湯温サーミスタ10、必要最小貯湯量よりも設定量だけ多い余剰貯湯量以上であるかを、その湯温を検出することにより検出する余剰貯湯状態検出手段としての余剰湯温サーミスタ11が設けられている。なお、必要最小貯湯量とは、給湯栓5にて給湯することが予測される範囲の給湯量で行われるときに、湯切れが生じないように予め貯湯しておく貯湯量のことである。そして、貯湯温サーミスタ10の設置位置は、貯湯タンク1と中間接続路8aとの接続箇所よりも上方に位置し、余剰湯温サーミスタ11の設置位置は、貯湯タンク1と中間部接続路8aとの接続箇所よりも下方に位置する。」(段落【0012】ないし【0016】)
エ.「具体的に説明すると、給湯用操作装置KSにより運転が指令されている状態で、貯湯タンク1内に必要最小貯湯量の貯湯がされていないと、すなわち、貯湯温サーミスタ10による検出温度が設定温度未満であると、図3に示すように、循環ポンプ3を作動させ、貯湯タンク1の底部の水を循環路2に取り出すように底部用三方弁9bを切換えて、貯湯タンク1の底部の水を加熱部Kにて加熱しながら循環させる。そして、例えば、循環路2を通流する湯水が十分に加熱される設定時間が経過すると、あるいは、循環路2における湯水の温度が設定温度以上になると、循環路2を通流する湯を貯湯タンク1の上部に戻すように上部用三方弁7bを切り換えて、加熱された湯を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯を行う。
このようにして、貯湯タンク1内に湯水が温度成層を形成して貯湯されるように、その貯湯量が必要最小貯湯量よりも設定量だけ多い余剰貯湯量になるまで、すなわち、余剰湯温サーミスタ11による検出温度が設定温度以上になるまで、貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱したのち、その温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯用循環状態において貯湯を行う貯湯運転を実行する。
また、上述の貯湯タンク1への貯湯が行われた後、給湯用操作装置KSの指令により風呂追焚きが指令されるか、床暖房装置の運転が開始されるか、または、その両方がされて、風呂追焚き用循環ポンプ15aや床暖房用循環ポンプ16aが作動され、放熱処理の実行が要求されると、循環ポンプ3を作動させ、底部接続路9aからの湯水と循環路2からの湯水とが混合するように底部用三方弁9bを切り換え、加熱部Kにて加熱された温水の全量または一部を外部放熱部Hに分岐供給するように上部用三方弁7bを切り換える。そして、図4に示すように、加熱部Kにて加熱した温水の全量または一部を外部放熱部Hに分岐供給しかつその外部放熱部Hからの湯水の全量を貯湯タンク1を迂回して加熱部Kに直接戻す形態で湯水を循環させる外部放熱用循環状態において、貯湯タンク1の底部の湯水を加熱部Kにて加熱して、その一部を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯するとともに、残りの湯水を熱源として外部放熱部Hにて放熱する。その後、貯湯タンク1の底部の湯水と外部放熱部Hにて熱源として放熱された湯水を混合させて、再び加熱部Kにて加熱するように循環させる。
このようにして、貯湯タンクへの貯湯を行うときには、湯水循環手段を貯湯用循環状態に切換えて貯湯運転状態において、加熱手段にて加熱された温水を貯湯タンクの上部に供給して的確に貯湯を行うことができ、外部放熱部における放熱を行うときには、湯水循環手段を外部放熱用循環状態に切換えて放熱運転状態において、加熱手段にて加熱した温水の全量を外部放熱部に供給して外部放熱部における放熱を的確に行うことができ、または、加熱手段にて加熱した温水の一部を外部放熱部に、残りを貯湯タンクの上部に供給して、加熱手段にて余剰に加熱された温水を放熱を行うとともに、貯湯にも利用することができる。
そして、外部放熱用循環状態においては、加熱手段にて加熱した温水の全量または一部を外部放熱部に分岐供給しかつその外部放熱部からの湯水の全量を貯湯タンクを迂回して加熱手段に直接戻す形態で湯水を循環させるので、貯湯タンクの底部の給水温度に近い湯水を加熱することなく、外部放熱部にて放熱に使用され、給水温度近くまで温度が低下していない湯水を直接加熱手段にて加熱することができ、外部放熱部における放熱を確実に行うことができる。」(段落【0032】ないし【0036】)
オ.「このようにして、貯湯処理を実行して、その貯湯量が必要最小貯湯量よりも設定量だけ多い余剰貯湯量になると、すなわち、余剰湯温サーミスタ11による検出温度TYが設定温度以上になると、貯湯処理の終了が要求されて、停止処理を実行して貯湯運転を終了する。つまり、循環ポンプ3が作動中であればその作動を停止させ、第1?3熱交換部12,13,14にて循環路2の湯水が加熱されないように、第1排熱切換機構17および第2排熱切換機構18が加熱状態に切換えられていると排熱状態に切換えるとともに、バーナBが燃焼中であればバーナBでの燃焼を停止させる。
また、貯湯運転を実行する時間帯などの貯湯運転の実行タイミングであって、貯湯タンク1内に必要最小貯湯量の貯湯がされているときに、すなわち、貯湯温サーミスタ10の検出温度TKが設定温度以上のときに、貯湯タンク1への貯湯を行う貯湯処理を実行している貯湯運転中であると、その貯湯処理が継続して実行される。そして、貯湯タンク1内に余剰貯湯量の貯湯が行われて、貯湯運転が終了された後に、給湯用操作装置KSの指令により風呂追焚きが指令されるか、床暖房装置の運転が開始されるか、または、その両方がされて、放熱処理の実行が要求されると、放熱運転を開始して放熱処理を実行する。つまり、循環ポンプ3を作動させ、底部接続路9aからの湯水と循環路2からの湯水とが混合するように底部用三方弁9bを切り換え、循環路2の湯水の一部を貯湯タンク1に戻すように上部用三方弁7bを切り換える。そして、貯湯タンク1の底部の湯水を加熱部Kにて加熱して、その一部を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯するとともに、残りの湯水を熱源として外部放熱部Hにて放熱する。その後、貯湯タンク1の底部の湯水と外部放熱部Hにて熱源として放熱された湯水を混合させて、再び加熱部Kにて加熱するように循環させる。」(段落【0042】および【0043】)
カ.「〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、加熱部Kにて加熱した温水の一部を外部放熱部Hに分岐供給する形態で湯水を循環させる外部放熱用循環状態において放熱処理を実行するようにしているが、外部放熱用循環状態に加え、貯湯タンク1の中間部から取り出した湯水の全量または一部を外部放熱部Hに供給して貯湯タンク1の底部に戻す形態で湯水を循環させる余剰分外部放熱循環状態において余剰分放熱状態にて外部放熱部Hにて放熱するようにしてもよい。具体的に説明すると、図6に示すように、貯湯温サーミスタ10の検出温度が設定温度以上のときにおいて、給湯用操作装置KSの指令により風呂追焚きが指令されたり、床暖房装置の運転が開始されたりして、風呂追焚き用循環ポンプ15aや床暖房用循環ポンプ16aが作動されるに伴って、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すように中間部用三方弁8bを切り換え、循環路2の湯水の一部を貯湯タンク1に戻すように上部用三方弁7bを切り換える。そして、貯湯タンク1の中間部の湯水の一部を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯するとともに、残りの湯水を熱源として外部放熱部Hにて放熱して貯湯タンク1の底部に戻す。
(2)上記実施形態では、加熱部Kにて加熱した温水の一部を外部放熱部Hに分岐供給する形態で湯水を循環させる外部放熱用循環状態において放熱処理を実行するようにしているが、外部放熱用循環状態に加え、貯湯タンク1の上部から取り出した湯水を外部放熱部Hに供給して貯湯タンク1の底部に戻す外部放熱専用循環状態において放熱専用運転状態に切り換えて放熱処理を実行するようにしてもよい。つまり、図7に示すように、上部接続路7aよりも湯水循環方向下流側の循環路2に上部取出し用ポンプ3aを設けて、この上部取出し用ポンプ3aを作動させて、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すように上部用三方弁7bを切換え、循環路2の湯水を貯湯タンク1内に戻すように底部用三方弁9bを切換えて、貯湯タンク1の上部から取り出した湯水を外部放熱部Hに供給して貯湯タンクの底部に戻す形態で、外部放熱部Hにおける放熱を行うようにする。なお、このときに、別実施形態(1)のごとく、余剰放熱運転状態においても外部放熱部Hにおける放熱を行うようにしてもよい。」(段落【0046】および【0047】)
キ.上記摘記事項エの記載によると、 貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱した後、加熱された温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯運転実行手段が示されているといえる。
ク.上記摘記事項カの記載によると、〔別実施形態(2)〕は、外部放熱専用循環状態による放熱専用運転状態と、〔別実施形態(1)〕である余剰分外部放熱循環状態による余剰放熱運転状態とを切り換えて、外部放熱部Hにおける放熱を行うことが示されているといえる。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、特に、放熱専用運転状態に着目すると、刊行物には、次の発明が記載されている。
「上部に湯水、底部に湯水というように、湯水が温度成層を形成して貯湯される貯湯タンク1と、
貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱した後、加熱された温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯運転実行手段と、
貯湯タンク1の上部から取り出した湯水が熱源として供給される外部放熱部Hと、
外部放熱部Hに供給した湯水を貯湯タンク1の底部に戻す底部接続路9aと、
貯湯タンク1の上部から給湯栓5に給湯する給湯路6と、
貯湯タンク1に接続され、貯湯タンク1の底部から貯湯タンク1に水道水圧を用いて給水する給水路4と、
を有し、
外部放熱部Hにて放熱に使用され、給水温度近くまで温度が低下していない湯水を貯湯タンク1の底部に戻す貯湯式の給湯熱源装置。」

(2)対比
本件補正発明と刊行物に記載された発明を対比する。
刊行物に記載された発明の「上部に湯水、底部に湯水というように、湯水が温度成層を形成して貯湯される」は、その構成及び機能からみて、本件補正発明の「内部に高温層と低温層の2つの貯湯領域を有する状態で湯を貯める」に相当し、同様に、
「貯湯タンク1」は「貯湯槽」に相当する。
そして、刊行物に記載された発明の「貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱した後、加熱された温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯運転実行手段」と本件補正発明の「貯湯槽下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を貯湯槽の上部に戻すCO_(2)ヒートポンプ」とは、共に、「貯湯槽下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を前記貯湯槽の上部に戻す貯湯運転実行手段」である点で共通する。
また、刊行物に記載された発明の「貯湯タンク1の上部から取り出した湯水が熱源として供給される外部放熱部H」は、その構成及び機能からみて、本件補正発明の「貯湯槽内の湯を加熱源として用いる熱交換器」に相当し、以下同様に、
「外部放熱部Hに供給した湯水を貯湯タンク1の底部に戻す底部接続路9a」は「熱交換器において加熱源として使用した湯を貯湯槽に戻す配管」に、
「給湯栓5に給湯する給湯路6」は「給湯口へと」「給湯する給湯管」に、
「貯湯タンク1に接続され、貯湯タンク1の底部から貯湯タンク1に水道水圧を用いて給水する給水路4」は「貯湯槽の下部に接続され、給水圧により貯湯槽内に給水する給水配管」に、
「貯湯タンク1」と「給水路4」とは「貯湯設備」に、
それぞれ相当する。
「貯湯式の給湯熱源装置」は「貯湯装置」に、それぞれ相当する。

したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点]
「内部に高温層と低温層の2つの貯湯領域を有する状態で湯を貯める貯湯槽を有する貯湯設備と、
前記貯湯槽下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を前記貯湯槽の上部に戻す貯湯運転実行手段と、
前記貯湯槽内の湯を加熱源として用いる熱交換器と、
前記熱交換器において加熱源として使用した湯を前記貯湯槽に戻す配管と、
給湯口へと給湯する給湯管と、
前記貯湯槽の下部に接続され、給水圧により前記貯湯槽内に給水する給水配管とを有する貯湯装置。」

[相違点1]
貯湯運転実行手段が、
本件補正発明では、CO_(2)ヒートポンプであるのに対して、
刊行物に記載された発明では、CO_(2)ヒートポンプでない点。

[相違点2]
本件補正発明では、温度が低下した湯を優先的に給湯管へと流出させる取水管を有し、取水管は加熱手段によって加熱された湯が貯湯槽に戻る位置とは異なる位置に接続されているのに対して、
刊行物に記載された発明では、取水管を有していない点。

[相違点3]
給湯管に関し、
本件補正発明では、給水または給湯するのに対して、
刊行物に記載された発明では、給湯するのみである点。

(3)当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
(3-1)相違点1について
給湯、貯湯装置の加熱手段としてCO_(2)ヒートポンプを用いることは、本願出願前周知の技術事項である(例えば、特開2000-213806号公報の段落【0023】参照。)。
したがって、刊行物に記載された発明に、上記周知の技術事項を適用して加熱源としてCO_(2)ヒートポンプを用いることは当業者が容易になし得たものである。

(3-2)相違点2について
貯湯タンク1から 給湯するに際して、高温部に貯えられた湯に比して低温の貯湯タンク1の中間部に貯えられた湯を給湯に用いることは、例えば、特開平1-225838号公報の第2頁右上欄第10行ないし同左下欄第15行、第1図や特開平4-36546号公報の第4頁右上欄第9行ないし同右下欄第8行、第7頁左下欄第17行ないし同右下欄第9行、第3図や特開平1-234749号公報第5頁左下欄第10行ないし第6頁左上欄第8行や、特開昭61-153341号公報の第2頁右下欄第4行ないし同第10行、第3頁右下欄第3行ないし同第8行、第1図に示されているように、本願出願前周知の技術事項である。
そして、刊行物に記載された発明は、外部放熱部Hにて放熱に使用され、「給水温度近くまで温度が低下していない湯水」を貯湯タンク1の底部に戻して貯えることから、所定時間後には、貯湯タンク1の下層には、外部放熱部Hから戻った「給水温度近くまで温度が低下していない湯水」が貯えられていることは、当業者がその動作からただちに理解できるところである。
さらにいうと、前記第2[理由]2、2-1(1)クで検討したような【図7】の放熱専用運転状態と【図6】の余剰放熱運転状態を切り換える運転状態でも、長期間の連続運転により、「給水温度近くまで温度が低下していない湯水」が貯湯タンク1の下層の中間位置程度まで貯えられるものといえる。
そうすると、刊行物に記載された発明の放熱専用運転状態や、放熱専用運転状態と余剰放熱運転状態とを切り換え運転させるとき、そこへ貯えられている高温湯より低温の中間温の湯を給湯に用いることは当業者にとって格別のものではない。
そして、貯湯槽の上部に接続される給湯管に、貯湯槽の側部中間位置に接続される取水管を合流接続することは、例えば、上記特開平1-225838号公報や上記特開平4-36546号公報や特開昭61-153341号公報に示されているように、本願出願前周知の技術事項であり、また、上記特開平1-234749号公報には、適温に近い温度の湯を用いることが、上記特開平4-36546号公報にも、適温に近い温度の湯を用いることが示されるように、この適温に近い温度の湯を優先的に用いることも、当業者にとって格別のことではない。
したがって、刊行物に記載された発明に上記周知の技術事項を適用して、上記相違点3における本件補正発明が備える構成に到達することは、当業者が容易になし得たものである。

(3-3)相違点3について
給湯管により給水または給湯することは、本願出願前から広く行われている技術事項であり(例えば、特開平9-126547号公報参照。)、刊行物に記載された給湯管において、給湯を行わせることに加えて給水も行わせることは、当業者が容易になし得たものである。

(3-4)まとめ
本件補正発明が、全体として奏する効果についてみても、刊行物に記載された発明および周知の技術事項が奏する効果から当業者が予測できる範囲内のものである。
ゆえに、本件補正発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
よって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-2記載要件について
本件補正発明は、「前記取水管は、前記CO_(2)ヒートポンプによって加熱された湯が前記貯湯槽に戻る位置とは異なる位置に接続されている」ものであるが、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、第2の実施形態として、中間取水管8cが貯湯槽側部の中間位置に設けられることが(段落【0024】)記載されているのみであり、CO_(2)ヒートポンプによって加熱された湯が戻る貯湯槽の上部と異なる位置ならどこに設けてもよい旨の記載も示唆もない。
また、本件補正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明(以下「本件補正発明2」という。)は、本件補正明細書の発明の詳細な説明の欄に別々に記載された第1の実施形態(【図1】参照。)と、第2の実施形態(【図2】参照。)との両機能を併せ有するものであるが、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、第1の実施形態と第2の実施形態を併せることの記載も示唆もないため、本件補正発明2は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、本願は、特許請求の範囲の請求項1および2の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2-3むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成19年6月25日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年10月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「2つの貯湯領域を有する状態で湯を貯める貯湯槽を有する貯湯設備と、前記貯湯槽下部から流出した湯を加熱するCO_(2)ヒートポンプと、前記貯湯槽内の湯を加熱源として用いる熱交換器と、前記熱交換器において加熱源として使用した湯が優先的に供給される給湯設備と、前記貯湯槽の下部に接続され、給水圧により前記貯湯槽内に給水する給水配管とを有し、前記CO_(2)ヒートポンプによって加熱された湯を前記貯湯槽上部に流入させ、前記熱交換器において加熱源として使用した後の湯が前記貯湯槽内に流入することを特徴とする貯湯装置。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、刊行物の記載事項、及び、刊行物に記載された発明は、前記「第2[理由]2.2-1(1)刊行物」に記載したとおりである。

3.対比および判断
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
本願発明は、前記「第2[理由]1」で検討した本件補正発明における発明特定事項である「内部に高温層と低温層の2つの貯湯領域」について、「2つの貯湯領域」とその限定を省き、同様に、
「給湯口へと給水または給湯する給湯管と、前記貯湯槽に接続され、前記熱交換器において加熱源として使用し、温度が低下した湯を優先的に前記給湯管へと流出させる取水管と・・・を有し、前記取水管は、前記CO_(2)ヒートポンプによって加熱された湯が前記貯湯槽に戻る位置とは異なる位置に接続されている」との事項を「前記熱交換器において加熱源として使用した湯が優先的に供給される給湯設備と・・・を有し」と、給湯設備について、給湯管と取水管とからなることの限定を省くとともに、取水管の接続位置についての限定を省くものである。
さらに、「前記熱交換器において加熱源として使用した湯を前記貯湯槽に戻す配管と・・・を有し」との事項を「前記熱交換器において加熱源として使用した後の湯が前記貯湯槽内に流入する」とその限定を省くことを含むものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]2.2-1(2)対比および(3)当審の判断」に記載したとおり、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-19 
結審通知日 2009-08-25 
審決日 2009-09-16 
出願番号 特願2000-316892(P2000-316892)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F24H)
P 1 8・ 121- Z (F24H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 清水 富夫
長崎 洋一
発明の名称 貯湯装置  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  

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