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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1206293
審判番号 不服2007-28462  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-18 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 特願2002-340549「鉛蓄電池」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日出願公開、特開2004-178834〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月25日の出願であって、平成19年9月13日付けで拒絶査定がされ、同年10月18日に拒絶査定に対する審判請求がされ、その後、当審において、平成21年6月3日付けで拒絶理由が通知され、平成21年8月7日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成21年8月7日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、この発明を「本願発明」という。)。

「正極板と、表面が袋状セパレータで覆われている負極板と、前記正極板と表面が前記袋状セパレータで覆われている前記負極板との間に配置されたガラスマットとで極板群が構成され、前記極板群が電解液と共に電槽内に収容された鉛蓄電池において、
前記袋状セパレータの外側表面に溝が設けられて、該溝により電解液拡散通路が構成され、
前記袋状セパレータの前記溝の深さaと前記ガラスマットの厚みbとの比(a/b)は、0.06?2.20であることを特徴とする鉛蓄電池。」

第3 当審の拒絶の理由の概要
当審において通知した拒絶の理由2(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである。

この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1,2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特許第2742804号公報
刊行物2:特開平1-169869号公報

第4 刊行物の記載事項
1.刊行物1:特許第2742804号公報
(1a)「【請求項1】陽極板と陰極板を並列して設けた鉛蓄電池用極板群において、ガラス繊維を主成分とするマット型セパレータを袋状またはU字状にして陽極板を被覆すると共に、高分子樹脂製セパレータを袋状にして陰極板を被覆したことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】高分子樹脂製セパレータの一方または両方の外側面に縦方向に平行に伸びた多数個のリブを突設すると共に、これらのリブを陽極板の両側に配設されたマット型セパレータの外側面に当接させている請求項1記載の鉛蓄電池。」

(1b)「以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。第1図に示したこの実施例の鉛蓄電池は、陽極板(31)と陰極板(32)を並列して鉛蓄電池用極板群を構成してある。」(第3頁第5欄第9?12行)

(1c)「このような構成を有する鉛蓄電池においては、…極板群を電槽へ挿入するとき…、両極板(31)(32)間の短絡の虞れは殆ど生じないものである。」(第3頁第5欄第44行?第6欄第4行)

(1d)「また、高分子樹脂製セパレータ(34)にリブ(35)を設けているので、保水性に優れたマット型セパレータ(33)の優れた保水性と相俟って陽極活物質表面の有効な電解液を多分に確保できることになるため、利用率が向上して電池の大容量化にも寄与できる。」(第3頁第6欄第5?9行)


2.刊行物2:特開平1-169869号公報
(2a)「(1)正、負極のペースト支持体にアンチモンを含まない格子を用い、前記両極間には正極に接する側に平均繊維径が5?10μのガラス繊維を主体とする不織布を、負極と接する側には最大孔径15μ以下の微孔性シートからなるセパレータを配したことを特徴とする鉛蓄電池。
(2)…
(3)微孔性シートのガラス繊維を主体とする不織布との当接面にリブを設けた特許請求の範囲第2項記載の鉛蓄電池。」(特許請求の範囲)

(2b)「これに必要によりリブ3を設けることにより不織布の厚み又はシートの実質厚みを削減できる。この場合リブ3は不織布とシートとの間に設けるのが保液上効果的である。」(第2頁左上欄第17?20行)

(2c)「実施例
以下実施例により本発明の効果について述べる。
実施例1
正負極にPb-Sn-Ca合金からなるエキスパンド格子を用いセル毎に正極5枚負極6枚を用い、シート2とガラスマット1の材料を第1表のように選び、5時間率放電時間およびJISによる寿命回数を測定した。

実施例2
シート2にリブを設けてガラスマット1の厚さを変えて同様の試験を行なった。又ガラスマット1をシート2のリブ3側に貼る場合とリブ3の反対側のフラットな面に貼る場合の効果についても検討した。その結果を第2表に示す。


この結果からガラスマットをリブ側に貼る場合はガラスマットの厚さにあまり依存せず寿命に効果があることがわかる。」(第2頁右上欄第18行?第3頁左上欄第3行)

第5 当審の判断
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1a)には、「陽極板と陰極板を並列して設けた鉛蓄電池用極板群において、ガラス繊維を主成分とするマット型セパレータを袋状またはU字状にして陽極板を被覆すると共に、高分子樹脂製セパレータを袋状にして陰極板を被覆した…鉛蓄電池」であって、「高分子樹脂製セパレータの一方または両方の外側面に縦方向に平行に伸びた多数個のリブを突設すると共に、これらのリブを陽極板の両側に配設されたマット型セパレータの外側面に当接させている…鉛蓄電池」が記載されている。
そして、この鉛蓄電池の実施例について、(1b)には、「陽極板(31)と陰極板(32)を並列して鉛蓄電池用極板群を構成してある」と、(1c)には「極板群を電槽へ挿入する…」と記載されているから、この鉛蓄電池は、並列する陽極板と陰極板とで極板群が構成され、前記極板群が電槽内に収容されていると認められるとともに、(1d)には、「高分子樹脂製セパレータ(34)にリブ(35)を設けているので、…電解液を多分に確保できる」と記載されているから、電解液も電槽内に収容されていると認められる。
以上の記載事項及び認定事項に基づくと、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、この発明を「引用発明」という。)。

「陽極板と、表面が袋状の高分子樹脂製セパレータで覆われている陰極板と、前記陽極板と表面が前記袋状の高分子樹脂製セパレータで覆われている前記陰極板との間に配置された、前記陽極板を被覆するガラス繊維を主成分とするマット型セパレータとで極板群が構成され、前記極板群が電解液と共に電槽内に収容された鉛蓄電池において、
前記袋状の高分子樹脂製セパレータの外側面にリブが設けられている
鉛蓄電池」

2.対比
本願発明(前者)と引用発明(後者)とを対比すると、後者の「陽極板」、「陰極板」、「袋状の高分子樹脂製セパレータ」、「前記陽極板を被覆するガラス繊維を主成分とするマット型セパレータ」は、それぞれ前者の「正極板」、「負極板」、「袋状セパレータ」、「ガラスマット」に相当するから、両者は以下の点で一致し、また以下の点で相違する。

一致点:「正極板と、表面が袋状セパレータで覆われている負極板と、前記正極板と表面が前記袋状セパレータで覆われている前記負極板との間に配置されたガラスマットとで極板群が構成され、前記極板群が電解液と共に電槽内に収容された鉛蓄電池」

相違点1:前者は、袋状セパレータの外側表面に「溝」が設けられて、該溝により「電解液拡散通路」が形成されているのに対して、後者は、「リブ」が設けられている点
相違点2:前者は、袋状セパレータの溝の深さaとガラスマットの厚みbとの比(a/b)が、0.06?2.20であるのに対して、後者は、そのような規定がされていない点

3.判断
(1)相違点1について
引用発明における袋状の高分子樹脂製セパレータ(袋状セパレータ)の「リブ」は、刊行物1の(1a)の記載によると、縦方向に平行に伸びた多数個のリブであって、マット型セパレータ(ガラスマット)の外側面に当接しており、同(1d)の記載によると、保水性に優れたマット型セパレータと相俟って正極板の表面に電解液を確保できる作用を奏するものであるから、袋状セパレータの外側面には、ガラスマットに当接するリブ間に空間(溝)が形成され、その溝により電解液が確保されているものと認められる。
そして、鉛蓄電池のセパレータは、正負極間を隔離しつつ、電解液を両極板へ行き渡らせる機能を有するものであるから(要すれば、当審拒絶理由に周知例として示した以下の文献参照)、引用発明は、リブ間に形成された溝に電解液を確保ししつつ、確保した電解液を当該溝を通路として、ガラスマットから正極板へ、また、袋状セパレータから陰極板へ電解液を行き渡らせ、拡散させる作用を奏するものといえる。
そうすると、引用発明は、「リブ」間に形成された「溝」により「電解液拡散通路」を形成するものといえるから、相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。

文献:吉沢四郎監修「電池ハンドブック」(昭和50年4月15日)電気書院 3-14頁「(3)隔離板」

(2)相違点2について
刊行物2には、(2a)、(2b)に、負極板側のセパレータの正極板側のガラスマットとの当接面にリブを設けることにより、保液上の効果を奏している鉛蓄電池が記載されていると認められる。
そして、上記の鉛蓄電池の実施例が記載された(2c)には、第2表に「リブ高さ」と「ガラスマット厚さ」とが、それぞれ「0.2」と「0.6mm」、又は「0.4」と「0.4mm」であって、「マットの貼り方」が「リブ側に貼る」とされるものが例示されており、このリブの高さは、(2b)の「リブ3を設けることにより不織布の厚み又はシートの実質厚みを削減できる」との記載から、ガラスマット厚さと同じmm単位であって、リブ間に形成された溝の深さに相当すると認められるから、刊行物2には、負極板側のセパレータの外側表面に、リブ間に形成された溝の深さ(a)と、ガラスマットの厚み(b)との比(a/b)が、それぞれ「0.2/0.6≒0.33」、「0.4/0.4=1」であるリブを形成し、保液効果を奏している鉛蓄電池が記載されていると認められる。
そうすると、引用発明も、リブ間に形成された溝により電解液を確保するものであるから、その溝の深さを、ガラスマットの厚みとの比において、刊行物2に記載される程度の値に設定することは、当業者が容易になし得る設計的事項であるといえる。

(3)小括
したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)補足
なお、審判請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において、相違点2に係る本願発明の特定事項を設計的事項と判断した当審拒絶理由に対して、「本発明は、保液性を確保することを目的としたものではなく、電解液の拡散性を向上させることを目的としたものであります…保液性を向上させるために適したa/bの値の範囲と、電解液の拡散性を向上させるために適したa/bの値の範囲は同一であるとは言えませんので、当業者が刊行物1に記載された鉛蓄電池を設計するに当たり、刊行物2に記載されたa/bの値を直ちに採用するようなことはないと言うべきであります。」(第3頁第30?35行)と主張している。
しかしながら、本願発明は、a/bの値の範囲を特定することにより、前記意見書第2頁[3](C)に記載の「電槽から加わる圧力で該電解液拡散通路がつぶれて電解液の流通が妨げられたり、電槽から加わる圧力で溝の両側の凸部が折れ曲がって電解液の流通が妨げられたりするのを防いで、電解液の流通を支障なく行わせることができ、電解液の拡散性を向上させて電池性能を向上させることができる」という効果を奏するものと認められるから、このa/bの値の範囲は、結局、電槽から圧力が加わっても、ガラスマットと袋状セパレータとの間に、各電極板に拡散流通させるに十分な量の電解液を確保するための大きさ及び形状を備える空間を形成すること、すなわち、引用発明と同じく保液性の向上をも目的として設定されているといえる。
したがって、刊行物2に記載された保液上の効果を奏する鉛蓄電池におけるa/bの値を引用発明に適用し、本願発明を導くことに何ら阻害要因を見出すことはできないから、請求人の前記主張を受け入れることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、当審拒絶理由は妥当なものと認められる。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-25 
結審通知日 2009-08-26 
審決日 2009-09-10 
出願番号 特願2002-340549(P2002-340549)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 進  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山本 一正
青木 千歌子
発明の名称 鉛蓄電池  
代理人 松本 英俊  

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