• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1206356
審判番号 不服2006-9092  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-08 
確定日 2009-10-30 
事件の表示 特願2000-159350「キャリッジにおける記録ヘッド取り付け装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 4日出願公開、特開2001-334652〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年5月30日の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年11月18日付けで手続補正がされたが、平成18年3月31日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年5月8日付けで審判請求がされるとともに、同年6月5日付けで明細書についての手続補正がされたものである。

第2 平成18年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年6月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、補正前(平成17年11月18日付け手続補正書参照)に
「【請求項1】 記録用紙上の画像を構成するドットを形成するためのドット形成要素が2以上の列として配置されるとともに,当該各列が,記録用紙の搬送方向である副走査方向と平行に配置されるべきである,または,各列の同一側の端部にあるドット形成要素が,キャリッジの往復動方向である主走査方向と平行な一直線上に配置されるべきである,そのようなドット形成要素列が形成された記録ヘッドをキャリッジに取り付けるための記録ヘッド取り付け装置であって,キャリッジに設けられた一対の第1の係合手段と,これら一対の第1の係合手段にそれぞれ係合する,記録ヘッドに設けられた一対の第2の係合手段とを備え,
前記一対の第1の係合手段および前記一対の第2の係合手段は,これらを係合させると,前記各ドット形成要素列が前記副走査方向と平行に配置されるべき,または,前記各ドット形成要素列の同一側の端部にあるドット形成要素が前記主走査方向と平行な一直線上に配置されるべき位置に設けられ,
前記一対の第1の係合手段の間の距離が,前記2以上のドット形成要素列の両端部に位置するものの間の距離の2倍以上であり,
前記一対の第1の係合手段および第2の係合手段から,前記ドット形成要素列の方向であって該ドット形成要素列の長さ以上離間した位置において,
前記記録ヘッド側にネジ止め部と,
前記キャリッジ側にネジ止め部とを設けて,
該記録ヘッド側およびキャリッジ側のネジ止め部を重ね合わせてネジ止めをして前記記録ヘッドを前記キャリッジに対して固定するように構成されていることを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。
【請求項2】 請求項1において,前記記録ヘッド側およびキャリッジ側のネジ止め部は,副走査方向において前記一対の第1の係合手段および第2の係合手段から,前記ドット形成要素が形成されたヘッド部の副走査方向の長さ以上離間して設けられていることを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。
【請求項3】 請求項1または2において,前記一対の第2の係合手段が,前記記録ヘッドにおける主走査方向または副走査方向の一方の端部近傍と当該端部に対向する他方の端部近傍とに設けられる,ことを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。
【請求項4】 請求項1から3のいずれか1項に記載の記録ヘッド取り付け装置を備えている,ことを特徴とする記録装置。」
とあったものを、
「【請求項1】 記録用紙上の画像を構成するドットを形成するためのドット形成要素が2以上の列として配置されるとともに,当該各列が,記録用紙の搬送方向である副走査方向と平行に配置されるべきである,または,各列の同一側の端部にあるドット形成要素が,キャリッジの往復動方向である主走査方向と平行な一直線上に配置されるべきである,そのようなドット形成要素列が形成された記録ヘッドをキャリッジに取り付けるための記録ヘッド取り付け装置であって,キャリッジに設けられた一対の第1の係合手段と,これら一対の第1の係合手段にそれぞれ係合する,記録ヘッドに設けられた一対の第2の係合手段とを備え,
前記一対の第1の係合手段および前記一対の第2の係合手段は,これらを係合させると,前記各ドット形成要素列が前記副走査方向と平行に配置されるべき,または,前記各ドット形成要素列の同一側の端部にあるドット形成要素が前記主走査方向と平行な一直線上に配置されるべき位置に設けられ,
前記一対の第1の係合手段の間の距離が,前記2以上のドット形成要素列の両端部に位置するものの間の距離の2倍以上であり,
前記一対の第1の係合手段および第2の係合手段から,前記ドット形成要素列の方向であって該ドット形成要素列の長さ以上離間した位置において,
前記記録ヘッド側にネジ止め部と,
前記キャリッジ側にネジ止め部とを設けて,
該記録ヘッド側およびキャリッジ側のネジ止め部を重ね合わせてネジ止めをして前記記録ヘッドを前記キャリッジに対して固定するように構成され,
前記第1の係合手段および前記第2の係合手段の一方が一対の突起であり,他方が該突起に嵌合する丸孔およびU字溝孔であり,
前記ネジ止めをする箇所は,前記U字溝孔よりも前記丸孔に接近した位置に設けられていることを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。
【請求項2】 請求項1において,前記記録ヘッド側およびキャリッジ側のネジ止め部は,副走査方向において前記一対の第1の係合手段および第2の係合手段から,前記ドット形成要素が形成されたヘッド部の副走査方向の長さ以上離間して設けられていることを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。
【請求項3】 請求項1または2において,前記一対の第2の係合手段が,前記記録ヘッドにおける主走査方向または副走査方向の一方の端部近傍と当該端部に対向する他方の端部近傍とに設けられる,ことを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。
【請求項4】 請求項1から3のいずれか1項に記載の記録ヘッド取り付け装置を備えている,ことを特徴とする記録装置。」
と補正するものである。

本件補正前後の請求項の対応関係をみるに、請求項の数4は補正前後で変わらず、補正後の独立請求項である請求項1の記載は、補正により新たに付加された記載を除けば、補正前の請求項1の記載と概ね一致している。そして、従属請求項である請求項2?4は補正の前後で記載に変更がない。
よって、本件補正後の請求項1?4は、それぞれ本件補正前の請求項1?4に対応する。

本件補正前後の請求項1の記載をみると、補正後の請求項1は、補正前の請求項1に「前記第1の係合手段および前記第2の係合手段の一方が一対の突起であり,他方が該突起に嵌合する丸孔およびU字溝孔であり,前記ネジ止めをする箇所は,前記U字溝孔よりも前記丸孔に接近した位置に設けられている」点が付け加わっている。
これは、第1の係合手段および第2の係合手段の構成を限定し、かつ、記録ヘッド側のネジ止め部とキャリッジ側のネジ止め部によりネジ止めをする箇所の位置を限定することに相当する。

2.本件補正の目的
本件補正による請求項1についての補正は、発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか( 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

3.独立特許要件について
(1)本願補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 記録用紙上の画像を構成するドットを形成するためのドット形成要素が2以上の列として配置されるとともに,当該各列が,記録用紙の搬送方向である副走査方向と平行に配置されるべきである,または,各列の同一側の端部にあるドット形成要素が,キャリッジの往復動方向である主走査方向と平行な一直線上に配置されるべきである,そのようなドット形成要素列が形成された記録ヘッドをキャリッジに取り付けるための記録ヘッド取り付け装置であって,キャリッジに設けられた一対の第1の係合手段と,これら一対の第1の係合手段にそれぞれ係合する,記録ヘッドに設けられた一対の第2の係合手段とを備え,
前記一対の第1の係合手段および前記一対の第2の係合手段は,これらを係合させると,前記各ドット形成要素列が前記副走査方向と平行に配置されるべき,または,前記各ドット形成要素列の同一側の端部にあるドット形成要素が前記主走査方向と平行な一直線上に配置されるべき位置に設けられ,
前記一対の第1の係合手段の間の距離が,前記2以上のドット形成要素列の両端部に位置するものの間の距離の2倍以上であり,
前記一対の第1の係合手段および第2の係合手段から,前記ドット形成要素列の方向であって該ドット形成要素列の長さ以上離間した位置において,
前記記録ヘッド側にネジ止め部と,
前記キャリッジ側にネジ止め部とを設けて,
該記録ヘッド側およびキャリッジ側のネジ止め部を重ね合わせてネジ止めをして前記記録ヘッドを前記キャリッジに対して固定するように構成され,
前記第1の係合手段および前記第2の係合手段の一方が一対の突起であり,他方が該突起に嵌合する丸孔およびU字溝孔であり,
前記ネジ止めをする箇所は,前記U字溝孔よりも前記丸孔に接近した位置に設けられていることを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。」(以下、「本願補正発明」という。)

(2)引用例記載内容の認定
(2-1)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平6-262824号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)?(カ)の記載が図示と共にある。

(ア)「【請求項1】 少なくとも1列以上の印字素子を持つ印字ヘッドと、該印字ヘッドを取り付けて印字桁方向に移動可能なキャリッジを持つ印字ヘッドの位置決め機構であって、前記印字ヘッド前面と平行な面内での回転方向の位置決めのため、前記回転方向の前記印字ヘッドの傾きを、前記印字ヘッド前面の左右両側に傾きを補正するための補正値に対応した板厚を有するスペーサを配設したことを特徴とする印字ヘッドの位置決め機構。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】近年、シリアルプリンタやファクシミリでは、高印字品質、カラー化等の要求が強まってきており、印字ヘッドにおいて印字ノズルあるいは印字ワイヤによる印字素子が複数列、または複数の印字ヘッドで構成されることが多い。図6に従来の印字ヘッドの位置決め機構の正面図(a)、側面図(b)を示す。印字ヘッド1はプラテン2に対して平行に置かれたガイド軸3に沿って印字桁方向に移動可能なキャリッジ4上に固定され、プラテン2上の記録紙5に印字する。印字ワイヤあるいは印字ノズルによるドット列15が複数列で構成された場合、部品自体の寸法精度のばらつきのため、印字ヘッド1前面と平行な面内で印字ヘッド1は左右の高さのずれによって水平面に対しθ傾き、それぞれのドット列15の上下方向の位置関係のずれが大きくなる。このため上下方向に隣接するべき印字されたドットの距離が不適当になって印字品質が悪くなる。(以下、省略)」

(ウ)「【0005】(途中省略)また印字ヘッド1の左右両端のねじ11を等しいトルクで締め付けることによって、印字ヘッド1の傾きθが狂わないようにキャリッジ4に位置決めすることができる。」

(エ)「【0009】印字ヘッド1個々の傾きθの測定は印字ヘッド1両端の印字ヘッド支持部16と17を結ぶ直線に対し、ノズル列15が本来垂直であるべきところ、(以下、省略)」

(オ)「【0010】高精度で傾きθを調整するためには、ドット列間距離Aに対し、度当り部間距離Lが大きい程よく、本実施例においてはドット列間距離Aに対し、度当たり部間距離Lを10倍の大きさで構成されているため、(以下、省略)」

(カ)【図1】からは、記録紙5が断面円形のプラテン2の面上に配されること、キャリッジ4のガイド軸3の方向が水平であり、その方向に対して、印字ヘッド支持部16,17を結ぶ直線の方向及びプラテン2の方向は平行、4列あるドット列15の方向は垂直であること、及び左右のねじ11の位置は印字ヘッドに対して左右の度当り部6より外側にあることが看取できる。

印字のためのドットを形成するもの及びそれが列をなす点について、上記(ア)の「少なくとも1列以上の印字素子」、従来の技術に関する上記(イ)の「印字ノズルあるいは印字ワイヤによる印字素子が複数列」及び「印字ワイヤあるいは印字ノズルによるドット列15が複数列で構成」、上記(エ)の「ノズル列15」、と異なる表現の関連する記載があるが、これらを総合すると、1つの印字ノズルまたは1本の印字ワイヤにより1つのドットが形成され、印字ノズルまたは印字ワイヤを印字素子と称し、印字素子が並んで列を構成していると解される。
そして、上記(ア)の「少なくとも1列以上」は1列も含むが、上記(オ)の「ドット列間距離A」(印字素子列間距離A)が存在するのは2列以上存在するときである。

上記記載(ウ)より、印字ヘッドはねじによってキャリッジに位置決めされる。

引用例1には明記されていないが、ねじ止めされるからには、印字ヘッド1(の印字ヘッド支持部16,17)にはねじ11が貫通するねじ貫通孔があり、キャリッジ4にはねじ11の先端がねじ込まれるねじ受け孔がある。

上記記載(オ)より、度当り部間距離Lがドット列間距離A(印字素子列間距離A)の10倍である。
上記記載(カ)よりドット列は4列だから両端部に位置するドット列の間の距離は3Aである。
上記記載(カ)より、度当り部間距離Lよりも左右のねじ11の間の距離が大きいから、左右のねじ11の間の距離、左右のねじ貫通孔の間の距離、及び左右のねじ受け孔の間の距離はドット列間距離A(印字素子列間距離A)の10倍以上であり、両端部に位置するドット列の間の距離3Aの10/3倍以上である。

以上のことから、上記(ア)?(カ)の記載を含む引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「記録紙上の画像を構成するドットを形成するための印字素子が4列として配置される,そのような印字素子列が形成された印字ヘッドをキャリッジに位置決めするための印字ヘッドの位置決め機構であって,キャリッジに設けられた一対のねじ受け孔と,これら一対のねじ受け孔にその先端がねじこまれるねじが貫通する,印字ヘッドに設けられた一対のねじ貫通孔とを備え,
前記一対のねじ受け孔の間の距離が,前記4印字素子列の両端部に位置するものの間の距離の10/3倍以上である,印字ヘッドの位置決め機構」(以下、「引用発明」という。)

(2-2)引用技術
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平5-57992号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の(あ)?(う)の記載が図示と共にある。
(あ)「【請求項1】 プラテン長軸方向に往復運動を行うキャリッジ上に、印字ワイヤを突出させることで印字を行う印字ヘッドを該印字ヘッドに設けた鍔部で固定搭載するインパクトドットプリンタに於いて、前記印字ヘッドと前記キャリッジとの固定を前記鍔部を貫通する1箇のネジによって行うことを特徴とするインパクトドットプリンタ。」

(い)「【0011】図4は本発明の第3の実施例を示す斜視図である。ここではキャリッジ102と印字ヘッド101の係合のための鍔部104をフレーム112に設けてある。固定ネジ103は、フレーム112の鍔部104に設けられた貫通穴111を通って、キャリッジ102に設けられたネジ穴105と係合する事で印字ヘッド101をキャリッジ102に対して固定している。印字ヘッドとキャリッジの位置決めはキャリッジに設けられた位置決め凸108と印字ヘッド鍔部に設けられた位置決め穴109によって行われている。(以下、省略)」

(う)【図4】からは、印字ヘッド101とキャリッジ102が固定ネジ103でねじ止めされる位置が、図で左側の位置決め穴109からは遠く右側の位置決め穴109に若干の間隔を置いて接近した位置であることが看取できる。

以上のことから、上記(あ)?(う)の記載を含む引用例2には、次の技術事項が記載されていると認めることができる。
「印字ヘッドをキャリッジに取り付けるための印字ヘッド取り付け装置であって,キャリッジに設けられた一対の位置決め凸と,これら一対の位置決め凸にそれぞれ係合する,印字ヘッドに設けられた一対の位置決め穴とを備え,
前記印字ヘッドに貫通穴,前記キャリッジにネジ穴を設けて,該印字ヘッドの貫通穴および該キャリッジのネジ穴を重ね合わせて固定ネジでネジ止めをして前記印字ヘッドを前記キャリッジに対して固定するように構成され,
前記ネジ止めをする箇所は,前記一対の位置決め穴の一方よりも他方に接近した位置に設けられている印字ヘッド取り付け装置」(以下、「引用技術」という。)

(3)対比
引用発明の「記録紙」、「印字素子」、「印字素子列」、「印字ヘッド」、「印字ヘッドの位置決め機構」は、本願補正発明の「記録用紙」、「ドット形成要素」、「ドット形成要素列」、「記録ヘッド」、「記録ヘッド取り付け装置」に相当する。

2つの部材をねじで結合することと、2つの部材を係合させることは、2つの部材の相互の位置関係を確定する点で共通している。
よって、引用発明の「キャリッジに設けられた一対のねじ受け孔」、「印字ヘッドに設けられた一対のねじ貫通孔」は、「キャリッジに設けられた一対の第1の位置確定手段」、「記録ヘッドに設けられた一対の第2の位置確定手段」である点で、それぞれ本願補正発明の「キャリッジに設けられた一対の第1の係合手段」、「記録ヘッドに設けられた一対の第2の係合手段」と共通している。

4列が2列以上に含まれること、10/3倍以上が2倍以上であることはいうまでもない。

してみれば、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「記録用紙上の画像を構成するドットを形成するためのドット形成要素が2以上の列として配置される,そのようなドット形成要素列が形成された記録ヘッドをキャリッジに取り付けるための記録ヘッド取り付け装置であって,キャリッジに設けられた一対の第1の位置確定手段と,記録ヘッドに設けられた一対の第2の位置確定手段とを備え,
前記一対の第1の位置確定手段の間の距離が,前記2以上のドット形成要素列の両端部に位置するものの間の距離の2倍以上である記録ヘッド取り付け装置」

<相違点1>
ドット形成要素列の配置に関し、本願補正発明は「当該各列が,記録用紙の搬送方向である副走査方向と平行に配置されるべきである,または,各列の同一側の端部にあるドット形成要素が,キャリッジの往復動方向である主走査方向と平行な一直線上に配置されるべきである」と特定されているのに対し、引用発明は該特定を有しない点。

<相違点2>
位置確定の仕方に関し、本願補正発明は「キャリッジに設けられた一対の第1の係合手段と,これら一対の第1の係合手段にそれぞれ係合する,記録ヘッドに設けられた一対の第2の係合手段とを備え,前記一対の第1の係合手段および前記一対の第2の係合手段は,これらを係合させると,前記各ドット形成要素列が前記副走査方向と平行に配置されるべき,または,前記各ドット形成要素列の同一側の端部にあるドット形成要素が前記主走査方向と平行な一直線上に配置されるべき位置に設けられ,前記一対の第1の係合手段の間の距離が,前記2以上のドット形成要素列の両端部に位置するものの間の距離の2倍以上であり,」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。

<相違点3>
本願補正発明は「前記一対の第1の係合手段および第2の係合手段から,前記ドット形成要素列の方向であって該ドット形成要素列の長さ以上離間した位置において,前記記録ヘッド側にネジ止め部と,前記キャリッジ側にネジ止め部とを設けて,該記録ヘッド側およびキャリッジ側のネジ止め部を重ね合わせてネジ止めをして前記記録ヘッドを前記キャリッジに対して固定するように構成され,前記第1の係合手段および前記第2の係合手段の一方が一対の突起であり,他方が該突起に嵌合する丸孔およびU字溝孔であり,前記ネジ止めをする箇所は,前記U字溝孔よりも前記丸孔に接近した位置に設けられている」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。

(4)判断
<相違点1>について
キャリッジがガイド軸に沿って往復動して主走査してガイド軸に平行なプラテンの回転で送られる記録紙にキャリッジに搭載された印字ヘッドが印字し、かつ、記録紙の送り方向である副走査方向に印字ヘッドの印字素子列が平行な記録装置は周知である。
例えば、特開平11-77987号公報を挙げることができる。(特に、同公報の下記記載参照。
「【0002】
【従来の技術】プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置として用いるインクジェット記録装置として、インク滴を吐出する複数のノズルと、各ノズルが連通するインク液室と、各インク液室内のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する圧電素子等の電気機械変換素子或いはヒータ等の電気熱変換素子などのエネルギー発生手段とを有するインクジェットヘッドからなる)記録ヘッドをキャリッジに搭載し、記録ヘッドを主走査方向に移動させ、用紙(紙に限るものではなく、OHPシートなど、画像が記録される一切のものを含む意味で用いる。)を主走査方向と直交する副走査方向に移動させながら、ヘッドのエネルギー発生手段を印字データに応じて駆動することで所要のノズルからインク滴を吐出させて用紙に画像を記録するシリアル型インクジェット記録装置がある。
【0003】このようなシリアル型インクジェット記録装置においては、複数のノズルの配列方向を主走査方向と直交する方向として副走査方向に一致させて配置している。(以下、省略)」
「【0019】また、側板1,2をつなぐ底板12上にサブフレーム13,14を立設し、このサブフレーム13,14間に用紙16を主走査方向と直交する副走査方向に送るためのプラテンローラ15を回転自在に保持している。(以下、省略)」)
よって、引用発明において、本願補正発明の<相違点1> に係る構成中の「または」で選択的に記載されたうちの「または」の前の記載による特定
「当該各列が,記録用紙の搬送方向である副走査方向と平行に配置されるべきである,」を備えることは、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

本願補正発明の<相違点1> に係る構成中の「または」で選択的に記載されたうちの「または」の後の記載による特定に関し、上記「(2)引用例記載内容の認定 (2-1)引用発明」において、記載(イ)に「印字ワイヤあるいは印字ノズルによるドット列15が複数列で構成された場合、部品自体の寸法精度のばらつきのため、印字ヘッド1前面と平行な面内で印字ヘッド1は左右の高さのずれによって水平面に対しθ傾き、それぞれのドット列15の上下方向の位置関係のずれが大きくなる。」との記載があることは、裏を返せば、ドット列15の上下方向の位置関係のずれがないのが望ましいことを意味している。
ただし、記載(イ)に「上下方向に隣接するべき印字されたドット」とあり、引用例1の【図4】で左のノズル列のドットD1,D3の間の高さに右のノズル列のドットD2があるように、引用発明は、実施例段階でみれば、隣接する印字素子列それぞれにおけるドット形成要素の位置がドット形成要素間距離の半分だけずれた関係にある。
しかしながら、隣接するドット列のドットの位置がずれておらず揃ったものもインクジェット記録装置等では周知である。
例えば、特開平10-193603号公報を挙げることができる。(同公報の【図3】参照。)
よって、引用発明において、本願補正発明の<相違点1> に係る構成中の「または」で選択的に記載されたうちの「または」の後の記載による特定
「各列の同一側の端部にあるドット形成要素が,キャリッジの往復動方向である主走査方向と平行な一直線上に配置されるべきである」を備えることは、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

以上のことから、引用発明において、本願補正発明の<相違点1> に係る構成を備えることは、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

<相違点2>及び<相違点3> について
<相違点2>は、ドット形成要素列の配置に関する<相違点1>に、キャリッジと記録ヘッドの位置確定の仕方が、本願補正発明は双方に設けた係合手段が用いられるのに対し、引用発明では双方に設けたねじ止めに係わる手段が用いられるという相違点が加わったものに相当する。

<相違点3>は、引用発明では印字ヘッドとキャリッジの位置確定にねじ止めを用いているので、位置確定と同時に印字ヘッドをキャリッジに対して固定できるが、本願補正発明では、記録ヘッドとキャリッジの位置確定に係合関係を用いているので係合では位置確定できるだけであって記録ヘッドをキャリッジに対して固定できないので、ねじで固定することとしてねじ止め部を設け、かつそのねじ止め位置を特定した点、及び1対ある凹で係合する手段の一方を丸孔、他方をU字溝孔とし、かつ、ねじ止め位置がU字溝孔より丸孔に接近していると特定した点に相当する。

引用発明と引用技術は、ともに、印字ヘッドのキャリッジへの取り付けに係わるものである。
また、上記「(2)引用例記載内容の認定 (2-2)引用技術」の記載(あ)に「前記印字ヘッドと前記キャリッジとの固定を前記鍔部を貫通する1箇のネジによって行うことを特徴とするインパクトドットプリンタ。」とあるとおり、引用技術は2本でなく1本のねじで印字ヘッドとキャリッジを固定できるものであるが、ねじの本数が少なくて済むことは、印字ヘッドの取り付けにおいて一般的に望ましいことである。
よって、引用発明に引用技術を適用し、キャリッジと印字ヘッドの位置関係の確定に、双方に設けたねじ止めに係わる手段(引用発明の「キャリッジに設けられた一対のねじ受け孔」と「印字ヘッドに設けられた一対のねじ貫通孔」)ではなく双方に設けた係合手段(引用技術の「キャリッジに設けられた一対の位置決め凸」と「印字ヘッドに設けられた一対の位置決め穴」)を用い、かつ印字ヘッドとキャリッジとの固定にはねじ止めを用いることとして、本願補正発明の<相違点2>に係る構成を備えること、及び<相違点3>のうちの印字ヘッドとキャリッジとの固定にねじ止めを用いる点を採用することは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、ネジ止めをする箇所をどこに設定するかは設計事項にすぎない。

<相違点3>に係る構成のうち、1対ある凹で係合する手段の一方を丸孔、他方をU字溝孔とする点について、引用技術の「一対の位置決め穴」は引用例2の【図4】をみると丸穴である。
しかしながら、2箇所での係合関係を用いて部材同士を取り付ける際に、1対ある凹で係合する手段の一方を丸孔、他方をU字溝孔とすることは周知である。
例えば、本願の出願前に頒布された特開平11-237821号公報では、丸穴79、凹部78がそれぞれ丸孔、U字溝孔である。
そして、ネジ止めをする箇所を、U字溝孔よりも丸孔に接近した位置とすることの技術的意義について、本願明細書には何ら開示がないところ、ネジ止めをする箇所を丸孔、U字溝孔のどちらに接近した位置にするかは設計事項にすぎない。

よって、引用発明に引用技術を適用すると同時に、引用技術では1対ある凹で係合する手段が丸孔であるところ、その一方を丸孔、他方をU字溝孔とし、かつ、ねじ止め位置をU字溝孔より丸孔に接近させることは、周知の技術事項に基づいて、当業者が適宜なし得たことである。

なお、請求人は、前置報告書の内容を知らせる審尋に対する回答書において、ねじ止めの力により生じるひずみに関し、ねじ止め位置と係合位置との関係を論じている。
しかしながら、引用技術でも「ネジ止めをする箇所は,前記一対の位置決め穴の一方よりも他方に接近した位置に設けられている」のであってねじ止め位置は一対ある係合場所の一方に片寄っており、かつその一方の場所に接近はしていてもいくらかは離れた位置に設けられている。
また、ねじ止めの回転トルクが及ぼす力によるひずみで力の作用する部分が損傷するか否かはねじ止め位置から力の作用点までの距離、力の作用する部分の部材の材質や形状、どれくらいの大きさのトルクで締めるか、等種々の要因が関係する一方「ドット形成要素列の長さ」や、ネジ止めをする箇所が丸孔、U字溝孔のどちらに近いかに直接関係しないことは明らかである。

まとめ
以上のことから、引用発明において、本願補正発明の<相違点1>?<相違点3> に係る構成を備えることは、引用技術及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到できたことである。
また、かかる発明特定事項を採用することによる効果も、当業者が容易に予測し得る程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用技術及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.本件補正についてのむすび
上記「3.独立特許要件について」に記載のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年6月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年11月18日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 記録用紙上の画像を構成するドットを形成するためのドット形成要素が2以上の列として配置されるとともに,当該各列が,記録用紙の搬送方向である副走査方向と平行に配置されるべきである,または,各列の同一側の端部にあるドット形成要素が,キャリッジの往復動方向である主走査方向と平行な一直線上に配置されるべきである,そのようなドット形成要素列が形成された記録ヘッドをキャリッジに取り付けるための記録ヘッド取り付け装置であって,キャリッジに設けられた一対の第1の係合手段と,これら一対の第1の係合手段にそれぞれ係合する,記録ヘッドに設けられた一対の第2の係合手段とを備え,
前記一対の第1の係合手段および前記一対の第2の係合手段は,これらを係合させると,前記各ドット形成要素列が前記副走査方向と平行に配置されるべき,または,前記各ドット形成要素列の同一側の端部にあるドット形成要素が前記主走査方向と平行な一直線上に配置されるべき位置に設けられ,
前記一対の第1の係合手段の間の距離が,前記2以上のドット形成要素列の両端部に位置するものの間の距離の2倍以上であり,
前記一対の第1の係合手段および第2の係合手段から,前記ドット形成要素列の方向であって該ドット形成要素列の長さ以上離間した位置において,
前記記録ヘッド側にネジ止め部と,
前記キャリッジ側にネジ止め部とを設けて,
該記録ヘッド側およびキャリッジ側のネジ止め部を重ね合わせてネジ止めをして前記記録ヘッドを前記キャリッジに対して固定するように構成されていることを特徴とする記録ヘッド取り付け装置。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,引用例2、及びその記載事項は、上記「第2 平成18年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 3.独立特許要件について (2)引用例記載内容の認定」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2 平成18年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 3.独立特許要件について」で検討した本願補正発明の発明特定事項から、「前記第1の係合手段および前記第2の係合手段の一方が一対の突起であり,他方が該突起に嵌合する丸孔およびU字溝孔であり,前記ネジ止めをする箇所は,前記U字溝孔よりも前記丸孔に接近した位置に設けられている」との限定を省いたものに相当する。(上記「第2 平成18年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 1.本件補正の内容」参照。)

すると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成18年4月27日付けの手続補正についての補正却下の決定 3.独立特許要件について」に記載したとおり、引用発明、引用技術及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用技術及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用技術及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-26 
結審通知日 2009-09-02 
審決日 2009-09-15 
出願番号 特願2000-159350(P2000-159350)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 菅野 芳男
藏田 敦之
発明の名称 キャリッジにおける記録ヘッド取り付け装置  
代理人 石井 博樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ