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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1206393
審判番号 不服2005-13236  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-11 
確定日 2009-10-28 
事件の表示 特願2002-207521「固体粒子を含むマスカラ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月26日出願公開、特開2003- 55156〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年7月16日(パリ条約による優先権主張2001年7月16日、仏国)の出願であり、平成17年3月31日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年7月11日に拒絶査定に対する審判請求がされたものであって、その請求項1に係る発明は、平成17年8月10日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「水中ワックス型分散物の形態の、ケラチン性繊維を皮膜するための組成物であって、化粧品的に許容可能な水性媒体に、以下のもの:
- ケラチン性物質に接着可能なポリマー、
- 77℃未満の融点と、6.5MPa以上の硬度を有するワックスを含む第一の物質を含む、25℃で固体である第一の粒子、
- 及び任意に、第一の物質と異なる、金属酸化物である第二の物質を含み、40℃以下の温度で合着できない第二の固体粒子を含む非揮発性分画を含み、第一の固体粒子、及び適切な場合に、第二の固体粒子の容量分画が、組成物の非揮発性分画の全容量の50%以上であり、且つ適切な場合に、第一の固体粒子の容量分画が、第一の固体粒子と第二の固体粒子の全容量の25%以上である量で、第一、及び適切な場合に、第二の固体粒子が組成物中に存在する組成物。 」

2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開平6-9341号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

引用例1
(1-a)「ワックス粒子の水性分散体と、少なくとも1種の水溶性被膜形成性ポリマーと、顔料とからなる目のメーキャップ用化粧料組成物において、上記水性分散体が少なくとも1種のワックスの水性微細分散体であることを特徴とする目のメーキャップ用化粧料組成物。」(請求項1)
(1-b)「上記ワックス又はワックス混合物は少なくともカルナバ蝋、カンデリラ蝋及びアルファ蝋から選択された植物性ワックスを含む、前記請求項のいずれか一つに記載の組成物。」(請求項7)
(1-c)「被膜形成性ポリマーはヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、カチオン性セルロース誘導体、ポリメタクリル酸ナトリウム塩及びケラチン加水分解解物から選択される、前記請求項のいずれか一つに記載の組成物。」(請求項15)
(1-d)「本発明は目(睫毛及び眼瞼の辺縁)のメーキャップ(make-up) 用の化粧料組成物に関する。特に、本発明は、この種の組成物において慣用されている水溶性ポリマーと顔料と組み合わせて、微細に分散された状態のワックスを存在させることによりその特性を改善した目のメーキャップ用の化粧料組成物に関する。
一般に、「マスカラ」とも称される睫毛のメーキャップ用の化粧料組成物又は眼瞼のメーキャップ用の化粧料組成物(アイライン又は "アイライナー "と称される)は、ワックスを、水溶性ポリマーと顔料を含む水性相中に界面活性剤を使用して分散させたものから構成されている。
ワックス及び水溶性ポリマーを定量的にかつ定性的に選択することにより、当業者は異なる性質を有するマスカラを製造することが可能である。
従って、睫毛に用いたとき多様な効果(睫毛を伸ばす又は湾曲させる又は太くする効果)をもたらすような種々の組成物を製造することが可能である。」(【0001】?【0004】)
(1-e)「ワックス又はワックスの混合物を構成するワックス類は、特に、カルナバ蝋、カンデリラ蝋及びアルファ蝋及びそれらの混合物の中から選択される。」(【0016】)
(1-f)「ワックス微細分散物の調製例
実施例B
カルナウバロウ 30.0g
ポリオキシエチレン化グリセロール
モノステアレート(30 OE) 〔Goldschmit社から
商品名“TAGAT S ”として市販されているもの〕 7.5g
パラヒドロキシ安息香酸メチル 0.2g
水 全体を100gにする量

ワックス(1種又は複数)と防腐剤と界面活性剤(1種又は複数)との混合物を穏やかに撹拌して均質化させながら90℃(一般的にワックス又はワックスと脂肪質成分の混合物の融点よりも10℃高い上)に加熱した。撹拌を続けながら、90℃に加熱された水を加えた。得られたミクロエマルジョンを室温まで冷却し、ワックス(1種又は複数)主剤とする粒子の微細分散物を形成させた。
ワックス粒子の平均直径:実施例A=184nm 、実施例B=155nm」
(【0095】)
(1-g)「目のメーキャップ用組成物の例
前記の微細分散物を下記に示した諸成分と混合することにより目のメーキャップ用組成物を調製した。各成分の使用量はg(グラム)で表示した。」(【0102】)
(1-h)「実施例14
相I
実施例Bのワックス微細分散物 85.5
相II
パンテノール 5.0
アラビアゴム 3.0
ヒドロキシエチルセルロース 0.5
PVP 1.0
Leogard GP 1.0
黒酸化鉄 5.0
防腐剤 適量
水 全体を100.0にする量」(【0110】)
(1-i)「実施例13及び実施例14の比較
実施例13と実施例14の組成物を用いて睫毛にメーキャップを施し、次いで睫毛の電子顕微鏡写真を作成した。組成物13(ワックス粒子径>1000nm)は従来の組成物を代表し、一方の組成物14は本発明の微細分散ワックスの組成物を代表する。メーキャップ結果の視覚的観察により、睫毛に施用したマスカラ14はマスカラ13よりも滑らかでしかもきれいな(regular) な外観を示すことが明らかにされた。電子顕微鏡写真によりこれらの観察結果が確認された。」(【0113】)

3.対比・判断
本願発明と、引用例1の実施例14として記載された組成物を引用発明として対比する。
引用発明の組成物は、実施例Bのワックス微細分散物を、相IIの諸成分と混合することにより調製されたものである(摘示事項(1-f)(1-g)(1-h))から、水性媒体に、微細粒子状のワックスと、黒酸化鉄が分散した形態の組成物となっているものと認められ、この「微細粒子状のワックス」と「黒酸化鉄」がそれぞれ、本願発明における「第一の固体粒子」と「第二の固体粒子」に対応するものであるところ、カルナウバロウは、融点が82℃で、硬度が7MPaである(特開2001-192559号公報の【表1】参照)ので、本願請求項1に記載されたワックスの条件には適合しないものであるが、融点が82℃であることから、カルナウバロウを含む微細粒子状のワックスは、25℃で固体であると認められる。そして、本願実施例においても黒酸化鉄が第二の固体粒子として用いられていることから、引用発明の「黒酸化鉄」は、本願発明における「第二の固体粒子」に相当するものと認められる。また、摘示事項(1-i)より、睫毛を皮膜するための組成物であると認められ、摘示事項(1-c)より、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、PVPは「ケラチン性物質に接着可能なポリマー」に相当するものと認められる。
そうすると、本願発明と引用発明は、「水中ワックス型分散物の形態の、ケラチン性繊維を皮膜するための組成物であって、化粧品的に許容可能な水性媒体に、以下のもの:
- ケラチン性物質に接着可能なポリマー、
- ワックスを含む第一の物質を含む、25℃で固体である第一の粒子、
- 及び、第一の物質と異なる、金属酸化物である第二の物質を含み、40℃以下の温度で合着できない第二の固体粒子を含む非揮発性分画を含む組成物」である点で一致し、以下の点で一応相違するものと認められる。

(相違点1)第一の粒子に含まれるワックスが、本願発明では、77℃未満の融点と、6.5MPa以上の硬度を有するワックスであるのに対し、引用発明では、カルナウバロウである点
(相違点2)本願発明では、第一の固体粒子及び第二の固体粒子の容量分画が、組成物の非揮発性分画の全容量の50%以上であり、かつ、第一の固体粒子の容量分画が、第一の固体粒子と第二の固体粒子の全容量の25%以上である量で、第一及び第二の固体粒子が組成物中に存在すると規定されているのに対し、引用発明では、第一の固体粒子と第二の固体粒子の非揮発性分画に対する比率や、第一の固体粒子の、第一の固体粒子と第二の固体粒子の全容量に対する比率が明らかでない点

以下、これらの相違点について検討する。
(3-1)相違点1について
引用発明では、ワックスとしてカルナウバロウが用いられているが、引用例1には、特に適したワックスとして、カンデリラ蝋が、カルナウバロウと並列的に記載されている(摘示事項(1-b)(1-e))。そして、カンデリラ蝋が、本願請求項1に記載されたワックスの条件を満足するものであることは、本願明細書の段落【0018】の記載や、特開2001-192559号公報の【表1】の記載から明らかである。
そうすると、引用発明において、ワックスとして、カルナウバロウに代えてカンデリラ蝋を用いることは、当業者が容易になし得るものである。

(3-2)相違点2について
引用発明の組成物(摘示事項(1-h))における「実施例Bのワックス微細分散物」を、摘示事項(1-f)の記載に基づき具体的な成分組成に置き換えて、実施例14の組成物を書き直すと、以下のようになる。

カルナウバロウ 25.65g(30g×85.5/100)
ポリオキシエチレン化グリセロール
モノステアレート(30 OE) 〔Goldschmit社から
商品名“TAGAT S ”として市販されているもの 6.41g (7.5g×85.5/100)
パラヒドロキシ安息香酸メチル 0.17g(0.2g ×85.5/100)
パンテノール 5.0g
アラビアゴム 3.0g
ヒドロキシエチルセルロース 0.5g
PVP 1.0g
Leogard GP 1.0g
黒酸化鉄 5.0g
防腐剤 適量
水 全体を100.0gにする量

この組成について、本願発明において規定されている比率を、平成17年3月15日提出の意見書の4.項に記載された方法に従って算出すると以下のようになる。
(「V1」は第一の固体粒子の容量、「V2」は第二の固体粒子の容量、「V3」は他の非揮発性成分の容量を示す。
ただし、第一の固体粒子が「カルナウバロウ」からなり、第二の固体粒子が「黒酸化鉄」からなり、水以外の成分が非揮発性分画を構成していると仮定して計算した。また、比重は、上記意見書の記載されたものはそれを利用し、それ以外は、1.0として計算した。)

配合量 比重 容量 V1 V2 V3
カルナウバロウ 25.65g 1.0 25.65 25.65
商品名“TAGAT S ” 6.41g 1.0 6.41 6.41
パラヒドロキシ安息香酸メチル 0.17g 1.0 0.17 0.17
パンテノール 5.0g 1.0 5.0 5.0
アラビアゴム 3.0g 1.0 1.0 1.0
ヒドロキシエチルセルロース 0.5g 1.0 0.5 0.5
PVP 1.0g 1.0 1.0 1.0
Leogard GP 1.0g 1.0 1.0 1.0
黒酸化鉄 5.0g 5.0 1.0 1.0

第一の固体粒子と第二の固体粒子の合計(V)は、V=V1+V2=26.65であり、非揮発性分画の総量は、V’=V1+V2+V3=41.73となるから、第一の固体粒子及び第二の固体粒子の非揮発性分画に対する比率は、V/V’×100=63.9%となる。また、第一の固体粒子の容量分画が、第一の固体粒子と第二の固体粒子の全容量に占める比率は、(V1/V)×100=96.2%となる。
そうすると、算出の前提とした条件に多少の変動があるとしても、引用発明の組成物における、「第一の固体粒子及び第二の固体粒子の非揮発性分画に対する比率」及び「第一の固体粒子の容量分画が、第一の固体粒子と第二の固体粒子の全容量に対する比率」は、それぞれ、本願発明の「第一の固体粒子及び第二の固体粒子の容量分画が、組成物の非揮発性分画の全容量の50%以上であ」ること、及び、「第一の固体粒子の容量分画が、第一の固体粒子と第二の固体粒子の全容量の25%以上である」ことの条件に適合するものと認められる。
したがって、相違点2は、本願発明と引用発明との実質的な相違点ではない。

そして、本願発明の効果、すなわち、適用の後、睫毛の良好なカールを与える皮膜を導くこと、についてみても、実施例では、本願発明で規定する条件を満たす10.05MPaの硬度を有するワックス1例について、3.68MPaの硬度を有する蜜蝋と、カール特性の比較実験を行い、ワックスの硬度の違いによるカール特性を確認しているにすぎず、この実験による効果を、本願請求項1に記載された「77℃未満の融点と、6.5MPa以上の硬度を有する」という条件を満たすワックス全体について、敷えんできるものとは認められない。特に、融点の違いによる効果については何も示されていない。これに対して、引用発明で用いられているカルナウバワックスは、硬度が7MPaであって、本願発明で用いられるワックスと同等の硬度を有するものであり、本願明細書の記載から、本願発明が引用発明に比べて、格別顕著な効果を奏したものとは認められない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-27 
結審通知日 2009-06-02 
審決日 2009-06-15 
出願番号 特願2002-207521(P2002-207521)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 關 政立福井 悟  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
塚中 哲雄
発明の名称 固体粒子を含むマスカラ  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 志賀 正武  

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